ラストミッション破壊作戦~森は森に

作者:土師三良

●音々子かく語りき
「遅ればせながら、日本列島防衛戦での大勝利、おめでとうございまーす!」
 グルグル眼鏡をかけたヘリオライダー――根占・音々子が元気な声を響かせた。
 彼女の前に並ぶのはケルベロスたち。このヘリポートに緊急招集されたのだ。
「何故に今頃になって日本列島防衛戦の話を持ち出したかといいますとー。あの戦争の際に逃げやがった『大罪竜王シン・バビロン』の動向を掴むことができたからなんですよ」
 ケルベロスの軍勢に魔竜結界を破られ、海中へと姿を消したシン・バビロン。
 ヘリオライダーたちが予知したところ、彼の逃亡先は富士の裾野――幻想ユーピテルが居座る強襲型魔空回廊だという。
「いわゆる一つのミッション地域ですねー。しかも、そこに潜伏しているのはシンバビだけじゃありません。同じく戦場から撤退した攻性植物勢力の『森の女神メデイン』と『光世蝕仏』も居場所をシェアしちゃってるみたいです。富士の樹海と攻性植物ってビジュアル的に相性が良さそうですもんねー」
 シン・バビロンはグラビティ・チェインの枯渇状態にある。近日中にミッション地域から出て市街地を襲撃し、グラビティ・チェインを略奪するはずだ。そして、竜業合体を支援していた(その真意はさておき)『聖王女アンジェローゼ』の遺志に従い、メデインと光世蝕仏はシン・バビロンに協力するだろう。
「しかーし、シンバビや攻性植物の残党たちは市街地で暴れ回るどころか、ミッション地域から出ることさえできないでしょう! なぜなら、奴らがまだミッション地域にいるあいだにこっちから攻め込んじゃうからでーす! これを使って!」
『じゃじゃーん』という声とともに音々子が空に突き上げたのは長さ七十センチほどの小剣。
 そう、グラディウスだ。
「シンバビどもがミッション地域に逃げ込んだのは却って好都合! ミッション破壊作戦と同じ要領で強襲型魔空回廊をドカーンとやっちゃってくださいなー! ……あ? ミッション破壊作戦に参加したことないかたには『ドカーン』だけでは判りにくいですかね? ざっくり説明しますと、ヘリオンから降下して、魂の叫びというのを発しながら、グラディウスを振り下ろせばいいんですよー。こーんな風に!」
 音々子はグラディウスをぶんぶんと振り回した。グラディウスにはなにも変化が起きなかったが、ケルベロスたちがそれを手にして魂の叫びを放った時には刀身が光り輝くことだろう。
「強襲型魔空回廊は大きな透明のバリアに覆われてるんですよー。魂の叫びを託されたグラディウスの刃が突き立てられることによって、そのバリアは強襲型魔空回廊もろとも四散します。グラディウスの破壊力は魂の叫びに左右されますが、大声で『わー!』って叫べばいいわけじゃありませんよ。重要なのは声の大きさではなく、それに込められた想いの強さです。十二分に強い想いであれば、声が小さくても構いませんし、ただ念じるだけで構いません」
 グラディウスが発動する際には(強襲型魔空回廊の破壊の成否にかかわらず)激しい雷光と大量の爆煙が発生する。本来のミッション破壊任務であれば、その雷光と爆煙に紛れて撤退するのだが、今回の目的は敵を倒すことだ。
「メインとなる標的は四体。ミッション地域の主であるユーピテル、ハラペコ状態のシンバビ、そして、メデインと光世蝕仏です。皆さんはメデインの相手をしてください」
『森の女神』の二つ名を持つメデインは鹿型の攻性植物。人間に虐げられていた不幸な動物たちを攻性植物化してアンジェローゼの陣営に引き入れようとしていたことで知られている。もっとも、動物たちはアンジェローゼの傘下に加わることよりも人間に復讐することを選び、その結果、ケルベロスたちに倒されてしまったが……。
「虐待されてた動物さんたちからしてみれば、まさに女神みたいな存在なのかもしれませんが、人間の側から見れば、凶暴な攻性植物を増やしてくれちゃった厄介な奴なんですよねー。しかも、ドラゴンなんぞに協力しているもんだから、厄介レベル増し増しです。今以上に厄介になっちゃう前になんとしてでも倒してください」
 一通り話し終えると、音々子は再びグラディウスを頭上に掲げた。
「では、行きましょー! 日本列島防衛戦での大勝利をより完全なものにするために!」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ラッセル・フォリア(羊草・e17713)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)
ミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)

■リプレイ

●森の上高く
 富士の樹海の上空を数十の人影が舞っていた。
 六機のヘリオンから飛び出したケルベロスたちだ。
「この下にあいつがいる」
 迫り来る樹海を見据えて、兎の人型ウェアライダーのミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)が呟いた。グラディウスを握りしめて。
「森の女神……いえ、女神なんて呼びたくない。侵略者メデイン。群れの頭を自称して切った空手形がこの始末……」
「これ以上、女神の名を使っての蹂躙はさせない」
 続いて口を開いたのは妖剣士のラッセル・フォリア(羊草・e17713)。
 彼はメデインに会ったことはないが、間接的にかかわったことがある。二箇月ほど前、メデインに攻性植物化されたモルモットたちを倒したのだ。
「竜と結託し、更なる悲劇と破壊を企む君たちを放ってはおけない。そう覚悟を決めて剣を取った。さあ、決着をつけようか!」
「虐待されていた動物たちを助けてあげたい――その気持ちはよく判ります! ですが、あなたは命だけ助け、後は放置した!」
 兎の獣人型ウェアライダーのカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)もモルモット退治に参加したケルベロスだ。
「親には子供を守る義務があるし、子供を教育する義務もある! その義務を放棄したあなたは、虐待していた人間どもとなにが違うというんだ!」
「傷ついた者を救おうとして、行き着いた先が竜の道連れか……」
 狩衣を模したコートの裾を突風にたなびかせて降下しているのは櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)。
「悪いが、竜でもここは守れない。俺たちが必ず取り戻す。デウスエクスの安住の地はもうこの星にはないんだ。それでも、まだ理想を追い続けるのか? それとも……決断を聞かせろ、メデイン」
「ボクはおまえが嫌いだ、メデイン」
 ヴァルキュリアの豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)はストレートに怒りをぶつけた。
「虐められた動物たちを人間に仇なすように無責任にけしかけて……その結果、動物たちはケルベロスたちに討たれた。なんの救いにもなりはしない。苦しみをまた味あわせただけじゃないか。何度でも言う。ボクは……おまえが大嫌いだ!」
「救済を願うメデインの気持ちは本物だったのでしょう。しかし、彼女がなした救済はまやかしです。攻性植物の歪んだ力で痛みをごまかしただけ」
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)が淡々と語り出した。
 すぐに『淡々と』ではなくなったが。
「本当の救いとは、痛みに寄り添い、支え、乗り越えた先にあるんです! 僕は逃げずにそこを目指す! 真の平和を勝ち取ってみせる!」
「そう! 勝ち取るよ!」
 ヴァルキュリアのエマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)が声を張り上げた。
「空飛ぶ巨大戦艦でギューンと飛んでって、バーンとぶっ放して、ドカーンとやってね! それが最新のトレンド! 強襲型魔空回廊なんかで攻めるのはもう時代遅れ!」
 そのように皆が燃えている中で――、
「閉じた帳を開きましー」
 ――着物姿のフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)だけはにこにこと笑っていた。
 しかし、サークレットが展開して額の弾痕が覗くと、彼女も燃え始めた。
 物理的な意味で。
 弾痕から地獄の炎が噴出したのだ。
「砕kIテ壊レヨ、森ノ理ィ!」
 狂気の哄笑を響かせるフラッタリー。
 もっとも、その笑い声を聞いた者は一人もいなかった。
 全員のグラディウスが魔空回廊のバリアに触れ、大爆発が起きたからだ。

●森の中深く
 樹海の中にケルベロスたちは降り立った。
 遠雷を思わせる爆発音の残響が聞こえてくる。
「グラディウスを使ったのは初めてだけど――」
 兎の耳を伏せて、ミレッタが周囲を見回した。木々が揺れ、無数の葉が雨のように振っている。
「――すごい迫力だねー」
「迫力に見合う成果はあったかな?」
 姶玖亜が首をかしげる。
「たぶん、ありましたのー」
 フラッタリーが言った。口調からも判るようにサークレットは元の形に戻り、地獄の炎は沈静化している。
「バリアの強大なプレッシャーがー、消えておりますからー」
「まあ、破壊できないほうがおかしいですよね。五十人近くものケルベロスが想いをぶつけたんですから」
 カロンがジェットパック・デバイスを噴かして上昇した。同じくジェットパック・デバイスを装備したラッセルがそれに続く。
「敵影、多数!」
 エリオットが皆に告げた。着地した時からゴッドサイト・デバイスで索敵していたのである。
「あちらから来ます!」
 黒灰色の爆煙に包まれた場所――魔空回廊の中心部だったであろう方向をエリオットが指し示すと、数秒も経たぬうちにその爆煙の奥から異形の獣たちが次々と飛び出してきた。
 会敵したことでデバイスの索敵機能は使えなくなったが(非戦闘時しか使用できないのだ)、なんの問題もなかった。
 探すまでもなく、標的が見つかったからだ。
 それは獣たちの最後尾にいた。
 尻尾の代わりに蔓を生やし、角の代わりに枝を伸ばした、白い鹿のようなデウスエクス。
「メデイン……」
 鹿の名を呟き、空中のラッセルが左腕を水平に振った。
 それに合わせて、横に滞空していたカロンが右腕を振り下ろす。
 前者が発動させたグラビティはニブルヘイムシール、後者のそれはアイエスエイジ。霜の絨毯が獣たちの足を地面に貼り付け、吹雪の形をした精霊が急降下して襲いかかった。氷結のサンドイッチ。
 しかし、獣たちは深手を負いながらも怯むことなく、次々と反撃した。
「おっと……」
 一頭の獣(四つの目を有した狼とも山猫ともつかぬもの)の繰り出した蔓型の触手が千梨の肩に突き刺さった。もっとも、その触手が狙っていたのはエリオットである。千梨は盾となったのだ。
「なあ、メデイン。虐待された動物たちに対するおまえの救いと誘いは――」
 触手を掴んで引き抜きながら、千梨はグラビティ『神便鬼毒花』を発動させた。
「――本心からのものだったのか? それとも、戦力増加のための方便だったのか?」
 小さな花々が地面に咲き乱れ、棘を有した茎でメデインを絡め取る……と、思われたが、その攻撃を受けたのは例の四つ目の獣だった。千梨と同様、盾となったのだ。千梨と違い、そこで息絶えてしまったが。
「方便じゃなかったとしても許せない。あまりにも無責任だから」
 ミレッタが喰霊刀の『来』を一閃させた。攻撃ではなく、魂うつしを行使するために。
『来』からエネルギーを受け取ったのはエマ。オーバーアクションでゲシュタルトグレイブを構え――、
「ゲイボルゥーグッ! 投、擲、法!」
 ――技名を叫びながら、天に投じた。
 何十本もに分裂して獣たちに降り注ぐゲシュタルトグレイブ。
 その隙間を竜砲弾が通過した。撃ち手はエリオットだ。
「メデインの気持ちは本心だったのかもしれませんが――」
 エリオットの視線の先で砲弾が炸裂した。
 しかし、メデインは無傷。またも別の獣が盾となり、そして、散ったのだ。
「――それは動物たちの深い悲しみから目を背けた独りよがりなものでしかなかった」
 エリオットの脳裏に一頭の犬の姿が浮かんだ。悪徳ブリーダーに出産機械として扱われ、メデインによって攻性植物化し、エリオットが仲間たちとともに殺害した犬。
「ほんと、独りよがりだよねー」
 エリオットに同意する姶玖亜の足下を球状のものが転がった。樹海には似つかわしくないタンブルウィード型の攻性植物。
「恨み骨髄な動物たちが復讐に走るのをそのままにして、自分は安全な場所で偽りの慈悲に酔うとか……控え目に言って、胸クソ悪い!」
 姶玖亜の怒声に応じるかのようにタンブルウィードが黄金の果実の光を照射した。
「私としてはー、とくに思うところはありませんがー」
 光を浴びた一人であるフラッタリーが、包帯まみれの右腕を頭上に突き上げた。
「それはそれとして、メデインさんはー、とてもよく燃えそうですのー」
 再びサークレットが展開し、弾痕から地獄の炎が噴き上がる。
 炎は右腕に燃え移って包帯を焼き尽くし、黒檀の縛霊手を顕現させた。
「燃Eヨ、偽善nO女王! hiGhニナッテ灰トNAレ!」
 無数の紙兵が縛霊手から飛び出し、ケルベロスに異常耐性をもたらした。

●森の外遠く
 獣たちが一体また一体と斃れていく。
 メデインは幾度もヒールを施したが、戦況は好転しなかった。
「理解できませんね」
 焼け石に水も同然のヒールを繰り返しながら、メデインが悲しげな声を出した。
「モtoヨリ理解ナド求Mεテイナイ」
 フラッタリーが千梨の背後に回り込み、縛霊手の指で後頭部と脊髄を突いた。経絡を刺激して防御力を高めるグラビティだ。
「なにが理解できないっていうの?」
 取り付く島もないフラッタリーに代わって、ミレッタが尋ねた。攻撃の手を休めずに。
「私に対するあなたたちの暴言の数々です」
 メデインの声からは憐憫の情が感じられた。無知な罪人を教え諭す聖者のような心持ちなのだろう。
「あなたたちは無責任だなんだと言って責めていますが、私は動物たちに復讐を強要した覚えはありません。彼らや彼女らは皆、己の意思で選択しました。私はその選択を尊重したまでです」
「尊重じゃなくて、放棄じゃないですか」
 カロンがペトリフィケイションの光線を放った。
「降下時にも言いましたけど、親には子供を守る義……」
「動物たちは私の子供ではありません」
 メデインはカロンの言葉を遮った。
「そして、服従を誓った兵士でもありません。そんな彼らや彼女らの選択を尊重することが間違いだというのなら、いったい、なにが正解なのですか? 最初からなにも干渉せず、死ぬに任せればよかったのですか? 人間に虐げれていた無力な者たちを?」
「確かに、いちばん悪いのは動物を虐めた人間たちかもしれない。だけど……いや、だからこそ!」
 姶玖亜がメデインに指を突きつけた。
「人間に恨みを持つ動物が力と知恵を持てば、報復に走るのは火を見るよりも明らかじゃないか! そんな判り切ったことをするなんて、動物たちを死地に送り込むのと代わりはしないよ!」
「『判り切ったこと』ではありません。私の提案を受け入れ、復讐に走らなかった動物たちも少なからず存在したのですから」
「その動物たちはどうなったんだ? もしかして――」
 千梨が異形の獣の群れに視線を巡らせた。
「――こいつらがその成れの果てなのか?」
「いいえ。私が救った動物たちは戦闘に加わることなく、静かに暮らしていました」
「暮らしていた……」
 と、ラッセルが復唱した。ガトリング銃で獣を蜂の巣にしながら。
「過去形なんだね」
「はい。非戦闘員だったはずの彼らや彼女らは皆、死にました。拠点である攻性惑星があなたたちに墜とされてしまったので……」
 罪なき動物たちにとっては不幸な結末ではあるが、ケルベロスが罪悪感を覚える必要はない。攻性惑星を撃墜したのは、竜業合体ドラゴンとの合流を阻止するためだったのだから。
 しかし、そもそも攻性植物の勢力が竜業合体ドラゴンとの合流を図ったのは、ケルベロスに追い込まれたからだ。
 しかし、そもそもケルベロスが攻性植物と戦っているのは、人類を守るためだ。
 しかし、そもそも攻性植物を始めとするデウスエクスが人類を襲うのは、生きるためにグラビティ・チェインが必要だからだ。
 断ち切ることのできない負の連鎖。
「とはいえ、その件であなたたちを恨むつもりはありません」
 メデインが微笑を浮かべた。優しく、悲しい微笑。
「人も動物もデウスエクスも他者の犠牲なしには生きられないのですから。そう、誰もがどこかで命の線引きをしなくてはいけない。もちろん、私が引いた線の内側に――」
 メデインの口吻から微笑が消えた。
「――あなたたちの居場所はありませんが」

 カロンのファミリアロッドが小動物に姿を変えて手から飛び出し、獣の喉笛に食らいついた。
「あれが最後の眷属……」
 倒れた獣に黙祷を捧げつつ、カロンはメデインを睨みつけた。
「残るは――」
「――姶玖亜さんが嫌いなメガミだけ!」
 エマが後を引き取り、太股のホルスターから拳銃を抜いて、トリガーを引いた。
「そう! 大っ嫌いだ!」
 姶玖亜も愛用のリボルバー銃『フォーリングスター』でクイックドロウを披露した。
 首の根本に二発の弾丸を食らい、体勢を崩すメデイン。
 そこにフラッタリーが肉薄し、左腕に装着していた不可視の縛霊手も顕現させて――、
「森no理ニ殉ジヨ! メメント・森!」
 ――二つの巨大な掌で左右から打ち据えた。虫を叩き潰すかのように。
 虫ならぬメデインは潰されこそしなかったが、両前足の膝をがくりと折った。
 すかさず、千梨が後方に回り込み、簒奪者の鎌を投擲。
「どうやら――」
 尻の辺りを鎌に斬り裂かれながらもメデインは後足だけで跳躍し、第二撃を放とうとしていたフラッタリーから離れた。
「――これまでのようですね」
「はい。趨勢は決しました。あなたに勝ち目はありません」
 メデインが着地した瞬間を狙い、エリオットが御霊殲滅砲を発射した。
 またもや体勢を崩すメデイン。
 その無様な姿に視線を固定しつつ、エリオットは傍らの千梨に呼びかけた。
「千梨さん……」
「ああ」
 千梨は小さく頷き、満身創痍のメデインに語りかけた。
「メデイン。攻性植物の拠点に侵攻した一人である俺がこんなことを提案するのもナンだけど……俺たちが引いた線の内側に入ってくるつもりはないか?」
「投降しろと?」
「そうだ。死ぬくらいなら、捕虜になれ。未来のケルベロスの決断に賭けろ。アンジェローゼが賭けたように……」
「笑えない冗談ですね」
「冗談扱いするな!」
 と、怒鳴ったのは千梨ではなく、ミレッタだ。
「おまえと違って、千梨さんは考えに考え、私たちに言葉を尽くして訴えた上で提案しているんだ!」
「それは失礼しました」
 メデインは頭を深々と下げ、すぐにまた上げた。
「しかし、投降するつもりはありません。狼と羊が共存することはできませんから」
「どっちが狼で、どっちが羊?」
 そう尋ねながら、ラッセルが『Splyacha krasunya』なるグラビティを仕掛けた。
 青い薔薇が猛スピードで繁茂し、メデインの体を包み込んでいく。揺籃のように。
「さあ? よく考えたら、あなたたちは狼でも羊でもなく、人間そのものですね。獰猛なまでに臆病で、誠実にして卑劣極まりなく、美しい醜さを愛して憎む、最強最弱の度し難いイキモノ……」
「それって――」
 ラッセルが十字型の鍵を振った。
「――あなたにも当てはまるよね」
「そうですね。わたしたちは似た者同士なのかも」
 メデインは目を閉じた。
 数秒後、薔薇に包まれた彼女の体から首が離れて地面に落下し、切断面から血が吹き出した。
 緑色の血が。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 12/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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