梅の花見

作者:芦原クロ

 沢山の梅の木が植えられている、とある植物公園。
 梅が見頃となり、薄いピンク色の梅の花が、可憐に咲いている。
 風雅な香りを楽しみ、美しい梅を見て、飲食も楽しむ一般人の姿。
 そんな一般人達の花見の光景を、数メートル先で睨んでいる集団が居た。
『花見とは、日本古来の風習だ。ただ花を、梅を見ていれば良いんだ! 飲食しながら花を見るなど、花への冒涜ではないか!? 飲食していたら、折角の梅の香りも楽しめない! こんなことは許されない! ……ということで、飲食している奴らを片っ端から排除してゆこう!』
 排除、つまり暴力的な意味で、という事だ。
 ビルシャナの言動によって、正気を失った10人の信者達は賛同し、花見客を襲撃する為、歩き出そうとしていた。

「梅が見頃の季節ですね。多人数で、美味しいお弁当などを食べながら、お花見をするのも楽しそうですよね。ですが、それを望まない人間がビルシャナ化し、破壊活動や配下を増やそうとしています。犠牲者が出る前に、一般人の救出とビルシャナの討伐を、お願いします」
 一度、頭を下げる、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。

 ビルシャナの言葉には強い説得力が有る為、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
 信者たちは、ビルシャナの言動によって破壊衝動を強められたに過ぎない。
 攻撃すると死んでしまうほど、配下は絶望的に弱いので、戦闘になれば攻撃しにくい面倒な敵となる。
 配下は、ビルシャナを倒せば元に戻るが、死なせる危険性が有るからには、配下化を阻止するのが最善だろう。
 ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある主張を行ない、信者を正気に戻せば良い。

「食べ物や飲み物を持っていたり、飲食などをしていると、このビルシャナは襲撃よりも、その人物を優先します」

 信者も含め、花見に飲食物は不要、だと思っている。
 なので、美味しい飲食物を勧めてみたり、複数人で花見をした想い出などを語ってみると、良いかも知れない。
 念の為に人払いをしてから、信者を説得すれば完璧だ。

「ビルシャナとなってしまった人は、救うことは出来ません。せめて被害が大きくならないように、撃破をお願いします」


参加者
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)
青沢・屏(シルバーの銃手・e64449)
シャルル・ロジェ(明の星・e86873)
ルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)
マッシャー・ユーディト(蕾の治療士・e87148)

■リプレイ


「お花見弁当を持って来たけれど、途中のお店でお菓子や花見団子、飲み物も買ったから両手が塞がってるの。レジャーシートを広げるの、誰か手伝ってくれないかしら?」
 荷物を両手いっぱいに抱えている、七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)が、ビルシャナと信者達の目の前で、良く聞こえるように大きな声を出す。
「わたくしが手伝いましょう」
 マッシャー・ユーディト(蕾の治療士・e87148)がレジャーシートを敷き始めると、友人である青沢・屏(シルバーの銃手・e64449)も、それを手伝う。
「梅の花綺麗だなー」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は赤色の毛氈を優雅に敷いてから、梅の花を見上げている。
「屏くんもマッシャーちゃんも、ありがとう、助かるわ。皆で楽しく美味しく、お花見をしようね」
 シートの上へ飲食物の容器やお弁当を、てきぱきと並べるさくらは、満面の笑みで。
「さくらさんのお弁当、楽しみね! どんな品が入っているのかしら! ピジョンさんは野点みたいで素敵!」
『さっきから黙って見ていれば、我々の前で飲食しながら花見をするつもりか!?』
 朱桜院・梢子(葉桜・e56552)が楽しげに褒めていると、ビルシャナが声を荒げる。
『飲食しながら花を見るなど、花への冒涜だ!』
(「一刻も早く、あの過激バカを駆逐する。そして、マッシャーさんや、皆さんと一緒に梅を見ます」)
 ビルシャナへ、冷ややかな視線を送りながら、屏は思考を巡らせて。
「さて、せっかくだ。まだ残っていた桜の花の塩漬けがあったな……」
 ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)に至っては、まるで気にも留めていない様子で、作って来た桜おにぎりを、誰でも食べられるような場所へ置いている。
(「主張するのはいいと思うけど、押し付けたり周囲に迷惑をかけるのは感心しないな。だからビルシャナなんだね」)
 シャルル・ロジェ(明の星・e86873)は、逆に注意深く、ビルシャナを見ていた。
(「お花を見ながらパーティするみたいなものかな? パーティには軽食がつきものだと思うけど……それダメなの?」)
 小首を傾げ、疑問符を浮かべている、ルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)。
(「飲食の有無とか、色々なお花見の楽しみ方があって良いとは思うけれど……暴力で自分の流儀を押し付ける迷惑な人は、勘弁してほしいわ」)
 仲間がビルシャナ達の注意を惹き付けている間に、さくらは、他の一般人が来ないよう、キープアウトテープを貼っていた。


(「信者の説得は、とにかく楽しそうに食べる! ……かな」)
 ピジョンが赤色の毛氈の上でティーセットを広げながら、思案する。
 梅の花のフレーバード紅茶をカップに注ぎ、梅ジャムとクロテッドクリームを添えた、スコーンも用意。
 和洋のコラボレーションに、数人の女性信者が胸を高鳴らせていた。
「ピジョンくんのフレーバーティと梅ジャムスコーンおいしそう!」
 皆で楽しみたい、との気持ちで、メンバーと花見を満喫する気のルイーズが、喜色をあらわに声を上げた。
「……万葉集、梅花の歌三十二首のうちの一首よ。年ごとに春が来たならこうやって梅を髪に差して楽しく飲もう、って意味ね。万葉の時代でさえ花見に宴は、つきものなのよ」
 すらすらと万葉集の和歌を言葉にし、誰にでも分かるよう、説明も付け加える梢子。
 それを知らなかったビルシャナは、絶句。
 戸惑い出す信者達に向け、梢子がにこやかに笑顔を浮かべ。
「と、いうわけで宴会ね! 楽しく飲みましょう! ほら梅酒持って来たの、成人してる方は一緒に飲みましょ」
 梢子はメンバーに呼び掛け、信者達の様子を確認。
「梅酒! 是非!」
「梅酒? 飲むよ!」
 さくらとピジョンが真っ先に食いつき、梢子から杯を受け取る。
 梢子が持っていた杯の中へ、咲いている梅の花弁が、ひらりと落ちて。
「あら、杯に梅の花びらが。こういうのも風流だと思わない?」
「優雅だ!」
 梢子の問いに応えた、1人の男性信者。
 男性信者は、和が似合う、と。梢子を褒めまくった後、信仰を捨てて立ち去った。
『はっ!? 少し目を離していた隙に信者が!? おのれ……どんな手を使ったのかは知らんが、もう減らさせはしないぞ。いいか、花見とは、日本古来の風習だ。花だけを、梅だけを見ていれば良いんだ! そこに飲食など必要無し!』
「風習、いいね、僕そういうのは嫌いじゃないよ」
 ビルシャナの発言に、シャルルが応じる。
『そうだろう!』
「それに古くから花見の席では宴が催されたりするんだってね? 伝統に則って一緒に楽しもうよ」
 シャルルが発した事実は、エッジが効いており、ビルシャナの精神をグサリと刺す。
 またもや、沈黙してしまう、ビルシャナ。
「ルー、はい」
 サンドイッチが入ったバスケットを、ルイーズに渡す、シャルル。
「これね、親戚のおねえちゃんに頼んで作ってもらったの。サンドイッチに特製唐揚げ、おいしいよ。梅の花も、わたし達のおいしそうな笑顔を見たら嬉しいって感じてくれると思うの」
 先ずはメンバーに味わって貰ってから、信者達にも差し出してみる、ルイーズ。
「わぁ、楽しみにしていた唐揚げも、サンドイッチも美味しいわ!」
「お花見で、皆で美味しい物を飲み食いするのって楽しいわね」
 さくらと梢子が楽しげに言葉を交わし合っている様子が、切っ掛けになった。
 男女の信者が2人、ルイーズから食べ物を受け取って。
 香ばしいから揚げと、ふんわりしたパンに挟まれた具の美味しさ。
「ビルシャナみたいに暴れたら、それこそ梅の花が悲しんじゃわないかな?」
 ルイーズが悲しそうな表情を作ると、それがトドメとなった。
 正気を取り戻した2人の元信者は、礼を告げてから、去って行く。
「花を観賞する時はじっくりと。楽しむ時は思いっきり。というように、静と動の緩急は大事だと思うけどな」
 スコーンを食べ終えてから、シャルルも残りの信者達にそう告げ。
 はっと息を呑み、我に返った信者が1人。
 申し訳なさそうに謝りながら、元信者は立ち去った。
「サンドイッチは、たまごサンドにパストラミもあるの。おねえちゃん自信作の唐揚げは、とってもおいしいのよ」
 まるで自分の事のように、自慢している、ルイーズ。
 美味しい、と。仲間達から感想が聞け、ご満悦の様子だ。
「お花見の思い出って、花だけじゃなく、誰とどんな風に過ごしたのかも大事だと思うの。美味しいものと一緒に楽しんだ記憶は、きっと深くに残るはずよ」
 さくらは梅の花を見上げてから、美味しそうに飲食しているメンバーへ、視線を移して微笑み。
 それから、信者達にも弁当を勧める。
 さくらの言葉に感動した信者がまた1人、弁当を食してから、信仰を捨てた。
 残りの信者は、あと5人。
「これでも一杯やるかい? 今時分にはまだ早いが、桜湯だ。今の時期はまだ肌寒さがある。温かいのさ」
 水筒に入った白湯と、桜の塩漬けを合わせて桜湯にし、自前の湯呑みで飲んでいたライが、不意に口を開く。
 温かな桜湯を啜り、ホッと息を吐いて。
「温かいもの、美味しいもの、それを食べて幸せになったりホッとした事はないのか? そんな気分になりながら見たものが、そうでない時に見たものと違って綺麗に見えた事はないか?」
 ライは梅の花へ視線を向け、続いて信者達を見やる。
 思い当たる事が有ったのか、女性信者が2人、頷いて聞く姿勢に入った。
「確かに、ただ食べたり飲んだりするだけなら、花も、雪も、月も必要はない」
 正論を述べる、ライ。
 説得の援護やフォローに回っている、マッシャーと屏。
「初めて月見をした時。ただ、これだけは……」
 大切な思い出を引き出し、ライは一度、言葉を区切り。
「団子を食べ、茶を飲みながら見上げた月は……想像していたより、綺麗だった」
 ライにとっては、狂月病から解放された、ウェアライダーとしての喜びと感慨。
 思い出を語るライの姿が、大人びて美しく、ライを男性だと見間違えていた女性信者2人は、一瞬で心を鷲掴みにされた。
「あなたもキレイだから!」
「私、帰ったら月見するわ!」
 女性2人は赤面しながら、テンション高く告げ。
 キャーキャー言い合い、立ち去る。
 ライとしては、なにが起きたのか判断出来なかったものの、まあ良いか、と。
 弁当や紅茶などは戦闘が終わった後に、ゆっくり味わおうと考え、今は桜湯を飲んで体を温めておく事にする。
「さくらちゃんのお弁当と、屏くんのおにぎり、とってもおいしい! シャルも食べてみて。半分こね?」
 沢山の飲食物を味わっていたルイーズは、一人では食べずに、必ずシャルルと半分にして食べ合っていた。
 美味しさや仲の良さもアピール出来、その上、半分ずつなら、直ぐ満腹にはならない。
「そうそう、梅の季節にしか手に入らない和菓子もあるの! 梅の花を模った練り切りに此の花きんとん!」
 葉介には梅酒を飲ませず、紅茶やお弁当を少し取り分けて、食べさせていた梢子が、思い出したように声をあげた。
「此の花?」
「あ、此の花は梅の異称ね。桃と白の色あいが紅梅白梅のようでしょう?」
 メンバーが不思議そうに疑問符を浮かべれば、即、分かりやすい説明を加える、梢子。
「わあ、梢子ちゃんの和菓子! わたしもいただいていい?」
 ルイーズは瞳を輝かせ、珍しい和菓子に夢中だ。
「季節の花を見ながらいただく和菓子って、特別感があってより美味しく感じるのよねぇ……」
「特別感! 確かに!」
「限定ものって、美味しいものが多いよな!」
 信者が2人、梢子の言葉に賛同し、正気に戻った。
「花を見るときに違う出来事があると、思い出がより鮮やかにならないかい?」
 最後の信者に対し、問いを放つ、ピジョン。
「例えば誰かと一緒にいたとか。……夜桜の下でBBQしたときは楽しかったな」
「花見とBBQ!? その組み合わせは、楽しすぎるって! ……あれ? 飲食禁止ならBBQも出来ない事になるじゃん」
 ピジョンが思い出を語ると、経験が有るのか、信者は嬉しそうに拳を握るが、今の信仰ではそれが出来ないと理解する。
 理解して僅か数秒で、彼は信仰を捨てた。
 信者が全員居なくなり、ようやく精神的なダメージから立ち直ったビルシャナは、呆気にとられる。
『わ、私の信者が1人も居ない、だと!?』
「……ああ、ビルシャナね」
 存在を忘れていた、とばかりにピジョンが呟く。
「信者の人達、全員説得完了だね。誰にも怪我して欲しくないから、よかった」
 ルイーズが上機嫌で、ぴょんぴょん跳ねていると、ビルシャナの怒りが更に上昇。
『良くない! 絶対、卑怯な手を使っ……ぐはっ』
 マギーの凶器で攻撃され、最後まで言えずによろける、ビルシャナ。
「暖かくなってきたから、戦うのはあまりやる気が出ないんだけどなぁ」
 ピジョンは言った通り、やる気無く、攻撃。
 基本的に、支援と回復に専念するつもりだったシャルルは、戦闘状況を把握し、ガイナと共に攻撃に転じる。
 鋼の鬼と化した、強烈な拳撃を打ち込む、ライ。
「わたしに任せてね。ドーンと攻撃しちゃうのよ」
 連携を意識していたルイーズが、即座にハンマーを砲撃形態に変形させ、砲弾を放つ。
 更に続いて、屏が12発の弾丸を一気に発射。
 時計模様の魔法陣を召喚し、敵の動きを封じる。
「できれば前衛と中衛に壊up状態を維持させたいです」
 マッシャーは祈り、大地の力を前衛陣に付加。
「葉介は足止めお願いね!」
 ポルターガイストで敵を攻撃する葉介を、梢子は見送って。
「ビルシャナは全力で殴る! 梢子さんに合わせるわよー」
「雪魄氷姿じゃない真っ白な雪景色だけどごめんなさいね! 来世に縁があったらお花見しましょ!」
 さくらが二本のライトニングロッドで敵を思いっきり殴り、敵の体内へ強烈な雷を流し込む。
 ほぼ同時にダメージを与えた梢子は、梅の花では無く、雪の幻影を見せ。
 一気に畳みかけられ、敵はあっさり消滅した。


 戦闘後、ヒールでの修復や、周辺の片付けなどを済ませて。
「ルーはまだ遊び足りないって顔をしてるね?」
「ん、お花見の続き、しよ?」
 シャルルはルイーズの表情から読み取り、素直に頷く、ルイーズ。
「ようやく梅の花が見れる……」
 照り焼鶏肉、梅干、温泉卵、ツナマヨなどの具が入ったおにぎりを配ったり、逆に食べ物を貰ったりして、落ち着いてから梅をゆっくり見る、屏。
「解決ですね、一緒にお花見をしましょう。よければ写真も撮ります。……わたくしはまだ、お酒は飲めませんが、屏さんは飲める年齢ですね」
 マッシャーが梅酒で宴をしているメンバーを見つつ、屏の隣に座る。
 屏は酔いやすい為、酒は飲めないというように、首を横に振っていた。

「もっと飲みましょう!」
 戦闘も無事に終えたのだから、と。飲むペースをあげる、梢子。
「お弁当もおにぎりもお菓子も、梅酒に合うよね。酔って周りに迷惑をかけない程度に、賑やかに楽しむわ♪」
 逆に、さくらはペースをわきまえ、たしなむ程度にしている。
「梅を見ながら飲む梅酒はうめー! なんて! あははは!」
 完全に酔っぱらってしまった、梢子。
「梢子さんは後で介抱するわよー。……あ、お弁当で思いついたのよ! ……今日はアナタの為に早起きしてお弁当作ってきたの。はい、あーん♪ みたいな! 甘酸っぱいラブラブなやり取りが出来なくなるのは勿体無いと思うのよね! ね!」
 やや興奮気味で、語りだす、さくら。
「ピジョンさんは彼女さんから、はい、あーんって、されまくってるのかしらー?」
 酔いが回っている梢子は、それを聞いてピジョンに絡む。
 ピジョンは梢子と視線を合わさず、サンドイッチやから揚げ、卵焼きやおにぎりを食べている。
「楽しくて、嬉しくて、梅の花も笑ってるみたい」
 賑やかな大人メンバーを見て、ルイーズも思わず頬を緩めて。
「もうじき桜が咲く日も近いな」
 皆の輪の中で、飲食しながら梅の花をじっと眺める、ライ。
 風雅な梅の香りに、ライの鼻や耳がひくひくと動く。
 のんびりと、ライは春の訪れを感じていた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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