デスバレス大洪水を阻止せよ~嵐の王

作者:沙羅衝

 それは幅のある大剣なのだろうか。しかし、その刃の先は尖っておらず、逆に大きく左右に広がっている。変わった武器だが、この持ち主の姿を見ると納得するケルベロスはいるかもしれない。
 武骨な暗い鎧を惑い、檻のように組まれた腹部からはゆらゆらとしたものが漏れ出している。そして、その顔面は骸骨に他ならない。
 死神である。
「……そろそろか?」
 すっと海を見たあと、部下のほうに視線を送る。部下とは完全なるスケルトンであろう。槍と盾のみを構えているが、背中から大きな鎌も見えた。その数体の部下、デスナイトは一人の人間の男性を捕獲していた。男性は殴られた跡が痛々しく、既に気を失っている。
 ここ、和歌山県海南市は、ミッション破壊作戦の成果とヒールにより、復旧が進んでいたところだった。男性の鞄から、市役所の書類が入った封筒がハラリと落ちた。この男性はこの地に希望をもってやってきたのだろうか。だが、今となってはもうそれもわからない。
 鎧をまとった死神は『フリッケン』という名であった。フリッケンは手に持った大剣を無造作にその男性に向けて、突き刺し、引き抜いた。ボトリと男性の亡骸が転がる。フリッケンの表情は読めず、声も発しなかった。
 すると、その男性を中心にして小さな穴が開く。男性の亡骸は、音もなくその穴に飲み込まれるかの様に消えていった。
 静寂が訪れるが、フリッケンとデスナイト達は動かずに待っている。
 そしてその時が来たのであろう、その小さな穴から今度は水が噴き出してきた。
 水はとどまることなく噴き出し続けると、この地域を飲み込んでいったのだった。

「みんな、日本列島防衛戦、お疲れさんやったで!」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)はそう言って、ケルベロス達をねぎらった。しかし、ケルベロスが集められているという事は、まだ何かあるという事だ。絹はその表情に頼もしさを覚え、頷く。
「実はや、聞いた人もおるかもしれんけど、冥王イグニスの言葉は、ホンマやった。どうやら死神勢力が動き出したで。
 状況やねんけど、まず兵庫県にある鎧駅に、死神の一大拠点《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングが現れた。そんで同時に西日本にある死神の旧ミッション地域で死神の襲撃が行われるっちゅうことが予知できたで」
 その言葉にうなずくケルベロス。戦争が終わった所だが、うろたえた様子はない。
「死神の目的はや、旧ミッション地域を襲撃する死神たちを呼び水にして、デスバレスの海を一気に地上に出現させて大洪水を発生させる事になる。当然阻止するで。この襲撃する死神を見つけ出して撃破することが必要や。
 今回はケルベロスブレイドによって強化された予知になにるんやけど、敵が出現する正確な時間と場所はもうわかっとる。せやから敵の出現場所に潜んで、出現と同時に奇襲して撃破して欲しい。
 敵の出現場所が変化したら、阻止が間に合わんくかもしれんから、その点は注意やで」
 絹はタブレットに表示された情報を、漏れなくケルベロスに伝える。
「うちらが向かう先は和歌山県海南市。敵はこの海南市の市役所の駐車場に14時に現れて、その市役所から出てきた榎本・庄吉(えのもと・しょうきち)さんを拉致して、殺害するという予知がでてる。庄吉さんはもともと大阪で働いていたサラリーマンやってんけど、ちょっと都会につかれたみたいでな。ゆっくりと住める所として移住をしようと市役所に行こうとしてるらしい」
 かつての焦土地帯から復興しようとしている地域に、希望をもって一念発起したのであろうか。どういった想いか、詳細は定かではないが、間違いなく犠牲にしてはいけないと思えた。
「庄吉さんが捕まってからすぐには殺害しないみたいやけど、気をつけなあかんのは、さっきも言った通りある程度予知通り動かへんと、逆に出現場所が変化したりで阻止できへんかったりするから、その辺はしっかりな」
 なるほどと頷くケルベロス達。そのあたりの動きも重要であろう。
「敵はフリッケンっちゅう死神が、デスナイトっちゅう死神を10体率いてる。フリッケンは大剣での攻撃がメインや。攻撃力は強いで。そんで、デスナイト達はそのフリッケンをサポートするように動くし、統率も取れてるから、どうやって撃破していくかの戦略も、しっかりな」
 作戦は大きく分かれて二つだろう。死神との遭遇に関してと、その撃破方法だ。絹の言う通り、一般人をしっかり救出することもまた、ケルベロス達にとっては願うところだ。
「《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングも気になるけど、まずは目の前の危機、デスバレスへの大洪水を防ぐ。頼んだで!」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
シェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)

■リプレイ

●奪う者、護る者。そして希望を持つ者
『俺たちは、こちらから準備にかかる』
『了解だ。では、手筈通りいくとしよう』
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)からの通信を受け取った神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は、市役所の駐車場の奥まで車を進めて停め、通信を切った。ワンボックスの白い車のエンジンを切り、ルームミラーで後部座席に目配せする。
「14時まで、あと、30分です……」
 シェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)が、時計を確認して言う。予知があるとはいえ、緊張感は増していくものだ。だが、それもケルベロスの日常と思えば、それ程脅威とは思えなかった。
「ここまでは順調っすね。神崎さんは、……この車の影は使えそうっす?」
「そうだな。この大きさなら、何とか隠れる事は出来るだろう」
 聞こえてきた篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)の声に頷く晟。少し遠くの場所に見える、市役所の入り口付近には、同じ車が止まっていた。そちらがマーク達の車両となる。見ると、そこから仲間である半分のケルベロスが動き始めていた。
 ケルベロス達は、海南市役所の指示場所まで来ていた。作戦は潜伏と、奇襲による挟撃である。
「では私は、市役所の入り口付近で気流を纏っておきます」
 助手席に座っていた据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)は、静かに車をおりて、すっと消えていった。

「ここはー、見晴らしがよいところですわねー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は、市役所の屋上に来ていた。こちらの動きが察知されてしまえば、相手が予定を変更するかもしれない。そうであれば、この作戦は意味をなさない。フラッタリーは、気流を纏いながらも、大きな貯水槽タンクに身を潜めていた。
 そして彼女は、一つの集団に気が付き、そっと信号を送信してそれ以上は顔を出すことをしなかった。
(「……あと5分」)
 青葉・幽(ロットアウト・e00321)は、時計を確認し、ゴッドサイト・デバイスに集中する。隣には夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)の姿がある。彼女らは自らの車両と、他の車両を移動しながら身を潜めている。
(「おっと、あれは……」)
 幽のゴッドサイト・デバイスに、一人が入り口付近から駐車場に向かって歩いてくる様子を捉えた。
 そして時を同じくして、フラッタリーからの信号が携帯に入る。
(「という事は……」)
 彼女はそれを認識し、そして確認する。
「……見えた。璃音さん、中継お願い」
「どっち?」
「両方」
「うわっ。これは忙しいね」
 璃音はそう言って、マインドウィスパー・デバイスを動作させた。

「さて、再出発やな」
 一人の男性が、鞄の中に市役所で受け取った書類を入れた。少し陰りのある表情から、少し晴れやかな表情変わる。だが空を見上げて視線を戻すと、得体のしれない集団が視界に入った。
「な、なんや? え!?」
 一人の男性、榎本・庄吉(えのもと・しょうきち)が、目の前に現れた一団に対して驚き、立ちすくんでいた。その中でも目を引くのは、鎧をまとった骸骨騎士の姿だ。死神『フリッケン』である。周囲にはデスナイトが庄吉を取り囲む。
 彼らは何も言わず、庄吉を取り囲み、捉えようとした。
 すると、死神たちの上空から、間延びした声が響き渡った。
「おっとー、みなさんお揃いでー。何をしようとーしているのでしょうかー?」
 そして、光線が発射されたのだった。

●奇襲
「殺らせるものかよ、SYSTEM COMBAT MODE」
 フラッタリーの上空からの砲撃に合わせて、マークが庄吉とデスナイトの間に滑り込む。
「おっと残念、そこでストップです!」
 そして赤煙が庄吉に一番近いデスナイトに対して、フラッタリーと同じ光線を放ち、晟が炎を吐き出した。
 一瞬にして爆音と土煙が周囲を覆う。
「世界を冥府の水で満たすとかお断りっすよ。とても寒くて寂しそうっすから」
 煙が少し晴れると、佐久弥が二本の鉄塊剣『餓者髑髏』『以津真天』を突き出すように揃えて構え、庄吉の目の前のデスナイトをけん制する。
 そして庄吉は、シェスティンのレスキュードローン・デバイスに載せられていた。
「大丈夫、です。……助けに、来ました。私たちが、守ります。絶対に」
 シェスティンは、まだ驚きの隠せない様子の庄吉にゆっくりと話してドローンを後方へと飛ばしていく。
「上は大水ー、下は大火事ー、というナゾナゾがありますけれどもー。ガマが飛び出するほどー、煮立っているという事でしょうかー?」
 すると、駐車場に降り立ったフラッタリーが、いつもよりさらにゆったりとした調子で問いかけた。
「……どういうことだ?」
 暫くの沈黙の後、フリッケンはそれだけを言う。
「何か予定が、違ったのですかな?」
 フリッケンの言葉に赤煙が問う。
「……まあいい」
 するとフリッケンは、その問いには答えずに、自らの大剣をぶんと降りケルベロス達に向ける。
「お前たちを殺せば、何も問題はない」
 ギラリと日の光が、剣に鈍く反射する。だがその時、何者かが横から突っ込んでくる。
「マークさん。頂いたシールド、早速頼らせて貰うわよ」
 幽の声が一瞬聞こえたかと思うと、最前列のデスナイトの一人を吹き飛ばしながら、アフターバーナーの光が通り過ぎる。そして通り過ぎた先で旋回し、『Shield of Independence』を構えた。
 続けて璃音が、吹き飛ばしたデスナイトの1体の落下点を捉えて、重力の蹴りをピンポイントで叩きつける。
 こうしてケルベロスの奇襲は、見事に成功することになる。
 あとはこの死神たちを倒すだけだ。デスナイト達が集結し始め、武器を手にケルベロス達に突っ込んでいくと、戦いは本格的なものになっていくのだった。

●ケルベロス達の策
 フリッケンがマークに大剣を振り下ろす。
「ほう……俺を誘うか……。いいだろう」
 マークのカメラアイは赤く怪しく光っていた。その光がフリッケンの攻撃をいざなうが、どうやらそれを不快とはしていないようだった。
 大剣を受け止めるマーク。踵のパイルバンカーを地面に打ち込んでそれを耐える。ギインという金属音が響き、杭が軽々と地面に突き刺さった。
 フリッケンの攻撃は強烈という言葉が当てはまるだろう。マークはそのまま耐えるが、剣から自らの内部へと侵入するような吸収の力を感じた。
 ケルベロス達は、当然敵の行動を読んで、的確な作戦を取っていた。まずは、フリッケンを庇う前衛を排除し、次に排除すべき中衛に向かって範囲攻撃を繰り出した。
「ふん!!」
 晟がゲシュタルトグレイブ『蒼竜之戟【淌】』を投擲し、デスナイトの中枢神経を支配しようとする。デスナイトはそれにより、動きが一瞬止まる。
「そこね!」
 幽はそれを見逃さない。後方からの狙いすませたバスターライフルの砲撃が、中衛の1体を屠る。
「おおう、さすが幽、ぶっ放してるねー。私も負けてられないな」
 耳を手でふさぎながらウィンクして、エクスカリバールでデスナイトの盾を突き破る。そして、佐久弥がその1体を、鉄塊剣で叩き潰した。地獄の炎が上がる鉄塊剣を軽々と正眼に戻し、状況を把握する。目に入ったのは、シェスティンがマークの傷を少し強引な緊急手術で治していたところだった。
 マークの傷は、シェスティンの癒す力を以てしても、完全にはふさぎ切らなかったようだった。それに気が付いた晟のボクスドラゴン『ラグナル』が、その回復を補っていた。
 しかし、攻撃が強いのはフリッケンのみという事が分かった。既に邪魔な前衛と、補助の力を使う中衛は落とした。そう、ケルベロス達は、集団戦闘でのセオリーとも言える相手の強みを消す。という作戦を実行したのだ。
 マークによる攻撃の誘導は、さらにそれを強固なものとしていたのだ。そしてフラッタリーが、紙幣をマーク、晟とラグナル、佐久弥、そして自らへと纏わせる。
「次は、あちらですかな」
 赤煙が残ったデスナイトに、巨大光線を放つ。その光線には麻痺の力があり、何体かの動きが鈍っていくことが分かった。
「ふむ。良い策だったようですな」
 こうして、相手の数という力を完全にシャットアウトするという作戦により、ケルベロス達の優位性は益々加速していくのだった。


「何故、こうなったものか……」
 部下のデスナイトがすべて倒され、一人となったフリッケンはそうつぶやいた。
「一つ一つ、確実にというやつだな」
 晟は一歩前に出ながら、フリッケンの言葉にそう答えた。その隣には、マークとフラッタリーが並ぶ。ここから先は通さないという雰囲気が、この三者から感じることができるかもしれない。
「まあいい……。知ったことか」
 歩みを始めるフリッケン。一歩前に出るごとに、死霊が足元から湧き出ると、大剣に絡みついた。
 フリッケンは中段から水平に大剣を構え、ゆっくりと体制を前かがみに傾けた。
「俺を止めるのだろう。……では、止めて見せろ」
 音もなく剣が薙ぎ払われると、そこから死霊が飛び出し、鋭利な斬撃となってケルベロス達を斬ろうと風の様に突き抜けた。
 その斬撃を、その3人が受け止め、流す。フリッケンの力は、ケルベロス達の攻撃によって弱まっていた。しかしそれでもなお、その力強さは健在と思えた。
「骨ト腐肉ノ其之躰。此ノ掌デ搾rEバ、如何ナル油ガ漁レヤフKa?」
 フラッタリーの金色の瞳が輝き、黒い地獄が腕を覆い始めた。
「決着を、つけましょうか」
 赤煙がドラゴニックハンマーで砲撃を放つ。それが攻撃の合図。
 合わせて幽が凍結光線を織り交ぜる。
『恨ミ辛三妬mI無苦。唯々渇キ、飢ヱ、欲ス。アァ……ョ!……ヨ!焚ベヨ!!クbEヨ!!焔ニ擲テェ――!!!!』
 飛び込んだフラッタリーの地獄を纏った爪が、フリッケンを掻きむしる。
『砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!』
 フラッタリー弾き飛ばした鎧の隙間を、晟が高速で衝く。
「TARGET IN SIGHT」
 赤い光を放つ瞳を輝かせ、マークが『XMAF-17A/9』から砲弾を撃ち放つ。
『天より降り来る天ツ狗――万物喰らい万象呑まん』
 佐久弥が天から加速する。二本一対の鉄塊剣が合体し、大きく振り下ろすと、シェスティンの雷光が追撃する。
「……どうした、……まだ、俺は動いているぞ」
 ケルベロス達に攻撃を受けたフリッケンは、ガキガキとした音を立てながらまだ剣を突き出す。しかし、終わりが近い事は、ケルベロス達にはわかっている。
「死神。生を否定する存在。なら、生の力を束ねた剣ならどうか」
 璃音が周囲すべての魔力を束ね、それは輝き始めた。
「私は死を力にするブラックウィザードなれど、どうか世界よ、今一時だけ私に生の力を!」
 振り出した日本刀の刀身に、七色の光が集まっていく。
『生命の輝きよ、私に集いて一時の力となれ!』
 一本の剣となった日本刀を天に掲げ、一歩踏み込むと、璃音は同時に振り下ろした。光の斬撃が、フリッケン胴に突き刺さる。
 そしてオラトリオの翼が光り輝くと、手首を返し、引き抜いた。
『――これで終わらせる! レディアント・ステラ・グラディオ!』
 輝きは周囲を白き光景に作り替え、爆散するように放射線状に散っていくと、フリッケンの姿もまた、散っていったのだった。

 フラッタリーと晟、そしてマークは、アームドアーム・デバイスを使って、戦闘の跡片付けを手伝っていた。他のケルベロス達は、ヒールによる修復を買って出た。
 こういった作業において、アームドアーム・デバイスは大活躍をする。
 ケルベロス達の迅速な作戦もあり、程なくして、市役所周辺はきれいな状態を取り戻していった。
「災難でしたな。怪我が無さそうで良かった」
 赤煙が、遠くで空を見上げながらポツンと座っていた庄吉に声をかけていた。
「助かりました……」
 庄吉は、少し落ち込んでいる様子だった。新天地に向かった先でもまた、困難が立ち向かってきたのである。それは、仕方のない事かもしれなかった。
「でもまあー。命あってのものだねー、と言いましょうかー」
 フラッタリーが、ゆっくりとした口調でそう言うが、庄吉はそうですね、とだけ答えた。
 敵の脅威は過ぎたとはいえ、一般市民の安らぎはまだまだ遠そうだという事を感じ、少しの沈黙が通り過ぎた。
「デウスエクスとの戦いは、必ず我々が終わらせます」
 赤煙はそれだけを言う。そう、我々が成さねばならないのだ。
「ですからどうか、これに挫けず新天地で頑張ってください」
 命を懸けているケルベロスの事は判っている。だが、理解はしていても、実際の生活において、心に落とし込むには時間がかかるものだ。
「ありがとうございます。頑張ってみます」
 庄吉は、うん、うんと何度も頷いたあと、立ち上がり、お願いしますと頭を下げた。
「じゃあ、アタシたちも帰るとしましょうか」
 庄吉を見送った後、幽の言葉に璃音が頷くと、ケルベロス達は迎えのヘリオンに向かっていった。
「佐久弥さん?」
 シェスティンが、一人遠くを見つめて立っている佐久弥に気が付き、そばに寄る。すると佐久弥は、少し微笑みだけを返して、少し遠慮がちに言葉を続ける。
「シェスさん」
「……はい」
「手、繋ぎましょうか。少し寂しいんす」
 シェスティンは、彼の言葉を聞き、そっと手を差し出した。
「……もちろんいいですよ、佐久弥さん。……私は、此処にいます、ので」
 夕日の光が、シェスティンの首から下げられているリングに反射して揺れた。

 こうして、死神のデスバレス大洪水を阻止したケルベロス達は帰路に就いた。最後の時まで、まだ気を緩める訳にはいかない。庄吉のような一般人が沢山いる事を再認識したケルベロス達は、決意をまた新たにするのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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