デスバレス大洪水を阻止せよ~冥海の歌声

作者:雨屋鳥


 三対の腕。ウミヘビの下肢。一糸まとわぬ青白い肌に、浮かぶ凶相。
 宙に浮くように、空気を泳ぐそれは、どこか美しく、ひどく禍々しい。
「ァ……が、……ッ」
 高知県足摺岬。
 くぐもった声が波の音にかき消える。女の形をした怪物の尾には、一人の男性が捕われていた。手足を砕かれ、内蔵が傷ついているのか、口の端から血を吹きながらも、まだ生きている。
 周囲には騎士のような骸骨が十程控え、もし、拘束を抜け出した所で無事に逃げられるなど考えてもいなかった。
 絶望しかない。ただ、デウスエクスの支配から解放されたこの景色にケルベロス達の勝利への祈願をかけに来ただけだと言うのに。
 激痛が全身を蝕む。それでも尚、殺されていない。弄ぶように痛みを植え付けられる度に、いっそのこと殺してくれと叫ぶ心と、死にたくないと願う心が混濁する。
「――さあ、始めようか」
 深く、複雑に反響するような、深海、樹海を思わせる女性の声が響く。それが、目の前の怪物から発せられた声だと彼が気付く頃には、怪物の腕の一つが男の胸を刺し貫いていた。
 破れた心臓が一度だけ鼓動を鳴らし、自らの体内に大量の血液を流し込む。
 理解しないままに、男の顔から表情が消え、恐怖に刻まれた形だけが残る。怪物は死体を放し、地面へと転がした。
 潮風が、身を竦ませる静寂。何かが起きると、世界が身構えているような数秒の後。
 死体を中心に穴が空いた。
 穴とは、なにか。そう問われれば、穴であるとしか言えない。死体はその中へと呑み込まれていき、彼という存在がこの世から消え失せる。
 そして、その直後。
 爆音にも等しい衝撃を放ちながら、水柱が駆け上った。
 開いたままの穴から、海水が。海水のようななにか。膨大なデスバレスの水が溢れ出したのだ。
 突如として現れたその異界の水は、瞬く間に大洪水と化して、世界を呑み込んでいく。
 地球の海全てがデスバレスに取り込まれていく。


 日本列島防衛戦は、ケルベロスの勝利に終わった。
 だが、全てが終結したわけではない。
「お疲れ様です。今は休んでくださいと、そう言いたい所ですが、どうやらそれを許してはくれないようです」
 ドラゴンの次は、死神。
 冥王イグニスの言葉通り、彼らが動き出す。
 兵庫県の日本海側にある「鎧駅」にデスバレスと地上を繋ぐ拠点となる、《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングが出現。
 それに伴い、西日本各地の旧ミッション地域へと死神が出現するという予知を得た。それも、ケルベロスブレイドによって強化され、その詳細までがヘリオライダー達の脳裏へと叩き込まれる。
「儀式により、デスバレスの大洪水を引き起こそうとしています」
 旧ミッション地域に送った死神を呼び水にデスバレスの海を地上に出現させる。
「もし、この儀式が半数以上為された場合、およそ72時間で地球の海はデスバレスに呑み込まれてしまうでしょう」
 それを止めるには、呼び水となる死神を撃破する事が必要になる。
 儀式が行われる場所や時間は判明している。全死神出現と同時に奇襲をしかけ撃破する。
「我々が担当する死神は、出現と同時に周囲にいた人を捕縛した後、殺害を企てます」
 つまり、出現と同時に動き出せば犠牲をなくすことができる。
「適切な避難誘導ができれば、出現から1分もすれば、一般の方々を巻き込まないように動ける状況が整うはずです」
 だが、気付かれないように万全を期すため、死神出現前には避難誘導は行えない。
 もし捕われたとして、すぐには殺さず、恐らく儀式に必要な時を待つ。それまでに救出できるかもしれない。
「ただ、避難誘導を行うにせよ、救出を行うにせよ、敵は一体だけではありません」
 死神は、周囲に骸骨の騎士を十体を従えている。この動きにも注意が必要になるだろう。
「旧ミッション地域の配置、恐らくは死神達は初めからこの作戦を想定した侵略を進めていたのでしょう」
 もし、これらを奪還できていなければ、予知すら出来ず、ドラゴン戦後の隙を完全に突かれていたのかも知れない。
「ここまでの皆様の動きが、力になってくれています」
 ダンドはケルベロス達へと頷いた。
「どうか、勝利を」
 目を閉じ、彼はそう願う。


参加者
立花・恵(翠の流星・e01060)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ


 海へと祈るように。
 人々は各々の時間を過ごしている、長閑な時だった。
 エキドナサーペント。半人半蛇の怪物がその場に、音もなく現れたのは。
 死霊を従える、その愉悦の見えない笑み。底知れぬ嫌悪とも異形への崇拝とも取れぬ感情に、それに気付いた誰もが動けずにいた。
「始め――」
 それは歌を零す。酷く醜い、清らかな歌。
 声に震える傍にいた男性へと、エキドナサーペントがその蛇の身体を伸ばす、その直前に。
「そうはさせないさ」
 声。
 朧気に揺れる風のベールを裂いた刃が、地面に浮かぶ星域陣の放つ銀光を跳ね返す。
 伏見・万(万獣の檻・e02075)の守護陣の加護。その光が溢れ出る死の香りを拒絶する。
「な」
 エキドナサーペントが警戒が動作を遅らせた、刹那。
 風を切り裂き、声を別ち、狐耳をなびかせる遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)が躍り出た。駆るは霊体纏いし刃。
「生贄だなんて、この陰陽狐を差し置いてやらせはしないわ!」
 怨叫閃き。
 死霊の兵へと、呪いの刃が振り下ろされる、と同時。
「威勢のいい事だ」
 弾丸と共に、黒衣の少年が一輪のバイクに乗って敵陣へと飛び込んだ。ばら撒く機銃掃射の嵐をライドキャリバー、ラハブに跨るドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)が竜鎚をすれ違いざまに叩き込んで笑う。
 隠密気流を解き、漸く来たかと死神を睥睨し。
「さあ、輪廻へと叩き落してやろう」
 愉悦ではなく、威嚇の笑みが宣誓する。
 応える様に噴き上がる鉄槌の咆哮。さながら、現実味をも吹き飛ばした彼らに。
「……」
 男性は、未だ呆然と傍らに立ち竦む。その視界に桜花弁が舞い、その意識を現実へと引きずり戻す。
 彼を掴み取らんと迫るデスナイトの腕。だが、その指先が届くより早く、花弁に潜んでいた刃が奔る。
「させないと、言っただろう?」
 砕け、弾け飛ぶ骸の腕。軌跡に幻華を舞わせ、三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)は振り返り、男性に「行け」と視線で訴える。
 槍の一撃、視線を逸らした千尋へと放たれたそれを彼女は甘んじて受け、腕を裂く刃を逸らし。
 踏み込み、演舞。目を奪う桜花の斬嵐が吹き荒れる。攻撃を受け流さんと前へと出てきたデスナイトを研ぎ澄まされた斬撃が薙いでいく。
「この美しい海を穢す奴は許さない」
 なんて、英雄ぶる気はないけどさ。蒼炎の灯りを頭上に見上げ、千尋は笑みを浮かべた。
「ここは、一歩も通しゃしないよ」
「それ、で、は鬼さ、んこちらへ、どう」
 白々しい髪を揺らし、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は天上を裂く蒼炎の剣をぞんざいに振るい。
「――ぞ?」
 口角を歪ませる。問掛けの体裁に意味はなく。目標物以外を悉くに透過する独善の体現じみた刃が、ケルベロスの初撃に穿たれたデスナイトを灰燼へと化していく。


「みんな、落ち着いて避難してくれ! 俺たちはケルベロスだ!」
 死神が姿を現すと同時、肉薄した仲間に背を向けて立花・恵(翠の流星・e01060)が声を発する。
 女性のようにすら見える容姿から放たれる声は決して荒々しくはなく、しかし、潮騒と戦闘音の中で明々と響き渡っていた。
 俺っ娘だの、聞こえる声も慣れたもの。
「さ、早く!」
 てきぱきと誘導を行っていく。背後は、死神は仲間が食い止めている。とはいえ、時間は掛けていられない。奇襲で意識を引き付ける彼らも、避難するべき人々が残っていては集中しきれないのは自明。
「大丈夫!」
 四翼のオラトリオ、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が走り出す人々をケルベロスを盾に出来るようなルートで誘導していく。
 拳を握る。ひなみくは、今にも死神への攻撃に参加したいと叫ぶ心を抑えていた。
 死神だ。大切なものを奪った死神、ひなみくの家族を奪った――。
「……ッ」
 湧き上がる激情を飲下す。ここにいるのは死神を倒す為、だが、それ以上に、死神に何も奪わせない為だ。命も、海も、全部を守る。その為に。
「絶対に、倒してみせるから!」
 心からの誓い。それを感じたのか人々の動きに迷いはない。
 空からそれを眺めていたスノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)も、避難遅れが出ていないことに安堵しながら、同時に気を引き締めていた。
「大丈夫デスカ?」
 ゆっくりと着地しながら、老婦人を地面へと下ろす。
「ええ、ありがとうね」
 スノードロップは、老婦人を抱え避難させていたのだ。ここからは自力で、と立つ老婦人が、少し不安げにスノードロップを見上げる。
「何か、恐ろしい事が起きるのかしら……?」
「イイエ、絶対に、阻止させていただきマス」
 確りと彼女は首を振ってみせる。そんなことは起こさない。黒翼を広げ、仲間の下へ。
「お願いね」
 声を背に受け、戦場へと舞い降りる。


「そう、邪魔をするというのね」
 歌声に傷ついたデスナイトを回復させたエキドナサーペントは憎々しげにケルベロス達をねめつけた。感情の読めぬ目。それが僅かに険を持つ。
「ええ、取り戻すのですよ。大丈夫。全部、全部、取り戻すの」
 それは誰に、何に向けた声か。歌が溢れる。泡が立ち上る様に弾ける声に。
「その為に海を呑むんだね」
 遮るひなみくが、息を吸う。
「その為に、奪うんだね……ッ」握る拳が痛む。間接の皮膚の下で血管が千切れ青く広がる。「それはね、絶対に……許さないんだよ!」
 紙兵を色彩の爆煙が周囲へと展開させ、約束を結ぶように、両の手を打合せる。絡んだ指から弾ける無彩色のベールが凪の波となり仲間へと行き渡る。
 互い違いに蠢くエキドナサーペントの眼差しがひなみくを舐める。その敵意すら全て呑み込むような錯覚を、万が敷く防御陣の光が緩和する。
「ぶ――、ッ潰す!!」
 叫ぶ、声が号令となった。
 爆ぜる大地、踏み込むはケルベロスとデスナイトの足。
 万へと放たれた鎌をラハブのタイヤが阻み、散る火花を突き抜けてドゥマが回転の勢いを載せた鎚でデスナイトを吹き散らす。
 そして、ラハブからドゥマは跳んだ。手にするのは鎚ではない。虚空。何もない空を掴んだ手に、掴んだという事象から遡るように、その手に巨大な銀のショベルが現れる。
「鎮め、輪廻に」
 シャベルの刃先がデスナイトを抉り、ゲヘナの太陽がそれを飲み込んだ。もがき、太陽を逃れんとしたデスナイトに、無数の骨の手足を持つ少女がデスナイトごと太陽が埋めた空間を修復し。
 元通りに。
 デウスエクスという存在を消失させて、太陽が消え失せる。
「殺せ」
「ああ」
 ドゥマの頬を修復の折に欠けた骸が切り裂いていく。微細な傷に紛れもない死の気配。今まさに打付けたそれとはまた違う。
 鋭く、疾き、斬撃。
 ドゥマが抉じ開けた、一瞬の間隙を裂いて割る一撃が。雷光のごとく駆け抜けた千尋の刃が。
 無銘の刃。それが骸の兵を穿ち抜く。頸骨を砕いた刃に、死霊の兵士は崩れ落ちるその音よりも。
「切り裂け、血染めの」
 降り立つ。と共に。刀が閃く。抜刀――即、斬。
「白雪」
 霞む、一秒。スノードロップの斬撃がデスナイトを両断していた。
 流れるように。果ては、貪るように、その一体に飽き足らず、近づく者を刃が薙ぎ払っていく。息もつかぬ猛攻。
 抵抗として放たれたデスナイトの攻撃は何れもケルベロスへの致命傷となりはしない。
「どうした。言う割に食い応えが無えじゃねえか」
 骨の残骸。自らの炎が食い散らかした兵士を踏み砕き、万がスキットルを仰ぐ。喉を酒が焼く感覚すら明瞭に感じる。
 戦に酔えてもいない。決して、弱いわけではない。としても。
「舐められたもんだ……いや、俺らがここに居ることがそれだけ予想外だったってか?」
「……ッ」
「本当、そうよね」
 バスタービームを至近距離から放ち、濃い瘴気のような靄を纏うライフルを構えながら篠葉は万の声に同意する。
 既に、デスナイトの数は半数を割っている。ケルベロスは消耗と呼べるほども無く。
 恵が降り注がせた剣刃の嵐を、ウィルマの放つ黒陽の光が乱反射し、デスナイトを討滅していく。
「さ、これで、残るはあなただけ」
 篠葉は、エキドナサーペントへと向き直った。ケルベロスはデスナイトを集中して数を減らしていた。
 だが、それでもエキドナサーペントは無傷とは言えず。
「負けられない」
 ひなみくは、ウィルマのウイングキャット、ヘルキャットとともにヒールを施し続けながら、既にその結末を確信してすらいた。
「ううん、負けはしない」
 勝利に指を掛けた手触り、それでも気を抜きはしない。滅するその時まで、意識は唯一つ。
「アタシ、個人的に死神の歌には思う事がありマシテ」
 ひなみくの治癒を受けながら、エキドナサーペントへとスノードロップが駆ける。
「――マア、アタシというか『前の私』なんですけど」
 ともかく。スノードロップは、刃を走らせる。白刃に浮かぶ、紅の色。
「こ、の……っ」
 迫るスノードロップ。彼女へと反撃しようとしたそのエキドナサーペントの動きが硬直する。
 叫びが実体化したかのような悪霊が、地面からその身体を、腕を伸ばしエキドナサーペントを掴み、苛んでいる。
「どうしたの? 乾燥肌がビシビシに進んじゃう呪いにかかっちゃってるわね」
 誂う声。篠葉は人差し指を口元に立てて忠告する。
「お風呂上がりはちゃんと保湿しなきゃダメよ?」
「こ、の……っ」
「でハ」
 エキドナサーペントは、見失ってはいけなかった。目前へと迫るスノードロップへの警戒を。その凶刃を。
「ぶちのめして止めさせていただきマス」
 流水のごとく、清らかに。留まらず。遮るもののない剣閃がエキドナサーペントを切り刻む。
 身のうちに溜め込んだ、歌の加護が霧散する。
 斬撃、そして、間隙を作らぬ。
 弾丸。
 刹那、放たれた弾丸は1mすら、1cmすらない距離から放たれた。
 その一瞬、距離という概念を失ったかのように、恵はエキドナサーペントへと肉薄し、引き金を引いた。
 零。銃口から離れ、対象へと触れるまでの時間は無く。打ち込まれた弾丸は、その瞬間に内部へと潜り込み、胸の内側から爆ぜた。
「何も、始めさせはしない。お前達の思い通りにはさせない」
 いつの間に距離を取った恵が、空洞の空いた蛇へと油断なく銃口を向け、鋭く睨みつけた。
「他のどの地域でだって、儀式は完成させない」
「……」
 恵が語る目に、揺るがぬ光が宿っている。確信の色。
 その瞳に、エキドナサーペントが動きを静止させた。
「――ハハ!」
 直後、半人半蛇の怪物は、笑う。
「ァハハハハハッ!! そう! 全てをッ!」
 何かを悟ったように。
 何かを諦めたように。
 その異形の様相は快とも不快とも取れぬ笑いを響かせていた。
 一頻り笑い、そしてそれはケルベロス達へと、その意識を向けた。声を発する。
「ああ! 私たちは穴を空けるだけ。デスバレスの界嘯は既に始まっているの」
 エキドナサーペントは語る。
 半数の穴が穿てなくとも、半数の穴にデスバレスが集中し、死神達の思惑は叶う。だが、その全てが防がれたとなれば。
 その世界の逆流が既に始まっているとすれば。
 恵の、いや、ケルベロスの脳裏に、水の詰め込まれた、今にも張り裂けんばかりに膨らむ風船に似た世界が浮かぶ。
 行き場を失ったそのデスバレスがどうなるのか。
 亀裂の幻聴と共に、何かが溢れる。そんな幻想。
「私にも分からない。私達の誰も予想はつかない」
 清らかに歌い上げるように。
「ああ、初めて祈りましょう。……願わくば、私の海が貴方達の災厄とならんことを」
 歪な笑みが、声に願いを乗せる。だが、それが世界へと響き渡るよりも前に。
「で、は……こちら、は其れを、阻み、ましょう」
 照準とした指を立てたままにウィルマが告げる。死神で溢れる海、世界。それが人の好悪全てを等しく蝕むのだとすれば。そんなもの。
「ハッ……つまらない」
 彼女は拒絶する。
 サイコフォース。胸の空洞が歪み、爆ぜる。
 死が、蛇を呑み込んだ。


 手の中で拳銃を回し、ホルスターへと落とす。腰にかかる重みが増すその感覚に、恵は戦闘が終わったのだと実感した。
 海風が吹く。眺める海に変化はなく。異界が広がる様子もない。
「ああ、止めたね」
 千尋が恵の視線が語る言葉に、応えるように独り言ちた。
 くあ、と大口を開けて欠伸する万を咎める者はいない。傾き出した太陽が、波を煌めかせる。
 それは不気味なほど静かに揺らぎ続けている。どこか死神の声に似た潮騒からスノードロップは、目を逸らすように空を見る。
 曇るように夜へと沈んでいく空が見えていた。
 ひなみくは、影を這わす地面を見つめる。
 もし、穴が開いていたのなら、デスバレスへと――その奥、聖王女へと声が届いたのだろうか。
「……ううん、今は」
「生と死のバランスを崩す者……まだ、何かを隠しているだろうな」
 ドゥマが、皆の心を代弁する。
 まだ終わりではない。終わりそうもない。これは前哨戦なのだという予感がひしめいていた。
 それでも、この場は。
「チンケな儀式より、私の呪いが勝るってそういうわけよね!」
「ええ、我々の勝利、です。お、お疲れ様、でした」
 篠葉にウィルマが頷く。
 冥界の歌声は、未だ聞こえず。
 だが、明確な勝利はここにある。紛れもなく、それは真実であった。

作者:雨屋鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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