しっとりもちもちふわふわ

作者:四季乃

●Accident
 はらり、ひらひら。
 淡く儚い色をした桜の花びらが蒼穹に揺蕩う街路に、一軒のパン屋さんがあった。上品なブラウンの看板には白字で店名が記されて、可愛らしい食パンのイラストが添えられている。大きく造られたガラス窓から覗ける店内はカフェのような落ち着きがあって、洒落ていた。
 この店はしっとりしてもちもちな口当たりをしたふわふわ食パンだけを扱う食パン専門店だった。自分の好きなサイズで食パンをカット、バターとはちみつ、いちごジャム、シナモンシュガー、ツナとタマネギとハムなど好きな食べ方をオーダーできるのが特徴だ。店内のテーブル席はこの時期になると桜を見ることが出来るため、春先になるととくに賑わいを見せる。
 もちろん、ミルク100%の食パンや、あんこを練り込んだもの、レーズンなど様々な種類の食パンを購入するだけも可能だ。
 そんな、食パン専門店の両開きドアをバーンと勢い良く開く”モノ”があった。
「朝ヨーーー! 起キナサーーイ!」
 甲高い合成音声のような声の後に、耳に馴染みのある「チーン」という音が続き、辺りの喧噪を一瞬で鳴り止ませる。なぜならば。
「パンガ、冷メチャウ、デショウガーーー!」
 まるでお母さんのような発言を繰り返すそれは、どこからどう見ても家庭用トースターだったのだ。

●Caution
「そんな風に本格派食パン専門店に現れたダモクレスは、店内に居た人たちからグラビティ・チェインを片っ端から奪っていったのです」
 頬に手の平を宛がい吐息交じりに言葉を結んだセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の隣では、ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)が雑誌を広げてパステルカラーの夢のような瞳を輝かせていた。
「牛乳100%の真っ白なしっとりもちもち食パン……こんがり焼いたサクサクの表面にとろけるバターとメープルシロップ……バナナチップの上にたっぷりのチョコソース」
 ティフの呟きを拾ったケルベロスの腹が鳴る。聞いているだけで、食べたくなってきた。
 セリカは笑顔を浮かべると、少し眉尻を下げてケルベロスたちに向き合った。このダモクレスの発言を鑑みるに、これはどこかで廃棄された物だったのだろう、と。
「奇しくも襲撃した先が食パン専門店、というのはやはりトースターの残留意志のようなものでしょうか……でもどちらかというとご家庭の思い出の方が強く残っていそうですよね」
 顎に手を添えて考える素振りを見せるセリカであったが、何にしてもダモクレス化したのであればこれを放置するわけにはいかない。

 トースターはポップアップのものだった。本体は白なのだがつまみやレバーが淡い青色をしているので、一見すると玩具のように可愛らしいデザインだ。販売から十数年は経っている商品のため、恐らく最新の便利な物に買い替える際に廃棄が決まったのだろう。
「トースターはダモクレス化する際に周囲の廃材を巻き込んで体を形成したために、少々肥大化しております。頭はポップアップタイプの本体になっているのですが、お腹に扉が付いていて、それがあらゆるものを加熱するオーブンになっています」
「体にはあちこちに機械で出来た蜘蛛の脚みたいなのが生えているから、その脚で辺りのものを串刺しにして焼いちゃうんですって!」
 店舗正面の街路は幸い車道のない並木道だ。店内への侵入を阻止して外に押しやれば、あとはこちらのもの。店内にいる客や往来の人々に関しても店員たちと警察に協力を仰いでいるので、避難誘導も最小限で済むと思われる。
 しかしこのダモクレス、お腹のオーブンで焼いたものを振り回してくるだけでなく、頭のポップアップからこんがり焼いた食パンを射出してきたり、サクサクもっちり触感のパンの匂いで誘惑してきたりするそうなので、油断は禁物だ。腹は鳴るだろうが、戦いのあとはきっと美味しい食パンが君たちを待っている。
「おいしい食パンを食べに――ではなくてぇ、ダモクレスを退治しに行こうー!」
「ふふ、皆さんどうか気を抜きすぎず……頑張ってくださいね」
 おー、と小さな拳を振り上げたティフの顔は、春のお日さまのように晴れやかだった。


参加者
隠・キカ(輝る翳・e03014)
天月・巽(蒼い鳥・e18972)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)
シャルル・ロジェ(明の星・e86873)
ルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)
バルバロッサ・ヴォルケイノ(業炎の覇者・e87017)
 

■リプレイ


 焼きたてのふっくらとした食パンを一斤、素手で半分にちぎると中から熱を含んだ香りが立つ。ふわふわとしているのに、口当たりはしっとりして噛むともちもちと弾力がある。砂糖で煮詰めた甘い桃のジャムが幸せをプラスする。
 天使様の食べ物と見紛うようなパンを頬張る客たちを横目に見ていたルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)は、香ばしくて甘い匂いに誘惑されてしまったのか、何だかそわそわして落ち着かない。向かい合って座す双子の兄シャルル・ロジェ(明の星・e86873)は対照的で、薔薇の宝石のように美しい瞳に警戒を秘めて街路を注視している。
(「ふわっふわの焼き立てパン、なのー!」)
 瞳の中で夢の国の色をきらめかせたティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)が、テーブルの下でくうと鳴ったお腹を抑えると、その音を拾ってしまったバルバロッサ・ヴォルケイノ(業炎の覇者・e87017)が口端を僅かに吊り上げ、小さく笑う。
 ガラス窓の向こう側では、店内の棚に飾り付けられた商品を眺める天月・巽(蒼い鳥・e18972)と、カフェ看板に注目している隠・キカ(輝る翳・e03014)が居る。桜の並木に身を潜めてある一点を見つめていた武蔵野・大和(大魔神・e50884)が、視線のみをこちらに寄越して小さく頷いたのを確認。
 窓の向こう側でビュンと風を切って通り過ぎた”なにか”。ひらりと滑るように椅子から降りたシャルルが縛霊手を展開する矢庭に、ルイーズと肩を並べたティフたちが、踵に力を籠める。
「一緒にがんばろうね」
 ティフを横目に見やり口元に笑みを浮かべたルイーズの言葉にティフが大きく頷く。その背後に立ったバルバロッサの袖からは、輝く色とりどりの花々を咲かせた神々しい攻性植物がちろりと顔を出していた。
「朝ヨーー! 起キナサーーイ!」
 まるで「その結婚待ったー!」とでも言うかのような豪快さで、両開きドアを勢い良く開けた摩訶不思議な姿をしたダモクレス・トースター。廃材を組み合わせて形成された足が一歩、敷居を跨ぐかと思われた、その瞬間。
 ティフの小さな体が神速のままにダモクレスを穿つ。
「キャー!」
 絹を裂くような悲鳴を上げて僅かばかりに宙に浮いた体に、神美絶花が絡みつく。
「そのまま押し込んでください! 僕が引き込みます!」
 脚力を生かして瞬く間に駆けつけた大和が、石火の蹴りで背後から取り押さえにかかると、締め上げられたダモクレスの中央――ちょうど腹のオーブン辺りを目掛けて蹴り込むルイーズ。
「ぎゅって押し出しちゃうんだから」
 華奢な躯体がひらり、身を翻すのと入れ違いに、真横から仕掛けた巽が煌めきを帯び放つ蹴りで街路へと引き倒す。その衝撃でもげた廃材を利用し、翠がポルターガイストでフルスイングすれば、吹っ飛んだ方向へと素早く回り込んだガイナがキャリバースピンでダモクレスを巻き込み、店から離すように突き飛ばした。
 慌てず騒がず、安全な場所へと退避するよう声を掛けながらも、シャルルは前衛たちに紙兵を散布するのを忘れない。キカが補うように黒鎖の魔法陣を描けば、守護されたバルバロッサは対峙したダモクレスに正視を寄越して喉を震わせるように笑う。
「これはこれは。なんとも趣きのあるトースターよな。だが其方の民草を害を為さんとするは見逃せぬ。観念するがよい」
「おいしい食パンを食べる為にも、ダモクレスにはご退場願いましょう!」
 その力強い声量にダモクレスの肩がビクンと揺れた。が、大和はそんなこと露とも気にせず、大地を力強く蹴りだして駆けた。一歩、二歩、進むたびに速さを増し、目と鼻の先より放たれたのは、魂喰らう降魔の一撃。
 蹴りの降魔真拳がヒットした瞬間「チーーン!」と辺りに耳に馴染みのある音が広がった。衝撃で体がくの字に曲がり、お辞儀するように頭部が大和に向けられる。それを視認する間に射出されたのはこんがり焼けたトーストだ。
 大和もパン屋に身を置くものとして飛来するトーストを見過ごすことは出来ない。と、いうよりもはや口で受け止めるしか他に手はないといったほどに一瞬のことだった。
「ダモクレスが飛ばした食パンって、食べられるのかな……?」
 どきどき、といった様子で大和の様子を見守っている巽は、もぐもぐと食パンが吸い込まれていくのを見て瞳をまぁるくさせた。食べられるんだ。
「イツマデ食ベテルノー!」
 ぶんぶん、と右腕を振り回して、辺りに散らばった廃材を蜘蛛のような手足でぷすぷす刺していく。
「こんがりサクっとしておいしいのは、食べ物だからだよね。その辺のものも焼いちゃうのは、めっ、なの」
 ティフがピリ辛に仕上げた一撃でダモクレスを攻撃すると、オーブンの扉がパカパカ開く。そのたびに熱い風が辺りに広がって、それはまるで母親の怒りの炎のよう。
「販売からずいぶん時間がたっていたそうだけど、きっと大事にされていたのかも。壊してしまうのは残念だな……でも、ダモクレスになってしまったら仕方ないよね」
 自身を含めた後衛に紙兵散布するシャルルがちらと妹の方を見ると、案の定ルイーズは嫌そうな表情を浮かべている。
「ふわふわパン、だーいすき。でも、このダモクレスは可愛くないの! なんだかガシャガシャしてるもん」
「遅刻シチャウ、デショー!」
「わぁっ、こっち来ないでよ!」
 ロッドを振り払い、ぽこぽこと魔法の矢を撃ち出す傍ら、前衛にサークリットチェインを描きだすキカ。
「白くて青のワンポイント、とってもかわいいあなた。きっと素敵なおうちで、たくさん働いたんだね。さくさくのおいしいパンを焼くのが、あなたの役目だよ。だれかを傷つけちゃいけないの」
 おもちゃみたいなポップアップトースターは可愛いけれど、あの蜘蛛のような機械脚が可愛さをぶち壊している。
「でも本当にいい匂い……!」
 パン屋の扉を開いた瞬間に、吹き抜けていくあの香り高い匂い。こんがりと焼けたトーストの食欲をかき立てる香り。ジャムやハチミツ、シロップやチョコレートなぞ無くてもそのままかぶりつきたくなる魅惑の塊とでもいうべきか。一々の動作に伴って香るトーストの匂いだけでもたまらない。
「大切に使われていたんだろう、けど……。ダモクレス化した以上、倒さないと、ね。でも、食パン……美味しそう……」
 思わずふらふらーっと近付いて行ってしまいたくなるのをグッと押さえ、巽は物質の時間を凍結する弾丸を精製。翠が金縛りで敵を封じ込めている隙に射出すると、ちょうど胸のオーブンに廃材を押し込めていた腕の一本を圧し折った。
「悪戯シチャ、ダメッ!」
 ダメーーっと頭上でバツ印を作るダモクレスに一瞥をくれたバルバロッサは、地獄化した炎の両翼を揺らめかせると、前衛に神美絶花の聖なる光を与え味方の援護を。その一方で、背後から真っ直ぐ敵に向かって猪突するガイナの突進でダモクレスの脚が一本もげた。ルイーズは、ビタンビタンと打ち揚げられた魚のように蠢くソレから、一歩離れた。
「随分と快活で賑やかな母であったことが窺える。それともその身振り手振りは脚色か?」
 後列に黄金の果実を付与するバルバロッサが小首を傾げると、ダモクレスもそれを真似するようにポップアップトースターを傾げて見せた。
 ふんすふんすと上下に体を揺らし始めたダモクレスは、オーブンの炎を強めて四方を固めるケルベロスたちをぐるり見渡している。幾本の蜘蛛脚は腰の辺りに置かれて、なんだか「困った子たちね」とでも言うかのよう。
 それから、じりじりと距離を取ってこそりと背後の脚が廃材を持ち上げたのを見、大和はすぐさま星型のオーラを蹴り込み、脚を根元から破壊。両脚が地獄化していることで、蹴撃の瞬間に燃えあがった地獄が舞い散る花びらを撫でていく。
 夏空色の瞳に幻想的な一瞬の光景を映していたキカはハッとすると、そよそよーっとダモクレスから香る匂いを振り払うようにかぶりを振って、自身を含めた後衛にサークリットチェインを展開。
「みんなで一緒においしい食パン食べたいもん。うっかり、焼きたてのいい匂いにつられちゃだめなの……!」
「うん……そうだね。食パン専門店の、白い食パン……とっても美味しそうだった……」
 ショーウィンドウ越しにあっても匂いが香ってくるようだった。巽と翠は揃って幸福そうな表情を浮かべると、緩みそうになる唇をきりりと引き締める。はちみつにメープルシロップにチョコバナナ、たくさんの果実のジャム。店内にあった甘い物を思い描きながら、翠がえーいとポルターガイストで廃材を叩き込むと、後頭部にクリーンヒットした衝撃で前に倒れ込んだダモクレス。そこへ巽の炎纏う激しい蹴りが直撃、顔から地面にダイブするように倒れ込んだ。蜘蛛脚がぴくぴく震えて、地面に衝突した反動で、射出されたトーストが、大和の向う脛を、ティフとルイーズとキカの膝小僧を打った。
「弁慶の泣き所がっ」
「あつあつほかほかのトーストですー」
「た、食べ物を武器にするなんてダメなのよ!」
「いたた……まるで岩のよう……」
 少女たちの白い肌がすぐさま真っ赤になる。ガイナに直撃したトーストはタイヤに命中したせいで、そのままものすごい回転に巻き込まれてしまい衝撃に耐えきれずパン粉になってアスファルトに散った。ぱらり、ひらひら。良い香りと共に去りぬ。
「Etoile du matin」
 紡がれた言葉と共に現れたのは強い光を放つ星。夜明け前から薄明にかけた始まりの時、東の空に明るく輝く明けの明星。
(「高らかに響け、癒しの詩よ。秘密の花園が荒らされる前に」)
 そっと睫毛を持ち上げたシャルルの視線、その先で今しがた傷を負った前衛たちの躯体が眩い光に包まれる。
「焼きたてのトーストに傷つけられるというのも、不思議な話だね?」
 さほど堪えておらぬガイナが、仕返しとばかりにダモクレスへガトリング掃射するのを見て、目を真ん丸とさせて、それから花が芽吹くようにシャルルが笑う。「むぅ」と唇を尖らせていたルイーズは、ちょっと目を離した隙にトコトコお店の方へ歩いて行こうとするダモクレスの後頭部にナイフを走らせた。
「お邪魔な事したらダメなのよ! お店が壊されちゃったらパンだって悲しい想いしちゃうでしょ」
「朝ゴハン、早ク食ベテクレナクテ、オ母サン悲シイ……」
 苦労したんだなぁ……。ケルベロスの心に、ちょっぴり哀愁の念が湧いた。
「うぅーん、今はもう立派な大人になっていることを願ってるのー!」
 えいやー、とティフが怒號雷撃でダモクレスに突撃すると、オーブンの蓋がぽっきり折れて地に落ちた。中に詰め込まれていたあちあちの廃材を蜘蛛脚にいっぱい装備すると、あろうことかダモクレスは二刀流ならぬ、十刀流で叩きつけてこようとするではないか。空振りしても、熱風が肌を焼く。しかしすかさずシャルルが遠距離まで届く凄まじい拳圧で負傷を殴り飛ばしてくれるので、安心して戦えた。
「我が焔に焼かれる事、光栄に思うが良い!」
 バルバロッサが、地獄化した翼から生み出した炎を小さな太陽のような眩く大きな火の球に変えると、ダモクレスに向けて叩き込む。
「アチャチャ!」
 炎から飛び出してきたところを、ティフとルイーズの二人が零式寂寞拳とスターゲイザーの拳と蹴りの二連撃で苛烈に押し込めば、その先で待ち受けていたキカのスパイラルアームがダモクレスを真っ二つにねじ切った。
「手口が鮮やかで神出鬼没なパンってなーんだ?」
 突然、大和から出題されたクイズにダモクレスがぽかんとする。にっこりと笑った笑みを前にして、いち、にい、さん。過ぎった沈黙を無回答と取り、大和の背後に謎の影が現れる。それはスッと身を翻したかと思えば、ダモクレスの死角に回り込み次々とパーツを盗み取っていく怪盗ルパン。
 あっという間に小さなポップアップトースターに蜘蛛脚が生えた姿になってしまったダモクレス。
「翠兄さん……い、いくよ……!」
 巽が振り返ると、口元に優し気な笑みを浮かべた翠が小さく頷いた。それは、双子の兄である翠と力を合わせた攻撃。完璧に息の合った連撃で、敵に逃げる隙を与えることすらなくその身を切り刻む双連撃。
 ついには小ぢんまりとしたトースターのみになってしまったダモクレスは、チンッと軽快な音と共にトースターを二枚ポップさせて、沈黙した。


「もっちりしっとりさんだ…おいしい…」
 玩具のロボ・キキを膝の上に乗せたキカがバターとはちみつサンドと、ハムタマゴレタスサンドを味わいながら桜を眺めている。ミルク100%の食パンとあんこ入りもお土産にと購入して、気分は食パンのようにふあふあだ。
「きっと幸せの味がするね」
 キキを抱きしめて、笑みを零す。
 隣のテラス席では巽と翠が桜餡と抹茶の春らしいトッピングで食パンを楽しんでいた。ひらひら落ちて来る桜の花びらが時折テーブルにやって来ては、笑みを浮かべた翠の頬をくすぐっていく。巽はその姿にくすりと笑みを漏らし、あえて指摘せずそのままにしてパンを頬張った。

「生乳100%ですよね? ……拘りが凄いですね」
 カウンター席では店員に質問をしている大和の姿があった。美味しくて、言葉も出ないとはこのことか、と零れ落ちた言葉は真剣そのもの。同じパン屋として何か感じるものがあるのだろう。
 その隣では普通のお店みたいにハニトーって言いたいなぁ、だめかなぁと悶々としていたティフが悩みに悩んで「お勧めのトッピング、お願いしますなの…!」とシュバッと手を挙げているところだった。普段食べられない食パン専門店のお高いトーストに胸がどきどきわくわく。
 すると出てきたのは、分厚く切られた白い食パンにバニラアイスとはちみつがたっぷりかけられたハニトーだった。どうやらティフの呟きが聞こえていたらしい。
「はわわわふわふわなの」
 両手で頬っぺたを押さえて、夢見心地で笑む。
 そんなティフの隣に座っていたルイーズは、ふわふわミルクパンにバターといちごジャムを乗せてパクっと一口。
「んんん……これこれ。甘くて美味しいの」
 ようやく待ちに待ったごほうびタイム。お預けを喰らっていた分、美味しさも倍増だ。シャルルは厚めに切った食パンにレタスと玉子を乗せてもらったらしい。
「ん、美味しい」
「あ、シャルのも美味しそう」
 ヒールを施した店の外装や並木道を一瞥して、満足気に頷いたバルバロッサは紅茶を一口。店員からのおすすめを参考に、切りこみの入った食パンにバターを溶かしたシンプルな一品を口にして、ひとつ頷く。
「戦いの後の芳しいパンは格別だな」
 それにしても。
「トースターの持ち主も、落ち着いて食事を取れていることを願うばかりだな」
 口端を吊り上げて愉快そうに笑ったバルバロッサに、シャルルたちから笑みが落ちた。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月7日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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