とある百貨店では、3月末までホワイトデーフェアが開催されている。
老若男女問わず賑わっているのは、ここが珍しいからだ。
チョコレートや洋菓子など、中身は至って普通。
が、それらを包装するものが、自分で選べたり、ラッピングも自分で出来たりするのだ。
包装紙だけでも、オシャレな物。子供向けの可愛い物。シンプルな物。と、幅広い。
一番人気なのは、春を意識した桜柄の包装紙。チョコレートが10個ほど入る、可愛いハート型の缶など。
自分でラッピングをすると、感謝の想いや幸せを、ぎゅっと詰め込んだ素敵な贈り物になる。
ホワイトデーに限らず、贈り物としての購入も出来る為、一般客に大人気ということだ。
しかし――。
『洒落た物など男らしくない! 自分でラッピングとか面倒だし有り得ない! 相手に媚びるような事など、男ならするべきじゃない!』
百貨店から5メートルほど離れた場所で、ビルシャナが無茶苦茶な主張をしていた。
ビルシャナの発言に納得している者は信者になり、全く納得出来ない人は逃げ去っている。
信者以外に一般人の姿は無く、殺風景な空き地で、ビルシャナは信者達に教義を力説。
『真の男なら! プレゼントを貰う側だけに、なっていれば良いんだ! あんなラッピングしてまで、お返しなどするほうがカッコ悪い! 害悪でしかない、あのような場所は即、潰すべきだ!』
襲撃する気、満々のビルシャナ。
信者達は全員、ビルシャナの言動で正気を失っている為、ビルシャナと共に破壊活動を始めようとしていた。
「相手のことを想いながら、自由にラッピングが出来る。そして、贈ったり贈られたりするのは、幸せな事ですし、微笑ましい気持ちになりますね。……ですが、それを望まない人間がビルシャナ化し、破壊活動や配下を増やそうとしています。どうか、犠牲者が出る前に、一般人の救出とビルシャナの討伐をお願いします」
後半は残念そうな表情で語る、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
ビルシャナの言葉には強い説得力が有るので、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
信者らは、ビルシャナの言動で操られ、破壊衝動を引き起こされている。
倒すと死んでしまうほど、配下は絶望的に弱い為、戦闘になれば攻撃しにくい面倒な敵となる。
配下は、ビルシャナを倒せば元に戻る。
だが、死なせる危険性が有る以上、ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある主張を行ない、信者を正気に戻して配下化を阻止するのが最善だろう。
「ホワイトデーについて話していたり、ラッピングをどうするか、などの話をしていると、このビルシャナは襲撃よりも、そういう言動をしている人物を優先します」
信者は10名。男性5人、女性5人だ。
全員とも、男らしさに憧れている。
なので、男性側や女性側から思う男らしさや、ラッピングされた贈り物の良さなどを、語るのも良いかも知れない。
念の為、人払いをしていれば、完璧だろう。
「ビルシャナとなってしまった人は救うことは出来ません。被害が大きくならないように、撃破をお願いします。皆さんだけが、頼りです」
参加者 | |
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ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471) |
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284) |
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488) |
●
「ホワイトデーフェアに着いたら、私は、皆と一緒にラッピングを楽しんでみましょう」
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が敵と信者達の意識を、自分達に向ける為、良く聞き取れる声量で声を発して。
即座に、敵は襲撃するのを忘れたかのように、ミントのほうへ歩み寄り。
『女子がラッピングをするのなら、良かろう! だが真の男なら! プレゼントを貰う側だけに、なっていれば良いんだ!』
(「一般の人が立ち入らないように、キープアウトテープを、空き地の周辺に貼って置きましょう」)
敵が主張している隙に、霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)が、急いで立入禁止テープを貼る。
(「お菓子が食べられると聞いて!」)
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)も、キープアウトテープを念入りに貼り、一般人が空き地に近付かないようにした。
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は、周囲に一般人が居ないか、最終確認をする。
「どけぃ、偽りの男らしさを語る鳥め!」
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が、いきなり敵を素手でブン殴り、精神的ダメージを与えて。
急に殴られたショックで、ポカンとしている敵に対し、泰孝は拳を握りしめる。
「オレは年下の女子高生に生活費も、交友費も全て貰っている!」
泰孝の発言に、貢がれている勝ち組、と思ったのか、信者達は思わず拍手。
「そしてギャンブルで負けてどうしようもなくなった所で叱られてもなお、翌日にはお小遣いを貰って出かけている」
信者達の拍手が、ピタリと鳴り止んだ。
貢がれている勝ち組の筈なのに、感じられるのは、完全に駄目人間なオーラ。
更に話を聞いてみれば、ストーカー兼押しかけ女房な相手に、家に入り浸られているとの事。
つまり、完全にヒモであり、ニートでもある泰孝。
なにかが違う、と。
思い描いていた理想と現実の差から、我に返ったのは信者2名。
2人は脱兎の如く、逃げ去って行った。
●
『落ち着け、諸君! 教義を今一度、叫ぼう! 洒落た物など男らしくない! 細かくラッピングしてまで、お返しなどするほうがカッコ悪い!』
(「バレンタインデーに贈りものを頂けたのなら、ホワイトデーにお返しをするのが筋でしょうに」)
それに、と。ミントは思案を続けて。
(「ラッピングも自分ですることで、強い気持ちが込められると思います」)
信者達を鼓舞している敵へ、視線を向けたミントは、呆れている。
「ラッピングは、どんなに不器用でも良いのよ、頑張ってラッピングしたという事が伝われば、相手は喜んでくれるわ」
リサは、ラッピングの良さを伝えることを、念頭に置いて。
「自分の為にラッピングを頑張ってくれたり、自分に合ったラッピングの種類を一生懸命考えてくれた。女性側からしたら、その事実だけでも、充分に嬉しく思うものじゃないかしら?」
柔らかく微笑む、リサ。
「そのラッピングは、嬉しさや幸せを、一層引き立ててくれると思うわ」
リサの言葉を聞いている内に、そういう大切なことを今思い出した、と。
女性2人が正気に戻り、退場。
『ちょ、ちょっと待て! 真の男に憧れていたのでは無いのか!?』
「甘ーい! ラッピング1つ出来ないまま男らしくなろうなんて、そんな考え甘すぎる!」
敵が必死で元信者を呼び戻そうとするが、京華がそれを阻む。
『どういうことだ!?』
「最近は、何でも出来ないとモテないんだよ。なんだっけ、す、すぱ、ダリ? とか、言うやつ。それに、リサさんも言ってたように、不格好でも良いから気持ちを返そうとするのがカッコイイんじゃん」
京華のストレートな主張に、敵は反論出来ない。
(「可愛いだけがお洒落なわけじゃない。力だけが男らしさじゃない。紳士淑女な人ってめっちゃお洒落で素敵だもん」)
(「ホワイトデーか。3倍返しとまでは行かなくても、せめて受け取ったプレゼントのお礼くらいはしないと男らしくないわよね」)
京華とリサがそれぞれ、思いを胸に抱いて。
「この様に、自分のイメージカラー、自分の好きな物をラッピングする事で、オリジナルのラッピング……つまり、自分の個性を相手にアピール出来るのです」
事前に入手しておいた、自分のイメージでもある、青い薔薇柄のラッピングを見せる、ミント。
「より一層相手に自分の気持ちを判って貰えると思いますよ。ですので、自分でラッピングする事はとても大事なのです」
まるで背中を押されたような気分で、1人の男性信者が正気に戻り、ミントに礼を告げてから逃げてゆく。
それに対して、敵は全く反応しない。
何故かと言えば……。
「君は今から私と一緒にラッピングの鍛錬をしてもらいます! 鍛錬! 男らしいでしょ? まずは紙選びからね」
『やめろォーッ!』
京華が完全に、敵の意識を惹き付けていたからだ。
「皆さんは男らしさに憧れていると聞きました! ラッピングをしても、それでも男らしく、かっこいいとしたらどうでしょうか?」
機会を逃さず、信者達に対し、ユーリが元気良く片手を挙げて意見を口にした。
敵は京華と攻防を繰り広げている為、信者達は困惑気に耳を傾ける。
「想像してみてください。男性がプレゼントを包もうとしましたが、不器用で、不格好にしかラッピングできませんでした」
上手にラッピング出来ずに苦悩する姿を、ユーリは頭を抱えて仕草で示す。
「誰かに頼めばいいのに、お店の人に綺麗に包んでもらえばいいのに」
まるで吟遊詩人のように、右手を胸に添え、しみじみと語る、ユーリ。
「でも、これが今の、自分の限界」
自分の限界、と口にする時には、右手を強く握り、決心と覚悟が伝わって来るほどだ。
信者達は、ユーリの渾身の演技に、見入っていた。
「例え、それで呆れられてしまったとしても、その結果を恐れず……」
今度は両手を強く握ったまま、ガッツポーズをするかのように拳を上げて。
「嘘偽りのない自分を包み隠さず、自分だけの手で想いを包んで渡すんです! かっこいいと、思いませんか?」
想いを包んで渡す、と伝える時は、信者達に両手を大きく開いて、糸目で満面の笑みを浮かべる、ユーリ。
女性信者2人が大きく共感し、何度か頷いている内に正気に戻り、去ってゆく。
「フッ、きまったな、ユーリ。褒美にモフってやる!」
泰孝は単純にモフって癒したいだけだが、ユーリは嫌な顔1つせず、動物変身。
カピバラになったユーリに、泰孝は思いっきりモフろうと突っ込んで。
「……グワッ、これタワシじゃねーか!? 動物がモフモフじゃないだとぅ!?」
カピバラの毛は、ゴワゴワしていて、タワシのような毛と例えられるほど、かたくてしっかりしているのだ。
泰孝の残念度が更に上がって、残った信者達は不安そうに泰孝を見ている。
すると、彼らの視線に気付き、泰孝はニヤリと笑う。
「フッ……まだ俺の話を聞きたいようだな。人に貢いで貰う事を、男らしいと考えているお前らに! 教えてやろう!」
男性信者達の腰が引けているが、泰孝は構わず続ける。
「プレゼントを貰うだけ? 生活費を貰うのが羨ましい? ニートになりたい? 働きたくない? それらがどういうものか知らぬ癖に!」
唐突に大声を出す、泰孝。
「ある意味、生殺与奪権も握られ、頭が上がらぬ生活。それが、贈り物を貰うだけの……人に貢いで貰うだけの人間だ!」
これが本当に男らしいのか、と。
残念過ぎる上、インパクトも強烈な泰孝に、男性信者が2人、信仰を捨てて逃げてゆく。
残りの信者は、あと1人だけだ。
「不器用な子がプレゼントを渡すのが良いの! 貸し借りはしないって言い訳して、好きな子にホワイトデーのお返しをする。そういうシチュエーションが萌え……げふんげふん」
発した言葉を誤魔化すように、咳き込む京華。
「面子を気にして、義理と人情を大事にしない人なんて……」
京華は一度言葉を区切り、最後の1人に、ビシッと指を差した。
「全然男らしくない!」
とてつもないショックを受け、最後の男性信者は「言われてみれば……」と、我に返る。
「そんなわけで、作ったらちゃんとホワイトデーのお返しに行くこと!」
京華に言われると、男性は頷いて、立ち去る。
『ハッ!? 信者が1人も居ない!?』
置かれた状況に、慌てふためく敵。
どこを見ても信者が居らず、絶望している敵に、泰孝が適当に攻撃を仕掛けて。
「さぁ、炎よ……高く昇りなさい!」
連携する為に、あえて行動を見送っていたミントが、炎を纏った激しい蹴りを叩き込んだ。
「雷鳴の蒼螺子よ、仲間を護る雷の盾を展開しなさい!」
リサが形成した盾で、仲間の守りを強化。
「貰いたがりな鳥さんには拳骨です。反省してください」
拳骨で、全力の一撃を食らわせる、京華。
最後にユーリが、稲妻を帯びた超高速の突きで敵を葬った。
●
「お菓子が余りましたので、欲しい人はどうぞ」
ミントはメンバーを労い、お菓子を差し出す。
動物変身を解いたユーリと、泰孝が早速お菓子を食べて。
(「任務も終わったし、あのお店のお菓子買って帰ろうかなぁ」)
人払いを解除しながら、京華は百貨店に視線を向ける。
「折角だから、お店のお菓子も食べて行きたいわね」
それに気付いたのか、リサが提案。
向かった先、店内には色とりどりのラッピング用品が揃っていた。
「こちらの青い薔薇、綺麗ですね。こちらも捨て難いです」
青薔薇の飾りや、青薔薇模様の包装紙を見て、悩んでいるミント。
「皆はどんなラッピングにするのかな。紙選びのセンスが悪いとか、言わないでよ? え、紙じゃなくて包装紙?」
京華は店内を見て回ってから、自分でラッピングが出来る場所へ入り。
「ちょ、蝶々結びは出来るよ! 私がラッピング得意なんていつ言ったの? ……なんだっていいけど、この桜のとか綺麗じゃない?」
「春を感じさせるわね。とても良いと思うわ」
京華が選んだのは、桜柄の包装紙。
リサは褒めつつ、ミントと共に、お手本として、いち早くラッピングを完成させる。
それらを見ながら、京華もぎこちなくだが時間を掛けて。
やっと、素敵な贈り物を作り終えたのだった。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年3月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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