慧斗の誕生日~もーにんぐこーる

作者:つじ

●鶏の朝は早い
「朝ごはんって、大事ですよね」
 何やら実感のこもった様子で、しみじみと、白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が呟く。一日の始まりの活力として、身体と頭を起こすきっかけとして、そしてもちろん、午前中を過ごす燃料として、これほど重要なものはない。そう主張し、なおかつ同意を求める彼の瞳は真剣そのもの。どうやらこの少年からすると、『面倒だから朝食を抜く』などという選択肢は端から存在していないようだ。
 
「それで考えたのですが、いつもより豪華で美味しい朝ごはんを食べれば、その日一日はっぴーに過ごせるんじゃないかと思うんですよ!!」
 何しろ、そろそろ僕の誕生日ですからね。取ってつけたようなコメントを加えて、彼は言う。
 次いで差し出されたのは、とある魚市場にある食堂の広告だ。メニューは海鮮丼や焼き魚、新鮮な魚介類を売りにしているようだが、その辺りで働く人々を客層のメインにしているのか、開店時間が一般的なそれよりかなり早い。
「ここの朝ごはんを食べに行こうと思うのですが、皆さんもご一緒に如何ですか!?」
 ご飯は何を食べるかも重要だけど、誰と食べるかも同じくらい重要で。尊敬するケルベロスの皆さんとご一緒できればもっと元気が出そうじゃないですか。そんな内容を大きな声で主張して、慧斗は貴方を誘う。
「よろしければ、朝の五時に現地集合でお願いします!! モーニングコールとかヘリオンでのお迎えが欲しい人は事前に言っておいてくださいね!!!」
 最後に割と無茶な事を言い添えて、少年は爽やかに笑って見せた。

「当日を楽しみにしています! それでは、今日も一日張り切っていきましょう!!」


■リプレイ

●おはようございます!!!
 まだ暗い、日の出前の魚市場の端に、ニワトリカラーのヘリオンが着陸する。到着予定時刻ぴったり。搭乗予定者は全員乗っていて、現地集合の者も含めて遅刻はゼロだ。
「いやー、多少は苦戦するのを覚悟していたんですが、さすがケルベロスの皆さんは完璧ですね!!」
 爽やかな笑顔で、慧斗は誕生日の朝を迎えた。

●休日の朝
 それが早朝であろうと、深夜であろうと、仕事のためならばそれを苦にしないケルベロスは多く居る。サイガやティアンもその例外ではない、が。
「眠そうだなサイガ」
「んー……?」
 オンかオフかで言うならば、今日は間違いなくオフである。こちらもいつもよりのんびりした動きで、コーヒー缶をサイガの頬に当てた。
「ぁんだよ……」
「いや、これで少しは起きる気に……」
 なってないな、これは。
 大分ぐだついた空気の中で動く二人の元に、注文した海鮮丼とシーフードカレーが置かれる。スパイスの香りに反応したか、停止しかけたサイガの身体がぴくりと動いた。
「来たぞ、サイガ」
「おー……」
 のそのそとスプーンでカレーを運び、咀嚼し、飲み込む。それを繰り返す内にペースが戻り、背筋が伸びていく様子を、ティアンは頷いて見守っていた。
 とはいえ特に言う事はない。こっちはこっちで海鮮丼を咀嚼するのに忙しいのだ。
 お魚は好きだ。そしておいしい。眠気でぼやけていた思考がそれで少しばかり回復する。
「……」
 が、如何せんちょっと多い。いやかなり多い。身体に肉を付けるためにも頑張ってはみるけれど。
「これも食べる?」
「……しかたねえなあ」
 そんな事を言いつつも、サイガは海鮮丼の余りをごそっと持っていった。
「慧斗もどうだ、おいしいものは分けっこするともっとおいしいぞ」
「良いんですか? それでしたら――」
 代わりに何か食べます? エビフライ定食を頼んでいたらしい慧斗がフライの皿をティアンに差し出す。そんな交易の中間地点で、マグロの切り身とエビフライがひとつサイガの手により強奪された。
「ああっ、僕のエビフライ!!」
「ン? 福神漬けやるよほら」
「エビフライの代わりに!? 福神漬けを!?!?」
 レートがおかしくないですか。大人げないやりとりがされている横で、ティアンは満足げに食事を再開した。
 多分これくらいなら食べ切れるだろう。あと、エビフライもおいしい。

 二人とも口の中に物が入っている間は静かになるタイプだ。また無言になって完食し、腹も膨れてくれば、自然と。
「……なんかまた眠なってきた」
「わかる」
 『はっぴー』に二度寝といきたい、そう言うサイガに「帰ってからだ」と返して、ティアンはゆるゆると落ちかかった瞼を擦った。
「そういえば、まだサイガの新居を覗いてないな」
「ああ……そうだっけ?」
 まだまだ空は白み始めたばかりで、今日は仕事の無い休日。
 どう過ごすかは、これから決めても遅くはないだろう。

●二人の朝食
 ぐう、と盛大に響いた空腹の証明を、智秋が豪快に笑い飛ばす。普段あまり食事にありつけていないせいもあるだろうか、自分の身体の正直な反応に、ナキは頬を赤らめながら、智秋の腕を引いた。
 朝起こされてしまったことを含めて、これは少々ばつが悪い。そんな出来事を、とりあえず触れないで済むよう、多少強引に引っ張って、ナキは智秋と共に食堂の席に着く。そうして、一緒にメニューを覗き込んだところで。
「智秋さんは何にします?」
「俺はこれ」
 決めるのが早い。智秋が指差したのは、海鮮丼だ。
「折角、新鮮な魚があるなら食べないと、もッたいねェだろ」
 勿論おすすめのあら汁もな、と続ける彼の言葉に頷いて、ナキの方もそちらに気を向けるが。先程から目を引く鯖の味噌煮という文字に抗えず、彼はそれを選択した。
「いただきます」
 運ばれてきた料理を前に、ナキが両手を合わせる。智秋もそれに倣うことにし、両手を合わせてから、艶めく海産物の並んだ丼へと挑みかかった。
 場所柄、ということもあるだろう。醤油を垂らした海鮮丼の味は中々のもの。同じような感想を抱いたのか、頬がふにゃふにゃになっているナキの様子を見て、智秋も口元に笑みを浮かべた。
 鯖の味噌煮は勿論だが、定食に付いてきた卵焼きも絶品。それをどうにか共有できないかと考えて、ナキは智秋の口元に箸を差し出した。
「智秋さん、あーん」
 大分思い切ってしまったが、そこまでやってから「ここは公共の場では?」と思い至る。が、もう遅かった。躊躇なくそれを食べた智秋は、意地の悪い笑みを浮かべてみせて。
「ほら、ナキ、あーン?」
 海鮮丼の一部を摘まんで、お返しとばかりに差し出して来ている。
 なァ、人前でも食べれるよなァ? ぐ、と詰まるナキに、智秋の笑みはそう問うている。今更後には引けず、おずおずとそれを口にしたナキは、赤面しながら「旨いです」と彼に答えた。
「だろ? 旨いよなァ」
 期待通りの反応、と言うべきだろうか、ナキの様子に、智秋は愉快気に言う。
「ちャンとお代わりして、いッぱい食べろよ」
 どうせ普段食べてねェンだからな。快活に笑う智秋の言葉に、はい、と消え入りそうな返事が続いた。

●少しだけ特別な
「まあっ、まあまあっ! 魚市場さんってどうしてこうワクワクするのでしょう!」
 まだまだ暗い時間帯ながら、活気づくその空気にシアが瞳を輝かせる。勢いのままに「ほらほら見てください」と連れの袖を引いた彼女だが。
「ああ……そうだね……?」
「せんせい! 目を開けて下さいませ! 起きて下さいなっ」
 パーフェクトな生返事に、翔子の肩を揺さぶりにかかる。がくんがくんと頭の揺れる様子からして、これは多分ダメなやつだ。
「俊さん、美雨ちゃん、ちょっと後ろから押して差し上げて」
「大丈夫、ダイジョウブダッテ……」
「はーいはい、行くぞ」
 そう応じながら、俊輝は美雨と共にその背を押す。これ幸いと体重を預けてくる感触に、思わず溜息が出てしまうが。
「早起きするって分かっているのに、深酒するからこうなるんだよ」
「でもさ、ちゃんと起きて着替えて、ヘリオンのって此処まで来たろう?」
「まあ、そこまでは上出来だったな」
「……ぐう」
「あとちょっと頑張ってほしかったですね……」
 半ば脱力したその手を引いて、シア達はどうにか目的のテーブルまで辿り着いた。
「朝早くに外食というのは、確かに何か非日常感があって楽しいですね」
 ようやく人心地ついた、という様子の俊輝に笑みを返して、シアは翔子の手にメニューを持たせる。
「ほらほら、せんせいもメニューをご覧になって」
「んー……」
 その目は半分閉じかかっているが、逆に言えば半分開いている。たぶん大丈夫だろう。
「こんなに沢山あると目移りしてしまうわ……」
 こちらもメニューを広げて、美味しそうな写真と自分の欲求を照らし合わせる。あれもこれも気になるけれど、やっぱり魚市場に来たのだから。
「でも、ううーんそうね……海鮮丼に致しましょうっ」
「良いですね、新鮮なお刺身」
「そうだねえ、この場所だと余計に惹かれるのも解るよ」
 シアのそれにうんうんと頷いた二人だが、俊輝は刺身やら海鮮丼やらの先で眼を止める。
「お、シーフードカレーがある」
「アンタ、ほんとカレー好きだね……」
「シーフードカレーって貴重でしょう? 美雨もカレー好きですし」
 翔子の言葉に、特に気にした様子もなくそう返して、俊輝はメニューをテーブルに置いた。即決である。
「アタシも身体があったまる様なのが良いなァ……」
 お、あら汁がある。それを眼を止めたらあとは早かった。こうして三人分の注文が出揃い――。

「ふふ、お二人ともらしいチョイスだわ」
 テーブルに並んだ海鮮丼とシーフードカレー、それから鰤の照り焼き定食とあら汁を見て、シアが微笑む。皆で同じものを食べるのも良いが、それぞれ好みのものを食べるのも外食の醍醐味。
「お魚もイクラさんもピカピカ! 眩いです!」
「あ~~~染みる~~~」
 あらまあ、と宝石みたいに輝くそれらに歓声を上げるシアの隣で、湯気の立つあら汁を一口飲んだ翔子が、思わずそんな声を漏らす。飲酒の翌朝というコンディションに、この手の味は殊の外効く。一方の俊輝も、運ばれてきたカレーに舌鼓を打っていった。
「うん、うまい。あまり辛くないから美雨もいけますよ」
 そう太鼓判を押して、傍らの彼女にも勧める。入っているシーフードがどれもこれも大振りだが、これはこれで楽しめるもの。
 そしてシアも、丼の上で織り成される新鮮な海産物とご飯のコラボに、幸福な息を吐いていた。
「……ん? せんせい?」
 と、そこで、鰤の照り焼きをつついていた翔子が動きを止めているのに気付き、小首を傾げる。視線を向けられていた俊輝も、その様子に気付いて。
「どうかしたか?」
「何か顔についていらっしゃる?」
「んー? いいや?」
 とぼけるように言う彼女に目を向け、俊輝は自らの顔を確かめるように、頬に触れる。
「いつもの顔だろう?」
 そう問いかけられて、翔子はふと口元を緩めた。それなら、それで構わない。良かった、と言うべきか。
 ――幸せそうな顔をしている。なんとなく、そう思っただけだから。

●家族の時間
「わ、美味しそうなのがいっぱい!」
 テーブルについて、メニューを開いて。そこに並ぶ美味しそうな料理の数々に、吾連がそう歓声を上げる。隣に座って、それをボクスドラゴンのリムと共に覗き込んだ千も、彼の言葉に頷いた。悩むなぁ、迷っちゃうなぁ、と一頻り唸った彼等だったが、千はそれを見越していたかのように胸を張る。
「吾連とリムに提案なのだ。好きなのを頼んで、吾連と千とリムでさんぶんこしよ!」
「なるほど、それなら色々楽しめるね!」
 ナイスアイデア! と賛辞を送って、吾連は改めてメニューに視線を落とした。迷ってしまうのは変わらないが、さんぶんことなれば悩み方は先程とは別物だ。
「千は海鮮丼にするのだ! 具はホタテ、カニ身、ネギトロ、タコ、イカ……タイも乗せちゃお!」
「リムも千と一緒で海鮮丼派?」
 けれど、具材は別のにしたいようだ。リムの好みを聞いて、吾連がネタを選び取る。
「ええと、いくらにサーモンに……ウニと甘エビ、錦糸卵……こんな感じ?」
「おお、リムの海鮮丼の具もステキ!」
 海鮮丼と言いつつ千のそれとは全く別物、ということで、吾連もそれに合わせてメニューを定めた。
「俺は鉄火丼に決めた! さっぱりした鮪の赤身、大好きなんだ」
 がっつり食べるよ! という意気込みに、向かいに座った夫婦――冬真と有理が、感心したような表情を浮かべる。
「吾連達はあんなに沢山食べれ……るね、食べちゃうねきっと」
「ああ、あの三人なら大丈夫、大丈夫」
 胃袋への信頼が篤い。納得した様子の二人は、控えめに、つみれ汁の定食と鯛のあら汁付きの定食を、それぞれ注文した。

 まだまだ冷えるこの時分、温かいものは身体に染みる。運ばれてきたつみれ汁を啜り、そのことを実感していた冬真は、傍らの最愛の人へと視線を向ける。
「有理、食べてみる?」
 ああ、でも熱いからちょっと待ってね、とそれを吹き冷ましてから、彼女の口元へ。
「ありがとう、冬真。良かったら私のもどうぞ」
 お返しに、と有理は鯛の身を骨が残らぬようほぐして差し出す。
「ありがとう、有理。頂くよ」
「はい、あーん」
 あーん、とそれを口にすれば、舌の上だけではなく、胸の内にも温かみが広がる。
「ふふ、何だかすごく幸せだね」
 きっとそれも、君が隣にいてくれるからだと、冬真はそう微笑み返した。

 ――と、そんな平和な朝食が続いている一方、向かいの三人は大きな丼もの三つとの戦いに入っていた。
「皆の推し海鮮を分ける……これぞ魚市場のだいごみ!」
「朝から海の幸いっぱい味わえるなんてすっごい贅沢……」
 様々な具材の乗った海鮮丼二つに、赤く輝く鉄火丼。色とりどりの食材から、食べたいものを食べたいタイミングで、自由に摘まめる幸せをしばし、堪能する。
「むふー、鉄火丼も海鮮丼も全部おいし……」
「海の宝石箱って感じ。さんぶんこにして本当に良かったね……」
 千と共に、吾連がしみじみと呟く。どれもこれも美味しく、食材によって違う味わいは食べる者を飽きさせない……そう、これならばどこまでだって食べられる!
 それに、味は勿論だけれど、と千は吾連達の方に笑顔を向ける。
「皆一緒においしく食べる……とっても贅沢な朝ごはんである!」
 誰と食べるか、という観点でも、今日のごはんは満点だ。彼女の言葉に頷いて、吾連もまた、最高の朝食へと箸を伸ばしていった。
 煌めく宝石は、三人の舌もお腹も満たしていって――。
「……でも、まだまだ食べられそうだね」
 満たし切れていなかった。千と吾連は、冬真と有理の方をじっと見つめる。
 具体的には、その前にあるお椀を。
「……お姉ちゃんの食べてるあら汁もおいしそうなのだ……」
「そうだねえ……おかわりしちゃおっか!」
「吾連、ないすあいであなのだ!」
 というわけで、朝食二巡目が確定した。
「あれ、三人とも……」
「お、おかわり?」
 これが若さか、などと実感してしまいながら冬真が呟く。この調子では、良くも悪くももうしばらくかかるだろう。
「それじゃあ、皆が食べてる間にこの後のことを話しておこうか」
 そんな様子を察して、有理はそう申し出た。
「少し市場を回っていきたいのだけど、いいかな?」
「うん、勿論いいよ」
 何か欲しいものがあるなら、と言い出しそうな冬真に先んじて、有理が続ける。
「鉄のおじい様とおばあ様、猫の百にもお土産を買って行きたいんだ」
 家族皆に美味しいものを食べさせてあげたいの、と。その言葉に、自然と冬真の口元に笑みが浮かんだ。
 家族への気遣いまでも抱いてくれる彼女の心根に、愛おしさを覚えながら。
「喜んでくれるかな?」
「ありがとう有理、皆絶対に喜ぶよ」

●充電
 体格の良いレスターを前にすると、大盛りの鮪丼とあら汁も、心なしか小さく見える。そのせいではないだろうが、その中身が減っていくのもまたあっという間だった。
 自身も海育ちであるレスターにとっては、馴染みのある味。それゆえに質も良くわかる。ここまで新鮮なものは、自分で釣る以外ではそう滅多に食べられるものではないだろう。舌鼓を打ちながらも、箸は順調に進んで――。
「えっ、もう食べ終わったんですか!?」
 僕の方が前から居ましたよね? あら汁を飲み干し、空になった器を置いたレスターの様子に、慧斗が目を剥く。そんな少年を見下ろす形になり、レスターは改めて、誕生日を迎えた彼に声をかけた。
「慧斗は今年で17だったな。まだまだ育ち盛りじゃねえか」
「そうですよ。行く行くはレスターさんくらいの上背になりますからね!」
 威勢の良い文句である。確かに最初に見た頃よりは背は伸びたか。
「まずは腹から声が出せるように、腹一杯食って肉をつけろよ。お前の声を聞くと気合が入るからな」
 まあ、偶に鼓膜が破れそうにはなるが。苦笑混じりにそう付け足した彼は、両手を確かめるように、握り、開く。
 問題はない。美味い朝食で、剣を振るうための力は十分蓄えられた。あとは、食った分の仕事をこなせば十全だ。
「帰りはヘリポートまでついでに送って貰えるなら、頼む」
「あ、お仕事ですね!? ちょっとだけ待っててください!!!」
 すぐ食べ終わりますからね! レスターにそう応えて、慧斗は朝食の残りをやっつけにかかった。

●暁光
「おはようございマス」
「おはようございます!!」
 やたらと元気の良い挨拶に微笑んで、エトヴァは慧斗にお祝いを告げる。
「――佳き朝を迎える一年となりますように」
「はい! その最初の朝を、皆さんと迎えられて光栄に思いますよー!」
 嬉しそうに、それから照れくさそうに少年は笑う。
「いやー、エトヴァさんも、こんな早朝から来てくださってありがとうございます」
 ええ、と頷いたエトヴァは、そこで悪戯っぽく答えてみせた。
「朝ごはんと聞いたラ、早起きしない訳には参りませんからネ」

 というわけで、丁度が太陽が顔を覗かせ始めた頃、エトヴァは海鮮丼を前に手を合わせた。
 並んでいるのはここらで評判の海鮮丼と、つみれ汁。窓から差し込む夜明けの光は爽やかで、朝の冷えた空気と合わさり、清々しい感覚が胸に満ちる。
「いただきマス」
 自然と、いつもより神妙な調子で口にして、エトヴァは箸を手に取った。
 朝の光に負けじと輝く海鮮に、お米。順に口にしたそれらに、今度はお醤油を垂らして――。
「……ンン」
 自然と、口元が緩やかに弧を描く。新鮮な魚とほかほかご飯のコラボレーション。合間に口にするつみれ汁も、内から熱を広げてくれているようで。
「元気が漲るようデス」
 これが一日の活力になるのだと、改めてそんなことを実感しながら、彼はゆっくりと味わい、完食した。
「ンー、美味でシタ」
 箸を置いて、伸びを一つ。昇り始めた太陽に照らされて、眼下の海は、とても輝いて見える。
「慧斗殿、帰りはヘリオンでお店へお願いしますネ」
「はーい、了解しました!」
 乗って行く皆さんはこちらへ、と呼びかけるヘリオライダーに従って、エトヴァ海を背にして歩いていった。
「それでは、モーニングフライトと参りまショウ」

 ――煌めく朝の光を背負い、ヘリオンが高く舞い上がる。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月21日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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