ミッション破壊作戦~踏まれた麦は強く育つ

作者:ほむらもやし

●萌える春
 昼間はあたたかいのに、朝の寒さはまだ冬を思い出す。
 春も始まったばかりと思っていたら、いつの間にかに野も山も黄色に赤、複雑な色味を含んだ瑞々しい緑が広がっていた。
「用意は大丈夫かな? 今月もミッション破壊作戦を行う」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は丁寧に頭を下げると、赤い印をつけた日本地図を広げる。
「これから攻撃に向かって貰いたいのは、屍隷兵のミッション地域だ」
『27-1 千葉県八千代市』
『28-1 鹿児島県臥蛇島』
『29-1 山形県最上郡』
『37-1 宮崎県日向市』
『38-1 石川県かほく市』
『40-1 山口県岩国市』
「攻略対象の屍隷兵のミッション地域は全部で6箇所。これから向かう1箇所を皆で相談して決めて欲しい」
 ここから先は経験者には既に周知されている内容だと、頭を下げてから、ケンジは話を続ける。
 ミッション破壊作戦では通常ヘリオンが飛ぶよりも高い高度からの降下を行う。
「戦術はだいたい確立されているようだけど、意思の確認は忘れないように。型に通りにしなければならないというわけじゃないけれど、全員が関わることになるのだからね」
 グラディウスによる攻撃を行った後、自力でミッション地域中枢部から撤退しなければならないリスクがある。
 方針や考えが正しくても、認識にズレがあると、現地で調整しなければならなくなる。
 ヘリオンデバイスの登場によって、撤退は楽に進むようになったが、使用方には仲間への配慮が必要だ。
 撤退を阻む敵に関しても、既に公開されているミッションのデータが有用である。
 全ての敵がデータと全く同じ攻撃手段しか持たないわけではないが、対策を立てておくのと、おかないのとでは違いがでてくる。
「グラディウスは降下攻撃の時に魔空回廊上部に浮遊する防護バリアに刃を触れさせるだけで能力を発揮する」
 手放すような使い方さえしなければ、叩き付けても突いても、切りつけても、構わない。
 防護バリアは強襲型魔空回廊の上に浮遊している。
 半径30メートルほどのドーム型であることが多い。
 順番に攻撃を掛けても良いし、思いを共にする者とともに、攻撃しても良い。
 グラディウスは一度使用すると蓄えたグラビティ・チェインを放出して主要な機能を失うが、1ヶ月程度グラビティ・チェインを吸収させれば再使用できる。
 自分で使用したグラディウスを、自分で持ち帰るのも、重要な任務だ。
「長い間、限られた数のグラディウスを大切に扱ってくれたおかげで、グラディウスの保有数が減ることもなく、戦果を積み重ねることができたのは、みんなのおかげだ。残存するミッション地域も、少なくなってきた。本当に感謝している」
 屍隷兵のミッション地域の状況は地域によってだいぶ異なる。
 無人島や農村地帯の移動に適した作戦が、都市化された市街地で同様に役立つとは限らない。
 場所に応じた適切な行動でとれば、メリットは自然に重なる。
 逆に不適切な行動を重ねれば、雪山を転げ落ちる雪球の如くにデメリットは膨れ上がる。
「敵が態勢を立て直し、孤立無援のまま撤退不能という。最悪の事態が発生する可能性は低くなっている。でも、戦闘や撤退に時間をかけ過ぎれば、平易と言える場所でも、あり得ることだから、絶対に忘れないで下さい」
 叫びは『魂の叫び』と俗称され、破壊力向上に役立つ。
 グラディウス行使の余波である爆炎や雷光は、敵を大混乱に陥れ、発生する爆煙(スモーク)は敵の視界を奪い、一時的に組織的行動が出来ない状況にする。
「スモークの濃さは撤退時間の目安になる。攻撃を終えてからスモークが有効に働いている時間は、多少のばらつきはあるけれど、長くとも数十分程度と言われる」
 敵中枢に大胆な攻撃を掛けた以上、一度も戦わずに逃走はできない。
 これまでのミッション破壊作戦による回廊の破壊成功はその後のミッション地域の開放に続き、復興活動へと繋がって来た。
「長い期間避難を続けたままの人が、まだたくさんいる。少しでも早く帰れるように力を貸してくれないかな?」
 平野では命を育てる太陽の光を浴びながら、実りが進む麦の穂が風に揺れている。
 山地では田起や代掻きが始まっている。
 自然と関わる人の営みは、人が生きている限り、途切れることなく続く。


参加者
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
青沢・屏(守夜人・e64449)
山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754)

■リプレイ

●降下攻撃
 千葉県八千代市は51キロ平方メートル、一辺が7キロメートルほど四角形の面積と同じくらいだ。
 人口密度は高く、この狭い土地に20万人もの人々が暮らしていた。
 八千代市への接近に合わせて高度を上げるヘリオン。
 山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754)は身体に掛かる重力の変化を感じながら、降下時間が近いと知る。
 窓の外には青みを帯びた闇が広がっている。
「市を南北に縦断しているのは新川ですね」
 撤退時にはクラッシャーを担当する、灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)のジェットパック・デバイスの支援を受けるため、道路や橋の影響は少ないが、状況を想定するには地形情報は役立つ。
「陸路なら橋を渡るよね」
 東西南北、大雑把に4通りの退路を想定する、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は、八千代市に継ぎ接ぎだらけの屍隷兵達が現れた日のことを想像する。
「状況移動距離は5キロメートルほどでしょう」
 ジェットパック・デバイスの最高時速30キロメートルなら10分程度で市域を抜けられるが、陸路を選択するなら撤退時間はずっと長くなっただろう。
 ……ところで『傀骸』って、今どこでなにを?
 討伐に失敗し、消息を絶ったと伝えられる『傀骸』。
 八千代市に出現した、継ぎ接ぎだらけの屍隷兵の見た目が、『傀骸』の作成した屍隷兵と類似していることから、『傀骸』の活動を想像できるが、依然消息は不明のまま。
 ただ、螺旋忍軍が本星と切り離された今も、元より己の我欲を満たすために活動していた螺旋忍軍の猛者は、かつてと変わらぬ悪辣さで活動している。と言われる。
 様々な思いが脳裏を巡り言葉を失うシルディに代わって、柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が口を開く。
「屍が屍を作り、次の兵の素材を作るか。効果的なのは認める。放っておいてもいくらでも動き、人々に害を成すしな。螺旋忍軍も厄介な技術に目を付けたもんだぜ」
「ここなら、材料……もいっぱいあるしね」
 材料が何であるかには語らぬが、誰もが知っている。シルディと橙羽は複雑な表情をする。
 朝日が東の地平線に顔を覗かせる。
 青暗い関東平野に巨大な絨毯を広げるように、東から西へ色彩が広がって行く。
「都心もよく見えるぜ。こんな場所にまだ、まだ屍隷兵が残ってるとはな」
 戦いはきれいごとばかりではないことは知っている。
 敗北という死、勝利によって罪が浄化されるのか、考えは時に複雑になる。
 降下開始を促すランプが点灯し、アラーム音が鳴り響く。
 開かれた扉から最初に飛び出したのは鬼太郎。
 眼下にある魔空回廊を防護するバリアに狙いを定めて、降下する向きを合わせる。降下時間は1分ほど。
 数十秒後にはもう攻撃を終えていると思うと、短時間で気持ちに折りあいをつけなければならない。
「だが俺は気に食わねえ。死した後も同意なく利用され続けるなんざ恥をかかされ続けているようなもんだ」
 降下速度は増し、バリアの存在感も急速に大きくなる。
「だからよ、断ち切ってやろうぜ、グラディウス!」」
 鬼太郎は気持ちを込めて握り絞めたグラディウスをバリアに突き降ろした。
 グラディウスの刃先とバリアが接触した瞬間、光が爆ぜて破壊の力が噴き出した。
(「記憶もないし、特にやりたいこともない……」)
 波紋のような空気の揺らめき遠くまで広がって行く、そして攻撃目標を起点に溢れ出た爆炎が街並みを嘗めて行く様が、青沢・屏(守夜人・e64449)の両瞳に映る。
「こんな私でも、他人の死体を弄ぶことはなんと冒涜と罪深い行為であるか、知っています!」
 死体とは生きていない身体というだけで、故人そのものだ。
 道具にすら使っていた人の魂が宿るとも言われる。身体であればなおさらだろう。
「死者たちの悲しみも、痛みも! 終わらせる!」
 万感を込めた叫びと共に、圧倒的な存在感を放つバリア目掛けて、屏はグラディウスを叩き付ける。
 瞬間、閃光が爆ぜて衝撃と激痛が来る。
 手の感覚が無くなりかける。激痛に意識が飛びそうになる。
「貫け! グラディウス!」
 それでも屏は精一杯の力を込めて、刃を押しつけ続ける。
 この日2つめの火球が生まれ、爆発が大地と大気を揺さぶる。
 それは破壊の力は、グラディウスを行使する自分たち以外全ての物に襲いかかる。
 間髪を入れずに、膨れ上がる火球を破るようにして、橙羽が突っ込んで来る。
 なぜ?
 どうして、それほどに好き勝手に動けるのか。
「螺旋忍軍は僕が地球に来るよりずっと前にゲートを失い、果ては本星すら失って久しいのに」
 心の中に湧き上がる疑問。
 それらを解くことは恐らく困難だろう。
「定命化を受け入れようとしないどころか、いつまでも己の欲望の為に人の命を、遺体を、尊厳を玩具にし続ける奴を……僕達は決して許さない!」
 そうであったとしても、今ならここ八千代市を開放し、悪行を阻止し、長きに渡って続いた忌まわしい状態に終止符を打ちたい。
「八千代市の人々を守る為にも、必ず回廊を破壊してみせる!!」
 閃光が爆ぜる。今度は広葉樹の巨木が枝を広げるように雷光が広がった。そして爆炎が生み出す熱が生み出す上昇気流によって大量の黒い影が宙に舞い上げられる。
 ほんの短い間。シルディ・ガードの脳裏に記憶の中にある平和な光景が影絵の如くに流れる。
(「団地で周りはひときわ多くのご近所さん。
 朝のご挨拶からいってきます――して、
 公園に皆集まっていっぱい遊んで……」)
 空中に舞い上げられた黒い影が触手に如くに伸びる雷光に貫かれて塵と消える。
 記憶の中の今はない非現実の日常と、いま周囲で起こっている地獄の如き、非現実的な出来事が、硝子絵を重ねたような複雑さをもって見えた。
 あの黒い影は、ここ八千代市に住んでいた子どもたちも含まれているのかも知れない。
(「おゆはんの香りがしてお母さんが呼びに来て、
 みんなにバイバイして」)
 再会を前提としたバイバイは平和だった何ごともない日々との、永遠の別れとなって。
「とっても好きで楽しかったのに、避難でご近所さんがバラバラになっちゃった……って」
 瞬間、シルディの握るグラディウスとバリアが接触する。
 閃光が爆ぜ、風景が白い輝きで満たされる。
「悲しそうなあの子の、皆の場所を、取り戻すために!」
 グラディウスは叫びに応えて内に蓄えたグラビティ・チェインを放出する。
 陽射しを浴びた雪が融けるようにバリアが薄くなって行く。
 上から見れば、巨大なマッシュルームの傘の如きバリアが崩れ始める様が、グラディウスを構えて攻撃姿勢に入った恭介と煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)の目にも見えた。しかしバリアが崩壊の兆しを見せるも、その変化に心を動かさない恭介。
「罪なき人々を己の欲望のために殺すだけでは飽き足らず、醜悪な怪物にするなど許し難い!」
 そこにあるのは、行為への怒りと止めさせなければならないという使命感。
「命はおろか死者の尊厳まで奪う所業、外道という言葉も生温い!」
 間近では一面の壁、しかし融けかけた氷の如くに見えるバリアを目掛けて刃を突き出す。
「死した者達の苦しみと無念、この一撃で思い知れ!」
 巨大な火柱が立ち昇り、バリアを削り取って行く。
「何と醜く悍ましい存在なのでしょう!」
 カナは叫ぶ。火柱と共に宙に舞い上げられた数え切れない程の黒い影が灰となって消えて行く。
「このようなものを作るために、どれだけの人々を犠牲にしたのですか!? 絶対に許せません!」
 次の日に学校で遊ぶ約束をしたまま、子どもたち、明日やればいいさと、定時で退社した会社員の人たちも、屍隷兵とされた死体の多くは、生きて明日を迎えることを疑いもしなかった人たちだろう。
「屍隷兵にされたあなた方を救うことはできませんが、眠らせることはできます!」
 熱せられた空気に生き物の焦げるような異臭が混じっているような気がした。本当は救いたい、けれども救う手立てはなく、ただ出来ることは、破壊による死、永遠の眠りにつかせること。
「せめて、苦しむことなく私達の手で安らかに眠りなさい!」
 ひとつだけ、願いを込めてカナは突き出した。
 グラディウスから蓄えた力が放出し尽くされると同時、バリアと回廊は呆気なく消滅した。

●撤退戦
「ここは良くない。すぐに出発しましょう!」
 カナが合流し、全員が揃うと同時に、屏と橙羽は出発を急かした。
 一行の姿はスモークで姿が隠されているはずだが、ゴッドサイト・デバイスに表示された情報は、それほどまでに差し迫ったものであった。
『ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』
 だが、耳障りな哄笑が響き渡る。この場所での戦いが避けられないと誰もが直感する。
「だめですか……来ます!」
 屏の警告が飛ぶよりも早く、シルディと鬼太郎は敵の襲来を察知して動き出していた。
 戦いはなにが起こるかは分からないが、分かっていないことには手の打ちようがないが、分かっていることには手を打つことはできたはずだ。
「前は俺が守る、だから後ろは任せたぜ!」
 そう言い置いて、鬼太郎が前に出た瞬間、煙の中に大量の眼球が現れて、そこからの大量の視線に貫かれる。
 痛みは無かったが身体が痺れ、地面が無くなり宙に浮かびあがるような感覚と共に、群衆の笑い声が頭の中に響き渡り『目の前の敵を殺さなければならない』といけないという気持ちだけが鬼太郎の中で膨れ上がる。
 同様に、前衛に立つ恭介も催眠のバッドステータスに囚われる。
「早く、敵を倒すんだ……」
 術は見えてはいた。だが避けきれずに、その術に落ちた、恭介と鬼太郎、ウイングキャット『虎』は向かい合う。
 次の瞬間、恭介の刃が鬼太郎に襲いかかる。
「おねがいだよ! 正気に戻って!!」
 悲鳴にも似た、シルディの願いと敵の哄笑が同時に響く中、メタリックバーストの輝く銀色が煙の中にゆっくりと広がって行く。
「糞、やられたぞ!」
 2人とウイングキャットの様子を見遣った、屏と橙羽は内心安堵の吐息を零す。
 そしてもうこれ以上、敵に好き勝手はさせまいと、心の中で誓って、攻勢に出る。
 動きを止める。その一点に狙いを絞って、橙羽は宙高く跳び上がる。
 継ぎ接ぎだらけの巨体を衝撃で縛り付ける流星の輝きを纏った蹴りの一撃だ。
 次いで、動きを鈍らせ、置物の如き人形と化した巨体の間近に踏み込んだ屏が渾身の力を込めて達人の一撃を放つ。卓越した技量を思わせる一撃が巨体に縫い付けられた、うめき声をあげる少女の喉を裂いて体液を噴出させる。
「安らかに、眠って下さい」
 顎から額の方へ向かって斬撃を向かわせると、少女の顔はお面のように剥がれ、水音と共に焦げた地面に落ちて、うめき声は消えた。
「今まで苦しかったでしょう。もう終わりにしまよう、こんなこと」
 カナの手から放たれた半透明の御業が光輝を纏い、蓮花の如くに膨れ上がる。それは操傀兵を包みこむと容赦なく鷲掴み、継ぎ接ぎだらけの巨体をどろどろとした臓物を寄せ集めたような赤い塊に変えた。
 艶を帯びた濃緋の花が、咲かせてはいけない花が咲いたように見えた。一息吸い込めば気がおかしくなりそうな腐臭とも血臭ともつかない匂いが立ちこめる。
『ヒャヒャヒャ! チヲ、チヲ、モット、ケヒャヒャヒャ!!』
 赤い塊と化した操傀兵は、胸の裂け目に開いた鮫の如き口から哄笑と共に意味があるのか無いのか分からない音を吐き出す。
「回復だけじゃないよ。仲間を呼び集めようとしているんだ!」
 異変を直感したシルディは、猫が身体を跳ね上がらせるようにさせながら言った。
 まだスモークの濃さは充分あり、直ちに敵が押し寄せるということは無いかも知れないが、周囲で蠢き膨れ上がる殺気のような気配は、海が見えなくとも感じる潮の気配の如くに、何となく感じられる。
「ありえます。慌てずに急がないと――」
 戦闘前にゴッドイトデバイスに示された、敵の分布が厳しいことは、屏も橙羽も承知していたが、今はそれを確認出来ない。
 風が起こり、橙羽の夕陽の如き橙の髪を揺れた。
「そうですね。倒さなければ撤退できないのには、変わりはありませんし」
 風に乗せるように放られた妖精の粉が橙の輝きを帯びる。敵に向かって行くそれは夕焼けの海岸に押し寄せる波の様に、動きを鈍らせる。
 屏は少しでもダメージが大きくなるように、重ねるダメージの総計が大きくなれば、その分だけ撃破が早くなるという事実を信じて、星形のオーラを蹴った。
 守りに徹する敵は固く。泥沼の持久戦に突入するかと思われた。
「思い通りにはさせません」
 バッドステータスの解除に難のある相手だ。カナは氷と捕縛を重ねると共に、不意打ちの痛打を警戒して、着実に超音速の拳を打ち込む。
 敵は、氷のバッドステータスに体力を削られ、捕縛のそれにより動きを阻害しされ続ける。
 無数の魔眼を浮かびあがらせて、攻勢に転じる敵。しかしその視線は鬼太郎と恭介を貫けなかった。
「そろそろ仕舞いにしようぜ」
 敵の意識を引きつけようと、何度も繰り返した組み付き。鬼太郎の顔に肉と臓物の塊が密着する中、ウイングキャットが鋭く伸ばした爪で素早く引っ掻く。
 こぼれ落ちるのは血だけは無く、臓物や肉や骨の欠片まで混じっている。
 まだ倒れないのか?
 ウイングキャットと共に間合いを広げる鬼太郎。
 入れ替わる様に地獄の炎を纏った、恭介が突っ込んで行く。
「悪しき貴様の命、ここで断ち切る! そして塵一つ残さず燃え尽きろ!」
 このような屍隷兵をもう作らせてはならいと戦った。
 しかし、コレを作った主、螺旋忍軍『傀骸』は行方知れずのまま。
 それでも焼き尽くす。
 遣り場のない怒りとともに、炎を纏った剣を叩き付ける。
 鮮やかな橙色が、赤黒い敵の身体を覆い尽くし、鮮やかに輝いた。
 輝きの中で、力尽きた操傀兵は灰を散らしながら消えて行く。
 異臭を含んだ生温かい風が吹きはじめて、スモークが急激に薄くなり始めた。
「南です!」
 ゴッドサイト・デバイスが示したのは、道路を移動する敵の動き。
「数は多めですが、偏りがあります」
 屏と橙羽に告げられた情報と判断に基づいて、ジェットパック・デバイスの牽引ビームに引かれて空に飛び上がる一行。
「それでは出発だ。引き続きナビゲートは頼む」
 廃墟と化した街の道路の上空を避けるようにして飛行して暫く、発見した通常のミッション攻略中のケルベロスとの合流を果たし、回廊の破壊成功を告げる。
「お疲れ様でした! ありがとう!」
 それぞれの胸中には棘のように刺さった疑問もあるが、今はどうしようもない。
 それよりも、6名で最善に近い結果を得られたことを喜びたい。
 そしてこの地に残存する屍隷兵が一掃され、八千代市全域が解放されるのも間もなくのことだろう。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年5月3日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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