映し出された絶望

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 大量のゴミに埋もれていたのは、液晶タブレットであった。
 捨てられたのは、必要とされなくなったため。
 最新のバージョンアップに対応しておらず、スペック的にも不安があったため、新しい液晶タブレットの買い替えに合わせ、ゴミとして捨てられてしまったようである。
 だが、液晶タブレットからすれば、イイ迷惑。
 何処も壊れていないのに捨てられたのだから、元持ち主に対する怒りもハンパない。
 それが残留思念となって辺りに漂い、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、ゴミの山に潜り込み、液晶タブレットに機械的なヒールを掛けた。
「タブレットォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した液晶タブレットが、ケモノの如く耳障りな機械音を響かせながら、ゴミの山を弾き飛ばして、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 この場所に捨てられていた液晶タブレットが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、液晶タブレットです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化した液晶タブレットは、機械で出来た蜘蛛のような姿をしており、邪魔をする者に対して容赦がないようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)
魅縡・めびる(フェイスディア・e17021)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ

●都内某所
「それにしても、凄い臭いだな。これじゃ、戦う前に気分が悪くなりそうだ」
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 この場所は元々空き地であったが、いつの頃からかゴミが捨てられ、それが山のようになっていた。
 しかし、土地の所有者が遠くに住んでいるため、この事が問題視される事はなく、好き放題やられているようである。
「……今度はタブレットか。廃棄された機械とかがダモクレス化する事件も、まだ終わらないんだね」
 アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)が、ゴミの山を見上げた。
 一見すると、液晶タブレットは、見当たらない。
 おそらく、深いところに潜ってしまっているのだろう。
 何かがモゾモゾと動いているような気もするものの、それが小型の蜘蛛型ダモクレスなのか、ただのネズミなのか、現時点では分からなかった。
「昔は液タブを持ってるだけで、神絵師になれるって言われてた時代もあったんだねー。でもそれは、やっぱり紙に描ける実力のある人限定の法則のような気もするけど……」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、事前に配られた資料に目を通した。
 問題の液晶タブレットは、いわゆる型落ち品で、最新のバージョンアップにも対応していなかったようである。
 そのため、新しいタブレットを買ったのと同時に、捨てられてしまったらしい。
「……『タブレットって全部液晶じゃないの?』と思って調べたら、前世紀に板タブレットという概念があったらしいね。うーむ、技術の発展のスピードがすごい惑星だ……」
 オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が、驚いた様子で汗を流した。
 問題の液晶タブレットも性能的に戦力外であったため、ゴミとして捨てられてしまったようである。
「タブレットォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した液晶タブレットが、ケモノの叫びにも似た機械音を響かせた。
 ダモクレスは機械で出来た蜘蛛のような姿をしており、ケルベロス達に対して敵意を剥き出しにしていた。
 おそらく、液晶タブレットに機械的なヒールを掛けた小型の蜘蛛型ダモクレスが、そう思わせているのだろう。
 まるで過去の辛い記憶の原因を作ったのが、ケルベロス達であるかのように、内に秘めて怒りを爆発させ、問答無用で色々な映像を映しつつ、超強力なビームを放ってきた。
「捨てられた悲しみに漬け込んでダモクレスにするなんて許せない! 今日はヘリポートで初めて会う仲間との共闘だけど、みんないい人たちだから絶対怪我させたくない……! だから、この戦い……絶対に負けないよ!」
 魅縡・めびる(フェイスディア・e17021)が覚悟を決めた様子で、その場から飛び退き、ダモクレスが放ったビームを避けた。
 だが、ビームと共に映し出された映像は、消す事も出来ず、避ける事も出来なかった。
 そこに映し出されていたのは、様々な映像。
 おそらく、それは所有者が液晶タブレットを使って、描いてきたモノ。
 その中には、パラパラ漫画の如く、動きそうなモノもあった。
「理不尽に捨てられたお前も被害者なのだろう。……だが、無関係の罪もない人々を襲わせるわけにはいかん!」
 すぐさま、灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)が先陣を切って突っ込み、ダモクレスに月光斬を繰り出した。
「エキショウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それを迎え撃つようにして、ダモクレスが再び映像と共に、超強力なビームを放ってきた。
「……って、ちょっと待って! さっきと違って、物凄くえっちな映像が混ざっているんだけど……。これって、さすがに不意打ちでしょ!? だって、ほら……凄い事になっているし……。モザイクさんが仕事を放棄しちゃっている気が……。えっ? あの……はわわわ……」
 そんな中、めびるの倫理観念が爆発しそうになりながら、スターサンクチュアリを発動させ、地面に描いた守護星座が光らせ、仲間達を守護した。
 しかし、禁断の世界に突入した映像から、めびるの倫理観念を守る事が出来ず、恥ずかしさと、あたふたと、ドキドキが入り乱れる中、グルグルと目を回した。
「落ち着け。ただの幻だ」
 恭介がめびるに声を掛けながら、ダモクレスの注意を引いた。
「それに、こう言う映像は、見なければ大丈……って、ビーム危っ!」
 そんな空気を察したことほが、目を閉じて危険な映像を脳内から排除した。
 だが、ダモクレスの攻撃は、非情。
 あえて、ことほを狙っているのか、何度かビームが顔の真横を通り過ぎていった。
 だからと言って、目を開ければ、どんな映像が飛び込んでいるのか分からない。
 そのため、全神経を集中させ、ビームを避ける事に専念しているものの、何度か当たりそうになったため、嫌な汗が止まらなくなった。
 それが原因で死亡フラグと一緒にダンスを踊っているような状態になったため、ライドキャリバーの藍が気まずい空気に包まれたまま、動く事が出来なくなった。
「こ、ことほちゃん、それだと自分から当たりに行っているから!」
 それを目の当たりにしたオズが、心配した様子でことほに声をかけ、ダモクレスで大蛇の尾に毒のオーラを纏わせ、激しくダモクレスに打ち据えた。
 その間、ウイングキャットのトトが、ことほに近づき、清浄の翼で治療をした。
「……と言うか、みんな、俺の後ろに隠れておけ。いや、先にあっちを叩いちまうか! 待ってろ、すぐ終わらせる」
 その間に、鬼太郎がファナティックレインボウを仕掛け、天空高く飛び上がると、美しい虹を纏う急降下蹴りをダモクレスに浴びせた。
「エキショウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、再びビームを放とうとした。
「……ちょっと、しつこいよ」
 それを迎え撃つようにして、アリアがペトリフィケイションを発動させ、古代語の詠唱と共に魔法の光線を放ち、ビームの発射口を石化させた。
「エキショウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その途端、ダモクレスがガシャコンと音を響かせ、色々な映像を映しつつ、鋭い刃物を飛ばしてきた。
 その刃物は映像と一体化しており、先程よりも危険なシロモノになっていた。
「だから、どうした。だったら、映像に触れなければ、いいだけだ」
 鬼太郎が映像の間を擦り抜けながら、溜め斬りで全身に力を溜め、筋力を載せた超高速斬撃をダモクレスに放った。
「タブレットォォォォォォォォォォォォ!」
 その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、ゴミの山に突っ込んだ。
「さすが柴田パイセン!」
 ことほが感動した様子で、瞳をキラキラさせた。
 藍も、何となく、キラキラ。
 気のせいか、鬼太郎もキラキラ(注:ことほフィルター)と輝いていた。
「……そこ! キラキラしている場合じゃないぞ! まだダモクレスが暴れ回っているんだから!」
 恭介が、ことほにツッコミを入れながら、戦術超鋼拳でダモクレスを殴り飛ばした。
「穿て、雷よ」
 それに合わせて、アリアがヴォルトアローを発動させ、雷のエネルギーを腕に纏い、地面に叩き付ける事でダモクレスをマヒさせた。
「もう終わりにしよう。こんな事……望んでいなかったはずだ」
 オズがダモクレスに語り掛けながら、ハートクエイクアローで心を貫くエネルギーの矢を放ち、ダモクレスを催眠状態に陥った。
「タブレットォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスが催眠状態に陥ったまま、全く関係のない場所を狙って、危険な映像と共にミサイルを放ち、大量のゴミを吹き飛ばした。
「どうやら、まだ倒される気がないようだね。だったら、無理やり終わらせるしかないか」
 それと同時に、アリアが猟犬縛鎖で鎖を伸ばし、ダモクレスを締め上げた。
「エ、エ、エキショウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それでも、ダモクレスは諦めておらず、ミサイルを発射する気満々で、耳障りな機械音を響かせた。
「……って、もうダメだから! これは教育的指導だからね!」
 その事に気づいたことほが、ダモクレスを叱りつけながら、ルーンディバイドを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろした。
「タブレットォォォォォォォォォォォォォ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、バチバチと火花を飛び散らせながら、断末魔にも似た機械音を響かせ、大爆発を起こしてガラクタの山と化した。
「はあはあ……、さっきは酷い目に遭ったけど……。もう……大丈夫だよね? とりあえず、この元凶になったダモクレスを探してみようか」
 そんな中、めびるが放心状態のまま、仲間達に声を掛けた。
 未だに、目を閉じるたび、危険な映像が浮かぶため、肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方が勝っているようだった。
「この戦いの元凶になっただもくれすか。確かに、何処かにいてもおかしくないな」
 鬼太郎が納得した様子で、すべての元凶になった小型のダモクレスを探し始めた。
 だが、大量のゴミが邪魔をして、捜索は難航した。
「どうやら、小型の蜘蛛型ダモクレスは、役目を終えて何処かに消えてしまったようだね。せめて見つける事が出来れば良かったんだけど……」
 オズがゴミの山を片付けながら、疲れた様子で溜息を漏らした。
 おそらく、小型のダモクレスは液晶タブレットに機械的なヒールを掛け、何処か別の場所に行ってしまったのだろう。
 もしくはゴミの山に紛れて、身を隠しているのかも知れない。
 どちらにしても、小型の蜘蛛型ダモクレスを見つけ出す方法がないため、現時点では諦めるしかなかった。
「ダモクレスの目的に繋がるモノがあれば良かったんだが……」
 恭介が残念そうに溜息をつきながら、ダモクレスだったモノを調べ始めた。
 液晶タブレットは、機械的なヒールによって、だいぶ形が変わっており、それまで存在していなかったパーツなどが増えていた。
 そのパーツ自体は、特別なモノではなかったものの、念のため調べておく事にした。
「せめて、タブレットだけでも、めびるが使ってあげようかな」
 そう言って、めびるがタブレットだったヒールを掛け、元と通りにした上で持ち帰るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月10日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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