ミッション破壊作戦～機軍撃滅

■リプレイ

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　滋賀県守山市、上空。ハッチから、朝日が線となって零れてくる。
　吹く寒風に目を細めれば、浮かぶのは鈴鹿山脈の稜線。
「んう……向こうも、ハッチ、あけはじめたかなー？」
　伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）の視線の先には、もう一機のヘリオンが滞空しているはずだ。
「恐らくは。合わせて行きましょう。占領されたままでは、困りますから」
「残る占領地はあと僅か……二班の全力を傾注し、最難関の地を穿ち抜くぞ」
　カルナ・ロッシュ（彷徨える霧雨・e05112）と月隠・三日月（暁の番犬・e03347）は、彼方の大地を睨む。
　狙うは、残存するミッション地域、最強の個体群。
　今回、二班がこの地の同時攻略を選択したのだ。
『僚班、降下準備完了です！　それでは……【作戦開始】！』
　二機のヘリオンよりコマンドワードを背に受けて、番犬たちは跳躍する。
　リリー・リーゼンフェルト（耀星爛舞・e11348）は、輝く靴から螺旋状の軌跡を引いて。
「これ凄いわね！　行ってきます、小夜ちゃん！　さあ！　ここまで何度膝を折っても、全部乗り越えて今日まで来たんだから！　この地を開放して、明日を取り戻すわよ！」
　彼女が引き抜いた小剣が輝き始める中、番犬たちは滑空する。
（「この地にどれだけの美しい自然が溢れていタか。歴史や、想い出や、長閑なヒトの営みがあっタか……」）
　君乃・眸（ブリキノ心臓・e22801）はキリノを連れ、黒く焦げた大地を見据えた。
「燃やされた物は戻ってこなイ。だが、癒やすことは出来ル」
　目を閉じるエトヴァ・ヒンメルブラウエ（フェーラーノイズ・e39731）は、カルナと共に、黒く澱む野洲川を想う。
「……水は生命の宝庫。人々の生活を潤す地球の恵み……この惨状は見過ごせまセン。星の護り手としテ、この地に清らかな息吹を取り戻しまショウ」
「この地にはきっと、炎より葦原が似合います。水の生き物や人々の営みが、きっとまたここを蘇らせる。ですからその前に、僕たちに出来るお手伝いを……今、ここで」
　小剣は更に強く輝き始め、番犬たちは流星のように空を舞う。
「ああ……壊したもんはなくなるだけだ。俺はそいつをよく知ってる。でも、取り戻せるもんはある。だから俺は、ぶち壊す。あいつらも、魔空回廊も」
「ん。ぼくは、ひとのしょんぼりも、もやもやも、カラコロも、どかーんする。それで、ちゃんとここを、なおれなおれーするんだ……いこう、グラディウス。いっしょに」
　尾方・広喜（量産型イロハ式ヲ型・e36130）と勇名が決意を込めれば、僚班の光と合わさって、まるで流星の群れの如く。
『上空ヨリ敵襲……！』
　地上の敵勢が、顔を上げる。
「黙れ……！　街は、人々が平和に暮らすためにある……！　それを貴様らの強化などに利用されてたまるか！　この土地を、返してもらうぞ！」
　三日月が吠える。輝きは更に膨れ、空を裂く光線と化していく。敵勢は咄嗟に火柱を昇らせるが、空を駆ける光には当たらない。
　そして、愛柳・ミライ（白羊宮図書館司書・e02784）が、閉じた目を見開いた。
「誰が為の炎（しんか）？　皆、大切な人の為にだった。私も。貴方達に教えてもらったから……でも、その炎は違う！　燃やしただけで世界を繋げるなんて、思うなぁぁぁ！」
　瞬間、輝きは一気に膨れ上がる。番犬たちを包み込み、敵勢の目さえ焼く光の柱となって。
『クッ……見エナ――！』
　光は魂に呼応して、地に満ちる敵勢も、障壁に走る亀裂も、上がる火柱さえも呑み込んで、視界が白く弾け飛ぶ。
　そして、音が飛ぶほどの衝撃が、その手に回廊の破砕を伝えてきた。

　……。
　エトヴァが、頭を振って顔を上げる。
「っ、イサナ……カルナ。皆も……ご無事ですカ」
「うーん。すごくどかーん、てしたな……かいろーは？」
「破壊……成功のようですね。皆、無事なようですよ」
　オゾンが焦げるような臭いの中、立ち込める瓦斯。咽こむミライが立ち上がって。
「僚班は……反対側に飛ばされたみたいです」
「脱出はそれぞれ、ってことね。デバイス、共有するわよ」
　リリーが力を共有する中、三日月が目に映る敵味方の配置を確認する。
（「数年前は土地の奪回なんて夢のまた夢……いや、感傷に浸る間はない」）
　こっちだ、と道を示す三日月に沿って、番犬たちは敵中を駆ける。
　やがてその足が水を踏んだ。
　白く煙る闇の中、黒く濁る野洲川。
　ここを超えれば、敵地を脱する。
　頷き合い、一歩を踏み出した。
　その時。
『逃ガサ、ナイ……！』
　迸る殺気に咄嗟に後ろへと跳んだ瞬間、川が爆発した。
「……見つかっタか。だが、例え強化されよウと、量産型に遅れはとらなイ」
　構える眸の前で、紅く燃える水面から、影がゆらりと立ち上がる。
『量産型、ダト。我ラノ、進化ヲ……見ルガイイ……！』
　広喜が腕を撃ち合わせて、背のジェットを翼のように展開する。
「動かないもん燃やして壊すのが、お前の進化か？　違うだろ……さあ、壊し合おうぜ」
　哀しき戦闘機械は、翼の如く腕から火焔を噴き上げた。
　ダモクレス最強のミッション部隊を前に、番犬たちは身構える。
　武を以て立つ者の、存在意義を懸けて……。

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　目に激怒を滲ませて黒い少女が突撃する。先手を取って飛び込む小さな影は、ぼんやりした目に決意と想いを込めて。
「……進化。つよくなりたいのか。それなら、ぼくはもっとつよくなる。もっとつよくなって、ここをとりかえす。みんなで、一緒に、な」
　激突の直前で身を捻り、勇名の竜弾が弾け飛ぶ。射撃の反動を利用してくるりと舞い、伸びる熱線を躱して。それとすれ違うように、高度を落として敵の足元に滑り込むのは。
「回廊はすでに破壊した！　後は、お前らを駆逐してこの土地を取り戻すのみだ。強化されたというその力を、正面から打ち破ってな……！」
　三日月の身が、水面すれすれで横に回る。脛を蹴り抜き、黒い飛沫を上げながら水面を跳ねる。捕らえようと伸ばした少女の手は空を切り、その瞳に憎悪の炎が燃え盛る。
「来ルぞ、キリノ……！」
　眸が従者を引き連れ、前へと出た時、噴き上がった爆炎が川面を蒸発させた。凄まじい火勢を前に、デバイスの大腕でそれを断ち割りながら、眸は目を光らせる。
「ワタシはただの盾でな。剣はまた、他にいルのだ……広喜、カルナ！」
　瞬間、その背後から二人が飛び出した。輝く蝶を身に纏い、アームを足場に跳躍する。
「俺は進化も機能強化もいらねえ。でもな、てめえらを壊して、返してもらわなきゃならねえんだ。綺麗な川と、ヒトの住む場所をな」
「ええ。強化テストなら、他をあたって欲しかったですね。まぁ、折角ですから耐久性のテストをしましょう……！　巻きで行きますけどね！」
　蒼い炎の宿る拳と、凍てつく槌の一撃が、黒い少女の胸を打つ。
　人々の想いを乗せた二撃は、今やそれだけで並のデウスエクスなら粉砕するほどの威力。だが少女型機械は、己から迸る火焔で致命打を弾く。
『定命、ドモ、ガ……！』
　熱刃を収束させる細腕に、アームが組み付いた。煮え立つ少女の瞳と向き合うのは、水面の如く静かな瞳。
「今、俺はこの星の護り手。如何なる熱を前にしても、人々ヲ、そして仲間を護りマス。『定命の者』として。齎される破壊を、見過ごすことはしまセン」
　エトヴァの放つ網がその身の自由を奪う。
　かつての同胞の目に浮かぶは、ダモクレスの先鋒たる自負。そして、簒奪者の地位を失墜しつつある焦り。
　それを振り払うように、炎の腕が振るわれる。咄嗟に、リリーの氷結の螺旋がその手を縛り上げた。だが敵は、纏わりつく全ての束縛を炎で吹き掃う。
『邪魔、ダ……！』
「なるほど。進化に強化、ね……！　でも生憎、そういうのとはさんざんやり合ったのよ！　……データリンク、討魔八紘陣！　爆炎を避けつつ、包囲して！」
　マキナ・ギア。クロム・レック。そしてディザスター・キング……無数の闘いを経て、戦闘機械との渡り合い方は見出した。螺旋インカムで配置を指し示すリリーに従いながら、ミライもまた、その熱に宿縁を感じ取る。
「ええ。ラグナロクの炎。キングとディオンの剣。皆、熱い魂があったのです！　ここを超え、私は証明してみせます！　あなた自身に。そして……アダム・カドモンに！」
　その魂を認めるからこそ、それを討つ罪も超えてみせる。ミライの決意の歌声が仲間たちの背を押した。
『我ラハ、証明スル……我ラノ、機能ヲ……！』
　敵は、最強の尖兵。
　それが、何だ。
　自分たちが迎え撃つべき相手は、この炎の遥か向こうにいるのだから……！

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　火焔は竜巻のように荒れ狂い、飛翔する番犬たちを次々に水面に叩き落とす。水面は炎に縁どられ、煮立った水が異臭を放つ。
　深まる激闘の中、燃え上がるのは互いの矜持。
「背負うものを証明する……ただそれだけのために燃え立つ貴方に、魂が無いなんて言えません。私達の魂のありかを。貴方の魂のそんざいを……！　私、歌いますから！」
　例えこの喉が灼けようとも、ぶつけてみせる。ミライは覚悟を込めて、灼熱を吸い込んだ。煮立つ水を突き抜けて、歌声が響く。
『黙レ……！』
　歌声を狙う火焔の前に、ふわりと舞うように、キリノが躍り出る。微笑だけを残してその体が消失するも、水柱と共に飛び出すのは。
『……！』
「歌声と、揺らめく影に惑わされタな。炎はワタシの味方でもあル」
　右腕と槍に炎を宿して、眸の刺突が少女の肩を貫いた。霞の向こうに薄く見えるのは、まだ僅かに星の張り付く澄空へ向け、最高速で飛翔する。
「皆、行くぞ……今だけは、大戦艦も、星の彼方の闘いも、関係なイ……！」
　少女機械は強引に槍を引き抜き、眸に襲い掛かる。縺れ合った二人。しかし水面に滑落する刹那、迸った稲妻が少女機械の身を硬直させる。
　炎を切り裂き、ジェットの翼で少女と激突するのは、広喜。
「俺も、ダモクレスだった。破壊の無意味さは知ってる。だけどよ。みんなと一緒の、この破壊には意味がある。俺は信じてんだ。みんなと、ヒトのことをなっ」
『雑魚ドモ、ガ……』
　広喜に乗り移った少女は、怒りに顔を歪めて手を振り上げた。
「させんッ！」
　瞬間、交叉した三日月の【深緑四刃】が、彼の背に絡みつく腕を掠め取る。
「一人も脱落させないぞ！　我らは全員で帰ってみせる……ここで身を犠牲にする程度の力では、この先に進めない！　だから……錆びつき、果てろ！　翠の風刃！」
　放たれる四刃。空中に放られた敵を水中へと叩き落とす。
『次々ニ……溶ケ、墜チロ……！』
　直後、水中から火柱が吹き上がり、水蒸気が爆発した。
　圧倒的な火勢。しかし、舞うように下りてくる紙兵の群れが、それを押さえつける。
「いつだって敵の方が強いなんて当たり前だった……！　でもアタシたちは、決して屈しないわ！　覚悟なさい、ワールドウェルダー！　溶け墜ちるのはアンタの方よ！」
『何故ダ。何故、破壊出来ナイ……！』
　己に走った亀裂を睨み、黒い少女はわなわなと震える。
　全員が飛翔し、敵の近接攻撃は封じられた。囮となったキリノの活躍もあり、番犬たちは全員健在。尤も、耐えられるのはあと数度。墜ち始めれば、壊滅までは一瞬だ。
「ぼくは、つよくなりたい。でもぼくだけじゃ、だめだ。みんな、なかよしと一緒だから、つよくなれる」
　後ろを振り返った少女機体。静かに浮かんでいるのは勇魚とエトヴァ。
「みんなと、なかよくするか？」
『譲ラナイ……認メハ、シナイ！』
　二人は頷き合い、丸鋸を展開した勇名が真っ直ぐ向かって行く。
「……胸に宿る、その炎の使い方を誤らなけれバ、あなたとも歩めたかもしれませんネ」
『死ネ……！』
　熱波の中で打ち合う小さな身体を、エトヴァのアームドアームが包み込んだ。
（「川を見ると、旅した頃や、故郷を思い出しマス。今は見る影もなくトモ……恵みは、必ず蘇る」）
　灼熱から勇魚を庇い、エトヴァは水鏡のような静かな気迫を送る。瞬間、花のようにひらいたアームの中から、勇名の丸鋸が飛び出した。
　少女機体の左手が、火花を散らして弾け飛ぶ。その目が、呆然と見開かれる。
「隙あり！　全員で行くぞ！」
「任せろ……畳み掛けル」
「ああ。合わせるぜっ」
　霞は、薄れつつある。時間はもうない。三日月が、眸が、広喜が、それぞれの一撃で敵を裂く。
　だが。
『我ラノ、存在意義、ヲ……！』
　火柱が噴き上がり、少女を包み込んだ。羅刹の如き執念で、殺到する番犬たちを散らして。
「冷たき鉄の体に宿る、灼熱の執念……あなたは、確かに強い」
『……！』
　そう囁くのは、音もなく後ろに回り込んでいた、カルナ。時すらも凍りつかせる【氷華虚鳴】で、少女の動きを鈍らせながら。
「しかし、それが故にあなたは負けるのです」
　リリーとエトヴァ、更にミライまでもが咄嗟に凍結を放っていた。その躯体をゆっくり凍てつかせながら、それでもなお少女は無理やりに身を捩る。
『コノ、星二……！』
　穿たれ続ける凍結。それを破砕する爆熱。せめぎ合う力は、どこまでも膨れ上がる。
「……咲き誇れ、氷晶の華」
　破壊の権化がその力の限界を超越したとき、カルナは技を解いた。力の均衡がふっと崩れた、その瞬間。
『焼キ付ケル、ノ……ダァアア――ッ！』
　少女躯体は、絶叫と共に爆散する。
　己自身が、煌めく結晶と化して……。

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　闘いは終わった。血と油に塗れながらも、広喜がぐっと手を握って。
「おっしゃ、みんな無事だ。一緒に帰ろうぜっ」
「ええ。残念ながら、のんびりは出来ませんしね」
　カルナの言う通り。霞は爆発で吹き飛んだ。もはや隠れる場所はない。
　機能を取り戻したデバイスに、三日月が咄嗟に手を当てて。
「ああ、急ぐぞ！　残党どもが後ろから殺到して来る！」
「飛翔して！　アタシのデバイスと合わせて、川面を駆けるわよ！」
　リリーを先頭に、番犬たちは野洲川を走る。後ろから迫るのは、火焔を纏う少女機体の群れ。
「んう。たくさんいる……あれ、ぜんぶやっつけるの、たいへんだ」
「大丈夫です。こちらももう、私たちだけではないようですカラ」
　エトヴァが顔を上げる。その頭上を、無数のグラビティの煌めきが飛んでいった。
「川縁に展開すル味方を視認。合流するぞ。掃討戦の始まりダ」
　そう語る眸の後方で爆音が炸裂する。歓声と共に一斉に渡河を始める味方。
　ミライが足を止めて、振り返る。
「私……見届けます。滅びに抗う、彼女たちの最後の魂の火を」
　少女機体たちの焔が大水に呑まれて行くかのような総反攻。
　それを前に、番犬たちは静かにその肩を叩いた。

　……こうして、滋賀県守山市は解放される。
　作戦に参加した両班、共に犠牲なく。
　最精鋭のミッション部隊を逸失したダモクレスは、強襲型魔空回廊による占領作戦から手を引くだろう。
　そして番犬たちは、凱旋する。
　いずれ来る、決戦の予感を胸に……。

作者：白石小梅	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2021年2月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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