デスバレス電撃戦~祈りの前に

作者:八幡

●現在地は万能戦艦ケルベロスブレイドにて
「《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングに向かったみんなも、無事に帰ってきてるみたいだよ」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちを前に、少し安堵した様に息を吐く。
 ケルベロスブレイドを襲った巨大死神も撃破できて、まずは一安心という所だろう。
 だが、戦いはまだ終わっていない……息を吐いた後に透子が目を向けた先を見れば、そこにあるのは巨大な氷のつぼみ――デスバレスへ至る道。
「《甦生氷城》で戦っていたみんなが聞いた聖王女エロヒムの声なんだけど、同じものを『グラビティ・チェインレーダー』で確認したんだ」
 ようやく開かれた道と、その先にあるデスパレスへ巡らせるケルベロスたちの想いは如何ほどか。
 想いを汲み取るようにじっとケルベロスたちを見つめて透子は話を続ける。
「それで解析情報を元に、強化された予知能力により、突入口の向こう側、デスバレスの情報及び、死神の防衛作戦について情報を得る事ができたんだよ」
 そしてその口からもたらされたものは、千載一遇の機会ともいえる情報。
「万能戦艦ケルベロスブレイドは、デスバレス回廊を突破して、冥府の海潜航能力を使って、聖王女エロヒムが囚われていると思われる『デスバレス深海層』を目指すことになるんだよ」
 再び自分へと興味を戻したケルベロスたちの目を真直ぐに見つめ、
「危険な任務になるけど……死神との決着をつけるためにも、皆の力を貸してほしいんだ」
 透子は力を貸してほしいと願った。

●待ち構えるもの
「死神側の防衛作戦なのだけれど、ヴェロニカ軍団という、死神の最精鋭軍が防衛にあたっているよ」
 自分の話に耳を傾けるケルベロスたちへ透子は感謝するように小さく目を閉じてから、予知で得られた死神側の情報を話始める。
「ヴェロニカ軍団は、撃破された軍団をサルヴェージして戦い続ける不死の軍団みたいで」
 撃破されてもサルヴェージされてしまうならそれは終わりの無い戦いと言えるだろうが……それだけでは無いと言わんばかりに透子は目を閉じたまま思案するように眉を寄せる。
「……その上、『七大審問官』を従える『イルカルラ・カラミティ』の力によって、不死性が強化されて、撃破された軍勢がすぐに蘇生して再出撃してくるっていう、恐ろしい能力を発揮するんだ」
 最精鋭軍がサルヴェージされる間もなく、その場で復活して戦線に復帰する。
 想像しただけで恐ろしい状況だ。
 もし、このヴェロニカ軍団を相手に消耗戦を行えば、どれだけ強力な戦力を保持していても何時かは力尽きて敗北してしまうことだろう。
 何か手はと、先を促すように自分を見るケルベロスたちに頷いて、
「これを防ぐためには、ヴェロニカ軍団を防衛している間に、蘇生再出撃の儀式を行っている、イルカルラ・カラミティを一刻も早く撃破するしかないんだよ」
 透子は今回の劇は目標についての説明を始める。

●祈りしもの
「イルカルラ・カラミティは、配下の『七大審問官』を率いていて、ヴェロニカ軍団の遥か後方の安全地帯で儀式を行っているから、普通には近づけないんだよ」
 普通に近づけないのであれば、どうするのか。
「でも、万能戦艦ケルベロスの『強化ケルベロス大砲』を使えば、ヴェロニカ軍の軍勢を飛び越えて、イルカルラ・カラミティの儀式を直接攻撃することが出来るんだ」
 己自身が砲弾となって飛ぶ、そんな普通じゃない方法をとればよいのだ……否、ケルベロスであればある意味見慣れているかもしれないけれど。
「イルカルラを攻撃するには、周囲の『七大審問官』を撃破する必要があるから、ケルベロス大砲を使って、周囲の『七大審問官』を奇襲して撃破して、そのあとでイルカルラ・カラミティの元に向かって戦闘を仕掛けて欲しいんだよ」
 砲台を使った接近によりヴェロニカ軍団を避けられるとは言え、いきなりイルカルラに刃は届かない。
「イルカルラの前に、撃破してもらいたいのは、七大審問官の一体ウィルゴ・マーテルというオラトリオの姿をした死神だよ」
 そこでまず七大審問官の一体であるウィルゴ・マーテルを倒してほしいと透子は言い、
「ウィルゴは、回復を得意とした死神で、長期戦を得意としているよ」
 ウィルゴの特性について語る。
 長期戦を得意とするのならば、こちらもそれに臨むのもありではあるが……時間をかけすぎてしまえばヴェロニカ軍団によるケルベロスブレイドへの被害が増してしまうだろう。
「時間をかけないようにするためには何か、思い切った戦術が必要かもしれないよ」
 自分には思いつかないけれどと、首を傾げる透子が言うように、何か尖った方法を考えるのも良いかもしれない。
「それで、ウィルゴを撃破した後には、イルカルラに仕掛けて欲しいんだ。イルカルラの戦場にはイルカルラの他に副官として七大審問官の一体が配置されているみたいだよ」
 ウィルゴを撃破できればいよいよ本命のイルカルラとの戦いとなるが、イルカルラの他に一体の七大審問官が配されているという。
 となると、強力な死神を二体相手にする作戦が必要だろうか。
 一通りの説明を終えた透子は、突破口を見出すべく思案し始めたケルベロスたちを真直ぐに見つめ、
「時間との戦いとなる大変な任務だけれど、みんななら絶対やれるって信じてるよ!」
 あとのことをケルベロスたちに託すのだった。


参加者
クリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
青沢・屏(守夜人・e64449)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)

■リプレイ


 ザルバルクの海の中、見る間に近づくオラトリオの姿。
 両の手を重ねて祈りを捧げる様は、何者かの巫女を思わせる静謐さを漂わせるが……一行の接近に気づいた女が自分たちに向けた目の色に、そのあまりにも寒々しい死の色に、女……ウィルゴ・マーテルがこの世ならざるものだと強制的に認識させられる。
「玄関が分からなかったから、こんなところから失礼するぞ!!」
 ウィルゴの目を真直ぐに見つめ返した北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が吠えると同時に、師匠から受け継いだ機巧刀【焔】を取り出し、柄の引鉄を引く。
 そしてリボルバーシリンダー内の全弾を撃発させると、陽炎が立つほど赤熱化した刀身を胸元に構え、
「俺の全身全霊の一撃、受けていただこうか……!」
 文字通り砲弾となってウィルゴに体当たりを仕掛けるのと同時に、刀身をその胸元に突き立てようとする。
 ウィルゴは片足を引いて計都の突撃を避けるも、計都の突撃はあまりにも早く、避け切れぬ刃が、その肩口を、白い翼を裂いた。
 痛みなど感じないのか、ウィルゴは自身の傷など意に介さぬように、自分の真横で停止した計都へ手を伸ばそうとするが、
「……その手は、誰にも届きませんよ」
 その手に魔法の光線を浴びせられ、石のように硬直する。
 ウィルゴが光線の元へと目を向ければ、foreverを握りしめるカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)の姿があり、さらには計都のライドキャリバーである獅子王丸が炎を纏いながら突っ込んでくる。
「際限なく復活する、なんていうのは困りものです。ので」
 獅子王丸の突進に思わず翼を打ち、上へと避けたウィルゴだが……動きを呼んでいたかのように、その真上からウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は突っ込んでくる。
「しばらくは、死んでいていただき、ます」
 ウィルマは冷めた殺意に任せて、ウィルゴの頭上辺りの時空を歪ませ、地獄を呼び出す。
 そして飛び抜けざまに、開いた地獄に右手を突っ込むと、蒼い炎を纏った巨大な剣を引きずりだして、
「さようなら」
 そのまま力任せにウィルゴに向けて叩きつける。
 先端が見えぬほどに巨大な剣の一撃、ウィルゴは思わず動かぬ手を盾にそれを受けるも――受け止めた腕はあらぬ方向へとねじ曲がり、殺し切れない威力によって真下へと吹き飛ばされた。

 計都が獅子王丸に手をかけ、距離をとるのを横目で確認しつつウィルゴは祈りを捧げるように胸元へ手をあて、己の傷を癒していく。
「どうやら、デスバレスに無策で攻めてきたわけでは無いようね」
 それから落下に身を任せつつ、改めてケルベロスたちへ目を向け、苦虫を嚙みつぶしたような顔を見せた。
「全ての作戦を知っているかのような対応……。聖王女エロヒムの助力を受けているというのでなければ説明はつきません」
 先にケルベロスブレイドへ向けている部隊を飛び越えてこの場に現れたとなれば、無策でないのは当然。
 そして、自分たちの作戦の肝を潰しに来たとなれば、もはや自分たちの作戦そのものが読まれているとしか考えられないと、ウィルゴは零す。
 聖王女の名に、端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が、ウィルマが、カロンがぴくりと反応するも、
「お邪魔しました。入場はちょっと乱暴たな、後はもっと混乱しますよ」
 ウィルゴの懐まで一息に飛び込んだ青沢・屏(守夜人・e64449)が、卓越した技量からなる、達人の一撃を放つ。
 ここは死神の腹の中のようなもの早急に決着をつけるべきだと屏は考える。
 それに防衛に回っている仲間たちの身も心配だ。となれば、死神の言葉に耳を貸す暇など無いのだ。
「その刃、地を斬り、海を斬り、空を斬り……」
 想いを表情に出す事は無い屏の一撃をウィルゴはくるりと反転して避けるも、その太ももを大きく刻まれる。そして、避けた先に待ち構えていたのは円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)だ。
 キアリは右手を大きく左上に振り上げ、手刀を作る。
「竜をも、天の星すらも裂いて、この世に斬れぬものは無し。仮初めなれど――」
 さらにはその手刀にエインヘリアルを統べた英雄王シグムンドの愛剣バルムンクを、半実体・半幻影で模倣・再現し――、
「刮目して見よ!」
 手刀を振り抜くと同時に体をコマのように回転させて、ウィルゴの体を刻んでいった。

●儀式の反動
 キアリの体が回るたびに、ザルバルクの海に白い羽が舞い散る。
 ウィルゴはキアリの攻撃に対し、翼で繭を作るように身を護りながら再び祈りによって己が身を癒す。
「いいわよ! あと6分後に艦砲射撃支援を要請! それまで……奴を食い止めろ!」
「うむ、焦る必要はないのじゃ。我らの背には剣の砲口が控えておる。砲撃の準備が整うまで此奴を足止めできれば我らの勝ちぞ!」
 最後に回し蹴りを放ち、その反動で距離をとるキアリと並んだクリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)と括は、お互いに目配せすると、あたかも援護が在るようなそぶりを見せる。
 リームヒルデと括の発言にウィルゴは翼をぴくりと震わせるが……翼に覆われた表情までは読めない。
 だが良いのだ。
 たとえ信じさせられなくても、疑惑の楔を打てさえすれば良いのだから。
「やっておしまい!」
「ふるべ。ゆらゆらと、ふるべ」
 有名女優も真っ青な演技を見せるクリームヒルデの横で、括は両の手を前に突き出すと、そこに障りを拒み阻む御業を杖の如くに固める。
「衝き立ち示すは黄泉路の手向けじゃ」
 そしてようやくキアリの攻撃から解放され、丁度翼を広げ始めたウィルゴの、その開きかけの翼の間を縫うように、弾丸に乗せた御業の杖を打ち放つ。
「惑うことなく進まれよ」
 放たれた杖に気づいたウィルゴは咄嗟に翼を閉じようとするも、計都に抉られた傷のせいかその動きは緩慢で……括が放った杖の先端がウィルゴの腹へと突き刺さる。
「祈りましょう、明日のために。願いましょう、人の子等の安寧を」
 思わず身をくの字に折ったウィルゴの周りに穢を押しとどめる御業の膜のようなものが張られ、ウィルゴの注意が逸れた隙をついてクリームヒルデは大きく息を吸い込むと、
「唱いましょう、天上に響く高らかな凱歌を」
 祈りを込めた歌を高らかに響かせる。
「今ここに、シンフォニーを想像しますわ」
 クリームヒルデの歌声は仲間を癒しの力を引き出すもの、立ち上がる力を与えるもの。
 その歌声に共鳴するように、リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)がバイオリンを弾くと、カロンたちの背後にカラフルな爆発が起こり仲間たちの士気を高めた。

 クリームヒルデや括の演技も効かないのか、祈りで傷を回復させるウィルゴ。
「防御一辺倒ですか。ならば……押し切らせてもらいます!」
 そんな死神の様子を見たカロンは手にした氷結輪を思いっきり投げつける。
 リリスが起こしたカラフルな爆発の勢いに乗るように放たれたカロンの氷結輪は、一見あらぬ方向へと飛んで行くも、次の瞬間にはウィルゴの背後からその翼を切りつけた。
 強烈な冷気で翼を凍らされたウィルゴに向けてウィルマは手をかざし、精神を極限まで集中させる。
「反撃する余裕が、ない、ようにも見えます、ね」
 それから手元に戻ってきた氷結輪を掴み、勢いを削ぐようにくるりと回るカロンの横で、ウィルゴを爆破する。
 この死神の動きはあまりにも精彩に欠けるように見えるのだ。もちろん、括の御業による縛りもあるのだろうが、それだけでは無いとウィルマは見立てる。
「倒します。変わらないてす」
 ウィルマの爆破によって羽と泡が沸き立つ海中へ、屏が蹴りを放てば、蹴りによって生じた衝撃が星形のオーラとなって飛んでいく。
 相手の状況がどうだろうが全力で倒すという結論は変わらないのだと屏は呟き、放たれた星形のオーラはウィルゴの翼を大きく跳ね上げた。
 そして翼を跳ねられ体勢を崩したウィルゴの真後ろに、ウィルマが起こした爆発に紛れて近づいていたリリスが現れ、
「後ろから失礼しますわ」
 その背に、翼の付け根に肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転させた一撃を叩きこめば……ウィルゴの翼を切断するのだった。

 切り結ぶこと九つ。
「レクイエムが失われていなければ、聖王女を完全に支配下に置けたものを……」
 片翼を失い、まともに体勢を維持することすらできなくなったウィルゴが呟く。
「どういう意味です? ……どんな状況でも私たちが勝つ。それだけは変わりません」
 ウィルゴの呟きの真意は分からない。そして問うても答えなど得られないだろう。
 故に、クリームヒルデは結論だけを叩きつけ、微かな希望を掴み取る冒険家の歌で、味方に未来を切り拓く力を与え、
「その通りじゃ!」
 力を得た括が流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させて、ウィルゴのもう片方の翼を折り、さらにはキアリが両手の手裏剣を高速回転させて生み出したふたつの大竜巻で、ウィルゴを挟みつぶす。
「これで終わりだ!」
 そして機動力を失い竜巻にはさまれるウィルゴへ向けて計都が、岩塊めいた鎚頭に龍頭が潜む鎚を向け、竜砲弾を放つと――ウィルゴの体はザルバルクの海へ溶けるように消えるたのだった。


 一行がイルカルラの元へと辿り着いた時、そこには一体の死神と戦うケルベロスたちの姿と、その戦闘には関与せずに儀式を続ける奇怪な怪魚に囲まれた黒い女の姿が見える。
 あの女がイルカルラで間違いないだろう。何せ……、
「何て、濃い……」
 死の臭いと言う言葉を、我知らずに唾を飲み込んだカロンは口にできなかった。
 触れれば死ぬ。名を口にすれば死ぬ。目にすれば死ぬ……そう、直感するほどの死の臭いを撒き散らしているのだから。
 流石は冥府の神と言ったところか、だがそれがここで引き下がる理由にはならない。
 死神の相手を仲間たちに任せカロンたちはそのままイルカルラに接近すると、
「このデスバレスが戦場となる戦いは、エインヘリアルを率いたアスガルド神の侵攻か……、全てを滅ぼさんとする魔竜王の怨念であると思っていたが、まさか、ケルベロスが我らに牙を剥こうとはな……」
 イルカルラは一瞬だけ目を見開くも、すぐに嘲笑するように口元を歪めた。
「死してデスバレスに還る定めの定命の者が、デスバレスに攻め寄せるなど……、お前たちの言葉で言えば、飼い犬に手を噛まれるという所か」
 それは自虐か、あるいは愚かなるものに向ける哀れみか、いずれにしても、
(「これは……会話どころではないようじゃ」)
 括は悟る。会話の余地は無いと。
「どんな姿をしていようと、死神の本質は魚でしょう? 猫らしく喰い散らかしてやる!」
 小さく息を吐く括の横で、キアリが吠えると……その声に応じるように、イルカルラが一行へ手を向ければ、彼女の周りを漂っていた怪魚が一行へ襲い掛かってくるのだった。

 迫りくる怪魚をウィルマが受け止め、キアリとカロンが撃破する。
「これくらいなら!」
 そしてウィルマが受けた傷をリリスと、クリームヒルデが癒すと……、
「お前たちは何と戦っているか理解しているのか? それは、冥府の神カラミティであるぞ」
 待っていたかのようにイルカルラが手を上げると、先ほどの怪魚……カラミティがクリームヒルデたちの目の前に現れる。
「っ!」
「このデスバレスにおいて、冥府の神の力を打ち破る事など出来はしない」
 現れたカラミティに奥歯を噛み締める計都を、愉快そうに見つめイルカルラは宣言する。この場でケルベロスたちに勝ち目など無いのだと。
「死神ゆえの不死性、です、か。この場合は不死、というよりも死からの復活です、が。確かに他のデウスエクス、とは少し異なる存在であるよう、です、ね」
 再び現れたカラミティをウィルマは冷静に分析し、
「俺達はこんなところで終わるわけにはいかないんだ、まだ超会議も水着コンテストも楽しんでないんだからな!」
 計都が吠えると――それを嘲笑っていたイルカルラの表情が一変した。

 それがイルカルラの背後に新たな別動班が、一撃を加えたからだと計都たちが察した次の瞬間。
「お前たちの魂は、サルベージもできない程に千々に引き裂いて欠片も残すまい。ザルバルクを喰らい現れよ、カラミティ」
 低く冷たい声が発せられ……ザルバルクの海の海水を呑み込みながら巨大な黒い渦が発生した。
 二つの班を呑み込むように発生した渦をよくよく見ればそれは、巨大な黒い深海魚、カラミティの大群で――カラミティの大群は見る間に一行を包み込むように渦の大きさを狭めてくる。
 このままイルカルラを前にカラミティの大群と戦うなど無謀に等しいが、
「相手が何ものであっても、僕たちは戦い抜きます!」
 カロンが振り絞るように決意を言葉にすれば、仲間たちも呼応するように各々の得物を構える。
 そしてカラミティたちと刃を交えようとする寸前――、
「深海魚は我々に任せて、皆様はイルカルラを倒すのです!」
 誰かの声が聞こえたかと思うと、カラミティたちの接近が止まるのだった。

 その声の主を確認する必要はない、自分たちの役目は分かりきっているのだから。
「これ以上好きにはさせません!」
 屏たちはイルカルラの背後にいるもう一つの班と共に、猛攻を仕掛ける。
 いかに冥府の神と言えど、地獄の番犬が一斉にかかれば牙が届くのだ。リリスの癒しの曲を背に、イルカルラの体を屏と括が放った弾が貫き、その体に確実に傷を負わせていく。
 傷を負わせていくのだが、
「無敵とでも言うの?」
 傷など無いかのように平然と自分たちの相手をし続けるイルカルラにクリームヒルデは歯噛みする。
「何か、仕掛けがあるはずですわ」
 これはどう考えてもおかしい、だが何がおかしくしているのかは不明だ。リリスもまた思考を巡らしながら、仲間たちの傷を癒し続ける。
「映像きました。ポロス撃破されました」
 そんな中、屏は脳裏に届いた一つの映像を仲間たちへ伝えると、唐突にイルカルラが苦しみだす。
「そういう、カラクリした、か」
「風向きが変わったようじゃの」
 苦しみだしたイルカルラを見て、ウィルマと括はそう言うことかと頷きながら、鎖と雷を放ち、
「今度こそ食い破ってやる!」
 それを追うようにキアリが突っ込む。
「一気にいきましょう!」
「応!」
 キアリから一呼吸遅れてカロンと計都が魔法の玉と、砲弾を撃ち込むと……イルカルラの体はゆらりと揺れて――好機を逃さず仕掛けたケルベロスたちの手によって水泡と化し、海に還されたのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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