ショッピング・ショッピング~冥加の誕生日

作者:絲上ゆいこ

●3月3日
「ねえ、ねえ、一緒にお買い物に行かない?」
 ヘリポートでキミの姿を見つけた遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)は桃色の獣耳を揺らしながら駆けてくると、首を小さく傾げて尋ねた。
 ――3月3日は、冥加の誕生日。
 今日で16歳になる彼女は、『レディ』に憧れを抱いている。
 目まぐるしく変わる情勢の中でも、長く抱いた憧れを……日常を忘れぬ為に。
 16歳と言う年齢にピッタリな服やアクセサリ、そして化粧も試してみたいのと、冥加は笑って。
「それにね、今日は調香師さんのイベントもしているらしいのよ!」
 自分にピッタリの香りを探してもらえるなんて、どきどきするわ!
 なんてぴょーんと跳ねた冥加は、急かすようにキミの手を握ると歩みだした。

●大型ショッピングセンタービル
 一番てっぺんには、映画館。
 セレクトショップや、アパレルショップ、コスメショップ。
 レストランに、カフェ、果ては輸入食品屋や、ゲームセンターにペットショップまで。
 ココは本当に様々な専門店が立ち並ぶ、大きなショッピングセンタービルだ。
 今日のイベントコーナーでは、冥加の言葉通り。
 ぴかぴかの香水瓶から香りまで、全てを選んで香水を調香するイベントが行われているそうで。
 ――一人で映画を楽しむのも、良いだろう。
 皆でワイワイとお出かけをするのも、良いだろう。
 食事を楽しむも、調香をして貰うも、良いだろう。
 雛月の今日を、どうやって過ごそうか。


■リプレイ


 催事場に並ぶ、光を浴びて輝く硝子瓶。
 シンプルな瓶に春待ちに鈴蘭とホワイトムスク、ロコの持つ花屋のように優しい香りに眸は視線を上げて。
「ワタシは2つ調香して貰おうと思っていルのだ」
「ん、何かイメージが?」
「ああ実ハ……」
 眸とロコは、ムエットを手に相談中。
「ん?」
「贈り物の相談中みたいだねー」
 そんな二人の様子に首を傾ぐマニに応じたロイスの手中には、花を模したころりと丸い黄色の瓶。
 オレンジスイートにプルメリアが、優しく甘い香り。
「成る程、そのようだ」
 香りを試していたマニの得心に、ロイスは笑う。
「ねーねー、マニちゃんはどんなの選んだの?」
「うむ? 私は――」
 マニの掲げた薔薇模様の葡萄色瓶の中身は、ローズをベースに豊潤で華やかな香り。
「やっぱりマニちゃんはローズ系だよね」
「ロイスも元気な香りで、イメージどおりだ」
 顔を見合わせて二人は微笑みあい。
「あぁ、もう二人は調香を終えていたのか」
「ん、待たせてしまっタか」
 そこに戻って来たのは、ロコと眸。
「平気だぜー、贈り物に良いのは出来た?」
「うん、ロコに相談に乗っテもらっテな」
 どう? と尋ねるロイスに頷く眸の手には、緑と青の2つの瓶。
 緑はジャスミンの中に微かなソープ、青はまるでソーダのように爽やかなメントール。
 ――それは眸と彼の相棒をイメージした2つの香り。香りをおすそ分けした眸は、瓶と同じ緑の眦を和らげて。
「しかし自分でやっておいて……、自分の香りっぽいだろウかと聞くの、恥ずかしイ気がすルな?」
「……」
 そんな眸の言葉に三人は、思わず顔を見合わせ――。
「うむ、春だな」
「えっ、何? えっ、今トキメキワード言ったの、本当に眸くん?」
 マニが笑みに頬を緩ませると、ロイスは瞬きを重ねて。
「何だよ、何だよ、意外だな! イケメンがギャップのあることポロっと零すのとか最高か?! 全然良いよ、素敵だね! 幸せになれよ!」
 サムズアップすると、わあわあきゃっきゃ。
「確カに春だが……、トキメキワード?」
 そんな二人の反応に首をかしげた眸に、ロコは肩を竦め。
「うん、ロイスは無視していい。――自分以外の誰かじゃないと分からない事は沢山あるし、香水は使っているうちに、そのひとの香りになっていくものだよ」
「成る程、そういウものか……」
 ロコの言葉に、眸はまた頷き。
「ねーねー、僕も誰かに香水作って欲しいなぁ、憧れるなぁロロくん!」
「あーあー、何も聞こえないな」
 更に騒ぐロイスを、ロコは華麗にスルー。
 初々しい男。元気な女に、無視する男。皆の様子にマニはくすりと笑み浮かべ。
「まあ、めげるなよ」
「うっ、ありがとう……僕は元気です」
 ――香りも様々。みな違って、どれも楽しいもの。

 手を繋いだナシラと摩琴は、華やかな香りに誘われるよう。
「どんなのにしようかな? 踊る時に付けるのがいいかなー」
「おー、どんなの?」
「汗のにおいを消して舞うごとにふわりと香るみたいな、優しい感じはどうかな?」
「ん。なんか華やかな感じなの。つけて踊るとこ是非見てみたいの」
 様々な香りを試しながら摩琴は、いつも通りぽんやり言うナシラに、にっと笑って。
「へへ、どんなダンスが見たい?」
「んー、ふわふわの香りが伝わるーみたい、なの?」
「ふふふ、考えておくよ♪ ……ねえ、ねえ、ナシラはどんな香りにするの?」
「わたし、はー……、香りの強い薬とか、草なんかも使うから……」
 これは少し弱いかも。
 尋ねられたナシラは視線を上げて、ムエットをひらひら。
「ふむふむ、じゃ、フルーツ系のとかはどう?」
「おおぅ。よいかも、なの」
 摩琴に差し出されたムェットを手にナシラは頷き、視線を横へ移す。
「瓶もいろいろあるの」
 そうして華やかなエジプトガラスを手にすると、摩琴に見せるよう。
「きれいだね! せっかくだし記念にお揃いにしちゃおうか?」
「おーけーなの」
 表情こそ変わらずとも、どこか楽しげにナシラは応じ。
「そろそろお花見の時期だね、今度はみんなも誘って出かけようか?」
「名案なの」
 二人は並んで調香のお願いをするべく、カウンターへと向かう。

「男女兼用できそうなバラの香りってありますか?」
 ひそひそ店員に尋ねる環の視線の先にはアンセルムとエルムの姿。
 彼らの誕生日6月の誕生花はバラだ。折角ならばと言う気持ちと、甘たるい香りは彼らには似合わないと言う気持ちに環は揺れる。
 ――それでも諦めたく無くて。
「それではローズをアクセントに……」
「ほうほう、試しても?」
 店員の返事に環がぱっと笑った。
「……ちょっと乙女すぎるかな」
「ん、お洒落でいいと思うよ」
 エルムの淡い透き通った薄紅色の瓶には、優しい桜の香りと八重桜の花が一房。
 むむ、と唸る彼に相槌を打つアンセルム。
「ありがとう、後で少しお分けしますね」
 淡く笑むエルムが香りに乗せた花言葉は『僕を忘れないで』、二人に是非使って貰えれば、と。
「そちらはどのような香りにされたのですか?」
「うん、実はね」
 アンセルムは調香して貰う香りを最初から決めていた。
 受け取ったばかりの長方形の瓶の中には、朱『藤』に『ウィスタリア』――二人の名前を冠する藤の香り。
「これで少し離れたとしても寂しくない……なんて、ちょっと重たすぎるかな」
「……あ、この名前、そんな意味があったんですね!」
 ぱちぱちと瞬きを重ねるエルムは、研究所で貰った名前の意味を初めて知った。
「意味までは知らなかったのですけれど、なんだか嬉しいですね」
「あ~、アンちゃん! またそういう憎い事するぅ!」
 そこに戻ってきた環がうりうりとアンセルムを突くと、くすぐったそうにエルムはくすくす笑い。
「エルムさんも相変わらず女子力高……、らしくてぴったりですね!」
 桜の花弁に目を留めた環が何かを言いかけて止めると、アンセルムは肩を小さく竦めて口端を和らげた。
「そんな環はどんな香りにしたの?」
「あ、えっと……」
 環の花弁を模した透明の瓶からは、柑橘に混じり薔薇が軽やかに香る。エルムとアンセルムは、一度顔を見合わせて。
「これ、僕たちにって思っていいんですか?」
「ふふ、自惚れても良いのかな」
 環を見やって楽しげに微笑んだ。

 エトヴァと香水瓶を順番に眺めながらジェミは、考える。
 彼は――ふんわり包みこむように優しくて穏やかで、でも芯はしっかりしている。
 喫茶店に立つ時も使えるように、珈琲の香りとも違和感のない香りが良い。
 空の色の小瓶に詰め込んだ爽やかで優しい香りを、光を通す銀色の蓋で飾るよう。
 そんなジェミの視線を優しく受け止めたエトヴァは、考える。
 彼は――素直なまなざしは初夏の風のように爽やかで。可愛く奥ゆかしい甘さの内に秘めた心の美しさは、気品ある花。
 日向に満ちる温もりに、涼やかに甘い一番美しい季節を感じる香りを、まばゆい星の光を集めたような白金に輝く蓋で、澄んだ小瓶に閉じ込めて。
 二人が調香師にお願いするのは大切な家族をイメージした香り、彼をイメージした特別な幸せの香り。
「ふふー、エトヴァ。これはね『珈琲の花』をイメージしてみたんだよ」
 白い花弁は、甘やかなジャスミンに似た香りがするそうで。
 ジェミが一吹きした香りは穏やかな中にも華やかさを覗かせ、爽やかにエトヴァを彩り。はたはたと睫毛を揺らして彼は眦を和らげた。
「……ア、これは好きな香りデス」
 お返しと。ジェミへと吹きかけた香りは、柑橘と花を束ねた甘く優しい香り。
「これが、僕の香り?」
 爽やかな初夏の香り。特別な甘い香りに、ジェミは何だか大人の気分だと笑った。

 ――今の関係よりもう一歩踏み込みたいと、願った過日が胸に過る。
「シズネはどんな香りが好きなの?」
 だからこそ。
 ラウルはさり気なく好みを探るように、調香コーナーの前で首を傾ぐ。
 シズネは鼻が良く利く為か、強い香りは得意では無いようだ。
 それでも、それでも、好きな香りはきっと在るだろうから。
「ん?」
 問いにシズネは迷いなくラウルの胸元に強かに頭を押し付けて、すんと鼻を鳴らせばラウルの匂いで胸いっぱい。
「え?」
 犬めいている、なんてラウルが思う暇も無く。
 作ってくれるお菓子みたいに甘くて、日向ぼっこする猫に顔を埋めたときのように優しくて。
 青空のように爽やかな、――黄金色の花の香りもする気がするこの匂いが。
「世界でいちばん、とびっきり好きな匂いだ」
 瞠目したラウルに、シズネはぴかぴかの笑顔で応じ。
「……解った」
「おう!」
 ラウルは顔を俯かせ、唇を引き絞る。
 ずるい。そんなのずるい。……オレの匂いが一番だなんて。
 言葉に出来ぬ気持ちに喉を鳴らして――ならば、ラウルが作るのは。
 金木犀にラベンダー、菫、琥珀のアンバー。
 優しくて甘い、心を癒やして幸福に浸れるような、シズネの彩を咲かせる香り。
「どんな仕上がりになるだろうな、楽しみだ!」
「うん――コレを纏う、俺も好きになってね」
 なんて、ラウルは唇に笑みを燈し。

「未明、どんな匂いが好き?」
「おれは好みより効能で選んでしまう事が、多いけれど」
 ティアンの言葉に未明は、ぐるりと回りを見渡し。
「花の香りがすきだよ。明け方にひろがる空気みたいに、涼しい匂いも良いな」
 そして薬師見習いは、ボトルの前に添えられた梅の花に視線を留めた。
「薄荷はねこが嫌うから、今日は梅にしておこう」
「なるほど、すうっとするから苦手な動物も多いと聞く」
 そして何となく場内を歩む冥加を、二人は見やって。
「うさぎは大丈夫なんだろうか?」
「……おれは冥加を見かけると、いつもチョコミントを連想するな」
「ティアンもだ」
 それから二人は顔を見合わせて、小さく笑み合った。
「ティアンはどうしよう。プルメリアとか……ああ、そうだ、熱帯睡蓮はあるかな」
 どちらも思い出深くて、悩むけれど。
「熱帯睡蓮?」
「うん」
 あったとティアンはムエットをひらり。
 添えられた花のイラストに、未明は蜂蜜色の瞳を細め。
「きれいだな、細くて鮮やかなのがティアンに似ている」
「うん。好きな匂いなんだ、知ってもらえてうれしい」
「知ったからには、憶えておこう」
 透明な甘い香り。梅と熱帯睡蓮の2つの香りを、白と青の小瓶に詰め込んで。
 記憶と香りは結びつくもの。
 香ればきっと今日の事も、花の事も思い出す。
「良い花と出会えたな」
 未明は小さく呟いて。

 互いをイメージして、香水を仕立てて貰いましょう。
「ねえ冥加、めびるがお世話になっていると聞くわ」
「ええ、偶に一緒に遊んでもらうのよ」
 冥加を見つけた芙蓉は、そそそと近寄り耳打ち。
「めびるの香水を作るのだけど、恋の香りってどんな香りだと思う!?」
「恋!?」
 口を覆って冥加は耳を跳ねる。
 ――儚くてまだ弱気だった彼女ならば、草花やオリエンタルな香りだったろう。しかし今。
「ン恋ッ! みたいなおフレッシュ様なベリーが必要じゃないかしら!?」
「解るわ!」
 芙蓉の高音に冥加は拳を握り。
 調香師を前に、めびるは考えていた。
 ふよちゃんは小さくてぴょん可愛いけれど。本当はとても大人で優しく強くて、みんなのお母さんみたいな人。
「白いなーって思うけれど、紫の瞳も素敵でね。……そういうお色の優しい香りの香水を選びたいな、って」
「成程、では紫陽花をイメージして――」
 寄り添い跳ねる萼は可愛らしく元気で生命力の強い花、勧められた調香にめびるは花笑んで。
 ――素敵な香りの交換になるよね。
「フフフ完成ね、めびる!」
「ごきげんよう、魅縡さん」
 そこに完成した香水を持った芙蓉が声を掛けると、めびるは顔を上げ。
「あ、おめでとうみょうがちゃん」
「そうね、おめでとう冥加!」
 冥加は祝いに微笑んだ。
 レディ達のお買い物はまだ、始まったばかり。


 賑々しいゲームセンター。キリリとキカがボタンを押せば、アームはぬいぐるみを撫でるだけ。
「……全然とれないね。あの子とかすぐに取れそうなのに」
「次はマチャヒコがやってみましょう」
「うん!」
 キカから引き継いだ正彦も、ボタンをポチポチ、スカッ。
「……難しいね」
「大丈夫、キカたん。いざとなったら店員さんが取ってくれますお」
「わ、わ、ウ、ウラ技?」
「頼むと良い位置に動かしてくれるのです」
 きぃはあまり来たことが無いから、と目を丸くするキカの横で、正彦の視線はゲーセンの奥へ。
「そういえばキカたん、……格ゲーも行ってみていいですかお?」
「あっ、やってるの見たい!」
 そうして――波動などに芽生え解放された正彦が投げる、起き上がった瞬間掴んで投げる。
「……正彦の指が早すぎて見えないの」
 キカが瞳を瞬かせれば、正彦は更に掴んでは投げて。YOU WIN!
「伊達に十数年引きこもってはいません!」
「また勝ったね、かっこいいー!」
 投げキャラで投げ尽くした正彦に、キカはぴょんと跳ねて喜び。そんな彼女に正彦は席を開ける。
「キカたんもやってみますかお?」
「えっ、きぃもできるかな?」
「大丈夫、操作は簡単ですお」
「じゃあね、この犬の頭のお兄さんでやってみる!」
 ようしとキカは、ガチャポチガチャ。
 ゲームセンターって、すっごく楽しい!

 ――リリエッタは化粧を試すつもりはなかったのだけれど。
「ん、それならリリはこっちで待……」
「スノウさんも行くのよ?」
 冥加に手を引かれたリリエッタは、コスメショップに足を踏み入れる。
「うふふ。折角ですもの、一緒に試しましょうよ」
 なんて、店員さんと冥加が勧めるものだから。
「……お化粧ってすごいね」
「そうよね!」
 肌に少し色を足すだけで、こんなにも別人のようになるなんて。
 店員さんにメイクをされた自分と鏡で対面したリリエッタは、瞳をまあるくして。
「ねえ、ねえ、次はこっちも試してみない?」
「……冥加が試すんじゃないの?」
 悪戯げに笑った冥加に、首を傾いだ。

 ――今日は新学期に向けて、二人でお買い物。
 文具コーナーを、フィロヴェールとかりんは並んで歩く。
「ノートと、付箋と……あ、シャーペンも新しくしたいなあ」
「ぼく、新しい筆箱がほしいのです!」
 新しいものを買うのはいつだってどきどきわくわく、色んなものに目移りしちゃうけれど。
「あ、この筆箱……、む、むむむ」
 可愛いのもクールなのも、どっちも素敵。
 かりんは赤と桃色の筆箱と、青い筆箱を両手に持って真剣な表情。
「どっちも綺麗な色ね、どっちにする?」
「むむむ……、フィロヴェールだったらどっちにしますか?」
「あら、わたしが選んでいいの? ……わたしなら、好きなものに似た色を選ぶかなあ」
 ぴっと青を選んだフィロヴェールに、かりんはぱっと笑って耳を立てて。
「では、青で決まりです! あと、それから……」
 そのまま耳をぴぴぴと揺らすと、言葉を継いだ。
「フィロヴェールとぼくは一緒の教室で授業を受けることは出来ないので、お揃いの筆記用具が欲しいのです……!」
 そうすれば一緒に勉強しているみたいなのですと、かりんはフィロヴェールをじっと見やって。
「そうね、それじゃあ……お揃いのシャーペンを買いましょ!」
「わあー、嬉しいのです!」
 ぴょんぴょんとかりんは跳ねて。
 ――お揃いのシャーペンがあれば、新学期だってきっととっても楽しい。

「はーやっぱり名作だな……。主人公と息子とかさ。あの元カノヒロインとかとの、一見反目しあってるけれど深い所で繋がってる感の在るああいうコンビネーションって本当に良いよなー、パートナーって感じがしてさ」
 伝統に従って購入したポップコーンとコーラの空容器を捨てるランスルーは、感嘆の息。
「昔の映画だから侮ってたけれど、大画面で見ると臨場感があったわねえ」
 思わず購入したパンフレットを手に、なつみもかぶりを振り。
「だよなー、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いやー良いモノ見せて貰って、こちらこそ」
「この後はどうする?」
「そうねえ」
 映画館の道を二人は並び歩む。

「そういえば、改まって映画なぞ見たことがなかったな」
「うん、どれにしようかしら?」
 白いニットワンピースにショールを引っ掛け、茶色いブーツ。
 中折れ帽とジャケットは色を合わせて、新緑色のシャツにグレーのパンツ、プレーントゥ。
 デート装備にガッチリ身を包んだ清士朗とエルスは、映画の上映時間が並ぶ大型ビジョンを並んで眺めて。
 それから真剣な表情でエルスは、一つの大きな電光ポスターを指差した。
「……決めました!」
 ――それは最近ヒットしているという、デウスエクスと戦うケルベロスたちのアニメ映画。
 この映画を作った人たちは、基本的にはケルベロスでは無い筈だ。
 戦う方では無く、見守る方から戦いを見守るというのは、また違う感じなのかもしれないとエルスは上映時間を見やって。
「うむ、ではあれにしようか。エルスは、どのあたりの席が好きだ?」
 清士朗が先導するように、タッチパネルを押す。
「んー、前に人が座っていない方が、見やすそうですね」
「ああ、それは確かに。俺は真ん中あたりのやや後ろが好きだな」
 ポップコーンと飲み物も買おう、キャラメル味が好き。
 なんて、他愛も無い会話が花咲く時間がたまらなく愛おしい。
「ね、終わったらご飯も行きたいな」
「勿論、映画だけでデートが終わりなんて言わないさ」
 視線を交わした二人は、笑い合って。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月19日
難度:易しい
参加:25人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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