《甦生氷城》突入戦~勝利への道標

作者:沙羅衝

 荒れ狂ういくつもの大竜巻が捲き起こる海上に、一つのいびつな建物が存在していた。《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング。死神が作り出した拠点である。
 よく見ると無数のザルバルクがその竜巻を形成していた。時刻は昼であるが、そのザルバルク達により、あたりは薄暗い。
 海はしけ、明らかに異常といわれる状態であった。

「みんな、死神が仕組んだデスバレス大洪水は、完全に阻止できたで! ありがとうな」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、集まったケルベロス達にそう告げる。ここはケルベロスブレイドの中にある、絹のヘリオン内部だった。そして続けて絹は、その結果の報告をする。
「でや、兵庫県の鎧駅沖に出てきた死神の拠点《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングに、どうやら異変が発生したみたいや」
 異変と聞いたケルベロスは、その先を絹に促した。
「《甦生氷城》から半径数キロメートルに、巨大な竜巻が複数現れて、めっちゃ荒れてるらしいわ。
 で、この竜巻やねんけど、どうやらザルバルクが作ってる。海水やなくてな。そこに死神の軍勢が巻き込まれて、制御を失ってるみたいやわ。
 いまは制御を失ってるねんけど、めちゃくちゃな数のザルバルクと死神の軍勢が地球に出てきてるってのは間違いなく、ってことになるな」
 とすれば、放置は出来そうにもない。絹はケルベロス達が、ある程度状況を理解したと確認し、話を続ける。
「この竜巻やねんけど、近づくだけでもめっちゃ危険な奴やねん。でも、うちらにはケルベロスブレイドがある。
 ケルベロスブレイドには『ザルバルク剣化波動』っちゅうのがあるねんな。これはザルバルクを無力化することができるっちゅう優れもんやねん。
 『ザルバルク剣化波動』の範囲は半径8キロメートル。ちゅうことは、半径数キロのザルバルクの大竜巻は完全に無効化できる。
 ちゅうことで、今回の作戦は攻めや。ケルベロスブレイドで《甦生氷城》に近づいて、ザルバルクを剣化する。ほんで、その隙をついて、《甦生氷城》に突入して、制圧するで!」
 この異変をチャンスに変える。そのことを理解したケルベロス達から、気合いの声が聞こえてきた。
「じゃあみんなの作戦の説明や。まず、いまの《甦生氷城》は、『デスバレスの大洪水』を起こすはずだったザルバルクが行き場を失って暴走してる状態となる。これを利用するわけやな。ケルベロスブレイドがデスバレスに突入する突入口とする事が可能ちゅうことになる。
 でも、死神の中でもその危険性に気付いた死神がおる。クー・フロストっちゅう死神やねんけど、《甦生氷城》の回廊を閉鎖して、使用不能にする儀式を開始した。せやからみんなには、この儀式が完成する前に《甦生氷城》に突入。クー・フロストを撃破する。これが、メインの作戦になる」
 なるほどと頷くケルベロス達に、絹も頷き返した。
「《甦生氷城》に突入するのは、全部でうちら含めて6チームになる。その突入した先には、何人かの強敵がおる。
 クー・フロストは儀式を完遂するまで、時間を稼ごうとその強敵を差し向けてくるから、各チームが担当の敵を足止めする。そんで、うちらの中の1チームが、クー・フロストを倒せば勝ちっちゅうことやな。
 みんなには、その中の『【魔将】ノイシュ・ラ・ヴァンシュタイン』ちゅう死神を相手にしてもらうことになる。この死神は、この《甦生氷城》を作ったっちゅう情報があるけど、詳細は不明や。
 攻撃方法の特徴は、その杖を使って、行動を邪魔する魔法を打ち出してくるで。デスナイトが彼女を守ってるから、そのあたりの対処をせなあかんことになる。対処法、よろしくな」
 絹の説明を聞いたケルベロス達は、状況を反芻し、頭に落とし込む。
「この作戦は、デスバレスに突入するための足掛かりになるから、しっかり頼むで!」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
風魔・遊鬼(鐵風鎖・e08021)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
青沢・屏(守夜人・e64449)

■リプレイ

●自らの使命
 ケルベロス達は6チームで《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングに突入していた。ケルベロスブレイドからの『ザルバルク剣化波動』によって、ザルバルクを剣化したことが、この突入を可能にしていた。
「甦生氷城……死神らしく冷たい印象を受ける場所だね。
 こうしている間にも、戦艦を守ってくれている人達がいるのだし、必ず成し遂げないとね」
 影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は、走りながら内部の様子をそう形容する。たしかにここは死神の拠点である。冷たいという雰囲気は的を射ていた。
 すると、前方を行く一つのチームが立ち止まった。敵の一人である『ティリア・ユグドラ』とデスナイトが立ち塞がっていた。そして、その一つのチームが前に出る。予めの作戦である。一つのチームが敵を受け持っていき、最終的に『クー・フロスト』を討つことが我々の目的である。
「よろしくお願いします」
 青沢・屏(守夜人・e64449)はそう一礼をして、先に続く道へと足を進める。もちろん他のメンバーとチームも同時に動いた。
 後方でグラビティの炸裂音が響くが、我々に届くことはない。どうやら、うまくやってくれた様だった。その爆音、剣戟が遠くに離れ、聞こえなくなったころ、また更に一人と5体のデスナイトがすっと出現する。
「『撃破目標』魔将を確認。オープン・コンバット」
 ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)が前に出て、そうはっきりと宣言する。そう、この敵こそが我々が受け持った敵『【魔将】ノイシュ・ラ・ヴァンシュタイン』だった。
「星域結界演算開始」
 ミオリは続けて、星座の光で自らを含む前衛に、張り巡らせる。
「ここまでだよ。ここから先は、行かせない」
 さっと右腕を上げ、デスナイトに指示を出そうとするノイシュ。だが、その腕が上がりきる前に、ジェットパック・デバイスで飛翔した円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が、螺旋手裏剣をデスナイトに投げつけた。首に巻き付けた長いストールがバタバタと動く為、彼女の動きはとても目立つ。
『解放…ポテさん、お願いします!』
 デスナイトの一人がキアリの手裏剣を避けた時、月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)がノイシュに対してコキンメフクロウを飛ばすと、危険を察知したのか、ノイシュはそれを紙一重で避けた。
 その動きを見た風魔・遊鬼(鐵風鎖・e08021)が、紙幣を捲きながら『今だ』という無言の合図を、他のチームに向ける。
「行かせない!」
 ノイシュが他のチームへと杖を向け、魔法の風の刃を撃ち放った。
「他への攻撃を予測。させません」
 しかしその攻撃を、ミオリが体を投げ出して受け止める。傷が幾重にも体を傷つけるが、それも意に返さない。これも作戦の為だ。
 リナがミオリの傷を素早く癒し、合わせてエネルギーの盾を形成する。
「そういや、初めての依頼でもこうやって銃声で敵を引きつけたっけな。懐かしいぞ」
 ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)もまた、他チームを確認しながら、リボルバー銃で弾丸を打ち込む。
 そう。今の我々の使命は他のチームを無事に次の敵へと移動させること。もとよりあまり、攻撃を効かせるつもりはない。相手の矛先がこちらに向けばよいのだ。
 果たして、派手な立ち回りと援護で敵部隊はこちらへと向き始めた。そして、リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)が、重力の蹴りをデスナイトの1体に打ち込むと、屏が改造弾『タイムアルター』を抜き放った。
『地球のTIME(グラビティ)か貴様を裏切った!』
 それは時間に作用する弾丸。それを撃ち込んだ頃、他のチームの姿は完全に見えなくなっていたのだった。

●互いの目的
「喰らいなさい!」
 ノイシュが杖を振りかざし、氷の攻撃を前衛に対して放つ。
 すると、ミオリとオルトロスの『アロン』、それに朔耶のオルトロス『リキ』、リューインのビハインド『アミクス』が前に躍り出て受ける。すると、全員の体に鋭い氷が張り付いた。
 ケルベロス達は、ノイシュとデスナイトの戦いに集中を開始した。リナが最後尾からその様子を伺って頷く。
「勝利の為の道を切り開くよ」
 集中して攻撃を受けていたのはミオリだったが、回復とともに施す補助の盾は、ミオリ本人が作り出した星座の盾に加えて、遊鬼も幾重にも張り巡らせていたため、絹の情報にあった『行動を邪魔する魔法』の効果は徐々に消失していっていた。仕上げとばかりに前衛に花びらのオーラで、リナがノイシュの氷を消していく。
 反撃に転じるケルベロス。ゼフトがオウガメタルの拳で、ノイシュを殴りつけると、受け止めたノイシュが吹き飛んだ。その隙に、朔耶が目の前に居る3体のデスナイトに向けて、ゲシュタルトグレイブを振り回して薙ぐと、キアリが空中から両手に持った螺旋手裏剣を高速で投擲し、竜巻を起こした。すると、その攻撃を受けたデスナイトがボロボロになって崩れ落ちた。
 ノイシュは忌々しい表情を隠そうとしない。元々感情を隠すことをしない死神なのかもしれない。
 敵の目的もわかっている。そして、こちらの目的もまた、同じだった。
「まだだよ。まだ、前にとどまるよ!」
 攻撃を受けるデスナイトに対し、命令を出すノイシュ。
 お互いにこの場に敵を留めておくこと。これが同じであるのだ。そうすることで他の場所の増援を防ぐことになるからだ。
 しかし、ケルベロス達は冷静に、作戦を遂行していく。
 屏がダメージを受けていたデスナイトに遠隔で爆破を行うと、その1体にリューインが簒奪者の鎌を狙いすませて投げつける。その狙いは的確にデスナイトの武器を持つ腕を切り刻み、砕いていった。
 少しずつ、デスナイト達が崩れ落ちていく。
 お互いの目的は同じでも、ケルベロス達の攻撃の作戦がそれを上回る。たったそれだけの差が、じわじわと状況を変えていくのだった。

●意地
『目に見えぬ刃をかわせる者はなし』
 遊鬼の左右の腕がかすかに動いたかと思うと、ノイシュの後方で控える2体のデスナイトが風に乗った手裏剣で切り刻まれた。
「目標捕捉、発火させます」
 ドウッ!
 傷ついたデスナイトの1体がミオリの言葉と共に燃え上がり、燃え尽きた。
 これで残りは、ノイシュと後方で傷を負っているデスナイト1体となっていた。そしてその残りのデスナイトがアロンの炎の念力によって塵となる。
「くっ……」
 完全な陣形を組んだ後からは、もうケルベロスの一方的な展開となっていっていた。
「【魔将】ノイシュ……。死神の中ではなかなかの手練れみたいだけど――ラストミッション破壊作戦で戦った大罪竜王シン・バビロンと比べれば、あなたの攻撃はぬるいのよ! その程度では、わたしたちは倒せないわ!!」
 キアリがそう言って空中からび込む。何度か空中での姿勢を立て直しつつ、それでもまっすぐに飛ぶ。そしてついには、フェアリーブーツに星形のオーラを籠めて、地を這うように滑空して蹴り上げた。
「堪忍なぁ……これ以上、アンタらの勝手は気に入らんのでな」
 朔耶がゲシュタルトグレイブで突く。それを、ギリギリで避けるノイシュ。しかし、くるりと着地したと同時にリキが加えた刀で切りつけた。
 防戦一方になっていくノイシュ。その隙にリナがエネルギーの盾と共に、前衛を癒す。その回復量と盾の力は、既に相手に勝ち目がないと諭すには十分すぎるくらいと思える。
「まあ、サクッとやっちゃいましょうか?」
 リューインもアミクスと共に攻撃の体制を取る。アミクスは頷いてノイシュに突っ込み、大きな鎌を振り下ろす。
「なめないでよね!」
 その攻撃を後方に宙返りをしながら避けるノイシュ。しかし、その先にはリューインが投擲した回転する鎌が待ち構えている。
 ザシュ!
 刃がノイシュを切りつけると、彼女の装備に傷が多数発生する。
「俺の宿敵も死神だが……果たしてお前は勝負強いかな?」
「なめないでって、言ってるでしょ!?」
 ゼフトがガチャリとリボルバーを手にしたとき、ノイシュの杖から粘性の液体がふりまかれる。その液体は、こちらの動きを絡み取り、拘束する液体だった。狙われたのは、中衛である遊鬼と屏。
「予測の範囲内です。それも、させません」
 ミオリとアロンがその液体を体に巻き付けるように受ける。明らかに無謀な突っ込みの様に思えていたが、既にリナが施したエネルギーの盾が、その効果をはじき返した。
 そして屏の魔法の爆破で、ノイシュの杖にヒビを入れたのだった。

●開いた城と聞こえる声
「まだ、行かせない……よ」
 既にボロボロのノイシュ。だが、あくまでも戦う意思を見せるようにケルベロスに立ち向かう。
『さあ、ゲームを始めよう。運命の引き金はどちらを選ぶかな。』
 どこからか聞こえたと思った声。それは、ゼフトの声だった。だが、どこからと思うのは、突如目の前に現れたからである。あまりの速度に思考が追い付いていないのだ。
 ノイシュが目を見開いたときには、眉間に銃器を当てていた。
 ドン!
 ゼロ距離で眉間を撃ち抜かれたノイシュは、瞬時にして何かを思い出している。
「や……やめ……。やめ、て!」
 その表情は恐怖におびえ、何もない宙に杖を差し出し、魔法を繰り出そうとする。
 だが、その杖から魔法が発せられることはなかった。
『風舞う刃があなたを切り裂く』
 無数の風刃が、ノイシュの体を駆け抜けた。それはリナのせめてもの慈悲とも取れた。
 そしてその魔力と幻術の刃は、最期までノイシュを微塵に切り裂いていったのだった。

「敵沈黙。クローズコンバット、お疲れ様でした」
 ミオリが武装を解いて戦闘の終了を宣言した。
「やっぱり、死神って変っ!」
 朔耶は、消えていくノイシュを見て続けてそう言った。
 確かに、敵の目的はまだ得体のしれない所がある。ただ、ここがデスバレスへと繋がる拠点であり、死神にとって重要な拠点であることは間違いなさそうだった。
「さて、他のチームはどうでしょうか?」
 屏は先に向かっていったチームのほうを見てそう言った。
 ノイシュとの闘いは危なげなかったとはいえ、こちらの作戦がうまくいっていなければ、かなり厄介なものになっていた可能性はあった。とすれば、他のチームの敵もまた、侮れない相手に違いない。
「援護に向かうというのが得策でしょう」
「じゃあ、どっちに行く? やっぱり奥かな?」
 遊鬼の提案にリューインが頷いて、来た道の方向と、先に続く道を交互に見る。援護に向かうとはいえ、実は意外と時間を取っていた。最深部に行くにはまだ時間がかかるだろう。
 すると、突如として地面が揺れる。
「何かあったみたいだな、見ろ」
 徐々に大きくなる揺れ。そしてゼフトが指さす通路の一つが、ゆっくりと動き始めていたのだ。そしてゼフトがゴッドサイト・デバイスを確認する。
「どうやら、うまくいったみたいだ。全員撤退してくるぞ」
 通路からこちらにむかって来ている数は、先に向かっていった見方の数と一致する。
「じゃ、じゃあ。みんなつかまって! ……ちょっと苦手だけどね」
 キアリはそう言って、ジェットパック・デバイスを展開し、メンバーを牽引して宙に浮かび始めたのだった。

 こうして飛翔したケルベロス達は、元来た道を戻り、一気にケルベロスブレイドまで帰還することになる。途中で他のチームとも合流を果たし、全体の戦果を聞く。どうやら、全チームが勝利し、クー・フロストは討たれたとの情報を得た。
 帰還の道中、飛翔したケルベロスが見たものは、つぼみの様に巻き付いた螺旋状の城が開かれていく瞬間だった。
 《甦生氷城》が解かれ、海に沈んでいく。
「何かのつぼみ……のようじゃのう……」
 朔耶の言う通り、それは氷のつぼみの姿をしていた。
「デスバレスまで、一歩近づけたかな」
 リナはそう呟く。と、その時。微かに声のような響きを感じた。
「誰? 何を、言っているの?」
 耳を澄ますように集中するが、それ以上を感じる事は出来なかった。一体何が聞こえてきたのかを探ろうとするが、前方に見えるつぼみはただ冷たく、そして鈍く光を反射しているのみだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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