もう映像は映らない

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した家電ショップに、ポータブルテレビが置かれていた。
 昔は飛ぶように売れたものの、今となっては、過去の事。
 解像度が低く、バッテリーの持ちが悪かったため、あっと言う間に在庫の山が築き上げられてしまったようである。
 そこに追い打ちをかけるようにして、家電ショップが廃業してしまったため、ポータブルテレビは深い眠りにつく事になった。
 だが、ポーダブルテレビは、その現実を受け入れていなかった。
 いつか活躍する日を夢見て、期待に胸を膨らませていた。
 しかし、その日はいつまで経っても、来なかった。
 どんなに待っても……。
 何日経っても……。
 ……決して訪れる事はなかった。
 その思いが残留思念となって漂い、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスはカサカサと音を立てながら、ポータブルテレビに機械的なヒールを掛けた。
「ポータブルテレビィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したポータブルテレビが、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「天月・悠姫(導きの月夜・e67360)さんが危惧していた通り、都内某所にある家電ショップで、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある家電ショップ。
 ここに放置されていたポータブルテレビが、ダモクレスと化したようである。
「ダモクレスと化したのは、ポータブルテレビです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したポータブルテレビは、ロボットのような姿をしており、手当たり次第に攻撃を仕掛けてくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、わたしが危惧していたダモクレスが、本当に現れるとは驚いたわね。ともあれ、これも何かの因縁……。わたしが直々に倒すわ」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は何か運命的なモノを感じながら、仲間達と共にダモクレスの存在が確認された家電ショップにやってきた。
 家電ショップは既に廃墟と化しており、まるで墓標の如く大型家電が棄てられていた。
 その大半が、型落ちしたモノ。
 だが、まだ使えそうなモノばかりであった。
 しかし、どれもゴミとして捨てられており、結果的に入口のシャッターが塞がれていた。
 そのため、誰も出入りする事が出来なくなっており、色々な意味で不気味な雰囲気が漂っていた。
「……ポータブルテレビか。俺には疾風丸が居るから、特に不自由はしていないが……」
 そんな中、九竜・紅風(血桜散華・e45405)が、自分なりの考えを述べた。
 おそらく、これを捨てた者達も、同じような考えに至っていたのだろう。
 今となっては、その者達から本心を聞く事が出来ないものの、例え理由は何であれ、いらなくなった事は間違いない。
「一昔前なら流行ったのかも知れませんが、今はスマホとかで事足りますからねー……」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、何やら察した様子で答えを返した。
 実際に、ダモクレスと化したポータブルテレビは、在庫の山に眠っている一台。
 そう言った意味で、あながち間違った考えという訳でもないだろう。
 だが、それはこちら側の事情であって、ポータブルテレビ側の事情ではない。
 故に、ポータブルテレビからすれば、納得の行かない事。
 『責任者、出てこい!』と騒ぎ立てても、おかしくないレベルであった。
 しかし、ポータブルテレビが、どんなに叫んでも、その声が人々に届く事はなかった。
「確かに、あまり必要とされているイメージが無いわね。その所為もあって在庫の山が出来たのかしら?」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、納得した様子で答えを返した。
 だが、それは禁断の言葉。
 まるで、その言葉を否定するかの如く勢いで、シャッターの向こう側から、ガタゴトと音がし始めた。
 その音は次第に大きくなっていき、地震が起こったのではないかと心配になるほど、大きくなった。
「ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したポータブルテレビが、耳障りな機械音を響かせながら、家電ショップの壁を突き破った。
 その姿はロボットのようであったが、身体のあちこちからオイルのようなモノが流れ落ちているせいで、不気味な印象を受けた。

●ダモクレス
「さぁ、行くぞ疾風丸。サポートは任せたからな!」
 すぐさま、紅風がテレビウムの疾風丸に声を掛け、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
 それに合わせて、疾風丸が紅風と連携を取りつつ、いつでも回復する事が出来るように専念した。
「ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな雄叫びを響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 それはバリバリと音を立てながら、アスファルトの地面を削り、ケルベロス達を飲み込む勢いで迫ってきた。
「いくら強力な攻撃であっても、当たらなければ、意味がないわ……!」
 その事に気づいたリサがエナジープロテクションを展開し、周囲に集う属性のエネルギーで盾を形成し、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
 その反動でリサの身体が宙を舞いそうになったが、両脚に力を入れる事で何とか踏み止まり、額から一筋の汗が零れ落ちた。
「どうやら、自分の力を過信し過ぎたようですね」
 その間に、紅葉が死角に回り込み、スターゲイザーで流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ダモクレスの機動力を奪った。
「ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 だが、ダモクレスは全く怯んでおらず、半ばヤケになりながら、身体を動かし、再びビームを放ってきた。
 それはダモクレスの怒りであり、恨みの塊。
 ケルベロスを……いや、人類を滅ぼすため、ダモクレスが生み出したモノだった。
 故に、破壊ッ!
 すべてを、破壊ッ!
 その気持ちが具現化され、アスファルトの地面を抉るようにして削り取り、再びケルベロス達に襲い掛かった。
「この霊弾を喰らっても、動き回る事が出来るかしら」
 それを迎え撃つようにして、悠姫が圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作り、ダモクレスに炸裂させた。
 その拍子に、ダモクレスが放ったビームが弾け飛び、光の雨となって辺りに降り注いだ。
 しかし、その光から破壊力は失われており、ただ綺麗なだけだった。
「ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、続けざまに強烈なパンチを繰り出した。
 それはビームほどの破壊力はなかったものの、風を切るほどの勢いがあった。
「何をやっても同じ事です。当たらなければ、意味がないのですから……。それに、月光の如き華麗なる剣戟を見切れなければ、私に触れる事さえ出来ませんよ? それでも、戦うというのであれば、私も容赦はしません!」
 それを迎え撃つようにして、紅葉は月光斬で緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスのアームを斬りつけた。
「テ・レ・ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 だが、ダモクレスはまったく怯んで押せず、紅葉に殴りかかってきた。
 その攻撃をギリギリのところで避けたものの、ダモクレスの勢いは止まらない。
 それどころか、紅葉を親の仇と言わんばかりに追い詰め、殺す気満々であった。
 おそらく、『意味がない』という言葉が、ダモクレスの心に火をつけ、ここまで駆り立てているのだろう。
 しかし、その気持ちに反して、攻撃は全く当たらなかった。
 それでも、ダモクレスは諦めておらず、紅葉を行き止まりにあったブロック塀まで追い詰めた。
「だったら、この呪いで、お前を動けなくしてやろう」
 その隙をつくようにして、紅風が尋常ならざる美貌の放つ呪いによって、ダモクレスの動きを封じ込めようとした。
「ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 だが、ダモクレスは全身のパーツが悲鳴をあげても、殴る事を止めようとしなかった。
 その影響で、あちこちのパーツが弾け飛んだものの、ダモクレスの考えが変わる事はなかった。
 しかも、半ば動きが封じられている状態で、紅葉を殴ろうとしたため、まるでスローモーションに如く動きが鈍く、避ける事が容易になっていた。
「まさか、まだ動く事が出来るなんて……。それなら、これで……!」
 その間に、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射し、ダモクレスの一部を石化させた。
「テ、テ・レ・ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスの左アームが悲鳴を上げ、根元からポッキリと折れ、アスファルトの地面に落下した。
 それはダモクレスにとって、受け入れ難い現実であったが、否定する事の出来ない真実でもあった。
「ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その気持ちを振り払うようにして、ダモクレスがポータブルテレビ型のミサイルをぶっ放した。
 それはダモクレスの怒りと悲しみと憎しみと絶望が具現化したかの如く、凄まじい破壊力を秘めており、アスファルトの地面が剥ぎ取られるようにして弾け飛び、大量の破片が辺りに飛び散った。
 それが鋭く研いだ刃物となって、ケルベロスの身体を斬りつけ、あっと言う間にアスファルトの地面を真っ赤に染めた。
「……大丈夫よ。私がいる限り、誰も死なせない。誰一人として、ここで命を落とす事はないわ」
 リサが仲間達を励ましながら、鎮めの風で竜の翼から仲間の心の乱れを鎮める風を解き放った。
 そのおかげで仲間達の傷が、みるみるうちに癒えていった。
「テ・レ・ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それを目の当たりにしたダモクレスが怒り狂った様子で頭を振り、再びポータブル型のミサイルをぶっ放そうとした。
 だが、装填までに時間が掛かるのか、すぐには発射されなかった。
 その事でダモクレスが苛立っていたようだが、いくら苛立ったところで、ポータブル型のミサイルの発射が早まる事はなかった。
「……もう諦めろ。例え、ミサイルを撃つ事が出来たとしても、手遅れだ」
 紅風がゼログラビトンを仕掛け、ダモクレスのグラビティを中和し、弱体化するエネルギー光弾を射出した。
 その影響でダモクレスのグラビティが中和され、空に向かって放たれたポーダブルテレビ型のミサイルが、上空で花火の如く弾け飛んだ。
「ポ……ポー・タ・ブ・ル……」
 その途端、ダモクレスがポスンとした様子で、上空をマジマジと眺めた。
「貴方の命を、頂戴致します!」
 次の瞬間、紅葉が尋常ならざる怪力によって、ダモクレスのボディを引き裂き、大量のオイルを浴びながら、溢れ出した生命エネルギーを啜り始めた。
「テ・レ・ビィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 それはダモクレスにとって、地獄の苦しみであったが、抵抗する術はない。
 あっと言う間に、すべての機能を停止させ、物言わぬガラクタと化した。
「それにしても、可愛そうね。何の落ち度もないのに、いらないモノとして扱われてしまったのだから……」
 そんな中、リサがポータブルテレビだったモノを見つめ、悲しげな表情を浮かべた。
 これが運命だとしたら、あまりにも悲し過ぎるが、今となってはどうする事も出来なかった。
「ポータブルテレビも便利だから、わたしは好きだけどね」
 そう言って悠姫がポータブルテレビだったモノに、優しく声を掛けるのだった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月28日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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