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月光降る真夜中。
やや温んだ闇は、蒼い静寂に満ちていた。
その沈黙は山中の一角も占めている。だから、かさりかさりと蜘蛛のような足を動かす、小さなダモクレスの音が異様に大きく響いた。
廃棄物が積まれたただ中。そこにチェーンソーが放置されていた。鋸状の刃は錆びついていて、もはや動く様子はない。
そのチェーンソーにかぶさるように人形が転がっていた。ロボットである。女性型であるのか、胸の辺りが隆起していた。
ダモクレスは近づくと、チェーンソーに潜り込んだ。
改造。新たなる生命体の誕生。
ゆっくりと身を起こしたそれは、女性型のロボットの姿をしていた。ダモクレスは人形をも取り込んだのである。
それは腕を一閃させた。粉々に廃棄物が吹き飛ぶ。それの両腕にはチェーンソーが仕込まれてあった。
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「惨劇が予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
「けれどまだ間に合います。全速でヘリオンを飛ばせば、まだ被害が出る前に標的を捕捉できます」
場所は山中。そこに放置されたチェーンソーがダモクレスと化してしまったのだった。
「武器は?」
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が問うた。
「両腕に仕込まれたチェーンソーです」
セリカは答えた。
「強敵です。けれども斃すことができるのはケルベロスだけ。惨劇を食い止めてください」
セリカはいった。
参加者 | |
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コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813) |
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462) |
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429) |
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566) |
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471) |
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488) |
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月光のにじむ闇を光が切り裂いた。
ライトの光。所持しているのは妖しい雰囲気をまとわせた男であった。
闇に溶け込むような浅黒い肌と紫色の髪。瞳は金色に光っている。
彼の名はオズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)。メリジューヌであった。
「山を拓いた刃なのか、それとも密やかに棄てられた故障品なのかはわからないけれど…随分と無粋な目の付けられ方をしてしまったものだね」
ぽつりとオズはもらした。口調は穏やかだが、声の底に怒りの響きがひそんでいる。
月夜に眠っていた人形。語り部であるオズの胸をくすぐるロマンティックな題材だ。
その麗しき存在と残酷な回転刃と組み合わせてしまったダモクレス。そのような愚行を許すわけにはいかなかった。
「でも」
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)のぼんやりとした目にぽっと光がともった。
「私が危惧していたダモクレスが本当に現れるとは、驚きました」
紅葉はつぶやいた。
その言葉通り、紅葉は懸念していたのだ。いつかチェーンソー剣をもつダモクレスが現れるのではないかと。果たせるかな、それは現れた。
「兎波さん、ダモクレスのこと、予想してたの?」
驚いたように目を丸くしたのは、強化軍服をまとった可愛らしい顔立ちの娘であった。名を月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)という。
「は、はい」
紅葉は頷いた。そしてすぐに目をそらした。京華のようなテンションが高めの女の子は苦手であったからだ。
が、京華の方は気にした様子もなく、
「ヒト型のチェーンソーってさ、今流行のあれかな? 仕込み武器とかかっこいいー!」
まるで遊びにいくかのように楽しげに声をあげると、闇を透かし見た。
「夜のハイキングなんてとっても静かでドキドキするね。静かだからチェーンソーの音は見つけやすそう。ほら、あんなふうにーーって、あれ?」
京華の笑みが消えた。彼女の耳は闇の奥から響いてくる機械の駆動音らしき音を捉えている。
「ふふん。どうやら探すまでもないようだ」
身の丈よりも巨大な剣ーースルードゲルミルを肩にひっ担いだコクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)が薄く笑った。
その眼前、それは現れた。
姿は女性のようであるが、人間ではない。金属の機体をもつロボットであった。
駆動音はそれーーダモクレスの腕から響いていた。チェーンソーが仕込まれているのである。
「ああ…苛立たしい」
苦いものを噛んだようにコクマは吐き捨て、スルードゲルミルを振りかぶった。そしてダモクレスの腕を見やると、ふん、と鼻を鳴らした。
「そいつは本来の人を傷つけるようにはできておらんのだがな」
コクマが踏み込んだ。足下の地を踏み砕きつつ、スルードゲルミルを薙ぎおろす。
ギンッ!
ダモクレスの眼前でスルードゲルミルが止まった。ダモクレスの左腕に受け止められて。
ギチギチギチ。
鋼の慟哭が響いた。チェーンソーの鋸状の刃とスルードゲルミルの刃が噛み合っているのである。赤金色の火花がコクマとダモクレスの顔を浮かび上がらせる。
次の瞬間だ。ダモクレスの右腕が動いた。横殴りにコクマを薙ぐ。
残酷にコクマの肉体が切り裂かれた。鮮血と肉片、そして骨片がばらまかれる。
「真紅の人形とはね」
不敵にその少女は返り血をあびたダモクレスを見据えた。紅瞳が妖しく光り、下半身の蛇体がうねる。
メリジューヌ。伝説の蛇妖たる彼女の名はリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)といった。
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「雷鳴の蒼螺子よ、仲間を護る盾を展開しなさい!」
リサの身体に取り付けられたボルトから紫電がほとばしりでた。
雷蛇のように空で絡み合い、盾を形成。防御すると同時に、電気エネルギーをコクマに流し込む。
コクマの肉体を凄まじい電気刺激が走り抜けた。細胞が賦活化され、傷を再生していく。
そのコクマを見て、ダモクレスはすうと腕をあげた。さらにコクマを襲うつもりだ。がーー。
ダモクレスが動くことはなかった。いや、動けないのだ。彼女の機体を黒鎖が戒めていた。
「ロボットのダモクレスですか」
鎖を手に、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は目をすがめた。
瞳もなく、口も開くことはない。が、ダモクレスの顔は美麗であった。胸の隆起が妙な艶かしさを感じさせる。
「動いていた頃はどんな活躍をしていたのか気になりますが、ダモクレスとなったからには倒すしかないですね」
バジルはいった。その間、ダモクレスが動くことはない。重戦車を凌ぐパワーをもつ機人の動きを封じるバジルの業を何と評してよいか。
敵が動けぬ今、攻撃か否か。
オズがむけた視線の先、ウイングキャットのトトが清浄なる風を翼で巻き起こしている。ならばーー。
オズが空間をつかんだ。そして投げた。
するとダモクレスが空を舞い、地に叩きつけられた。
驚くべし。オズは標的の気をつかみ、それを利用して投げ飛ばすことが可能なのだった。
その時、月光より眩い銀光が闇を切り裂いた。身を覆う金属生命体を京華が起動したのである。
金属生命体から放散される銀光は超越物質であった。あびた者の感覚を鋭敏化させるという規格外の代物だ。
「どう?」
「最高です」
淡々とこたえると、紅葉は踏み出した。鋭敏化された感覚をもつ彼女には空気の流れすら感じとることができる。
「この一撃で、その身を氷漬けにしてあげますよ!」
目にもとまらぬ日本刀ーー紅の和みの一閃がダモクレスを薙いだ。紅葉の一撃はあまりに鋭く、ダモクレスの傷口が凍てついていく。
「怒りも嘆きも風化するというが、抜けぬものだなぁ。ああ…腹立たしい…」
コクマが立ち上がった。苛立たしいげにまみれた鮮血を手で払う。
「せめて我が気晴らしの一つにでもなればいいが期待薄よな。所詮そんなチェーンソーに我が神器が負ける訳なかろうよ! その刃を根こそぎ落としてくれるわぁっ!」
コクマが跳んだ。中空より回転しながら舞い降りる。
キギンッ!
再びスルードゲルミルとダモクレスのチェーンソーが噛み合った。噴く黄金光に一瞬、辺りが黄昏色に染まる。
「ほう」
つまらなそうなコクマの顔にわずかな喜色がういた。
「我が神器で砕けぬものがあるとはな」
ニヤリとし、コクマが跳び退った。そのコクマを追い、ダモクレスもまた跳ぶ。
唸りは慟哭に似ていた。ダモクレスの横殴りの一閃である。
しぶいた鮮血は二枚。凄まじい衝撃に紅葉とオズが後退った。オズを抱き止めたのは、そのオズに庇われたコクマである。
「すまん。助かった」
コクマがいうと、オズは妖しく笑った。
「なんの……しかし」
オズはダモクレスを睨み据えた。
ダモクレスは返り血により、より赤く染まっている。これではファンタジーではなくホラーであった。
「早く人形を解放してやらないと」
オズがいった。そのオズと紅葉に涼やかな風が吹きつけた。トトの癒しの風である。
が、まだ足りない。そう見てとったリサは風を巻き起こした。
「大丈夫よ、落ち着いていれば、安全だからね」
リサがいった。するとオズと紅葉の精神が凪いでいった。
ああ、落ち着いている。
うなずいた紅葉が攻撃に出た。正面から月輪のごとき滑らかな剣流でダモクレスを斬る。さらにーー。
ケルベロスの攻撃は、近距離からばかりではなかった。京華が砲撃形態としたハンマーでダモクレスをポイントしている。
「チェーンソーで切られたら痛そう、当たらなければいいんだろうけど……腕を狙うか、腕以外を狙うか迷うなぁ。拳を合わせた瞬間切られるとか勘弁……で、も、あれさえ壊せば攻撃力は減るわけだし、刃こぼれ狙ってみよう」
京華が竜弾を放った。咄嗟にダモクレスは左腕でガード。着弾の衝撃でダモクレスの左腕がはねあげられた。
ちらとダモクレスが左腕を見た。動きはするものの、チェーンソーがとまっている。ケルベロスの攻撃を受けすぎた結果であった。
「その傷口を、更に広げてあげますよ!」
声は上からした。顔を上げたダモクレスの眼前、轟音が流れ落ちる。
チェーンソー剣を薙ぎおろした姿勢のまま、バジルは見た。ダモクレスの左腕が砕け散る様を。
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「ーー左腕大破確認。戦闘力二十五パーセント低下。戦闘続行可能」
ダモクレスが右腕を薙ぎおろした。咄嗟に跳び退ったが、遅い。ざっくりとバジルは断ち切られた。
なおも勢いのとまらぬそれは、まっすぐ地に叩きつけられた。地が割れ、土埃が舞う。距離をとっていた者達さえ痺れるような衝撃があった。
袈裟に切断された傷口から鮮血を撒き散らしてバジルが転がった。追ってダモクレスが足を踏み出す。
その眼前、何かが突きだされた。反射的に右腕で受け止めたダモクレスは、その何かを見とめた。
弓。手にしているのはオズであった。
「これ以上仲間を傷つけさせるわけにはいかないんだよね」
薄く笑うと、オズはちらりと背後に視線をむけた。トトがバジルを癒している。
次の瞬間、オズの口から歌が流れ出た。希望をたたえる歌だ。
すると彼の手のlamentが共鳴。光をほとばしらせてダモクレスを撃った。
ダモクレスの機体がはじけ、黒血に似たオイルが流れたが、それを拭う素振りさえ無い。畏れを知らぬ心は戦闘にも現れるのか、隙が多い巨体にどれほど傷が増えようとも、彼女の戦い方はひとつ。
渾身の一撃を叩きつける。その一点だけであった。
その威力はケルベロス達を消耗させるに匹敵し、既に余波で戦場となっている地は何処を見てもひどい有様であった。
バジルの回復を。
その判断を、しかしリサは覆した。攻撃に出たのである。
「この電気信号で、痺れてしまうと良いわよ!」
雷鳴のごとき轟きとともに、リサの雷鳴の蒼螺子から紫電がほとばしりでた。空を灼きつつ疾ったそれはまさに稲妻。
数十億ボルトにも達する紫電に撃たれ、ダモクレスの動きがとまった。電流の負荷によりフリーズしてしまったのである。
「動けないなら、チェーンソーは恐くないね」
踏み込み、ひねりきった身体を旋回。衝撃波すらまきちらして京華は渾身の一撃を放った。
「鉄拳制裁!」
ドゴン!
空間を震わせる響きを発して、京華に殴り飛ばされたダモクレスが吹き飛んだ。
受け身すらとれず地を転がるダモクレス。追ってコクマが跳んだ。
「我が怒りが呼ぶは手にする事叶わぬ滅びの魔剣! 我が怒り! 我が慟哭! 我が怒号! その身に刻むがよい!」
コクマな憤怒が地獄の炎と化してスルードゲルミルを燃え上がらせ、超巨大な紅蓮剣と変じせしめた。
その時、ダモクレスが身を起こした。右腕をかまえる。瞬間ーー。
爆発が起こった。爆圧にかまえていたダモクレスの腕がはねあげられる。
何が起こったのか。その原因はバジルにあった。
一瞬前のことだ。バジルは叫んでいた。
「爆破します、吹き飛んでしまいなさい!」
そう。爆破の主はバジルであった。彼女は爆破能力者であったのだ。
「つくづく人ってのは物を軽薄に捨てるなっ! だからこんなのが生まれるのだっ!」
コクマがスルードゲルミルをふりおろした。凄まじい衝撃にダモクレスが叩き伏せられ、地が陥没する。
そのダモクレスの上に、ふわりと紅葉は舞い降りた。
「そのような姿で蘇るのはあなたの本望ではないでしょう」
紅葉はいった。彼女の眼下、ダモクレスの目から流れ落ちるオイルが涙のようーー少なくとも紅葉にはそう見えた。
「朝がきて人目にさらされないよう、月が沈む前に私が終わらせてあげます」
せめて苦しまないよう、紅葉は一気ににダモクレスを両手で引き裂いた。
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「任務完了、お疲れ様」
京華は地に座り込んだ。さすがに疲れている。
「動いたからお腹空いたなぁ。何か食べにいく?」
「そうね。でもその前に」
リサが辺りの修復を始めた。オズもまた。コクマは廃棄物を探しだし、徹底的に燃やし尽くしている。
「別に此処の為にやってるわけではない。全て我が気晴らしよ。…特に晴れぬがな」
ごちながら、しかしコクマの手荒い鎮魂は続いた。
作者:紫村雪乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年3月27日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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