非常用ポンプの暴走

作者:baron

 金属粉のような鈍く光る攻性植物の胞子が、公園にある林の陰に入り込んだ。
 そこには非常用のポンプがあり、公園だけでなく、その周辺で火事が起きた時に対応する為に用意されている。
『ググ、グラビティ!』
 胞子が取りついたポンプは震え始め……。
 気が付けばドドド! と大きな音を立てて稼働を始めた。
『グラビティを収集します!』
 そしてグラビティを集める為、人のいる方向へ移動を始めたのである。
 そいつの体には、植物が根を生やしたように絡みついていた。


「とある公園でダモクレスが事件を起こしますえ。どうやら攻性植物に影響を受けた個体みたいですわ」
「確かそのタイプは、廃棄家電じゃなくて屋外設置型だっけ」
 ユエ・シャンティエが説明を始めるとケルベロス達は用意された地図を眺めた。
「そこは郊外の公園ですが、時期に成れば桜で綺麗なんですわ。良くも悪くも、まだシーズンには早いですけど」
「場所的にもそのようだね。もうちょっと南ならば見ごろだったろうに」
「それだけ被害が出そうだし、良かったんじゃない? 帰りに見るだけなら満開じゃなくても良いでしょ」
 ユエの言葉に歴戦のケルベロス達は雑談交じりに話し合う。
 新人たちはその様子にホっと溜息を吐き、自分も何か質問しようかと見守り始めた。
「えっと、どんな敵なんですか?」
「この個体はポンプが元に成っとりますえ。消火栓にホースを突っ込んで水を出す感じです。攻撃手段は勢いよく水を飛ばし、グラビティを載せて攻撃します。まあ射撃武器を元の形状に合わせて加工したゆうとこですわ」
 あくまでダモクレスなので、攻撃そのものはダモクレスが良く使う武器であるようだ。
 もちろん射撃以外にも格闘攻撃も可能だろう。
「罪もない人々を虐殺などさせる訳にもいきませんし、せっかくの公園を潰しては並ができんようになるのも残念ですわ。その前によろしうお願いしすえ」
 ユエがそう言って資料を渡すとケルベロス達は相談しながら、どうやって倒そうかと悩み始めるのであった。


参加者
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
レヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
 

■リプレイ


 春先の公園には花が色づき始めている。
 とはいえまだ桜の季節には早く一部は咲いているという程度だ。
「まだ微妙に寒い時期にお水をかけてくるというのも困り物ね!」
 心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)は湿気を帯び始めた髪を僅かに撫でた。
 周囲には水気が漂い、誰かが散水でもしているかのようだ。
 せめて夏に来てくれないかしらー? なんて思いながら公園を巡った。
「レイコンコートの準備が役に立ったな。とはいえ……まだ人が居ない時期なのはせめてもの救いか」
 周囲を見渡しながらレヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)はコートの裾を直した。
 戦いの邪魔にならぬように注意しながら、巻き込まれた一般人が出ない様に探していく。
「……封鎖終ったわ。後は居ないかどうかを探すだけだけど、もう問題なさそうね」
「早いな。いつの間に」
 周囲を見渡していると、滑空しながら告げるキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)をレヴィンは見つけた。反対側からも一人降りて来る。
「手分けして空から見まわったのと、これだけ肌寒いですからね。お昼寝している人はさすがに居ないかと」
「……そういう事ね。だから注意するのは散歩コースくらいよ」
 エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)補足するとキリクライシャは頷いて翼をしまう。
「そういう事ならば問題ないだろうね。寝坊すけ君の居場所は判って居るかな?」
「来る途中で散水しているのを見ました」
 風下側を見回っていた千歳緑・豊(喜懼・e09097)が尋ねるとエレスは敵のいる場所を指さした。
 林の向こうとは聞いているが、詳しい位置までは知らなかったのでありがたい。

 敵の居る場所に移動すると、確かに水気が強く先ほどよりも勢いもあるような気がする。
『敵性体の接近を検知。迎撃します』
 大きな消火栓へホースをつないだような姿。
 しかしあちこちに蔦が生え、触手や尻尾の様にうごいている。
 あえて言うならばタコなのに装甲は鋼のボディであり、ホースはゴム製であるように見受けられた。
「機械と植物……? いつもの憑りつき型とは違う様な気がしますね」
「なにぃ!? 話には聞いていたが、そんなにか?」
 歩きながらエレスが説明すると、レヴィンは驚きながらどんな姿なのか想像してみた。
 ダモクレスとは何度も戦ったし、廃棄家電型とも戦った経験はある。
 しかし破片を取り込んだり巻き付いている程度ならまだしも、植物が共棲しているかの様な口ぶりだ。
「ふむ。コギト珠ではなく、攻性植物の胞子が入り込んで、機械がダモクレス化するのか」
 その姿を遠目に眺めた時、豊は比較的に冷静で居られた。
 いつもの廃棄家電型は奇声を上げて暴れまわるので、元ダモクレスのレプリカントとしてはナンセンス過ぎて苛立ちを思える。
「廃棄物を利用する作戦は中止されたのかな。……いや、別勢力か」
 しかし今回はそんな様子がないし、何かあっても植物が混じったせいだと言えるからだ。
 と言う訳で、豊には冷静に背後関係を推測する余裕すらあった。
「……植物めいた様相には、魅力を感じもするけれど。ちょっと違うわね」
 一方でキリクライシャから見ると少し幻滅してみたり。
 いつも連れてる連れている林檎樹と比べて、あのダモクレスの何と愛想(?)の無い事か。
「……あれじゃあ、いかにも混ざってるだけよね。……もし、ゆうわくちゃんの愛(胞子)なら、いくらでも……なんて思うのに」
 もっとも、ゆうわくちゃん以外は悪い子である。
 林檎愛(と書いて連携と読む)を見せつけて、へし折ってあげましょう。
「いずれにせよ人に危害をくわえさせる訳には行きません。お花見のシーズンを考えると、できるだけ桜への被害も抑えたい所です」
 エレスはそういって戦闘態勢を整える。

 一同は簡単な陣形を築いてダモクレスを町中へ移動できない様にしてから戦闘だ。
「ちょいと頑張るとしようか。宜しく頼むよ」
「任せて~。防御も回復も頑張っちゃうわよ」
 盾役である括に追随しながら、レヴィンはゴーグルを装着しておく。
『ターゲットロック。発射』
 そこでどちらが先に動くか微妙な所だが、射撃重視のダモクレスは足を止めて砲撃を行う事にしたようだ。
 ダモクレスは水に猛烈な圧力をかけて撃ち出した。
「やらせないわよ~」
「……リオン」
 括が飛び出すとキリクライシャはテレビウムのリオンに指示を出す。
 仲間を攻撃しようとするのを防ぐためだ。
「お花見のシーズンを考えると、できるだけ桜への被害も抑えたい所です」
「だな」
 エレスが飛び出すのを援護しようとレヴィンはライフルを構え直した。
 水圧砲に対するお返しだと銃撃戦を行うつもりだ。
「幻影で縛り付けてあげますね」
 エレスは桜が舞い散る光景を映し出すと、その陰に隠れて強烈な蹴りを放った。
 針の様に鋭い一撃が決まるのと前後して、ビームが幻影を貫いてダモクレスに襲い掛かる。
「おっし。命中! このままガンガン行くぜ!」
 一同の中でも最も火力の高いレヴィンの攻撃がヒットした。
 どうやら敵はそれほど回避力が高くないらしい。
「ふむ。この様子ならばそれほど苦労はしないかな? まあ油断は禁物だが……ターゲット」
 豊は地獄の炎で出来た獣を出現させ、指ではじいて攻撃の合図を出した。
 五つの目を持つ獣は、牙と棘の生えた尻尾で襲い掛かる!
「……なら丁度良いわね。傷も浅いし、最初は援護しておきたいもの」
 キリクライシャはエレスに対してルーンを描いた。
 まだ彼女は傷ついておらず、これは長期戦に備えての援護の為である。
 仲間を庇った盾役の傷はそれほど深くない段階であり、今の内に布石を打っておくという事であろう。
「構わないわよ~。傷は防御のついでに自分で治せるものねー」
 括は愛用の包帯を手に取った。
 ソレは気を通し易く加工したもので、ただの布が鎖に勝る強度を保つ。
 それを媒介にグラビティを振りまけば、即席の防壁を築くことなど容易い。

 これに対してダモクレスの方はあくまで冷静だ。
 周辺一帯を爆破し、一気に攻勢を掛けようとする。
『ハイドロ・ボンバー。ブレイク』
「っち! 間に合わないか!」
 レヴィンは周囲に満ちた水気が熱を帯びたことに気が付いた。
 盾役の仲間の方へ飛ぶし、向こうもこっちに向かってくる。
 だがカバーは必ずしも成功する訳でもないし、その事はケルベロスならば誰でも知っている事実だ。
「なら! お返ししてやるべきだよな!!」
 レヴィンは凍結光線のカートリッジを使ってダモクレスに撃ち込んだ。
 せめてその凍気が水分を凍らせてくれないかと祈りつつトリガーを引く。
「巻き込まれる!?」
 爆発で耳が遠く成った所に、誰かの声が聞こえたような気がする。
「傷は浅いわ。しっかりしてね~」
「……直ぐに回復するわ。時間を稼いで」
「「了解」」
 黄金の輝きを感じながら、ゴーグルのお陰で目は大丈夫だなと感じ取れる冷静さがあった。
「動きは私が止めます!」
「では私はホースの周辺でも射抜いておこうか」
 エレスが飛び込んでいくと、豊はダモクレスが水源に差し込んでいるホースを狙った。
 爆発で花弁が舞い散る中をエレスの足が何もない場所を蹴り飛ばし、着地と同時に彼女の姿自体が別の場所に現われる。
 幻影で自分の位置を誤魔化したのだと悟った時には、豊の射撃がレヴィンの放った冷凍光線に続いて敵に穴を空けるところだった。
「……リオン達も協力してるから、みんな治ってると思うけど問題ないかしら?」
「世話になった。多少体は重いが大丈夫だろ」
 キリクライシャが黄金の林檎を掲げて治療を終えると、レヴィンは手を開いたり握ったりしながら頷いた。
 周辺の爆発して前衛が一通り巻き込まれたので、サーヴァント勢も治療に参加して一気に治したのだ。
 ダメージの方はみんな殆ど治っているだろう、むしろ負荷の方が消しきれなくて残って居る程度である。
「こっちもオッケーよ。ソウちゃん達が頑張ってくれたものね」
 特にカバーした事もあって負荷の重なる括も、咆哮を上げて自らの傷を癒している。
 重かった体が負荷の大半を跳ねのけてスッキリだ。
「それでは逆襲と行くかね?」
「おうさ。今度はオレ達のターンだぜ」
 豊の言葉にレヴィンはニヤリと笑い、互いに拳銃を掲げて銃口をダモクレスに向けた。
「では私が先制しますね。ガードをお願いします」
「任せて~。今度こそ止めて見せるわー」
 エレスがキックを浴びせるために走り出すと、括はダモクレスの射撃を止めるために前に出る。
 どうやら敵も距離を詰めて、後衛を狙うえる様にまずは格闘戦と言う所か?
『突撃。突撃』
「望むところです! 行きますよ!」
 エレスは自分の幻影をその場に置いて回り込み始めた。
 代わりに括がその位置に赴き、振り回されるホースに立ち向かう。
「はあ! 今です!」
 エレスの蹴りが見事に決まり、動きを止めた所に無数の銃弾が襲い掛かる!
 ダモクレスに欲望などないが、揺れる谷間に目を取られていたら穴だらけにされてしまうだろう。
「喜びな、全弾プレゼントしてやるよ!」
 レヴィンは次々に連射し、弾倉に入っている全弾を叩き込んだ。
 さすがに全てが命中はしないが、中には前に当たった所と同じ場所に命中して大ダメージだ。
 やたらに撃ちまくり、不必要なのにノリで撃った部分もある。彼のお財布にも大ダメージかもしれない。
「さて、準備は終わりだ。ここから本格的な戦いの始まりだよ。そちらの用意は良いかね?」
「……ええ。何時でも打撃戦に移ってもらって構わないわ」
 豊は口笛を吹いて炎の獣に指示を出し、キリクライシャは再びルーンを描いて味方を強化した。
 そろそろケルベロス達の強化は終わるが、敵も治癒を兼ねて強化を始める頃だろう。
 その前に付与術を破壊する術を行き渡らせておきたいところだ。
「うーん。長期戦になりそうだし、此処は私も強化よね」
 先ほど集中治療をしていたこともあり、括は傷に関しては治さずとも良いかと思った。
 しかし足を止めての打撃戦に移るならば、外れる要素は少ない方が良いだろう。
「矯正のお時間ですよー」
「おう! ドンドン頼むぜ」
 括は胸元から取り出した包帯をレヴィンに絡め、その傷の度合いや態勢に合わせて動きを調整しておく。
 筋肉や骨格を元に歪みを抑えて銃を上手く支えれば、それだけで命中は安定する物だからだ。

 こうしてケルベロス達は態勢を整え、ダモクレスも回復や強化を交えて戦いは長引いていく。
 吸い上げた水が周囲に散布され、あるいはその水を吹き飛ばしながらようやく戦いに終止符が打たれようとしていた。
「……照らして、全てを明るみの中へ。……そろそろ治療も不要かしら? 必要なら幾らでも癒すけど」
「凄く助かったわ―。たぶんだけど、要らないんじゃないかしら~」
 キリクライシャの放った暖かな光は、太陽の力を抽出したものだ。
 光の珠となって括の傷を癒し、負荷に対する耐性となる。
「ピリッとしたら言って頂戴ねー」
「問題ないようだね。これで何とか倒せそうだ」
 括は豊に電気治療を施しているが、彼は運よく傷を負っていないので純粋に強化である。
 治療の合間に援護を仲間に掛け続け、無傷だった彼にも府付与するタイミングが回って来たのだ。
『ターゲットロック。発射』
 窮地に追い込まれてもダモクレスはめげたりはしない。
 あくまでも攻撃し、倒そうとしている。
 だが既にほとんど動けなくなっており、ケルベロス達には結界や防壁が張られているとあって風前の灯火であった。
「これが最後の攻撃です。逃がさないようにいきましょう」
 エレスの攻撃は上からしたに叩き下ろすような一撃だった。
 あまり意味はないが幻影を自分の姿にまとう事で、揺れる谷間を見えないようにしておく。
 ここまで来れば楽勝なので、セクハラを受けない様に何とかする暇が彼女にはあった。
「これでカンバンだ! 派手に外したら頼むぜ!」
 レヴィンは手当たり次第に弾丸を撃ち込み、満身創痍のダモクレスに猛攻を掛けた。
 穴だらけになった装甲が、千切れ飛んでいく姿はまるで踊っている様ではないか。
「……トドメは不要かもしれないけれどね。見るに堪えないし、楽にしておこう」
 豊はそんな姿に中枢部位へ弾丸を撃ち込んだ。
 至近距離から撃ち込まれる炎を浴びて、ダモクレスが崩れ落ちた時……。
 どこかで獣の遠吠えが聞こえたような気がした。

「……お疲れさま。林檎愛の勝利ね、リオンも活躍していたわ」
 キリクライシャはそう言ってリオンを拾い上げ、濡れている部分を拭いてあげる。
「みんな濡れていないか? 風邪引くなよ。ヒールでもしつつなんか暖かい飲み物でも探して来るか。桜に紛れて攻性植物が居るとも限らないしよ」
 レヴィンはそう言ってオーラを移してヒールを始め、あちこちを修復しつつ公園を回ることにしたようだ。
 何しろ……。
「敵の残骸も勿論ですが、そこらじゅうが水浸しになってしまっていますね。完全に乾かすのは難しいですが、通行人の妨げにならないくらいには水を掃除しておきましょうか」
「ちゃんとエレスちゃんの分の着替えも持ってきているわよー」
 エレスが深い層に服をつまんでいるが、括ともどもビチャビチャだからだ。
 服が体に張り付きなまめかしいので、男性陣には目の毒である。
「胞子に影響された方がまともだったね。とはいえ今回は廃品じゃなくて公園の備品だからね。壊れたままともいかないか」
 豊は紳士なので視線をダモクレスの方に向けていたが、元になった消火栓を思い出し管理事務所に連絡を取ることにした。
「今年の桜は早いそうだが、それでも、うん、まだまだか。もう少ししてから一緒にまた来るのも悪くないかもしれないね」
 電話しながら目線を上げると、そこにはまだつぼみの桜が咲きかけている。
 脳裏に描く人物とまた訪れる頃には咲いているだろうか?
「もう春なんだな~。本格的に咲くのはこれからだが、花見も楽しみだな」
 レヴィンも花を見ながら恋人や同居人と訪れる時のことを考えていたが、その時は三色団子なんか良いかもしれないと食い気が勝って居るようだ。
「どうして着替えがこんなにあるのでしょう?」
「私のもあるけれど、迷っちゃったのよね。この服なんてどうかしらー? 折角だしこっちも着てみてー?」
 みんなが移動始める中で、エレスと括は御着替えだ。
 帰宅するのはまだまだだが、次に来るときは子供たちを連れてきても良いかもしれない。
「……似ていると思うもの」
 リオンと共に桜を眺めながら帰宅するキリクライシャの声は、風に解ける様に消えていった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月27日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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