激闘7分間~黒騎士が出るなら、白騎士も出るよね?

作者:秋津透

 北海道小樽市、深夜。
 中心街に並ぶビルの一つが、突然内側から爆発するように崩れ、全長7m程度の大型ロボット……巨大ロボ型ダモクレスが出現する。
 その姿は、巨大な馬に乗った巨大な騎士。そして、馬も騎士も全身すべて純白で、月光を浴びて光り輝くばかりに美しい。
 しかし次の瞬間、馬の口から金色に輝く火炎が噴射され、市街を火の海に変える。炎を背景に、純白の馬と騎士が禍々しい影となって浮かび上がる。
 そして騎士は、手にした巨大な騎士槍(ナイトランス)を無雑作に投擲する。騎士槍は、かなり離れた場所にあり炎が及んでいないビルを一撃で粉砕し、騎士の手元に戻ってくる。
 巨大ダモクレスは軽くうなずき、それ以上の破壊は行わず、月光と火明かりのもと悠然と佇む。そして七分後、純白の巨大騎士型ダモクレスは虚空に開いた魔空回廊に吸い込まれて消えていき、後には燃える市街が残された。
 ……どっかで聞いたことがある話、いや、見たことがある予知だ。

「黒騎士が出るのなら白騎士も出るのかな、と思って調べてもらったんだけど、案の定だったよ」
 カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が淡々と、しかしどこか嬉しさが滲み出る口調で告げる。そしてヘリオライダーの高御倉・康が対照的に難しい表情で、プロジェクターに画像を出す。
「北海道小樽市で、封印されていたとおぼしき巨大白騎士ロボ型ダモクレスが復活し、7分後に魔空回廊が出現して回収される、という予知がありました。出現時間は今夜深夜、出現場所はここ。既に住民の避難は進められており、出現時には近隣には誰もいなくなっています。こちらは出現30分前ぐらいに到着し、待ち構えることができますが、出現する建物の内部等を調べても何もありません」
 そう言うと、康は画像を切り替える。
「予知された巨大ロボ型ダモクレスの形状は、カシスさんが予期した通り。全身純白の西洋風の騎士の姿をしています。騎士は馬と一体になっており、馬から降りたり落ちたりすることはありません」
 告げると、康は更に画像を切り替える。
「巨大白騎士型ダモクレスは、グラビティ・チェインの枯渇により本来の戦闘力は発揮できないようですが、馬の口から猛烈な火炎を吐き、手にした騎士槍を投擲してきます。炎は列攻撃、槍の投擲は単体攻撃のようですが、遠距離まで届き、侮れない威力があります。ここまでは、先日出現した黒騎士と全く同じです」
 そう言うと、康は一同を見回す。
「しかし、一度だけのフルパワー機能として、白騎士は強力な治癒を行います。仕掛けた反動で巨大白騎士型ダモクレスも、そのあと2ターン動けなくなるようですが、先日の黒騎士のように最終ターンまでフルパワー発動を控えられてしまったら、ほぼ全回復した白騎士を1ターンで潰さなくてはなりません。これは非常に困難だと思います。何とかして、最終ターンより前にフルパワー回復を使わせるよう、積極的に追い込む必要があります」
 そして康は、もう一度画像に目をやった。
「今回の敵は、もともと部隊を率いる指揮官役だった可能性があり、回収を許したら非常に厄介だと思われます。潰しにくい敵ですが、何とか7分間で確実に仕留めてください。『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうかよろしくお願いいたします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
青沢・屏(守夜人・e64449)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)
ニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)

■リプレイ

●開戦!
 北海道小樽市、深夜。ヘリオライダーが予知した時間通りに、中心街に並ぶビルの一つが内側から爆発するように崩れ、全長7m程度の巨大白騎士型ダモクレスが出現する。
「敵対者ヲ排除スル。攻撃開始」
 西洋型兜の正面、目庇に相当する部分を赤く光らせた白騎士が、軋むような音声を発する。そして、白馬の口から金色に輝く火炎が宙に向けて噴射され、ジェットパック・デバイスで飛行しているクラッシャー、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)とカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)を薙ぎ払う。
「くっ……攻撃パターンは、黒い奴と同じらしいな」
 以前、今回出現した白騎士とほぼ同型と思われる巨大黒騎士型ダモクレスと闘った経験のある蒼眞が、顔を顰めて唸る。戦闘開始前に、今回依頼初参加のニケ・ブレジニィ(マリーゴールド略してマリ子・e87256)が、視界確保のためジェットパック・デバイスのビーム牽引で一緒に飛びたいと申し出てきたが、狙われるポジションだからやめておけ、と断った。どうやら、それで正解だったらしい。
「ディフェンダーの庇いも確実じゃないしな。……しかし、新米さんがくらったらきついだろうが、はっきり言ってたいしたことないな」
 どうやら、敵さんのポジションはディフェンダーで間違いなさそうだ、と、蒼眞は苦い表情のまま呟く。攻撃が甘いのは助かるが、こちらの与えるダメージが半減されてしまうのは困る。大変に困る。
「とはいえ、ポジション変えてくれと頼んで聞いてくれるわけもなし……とにかく、最善を尽くすしかないか」
 溜息交じりに呟くと、蒼眞は火炎放射のお返しとばかりに、火炎弾を連射する巫術を使う。続いてカロンが、石化効果を備えた魔法光線を放つ。
「スクラップにして差し上げましょう!」
 格好良いと思えなくもないですが、街を破壊するのであれば、僕達の敵です、と、カロンは強い口調で言い放つ。
 そしてカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が、愛用のエアシューズ『雪降る軌跡』に重力を籠め、白馬の脚の付け根に強烈な飛翔蹴りを叩き込む。
「この飛び蹴りを、見切れるかな? ダメージが通りにくいなら、BS漬けにする戦法が有効だと思うよ」
 持ち前の穏やかな口調で言うと、カシスは敵の状態を注意深く観察する。続いて六星・蛍火(武装研究者・e36015)が、やはり馬の脚部を狙って達人の一撃を打ち込む。
「この卓越した技術の一撃を、受けてみなさい!」
 気合とともに馬の脚に氷を付着させると、蛍火はサーヴァントのボクスドラゴン『月影』に告げる。
「さぁ、月影。サポートは任せたからね」
 蛍火の指示に応じて『月影』は飛翔し、炎のBSを受けているカロンを治癒、BS耐性を付与する。
「ありがとうございます、助かります」
 カロンは『月影』に対して律儀に礼を言う。そして紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)が、いささか腰が引けた感じで蒼眞にエレキブーストを放射。ダメージを癒し炎を消し破壊力を上昇させる、一石三鳥の効果を発揮する。
「ん、助かる」
 蒼眞は英賀に向け、親指を立て励ますような笑顔を見せる。
 続いて、リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)が、オリジナルグラビティ『機械仕掛けの夜想曲(メカニカル・ノクターン)』を発動させる。
「わたくしの演奏、聴いて頂けると幸いです」
 優雅に一礼すると、リリスは愛用のバイオリンで即興曲の演奏を始める。一見では、攻撃しているとは思えないが、実のところ小さからぬグラビティダメージを与え、しかも気を惹くことで敵の回避力を落とすのだから恐ろしい。
 そして青沢・屏(守夜人・e64449)が、蛍火の攻撃を見習ってだろうか、馬の脚部に達人の一撃を打ち込む。
「怪しいダモクレス騎士が一つずつ飛び出してくるなんて、本当に勘弁してくれ……」
 蒼眞やカシスとともに黒騎士討伐依頼に参加していた屏は、心底憮然とした表情で呟く。
 最後のニケは、エクトプラズムを圧縮した霊弾を、馬の脚に向かって飛ばす。
「よーし、当たったあ♪」
 さっすが命中率倍増のスナイパーポジション、と、ニケは屈託なく笑う。依頼初参加の新人とはいえ、年齢30歳の(まだイラストがないので、たぶん)麗しきオラトリオ女性。御本人曰く「春の陽気に誘われて、うとうとと居眠りをしていたら風に流されて、気が付いたらこの世界にいた」というツワモノ(?)だけに、全然ものおじする様子がない。
 そして、2ターン目。白騎士は当然のように騎士槍を投擲し、カロンに命中させた。単体攻撃なので炎よりかなりダメージが大きいが、一撃で戦闘不能の恐れがあるほどの脅威的攻撃ではなく、BS付与もない。
(「こちらが潰されることはなさそうだが……問題は、向こうを潰せるか、だな」)
 言葉には出さずに呟くと、蒼眞は高速飛行で接近して斬霊刀を振るい、白騎士の頭部に達人の一撃を見舞った。

●総攻撃! ここが正念場!
「永遠なる時間の流れに潜伏している災厄よ、この私の呼びかけに答えよ! 目の前の敵を喰らう! ディザスタァ・バスター!」
 屏がオリジナルグラビティ『災厄増幅弾(ディザスタァ・バスター)』を発動させ、白騎士に叩き込む。ダメージはさほど大きくないが、BSを増幅させるジグザグ効果があり、白馬の脚が一本、ばきっと耳障りな金属音をあげて折れる。
 そしてニケがファミリアロッドを振るって、赤い首輪のしっぽが短めのキジトラの猫を突貫させる。
「ダヤーん、れっつらごー!」
 ニケの指令(?)に応じてファミリアの猫は首輪の鈴をリンリンと鳴らして巨大な白馬に突撃し、ダメージこそ極小ではあるが、立派にジグザグ効果を発揮して戻ってくる。戻ってきた猫を、ニケはよくできたねーとなでなでする。
 そして次の瞬間、ストップウォッチやリストウォッチにセットされているアラームが、一斉に鳴った。
(「5分経過、か」)
 確かに、敵は満身創痍。騎士は右腕を失い馬は脚を折られ、さまざまなBSに全身を苛まれているが、しかし、まだ一回限りの大治癒は使っていない、と、蒼眞は白騎士を睨み据える。そして、ここで大治癒を使われ、完全回復されてしまったら、攻撃当て放題の頓挫状態であっても、2ターンで潰すのは難しい、と、蒼眞は判断している。
(「暴走して潰すか?」)
 確実に潰すにはそれしかなさそうだが、と、蒼眞は声には出さずに呟く。しかし、こちらの命が危ないわけでもなく、一般人惨殺の危険があるわけでもない状態で、頓挫している敵の回収を阻むために暴走はできるのだろうか?
(「できるかできないかは、やってみなけりゃわからんが……やらないに越したことはないよな」)
 死神やダモクレスとの苛烈な戦いが続いている現状で、指揮官級巨大機とはいえ量産型のダモクレス一体の回収を阻むために暴走する価値があるかどうかは、何とも微妙だな、と、蒼眞は人知れず葛藤する。
 すると白騎士が、左手に持ち替えていた騎士槍を高々と揚げて叫んだ。
「スベテノ傷、忌マワシキ束縛ヲ、ココニ解消スル! 大治癒!」
 同時に白騎士の全身が輝き、付与されていた炎、氷がすべて消える。しかし、騎士の斬り落とされた腕、馬の折れた脚は回復せず、全身に刻まれた傷も残っている。全回復にはほど遠い状態で、白騎士と白馬は、その場にがくりと頓挫した。
(「アンチヒールが、効いたのか?」)
 少なくとも、暴走しなければ潰せないという状態ではなさそうだ、と見て取って、蒼眞はオリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』を発動させる。
「うにうにっ!」
 蒼眞が変なポーズを取って叫ぶと、謎の巨大存在『うにうに』が頓挫した白騎士の頭上から雪崩れ落ちる。見栄えもへったくれもない、とにかくひたすらダメージが大きい質量攻撃を受け、傷が癒えきっていない白騎士の全身各所が音をたててひしゃげる。
「変幻自在の攻撃、受けてみなさい!」
 カロンがオリジナルグラビティ『境界面上のブルーティアーズ(キョウカイメンジョウノブルーティアーズ)』を発動。装備武器のファミリアロッド『forever』とドラゴニックハンマーを一時的に融合させ、真蒼の大矛『forever blue』(仮名)を発現させる。そして、飛行状態で急襲し、白騎士の首と左腕をばっさりと切断する。
「すごいな。でも、ダモクレスはしぶといからね。完全に潰れるまでは手は抜けないよ」
 相変わらずの穏やかな口調で言うと、カシスは氷結輪を投擲して白馬の首を切り裂く。ダメージを与えるのはもちろんだが、改めて付与された氷が消えない限り、ダモクレスが「生きている」という目安になる。
 続いて『月影』がジグザグ効果のあるブレスを放って、カシスが付与した氷を増やす。蛍火はビーム牽引で宙に飛び、白騎士の首の切断面から胴体に向け、半ば敵の体内に突っ込むような体勢で破鎧衝の一撃を放つ。
「弱点はここね。計算するまでもないです!」
 そして、ここまでびくびくしながらもメディックとして的確な治癒を行っていた英賀が、不意に人が変わったかのように冷酷、かつ好戦的な表情になって言い放つ。
「どこまで細かくすればお前の死は証明できる?」
 試してやろう、と、英賀はビーム牽引で宙に飛び、オリジナルグラビティ『存在の破壊・死の確定(ダムナティオ・メモリアエ)』を発動。惨殺ナイフを的確に振るって、白騎士の胴体を解体する。
 そしてリリスはバイオリンを丁寧にしまい込み、ビーム牽引で飛翔して、ほとんど解体されて残骸と化した白騎士と、白馬の接合部分を狙って重力蹴りを叩き込む。
(「攻撃は、あまり慣れていないのですが……相手が動かないのなら、落ち着いて仕掛けることができますね」)
 声には出さずに呟き、リリスはふうっと吐息をつく。
 続いて屏は、馬の脚部に達人の一撃を見舞い、再び氷をつける。ニケは、ガネーシャパズルから竜を象った稲妻を放つ。
「さっすがでかぶつ、動かなくてもなっかなか潰れないなあ。キビシー」
 でも、まだ1ターン攻撃できるんだよね、後はヨロシク♪ と、ニケは先輩方を信頼しきった笑顔でウインクする。
 そして蒼眞は、再び『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』を放つ。何しろ相手は頓挫状態、同じ攻撃を続けても見切られることはない。大質量の『うにうに』を叩きつけられ、ほぼ残骸と化していた白騎士部分が完全に吹っ飛ぶ。
 続いてカロンも『境界面上のブルーティアーズ(キョウカイメンジョウノブルーティアーズ)』を発動させる。もっとも、変幻自在の攻撃は、一回目とはまったく違った様相となり、鮮烈な碧色の魔法光線が放たれる。
「これが、変幻自在の攻撃です!」
 強力な光線を浴びて縦に裂けていく白馬を見据え、カロンが力強く言い放つ。
 そしてカシスが、満を持してオリジナルグラビティ『断罪の千剣(ダンザイノセンケン)』を放つ。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
 無数に創造されたエナジー状の光の剣が、白馬を容赦なく切り裂く。完膚なきまでにずたずたにされながらも、白馬の首や脚についた氷はまだ消えていない。
「さすが、巨大ダモクレス。しぶといですね!」
 蛍火が達人の一撃を放ち『月影』がボクスタックルを決める。ばき、ばきと大きな破壊音があがるが、まだ氷は消えない。
「とどめは、任せてくれ」
 伊達や酔狂でオリグラにフィニッシュを付けているわけではない、と、自信ありげに言い放ち、英賀が再び『存在の破壊・死の確定(ダムナティオ・メモリアエ)』を発動させる。
「騎士を失った馬ごときが、無駄に粘るな。お前の行くところは天ではない。黒い仲間が待っている、冥府だ」
 冷ややかに言い放ち、英賀は惨殺ナイフを的確に振るう。解体された白馬は、ばらばらになって崩れ落ち、付与されていた氷も消える。
 そして、七分間が経過した。ケルベロスたちは天を見上げたが、ダモクレスを回収する魔空回廊は出現せず、そこには月が煌々と白く輝いているだけだった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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