生まれ変わっても夜道を照らす

作者:神無月シュン

 とある工場の裏手、廃棄物置き場に壊れた懐中電灯が打ち捨てられていた。
 そこへ夜の闇に紛れて、握りこぶし程の大きさの小型ダモクレスが姿を現す。
 機械で出来た蜘蛛の様な姿をした小型ダモクレスは、数多の廃棄物をよじ登り、壊れた懐中電灯の中へと入り込んだ。
 小型ダモクレスは入り込んだ懐中電灯に機械的なヒールを施し、融合を始める。
 バスケットボール大の球状の機械の体に、そこから伸びた4本の三日月状の足。そして頭上に付いている懐中電灯はまるでちょんまげの様。
 懐中電灯のダモクレスとして生まれ変わって早々、頭部の電灯を灯し数メートル先を照らす。
 ダモクレスは灯りを道しるべに、人を探して工場を後にした。


「呼び出しに応じてくれてありがとうっす」
「私が呼ばれたってことは、例の件よね?」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)に呼ばれたリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は他にも数名のメンバーが居る事に気が付き尋ねた。
「はいっす。工場の裏手に捨てられていた懐中電灯が、ダモクレスになってしまう事件が発生するっす」
 予想通りの内容にリサは頷くと続きを促した。
「幸いにもまだ被害は出ていないっすが、このまま放置すると多くの人が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうっす」
 その前に現場へと向かってダモクレスを撃破して欲しいとダンテは告げた。

「このダモクレスは主に頭部の懐中電灯から放つ光で攻撃をしてくるっす。だからって懐中電灯にばかり注意して体当たりを喰らわない様に注意して欲しいっす」
 現場は夜間の工場の裏手か、そこから通じる道路になるだろう。工場も勤務時間外で人はおらず、道路の方も人通りはないが、放置すればいずれ人の居る場所に辿り着くだろう。その前に何とかしたい。

「夜のおかげで近くに人は居ないっす。思う存分ダモクレスに集中してくださいっす」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
姫神・メイ(見習い探偵・e67439)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ


 夜の街道に一際眩い光が溢れ出す。光が収まると、中にはヘリオンデバイスを装着した8人のケルベロス。
 ヘリオンデバイスに不備がない事を確認すると、ケルベロスたちは現場の工場の裏手へ向かって移動を開始した。
「今のところ反応はないわ」
「ダモクレスが現れる前に向かいましょう」
 強化ゴーグル型のヘリオンデバイス『ゴッドサイト・デバイス』を装着した姫神・メイ(見習い探偵・e67439)と兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は敵の反応を探る。
 到着が遅れると、ダモクレスが工場の裏手から街道へと移動してしまう。一般人への被害を抑える為にも工場から外へと出すのは避けたい。
 工場へと急ぐケルベロスたち。その先頭では天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が『薔薇のハンズフリーライト』で前方を照らしながら進んでいた。
「廃棄される前は暗い所を照らしていたんでしょうね。どんな人でも暗闇を進むのは怖いこと。その救いの光が人を害するようになったのは心痛みますが、被害がでる前に食い止めましょう」
「まあ、工場にさり気なく転がっていた壊れた懐中電灯なんでしょうね。ダモクレスになった事でスポットライトになってしまったようですが。照らすだけなら問題無いんですが、害を及ぼすとなると……」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)と如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)の2人は横に並び言葉を交わす。自然に歩調を合わせる2人からは義姉妹であるお互いを信頼し合っているのが窺える。
「生まれ変わっても暗がりを照らし続けるのは、その心意気は素敵ですけど、人々に危害を加えるのは許せないですよね」
「その機能しかない機械なのだから当然の行動原理なのだろうが、生まれ変わっても、誰かを照らす使命を忘れなかったというのはある意味ロマンティックだな。私は、形と命が変わっても志を曲げずに居られることが出来るだろうか……」
 生まれ変わっても照らすことに固執するダモクレスの行動に紅葉と嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)の2人は感心していた。
 やがて話題はダモクレスの攻撃の一つへと移っていった。
「俺は目立つことは苦手なのだが、どうしても目立ってしまうならば仕方ないな。頑張って我慢する事にしよう」
 意図的に1人だけを目立たせるという、目立つことが苦手な者にとっては迷惑極まりない攻撃。自身が受けた場合どうするか、九竜・紅風(血桜散華・e45405)は心を決める。
「スポットライトかぁ、目立つのはちょっと苦手かな。あまり人目に付かない方がわたしの性に合っているわ」
「私も目立つのはあまり好きじゃないんだけどね、まぁ今回の依頼はそんな我儘も言って居られないわね」
 悠姫とリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)もまた、目立つのは苦手だと口々に言う。
「恥ずかしい、のは、苦手なので……なるべく喰らわないようにしたいところだが」
 そうも言っていられないだろうと槐。
「まぁ私は探偵だから目立ってナンボの物だとは思うけど、悪目立ちし過ぎない様に注意しないとね」
 目立つのは好きな方だとメイは平然としていた。
「人の前に出る事も多い立場ですから、目立つ事に関しては抵抗はないですね」
「私も普段から姉様を見てますので、目立つのも悪いことばかりじゃない事も知ってますし……」
 那岐と沙耶は目立った所で問題ないだろうと話す。

「反応がありました」
 現場に到着してしばらく隠れ様子を窺っていたケルベロスたち。暗闇に目が慣れてきた頃、紅葉が小型ダモクレスの反応を感知したことを告げた。
「予定通りダモクレスが工場を出る前に仕掛けるわ」
 リサの言葉に皆頷くと、立ち上がった。
「さぁ、行くぞ疾風丸。サポートは任せたからな!」
 紅風が声をかけると、相棒のテレビウム『疾風丸』が「任せろ」と画面を明滅させる。
「行きましょう、沙耶」
「はい、姉様」
 ケルベロスたちは戦闘態勢に入り、ダモクレスの元へと駆け出した。


 ダモクレスが融合を終え、廃棄物の山から下り工場を後にしようと動き出す。
 ケルベロスたちはその道を塞ぐように出口前に陣取っていた。
 ダモクレスが戦闘態勢に入るよりも早く、沙耶の杖から雷がほとばしる。雷は暗闇を切り裂きダモクレスに襲い掛かる。
「今のうちです姉様!」
「さて披露するのは我が戦舞が一つ……逃がしませんよ!!」
 那岐が得意とする戦舞。その舞が無数の朱色の風の刃を生みだし次々とダモクレスを襲う。
 目を閉じ感覚を研ぎ澄ます槐。飛び交う風の刃に紛れてダモクレスとの距離を詰めると、星型のオーラをダモクレス目掛けて蹴り込んだ。
「霊弾よ、敵の動きを封じ込めてしまいなさい!」
 風の刃が止み、次に襲い掛かるのは悠姫の放つ圧縮したエクトプラズムで出来た大きな霊弾。
「皆、援護するぞ。強力な一撃をお見舞いしてやれ!」
 紅風が前衛の援護する中、紅葉とメイは上空へと跳び上がった。
 その間に疾風丸の顔から閃光が放たれる。一瞬の光に紅葉とメイの姿を見失うダモクレス。
「さぁ、この飛び蹴りを避けきれますか?」
「まずはその動きを、封じてあげるわよ!」
 上空へと跳び上がっていた2人は夜空に輝く二条の流星となってダモクレスに蹴りを浴びせた。
 2人の蹴りを浴び、地面を転がるダモクレス。ようやく起き上がると悠姫に目掛けて自身を弾丸の様にして突撃する。
「っ!」
 バスケットボール大の球体がみぞおちにめり込み、息が詰まる悠姫。何とか衝撃を減らそうと咄嗟に後方へと跳ぶ。
「雷鳴の蒼螺子よ、その力で仲間を護りなさい!」
 リサがすぐにエネルギーの盾を形成し、悠姫の回復にまわる。
 追撃を警戒して沙耶は咄嗟にダモクレス目掛けてエネルギー光弾を発射した。光弾を浴びダモクレスが後退する。
 那岐は高々と跳び上がると、握りしめたルーンアックス『Luz de las estrellas』に力を込め、ダモクレスの頭上から叩き込む。ダモクレスが怯んだ瞬間、更に地上から槐が追撃を加えた。
「この弾丸で、その身を石に変えてあげるわよ!」
 悠姫はガジェットを拳銃形態に変形。撃ち出されるのは魔導石化弾。
 弾丸がダモクレスを撃ち貫き、紅葉の放った呪いがダモクレスへと纏わりついていく。
「さぁ、血で出来た槍を味わうと良いわよ」
 メイの手首に巻きつけられた血染めの包帯『聖痕の血祭』がシュルシュルと解けると、意志を持っているかのように独りでに螺旋を描きやがて一本の槍へと姿を変えた。
 空中で静止した槍がメイが手を振るのを合図に、ダモクレスへ向かって飛んでいきその胴体を串刺しにした。
 二歩三歩と後退するようによろけると体勢を立て直し、ダモクレスの体から闇が噴き出す。
 光の届かない暗闇に包まれたケルベロスたちは、咄嗟に身構える。
 そこに突如、一筋の光がリサを照らし出した。急な眩しさに目を瞑るリサ。恐る恐る目を開けると暗闇の中にただ一人、自分だけがここに存在している。そう錯覚してしまいそうな空間が広がっていた。
「きゃっ、わ……私、皆から注目されている? は、恥ずかしいわ……!」
 急に光が灯れば自然と視線はそこへと集まるわけで……。
 集まった視線を感じたリサは、顔から火が出る思いをした。


「くっ、眩しいな。そして皆から注目されるとは、なかなか恥ずかしいぞ……」
 何度となく繰り返されるスポットライト攻撃。今は紅風の番。目の前に手をかざし、眩しさを和らげようとする。
「光を辿ればダモクレスが居ると分かっていても、こう暗くなるとやりづらいですね」
 沙耶は光に向かって走り出すと、灯りの元――ダモクレスへと拳を叩き込む。続いて那岐が光り輝く斧を振り下ろす。更に混沌を纏った槐の一撃がダモクレスを切り裂き、悠姫が頭上からルーンアックス『月光天斧』を叩き込む。
「大地に眠る死霊たちよ、力を分け与えよ!」
 連撃が繰り出される中、リサは仲間の回復に専念する。
 回復したのも束の間、ダモクレスの懐中電灯から光線が放たれる。スポットライトの時とは一転、昼と間違うほどの光が、太陽の日差し以上の熱量を伴ってケルベロスたち目掛けて浴びせられる。
「血の中に眠る浄化の力よ、その魔力を解放し仲間を癒す奇跡を起こせ!」
 紅風が自身の傷痕から血を放出すると、神聖な魔力を帯びた血は霧となって仲間を癒していく。
 紅葉とメイが跳び上がり、蹴りを見舞う。
「勝利の運命を切り開きます!!」
 その隙に沙耶が詠唱を行い、出現した赤銅色の戦車はダモクレスに向かって突進した。その後ろに追従していた那岐の半透明の御業は戦車がダモクレスを轢き、通過した瞬間にダモクレスを鷲掴みにする。
「何処から来て、何処へ行く。宛てがなければ導きましょうや、袖振り合うも他生の縁」
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 鷲掴みにされているダモクレス目掛けて槐と悠姫の攻撃が炸裂する。
 漸く拘束から抜け出せたダモクレスが弾丸の様に突進する。
「おっと、させないよ」
 咄嗟に前へと躍り出た紅風がダモクレスの突進を身を挺して受け止めた。
「月光の如き華麗な剣捌きを、見切れますか?」
 紅葉の日本刀『紅の和み』から放たれた斬撃は緩やかな弧を描くと、ちょんまげの様だったダモクレスの頭上の懐中電灯がコロリと地面に転がった。懐中電灯を失ったダモクレスが呆然と立ち尽くす。
「私の眼は、欺けないわよ……」
 落ち武者の様なダモクレス目掛け、メイはトドメの一撃を放った。


「つ、疲れたわ。主に精神的に」
 ダモクレスだった残骸を見つめリサがため息を一つ。他のケルベロスたちも似たような状態だ。
「目立つのなんて慣れてしまえば、大したことないわよ」
 目立つ事が好きな方であるメイは、平然としていた。その様子に周りから羨望の眼差しが集まるが本人はどこ吹く風。
 早く帰還したい一心でケルベロスたちは片付けを始める。崩れた廃棄物の片付けと周辺のヒール。手分けして手際よく進めていく。
 程なくして後始末が終わった。
「さあ帰りましょう、沙耶」
「ええ。帰りましょう、姉様」
 那岐と沙耶は仲良く並んで帰路へとつく。
 2人の後を追うように他のケルベロスたちも、工場を後にするのだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。