アンドロイド・ブルース

作者:土師三良

●宿敵のビジョン
「お散歩は楽しいですね。楽しすぎて日が暮れちゃいましたけど」
 静かな裏通りを一人の少年が歩いていた。
 レプリカントの夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)だ。
 空の隅で粘っていた夕日の残滓は消え、星々が控えめに瞬いている。街灯の光はいささか頼りないが、視界は良好。ガラス鉢のごときヘルメットの中で揺らめいている紫ががった桃色の炎――地獄化した頭部が周囲を照らしているから。そう、燈火という名はまさに体を表していた。
「不良機体、発見。修復の必要を認む」
「え?」
 くぐもった声を背後に聞き、燈火は振り返った。
 地獄の炎が照らし出したのは、暗色のロングコートをまとった何者か。背中に一対の翼を有しているが、オラトリオやドラゴニアンではない。それらは機械仕掛けの翼だったから。
「ダモクレス……」
 そう呟く燈火を赤い瞳で見据えて、有翼のダモクレスはまた言葉を発した。
「汚染レベルが高すぎる。現在の本機の状態では、レプリカントへの修復は不可能」
 あいかわらず声がくぐもっているが、それは顔の下部に包帯のようなものを巻き付けているからだ。
「修復モードから廃棄モードに移行する」
「いえ、廃棄は勘弁してください。もちろん、ダモクレスへの修復とやらも願い下げですけどね。こんな頭でも――」
 燈火は、炎を包むガラス鉢を指先でコツコツとつついた。
「――けっこう気に入ってるんですから」
「貴様の意見など聞いていない」
 かつての同族の軽口に取り合うことなく、ダモクレスはゆっくりと歩き始めた。その動きに合わせて、足下の影が実体化して上に伸び、二対目の翼に変わっていく。
「うーん。これはピンチかも……」
 じりじりと後退を始めた燈火であったが、声にはまだ余裕がある。
 確信しているからだ。
 仲間たちが助けに来てくれる、と。

●イマジネイターかく語りき
「夜歩・燈火の危機を予知しました」
 ヘリポートに緊急招集されたケルベロスたちにヘリオライダーのイマジネイター・リコレクションが告げた。
「場所は大阪市内。かつて、デウスエクス連合軍との緩衝地帯だった地域です。そこを散策していた燈火にダモクレスが襲いかかるのですが……本当は襲うのではなく、『修復』と称する行為が目的だったようですね」
 レプリカントの心を強制的に初期化して、ダモクレスへと戻すこと――それが件のダモクレスに与えられた役割であるらしい。おそらく、ダモクレスの生産工場の端末とでも呼ぶべき個体なのだろうが、その工場施設とのリンクが絶たれたか、あるいは工場施設そのものが失われたため、現在は孤立無援の状態となっているようだ。
「工場のバックアップを失い、本来の力を発揮することができないにもかかわらず、『レプリカントを修復する』というプログラムに従って、地上をずっとさまよい続けてきたのでしょう。元ダモクレスの僕としては、同情を禁じ得ませんが――」
 表情を曇らせながらも、イマジネイターは力強い声で断言した。
「――しかし、見逃すわけにはいきません。燈火の命がかかっているのですから」


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
朧・遊鬼(火車・e36891)
夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)

■リプレイ

●8B-0000
「うーん。これはピンチかも……」
 廃棄対象がゆっくりと後退を始めた。
『ピンチ』などと言っているが、音声の抑揚等から判断する限り(照明器具のごとき頭部をしているために表情から心理を読み取ることはできない)本機の脅威度を低く見積もっているのは間違いない。定命化したことによって、危機的状況を正しく認識できなくなったのかもしれない。
 正しく認識させるべく、本機は足を踏み出した。
 ほぼ同時に廃棄対象が視界から消えた。
 遮られたのだ。
 いきなり出現した定命者たちによって。
『いきなり出現』という言葉に誇張はない。センサーにはなんの反応もなかった。ステルス効果を持つ飛行体から降下してきたと思われる。
「少々、遅くなりました。大丈夫ですか、燈火君?」
 定命者の一人――地球人の男が廃棄対象に尋ねた(個体名が判明したので、以後は『燈火』と呼称する)。
「はい。大丈夫ですよー」
 定命者の列の向こうから、燈火の返答が聞こえた。
「それにしても、和希さんに名前のほうで呼ばれると、妙に照れくさいですね」
『和希さん』と呼ばれた地球人以外の定命者たちの内訳は、レプリカントと竜派ドラゴニアンと獣人型ウェアライダーが二体ずつ、人型ウェアライダーとシャドウエルフが一体ずつ。そして、ナノナノ、オルトロス、就学児童用背嚢の形状を模したミミック。皆、脅威度が高そうだ……いや、金色のドラゴニアンを除く。
「こいつ、なんか失礼なことを考えてるような気がするぅ!」
 と、本機を指さして叫ぶ金色のドラゴニアンの後方から燈火が進み出た。
「改めて、ご挨拶させてください。おひさしぶりですね、8B-0000」
 奴が口にしたのは本機の製造番号。なぜ、知っている?
「こんな頭になっているので判らないでしょうが、僕は8BーK10Aです。ほら、あなたの兄弟機の……」
 兄弟機だと? 虚言あるいは誤認あるいは妄想なのだろうが、今の本機に真偽を確認することはできない。ファクトリーとのリンクが絶たれているため、記憶装置にアクセスすることができないのだ。
 しかし、どうでもいい。
「本機にとって、貴様は廃棄対象。それ以外の何者でもな……」
「廃棄させるものか!」
 本機の言葉はシャドウエルフの叫びによって断ち切られた。
 そして、爆発音にも。
 視覚センサーが捉えることのできぬ爆弾が作動したのだ。おそらく、シャドウエルフの攻撃だろう。
「ええ、させませんとも」
 爆煙の向こうから声が届いた。初見時にサーチした骨相と照合。獣人型ウェアライダーの一人――馬の姿をした女の声である確率、九十二パーセント。
「手と脚を以て加勢いたしますわ」
 同じ声が響き、爆煙を突き破って砲弾が飛来した(なぜ、『手と脚』と宣言しておいて、砲弾で攻撃する? 定命者が好んで用いる無意味かつ冗長な修辞的表現か?)。
 再び爆発が起き、爆煙の量が増した。
 その爆煙を飛び越える二つの影。和希なる地球人と、銀髪のレプリカントの男。
 両者は本機を蹴りつけて飛び退った。攻撃と退避を兼ねた動き。迎撃する暇もない。それでも、レプリカントのほうの動きを目で押うことはできた。鈍い光が軌跡を描いたからだ。
 光の発生源(正確には発生させたのではなく、照明を反射しただけだが)は、レプリカントの首元で揺れている十字架。強い衝撃を受けたらしく、大きく歪み、一部が欠けている。宗教的シンボルを装着するのは無意味(デウスエクス以外の神など存在するわけがないのだから)だし、壊れたものを装着するのも無意味。二重に無意味な行為をしているということは、このレプリカントもきっと修復不能なレベルまで汚染されているのだろう。廃棄対象が増えた。
「援護はわたくしにお任せを」
 三体目のレプリカント――顔の左半面を前髪で隠した女(二体目の男もそうだったが、外見は人間と変わらない)がライトニングウォールを展開した。
「どうぞ、燈火様は攻撃に専念なさってくださいな」
「ありがとうございます」
 燈火が接近。手にしているのは、真空管(大時代な代物だ)が備わった長柄武器。
 その武器による刺突を本機は躱すことはできなかったが、問題はない。本機もまた攻撃していたから。右の袖口から突き出したドリルアームで。
 手応えあり。ドリルが相手の脇腹を抉った。
 もっとも、この場合の『相手』というのは燈火ではなく――、
「遊鬼が言ってたように、廃棄なんかさせないですよ!」
 ――青い被毛を有した獣人型ウェアライダーの女児のことだが。本機と燈火の間に割り込み、盾となったのだ。
「ひとりぼっちでずっと彷徨っていたのは、ちょっと可哀想ですけどね」
 燈火を背中で押すようにして後退する女児。敵である本機に憐憫を抱くというのは不可解だが、自分の身を犠牲にしてまで燈火を守ったのも不可解。
 女児だけでなく、他の者たちも燈火の安全を第一に考えているように見える。もしかして……燈火というのは重要人物なのか?
「どうやら、貴様らにとって、そのレプリカントは特別な存在らしいな」
 と、本機が揺さぶりをかけると――、
「当然じゃないですか」
 ――青いドラゴニアンがあっさりと認めて、蹴りを放ってきた。
 ふむ。やはり、特別な存在だったのか。

●リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)
 敵の足下からベルベットのような闇が立ちのぼり、瞬く間に全身を覆い隠しました。どうやら、燈火様を庇ったかりん様が特殊なグラビティで反撃したようです。
「燈火が特別とか……なんで、あたりまえのことを確認してるんですか?」
 かりん様が首をかしげている間に敵は闇を切り裂いて再び姿を現しました。
「偶然とはいえ、本機は大物と接触できたのだな」
 闇の中で受けたであろうダメージなど気にする素振りも見せず、敵は『大物』たる燈火様を睨みつけています。
「この好機を無駄にするわけにはいかない。特別な存在である貴様をなんとしてでも倒し、ケルベロスの勢力を弱体化せねば……」
「えーっと……なにか勘違いしてませんか?」
 と、呆れ顔で語りかけたのは竜矢様です。
「特別な存在というのは、ケルベロスの勢力がどうこうとかいうスケールの話じゃりませんよ。『私たちの大切な仲間』という意味です」
「タイセツナナカマ? ……ああ、なるほど」
 敵の赤い瞳が何度か点滅しました。人間に例えるなら、『合点して頷く』という行為に相当するものなのかもしれません。
「つまり、貴様らがそのレプリカンントを守るのは、定命者特有の不条理極まりない利他的な思考に基づいた行動だったのだな」
 実にダモクレスらしい言い様ですこと。

●中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
「べつに定命者特有ってわけでもないだろう」
 遊鬼さんの両隣に二体の残霊(どちらも人型のウェアライダーです)が出現しました。
「デウスエクスの中にも仲間を守る奴はいるんだからな。おまえは違うようだが……」
 遊鬼さんは残霊の一体とともに走り出し、ダモクレスに斬りつけました。よく判りませんが、もう一体のほうは遊鬼さんの得物である簒奪者の鎌にエンチャントかなにかを施したようです。
「それに不条理というわけでもない」
 和希さんが黒いバスターライフルからフロストレーザーを発射。
「人として当然のことだ」
「同族を修復する役目を負っているにもかかわらず――」
 エニーケさんが美しくも逞しい脚を勢いよく振り上げ、星形のオーラを蹴り込みました。
「――修復できないとなると、すぐに怖そうとするポンコツなダモクレスのほうがよっぽど不条理ですわ」
 ダモクレスはレーザーとオーラの直撃を受けてダメージを被ったようですが、『ポンコツ』という言葉に対しては反応を示しませんでした。
 プライドで怒りを抑えつけたのでしょうか? それとも、怒りなどという感情は最初から持ち合わせていないのでしょうか?

●朧・遊鬼(火車・e36891)
 敵が無言で左腕を突き出した。
 袖口からガトリングが覗き、マズルフラッシュが明滅。銃弾が雨霰と飛んできた。
 しかし、燈火はまたも庇われて無傷。今度の盾役はランドセル型ミミックのいっぽだ。
「燈火様が『特別な存在』でなかったと知っても――」
 銃弾を受けた仲間たちを癒すため、リリスがライトニングウォールを築いた。
「――モチベーションは低下してないようですね」
「もとよりモチベーションなどないが、ファクトリーによって設定された職責を放棄するつもりもない」
 こともなげに敵は言ってのけた。ダモクレスの模範解答ってところか。
「たとえ重要度が低くても、自称『8B-0000』が廃棄対象であることには変わりはないのだからな。そして、おまえも」
 レプリカントであるリリスに向かって、敵は顎をしゃくった。
「それにおまえも」
 続いて、同じくレプリカントのエルムを指さした。
「皆、廃棄対象。修復不能なレベルにまで汚染された不良機体だ」

●霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
「心をなくした機械風情が心のあるレプリカントの方々を不良機体扱いするとは……やれやれですわ」
 エニーケさんが肩をすくめてみせました。それはもう憎々しげに。前髪(前鬣?)に隠された双眸はきっとジト目になっていることでしょう。
「どうして、こころを持つことが不良なのですか?」
 と、砲撃形態のドラゴニックハンマーを構えながら、かりんさんがダモクレスに語りかけました。
「確かにこころがあると、苦しいとか悲しいとかの辛い気持ちを感じることもあります。でも――」
 竜砲弾が撃ち出され、ダモクレスの姿が砲煙に包まれました。
「――嬉しいとか楽しいとかの素敵な気持ちを感じることもできるんです。そういう気持ちを見つけることができた今の燈火のことをもっと知ってあげてほしいと思うのです」
「話にならない」
 ダモクレスが砲煙の奥から現れ、かりさんの言葉を切って捨てました。
「『心をなくした』というのは謝った認識だ。本機は心を欠損していない。また、不良機体かどうかの基準を心の有無で判定しているわけではない」
 迷いなき声ですね。もっとも、体のほうは傷だらけ。ここまでで二発の竜砲弾や三人分のスターゲイザーや稲妻突きや遠隔爆破やその他諸々を食らいましたからね。

●エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
「ダモクレスの心は、定命者のそれを機械で再現した擬似的なものではない。定命者の心こそ、ダモクレスのそれを生体脳で模倣した不完全なものだ」
 時には私たちにグラビティをぶつけられながら、時には私たちにグラビティをぶつけながら、ポンコツの修理屋はほざき続けました。
 実に不愉快。かつて私を姉として見做していたクソ(あら、失礼)も同然のダモクレスを思い出さずにはいられません。淡々と語る修理屋に比べると、あの自称『妹』は感情的でエキセントリックな輩でしたが……それでも、同種族だけあって、色々と相通ずるものがあります。
「心だけでなく、すべてにおいて貴様たちは不完全。たとえるなら、レプリカントはヒトから退化したサルであり、レプリカント以外の定命者はヒトに進化しそこなったサルだ。いや、サルにも劣る奴もいるようだが……」
「それは俺か!? 俺のことかぁーっ!? うっきぃーっ!」
 お猿さんの鳴き声じみた怒号を発しながら、ヴァオさんがバイオレンスギターをかき鳴らしました。曲目は『紅瞳覚醒』。
 その激しいリズムとビートに押し出されるようにして、燈火さんが敵に肉迫しました。
「サルとして生きるのも悪くありませんよ。ヒトだった時と違って、自由だし――」
 地獄の炎を纏ったゲシュタルトグレイブの刃が修理屋に命中。
「――こうして助けてくださるお友達もいますしね」

●仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
「こうして助けてくださるお友達もいますしね」
 その燈火の言葉を証明するかのように『お友達』の一人がグラインドファイアで敵を追撃しました。
 竜矢です。
「最初に言ったように燈火さんは大切な仲間なんですよ。ちょっとびっくりすることもありますけど、とても優しくて、一緒にいると楽しい人なんです」
「うんうん。びっくりすること、ありますよねー。自爆大好きなところとか」
 そう言いながら、猫の人型ウェアライダーの環がパイルバンカーを敵にぶつけました。
「でも、そういうのを含めて、私たちは夜歩さんが大好きなのでして!」
「なのー!」
 環に合わせるようにして叫びながら(『だいすきー!』って言ってるんでしょうか?)、ナノナノのルーナがハート型のバリアを生み出しました。
「がおー!」
 同じように叫びながら、バリアに包まれたオルトロスのイヌマルが神器の剣で敵を攻撃。
「いや、『自爆大好き』ってなんだよ? 燈火ってば、自爆すんの? ねえ、自爆すんのぉーっ!?」
 ヴァオが騒いでいると……爆発音がどかーん!
 いえ、燈火が自爆したわけじゃありませんよ。ルーナの主人である遊鬼が爆破スイッチを押したのです。
「サルならざるおまえに――」
 爆風で吹き飛ばされる敵に向かって、遊鬼が問いかけました。
「――壊される覚悟はあるか?」

●エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
 遠隔爆破によって吹き飛ばされたダモクレスでしたが、何事もなかったかのような顔をして(その実、満身創痍なのですが)、ゆっくりと立ち上がりました。
「貴様たちをサルに例えたが、実際はサルよりも質(たち)が悪い」
「御託は結構だ」
 オウガメタルを纏った和希が滑るような動きで一気に間合いを詰め、戦術超鋼拳のアッパーカットを披露しました。
 またもや吹き飛ばされるダモクレス。
 しかし、すぐに立ち上がりました。先程と同様、何事もなかったかのような顔をして。
 その顔を見ていると、彼の『心を欠損していない』という主張をがどうにも怪しく思えてきます。そもそも、ダモクレスの心とはなんでしょうか? 自分のものを必死に取り戻そうとしていた僕の姉(この壊れた十字架は姉の形見です)もダモクレスでしたが、彼女にも心はあったのでしょうか? そして、元ダモクレスである僕にも?
「貴様たちにはサルとしての自覚がない。そして、ヒトに相当するダモクレスを見下している」
「べつに見下してなどいませんわ」
 と、静かな語調で応じたのはレプリカントのリリスさんです。
「少しばかり哀れんではいますけれどね」

●夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)
 リリスさんが8B-0000にスパイラルアームを見舞いました。
 それでも、8B-0000は――、
「いや、『哀れむこと』は『見下すこと』と同義だ」
 ――自分のペースで語り続けています。自動的に音声を再生する機械のように。
「ただ見下すだけでも質が悪いが、そこにはらんだ矛盾に気付いていないのだから、始末に終えない。そう、ロジカルな思考を『人間味がない』などと言って嫌悪しながら、科学に頼って生きるという矛盾に。デウスエクスの不死性を否定的に捉えながら、自分たちの長命と健康を望むという矛盾に……」
 なるほど。興味深い意見ですね。
「その矛盾の根底にあるのは嫉妬と羨望。結局のところ、貴様たちは不老不死のデウスエクスに憧れているのだ。どうあってもデウスエクスにはなれぬという事実が悔しくてしかたないのだ。『自由』という言葉を使って、その幼稚な感情をごまかしているようだがな」
 おやおや。定命者全体を侮辱していたはずですが、いつの間にやらターゲットが僕一人に絞られていますよ(彼の前で『自由』という言葉を用いたのは僕だけですしね)。なんだかんだ言いながらも、僕のことが記憶の隅に引っかかっていたりするのでしょうか。

●8B-0000
 感情とは化学反応に過ぎない。地球の文明レベルにおいても、それは自明の理のはず。
 にもかかわらず、定命者の多くは感情や心を特別なものと見做したがる。
 それはなぜか?
 一、定命者は無知だから。
 二、定命者は現実から目を背けているから。
 三、定命者は無知な上に現実から目を背けているから。
 それを模索している間に炎が視界を覆い、本機を焼いた。壊れた十字架を装備したあのレプリカントがドラゴニックミラージュを放ったのだ。
「燈火様、とどめを……」
 女のレプリカントの声が聞こえ、炎が消失した。
 目の前に現れたのは燈火。
「ねえ、あなたに首を落とされてレプリカントになってから、面白い遊びを覚えたんですよ」
 そう言いながら、燈火は本機に抱きついた。
「最後にどうか味わってくださいね」
 なんの真似だ? この不良機体め。貴様など、本……。

●EPILOGUE
 戦闘が始まってから何度目かの(そして、最大の)爆発が起きた。
『自爆大好き』と評された燈火が自爆系グラビティを発動させたのだ。
 もっとも、その爆発によって粉微塵になったのは8B-0000だけ。爆煙が収まると、二本の足で立つ燈火の姿がまた現れた。
「さようなら」
 地面に散乱する8B-0000の残骸に向かって、燈火は別れを告げた。
 そして、顔を上げて、仲間たちを見た。
「皆さん、ありがとうとざいます」
 ガラス鉢型ヘルメットの中で地獄の炎が揺らめいている。
 それが笑顔なのか泣き顔なのかは仲間たちにも判らなかった。
 本人も判っていないのかもしれない。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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