燃え上がる恨み辛み!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃工場の裏側に捨てられていたのは、沢山の電子ライターであった。
 その場所は不良達の溜まり場となっており、煙草の吸い殻も山のように捨てられ、独特なニオイを放っていた。
 そのためか、近寄り難い雰囲気が漂っているものの、不良達にとっては聖域に等しい場所だった。
 それ故に、所有者の許可なく、ソファ等が持ち込まれ、廃工場内にも寝泊まりする場所が勝手に作られていた。
 だが、廃工場の所有者自身は、その事実をまったく知らず、興味すらない様子であった。
 だが、電子ライター達は、違っていた。
 ゴミのように捨てられ、雨ざらし。
 場合によっては、まだ使える状態であっても、捨てられる事があったため、電子ライター達の恨みや辛みが残留思念となって辺りに漂った。
 それに引き寄せられるようにして廃工場に現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながら、電子ライターの山に機械的なヒールをかけた。
「デ・ン・シ・ラ・イ・タァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電子ライターが、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。


●セリカからの依頼
「リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)さんが危惧していた通り、都内某所にある廃工場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃工場。
 この場所に捨てられていた電子ライターが、ダモクレスと化したようである。
「ダモクレスと化したのは、電子ライターです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化した電子ライターは、他の電子ライターを取り込み、ロボットのような姿になっているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
芳野・花音(花のメロディ・e56483)
元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「……何だか焦げ臭いわね」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された廃工場にやってきた。
 廃工場は閉鎖されてから、しばらく経っていたため、入り口の門には鍵が掛かっていた。
 そのため、ゴミ箱を足場代わりにして、ブロック塀を乗り越え、敷地内に入る事になった。
 敷地内は道が見えなくなるほど大量の草で覆われており、歩く事さえ困難だった。
「おそらく、ダモクレスが現れる前兆のようなモノだろうね。ダモクレスはいくら倒しても、また新しい物がどんどん生まれてくるから厄介だけど、まだ犠牲者が出ていないうちに倒す事が出来そうなのは幸いかな。とにかく、発覚した事件をひとつずつ解決しておこうか」
 元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)が茂みを掻き分けながら、廃工場の中に入るため、鍵の開いている場所を探し始めた。
 残念ながら入り口の扉は閉まっていたものの、裏口の扉が何者かによって破壊されていたため、何とか室内に入る事が出来た。
「電子ライターは、あまり使った事が無いけど、大量に破棄されたままだと危なくないかしら?」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、色々な意味で危機感を覚えた。
 廃工場内に入ってから、焦げたニオイが濃厚になっており、息をしただけでも咳き込んでしまうほどだった。
「確かに、使い方を間違えると火傷しそうで怖いですね」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)が、警戒した様子で辺りを見回した。
 さすがに、探索の途中で辺りが火の海に包まれる事はないと思うが、最悪の事態も想定しておいた方が良さそうである。
「それだけ恨みが強かったのかも知れませんね」
 芳野・花音(花のメロディ・e56483)が何やら察した様子で、廃工場の天井を見上げた。
 廃工場の天井は、建物の老朽化と共に崩れ、大きな穴が開いていた。
 それから雨が降り注いでいたのか、大量の資料が雨に濡れ、見るも無残な姿になっていた。
「棄てられた恨みは分かるけど、だからと言って人々を襲っていい理由にはならないわ」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、躊躇う事なくキッパリと答えを返した。
「デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その言葉を否定するようにして、ダモクレスと化した電子ライターが、壁を突き破ってケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは他の電子ライターを取り込み、まるでロボットのような姿になっていた。
「中々、カッコいい気もするけど……。駄目ね、見惚れていたのでは……」
 六星・蛍火(武装研究者・e36015)がハッとした表情を浮かべ、小さく首を横に振った。
 そのおかげで、何とか我に返る事が出来たものの、デザイン的には悪くない。
「ちょっと可哀そうな気もしますけど、ダモクレスになったモノは、倒すしかないですよね」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、自分自身に気合を入れた。
「デ、デ、デン、デンシィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが格好良くポーズを決め、火炎放射器の如く勢いでブワッと炎を発射した。
 その炎はまわりにあったモノが燃やし、ドロドロに溶かすようにして、ケルベロス達に迫ってきた。
「雷鳴の蒼螺子よ、仲間を護る盾を展開しなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、ダモクレスの炎から仲間達を守った。
「さぁ、行くわよ、月影。サポートは任せたからね」
 それに合わせて、蛍火がボクスドラゴンの月影に声を掛け、仲間達と連携を取って、ダモクレスを包囲するようにして退路を塞いだ。
 その間に、月影が蛍火を援護するようにして、ダモクレスの死角に回り込んだ。
「この一撃で、その炎ごと氷漬けにしてあげます!」
 続いて紅葉が達人の一撃を繰り出し、ダモクレスの身体を凍らせた。
「ラ・イ・タァァァァァァァァァァァァァ!」
 それに抵抗するようにして、ダモクレスが再び炎を発射した。
 その炎がダモクレスの身体を包んだものの、まったく気にしておらず、それを鎧の如く纏いながら、再びケルベロス達に迫ってきた。
「攻性植物よ、敵を絡み取りなさい!」
 それを迎え撃つようにして、麻亜弥がストラグルヴァインで蔓触手形態に変形すると、ダモクレスに絡みついて締め上げた。
「ラ・イ・タァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、近距離から炎を発射し、麻亜弥の身体を焼き払おうとした。
「……!」
 それと同時に、麻亜弥が炎から逃れるようにして、ダモクレスから離れ、アスファルトの地面を転がった。
「すぐに治すから、ジッとしててね」
 即座に、倭が麻亜弥の傍に駆け寄り、気力溜めでオーラを溜め、回復と同時に状態異常を消し去った。
「……さすがに、あの炎は厄介ね」
 依鈴が身の危険を感じつつ、一瞬の隙をつくようにして、スターゲイザーを繰り出した。
「デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に気づいたダモクレスが、近距離から炎を発射した。
「……クッ!」
 その攻撃を間一髪で避けつつ、依鈴が物陰に身を隠した。
「それなら、これで……動きを封じ込めてしまいましょう!」
 その間に、花音がダモクレスを足止めするため、プラズムキャノンを撃ち込んだ。
「……でしたら、合わせます!」
 それに合わせて、悠姫もプラズムキャノンを発動させ、ダモクレスを挟み込むようにして、圧縮したエクトプラズムで作った大きな霊弾をブチ当てた。
「デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、バランスを崩してヨロめき、それに抵抗するようにして、狂ったように拳を振り回した。
 その拳からは時々火花が散っており、まわりにあるモノを燃やして消し炭に変えた。
「近くにいるだけでも、大火傷しそうな感じね」
 蛍火が色々な意味で危機感を覚え、パンチの射程外から逃れるようにして、後ろに下がっていった。
「大地に眠る霊達よ、皆を癒す力を分け与えてね」
 リサがゴーストヒールを発動させ、大地に塗り込められた惨劇の記憶から魔力を抽出し、仲間達を癒やしていった。
「これで……、少し大人しくしてもらうわよ」
 それに合わせて、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射した。
 次の瞬間、ダモクレスに魔導石化弾が命中し、その部分から徐々に石化していった。
「御業よ、敵を鷲掴みにして動けなくしてしまいなさい!」
 続いて、花音が禁縄禁縛呪を発動させ、半透明の御業でダモクレスを鷲掴みにした。
「デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィ!」
 そのため、ダモクレスは移動する事が出来なくなり、駄々っ子の如く拳を振り回した。
「ならば、その拳ごと喰らうだけです」
 麻亜弥が攻性捕食で捕食形態に変形し、ダモクレスの拳を喰らい、そこに毒を注入した。
「デ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスは怯む事なく、ケルベロス達を狙って、拳をブンブンと振り回した。
 その気持ちに反して、ダモクレスの拳は毒によって蝕まれ、あちこちが錆びて脆くなっていた。
「さぁ、罰を与える時間だよ!」
 その事に気づいた倭が、切り札の剣舞(キリフダノケンブ)を発動させ、心を落ち着かせた状態で抜刀の構えを行い、瞬時に居合斬りを行う事で、衝撃波を繰り出した。
「デ、デ、デ・ン・シィィィィィィィィィィ……」
 その一撃を喰らったダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、内部で何かがボンと爆発し、真っ黒な煙を上げた。
「これで終わったと思ったら、大間違いですよ」
 そこに追い打ちをかけるようにして、紅葉が月光斬で緩やかな弧を描き、ダモクレスの急所を切り裂いた。
 その途端、ダモクレスの右腕が落下し、大量のオイルが噴き出した。
「この傷口は治りにくいわよ!」
 それに合わせて、依鈴がダモクレスの死角に回り込み、絶空斬で雪空の珠(ネクロオーブ)に空の霊力を帯び、ダモクレスの傷跡を正確に斬り広げた。
「ラ・イ・タァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、電子ライター型のミサイルを発射した。
 それが雨の如くアスファルトの地面に降り注ぎ、次々と爆発して大量の破片と炎を撒き散らした。
「これは、なかなか厄介な攻撃ね」
 その爆撃から逃れるようにして、リサがブロック塀の後ろに隠れた。
「花びらのオーラよ、皆を癒してあげてね」
 すぐさま、倭がフローレスフラワーズで戦場を美しく舞い踊り、仲間達の傷を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「ドローンの群れよ、皆を警護しなさい!」
 それに合わせて、蛍火がヒールドローンを発動させ、小型治療無人機(ドローン)の群れを操って仲間を警護した。
「地獄の業火で、融けてしまいなさい!」
 一方、麻亜弥はブレイズクラッシュで永劫桜花(攻性植物)に炎を纏わせ、ダモクレスめがけて叩きつけた。
 炎自体はダモクレスに耐性があったため、致命傷にはならなかったものの、強烈な一撃を叩き込まれた影響でバランスを崩してフラついた。
「その硬い頭を、かち割ってあげるわ!」
 即座に、悠姫がスカルブレイカーを発動させ、勢いをつけて高々と飛び上がり、ルーンアックスを振り下ろした。
「ラ・イ・タァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、頭から大量のオイルを撒き散らし、悲鳴にも似た機械音を響かせた。
「それでは貴方の生命エネルギーを、頂きます!」
 次の瞬間、紅葉が尋常ならざる怪力によって、ダモクレスの身体を破壊し、そこから溢れた生命エネルギーを啜り尽くした。
「ラ・イ・タァァァァァァァァァァァァ!」
 その影響でダモクレスは、思うように身体を動かす事が出来ず、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「……終わったわね、後は周りの散らかったところはヒールで直して帰りましょうか?」
 依鈴がダモクレスだったモノを見下ろし、ホッとした様子で溜息を漏らした。
 ダモクレスは、もう動かない。
 ……二度と動く事はない。
 それが何となく、悲しく思えてきた。
「そうですね。最悪の事態を防ぐ事が出来ましたから、ヒールを使って辺りを修復しておきましょう」
 そう言って花音がヒールを使い、辺りのモノを修復し始めた。
 ダモクレスが暴れ回った事によって、景色が変わるほどの被害が出ていたものの、ヒールのおかげですべてを元通りにする事が出来た。
 そして、ケルベロス達は次の戦いに備えて、体を休めるため、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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