彷徨う孤独のサーチャー

作者:寅杜柳

●ワンダリング・サーチャー
 都会であっても冬の夜空は綺麗に見える。
 閉館予定だったプラネタリウムを旅団としているけれども、本物の空にもどうにも惹かれてしまうものがあるティユ・キューブ(虹星・e21021)。
 ボクスドラゴンのペルルを連れた彼女が旅団としているそこに向かう途中、なぜか心惹かれていつもは通らない道へと踏み込んだ。
 好奇心の赴くままに進んだ小路の先には真っ新な空き地があった。周囲を見渡しても高い建物がなく、空き地の中心で地面を背に寝そべったなら視界中を星々の海が埋め尽くすだろうその場所。
 空は満月、星空を楽しむには明るすぎるけれども強い光の星は月光にも負けてはいない、空を見上げそんなことを考えるティユの耳に、奇妙な音が響く。
 歯車のような電子音のような音が混じり合った何かも分からぬ機械の音、こんな場所にはないはずの音が、だんだん大きくなってくる。
 音の方向に振り向けば奇妙なダモクレスがティユ目掛けて飛んできていた。カメラのような球体、それに付き従うような三つの捕獲用と思われるユニット。
 ――以前どこかでこれによく似た型のダモクレスを見た記憶がある、けれどそれに思いを巡らせる時間もない。
 ダモクレスは眼前のケルベロスを無力化するためにその中枢たる球体より奇妙な光線を放った。

「みんなちょっと力を貸してくれ! ケルベロスが襲撃を受ける未来が見えた!」
 夜のヘリポート、雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)は慌てた様子で呼びかける。
「ティユ・キューブってケルベロスがダモクレスに襲撃されるみたいなんだ。予知が見えてすぐに連絡をとろうとしたんだがどうにも応答がない。もしかすると既に交戦しているのかもしれない……いくら強くなったといってもダモクレスにケルベロス一人で挑むには分が悪すぎる。とにかく、一刻の猶予もない事は確かだ」
 そして知香はケルベロス達に要請する。
「今から予知された現場まで全速でヘリオンを飛ばすから、ダモクレスに襲われて大ピンチ彼女の所に降下して、襲撃を仕掛けてきたダモクレスを返り討ちにしてきてくれ」
 そして知香はノートを広げ、手早く彼女の得た予知を元にした戦場と敵とについての情報を書き込んでいく。
「戦場となるのはティユが誘い込まれた空き地になる。空を見上げてもビル等に阻まれないくらいに周囲に高い建物はなく人もいない、それに障害物となるものもないから全力で戦って大丈夫だ。月も明るく視界はそれほど気にしなくて大丈夫だろうが、気になるなら光源を準備しておいた方が万全かもしれないね」
 戦場の状況を説明した白熊は、次に襲撃をかけてきたデウスエクスについて話し始める。
「今回の敵は探査・捕獲用と思われる形状をしたダモクレス……とりあえずサーチャーと呼ぼうか。もしかするともっと大型の……例えば巨大戦艦型ダモクレスの端末なのかもしれないが詳しいことはわからない。何かを探しているのかもしれないが、今回は遭遇したティユを襲撃にかかっているのは間違いない」
 そして知香の説明はサーチャーの戦法へと移る。
「攻撃手段は捕獲用ユニットとレーザーの二種類、周囲に付き従うユニットに飛びかからせ複数人の動きを縛り付ける攻撃と、命中した相手の体を弛緩させて攻撃の手を鈍らせるレーザーだ。そして低空を飛び回り攻撃に適した位置を探りつつ自己修復を行う事もやってくるだろう。動きはかなり素早く命中と回避両方に優れているが、火力や耐久力自体はそこまでではない。気を抜かなければ問題なく撃破できるだろう」
 情報収集能力に優れているようだがそれを役立てる前に仕留めてしまえば大丈夫だろう、と知香は簡潔に説明を終える。
「以前似たような機体と遭遇したという報告書もあるけど、それとの関連性は不明だ。いずれにせよティユが襲撃される事を見過ごすわけにはいかない。とにかくダモクレスを破壊して、皆で帰ってきてほしい」
 それじゃ行くよ、と話を締め括った知香はヘリオンへと飛び乗り、ケルベロス達を予知された現場へと導くのであった。


参加者
トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
皇・絶華(影月・e04491)
ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ヨミ・カラマーゾフ(穢桜・e24685)

■リプレイ

●都会の星々の隙間にて
 明かり漏れるビルが林立する中にぽっかりと開いた空き地、遠くの灯りと空の月光の僅かな輝きに虹色に輝く髪を広げるティユ・キューブ(虹星・e21021)と箱竜のペルルが相対するはダモクレス。
 数年前に遭遇した個体と似た印象のそれの機体中央のカメラがティユに焦点を絞り、周囲に捕獲ユニットを飛ばし展開する。
 来る、と回避の為ティユが足に力を込めた瞬間。
 月光とは違う空よりの光が彼女を照らし、機械腕のデバイスが実体化する。
 ヘリオンデバイス――その実体化が意味する事はただ一つ。ティユが空を見上げれば、夜空から降下してくる幾つもの影。
「みょうちくりんな奴に、ティユさんをお持ち帰りさせるわけにはいかないわね!」
 ティユの物によく似た機械腕のデバイスを装着したジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)がティユへと飛来した機械群をその腕で弾き飛ばす。
 そして同時、ジェミのやや後ろに着地した緑髪の男が指先より殺意の如き黒矢を発射すると、ダモクレスは後方へと回避。そしてその間に男の手からケミカルライトが地面に幾つも放られ空き地を仄かに照らす。
「間一髪か? 間に合って良かった」
 彼、トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)が濃紺色の雷喚杖を構えて後方のティユに言葉をかける。
 そして桜の妖精を思わせるヨミ・カラマーゾフ(穢桜・e24685)と羊の少女チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)、そして白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)がティユの傍にとん、と静かに着地。
 ティユ達の無傷を確認してダモクレスへと視線を遣る。
 前方ではジェミの近くに皇・絶華(影月・e04491)とシル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)の二人がジェットパッカーを装着し降下する。
「このダモクレス、いったい何を求めてるんだろ?」
「何故狙うかは……察する事は出来ぬのだろうな」
 シルの疑問に絶華が返す。ティユの危機と聞いてやってきた彼女達は最大の警戒をダモクレスに向けたままだ。
 そのダモクレスがレンズ正面に光を収束させる。しかし空からコクマ・シヴァルス(e04813)により掃射された砲弾が飛来、咄嗟に向きを変え空に光線を放ち砲弾を相殺しつつ小刻みに動き破片を躱していく。
 そこに大太刀構えた尾神・秋津彦(e18742)が飛び込むが、振りぬかれた刃は空を切る。
 不審者、にしてもメカメカしすぎる襲撃者。それもティユを危機に陥れる存在なら秋津彦にとっての一大事、まずはこの奇妙な機械は落とさねばと吠え掛かり噛み付かんとばかり即座に追撃。
 捕獲用のユニットで迎撃するダモクレスだが、それらは割り込んだ銀のオウガに阻まれ後退を余儀なくされる。
「近頃は暖かい日も増えたからな――釣られておかしなものも現れるか」
 彼女、シュラ・ドゥルガー(e50419)はティユのプラネタリウムの常連だ。
 彼女が不幸に見舞われれば羊たちも哀しむ――なんでプラネタリウムに羊がいるのか今更に疑問に思うがそれは後回し。
「あら、奇遇! 私も夜の散歩をしていたところよ」
 どこからともなくふわりとやってきた黒衣纏うセレスティン・ウィンディア(e00184)。普段から廃墟散歩を趣味にしている浮世離れした月光のような彼女はどこまでも自然体。
 最後にソニア・コーンフィールド(西へ東へ・en0301)が着地すれば、ダモクレスと相対する万全な十三人のケルベロスという状況となる。
 そんな状況でもダモクレスは無機質な機械音と共に周囲にユニットを展開、どうやら退く気はないようだ。
「ティユさんをお持ち帰りするなら……簡単にできるとは思わないことだよ?」
 シルが杖を構え真っすぐにダモクレスを見る。友達であるティユが襲撃されるのなら彼女を助けなければ女が廃るというもの。
「それなりの覚悟はしているよねっ!!」
「……ありがと!」
 言い切ったシル、そして駆けつけてくれた仲間達に親愛を込めて感謝するティユ。
 ケルベロス達がヘリオンデバイスの光線で互いを繋ぎ、同時ダモクレスは高速移動を開始。
 撒かれた人工の光が照らす空き地での戦闘が開始された。

●一機の探査機
 障害物のない空き地をダモクレスが飛び回り、光線を放つ。
 照射された者の抵抗する為の力を奪うそれ、絶華の前に出たティユが受けて、即座にチェザがぽわぽわした満月色の光球を放ち、更に失われし愛しい想いをヨミが歌い上げ傷を癒す。
 その温かさを感じつつ虹色真珠のレプリカントはやや後方のペルルに、
「僕らも気張るよペルル」
 そう言葉をかければ真面目な箱竜は光線を受けたシルに属性をインストールし治療、そしてティユは後衛の仲間達の周囲に星の輝きを配置。
「導こう」
 言葉と共に描き出されるはプラネタリウムのような星図、狙いはより正確に定めさせる為の導だ。
 そして帯と花弁に包まれたランプを光源に持つ佐楡葉が白金の杖――のように細く絞った槌を軽く振るい砲撃形態に変形させ、竜砲を高速で動くダモクレスに放ち命中させる。
 そして一瞬動きが止まった瞬間、
「始末しよう」
 荒々しい大狼の力を纏う絶華が空に跳ね、仕込み刃の靴でダモクレスを蹴り付け装甲を削り、もう一つの影が空より急降下。
「月夜を切り裂く、流星の煌めきを受けてみてっ!」
 切り裂く、文字通りの勢いでジェット加速を乗せたシルの流星の飛び蹴りがダモクレスを地に叩きつける。
 そんな妹に合わせ姉たるセレスティンが黒影弾で支援、姉妹の連携は淀みない。
 その間にトレイシスは周囲に銀の粒子を散布、ペルルと自身の感覚を活性化。
 この夜空には少々無粋な地の光を撒いた事を内心謝りつつ、今はティユを守りきることが大切だ。
「それにしても……いつぞや見たのと似た外見していますね」
 ダモクレスから視線を切らず、佐楡葉が呟く。
 かつてティユとチェザ、そしてジェミと佐楡葉が共に交戦したダモクレスに似たような型の物があった。
 指折り数えいつだったかを思い出せば、
「……え、四年? 四年間ずーっと見に徹してたの?」
「おー、すとーかー4年生ちゃん!」
 あの時居た中で今も唯一の未成年なチェザ、小柄な体にふわふわおっとりマイペースな彼女はあまり変わっていないけれども。
 四年間、もしもずっと見に徹していたのであればストーカーと言っていいだろう。美人はとても大変だ。
「てゆさん、あれ多分CPUが二世代くらい前のですよ! 四年前の!」
「やめたまえ白羽、なぜか僕が傷つくからやめたまえ」
「おとなは大変なんやな……」
 年月を強調する佐楡葉を遮るティユ、そんな二人をチェザはやや遠巻きに見ていた。
 そんなやり取りをしながらティユは思案する。確かにあのダモクレスとどことなく似ているのは間違いない。
 けれど。
(「もっと前に……?」)
 古い、彼女の失われた記憶のどこかに触れる感覚はあるけれども、一先ずは撃退しなければなるまい。
 恐れる事など頼れる仲間達がいるなら何もないのだから。
「らっむ、変な粘着野郎は追い払いますよ」
 羊のようなチェザに呼びかける佐楡葉のそんな軽さはいつも通り、とは言っても追い払うなどと生易しく済ませる事は考えていない。
 友人に危害加えるのならぶっ潰す、ダモクレスとの距離を測りつつ佐楡葉は冷静に狙いを定めていく。
「てっゆを助けるために頑張るなぁん!」
 そうチェザが気合を入れればふわもこ羊が彼女の隣に出現、前衛の仲間達をもっふもふに応援する。
 羊たちの声援を受け絶華がダモクレスへと距離を詰める。迎撃にダモクレスが子機を展開、飛び立たんとしたそれを赤髪のレプリカントが阻む。
「ご馳走も待ってる! なら、頑張るしかないわねっ!」
 えっ、とティユが反応するのに構わずジェミは捕獲ユニットを機械腕を薙いだ遠心力で吹き飛ばすと、入れ替わりに絶華が摩擦による炎を纏う鋭い蹴りを放つが、回避に優れる敵に僅かに逸らされる。
 このダモクレスは心なしかケルベロス達、特にティユを観察しているように見える。
 時間をかけ敵に情報を与えるのは極めて危険、だから絶華は最初から全開で追い縋り攻撃を重ねていく。
 そして後方からヨミが属性の盾をジェミの前面に展開し傷を癒す。
 普段アンニュイで戦闘経験も控えめなヨミがやってきたのは偏に親友の危機だから。
 返せる恩は返せるうちに。普段から身の回りの面倒を見て貰っている恩を返す気分でやってきた彼女は友人たちは当然、他に集ったケルベロス達の力も信用している。
 ――少なくともこの状況を打開できるだろうと思える位には。
 そうヨミが考える中、ダモクレスは高速で飛び回り追撃を逃れようとしている。
 けれども十三人ものケルベロス達から逃れる事は困難、ふっさふさの白毛を冬の風に靡かせる箱竜のシシィが郵便鞄を落とさぬようにしながら羊毛のようなブレスを吹き付ける。
 ダモクレスは高度を落として回避するが、そこに身を低くした秋津彦が飛び込み錐揉み回転しながら機体に絡みつかせるように太刀を走らせる。
 狼の狩りを思わせるその基礎の型の斬撃はまさしく剣牙、それは狩りの起点。
 更に黒コート纏うドワーフの激しい怒りに呼応し超巨大な地獄の炎剣が生み出され、地面ごと焼き払うかの如く振り下ろされる。
 熱に焼かれながらダモクレスはその熱圏から離脱、照準を定めなおし傷を修復する。
 そこにとん、と佐楡葉が飛び込み音速の拳でダモクレスを打ち上げ構えを崩すと、
「その動き、削らせて貰う」
 ダモクレスの裏側に回り込んでいたトレイシスが黒き殺気の矢を指から放ち、さらにジェットパッカーの変幻自在な機動で一息に距離を詰めたシルの精霊の力の光剣を鋭く振るえばダモクレスの動きは呪縛により鈍る。
 反撃のビームが前衛に照射されるも護り手達はそれをインターセプト。
「ティユさんもこういうのに好かれても困るわよね!」
 防ぎ切ったジェミが横のティユに振り返る。敵の目的がそうだからか狙われる頻度はティユが明らかに多い。
 しかし護り手達もそれは想定済み、深手にさせぬよう互いに庇いあい分散させている。
(「しかし、なぜ僕?」)
 なぜ標的にされているのか、ティユに心当たりはない。昔に何かあったのか――ともあれ、
「ヨミ、ソニア、回復お願い」
「あいさー! まっかせて!」
「わかったわ」
 ティユの要望に応じた金の竜の少女が花弁のオーラとヨミの地球を愛する者を癒す歌が脱力の呪縛を解除、更に癒された者の集中力を研ぎ澄ませれば、同時チェザが後衛に羊の声援を送り攻撃の精度を高めていく。
 元々敵が火力重視でない事とケルベロス達の防御面が厚い為に護り手の負傷も重なる前に癒されていく。
 特にチェザとヨミ、友である二人の呼吸は完璧。過不足なく分担し同時に加護を与え戦況を有利にしていく。
「素早さは厄介ではあるが……数の差には敵うまい」
 音もなく飛び込んだトレイシスが鈍く輝く凍曇の刃に空の霊力を纏わせ、ダモクレスの破損部位に刃を滑らせ呪縛を増幅。
 衝撃によろめいたダモクレスに静かな声。
「――気付きませんか? もう刻んでます」
 言葉が空気を震わせた時にはもうダモクレスのユニットの一部を切断していて。
 予備動作もなく振るわれた猫の爪めいたその一閃は機械をすら動揺させたかのように動きを鈍らせ、そこに星の海を泳ぐようにペルルがするりとタックルを見舞う。
 反撃に周囲に飛ばした捕獲ユニット、それは庇いに入ったジェミの胴を捕縛戦とするが、
「それは、砕くわ! 師匠譲りのこの体に、通じるもんですかっ」
 彼女の鍛え上げた腹筋、体幹はデバイスの助けもありびくともせず、ユニットをはじき返す。
 そんな彼女を星の輝きをぎゅっと固めたようなオーラをティユが飛ばして傷を癒せば、それを補うよう秋津彦のオーラの塊とオウガの拳圧が支援する。
 仲間達に回復を完全に任せ剣としての仕事に徹するシルが小柄な体で地を滑るように走り距離詰めて旋風の如き蹴撃を叩き込み、強烈に吹き飛ばす。
 それらの連撃にダモクレスの損傷は激しくなっていくが、まだ動きを止める事はない。
 完全に停止させる為、ケルベロスは堅実に戦いを続けていく。

●結束するケルベロス達
 夕影色の狼の虹描く蹴撃と真白きオウガの放った戦女神の怒りのオーラがダモクレスを掠め、そこに妨害手としてのペルルのブレスが直撃。敵の注意を二人に強く向けさせる。
 そこに桜の妖精が夜空に飛び上がり急降下蹴りを見舞うけれど急加速した機体はその蹴りを寸での所で回避。
 反撃のビームが前衛を焼くが、
「こんなのに、負けるかっ!」
 咄嗟に動いたジェミの鍛え上げた肉体がその攻撃を阻み、
「みんなも、そうでしょ!」
 仲間を振り返り、重ねられた角笛の音と共に生じたカラフルな爆発が仲間達を鼓舞する。
(「行動パターンを変えてくるとかはないようだけど」)
 ここまで敵の動きに注意していたティユだけど、損傷による動きの変化は見当たらない。
 捕獲よりも探りを入れる意味合いの方が大きいのかも、と思考が過るが確証もなし。
 後方のライフル構えた佐楡葉も似たように思案していた。
 ただ速い。高所からならもう少し狙い易いかも、と横を見れば花の彫刻の角笛を手にしたふかふか羊毛の友。四年前は誤爆したとかはさておいて、佐楡葉の頭に電球が輝くような閃きが訪れる。
 飛ばされたユニットをティユが受け止め、その傷をシシィが羊毛で包むように、更にソニアとヨミのパズルより飛び立った蝶の群が癒す。
 反撃に真珠のようにつややかなペルルが星のブレス、そしてティユが星座の形に星を輝かせ獅子のオーラをダモクレスに放ち命中させる。
(「……しかし、皆凄いな。頼もしい限りだ」)
 妨害手として支援し続けているトレイシスはそんな仲間達を微笑ましく思っていた。
 なぜ戦場に戻ったのか、それはティユとあのプラネタリウムがあったからこそ。あの場所に店主の彼女は不可欠で、故に失わせる訳にはいかない。
 そこでやや高い発射位置からの凍結光線がダモクレスのリング状のユニットを真っすぐ撃ち抜く。
 放った方向を見れば、羊の少女の肩に乗りライフル構えた佐楡葉の姿。
「これぞめぇめぇらむカー! らっむ、しっかり支えてなさいよ!」
「ふぇぇ……重いんだよぉ……」
 潰れちゃうなぁんと足をぷるぷるさせながら佐楡葉を肩車で支えているチェザ。
 ちなみに背は年上の佐楡葉の方が高い。少しぐらついた所で佐楡葉はついチェザの角を掴んでしまう。
「あ、あっ、ひつじさんのツノはハンドルじゃないんだよ……!」
「あっバランスが……」
 佐楡葉が掴んだ部位は少々まずかったのか、ちたちた暴れたチェザに佐楡葉が振り落とされてしまう。
 そんなやり取りにどう反応すればいいのか迷うように動き鈍らせたダモクレス、その隙を見逃さず雷気を纏わせたトレイシスの斬霊刀が突き刺さり頑丈な機体の守りを弱化、
 更にソニアがガジェットを変形、弾丸を放ち浅く当てれば連携したティユが凍気のハンマーを叩き付け機体を凍てつかせる。
 友に合わせて起き上がったチェザが地面を蹴り、転がる羊の車輪の空靴を羊蹄代わりに叩き込むとジェミの拳が構造的弱点を的確に貫き堅牢な装甲に隙を穿つ。
 重ねて黒き影の弾丸の追撃が隙を作りだした瞬間、ヨミの周囲には光の欠片がふわりと舞い槍の形に集っていく。
「劣者より生み出された怒りよ。慟哭を喰らい、この一撃で報え」
 言葉と共に光槍がダモクレスに放たれカメラ部分の中心を貫く。
「シル! 合わせるぞ!!」
「はいっ!」
 シルと呼吸を合わせワイルドグラビティにより二人の纏う衣装が魔法少女のそれへと転身、精霊魔法の砲撃支援を受けながら距離を詰めた絶華が縦横無尽に刃を振るいサーチャーとその周囲の子機を切り刻む。
 それはさながら雷光の如き蹂躙。絶華の武技とシルの精霊魔導の饗宴に内部機構が見える程に破損する。
 だが、諦め悪く再度浮遊せんとするダモクレス、だが死角からの霞玄翁の抉るような殴打と鎖の一撃が突き刺さり呪縛を増幅。
 どうぞ蹴散らしてくださいな、との姉の言葉を受けて、
「さ、ここからはわたしの本気で行くから……」
 覚悟、いいかな? そう告げるシルの傍に黒髪の少女の幻影が現れる。
 これはシルの新たな力――離れても共にある事を左薬指の円環に願い、誓い合った愛しき鳳琴との力。
 幻影の鳳琴が飛び込み輝く掌打を連続で叩き込み牽制、その間にシルは指輪に輝く六つの精霊の力を限界まで引き出し砲と成す。
「六芒星に集いし精霊よ、龍に宿りし鳳凰よ、我らが翼をひとつにして――」
 シルの背には青き魔力の翼、そして鳳琴の背には対の如き赤き鳳翼が展開されていて、
「――すべてを撃ち抜かんっ!!」
 鳳琴の一撃とシルの魔力砲が同時にダモクレスを貫き、機体はその熱量に耐えきれず爆散したのであった。

●星の下、賑やかに
「ふぅ、おわったぁ~……ティユさん、大丈夫だった?」
 シルが緊張を解きティユを見遣れば、終始戦況が優位に進んだためか護り手であった彼女にも傷は殆ど残っていないようだ。
 今の彼女の前には佐楡葉とチェザが正座している。流石に肩車は少しやり過ぎたのかもしれない。
 一方、絶華とコクマはダモクレスの残骸を確認していた。
「機密保持か……ここまでバラバラではな」
 絶華が溜息混じりに呟く。自壊機構があったのか内部は原型を留めぬ程バラバラだ。ここから他の機体に繋がるデータを探るのは不可能であろう。
 元よりあまり期待していなかったコクマは装甲等を拾い上げる。
(「多少の飾りくらいにはなるか」)
 機能美のみの飾り気のない造形、部屋を飾る芸術にするのもちょっとした趣味のようなものだ。
 そして正座する二人への軽い説教のようなじゃれ合いの後、ティユはこほんと咳払い。
「皆有難う」
 短いながらも感謝を込めて彼女は礼を言う。
「礼は不要、普段の恩を返せる良い機会だ」
 そう穏やかにトレイシスが返す。
「多分、他にもこういうの来るんだろうね」
 ふとジェミが呟く。彼女の言葉通り、ケルベロスを狙うデウスエクスの襲撃は続くのだろう。
 けれどティユには仲間達がいる。
 だから、大丈夫だよと肩を組んで活発な笑顔を向けたジェミに、ティユは穏やかに微笑み返す。

 そして、戦い終われば休息の時間。
「よーし、終わったわね! たらスパとスープ、チキンサラダが待ってるっ」
 ティユの肩から腕を離し伸びをしながらジェミがそんな事を言う。
「ふぃー。労働後のすぱげっちーはおいちいなぁん」
 正座での足の痺れも何のその、チェザの思考もその言葉に完全に引っ張られていて。
「……せっかくだから、おいしいご飯にお呼ばれしたいなー」
 そしてちらちらと伺うシル。
「僕ので良ければごはん、喜んで作らせて貰うよ」
 仲間達の視線にうんと頷き、ティユは懐大きく応じた。
「わたしはお風呂ね。動いて疲れたし」
 慣れない戦闘に疲れたヨミ、お風呂の用意もドンと来いと胸を張るティユに大喜びの面々。
「てゆさんご飯はたらスパでお願いします!」
 しゅたっと正座から立ち上がりたらスパを強調する佐楡葉。
「みんなもたんとお食べ」
 何故かチェザもどやっといい笑顔。
 一気に賑やかになったケルベロス達にあらあらと穏やかに微笑むセレスティン。
 そんな賑やかな光景を微笑ましく見つめながら、ライトを回収していたトレイシスは空を見上げる。
 人の営みに少し濁った空気だけれども行きつけのプラネタリウムとはまた違う趣がある。今この都会の星空がその星空より素晴らしく見えるのは仲間達がいるからだろうか。
 いい夜だ、ぽつりとトレイシスは呟いて。
 そして危機を退けたケルベロス達は、彼らの居場所への帰路に着くのであった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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