アイ・エヌ・ユー

作者:つじ

●声鳴き遠吠え
 空から落ちてきたのは、握りこぶし程の大きさの宝石。不法投棄されたゴミの中に落着したそれは、蜘蛛のような足を生やして、すぐさま辺りを探り始めた。
 転がる家電のゴミをいくつか見繕い、その宝石――小型のダモクレスは、やがて半壊した犬の形の機械に狙いを定める。愛玩動物を模したそれを軸として、周囲の廃材を取り込み、ダモクレスは四足歩行の獣の如き身体を得た。
 風の匂いを嗅ぐように鼻面を天へと向け、機械仕掛けの獣は月を睨む。

「――……!」

 音も無く、口を開いたそれは、人の気配を手繰るように、街へと向けて駆け出した。
 
●Dogではない
「皆さんご存知ですか、INUっていうんですけど」
 白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)からの唐突な質問に、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)が小首を傾げる。
「ええ、犬でしたら……」
「んー、惜しい。ちょっと違いますねシアさん。『INU』です」
 りぴーとあふたーみー、いぬぅ。カヌーみたいな感じで発音してください、と謎の注釈を加えながら、彼はディスプレイに映したそれを指し示した。
「簡単に言うならペットを模したロボットです。玩具と言うにはちょっと高価なものですが……」
 表示されているのは、その類の中でも随分と旧式の型。今では生産どころかサポートも打ち切られ、稼働させているのは一部熱狂的なファンくらいだろうという、そんな代物だ。
「今回はシアさんのご協力もあり、捨てられていたINUがダモクレス化してしまうことが予知できました!」
 かなり前に不法投棄されたらしきそれは、ダモクレスと化し、グラビティ・チェインを求めて街中へと向かうことがわかっている。虐殺が起きてしまうその前に駆け付け、それを阻止して欲しい。ヘリオライダーはケルベロス達にそう告げた。
「素体となった形のままですが、敵は機械で出来た犬のような姿をしています!」
 よくある四足歩行の動物型、しかしその体高は2mを超える程と、中々の大きさを誇る。そのサイズと重量、そして脚力を活かした体当たりがメインの攻撃手段となるだろう。他にも、遊び相手を探す犬のように、こちらの感情を煽るような行動を取る事があるのだとか。
「お腹を見せてきたり、撫でて欲しそうな顔をしてきたら要注意ですよ! 惑わされないでくださいね!!」
 やけに深刻そうなヘリオライダーの言葉に、シアともう一人、ブラックウィザードが顔を見合わせた。
「そんな、ダモクレスに気を惹かれることなんてあるでしょうか?」
「いや、倒すべき敵だろう? それに心を乱されることなど、あり得ないよ」
「そこ! 盛大にフラグを立てないでください!!!」
 敵のかわいさを甘く見ないようにと言い足して、慧斗は改めてケルベロス達を見回した。
「とにかく、ここで止めなければ人々に危険が及びます! 確実に仕留め、かつ皆さん無事に帰ってきてください!!!」
 お気を付けて! そう呼び掛けられた言葉を最後に、ヘリオンへの扉が開く。


参加者
八千草・保(天心望花・e01190)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
ベーゼ・ベルレ(ミチカケ・e05609)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
 

■リプレイ

●かわいい
 月明かりの下を突き進む、くすんだ銀色の体躯。金属、そして機械から成るそのダモクレスは、真に獣のように、夜の平原を駆けていた。爪が地面を掻く音の代わりに、硬質で重い地響きが鳴る。一際大きなそれが夜風を揺らして、ダモクレスは丘の上で停止した。見上げた先、綺麗な月をヘリオンが覆い隠して、そこからケルベロス達が降ってきた。
「これが、イヌゥ……」
 銀の獣と対峙し、ベーゼ・ベルレ(ミチカケ・e05609)がごくりと喉を鳴らす。自らを凌ぐ体高、金属の身体、考えるまでもなく、それらは戦った際の脅威に直結するのだ、油断はできない。が。
「いぬぅ!」
 隠・キカ(輝る翳・e03014)の声が、その緊張感をひっくり返した。驚いてベーゼが体を震わせるのと同時に、名を呼ばれたと認識したらしいダモクレスが、身体を伏せて大きく尾を振る。
「えっ……」
 その姿に、別の意味で衝撃を受けるベーゼの横で、キカはにこにこと笑う。かわいいね、大きいねえ。そんな言葉に、八千草・保(天心望花・e01190)も頷いて。
「確かに、大きゅうなりましたなぁ……」
 まあ、初対面だけれど。それっぽい相槌を打つのが得意な彼に続いて、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)が敵の姿を確かめる。
「わんこさんは、モフモフさが重要な可愛さの一要素ですが……」
 いえ勿論、毛のないわんこさんもそれはそれで可愛らしいのですが、しかし。
「機械のわんこさんというのは、さすがに……」
「ええ、結局は機械仕掛け、ですからね」
 羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)も、落ち着いた声音でそれを肯定する。
「そのようなものに絆される私ではありません」
 そう、やわらかさからも、温もりからも縁遠いそれが、何やら尻尾を振りながら小首を傾げてみせようと――。

「――か、かわいい……」

 果たして、それは誰の呟きだったか。とにかく、気を取り直して、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は咳払いを一つ。
「ダモクレスに寄生されても、機能……いや、習性は変わらないようだね」
 恐らくは、元からそういう仕草を取るように出来ているはず。そう分析する彼の言葉に、神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)は元の姿――犬型のロボットを思い浮かべる。
「うちは電気系の術式使う人が多いからなぁ。すぐに壊れちゃうのよねぇ……」
 まあ、うちの姪っ子はこういうので遊ぶタイプじゃなかったけど、とここには居ない家族へと思いを馳せて。小さい頃から大人びていて、子どもの玩具とか嫌いだったなぁ。それに今はテレ蔵くんも居るし……。そんな風に傍らのテレビウムに目を向けた彼女を置いて、瑠璃は飛び掛かろうとしている敵の様子に、警戒態勢を取った。
「僕達ケルベロスなら何とか相手できそうだけど、一般人だと懐かれた勢いで永眠しかねないね」
 程度にもよるが、じゃれつかれたらほぼ耐えられないだろう。やはりここで止めなくては。
「あなたがだれかを傷つけないように、きぃ達がたくさん遊んであげるね」
「と、とにかく、街へは行かせない、ぞ……!」
 キカとベーゼが身構えるのに合わせて、ダモクレスはもう我慢できないと言った様子で、勢いよく飛び出してきた。盛大な遊び――もとい、戦闘のはじまりである。

●激戦?
「ほら、こっちですえー」
 ゆるい掛け声と共に保がボールを放れば、ダモクレスは急速に方向を変える。光源も兼ねた光るボールに飛びついたダモクレスは、そのまま取ってきたボールを持ち主に返すべく、保へと突進を開始した。地を揺らすような踏み込みに、相対したのは庇いに入ったミミックだった。
「み、ミクリさーーーん!?」
 ベーゼの悲鳴が響く中、口にボールを押し込まれたミクリが衝撃に負けて後ろに転がる。
「はは……なるほど、やんちゃな子やね」
「やっぱり、それなりに威力が高いね……」
 攻撃力の高さを察した保は鎖で結界を張り、瑠璃もまた月の光をその身に宿し、敵の攻撃に備えた。『遊び』始めた勢いが収まらない様子の敵へは、紺が轟竜砲を撃ち込んで――。
「遊びたくてしょうがないみたいっすねえ……」
 ミクリを助け起こしたベーゼが、溜息交じりに呟く。このまま翻弄されていては埒が明かない、「ならば」と表情を引き締め、彼は敵の気を引くように手を振った。
「イヌゥ~! おれと遊ぼうっす!」
 相手の様子は腕白な子犬のようなもの、ならば負けるわけには行かないだろう。両腕を広げ、腰を落として受け止める体勢を作り……。
「よーしこい!」
 うきうきな様子で飛びついてきたダモクレスの体当たりに、ぐえ、と悲鳴が上がった。
「うおおお、よーしよしよし」
 衝撃を受け止めきれず、半ば吹っ飛ばされるようになりながらも、べーぜはINUの身体をわしゃわしゃと撫でる。これもある種の勝利と言って良いだろうか、喜んでいる様子の相手をさらに夢中にさせるように、ミクリが宝箱の中から犬用玩具をばら撒き始めた。鈴の音と共に転がるボールや小動物を模したぬいぐるみ、嬉しそうに撫でられていたダモクレスも、さらにテンションが上がったようで、撒き散らされた玩具の合間を駆け回り始めた。
「あああ危ない、危ないっす!!」
 轢かれそうになったベーゼが慌てて言う、そんな迂闊に触れられない爆走を始めた敵を押し留めるべく、シアが空中から仕掛ける。
「微笑ましくはありますが……少しだけ、大人しくしてくださいね」
 スターゲイザー、降下の勢いも乗せた蹴撃が、ダモクレスの身体を地へと抑えつけ――切れなかった。
「あ、あら……?」
 シアを乗せたまま、ダモクレスは止まることなくきゃっきゃと走り回っている。
「ああっ、シア君が攫われる!?」
「いいなあ、きぃもアレやりたい!」
 キララとキカがそれぞれに声を上げながらもフォローに回り、テレ蔵くんの応援を受けながら純恋が敵の攻撃を堰き止める。そうして皆が足止めを仕掛けていくうちに、今度は保がINUの動きを止めにかかった。翻訳するまでもなく、遊んでほしいオーラを前面に出している相手の正面に立って。
「よぉし、かかっておいで……!」
 おぐ、とこちらも悲鳴が上がった。逆に地面に押し倒された保は、そのままぐりぐりと鼻面を押し付けられる。
「い、痛いなぁ、あはは……」
 つぶらな瞳が可愛い。だが機械の身体と重量でこれをやられるとまあまあ辛い。ごりごりと骨が鳴るのを感じるが、保は大してそれを気にすることなく手を伸ばした。
「でもこれはこれで、ええ手触り……」
 わしゃわしゃと撫でる手つきでつるつるの体表面を味わって、保はどこか満足気な笑みを浮かべる。
「これ犬種は『いぬぅ』で良いんかな……お散歩いく?」
 身体を抑えつける重みに耐えながらの一言に、ダモクレスは大喜びでそこらを駆け回り始めた。本人的には『お散歩』らしく、保を咥えたまま。
「あの、降ろしてくれへん? ……まぁでも、これはこれで……?」
 平たく言うなら一回休みになったがとにかく、その間にも戦いに似たやり取りは続く。そうなれば、遊びの対象も当然次へと回るわけだが。
 早く遊べと言わんばかりのINUに、挑みかかるような位置でシアは言う。
「おすわり!」
 その一言で、びたっと動きを止めたダモクレスは、彼女の前で腰を下ろした。
「あらあら、まあ。言うこと聞けてえらいですわ~」
 恐らく一時的に過ぎないが、大人しくなったその様子にシアは笑みを浮かべ、思う様わしゃわしゃとし始める。先程もその背に乗る事になったが、今度は振り落とされる心配だって要らない。
「良いなぁ……」
 その様子を羨ましそうに眺めていたキララの背を、ベーゼが押す。
「キララも行きたいなら行ってくると良いっすよ」
「え、良いのかい?」
 勧められるままに近寄って、シアと一緒に毛並み……ではなく硬質なそのボディを堪能し始めた。少しの間、そうしていたところで――。
「そうそう、お手は出来ますか? 『お手』!」
 にこにこ笑顔でそう口にしたシアの頭に、鈍い音と共にINUの前足が置かれた。
「ち、ちょっと惜しい、ですわね……? でも、よくできましたわ~」
 芸自体は仕込まれていたようだが、固い、重い、そしてそこじゃない。前足だけでも結構な重量を誇るそれに、シアの首やら腰やらがぎりぎりと軋む。
「折れる折れる、折れてしまうよシア君」
 それでもなおデレデレしている彼女の様子に慌てながら、キララその場で浮かんだそれを口にした。
 右足を降ろさせるなら、別の命令をすればいいのでは?
「えーと、じゃあ、おかわり」
 左前足を脳天に食らい、キララが倒れた。

●願い
 月下の闘いは続く。ケルベロス側は、毎ターン誰かしらが犠牲になることで敵の強化を防ぎながら、着実に手を進めていた。
「でも、元気過ぎるねこれ」
 このターンの遊びを担当していた瑠璃が、相手の突進を受け止めながら言う。飛びつかれるのに構う余り、攻撃のタイミングを逸してしまったが、そこはそれ。懐かれるのは悪い気はしないし、遊んでやるのも童心に帰った心地なのだけど。
「一人ではちょっと、手に負えないかも」
 先程から手にした武術棍を狙われているように感じる。先程撒かれた玩具の中に、棒状のものがあったのが不味かったのだろうか。じりじりと間合いを測る瑠璃に、癒しの紫花で援護しながら純恋が言う。
「その辺は、適材適所でいきましょー」
 純恋の見立て通りであれば、こうして役割分担がしっかりしていれば、陣形が瓦解することもないだろう。
「わんこさん、そんなに遊びに飢えていたのでしょうか……」
 敵に絆される様子も微笑ましく眺めていたシアが、そう首を傾げる。INUの動きを見る限り、それは痛いほど伝わってくるのだが。
「ダモクレスに寄生されなければ、いつまでも遊んでられたのに」
「でも、捨てられたまんまじゃ、きっとさみしいよ」
 瑠璃の呟きにキカが応じる。勿論、ダモクレスになどならないのが一番良いだろう。しかし、誰にも知られぬままゴミ捨て場で朽ちていくのが正解かと言われれば、キカにもそれは断言できない。
「飼い主さん、居はったんかなぁ」
 やっぱり、寂しかったんですやろか。そんな風に、保はダモクレスの在りし日に思いを馳せる。誰かの手に渡ったのか、それがどうして捨てられるに至ったのかは予測することしか出来ない。けれど、きっと誰かと共に在ったはずだ。そうでなければ、こんなにも――。
「なら俺達がめいっぱい、相手してやるっすよ!」
「そうやねぇ。気ぃ済むまで、みんなで仰山遊んであげましょなぁ」
 ベーゼの言葉に保が頷く。そうすれば、きっと。もう、ひとりぼっちじゃないはずだから。
「では……仕方ありませんよね」
 仲間達のそんな思いを耳にして、紺が敵の前に出る。ペットを飼った事はないけれど、機械の犬であればそう気兼ねする必要もないだろう。そうしておずおずと伸ばした手に従うように、INUは頭を垂れてみせた。
「……!」
 意外と感触が良い。口元が緩みそうになるのを押さえながら、紺はその頭を撫でてやる。別にこの時を楽しみにしていたりはしないし、瞳を輝かせたりもしていない。ただ仲間達の思いを無下にしたくない、そう、それだけ――。
 内心そんなことを唱えながら、結局わしゃわしゃとINUを撫でる事に興じる。が、大人しくしているように見えたダモクレスの視線が、一点に注がれているのに彼女は気付いた。
「いや、これはボールじゃなくてですね……」
 その対象、ネクロオーブをそっと身体の後ろに回す。しかしその動きをみたINUは、余計に興味を惹かれたように、紺の後ろに回ろうとし始めた。
 投げて欲しいのだろう、その意図は伝わるけれど、どこかのブラックウィザードより冷静な彼女は、そんなことをしたら攻撃手段を一つ失うことも解っている。思い切りの良さと理性の間で葛藤する彼女へ、傍らからもう一つのネクロオーブが差し出された。
「紺君、これを使ってくれたまえ!」
「え……!?」
「頼んだよ!!」
 キララのである。まあ、実力差を考えれば、これも純恋の言っていた適材適所なのかも知れない。
「そ、それじゃ行きますよー……」
 取っておいで、と声をかけて、紺は受け取ったネクロオーブを高く放る。星灯を映すそれを追って、ダモクレスは勢いよく駆け出した。
 あ、これ結構楽しいかも。

 駆け抜けるINUの攻撃から前衛をカバーするように、キカの「ブラッドスター」の音色が響く。保の放つ花の嵐が敵を包み、その勢いが緩んだところで、キカはその前へと進み出た。
「それじゃあ、今度はきぃと遊ぼう!」
 戦いの中で生じた傷もあり、INUの動きは少しばかり、ぎこちない。機械にも様々な形で『痛み』はある、それを知る彼女だからこそ、一時的にでも忘れられるように、微笑んで。
「この子はキキ。きっとあなたと仲良くなれるよ」
 手にした人形と挨拶を交わすINUに、柔らかな声を投げた。
「何して遊ぼっか。あなたのすきなことはなに?」
 寄せられた頬を撫でて、お腹を見せたならそこをくすぐってやる。遊んでほしい、誰かと関わりたい、そんな思いを感じながら、キカは目を細めた。
 ――あなたは誰の元に居たのかな。どれだけ愛されたのかな。答えの出ない問いを呟く。メモリーは残っていなくても、思い出はきっと残っている。寄せ集めの機械で出来た体の中心、継ぎ目と傷の合間に覗いたそれを、硬質な指先でそっと触れて。
「……おいかけっこにしよう! でも、あまり遠くにいってはだめだよ」
 身体を起こし、元気よく駆け出したINUを追う。躍動するその身体、そして願いのような、何かの残滓に、応えたいと彼女は思う。
 捕まえたら役割を交代。今度はキカが逃げる番。
「大丈夫、きぃ、けっこう頑丈なの」
 だから、いっぱい遊んで、と彼女は笑う。思うまま、願うままに。満足する事なんてないのかも知れないけれど、少しでもそれに近付けるように。

 この時間は、必ず終わってしまうのだから。

●月夜に駆ける夢
 まるで衰えを知らぬように遊びまわっていたINUが、そこでがくりと足を止める。ダモクレス自身はわかっていなかったのかもしれないが、ついに限界が来たのだと、ケルベロス達は拳を固める。そして、弱々しく首を傾げるその個体へ。
「そろそろ、おねむみたいやね」
 保が眩い光の花を開かせ、降る輝きで相手を包む。そこに駆けこんだ瑠璃が、素早くその拳を振るった。
「こんなことを言うべきかはわからないけど――ありがとう」
 楽しかった。それが手向けであるかのように、厚い装甲を貫いて。
「これで、お別れです」
「バイバイっす、イヌゥ!」
 攻撃手を務める紺とベーゼ、夜色の弾丸と、漆黒の巨腕が、ダモクレスに最後の一撃を見舞った。
「――……」
 最後まで、声は無く。ただ眠るように、ダモクレスはその機能を停止した。

 後片付けと合わせて、持っていかれたネクロオーブを探していたのだろう、キララと紺が途方に暮れたような言葉を交わす。
「まさか埋められているとはね」
「よほど……気に入られたようですね」
 何にせよ、無事に発見は出来たようだ。
「イヌゥ……可愛かったすね……」
「はい……」
「そうやねぇ……」
 ベーゼの思わず漏らした言葉に、シアと保がしみじみ答える。もっとも相棒のミミックの方は、何か言いたげにしているようだが。
「え!? やだなぁ、ミクリさんも、ぐらも可愛いっすよ!」
 フォローに追われるベーゼの傍ら、シアの方は別の思案に暮れていた。
「ううん、ウチにも1体お招きしようかしら……」
「あれはあれで、静電気対策とか大変だよ?」
 訳知り顔の純恋の言葉にもう一つ唸って、シアはキララの方へと目を向けた。
「わんこカフェさんに行ったら、決心がつくかも知れません……!」
「えっ……それは、名案かも知れないね……?」
 困惑したような、それでも前向きなお返事。でもそれ、単に行ってみたいだけやない? 内心そんなことを思いつつ、平和を絵に描いたような微笑み浮かべて、保は夜空へと目を向けた。
 星々の合間から、鮮やかな色のヘリオンが、ケルベロス達を迎えに姿を現す。

 静かな月夜。丘の上。倒れ伏した機械の身体に、キカがもう一度触れる。
「満足してたかな?」
「……どうだろうね」
 小さな呟きを瑠璃が拾って、けれど夜風がそれを、二つとも攫って行った。
「おやすみなさい」
 月を見上げて彼女は言う。眠った後も、楽しい夢を見ていられますよう。
「あなたのこと、忘れないよ」

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月4日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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