激闘7分間~天を射る巨大弓戦士

作者:秋津透

 北海道釧路市、深夜。
 中心街に並ぶビルの一つが、突然内側から爆発するように崩れ、全長7m程度の大型ロボット……巨大ロボ型ダモクレスが出現する。
 その姿は、エインヘリアルを思わせる筋骨隆々とした半裸の戦士。手には巨大な弓を携え、背には矢筒を負っている。
 そして巨大な弓戦士は、手にした巨大な弓に矢をつがえ、天に向かって高々と放つ。いったいどういう仕掛けになっているのか、宙に飛んだ矢は無数に分裂し、市街に文字通りの矢の雨を降らせる。
「ウム」
 巨大ダモクレスは軽くうなずき、それ以上の破壊は行わず、月明かりのもと悠然と佇む。そして七分後、巨大弓戦士型ダモクレスは虚空に開いた魔空回廊に吸い込まれて消えていき、後には矢の雨で無残に破壊された市街が残された。

「騎士の巨大ダモクレスがいるなら、弓兵の巨大ダモクレスもいるのではないか……と、思ったのですが。どうも、予想が当たったようですわ」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)が冷静な口調で告げ、ヘリオライダーの高御倉・康が、難しい表情で続ける。
「はい。アクアさんの予想通り、北海道釧路市にオラトリオに封印されていたと思われる巨大弓兵……というか巨大弓戦士ロボ型ダモクレスが出現して市街を破壊し、7分後に魔空回廊が出現して回収される、という予知が得られました」
 そう言うと、康はプロジェクターで画像を示す。
「出現時間は今夜深夜、出現場所はここ。既に住民の避難は進められており、出現時には近隣には誰もいなくなっています。こちらは出現30分前ぐらいに到着し、待ち構えることができますが、出現する建物の内部等を調べても何もありません」
 そう言うと、康は画像を切り替える。
「予知された巨大ロボ型ダモクレスの形状は、見ての通り。エインヘリアルを思わせる半裸の戦士で、巨大な弓を携えています。グラビティ・チェインの枯渇により本来の戦闘力は発揮できないようですが、天に向かって射た矢が無数に分裂して降り注ぐ、という厄介な攻撃をしてきます。矢は、通常の矢と火矢があるようです」
 そう言うと、康は一同を見回す。
「そして一度だけのフルパワー攻撃として、凄まじい威力がある特殊な矢を全力で放ってきます。まともに受けてしまったら、高いレベルのケルベロスでも一撃で戦闘不能にされる可能性が高いです。ただ、仕掛けた反動で、巨大弓戦士型ダモクレスも、そのあと2ターン動けなくなるようです」
 そして康は、もう一度画像に目をやった。
「今回の敵はグラビティ枯渇状態でも相当に強く、回収を許したら更に強敵になると思われます。7分間で確実に仕留めてください。『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうかよろしくお願いいたします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)

■リプレイ

●開戦!
「まじ全部ジャスティスレインかぁ…万事休す、かな…?」
 茨城県日立市、深夜。ヘリオライダーが予知した、巨大弓戦士型ダモクレスの出現時刻まで、間もなく。
 ゴッドサイト・デバイスで周囲を確認しながら、ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)が小さく唸る。
(「ジャスティスレイン?」)
 聞き覚えのない言葉だが、何となく意味はわかる、と、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は声には出さずに呟いた。天から苛烈な攻撃が広域に降ってきて、逃げも躱しもできない状態のことだろう。
(「……単純に考えれば、弓兵相手なら建物の陰に入るなり遮蔽物を確保して戦えば良さそうなものだけど…あの大きさや衝撃はもう戦車砲みたいなものだし、ビルを盾にしても纏めて貫かれそうだな…」)
 結局、狙われたら最後、HPを削られながら耐えるしかなさそうだし、レベルとHPが低いニケが「万事休す」と思うのも無理はない。
(「経験則としては、飛行後衛から狙ってくることが多いが、地上後衛が後回しになる保証があるわけじゃなし。ディフェンダーに庇ってもらえるかも、確率だしなあ……」)
 相手が子供ならともかく、自分より年上のニケに、いい加減な気休めなんぞ言っても始まらん、と、蒼眞は敢えて相手の呟きには触れずに訊ねる。
「周囲に人は、いないか?」
「いない。私たちだけ」
 短く応じて、ニケは蒼眞と伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)、ジェットパック・デバイスを装着したクラッシャー二人に問いかける。
「日柳さんは飛ぶんだよね? で、伏見さんは飛ばないんだよね?」
「……飛ばないのか?」
 蒼眞が少々驚いて勇名に訊ねると、勇名は当然のような表情でうなずく。
「んう、とばない」
「そうか、わかった」
 体格差を考えれば飛んだ方が攻撃し易いと思うんだが、と、蒼眞は声には出さず呟く。
(「伏見には、伏見の考えがあるんだろう……もしかして、クラッシャー二人が一網打尽にされるのを避けるためか?」)
 全力攻撃が列で来るわけだから、クラッシャー二人は別列に分かれた方がいいというのは、確かだ。普通は、同じポジションにいる者が別列になる道理はないが、デバイスで飛んでいる者といない者なら、ポジションが同じでも別列になる可能性が高い。
(「それなら、飛ぶ俺は高度を取って、伏見から離れた方がいいってことか」)
 ディフェンダーの庇いが間に合わなくなりゃしないか、という懸念が一瞬脳裏をかすめたが、そんな心配はしても始まらない。
「じゃあ、俺は飛ぶぜ」
 そう言って、蒼眞は勇名とニケ、そしてディフェンダーの六星・蛍火(武装研究者・e36015)とそのサーヴァント、ボクスドラゴンの『月影』、ジャマーのアクア・スフィア(ヴァルキュリアの心霊治療士・e49743)、メディックの静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)を地上に残し、高空に舞い上がる。
 そして一分もしないうちにヘリオライダーが予知した時刻となり、予知されていた建物が内側から爆発するように崩れ、巨大弓戦士型ダモクレスが姿を現した。
「……敵対者、感知。排除スル」
 人を模した鉄仮面のような顔面の両眼が赤く光り、ダモクレスは低い声で唸る。そして予知とは異なり、先端が赤々と燃える矢を背負った矢筒から取り出し、手にした大弓につがえる。
「燃エ尽キヨ!」
 気合一閃、火矢が放たれ、蒼眞が滞空する高度よりかなり高いところで、ばらばらっと分裂する。
「たーまやー…って観てる場合じゃない、わ、わ、こっち来るー!?」
 ニケが叫び、右往左往したあげくに、近くの建物の中に飛び込む。他のメンバーもおおむね物陰に入るが、勇名だけは上空を睨んで動かない。そして蒼眞は、自分を狙ってきた矢が逸れた時に他のメンバーに当たらない位置へ飛行移動する。
「矢で射抜かれるなんてや~ね…なんてな?」
 すっ飛びながら蒼眞は口走ったが、幸い(?)誰も聞こえる位置にいない。キャスターポジションのメンバーがいると、下手すると内心の呟きまでマインドウィスパー・デバイスで聞き取られてしまうが、今回はそれもない。
 そして、落下してきた無数の火矢は、蒼眞の滞空高度を通過し、地上前衛……勇名、蛍火、『月影』の三人に襲い掛かる。ディフェンダーの庇いは発生せず、火矢は三人に均等に命中。物陰に入っていた蛍火と『月影』も、蒼眞の予想通り、遮蔽物をあっさり貫かれて直撃される。
「まあ、せっかくの列攻撃だもんな。一人の俺より、三人いる方を狙うよな」
 わずかに後ろめたい思いを振り払うように軽口を叩くと、蒼眞はダモクレスの頭上から火炎弾を乱射する。
「お互い(物理的に)熱く燃えていこうぜ…なんてな」
「グッ!」
 頭部から肩にかけて火炎弾を浴び、炎を付着させられてダモクレスが呻く。
 続いて地上から、まとわりつく炎をものともせず、勇名が攻撃する。
「んう。いっぱいどかーんする、ぼくのしごと。うごくなー、ずどーん」
 とてもわかりやすい宣言とともに、オリジナルグラビティ『ポッピングボンバー』が炸裂。無数の小型ミサイルが、巨大弓戦士の足元で盛大に火花を散らす。なるほど、ああいう攻撃なら飛んでもあまり意味はないな、と、蒼眞が納得する。
 そしてアクアが物陰から飛び出し『闇花のブーツ』から理力を籠めた星型のオーラを放つ。
「この蹴りを、受けてみなさい!」
 気合とともに、巨大弓戦士に向かって蹴り上げるように打ち込まれたオーラは、生物(特に男性)なら急所に当たる部分に命中するが、残念ながら相手はメカ、特に大きなダメージを受けた様子はない。とはいえ、その関節が損傷すれば、いくらメカでも間違いなく足取りがおかしくなるはずだ。
「さぁ、行くわよ月影。サポートは任せたからね」
 蛍火がサーヴァントに声をかけ、ボクスドラゴンは勇名に単体の治癒とBS耐性の付与を行う。蛍火自身はヒールドローンを飛ばして、自分を含む前衛三人に治癒を行い、防御力を上げる。
 そして依鈴は、前衛に死霊魔法による治癒を送る。
「大地に眠る霊達よ、仲間を癒してあげてね」
 依鈴の呼びかけとともに、前衛三人の背筋にぞわっと悪寒が走ったが、ダメージは癒され、まとわりついていた炎も消える。
 最後のニケは、ダメ押しとばかりに、前衛にささやかな治癒とBS耐性を施す。
 すると、巨大ダモクレスが再び両眼を赤く光らせ、言い放つ。
「敵対者ノ排除ニ至ラズ……攻撃ヲ続行スル」
 今度は炎を帯びていない、しかし先端にドリルのような鏃のついた矢を取り出し、巨大弓戦士は無言で天に向かって射放つ。
 放たれた矢は、火矢と同様に高空で分裂し、再び地上前衛の三人に向かって降り注ぐ。
 今度は蛍火が勇名を庇い、勇名はダメージを受けずに済むが、蛍火は二倍のダメージを受ける。
「んう?」
「大丈夫。こっちはディフェンダーだから」
 心配そうな表情をする勇名に、蛍火は努めて平然とした態度で告げる。必ずしも強がりというわけではなく、ダモクレスの攻撃は、痛くないと言ったら嘘になるが、生きるの死ぬのというほど過酷ではない。
(「たぶん、向こうもディフェンダーね。だから問題は、七分間で攻め切れるかどうか」)
 そしてもう一つの問題は、全力攻撃がどれほどの威力なのか、と、蛍火は言葉には出さずに呟く。少なくとも、物陰に隠れてどうにかできるようなものではあるまい。

●星の矢の暴威!
「ほ~い、ゴッドグラフィティだよ~」
 ビーム牽引で蒼眞と同じ高度まで上がってきたニケが告げ、蒼眞の利き手に青い風の意匠を描く。
「お? 今度はキスマークじゃないのか?」
「恥ずいって言われたしね。それに、あれ描いた直後に、日柳さんめがけてダモクレスぶっ飛んできたじゃない。さすがに、ちょっとまずいかなと思って」
 肩をすくめて告げるニケに、蒼眞はにやりと笑ってサムズアップする。ニケも笑ってサムズアップを返したが、次の瞬間、ぎょっとした表情になる。
「日柳さん、あ、あれ……」
「下に降りてろ。それで安全とは限らんが、俺といるよりはマシだろう」
 目映く輝く太い矢を矢筒から取り出したダモクレスを見据え、蒼眞は緊張した口調で告げる。ニケはあたふたと地上に降り、あまり意味がないと承知のうえで、建物の陰に隠れる。
「……あれが、星の矢ね」
 なんてわかりやすい、と、蛍火が唸る。おそらく敵は、これまでと同様、彼女たち地上前衛を狙って攻撃してくるだろう。
(「できれば、勇名さんを庇いたいけど……でも、庇ったら最後、二重にダメージ受けることになるのよね」)
 二重に受けたらディフェンダーでも戦闘不能は間違いなし、たぶん重傷かな、と蛍火は内心で続ける。ヘリオンデバイスを装着しているので、即死の危険がないのは救いだが……。
 そして、やたら長いようにも、ほんの一瞬のようにも感じられる間を置いて、巨大弓戦士は輝く矢を弓につがえる。
「スベテ、砕ケヨ! ステラーッ!」
 絶叫とともに、弓戦士は天に向けて輝く矢を射放つ。そして次の瞬間、ダモクレスは単に作動不能になるのではなく、いくつもの爆発を起こして装甲を内側から吹っ飛ばしながら崩れ倒れる。
「じ、自爆?」
 全力で矢を放った射手が力尽きて自滅するって、どっかで聞いたような話だけど、と、ニケが物陰から顔を出して口走ったが、すぐに、至近の落雷もかくやという凄まじい閃光と轟音が生じ、慌てて頭を引っ込める。
「な、な、なにが起きたの?」
「星の矢による全力攻撃……だと思うわ、たぶん」
 いつの間にかニケの傍らに来ていた依鈴が、冷静な口調で告げる。
「地上後衛……私とあなたは無事のようね。他の人がどうなったか、見てみましょう」
 まだ戦闘中だから、ゴットサイト・デバイスは効かないわよ、とゴーグルを下ろしかかったニケに告げ、依鈴は物陰から出る。
 するとアクアが、走り寄ってきて告げる。
「とんでもない攻撃が、地上前衛に落ちましたの。『月影』ちゃんが勇名さんを庇って消滅、蛍火さんは戦闘不能のようです」
 そう言うと、アクアは崩れ倒れている巨大ダモクレスに目を向ける。
「全力攻撃の反動で、敵も頓挫したのみならず、相当のダメージを負ったようですわね。付与した炎が消えていませんから、潰れてはいないようですが……」
「あっ! 日柳さんが!」
 ニケが叫び、三人は夜空を見上げる。飛行中の蒼眞が変なポーズを取り、大声で叫ぶ。
「うにうにっ!」
 そして、謎の巨大存在『うにうに』が、頓挫した弓戦士の上から雪崩れ落ちる。見栄えもへったくれもない、とにかくひたすらダメージが大きいオリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』の質量攻撃を受け、巨大ダモクレスの全身各所が音をたててひしゃげ、弓も矢筒も折れて潰れる。しかし付与された炎は消えておらず『うにうに』の方が焼かれて蒸発する。
「んうー、つぶれろ、どかーん」
 勇名が突進し、全力のパンチをダモクレスの胴体に叩き込む。更にいくつも爆発が起き、ダモクレスの頭部が首から外れて、ごとんと落ちる。
「では、参ります」
 アクアが『アクア・ナイフ』を縦横に振るって、ダモクレスの巨体を文字通り切り刻む。
 すると、戦闘不能のはずの蛍火が、瓦礫の中からゆらりと立ち上がる。
「寝てる場合じゃなさそうね。私にも一発殴らせて!」
「あら、まあ、凌駕したのですか?」
 目を丸くするアクアと入れ替わるように蛍火は突進、もはやほとんど残骸と化したダモクレスの、炎が残っているあたりを狙って、達人の一撃を叩き込む。
「胴体の炎は消えたようね。新たな氷の付着もないし。後は、こっちかしら」
 依鈴が冷静な口調で告げ、落ちた頭部に向けてオリジナルグラビティ『鈴蘭の吹雪(スズランノフブキ)』を放つ。
「吹雪の様に舞う鈴蘭を、その身、いえ、頭に受けてみなさい」
 吹雪のように飛ぶ鈴蘭の花弁が、炎をまとわりつかせた巨大ダモクレスの頭部に襲い掛かる。濃厚な鈴蘭の香りがたちこめ、頭部が微塵に粉砕され、炎も消える。
「ええと……これで終わったのかな?」
 もう、攻撃しようにも、何も残ってないね、と、ニケが周囲を見回す。すると、残り二分を告げるアラームが鳴る。
「それじゃ、街のヒールを……」
「まあ、待て。とりあえず、魔空回廊が出ないと確認してからにしようぜ」
 降下してきた蒼眞が、やはり周囲を見回しながら告げる。
「それに、それこそゴッドサイト・デバイスの使い時じゃないか? 戦闘終了してなきゃ画像は出ないし、敵マークが出れば戦闘不能の敵が残ってるってことだ」
「あっ、そうか!」
 言われて、ニケはゴーグルをおろす。
「画像出ます。戦闘終了、敵マークの表示なし。もちろん一般人の表示もないわ」
「じゃあ、ちょっと早いがヒール始めるか」
 そう言うと、蒼眞は建物ではなく、蛍火に向かってヒールをかける。他の面々もヒールを始め、崩れた建物が少々ファンタジックになって修復される。
 その作業中に七分間が経過したが、もちろん魔空回廊は出現しなかった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月29日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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