なんで暖かくなると変な奴が出るんだろうね?

作者:久澄零太

「日も長くなり小春日和も続く今日、いかがお過ごしだろうか?」
 お手紙みたいな切り出し方だが、これは鳥さんの挨拶である。
「野に出れば花が咲き、街に出れば人々の装いも軽く、スーパーに行けば菜の花が売ってる今、春の風物詩といえば……」
 タメて、信者の視線を集中させてから鳥さんの嘴から溢れた言葉は。
「スカート捲りだ」
 どうしてこうなった……?
「無論、我々が直に手を出してはならぬ。それはもはや痴漢に過ぎない。あくまでも、時折吹く強い風に翻るスカートの向こうに秘められた布地を垣間見る事に価値があるのだ」
 あえてもう一度言おう。どうして、こうなった?
「行くぞ同志達。我等に真理の布を運ぶ風を待つのだ」
『イェススカート! ゴー突風!!』

「皆変態だよっ!!」
 そりゃー大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)だってストレートに言っちゃうよ、今回のやつ救いがねぇもん。
「この公園に春の風物詩は春一番で捲れ上がるスカートって言うビルシャナが現れて、風が吹く度にスカートの中を覗こうとしてくるの!!」
「ユキ、ビルシャナは覗きそのものが目的じゃないからな? そこをきっかけに信者を増やすのを阻止しに行くのが俺たちの仕事だからな?」
 相当酷い予知を得たらしく、若干ズレてるユキを四夜・凶(泡沫の華・en0169)が正そうとしたところで。
「スカートを覗くなんて許せないよねん。ところでユキちゃんはいつもショートパンツだけど、パンツ何い……」
 ドゴォン!!
「信者の人達は春の風物詩を語ると目を覚ましてくれるみたい。春といえばこれ! っていうシンボル? みたいなものがあるといいかも!」
 余計な事を口にした白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)の側頭部にトーキックを決めて、吹き飛ばしてからユキが続けるには。
「敵は風を操る力があって、攻撃が常に全体化するから、隊列には気をつけてね。風で動きを鈍らせたり、冷たい風で冬っぽくしたり、スカートを捲れ上がらせて、動く度にメンタルにダメージを突き刺したりしてくるよ!」
「今回は私が同行しますが……ヒールより、番犬外套をお渡しする機会の方が多いかもしれませんね」
 しょーもない敵を前に、凶も苦笑しか出ないようだ。
「あ、現場はもう桜が咲いてるから、早めに片付いたらお花見してきてもいいかも?」
 果たして何を見に行くのか……それによって、番犬の運命が左右される、そんな気がした。


参加者
クリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)

■リプレイ


「どうしてこうなった!!」
 開幕早々悲痛な叫びをあげるのはエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)。なお、大体自業自得。
「男性向けデザインの衣装も持ってきたのに……!」
 説明しよう!今回の敵に対抗するために、彼女は男女別にスカート衣装を持ってきたのだ!男の娘用のスカートももちろんあったのだが。
「なんで永代君いないの!?」
 いや知らんがな。
「太陽騎士さんと番犬さんに着てもらって大規模アピールのチャンスって言ったら、うちの社長とデザイナーさん達が大はりきりで皆のデータ調べまくって用意してくれたのに……!」
 ぐぬぬ、歯噛みするエヴァリーナの傍ら、ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)がきょろり。
「そういえば、四夜さんもいませんね……」
「あ、凶なら……」
 出撃前に師団で会ったらしいクロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)曰く。
「『十トンの食材を持ち込んだ馬鹿がいるから、部隊とは別に参ります』って死んだ目で言ってたよ!」
「そ、そうですか……」
 目の端を引っ張り、とんがりお目目でモノマネするクロウに、ノアルが小さくため息をついたところで。
「こうなったら仕方ない……あらゆるジャンルに対応できそうな今回のメンバーにお願いするしかないね!」
 懲りずに目を光らせるエヴァリーナに、ノアルは思う。
「こんなことしてるから太陽機に乗せてもらえなかったんでしょうね……」
 なお、メタ的には尺が足りないから太陽機のシーンをカットしたのは秘密だ!
「折角だからこの機にスカートを楽しんでみよう!エヴァリーナ、おすすめの奴お願い!」
「んっとねー……」
 エヴァリーナが切り替えてクロウに服を渡している傍ら、公園の物陰で光る物がある。
「へっへっへっ、かかったな、同行者たち。これでスカート率が増えてウハウハってもんだよん!!」
 着替えさせられる事を予測して、信者に寝返った白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が双眼鏡で簡易更衣室に連れ込まれるクロウを眺めていた。部隊にいないと思ったら何やってんだお前は……。
「春の風物詩といえばお花見、咲き誇る桜の花の絶景を眺め、皆で楽しく飲み、騒ぎ満喫するのが一番です」
 先陣を切ってミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)が最初の説得役として前へ出た。信者と鳥さんが身を潜めている以上、おびき出さねばならない。いかにもな植え込みに向かう彼女は胸元を見せる黒いワンピース姿。そこへ、公園を駆け抜ける風が通過!
『おぉ!』
 舞い上がるスカートは役割を果たさず、ミスラの柔肌を覆う布地を晒す……だが、彼女は恥ずかしがるどころか、不敵に笑って見せた。
「これはパンツではなく……水着です!」
 胸元からスカートの裾まで走るファスナーを降ろせば、姿を見せたのはハイレグレオタード。大胆なカットで太腿から脇腹までを見せつけると、腰骨に沿えた指先を滑らせて布地を掴み、引き上げることで更に布面積を狭めて肌を晒す。布よりも自身の肢体を以て篭絡を図っているのだ。
「いや駄目でしょ!」
 はい、ここで文句を言うのがもちろん鳥さんです。
「隠されてない時点でアウトでしょ!!」
「でもエロい」
『分かる』
「同志!?」
 永代が余計な事言うから、信者の思考が偏り始めた……。
「スカートが捲れて恥ずかしいのは、下着が見えちゃうからだよね?じゃあ自分は問題ないな!」
 バン!のエフェクトと共に仁王立ちするクロウはお着換え済み。本日の衣装は袖が膨らんだ半袖ブラウスに、腰裏と肩の二か所で支えるハーフエプロン、そして下はエプロンに隠されたミニスカートというアクティブな彼女らしい衣装。ただし腰紐はエヴァリーナによってややキツめに縛られており、体の一部が強調される形になっている。どこがとは言わないが。どこがとは言わないが!
「なんたってこの下は……」
 すっと、スカートをたくし上げたクロウ。信者達に見せられたその姿は。
「フィルムスーツだからね!」
「な、なにぃ!?」
 水着と同系統の、別に隠す必要ないけど見せない衣装。メンタルへのダイレクトアタックが信者を襲う!
「そんなことより、春の風物詩といえばなによりドーナツ!春限定ドーナツは桜風味のグレーズが乗ってたり、桜色のチョコでコーティングされてたりするんだ。こうして見た目から春を感じて、それから香りと味を楽しんで、全身で春を堪能できる!自分も真似して作ってみたから、食べてみてよ!」
 と、クロウがカバっぽいドーナツメイカーを取り出すのだが。
「じゃあいくよー……しっかりキャッチしてねー!」
『えっ』
 信者一同がきょとんとした次の瞬間。
「せいっ!」
「うぉ!?」
「へ?」
 スカァン!!
『教祖様ー!?』
 これは酷い……ドーナツは焼きあがった瞬間に元ダモクレスな機器から射出され、高速で飛来する硬めのチョココーティングを避ける信者、顔面に直撃する鳥さん……そりゃー不意打ち食らってぶっ倒れもするよ。ていうか食い物を撃つんじゃない!!
「てへ☆」
 笑ってごまかすなー!?


「こ、これは駄目だ……教祖様再誕の為にもスカート女子を……!」
 と、信者がエヴァリーナを見るが。
「ブランドの服でセクハラ案件発生したらイメージ損なうんで、そんなコトになったらスカート女装で謝罪会見してもらうように顧問弁護士さんもアップしてるよ」
 実に爽やかな笑顔を向けられたので逃げた。
「ならば……!」
 と、番犬外套のノアルを見るが。
「ふふふ、今日の私はぬかりありません!」
 バサッ!脱ぎ捨てた外套の下は薄紅のトップスに純白に紅紐を通したボトム、緋袴を思わせるパレオに振袖風アームカバー……。
「巫女水着で来ましたから!!」
「お前もか!」
 謎の水着率の高さに信者が崩れ落ちるが、視線はクリームヒルデ・ビスマルク(ちょっとえらそうなおばちゃん・e01397)へ。
「ソフドリと聞いて、何の略かな……ソフトドリフト?ビルシャナさんを消しゴムみたいに擦りながらドリフトすんの?と思ったのはおばちゃんだけでいい。ソフトドリンクですよねー」
 そう語る彼女は既にレジャーシート敷いて弁当箱を展開。ちなみにスカートにはスカートだが。
「おばちゃんのタイトスカートめくる剛の風はあるまい。それこそ、裾掴んで無理やり吊り上げる位せんと無理無理……」
 まさかの真っ白なビジネススーツでの参戦なんですよねー。しかも、丈が膝下まであるからこれ捲るってなると、もはや拷問レベルの逆さ吊りになる。
「同じ風なら、桜の花舞い散るなかで、春の食材を楽しむべきですの。蕨や筍は保存技術があるから年中出回ってるけど、やはり収穫したての旬の味は別格。土筆はこの時期だけですし、蛤も旬のものは身の入りも味も最高……春キャベツは柔らかくて甘味があるから、子どもも大好き」
 などと広げた重箱の中身を一つずつ見せていくクリームヒルデ。山菜のおにぎりは艶やかな米に山菜の緑が映え、土筆の卵とじは春の野原を思わせる。筍土佐煮はじっくり煮込まれ瑞々しい色彩を放ち、蛤のボンゴレからは旬の蛤の艶と、丁寧に刻まれて臭みのないニンニクの香り。子ども受けが良かったのか、春キャベツを用いたメンチカツはやや多めに。
「それを肴に焼酎を呑む。最高じゃあないですか!」
 あ、違う!味が濃くて酒のツマミにしやすいからだな!?
「焼酎……いいですね」
 信者じゃなくて犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)が釣れてしまった……!
「春と言えば、出会いの季節ですね。私、猫に好かれるから、猫の写真を撮る事が多いんですよね」
 信者の視線に気づき、我に帰った志保は写真を取り出して。
「例えばこの子。河川敷の橋下にいた野良猫なんですけど、よく見るとオッドアイなんですよね。後、この子。一見ただの三毛猫ですけど、この猫、オスなんです!オスの三毛猫ってとっても珍しいんですよ!」
「何をおっしゃる、猫と言えばこれでしょう」
 対抗する信者がスマホを取り出して。
「猫集会!!」
「猫がいっぱい……」
 猫写真の同志が語り合う背後で、他の信者が思う。
「あれ、この子貴重なスカート女子枠なんじゃ……」
 などと、低い位置でスタンバった瞬間。
「おっと風が」
 わざとらしい一言と共に志保の回し蹴りが炸裂!信者の顔面を引っ掛けてフルスウィング!!
『同志ー!?』
 信者は春風の妖精さんになったのだ……。


「信者の皆さん!春といえば桜餅!桜の花びらを見ながら頬張れば、塩漬けの葉っぱの塩気とこしあんの甘味が、桜の香りと一緒に口の中に広がります!」
 大分戦場が混沌としてきたが、霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)が弁当箱を広げると中身はぎっしり詰まった桜餅。二段の重箱全てが桜餅。上を見ても下を見ても桜餅。
「いや、上にはちゃんと桜が咲いてますよ……?」
 苦笑するユーリは二つの重箱から一個ずつ桜餅を取り出して。
「ジャジャーン!二大派閥の長命寺餅と道明寺餅、両方用意してきました!たくさんあるので、良ければ食べてみてください!」
 同じ桜餅でありながら、全く異なる二つを並べたユーリは二種類の魔法瓶を取り出して。
「お茶も用意していますよぅ!緑茶とほうじ茶、どちらも桜餅との相性は抜群です!」
 味に合わせて温度も変えてある二本を並べて、さぁどうだ!のドヤ顔で胸を張るユーリだが、赤いジャンバーにショートパンツな彼女の肩をポムる者がいた。
「じゃあ、お着換えしよっか」
 食欲に憑りつかれたエヴァリーナである。
「なんだか明王が増えちゃいました!?」
 桜模様にフリルをあしらった和ゴスメイド服めいたサムシングを手に、有無を言わさぬ圧を放つエヴァリーナ。カピバラに変身することでその魔の手羽先を逃れて、全力ダッシュしようとするが脇腹をガッ!!
「お、鬼天竺鼠ならスカートもはけないですから!」
 抱き上げられたユーリは、これなら服はあるまいと解放を要求するものの。
「我がブランドVeneHavfrueにぬかりはないんだよ!」
「ぬわーっ!?」
 カピバラは和ゴスメイドになった!
「ど、どうしてこんなことに……」
 カチューシャが耳に当たる違和感にこそばゆさを覚えながら、てちてち。ユーリが更衣室から戻ってくると。
「米を使っていないのに餅だと?笑わせるな」
「神サンの米勝手につこうとうて、何抜かすねん!」
 あー、二種類の桜餅用意したりするから、信者の中に派閥ができちゃったかー。
「明王多すぎませんか!?」
 信者の後ろに鳥オバケの姿を幻視したユーリは、サーッと青ざめ……。
「いえ、青いのは元からです」
 そういやそーね。
「春の風物詩といったらなんといっても桜です。卒業による別れや入学による新しい出会いに儚さや彩りを添えてくれる、名バイプレイヤーなんですよ~」
 このままでは話が進まない。そう判断してノアルが割って入ると上を示し。
「見た目だけではありません。花びらや葉っぱも塩漬けにして様々な料理に使えるんです!桜餅にだって使われていますよね?」
『確かに』
 一呼吸置いた隙に、ノアルが畳みかける!
「少し経ったらさくらんぼも採れますし!ちなみに桜餅のあの独特の香りは塩漬けにしないと出ないんですよ、不思議ですよね~……ほら、皆さんもスカートばかり見ていないで目線を上げて桜を見なくちゃですよ!」
『あっ』
 ほぼ全ての信者が、スカートの事を忘れてましたね。
「はっ!私は何を……」
 おっと、鳥さんが目を覚ますが。
「はいドーン」
「トサカッ!?」
 永代が望遠鏡で後頭部を強打ァ!鳥さんが滅された!!


「さぁ、まずは一杯……」
 鳥さんが始末され、信者達にお酒を注いで回るミスラ。その姿は信者希望(?)で水着のままである。
「それでは、乾杯」
 中身を嚥下すれば、信者がミスラにしだれかかってくるではないか。
「一口で酔ってしまったんですか?」
 くすり、微笑むミスラだったが。
「あの……何を?」
 信者の手が、ミスラの臀部に触れている。大胆カットの衣装はその指先を阻むことなく、滑り込んだ体温が彼女の肌へと染み込んで。
「きゃっ!?」
 反対側から腕を掴まれたミスラは引き倒されてしまい、肌に直に触れていた指先は『前』へと滑る。
「あんっ……私のエッチなお花見をしたいんですね……」
 揉み解される肉体はその入り口を開き、扉を隠す布は払いのけられた。羞恥、恐怖、不安……ミスラの胸中に感情が渦を巻くが、腹の中を蠢く好奇心が両脚を開く。
「ん……ぁ……」
 内に迸る感情の熱が呼吸を加速させ、重なる肌の感触に心臓は早鐘を打つ。自らの入り口を開いた信者に向けて、蕩けた眼差しのミスラが囁くのは。
「お願い……来て……?」

「……ミスラさんいませんね?」
 ドーナツを回しながらカリカリしていたユーリが周りを見るが、彼女の姿はない……まあんな状態を他の人には見せられないからね、別行動にしておくのも仕方ないね!!
「まぁ番犬なら信者の誘導くらい、一人でも余裕でしょー」
「そーそー、変なことするなら、ぶん殴ってやればいいのよ!」
 クリームヒルデと志保は完全に焼酎で出来上がってますねー。
「私はまだ酔ってなんかないわよ?」
 サクサク、メンチカツ頬張りながら焼酎を煽るクリームヒルデに対し、志保はボンゴレを頬張りながら桜舞う空を見て。
「なんで暖かくなると変な奴が出るんだろうね?」
 え、今更?ちなみにソラマルが両前脚で持ち上げた看板がこちら。
『雪解けと共に頭の中身も溶けたんじゃない?』
「んー!この卵とじ、舌の上で蕩ける~!!」
 エヴァリーナがクリームヒルデの弁当食っとる……。
「おばちゃん達の分も残しておいて欲しいなー?」
「大丈夫、私にはこの後強力な援軍が来るから!」
 半眼のクリームヒルデにエヴァリーナがキリッ。山菜おにぎりをもしょもしょしていたユーリは思う。
(返事になっていないのでは……?)
 もしょもしょ、のびーっ。
「この後お弁当が届くそうですが……」
 カピバラは大きくあくびをして、ぐてーん。
「おなかもいっぱいで、ぬくぬくです……」
 うとうとし始めた時である、突然の衝撃が彼女を襲ったのは。
「ぐえっ!?」
「猫……猫……」
 酔って虚ろ目な志保がユーリを撫でまわしてる!?
「にゃんこはモフるのが流儀……!」
「ちょ、私は鬼天竺鼠で……にゅわー!?」

「何故俺がこんな目に……」
 某番犬のせいで文字通り山積みの弁当を作る羽目になった凶、鳥さん撃破後に現場入りの図。
「お、お疲れ様です……」
 食欲の権化【エヴァリーナ】に弁当の引き渡しを終えて、桜の木に身を預けて頭上の花を見ていた彼にノアルも苦笑しつつ。
「綺麗な桜の下にはいろいろ埋まっているという話がありますが、ここの桜には特に埋まっていないみたいなのでご安心ください~」
「何故このタイミングで!?」
 根元に座っていた凶がビクッとノアルの方を向くと。
「おや、珍しいですね?」
「な!?私だって普段着はちゃんとしてるんです~!!」
 ライトブラウンのワンピースに身を包み、赤いバッグを提げ、角を隠すようにチョコンと帽子が鎮座したスプリングスタイルのノアルが、痴女い(形容詞)印象を持たれていたことにツッコむその背後。
「……にやり」
 いたずら小娘な顔で桜餅を飲み込んだクロウが、そーっと、そーっとノアルに迫ると、丈の長いスカート部分の端っこに手をかけて。
「ノアルは……」
「ほぇ?」
「捲る!!」
 背後の気配に気づいたノアルが振り返った瞬間、クロウはスカートを思いっきりバッサー!
「ま、水着だから恥ずかしく……ない……よね?」
 ゆっくりと降りるスカートの先、クロウが見たものは黒い艶やかな布を縁取る白いレース、それを支えて太腿で縛られた紐。反対側にいた凶にもそれが見えているわけで。
「……えっ!?」
 ちなみにこれ、メタい事言うとアドリブじゃないんだよ。パフォ連携(事故)って怖いね!!
「えっと……なんか、ごめん」
 クロウが謝るも、真っ赤になって頬を膨らませたノアルは無言で座ったまま、スカートの裾を押さえており。
「いっぱい食べよう!ほら機嫌直してさ。はいあーん……」
 ぷいっ、そっぽを向いたノアルの頬を凶が両手で挟んで空気を抜き。
「よ、よちゅやしゃん!?」
「とりあえず、食べて、忘れましょう?」
 ね?と微笑む彼に、ノアルは半眼でじー。
「見ましたよね?」
「……」
 スッ……。
「目を逸らさないでください!埋め合わせを要求しますー!!」
「か、考えておきます……」
 それしか言えない凶なのであった。

「ってゆー感じだった」
「それ私に報告する意味ある……?」
 ところ変わってヘリポート。単独で帰ってきた永代はユキと並んで、未だ番犬達がお花見しているのであろう公園を遠目に見る。舞い散る花弁は見えずとも、薄紅の絨毯はここからでも十分に美しい。
「あ、これホワイトデーのお返しねん」
「たい焼き?」
 はみゅ。口にすればこざっぱりした甘味にそれを引き立てる塩味、そして何より春の香りが溢れ出す。
「あ、桜餅!」
「正確には桜餡ね?」
 味から直感的な感想を述べるユキに永代が笑いながら、帰還中にすれ違った凶からもらった弁当を広げ。
「桜餅と言えばさ……」
「え、戦闘中に新しいビルシャナ……?」
 桜の花を背景に、話の華を咲かせるのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。