トリテン・ラプソディ

作者:秋月きり

「うぐぐ。鳥天だとっ! 鶏肉を天ぷらにして食べるなどなんたる不遜! なんたる傲慢! このような食事を許しておく訳にはいかない! ……行かないよな?」
 一体のビルシャナが、レストランを前に叫び……いや、叫ぶことが出来ず、うなだれていた。
 レストランの前に立てられた幟には『鳥天発祥の店』と書かれている。おそらく、ここに奇襲を掛けるつもりだったのだろう。
「鶏肉って言ったら唐揚げだろう? こう、天ぷらって違うと思うんだ。多分。きっと……」
 拳は振り上げた物の、歯切れが悪い。並のビルシャナと違い、己の教義に自信を持てなくなっている様子であった。
「悩む必要は無い。汝の教義は絶対。そしてユグドラシルとの同化こそが衆合無をも越える唯一の救済なのだ」
 突如掛けられた言葉は背後から。
 南無南無と、音もなく現れたビルシャナ――光世蝕仏の言葉に、チキン明王、もとい、鳥天絶対許せぬ明王は膝を突く。
 接続詞である『そして』の前後にまったく繋がりが無かったが、それを気にする彼ではなかった。話が通じない点に於いて、彼もまた、ビルシャナなのだ。
「そうだ! 鳥天は許せない! 鳥天なんぞ食べるに値しない食べ物なのだ! あと、ユグドラシルばんざーい」
 ぐるぐると目に奇怪な光を浮かべたビルシャナは、勢いよくレストランへと飛び込む。
 その身体からは、無数の蔦が伸び始めていた。

「大分県別府市のとあるレストランが、ビルシャナの襲撃を受けるわ」
「……そ、そうか」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の言葉に、うへぇと表情を曇らせる青年がいた。彼の名前はヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。件のビルシャナ、鳥天絶対許せぬ明王の出現を憂いた者の名だった。
「ビルシャナが出現するのは鳥天と言う大分県の郷土料理を売り物とするお店ね。よって、このビルシャナを、鳥天絶対許せぬ明王と命名します」
「ま、妥当だね」
 例によって10人ほどの一般人が彼に賛同し、配下となっている用だ。
「成る程。つまり、鳥天絶対許せぬ明王の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして無力化する事が出来るのか」
「流石ヴィルフレッド。話が早いわ」
 蛇の道は蛇だった。情報屋に説明を繰り返すことは愚に等しいと、リーシャは必要な情報のみを口にする。
「まず気をつけて欲しいのは、ビルシャナに攻性植物の影が見えることね」
 謎の光による攻撃や回復の他、周囲にいる敵を蔦で縛る攻撃も行うようだ。
「連れている一般人は男女半々と言ったところ。みんな、鶏肉は好きみたい」
 だから『鶏肉を一番美味しく食べるのは鳥天じゃない』と言う主張の様子だ。
「だから、『鶏肉は美味しい』と言う主張をしつつ、『だから鳥天も美味しいよね』みたいな主張は通ると思うわ」
 例えば、他の鳥料理の美味しさを語るとか。
 こういうシチュエーションで食べる鳥料理は素晴らしい、と言う話題も威力充分だろう。
「天ぷらの美味しさを語った後、『だから、鶏肉を天ぷらにするのも美味しい筈だ』でも通じそうだね」
「ええ。きっと」
 ヴィルフレッドの言葉の後、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
 見ればグリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)が頬を染めつつ、視線を余所に向けていた。まぁ、気持ちは分かる。
「つ、続けて下さい」
「えーっとね。その配下の人々だけど……」
 リーシャの言葉に、ヴィルフレッドがこくりと神妙に頷く。大人の対応だった。
「配下は鶏肉への愛情が溢れているので、鶏肉や鳥そのものを冒涜するような発言は気をつけた方が良いかも」
 もしも配下を説得出来ずに戦闘に突入した場合、彼らは体当たりで動きを阻害してくるようだ。
 配下はとても弱く、倒すと死んでしまいかねない。犠牲を出さないつもりであれば、如何なるグラビティも使用せず、押さえ込むことが必要となるだろう。
「『暗夜の宝石』攻略戦でビルシャナ大菩薩が倒された影響もあって、ビルシャナの一部がユグドラシルに信仰を変えたのかもしれないわね」
 とは言え、やっていることは今まで通りの迷惑行為だ。
 放置する理由など何処にもない。
「それじゃ、いってらっしゃい」
 いつも通りの送り出しに、ヴィルフレッドとグリゼルダは力強く頷くのであった。


参加者
八千草・保(天心望花・e01190)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
モニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●鳥天に至るモノ
「鳥天は許せない! 鳥天なんぞ食べるに値しない食べ物なのだ! あと、ユグドラシルばんざーい」
 大分県別府市。日豊本線の線路沿いで、とあるデウスエクスが大声を上げていた。名を鳥天絶対許せぬ明王と言う。金色の羽毛に身を包んだ鳥人間型の侵略者――ビルシャナであった。
 その周囲を10人ほどの男女が囲み、同じく「おー」と唱和している。ついでの如くユグドラシルへの賛美を送るのも、彼同様であった。
(「ビルシャナも攻性植物に乗っ取られて教義の信念が曲がってるというか雑念が混じり始めたね……いや、あんまり変わりないか」)
 それを遠巻きに見ながら、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)は感嘆にも似た吐息を零す。
 そう。鳥天絶対許せぬ明王が真っ当なビルシャナで無いことは明白だった。言動、そして身を包む金色の羽毛から見え隠れする触手と化した蔦群……。彼が攻性植物に乗っ取られているのは誰がどう見ても明らかだろう。
「まぁどうであれ許すわけにはいかないよね」
「はい。美味しいお店――いえ、一般人への損害は看過する事は出来ません」
 ヴィルフレッドの独白に、返ってきた声はグリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)の物であった。
 彼女もまた、無垢な住人を蹂躙する侵略者に憤るケルベロスの一員だ。その心に宿る思いは、如何程だろうか。
 訂正前の言葉をさらりと無視し、ヴィルフレッドは自身の得物である黒銃を構える。
 此処に集まった5人共、デウスエクスへ怒りを燃やす心情は同じであった。

「待ちなさい!」
 今にも店に押し入りそうなビルシャナ達を、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)の可憐な声が制する。
 しかし、相手は法に縛られぬ侵略者達だ。律儀に従う謂われなど無い。
 その筈だが。
「おのれ、我らの邪魔立てをするか、ケルベロス!」
 ピタリと足を止め、信者一同、睨眼をケルベロス達に向けてくる。
(「素直なんやなぁ」)
 八千草・保(天心望花・e01190)の独白は、正鵠を得ていた。
 信念によって拘りを教義にまで昇華させた存在がビルシャナであるならば、肯定にしろ否定にしろ、彼らは言を尽くす者と必ず対峙するのであろう。まぁ、ややこしい理由付けなどせずとも、ヘリオライダーが破壊活動前に遭遇出来ると予知したのだ。ケルベロス達がそれに反する行動を取らない限り、この邂逅は必然だった。
「そう、モニ達はケルベロスなのよ」
 ゆるりと、しかしハッキリとした口調でモニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974)が宣言する。
 それが敵対の証しであり、戦いの合図となった。
「ビルシャナ。ここでキミの野望は挫かせて貰うよ! 鳥天がどれだけ愛されているか、教えて上げる!」
 ヴィルフレッドの言葉に、ギリギリと嘴が擦れる音が重なった。

●さくっと香ばしく、ごくりと美味しく
「貴様らっ! この私が鳥天絶対許せぬ明王と知りつつの狼藉か! それとユグドラシルばんざーい」
「当然よ。さくっと終わらせるわ!」
 鳥天だけに。
 どや顔で言い切った篠葉はぴしりと白い指を突きつける。美少女の指差しに、ビルシャナ一行は思わず、うぐりとたじろいでしまう。
(「鳥天も鶏カラも両方美味しいで良いと思うのよね」)
 篠葉の目配せに、こくりと頷いたのはモニ、そしてグリゼルダだった。
「鳥の唐揚げは美味しいのよ。モニはたくさん食べたくて、こないだ、つい作りすぎちゃったのよ」
 語り出した少女の言葉に、ビルシャナを始めとした信者達は是と頷く。
 流石は鳥天絶対許せぬ明王とその信者達だ。鳥天以外の鶏肉料理――唐揚げに対する食いつきは良かった。
「次の日にはすっかり冷めてたのよ。そこでモニは唐揚げにてんぷら粉を付けて、唐揚げの天ぷらにして食べたのよ」
 何という逆転の発想。唐揚げには二度揚げという技法を用いる物もある。それをこの少女は唐揚げを天ぷらとして再生したと言うのだ。
 信者の一人がゴクリと喉を鳴らす。
「……い、いや、それって美味しいのか?」
 鶏肉の天ぷらならば想像が付く。だが、唐揚げの天ぷらとは如何程か?
 信者の問いに、返ってきたのは満面の笑みだった。
「すごくおいしかったのよ。鳥の唐揚げがおいしくて、鳥の唐揚げの天ぷらがすごくおいしいなら、鳥の天ぷらはおいしくないとおかしいのよ」
 モニの主張に、しかし信者達の大半は疑問符を浮かべていた。
 おそらくその創作料理の味を、彼らは想像出来ていないのだ。
「そ、それに唐揚げはほら、ご飯が進みます! 想像してみて下さい。熱々の唐揚げと、ほかほかの白いご飯を!」
 モニの上げた唐揚げと言うレシーブを活かすべく、グリゼルダが追撃する。
 やはりゴクリと喉が鳴る音が響くのは、彼らが鶏肉を愛するが故なのかも知れない。
「そして、レモンを搾ればあっさりさっぱりと幾つでも――」
「レモンだと!!」
 だが、10からなる信者達、また、ビルシャナですらくわっと目を見開き、戦乙女に詰め寄ってくる。その目は血走っていて、何と言うか、凄く怖かった。
「れ、レモンを勝手に搾るのは良くないのよ? グリゼルダ」
「え、そうなのですか?」
 しばし取り沙汰される唐揚げにレモンを勝手に搾る奴問題が此処でも起きようとは!
 モニの言葉にグリゼルダが狼狽を見せたその瞬間。
「「そこはカボスだろう!!」」
 11の口が一斉の同じ言葉を発する。
「……ああ、そうだね。大分の人間ならそうだよね」
 突っ込むところはそこか、とヴィルフレッドは額を抑えながら独白。
 大分県で愛されているこの柑橘類は、日本全国の90パーセント以上が大分県で生産されており、その内の90パーセントを大分県で消費されていると言う、ベストオブ大分系柑橘類と言っても過言ではないのだ。ここ、大分県別府市でビルシャナが信者を集めた以上、大分県民である事は当然と言えよう。
「まぁ、しかし、こう、さっぱりぽんって食べ方は否定せんのやね」
 我が意射たりと保が進み出る。
「想像してくださいなぁ。すだ――じゃなかった。柑橘類のポン酢。ええ香りに、万能調味料のポン酢がふんわりさっくりした衣に絡むよ」
 酢橘の名前を出すつもりだったが、それは誤魔化すことにした。レモンであの返答だ。徳島県が誇る酢橘を持ち上げたが最後、戦争に発展しかねない。
 身を挺してその危機を知らせてくれたグリゼルダに、思わず黙礼してしまう。怒鳴られた為か、しゅんとなっている彼女はそれはそれで可愛くも思えたけれども。
「衣の食感とじゅーしーなお肉と酸味のはーもにー。からあげにレモン……やなかった、カボスやっけ? 柑橘類を搾る派のお人らやったら、この良さがわかる筈! 天つゆにもダイブできますし、衣と相性抜群ですえ」
 処々でゴクリと喉が鳴る。
 天つゆだけではなく、塩で頂く事も出来る。抹茶塩や桜塩での味わいをどうか想像して欲しい。
 保の言葉にぐぬぬ、と信者達が唸る。
「だ、だが、鳥天なんて食べ方は邪道! 加えてユグドラシルバンザイ! なのだ」
「まぁ、ボクも食べたことないんやけどな」
「ないんかーい!」
 ビルシャナが思わず放った突っ込みに、しかし、返ってきたのは柔らかい笑みだった。
「せやけど、郷土料理てええよねぇ。未知の味やし……。色んな料理あったら、毎日飽きんと、色んな味を楽しめるよ」
 鳥天を否定しても、そこにある郷土料理そのものを否定することは如何か。
 保が指し示したのは、店先ではためく幟――『鳥天発祥の店』と描かれた旗であった。
「そう。天ぷらは美味しいよね」
 保の誘導で天ぷら舌を完成させたと、篠葉がずいっと進み出る。
「天丼って美味しいじゃない。季節の野菜、エビ、かき揚げ。それを甘辛いタレを軽くかけて、ご飯と一緒に頂くの。最高なのは間違いないでしょ?」
「ああ、ううっ」
 この時期ならばイカやサワラもいいだろう。ワカサギも最高なおかずであり酒のあてだ。
 もはや信者達の思考は一色に染まっていた。
「天ぷら、喰いてぇ」
「ええ。本当に、凄く食べたいですね」
 すかさずグリゼルダがトスを上げる。
 否、彼女は本心からの言葉だった。
 それを受け止め、篠葉は満足げに頷く。トドメを刺すなら今だと言わんばかりに。
「そこに鳥天もインするわけよ。鳥天と野菜天や海老天のハーモニーを感じつつタレの染みたご飯で包み込む。これは間違いないでしょ??」
 二度目の『間違いない』と言う台詞だった。
 だが、それを問われれば、答えは是しかない。天ぷらの奏でる旋律こそ、今の彼らにとっては至福そのものだった。
「唐揚げだと、天丼に唐揚げトッピングですね、で流されちゃうけど、とり天ならそのハーモニーを全く崩すこと無く美味しく頂けちゃうのよ。とり天、アリだと思わない?」
「ぐぐ、おのれ」
 ビルシャナもまた、嘴から涎を零しながら唸る。
 だが、信者の心が激しく揺れていることに、彼の理解が及ばぬ筈もなかった。

●鳥天を巡る戦いの果てに
「さて」
 そしてヴィルフレッドは戦いの場にゆるりと降り立つ。いまこそ、鳥天絶対許せぬ明王に引導を渡す時だった。
「鶏肉の揚げ物ならから揚げとかフライドチキンもある。あれもとても美味しいのは知ってるとも。揚げたての魔力に抗える? 僕は無理だね」
 だが、ヴィルフレッドは知っている。その言葉は全て、仲間達が告げた言葉への後押しにしかならないことを。
 信者問わずビルシャナの息が荒いのは、もはや彼らが盲目的に、それを求めているからだ。
 ならば自身のする事はその後押し。
 それが、トドメだ。
「でも味の濃いもの……例えばカレーうどんに合わせるとしたら味が濃い鶏肉料理はどうしても喧嘩してしまう。でも鳥天をごらん。カレーうどんの汁を吸っておいしさをフォローしつつも鳥天の美味しさは不動なんだ。汁につけてすぐに食べれば衣のサクサク感を、時間をおけばしんなりした所が楽しめる」
 例えば立ち食い蕎麦屋。
 例えばうどんチェーン店。
 そう、もはや鳥天は大分県を飛び出し、全国至る所で食せる食材となっている。そして、その組み合わせは、ただひたすら、自由だ。
 もう、天つゆや甘辛のタレで食べるだけの存在ではないのだ。
「一石二鳥……まぁまずは騙されたと思って」
 目の前のレストランで満足出来なければ他の店に行けば良い。
 そう、なんにでも合う鳥天は自由な食べ物なのだ!
「う、うおおおおおっ!」
 指し示したヴィルフレッドの言葉に従い、信者達は駆けていく。
 その足が目の前のレストランに、或いは市内に、或いは県内に向いていることを、ヴィルフレッドは知っている。何だったら、自宅に走る物も居るだろう。
 だが、それでいい。それがいい。
 それが、彼らの示した答えなのだから。
「キミは、こっち、なのよ」
 信者と共に走り出しそうになったビルシャナへ、モニの跳び蹴りが突き刺さった。
「く、くそぅ、ケルベロスめっ。そして、ユグドラシルバンザイ! この怨み晴らさずべきで!!」
「ろう ろう もに りむがんと いるかるら なうぐりふ!」
「よう眠れますえ」
 泡混じりの叫びはしかし、最後まで紡がれない。
 モニが召喚した雪の結晶、そして保の起こした花びらの嵐がその鳥人間の身体を強襲したからだ。
 ぐぇぇと響く悲鳴に、ふっと篠葉の短い笑みが宿る。
「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
 彼女の詠唱と共に、無数の怨嗟が吹き荒れ、そしてビルシャナの身体を拘束する。
 ぶちりと響いた音は、おそらく彼を冥府へと誘う破砕音だったのだろう。
「ところで、キミ達が鶏肉料理を食べたら、共食いにならないのかな?」
「はっ! 我らは光の使徒! 鳥扱いするのは貴様らの十八番よ! それとユグドラシルバンサイ!」
 語るべきことは何も無いと、ビルシャナは叫ぶ。
「そっか」
 それ以上は考えまい。それがヴィルフレッドの出した結論だった。
 そして、小ぶりなドラゴニックハンマーが一旋する。
 吹き荒れた破壊の嵐の後、ぐしゃりと潰れる音が響き、そして、ただ一言だけ、言葉が残った。
 ユグドラシルばんざーい、と。

●トリテン・ラプソディ
 それは最後まで、ユグドラシルへの賛美を行っていた。
 その行為そのものに戦慄を覚えてしまう。光世蝕仏、なんて恐ろしいビルシャナなのだ。
「ともあれ、皆に怪我がなくて良かったわ」
 信者を喪い、力を失ったビルシャナに苦戦する謂われは無いとの保の台詞に、力強い仲間達の頷きが返ってくる。
 となれば、今からやることは一つである。
「鳥天食べていこ」
「行きましょう!」
 グリゼルダもまた、息を巻いてその声に応える。
 度重なる言葉のやり取りで、既に口の中は天ぷら舌だ。無性に鳥天が食べたくて仕方ない。出来れば野菜天や魚介類も。あと、カレーうどんにトッピングも試してみたい!
「ちゃんと、モニも食べるの……よ」
 此処までの移動と戦闘で疲労困憊なのだろう。
 眠たげにモニが呟く。
 戦士と言えど、年齢は9歳。それも致し方ない。
「今日も元気に呪っていくわよ!」
 そんな彼女を支えながら、篠葉がばんと店を指差す。
 店を呪うのは如何と思うが、これはただの彼女の口癖だ。気にする必要は無い言動である。多分、きっと。
「じゃあ、行こうか!」
 浮き立つ気持ちを隠すつもりもなく、ヴィルフレッドは仲間達と共に店の門戸をくぐる。
 そこに鳥天を出す店がある。それで充分だった。

 ああ、トリテンラプソディ。
 人々の食を支える鶏肉の、その一つの形。
 ああ、トリテンラプソディ。
 番犬と使徒が交わり貪り食い合う、戦場の華。

 鳥天定食に始まり、カレーうどん、蕎麦、鳥天丼、はたまた中華風鳥天の甘酢和えと食べ干したケルベロス達は、そして満足げに店を出る。
「とり天おいしいね……おばあちゃん」
 むにゃむにゃとグリゼルダの背で寝言を言うモニの姿があれば。
「食べ過ぎたわ……」
 目を細める保の姿もあった。
 そして、篠葉はウキウキとその背を追う。
 鶏肉だけでない。ここ大分県は瀬戸内――豊後水道から獲れる魚が有名なのだ。ヘリオライダーに回収されるまでの間、もっと地元グルメを堪能するつもりであった。
 それはヴィルフレッドも同じ気持ちだ。
「成長期だから問題ないよ」
 だから、そんな言い訳のような言葉を残す。
 戦い――否、食事はまだまだこれからだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月4日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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