甘風の日に

作者:崎田航輝

 未だ遠い春の足音が、ふと聞こえたかのように暖かな陽光が輝く日。
 アーケードに伸びる商店街は、仄かに甘やかな香りに包まれていた。
 笑顔が行き交い、楽しげな声が交わされる。店々にこの日だけの商品が並ぶその催しは――チョコレートフェアだ。
 一年に一度のこの時期に、売り出される品々は勿論チョコレートが主役。
 ショコラトリーでは色彩も形も様々な一口チョコ。カフェではケーキやパフェ、チョコフォンデュ。
 洋菓子店や土産物店、移動販売でもマカロンやクレープと、チョコレートの魅力で人を集め――和やかな賑わいが街に満ちていた。
 と、そんな店の一軒の、裏にある倉庫。
 薄暗いその中へ、窓の隙間から入ってゆく小さな影があった。
 それはコギトエルゴスムに機械の脚が付いた小型ダモクレス。物置となっている空間の奥へ、音もなく這ってゆくと――とある古いジューサーの前に辿り着く。
 埃が積もっており、長らくここに置かれたままなのだろう。それは既に壊れてもいるようで、再び動かされることはない――筈だったけれど。
 小型ダモクレスはそのジューサーによじ登ると、取り付いて一体化。
 俄に動き出すと――増殖した内部の刃を広げ、まるで羽のようにしてふわりと浮かび上がっていた。
 そうして外に出たそれは、賑わう人波を見つけて――真っ直ぐに飛びかかってゆく。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのはダモクレスです」
 曰く、商店街にある店の倉庫に、古いジューサーがあったようで……そこに小型ダモクレスが取り付いて変化してしまうようだ。
 このダモクレスは、人々を襲おうとするだろう。
「そうなる前に撃破をお願いします」
 戦場は商店街となっている道だ。
 ダモクレスが飛行してやってくるところを、こちらは迎え討つ形となるだろう。
「一般の人々については事前に避難がされますので心配はいりません」
 戦いに集中できる環境でしょうと言った。
 周囲も荒れずに終わらせることが出来るはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利出来たら、皆さんも商店街を散歩していってみてはいかがでしょうか」
 丁度チョコレートフェアが開催されていて、種々の店でチョコレートを使ったスイーツを楽しむことが出来るだろう。
「そんな憩いの為にも――頑張ってきてくださいね」


参加者
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)
氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)

■リプレイ

●迎撃
 彩り豊かな店々に、甘い香りが揺蕩う。
 アーケードに広がる景色に、降り立ったヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)の声音もどこか華やいでいた。
「チョコレートフェアって、もう聞いただけで嬉しくなるね」
「ええ。甘いスイーツが大好きな美音には、とっても嬉しいイベントです」
 こくりと頷く氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)も、今から待ち遠しい気持ち。
 だからこそと、注ぐ視線は真っ直ぐに。
「ダモクレスによる被害を防ぎましょう」
 その瞳が示す先。
 風を切って飛来する、ひとつの機械の姿を見つけていた。
「ジューサーのダモクレスですか」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は戦いの態勢を整えながらその姿を見据える。
 尖った蝙蝠のような形となったそれは、しかし確かに元の面影も残っていて。
「美味しいジュースを作る為に活躍していたのでしょうけど。ダモクレスとなったからには倒すしかないですね」
「うん。バレンタインの時期でもあるし、みんなの楽しい一日を邪魔させはしない」
 ヴィがすらりと剣を握れば――そうだね、と頷き踏み出すのはノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)。
「確かこの時期、邪魔者は蹴られて死ぬらしいし」
 ――僕としてもさっさと終わらせたい。
 幸せそうな彼女の姿が見たいから、と。心に呟いて初撃、靭やかに、けれど鋭く星屑を蹴り出し眩い衝撃を叩き込んだ。
 ダモクレスは敵意と共に舞い降りてくる、が。既に奔っていたヴィが一閃、翼の先端を斬って捨ててみせれば――。
「よし、このまま連撃を」
「お任せ下さい」
 凛然と、澄明な声を聞かせるのが煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)だった。
 静かに手を伸ばし、真っ直ぐに向ければ渦巻く魔力に白妙の髪が仄揺れる。刹那、陽炎のように明滅した御業が宙を翔けていた。
 一瞬で肉迫したそれは、ダモクレスを締め上げながら躰を軋ませてゆく。
 ダモクレスはそれでも氷風を返して来るが、ヴィが盾となってその苦痛を受け止めてみせれば――。
「うぅ、寒そう……でもすぐに温めるから!」
 ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)が己が内から湧き出させた魔力を、眩い治癒の光へ転化していた。
 小さな陽のように、優しい温度を帯びたそれは――ティフが素早く撃ち出すと共にヴィを纏って傷と氷を癒やす。
「月影も、サポートは任せたからね」
 と、六星・蛍火(武装研究者・e36015)の声に応じて匣竜の月影が暗色の光を与えて治癒を進めれば――美音も螺子を高速回転させ、光と熱を現出。
 その塊をヴィへと同化させる事で傷を癒やしきり、護りも高めていた。
「こちらは大丈夫です。悠姫さん、攻撃を」
「ええ」
 真っ直ぐに、濁りない声音で前を見据えているのは天月・悠姫(導きの月夜・e67360)。掌を向けて、その先に色彩を渦巻かせていた。
「霊弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 輝く光は紅と蒼。ルベライトとラピスラズリの如く煌めく魔弾となったそれは――突き抜ける衝撃でダモクレスを穿つ。
 そこへ走る紅葉もまた拳に魔力を凝集していた。
「明日から頑張ります、ですから今日まではこのくらいで……!」
 自宅警備員の身には、己が全てを灼け焦がす程の魂を込める事はまだまだ出来ないけれど。それでもそれは威力充分、弾ける衝撃で敵を吹き飛ばした。
 同時、ひらりと跳んだ蛍火がオーラを凍気に変えて一撃。まるで夜に映える月のような、冴え冴えとした輝きの打突を叩き込んでゆく。

●決着
 地へ墜ちたダモクレスは、それでも異音を零しながら再び浮かび上がっていた。
 羽ばたかせる金属は、歪みながらも鋭さを湛えていて――ノチユは静かに呟く。
「刃が翼代わりか」
 如何様にも形を変えさせる異星の命。それは機械仕掛けでさえあるなら、宿主を選ばぬのかも知れないと。
「小型ダモクレスは見境ないな」
「……そうですね」
 カナはだからこそ、と一歩踏み出して。
「人々に美味しいジュースを作り喜ばれていたはずの道具が、美味しいチョコレートを楽しむ人達を襲う道具にされる……そんな悲劇を見過ごすわけにはいきません!」
「うん。だからここで――ちゃっちゃとやっつけてしまわないとね!」
 声を継ぐヴィは、地を蹴って一息に間合いを詰めていた。
 ダモクレスは風を除けるようにして舞い上がろうとする。けれどヴィがそこを捕らえて――振るう刃で焔の流線を描き、翼を斬り飛ばした。
 傾ぐ機械へ、ノチユも跳んでいた。
「昔は何を刻んでたかは知らないけど、役目は終わったんだ」
 大人しく解体されろ、と。『冥府に消ゆ』――墓標へ導くかの如き一撃で叩き下ろす。
 ダモクレスは足掻くように残った刃をばらまいてくる――が、盾役の仲間がしかと衝撃を抑えてみせれば、美音がくるりと手元に握った銃を天へ。
 瞬間、フラッシュを焚いて弾丸を青空へ昇らせると――宙で弾けたそれが魔力の雫へ変化。癒やしの雨となって味方へ注いでゆく。
「もう少しのはずです」
「なら、後はわたしがやっておくね!」
 明朗な声音と共に、腕に巻きつけていた蔓へ魔力を注ぐのがティフ。
 淡い光を帯びたその翠は、急成長を遂げるように皆を見下ろす天蓋へと変貌する。
 結実する黄金の果実は、神聖なまでの輝きを帯びて――その光の恵みを癒やしの加護と成し、皆を万全にしていた。
「これで問題ないよー」
「ええ、では」
 応えてカナは既に敵の面前。そっと構えた刃へ明滅する光を湛えていた。
 刹那、放つ一撃は『煉獄寺流模倣剣技・霊刀刃』――宙を翔けるその霊力の刃が、違わず機械の躰を切り裂き自由を奪う。
 そこへ直走る紅葉は、抜き放つ深紅の刀身に鮮烈な冷気を逆巻かせていた。
「この一撃で、氷漬けにしてあげます!」
 刹那、零距離に迫ると走り抜けながら一刀。氷晶燦めく冷気の軌跡を残しながら、刻む斬撃でダモクレスの躰を凍結させてゆく。
「今の内です……!」
「ええ。一気に決めましょ」
 応える蛍火が隣に向けば、視線を交わして頷くのが悠姫。
 挟み撃ちするよう、二人で左右に分かれると――まずは蛍火がオーラをその拳に収束させて輝かせていた。
 瞬間、繰り出した打撃でダモクレスを貫いてみせると、同時に悠姫はガジェットを銃へと変貌させて照準を合わせている。
「狙いは外さないわ。これで、最後よ」
 引き金を引いて放つ『エレメンタル・ガジェット』の一弾は――光の欠片を宙に明滅させながらダモクレスを貫通。
 爆裂する衝撃で、その命を粉々に粉砕した。

●甘風
 カナは残骸となったそれを暫し、見つめていた。
「役目を終えていたのに、ダモクレスの陰謀により先兵とされた悲しきジューサーさん……安らかに」
 そうして静かに冥福を祈り……それが光の粒になって消滅するのを見送る。
 静寂が戻ると、仲間達を労って。皆と共に周囲を修復し、人々を呼び戻してイベントを再開してもらった。
 その内に平和な時間が戻れば――。
「さあ、チョコレートです……!」
 子供のようにわくわくとカナは歩み出す。
 まずはカフェへ言って、パフェを注文。さっくりとしたクッキーや濃厚なチョコアイスを堪能していった。
 それから柔らかなチョコケーキを楽しんで、ショコラトリーへ。
「あっ、これ可愛いです……残り一個?」
 見ると美しい箱に入った、宝石のように色とりどりのアソートが限定で売られていたので……これ幸いにと購入。
「これは後で食べましょう……!」
 それを大事にしまい、また外へ。
 移動販売にソフトクリームを見つけて、あむあむとひんやりした甘みを味わうと――喫茶店に入ってホットチョコを注文。
「こんなに美味しいチョコレートがいっぱいで幸せ~」
 ほう、と温かな吐息を零しつつ……まだまだ甘いひとときは終わらないと、窓の外を楽しげに眺めていた。

 賑わう商店街の中、ヴィは香坂・雪斗とハイタッチを交わしていた。
「お疲れ様!」
「うん、お疲れさま!」
 雪斗の言葉に笑顔で返したヴィは――早速、と店々を見回して。
「それじゃあ、行こうか」
「いよいよお楽しみの時間やね!」
 頷く雪斗も笑みと共に言って、一緒に歩み出す。
「働いた後のチョコスイーツ……めっちゃ美味しいやろなぁ」
「せっかくの一日だから。沢山楽しんで帰ろうね」
 そうして入ったのは、多彩なチョコスイーツディスプレイされている可愛らしいカフェ。
 二人で期待に胸膨らませながら、いざそこに席に座ると――雪斗はメニューとにらめっこしていた。
「ヴィくん、どうしよう……全部おいしそう……!」
「うん、迷うねぇ。……これは選べない」
 ひとまず目についたものからと、雪斗がフォンダンショコラとチョコレートのピザ、ガトーショコラを頼んでいくと――。
「それじゃあ、パフェに、あとホットチョコも……!」
 ヴィも惹かれたものを片っ端から頼んで……その品々がやってくると、チョコレートカラーでテーブルが一杯に。
「おお、ここまで埋め尽くされると壮観!」
「ちょっと欲張りすぎたかな? でも、せっかくのチョコパーティーやもんね!」
 ぽん、と手を合わせる雪斗は、そのまま頂きますをして実食。チョコピザは香ばしく、フォンダンショコラは中のガナッシュが蕩けるようで。
「ヴィくん、食べてみて? めっちゃ美味しい!」
「うん? どれどれ?」
 差し出されたそれを、ヴィは一口。
「ん、甘い! おいしいー! 幸せ!」
 何より二人で食べるから、一層甘く、格別で。
 いつまでも忘れたくない幸せの味が、また一つ増えた。そんな雪斗の想いに、ヴィも同じ気持ちで。
 ――この幸せがずーっと続くといいのになぁ。
 そんな心と共に、二人は優しい甘みをゆっくり味わっていった。

 ノチユは幽子を誘ってショコラトリーへ。
 和やかな音楽の流れる中、色とりどりのチョコレートを眺めてゆく。
「今年も色々並んでるね」
「はい、どれも可愛いです……」
 幽子も仄かにわくわくと見つめるそれは、星や花をモチーフにしたトリュフチョコ。
 だけでなく、宝石や鉱石そのもののような色と煌めきを湛えたものもあって――本当にチョコかとノチユにも不思議に思えるほど。
 ノチユはその中で星チョコをいくつか選ぶと……更に幽子が気になっていた様子の星と花、鉱石がセットになったものを購入。
「これは、幽子さんに」
「ありがとう、ございます……。嬉しいです……」
 それに幽子は幸せそうに、花咲く笑顔を見せていた。
 その後のんびり歩みつつ、クレープ屋へ。チョコ掛けホイップに、トッピングは苦めのガトーショコラに決めて。
「幽子さんは何にする?」
「私も、チョコ掛けホイップを……トッピングは甘めで……」
 幽子が応えると、ノチユはそれを奢ってあげる。
 礼を述べた幽子は、それを早速両手で受け取り……はむりと食べて表情を和らげた。さらにはむはむ食べ進めていくその姿が可愛くて、ノチユは嬉しくて胸が甘い。
 商店街を歩む人々も、楽しげだ。
 見た目だけでなく、味の種類も豊富なチョコと、沢山の笑顔。
「――自分のために買うのも誰かに贈るのも、楽しいんだろうね」
 自分だってそうだから、と。
「おかわりも遠慮しないでね」
「はい……」
 食べながら笑む幽子に、ノチユもやわく顔を綻ばせ――甘やかな時間を送っていった。

「賑わっているわね」
 甘い香りに誘われ歩む人々の、足取りが軽く見えるのは気の所為ではないだろう。享受出来た平和な時間を、皆が味わっているのが悠姫には判った。
 見回せば、自分もどこかわくわくして。
「もうバレンタインの季節なのね――わたしも楽しくなって来たわ」
「ええ。バレンタインデーと言えばチョコレート。こういう日くらいは……私達も沢山スイーツを頂きたいわね」
 言って歩みだすのは、蛍火だ。
 月影がふわふわついていくと、そこに美音も続き、さらに紅葉も同道して。
「良い香りがしますね、楽しみです」
「そうですね。まずはどこからいきましょうか?」
 美音が応えて言えば、皆は悩ましげに見回しつつ――まずは百貨店へと入ることにした。
 そこは一層の明るい賑わいに満ちた場。様々な国の、様々なチョコレートスイーツが売られて人々が列を成している。
 その一角に、ザッハトルテの試食コーナーを見つけた。
「美味しそうね。一つ頂いてもいいかしら?」
 店員がもちろん、と勧めると悠姫は一口。濃厚な生地と香り高いチョコの層の調和に、ん、と一つ頷いて――それを購入することにした。
「早速、いいものを見つけてしまったわ」
「チョコケーキ、沢山あるのね」
 蛍火が目を留めたのは、四角形に整えられた形とココアパウダーの色味が美しいオペラ。さらにお土産にぴったりのブラウニーもある。
「こっちも美味しそうなものが……目移りしそうだわ」
「それなら、どれも買ってしまいましょう!」
 と、楽しげに言った美音は有言実行。オペラもブラウニーも、纏めて買って包んで貰っていた。
 紅葉もお土産用、そして自宅で頂く用にと可愛らしいクッキーやトリュフチョコをいくつも買い揃えてゆく。
「こういう時くらいは、奮発したいですから……!」
「そうね」
 月影がつんつんとつつくので、蛍火も言葉と共に頷いて。目についたものを一つ二つと購入していった。
 お店から出ると、やっぱりこの場でも味わっていきたいからと――皆でカフェへ。景色を望めるテラス席で、四人でテーブルを囲む。
 メニューを開くと、期待通りメニューが充実していて……紅葉は迷いつつ眺める。
「皆さんはどれを頼みますか?」
「美音はパフェと、ムースと……それからガトーショコラにしようと思います」
 美音がメニューを見つめてあれこれと選ぶと、蛍火も「沢山頼むのね?」と言いつつ……自分もまた選びかねて。
「私はこのテリーヌと……あとフォンダンショコラも」
「ならわたしは、チョコ入りスコーンと、ホットチョコ。アイスも追加しようかしら」
 悠姫も覗き込んで言うと――紅葉も悩みつつ最後に決めて。
「私はチョコタルトにスフレ、シフォンケーキにします……!」
 そうして皆の分と共に注文すると――テーブルには溢れんばかりのスイーツが並んだ。
 夢のような景色に、美音は感嘆しきりだ。
「わぁ、とっても美味しそう。こんなにチョコレートが沢山あって幸せです!」
「それじゃあ、頂きましょ」
 蛍火の言葉に皆も頷きわいわいと食事を始める。
 悠姫のスコーンはさっくりした焼き加減に細かなチョコが歯ごたえ良く。一緒にホットチョコを頂くと蕩ける甘みに癒やされた。
「ん、アイスの冷たさも……心地いいわ」
「こちらも、美味しいです」
 紅葉のタルトは生クリームたっぷりのフィリングが濃厚。
 スフレはふわふわ、シフォンケーキはきめ細かい生地が滑らかで……紅葉は表情を和らげ、ほっぺを押さえているのだった。
 美音もパフェをぱくぱく、ムースをあむあむと口に運んで、芳醇なチョコの香りと風味に瞳を細めている。
 ガトーショコラも粉砂糖で飾られた見目が美しく、一口食べれば密度の高い生地が舌の上で溶けるようで……柔和な笑みも一弾と弾けるように。
「甘くて美味しい――!」
「ええ、本当に……どれも素敵ね」
 蛍火も言いながら、艷やかなテリーヌをぱくりと実食。つるりとした舌触りを楽しみつつ、フォンダンショコラの中と外の硬さのコントラストに魅了された。
 月影にも食べさせてあげながら、眠たげな表情も今は少し和らぐ。外を眺めれば、人々もまた幸せそうだから。
「皆も楽しそうね」
「私達もまだまだ、味わって行きましょう……!」
 紅葉が言えば、三人も頷く。
 吹く風は春の色を帯び始め、仄かに甘く温かかった。

「わぁ、皆楽しそうなの!」
 フェアで盛り上がるアーケードに、視線を巡らせながらティフも歩み出していた。
 勿論、全力で楽しむつもり。日頃の感謝を込めて沢山お土産を買いたいし、自分でも楽しみたいし――。
「うーん、やりたいこといっぱいなの!」
 最初はどこに寄ろうかと迷ってしまいつつ……チョコレートカラーのディスプレイを思い出にパシャリ。
 一枚、また一枚と可愛らしい景色を収めていきながら――百貨店に入ってまずはお土産を選ぶことにする。
「美味しくて、それに楽しいほうがいいよね――」
 ということで、玩具やミニグッズ入りの卵型のチョコを購入。ランダムで色や中身の違うものを十個程、友チョコにと選んだ。
 そこにちゃっかりと自分へのご褒美も加えつつ。
「後は……チョコを味わおうっと」
 と、向かったのはカフェ。
 席につくと、多彩なパフェの中から店員のおすすめを聞いて。
「それじゃあ、これを!」
 選んだのは層によって色合いが異なる、チョコのグラデーションが美しい一品。
「頂きます!」
 まずはホイップクリームとチョコソースの層で甘みを楽しむと……次にムースで滑らかさを味わって。
 さらにチョコチップ入りのクリームや、ミルキーなガナッシュまで。時折挟まれたクッキーやワッフルと共に存分に堪能した。
「美味しかったの!」
 カフェを出ると、まだまだ様々なチョコが目に入って。ティフはその隅々までを味わおうと、再び歩み出すのだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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