激闘7分間~「メカ・ヤンチュアノサウルス」再び

作者:秋津透

 奈良県、大和郡山市、深夜。
 中心街に並ぶビルの一つが、突然内側から爆発するように崩れ、全長8m程度の大型ロボット……巨大ロボ型ダモクレスが出現する。
 その姿は、太い後足を持ち、前傾した二足歩行をする巨大爬虫類。いわゆる恐竜の姿を模しているが、体表は金属装甲で覆われており、関節などはメカニズムが露出している。
「シャギャアッ!」
 巨大恐竜ロボは鋭い声で咆哮し、半ば体当りのような動きで周囲のビルを崩す。その巨大恐竜ロボ型ダモクレスのモデルは、中国大陸で発掘された平均体長約8メートルの恐竜「ヤンチュアノサウルス」である。なぜ、そんなマニアックなことがわかるのかといえば、隣の生駒市で一度出現したことがあるからだ。
 ……もしかして、この辺の街には「メカ・ヤンチュアノサウルス」が一体ずつ封印されてたりするのか? 勘弁してくれ。

「……恐竜型のダモクレスが現れるような気がして、ヘリオライダーの方に、予知をしてもらったのです……すると、奈良県の大和郡山市に、ええと、メカ・ヤンチャ……いえ、メカ・ヤンチュ……アノサウルスが出現する、という予知が得られました……」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)が淡々と、しかし少々言いにくそうな口調でゆっくりと告げる。そしてヘリオライダーの高御倉・康が、難しい表情で続ける。
「はい。綾奈さんの予感通り、奈良県大和郡山市に、オラトリオに封印されていたと思われる巨大恐竜ロボ型ダモクレス、中国四川省の永川(ヤンチュアン)県で発掘された恐竜をモデルにした、メカ・ヤンチュアノサウルスが復活して暴れ、7分後に魔空回廊が出現して回収される、という予知が得られました」
 そう言うと、康はプロジェクターで画像を示す。
「出現時間は今夜深夜、出現場所はここ。既に住民の避難は進められており、出現時には近隣には誰もいなくなっています。こちらは出現30分前ぐらいに到着し、待ち構えることができますが、出現する建物の内部等を調べても何もありません」
 そして、康は画像を切り替える。
「メカ・ヤンチュアノサウルスは、グラビティ・チェインの枯渇によりさほど強力な攻撃はできないようですが、主として口から敵列を薙ぎ払う火炎放射を行い、両眼にあたる部分から単体攻撃用の破壊ビームを撃ちます。いずれも遠距離まで届きます」
 よどみなく言うと、康は一同を見回す。
「そして、フルパワー攻撃として、強力な突進体当り攻撃を一度だけ仕掛けてきます。まともに当たったら、かなり高レベルのケルベロスでも一撃で戦闘不能に追い込まれる強力な攻撃です。たた、仕掛けた反動で、メカ・ヤンチュアノサウルスもそのあと2ターン動けなくなります」
 そして康は、もう一度画像に目をやった。
「以前、近隣の生駒市に出現したことがあるので、だいたい力の程は読めますが、なぜダモクレスが地球の古生物を模したメカを作ったのかは依然として分かりません。本来は集団で運用されていた機体と推定され、回収を許したら厄介な存在になると思えますので、7分間で確実に仕留めてください。前回出現時には装備前だった『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうかよろしくお願いいたします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)
ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)

■リプレイ

●作戦開始前
「メカ・ヤンチュアノサウルスか……」
 現場の大和郡山市へ急行するヘリオンの中、以前に同型の巨大ダモクレスを倒した経験がある日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が、資料を見ながら呟く。
「見たところは、あの時の奴と寸分変わらないな。多少の個体差はあるかもしれんが」
「あまり聞かない名前の恐竜だけど、何か特徴はあるの?」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)の問いに、蒼眞は肩をすくめる。
「俺にはよくわからんが、同行した恐竜に詳しい御仁は『低い鰭状に盛り上がる脊椎の棘突起が、ヤンチュアノサウルスの特色』とか言ってたな。そのへんは、記録があるから見てくれ」
「恐竜としての特徴は、後でゆっくり見るよ。それより、ダモクレスとしてはどうだった?」
 紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)が訊ね、蒼眞は少し考えて応じる。
「どちらかといえば、単純で獰猛だったな。ディフェンダーが怒りを付与したら、すぐさま全力攻撃してきた。その攻撃は、サーヴァントが肩代わりして吹っ飛ばされたがね。頓挫したところへ総攻撃をかけて、頓挫中の2ターンでは潰せなかったが、結局、5分ちょいで潰したはずだ」
「えと、その時は日柳さんたち、フルメンバーじゃなくて五人だったのよね? ヘリオライダーさんの話だと、ヘリオンデバイスもなかったんだっけ? だとすると、もしかして今回はラクショー?」
 ちょっと期待しちゃうな♪ と、ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)が訊ねると、蒼眞は苦笑する。
「いや、記録を見てもらえばわかるが、ヘリオンデバイスなしってのは高御倉の勘違いで、確か、その依頼が初のヘリオンデバイス装着戦だったはずだ。あと、その時のメンバーはサーヴァント入れて六人。一人新人がいたが、後は俺と同等以上のベテランだった。……とはいえ、今回の方が戦力が高いのは間違いない。よほどの不運に見舞われない限り、取り逃がすことはないだろう」
「よほどの不運、かあ……」
 勝負は時の運っていうけどねー、と、ニケは小首をかしげる。
 すると花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)が、もの静かな口調で告げる。
「予想が的中し、皆さんが集まってくださったことで……もはや『よほどの不運』はないと、私は感じています……。不運に見舞われるのは、ダモクレスの方……。油断することなく、恐れることなく……使命を達成いたしましょう……」
「そうだね。力まず、焦らず、手を抜かず、平常心を保っていこう」
 ふふふ、と、四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が微笑する。確かに今回は、発言していない青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)霧矢・朱音(医療機兵・e86105)を含め、あまり熱くなるタイプのメンバーはいないようだな、と、蒼眞は言葉にはせず呟く。
(「もしかすると、敵さんが一番激しやすいかもしれん……ダモクレスだけどな」)

●開戦!
「半径1km以内、誰もいない。敵もいないし一般人もいない。私たち、だけだよ♪」
 ゴッドサイト・デバイスを装着したニケが歌うような口調で告げ、蒼眞はうなずく。
「確認ありがとさん。じゃあ、俺は上へ行く。そろそろ時間だ」
「がんばっていこーねー」
 手にした簒奪者の鎌を、ニケはぶんぶんと振り回す。いやはや元気だな、と、ジェットパック・デバイスで上昇しながら、蒼眞は呟く。
 そして、ヘリオライダーが予知した時刻ちょうどに、予知されていた建物が内側から爆発するように崩れ「メカ・ヤンチュアノサウルス」が姿を現した。
「シャギャアッ!」
 一声吠えると、巨大ダモクレスは周囲と空中に布陣するケルベロスたちを睨み回し、鋼鉄の咢を開いて炎を吐く。狙われたのは、宙を飛んでいるクラッシャーの二人、蒼眞と雅雪。しかし、ディフェンダーの綾奈と六花が飛び出して、ダメージを肩代わりする。
「すまん! 大丈夫か?」
 訊ねる蒼眞に、綾奈は物静かな口調で応じる。
「大丈夫です……ディフェンダーは、ダメージ半減ですから……それに、敵の攻撃自体も……それほど苛烈では、ありません……おそらく、敵も……ディフェンダーなのでは……」
「なるほどな」
 確か前回も、そんな展開だった、と呟き、蒼眞はダモクレスの頭部に念波を叩きつけて爆発を起こす。綾奈は蒼眞を庇った空中ポジションのまま、敵の頭部に妖精弓『プラズマアロー』の矢を突き込む。
「夢幻……。サポートは、任せましたからね……!」
 綾奈の指示を受け、サーヴァントのウイングキャット『夢幻』が、ダメージを受けた綾奈と六花、そして二人が飛行状態のため一時的に同列になっている蒼眞と雅雪、および自分自身に癒しの風を送り、BS耐性を付与する。
「ふむ……ジェットパック・デバイスで牽引飛行している時の同列関係は、けっこう複雑だね」
 僕は本来中衛のジャマーだけど、牽引飛行すると飛行後列になるのかな、と、探求心旺盛な口調で呟きながら、司が宙に飛ぶ。そしてメカ・ヤンチュアノサウルスの頭部へ、手にしたフェアリーレイピア『光の道標』から美しき花の嵐を放つ。
「この花の嵐で、閉じ込めてあげるよ」
 優しいと言っても良さそうな穏やかな声で、司は巨大ダモクレスに告げる。
「恐竜は僕も興味があるから、君がどんなダモクレスか、とても見てみたいね。だけど、人々に危害を加えるなら、どんな相手でも倒さないとね」
「恐竜は、遥か古代に絶滅してるんだ。このダモクレスも、さっさとこの場から退場して頂こう!」
 言い放って、雅雪がバスターライフルから重力中和光線を放つ。
「そのグラビティを、中和してやろう!」
「シャギャアッ!」
 連続して頭部を攻撃され、メカ・ヤンチュアノサウルスは苛立たしげに頭を振る。そこへアイスエルフの六花が飛行状態で接近し、超低温の吐息を吹きかける。
「さぁ、これで氷漬けにしてあげるわ」
 巨大ダモクレスの頭部に、ぴしぴしと氷が付着する。続いて朱音が比較的低い跳躍で、敵の脚部関節に重力蹴りを叩き込む。
「まずはその機動力を、奪ってあげるわよ!」
 そしてメディックの依鈴も、今回のヒールは『夢幻』だけで十分と判断し、エアシューズに雷の霊力を帯びさせ、メカ・ヤンチュアノサウルスの脚部に突き込むような蹴りを放つ。
 最後のニケは命中率が気になるらしく、巨大ダモクレスを矯めつ眇めつ見据えていたが、やがて少々口惜しそうに言い放つ。
「うーん、スナイパーで命中率50%ないんじゃダメっぽいね。予定変更だわ」
 そしてニケは宙に飛びあがり、雅雪の利き手の甲に緋い桜の紋章を描く。
「仲間の体にカッコいいグラフィティを描き、戦闘力をアップさせる、秘技、ゴッドグラフィティ! 紺野さん、がんばってね~♪」
「お、おう、ありがとう」
 少々戸惑いながらも、雅雪はニケに礼を言う。その途端、メカ・ヤンチュアノサウルスの目から放たれたビームが雅雪を襲ったが、ディフェンダーの『夢幻』が飛び出して庇う。
「わぁー、マジかー」
 目からビームとか、こいつめっちゃヤンチャやん、ヤンチャサウルスと改名せぇや、と、ニケは地上に降り立ちながら呆れた声を出した。

●ヤンチャ者、死すべし!
「は~い、お待ちかねのゴッドグラフィティだよ~♪ 日柳さん、がんばってね~♪」
 ビーム牽引で飛んできたニケが、蒼眞の頬にキスマークを紅で描く。
「ちょ、ちょっと待て! 戦闘力アップはいいけど、この図柄はさすがにちょっと恥ずいぞ!」
 慌てて蒼眞が抗議するが、それで止める(あるいは図柄を変える)ようなニケではない。
「あれ? 頬にキスマーク描かれるの、恥ずい? それとも、ちゃんとキスして付けた方が良かった?」
 にひひひ、と、悪戯っぽく笑って、ニケは地上へ降下していく。そして、その次の瞬間、メカ・ヤンチュアノサウルスが蒼眞に向かって全力突進してきた。
「シャギャアッ! バカップル! 殺ス!」
「ち、違う! 断じて違う! このマークは、ヒールグラビティの一種で、バカップルとかリア充とか全然関係ない!」
 咆哮の後半、憤怒の叫びは蒼眞の空耳だったかもしれない。とにかくメカ・ヤンチュアノサウルスは全力で宙へ高々と跳び、フライングボディアタックのような体勢で一気に蒼眞を押し潰そうとする。
「うわっ!」
 これはダメだ、逃げられん、と、蒼白になった蒼眞を、横から飛び込んできた『夢幻』が全力で突き飛ばす。
(「あ……前にもこんなことあったな……何と戦った時だっけ?……」)
 一瞬、既視感に捉われた蒼眞が、はっと我に返ると、巨大ダモクレスは半ば地面にめりこむ形で長々と伸びて機能停止しており『夢幻』の姿はどこにもない。
「すまん、仇は必ず取る」
 サーヴァントはマスターが斃れない限り不滅と知ってはいるが、それでも身代わりになってくれたウイングキャットに一礼し、蒼眞はオリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』を発動させる。
「うにうにっ!」
 蒼眞が変なポーズを取って叫ぶと、謎の巨大存在『うにうに』が、頓挫したメカ・ヤンチュアノサウルスの上から雪崩れ落ちる。見栄えもへったくれもない、とにかくひたすらダメージが大きい質量攻撃を受け、巨大ダモクレスの全身各所が音をたててひしゃげる。
「夢幻の仇……!」
 綾奈が『プラズマアロー』の矢を手に取って、ひしゃげて亀裂が入った敵の頭部へ深々と突き刺す。籠められた雷の霊力が解放され、頭部表面にスパークが走る。
「できれば、頓挫している間に潰してしまいたいね」
 司が言い放ち、ルーンアックスを頭部へと叩きつける。
「その硬い頭を、かち割ってあげる」
「でもって、傷口を更に斬り広げてやるぜ!」
 雅雪が零式鉄爪『吹雪の斬鉄爪』を振るって、頭部の亀裂を広げる。オイルのような液体が噴き出し、付着した炎や氷がジグザグ効果で増す。
「その進化の可能性を、凍結させてあげるわ!」
 進化しそこなって滅んだ恐竜にはふさわしい攻撃ね、と嘯き、六花がドラゴニックハンマーを敵の頸部に叩きつける。べき、と装甲が歪んで亀裂が走り、更に氷が付着する。
 そして朱音が、オリジナルグラビティ『グラウンドブレイカー』を駆使する。
「周囲の地面ごと、貴方を叩き潰してあげるわ!」
 だらしなく寝そべってるなら格好の的よ、と言い放ち、朱音はグランドロンの強靭な腕力で敵を目掛けて腕を振り下ろし、周囲の地面ごと叩き潰す。巨大ダモクレスの腰のあたりが大きく潰れ、片脚がとんでもない方向へひん曲がる。
「攻撃、いくわよ」
 淡々と言い放つと、依鈴がオリジナルグラビティ『鈴蘭の吹雪(スズランノフブキ)』を発動させる。
「吹雪の様に舞う鈴蘭を、その身に受けてみなさい」
 無数の鈴蘭が吹雪のように飛び、巨大ダモクレスにダメージを与える。装甲に花弁が突き刺さり、周囲に濃厚な鈴蘭の香りがたちこめる。
「んじゃ、私も!」
 相手が頓挫してれば、どんな攻撃だって当たるよね、と屈託なく笑い、ニケが簒奪者の鎌をぶん投げる。
「それいけー」
 投げられた鎌は、与えるダメージこそ小さいものの、敵の装甲を削り、確実に防御力を落として戻ってくる。
 そして、更に1ターン。相手が動かず、見切り効果が出ないのをいいことに、ケルベロスたちは最大ダメージを与える攻撃を繰り返し、巨大ダモクレスは見る影もなくズタボロにされるが、その身体に付着した氷や炎は消えていない。
(「つまり、潰れてはいないってことだ」)
 言葉に出さずに呟いて、蒼眞は横臥する巨大ダモクレスを上空から見下ろす。
 すると、耳障りな軋み音をあげて、満身創痍のメカ・ヤンチュアノサウルスが身を起こす。尻尾を使って立ち上がろうとするが、両脚を完全に折られているので、身体を持ち上げることができない。それでも巨大ダモクレスは頭を巡らせ、飛行する蒼眞と雅雪に向かって炎を吐こうとする。しかし、その口から吐き出されたのは、火の粉混じりではあるものの、夥しい黒煙だけだった。
「ダメージは、ないに等しいな。武器封じの効果か」
 無意識に煙を払いながら、蒼眞が呟く。BSの炎は残るが、蒼眞も雅雪もBS耐性を帯びており、自分が行動する時にキュアが発動して炎が消えるため、実害はない。
「では、とっとと潰れてもらおうか!」
 言い放つと、蒼眞は飛行接近して斬霊刀を振るい、頭部の亀裂を更に広げる。内部で爆発が生じ、ビーム発射装置になっている目が片方、粉微塵に砕ける。
 そして目が砕けた後の傷に、綾奈が容赦なく矢を突き込む。頭部全体にスパークが走り、口や亀裂から黒煙が噴き出す。
「頓挫中に仕留められなかったのは残念だけど、まあ、長いことはなさそうだね」
 嘯くと、司はオリジナルグラビティ『紫蓮の呪縛(シレンノジュバク)』を発動させる。
「僕のこの剣技を、避けられるかな?」
 司は『光の道標』を華麗に振るい、衝撃波を飛ばす。ばきん、と、巨大ダモクレスの胸部が大きく凹み、各所の亀裂から煙と火が噴き出る。
「炎よ、燃え上がれ!」
 雅雪が敵の首のあたりを狙って、火炎蹴りを叩き込む。炎が走り、頭部がぐらりと揺れる。
 そして六花が、オリジナルグラビティ『トライアングル・マジック』を放つ。
「我が声に従い、現れよ! 三つの属性の水晶体よ、敵を取り囲み、魔法を放て!」
 召喚された火属性、氷属性、雷属性の三つの水晶体が、巨大ダモクレスを取り囲むように配置される。そして、水晶体から同時に三属性の魔法が放たれ敵を攻撃、大爆発を起こす。
「やったか?」
「残念ながら、まだのようね」
 思わず口走った雅雪に、依鈴が冷静に応じる。
「残った下半身に、氷がついたままよ。あれが消えるまでは、どんな状態になっていようと、ダモクレスは「生きている」わ」
「ならば、敵が「死んで」氷が消えるまで、攻撃を続けるだけね!」
 幸い、時間はまだあるし、と、朱音がルーンアックスを振りかざして突進する。もはや残骸同然の折れた両脚と腰部、尻尾に向かい、真正面から一撃を叩きつけると、いくつもの小爆発が起きて炎があがるが、脚についた氷はまだ消えない。
「あと一押し、かしら」
 呟くと、依鈴はネクロオーブ『雪空の珠』をかざす。
「しぶとい敵を確実に倒すには、虚無魔法が一番ね。跡形も残さず、消え失せるがいいわ」
 淡々とした依鈴の言葉に応じ、触れたもの全てを消滅させる不可視の「虚無球体」が放たれる。巨大ダモクレスの残骸の大半が音もなく消え、わずかに残った断片からは、氷が消える。
「今度こそ、やったか?」
「そうねー。たとえやってなくても、これ以上何をどーにもできないもんねー」
 雅雪の問いに、今度はニケが肩をすくめて答える。続いて、残り二分を告げるアラームが鳴る。
 そして、二分後。大和郡山市の空に、魔空回廊が出現することはなかった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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