ミッション破壊作戦~螺旋終束果たすべく

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を見回し、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)はタブレットを手に口を開いた。
「私からは22回目のアナウンスとなります。ミッション破壊作戦です」
 ミッション地域の中枢、強襲型魔空回廊を破壊して、侵略地域を解放するミッション破壊作戦――その要である『グラディウス』は、長さ70cm程の『光る小剣型の特殊兵器』だ。グラディウスで、強襲型魔空回廊を『攻撃』するのだ。
「グラディウスは1度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用可能となるまで、かなりの時間を要しました。ですが、ジグラット・ウォーに於いて多くの『グラディウス』を確保した事と、更に万能戦艦ケルベロスブレイドの『グラディウスチャージ機能』搭載により、ミッション破壊作戦をより迅速に行なえるようになっています」
 とはいえ、現状を踏まえ、ターゲットを選択するべきである事に変わりはないだろう。
「皆さんでしっかり相談して決定して下さい」
 尚、今回の標的は、『螺旋忍軍』のミッション地域となる。
「最後の『螺旋忍軍』のミッション破壊作戦は、1年と半年前ですか……」
 螺旋忍軍のゲートを破壊してから、3年以上経つ。尤も、螺旋忍軍という種族自体が滅亡した訳ではなく、今も他のデウスエクスに仕えて暗躍している。残っているミッション地域も、6箇所と比較的多い。
「『忍び』らしい強かさですが、これまでは他にも地球に敵対する勢力が多く、ミッション破壊作戦でも目こぼしされていたと言って過言ではありません」
 だが、強豪勢力のゲートを次々と破壊した現状に於いて、そろそろ螺旋の終束を目指して良い時期なのかもしれない。
「強襲型魔空回廊はミッション地域の中枢にあり、正攻法で辿り着くのは困難です。ヘリオンデバイスが使える現状でさえも、敵にグラディウスを奪われる危険もあり得ます」
 故に、ミッション破壊作戦では、『ヘリオンによる高空降下作戦』を行う。
「強襲型魔空回廊を覆う半径30m程のドーム型バリアに、グラディウスを接触させるのです」
 攻撃対象が巨大故に、高空からの降下作戦が有効なのだ。
「螺旋忍軍のミッション破壊作戦は久しぶりですので、残存しているのは手付かずのままのエリアがほとんどです。降下作戦のダメージは蓄積しますが……それでも、8名のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中させれば。その一撃での破壊も可能でしょう」
 強襲型魔空回廊の周囲には強力な護衛が常駐している。流石に高高度の降下攻撃は防げない上に、グラディウスの『攻撃時』に発生する雷光と爆炎は、グラディウス所持者以外は無差別に害を被る。ケルベロス達は、この雷光と爆炎の副産物であるスモークと混乱に乗じて撤退する事になる。
「数が増えても、グラディウスは貴重な兵器です。紛失せず帰還出来るよう、けして無理はしないで下さい」
 尤も、強敵ほど混乱状態から抜け出すのは早いものだ。螺旋忍軍との交戦は避けられまい。
「必ず、皆さんの前に強敵が立ち塞がるでしょう。只、敵が単身であるのは、これまでの作戦と同様でしょう。速攻で撃破して撤退して下さい」
 ミッション地域での撤収は、時間との勝負だ。万が一にも時間が掛かり過ぎて、敵の包囲網が完成してしまえば……最悪のケースも留意しておくべきだろう。
「元より個性的な螺旋忍軍ですので、ミッション地域毎に、現れる敵の特色も異なります。ターゲットの選択の参考にして下さい」
 ケルベロス達の尽力により、ミッション地域は着実にその数を減らしていっている。それでも、デウスエクスの前線基地の解放は、最後の1つが潰えるまで、継続すべき重要な作戦だ。
「どうぞご武運を……皆さん、宜しくお願い致します」


参加者
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)
紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
美津羽・光流(水妖・e29827)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●ミッショ34-4「秋田大仏岳」
 標高1167m――秋田県は大平山地で3番目に高い山、大仏岳。
 登山口までの廃林道が登山道化して久しく、車では乗り付けられない遥けき山だ。
「……」
 ヘリオンの窓際に佇む紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)の横顔は、緊張感を孕む。
 この下に、奴はいる――思い出したくもない、過去の元凶が。
「よし、今日は、団長が一肌脱いでやろう」
 本日の神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)は、同じく神門忍軍である英賀がケジメを付ける手助けをすべくやって来た。
(「忍者らしく、隠密はしっかりとしておかねば」)
 防具特徴に関係なく、ついでに頭が高く大いに胸を張っているが、その意気やよし。
「さぁ、華々しく散らせてやるのだ」
「ふふ、頼もしいこと」
 英賀も柧魅も、八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)にすれば、背中を預け合える戦友だ。一方で、2人の後見人も自負しており、彼らの行く末を期待している。
 マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)にとっても、英賀は昔なじみの友人。一目を置く。
(「今回も、かっこいい名脇役に徹するからね」)
 常は子供っぽい性質ながら、そう自任するのは自信の表れか。
「英賀先輩が螺旋忍者やて、自分知らんかったな……正直、びっくりしたで」
 とは言え、美津羽・光流(水妖・e29827)の飄軽に、知り合いの秘密(?)を責める様子はない。
(「俺かて、螺旋忍軍、めちゃくちゃ嫌いやし」)
 拉致洗脳は忍びの十八番ならば。同様の過去を抱える螺旋忍者も、少なからずか。
「僕なんて、ちょっと力に目覚めただけで……普通の人間だよ」
 不意に、英賀の表情が緩む。確かに、螺旋の力を恥じた時期もあった。そんな必要は無いと思えるようになったのは、忍者仲間のお陰だ。
「大丈夫、アタシだってついてるよ! 子供を傷付ける奴には、烈火をぶつけてやる!」
 素顔も露に、不敵に笑むベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)にバシバシと背中を叩かれ、その勢いに思わず咳込む英賀。
「ベル、お転婆が過ぎるんじゃなくて?」
 弟子を窘める豊水の背後で、したり顔でうんうんと頷くビハインドの李々。更にその周囲を、ウイングキャットのビーストが楽しげに飛び回っている。
「確か、厳雁衆……だったか」
 今回は、道なき山の撤退となる。上空から撤退経路の確認に余念がない、灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)だったが、眼下に秘密拠点を構える螺旋忍軍の所業を思えば、憤りが左目の地獄の種火となる。
「攫ってきた子供達に厳しい修行を強い、生き残った者に洗脳と螺旋忍軍化を施す……断じて、許し難い」
 恭介の呟きは、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)にも否やは無い。
「螺旋忍軍の動きは、今の所大きくは見られないけど。やっぱり、侵攻された地域は早く奪還してあげないとね」
 降下ポイントに到着し、開かれたハッチより吹き込む冷たい北風が、艶やかな青髪を靡かせた。

●厳雁衆許すまじ
「子供を誘拐して、その上で更に洗脳してくるとは。何とも外道な奴らね」
 リサは気負う様子もなく、半蛇の身を寒空に躍らせる。メリュジーヌ故に、ケルベロスとなってまだ1年足らず。ミッション破壊作戦も3度目ながら、その自信に溢れた面持ちは、少女の外見に違う年の功を窺わせる。
(「子供達に植え付けられる恐怖、誘拐された子供達の親の心配する様子……それらがどれだけ悲惨だろうか」)
 これ以上の悲劇は繰り返させない。リサは決意と共に、グラディウスを振り被る。
「子供を親から引き離し、悪の道に引きずり込まんとする邪悪な忍! 今までどれだけの家族を泣かせてきた!?」
 より怒りも露に叫ぶのは、恭介だ。命を理不尽に奪う輩は、誰であろうと許さない!
「だが、貴様の悪行も今日で終わりだ! 今まで踏み躙ってきた子供達の苦しみ! 子供を奪われた親の痛み! 今こそ知れ!」
(「ほんま、ええ加減にせえってなぁ」)
 半眼で眼下を睨めつけ、光流は大きく息を吸う。
「いつまでおんねん!! とっくにゲートなくなっとるやろ!」
 螺旋忍軍の泣き所を、容赦なく突き刺す光流。
「お先真っ暗やろ! そんな先のない道に子供引きずり込むとか、無理心中志望者か!」
 ヒトリではいけないと弱音を吐くなら、ケルベロスの手で送ってやろう。
「この辺の安全と未来まるごと、返してもらうで!!」
「本当に……子供たちをなんだと思ってるのっ」
 子供大好きなベルベットにとって、今回の敵は1番嫌いなタイプだ。
「子供の命は地球の未来。あんたたちのいいようにしていい物じゃないのよ!」
 脳裏を過る、己が過去――デウスエクスに孤児院を襲われ、共に育った『家族』を攫われた怒りが蘇れば、地獄が燃え上がったかのように顔が熱い。
「フローリア孤児院院長として、あんたの野望はここで焼き尽くす!」
(「どれだけヤボな事してくれるんだか、螺旋忍軍は」)
 未来ある子供の心を踏みにじって洗脳するとは。子供を奪われた家族も、さぞや不安で怖かっただろう。
「でも、もう大丈夫だよ」
 マサムネは、今はこの場にいない、数多の被害者達に呼び掛ける。
「ここから先、俺達が来たからには通さない」
 敵が英賀の因縁であるならば尚の事、一緒に倒すまでだ。
「ええ、見苦しいわね、子供を犠牲にしてまで再起を図ってたなんて」
 ちらと肩越しに一瞥する豊水。非情なるふるいに掛けて育て上げたその1人が、英賀という訳か。
「行こうか、李々」
 赤のスカーフで口を覆い、李々の隠れた眼とコンタクト。同時に飛び降り、いっそ悠然と降下しながら――魔空回廊のバリアの目前で瞬時に激昂が迸る。
「……てめえ、私の後輩を何度泣かせた?」
 グラディウスを突き立て、切り裂く。豊水の断罪の言葉が寒気を震わせる。
「あんた達の居場所はもうこの星にはない。潔く滅びなさい!」
「よしよし、いつも通り、圧倒して魅せようではないか」
 ケルベロス達の勇姿を楽しげに見下ろし、柧魅は先に行くぞとばかりに、英賀に片手を上げるや飛び降りる。
(「魂の叫び……重要らしいが、よくわからん」)
 そんな本音はさて置いて。
「くっくっく、オレに出会ったことを幸運に思うと良い……不幸ではない、間違えるでないぞ」
 随分と楽しい時間を過ごしただろうし、もう終わってもいい頃合いだ。
「ま、お前らの事なぞ微塵も知らんけどなっ」
 それに、引導を渡すのは柧魅ではない――グラディウスの攻撃の寸前、ヘリオンの方を顧みる。
(「頑張れよ、今回の主役」)
「皆……ありがとう」
 響き渡る叫びに、ともすれば鎌首をもたげる弱気を呑み下す。
(「ごめん……見せたくなかったけど……」)
 まるでスイッチが入ったかのように、英賀が剣呑を帯びる。
(「今日の僕も本性だから……ひかないでね、きっと終わりにするから」)
 最後にヘリオンから飛び降りた英賀が、グラディウスを構えて声を張る。
「あいつを殺せと血が騒ぐ! 憎しみが鼓舞となる!」
 あの時から身の内を灼く『炎』は、けして消える事は無く、長らく燻ぶり続けてきた。もう、我慢する必要はない。この一撃で燃やし尽そう。
「この怒り、忍軍らの死を以て鎮める!」

●厳雁衆頭領
 心底の叫びが八者八様ならば、剣撃も八閃――その手応えは、硬い。
 大仏岳のバリアの強度は、残る螺旋忍軍のエリアの中で最も高い。流石に初撃では……と、煙幕の中でケルベロス達が魔空回廊を見上げた、その時。
 ――ピシリ。
 それは、一条の亀裂。天から地へと走った一線は、忽ち幾条にもひび割れ、全体に及んでいく。
「やったっ!」
 思わず、快哉の声を上げた。崩壊していく魔空回廊を前に、英賀は息を弾ませる。
 だが、作戦は魔空回廊の破壊だけでは終わらない。すぐさま身を翻し、他のケルベロス達と集合する。
「よっしゃ、こっからが本番やで」
 煙幕の中、更には藪に潜むように身を低くする光流の言う通り、グラディウスと共に帰還してこその作戦完遂だ。各々、絶対紛失しないよう、大事にグラディウスを仕舞い込む。
「こっちだ」
 先導する恭介の目の前で、植物がひとりでに曲がり、小路を作り出していく。順に小路を辿りながら、ケルベロス達は油断なく耳を澄ませ、周囲を窺う。
 状況は混沌としている。魔空回廊の崩壊に、厳雁衆も昏迷状態も甚だしい――だが、ミッション破壊作戦に於いて、会敵は必然。或いは、英賀にとっての希求であれば。
「そこっ!」
「ぶっ殺す!」
 煙幕の向こうに腕組み佇む偉丈夫を認めるや、英賀の平静が沸騰する。光流が動くより先に、両の惨殺ナイフが螺旋を纏うや、飛び掛かる!
 ――――!
 触れなば、螺旋が内から破壊する、螺旋忍者の技。だが、怒れる一撃を僅か1歩で躱し、螺旋忍軍――厳雁衆頭領は無言のまま拳を振るう。
「ガッ!!」
 単純な剛拳に見えて、軌道はさながら雁が群れ成して飛行するV字の如く。鋭角に肺腑を抉られ、英賀は長躯をくの字に曲げる。
「英賀先輩!?」
 だが、辛うじて踏み止まった。心配そうな光流に大丈夫だと手を振れば、彼も頷き返して予定通り、メディックたるリサから分身を重ね始める。
「しっかり!」
 代わりにベルベットが、アームドアーム・デバイスを展開。機械腕から祝福の矢を放つ。同時、ビーストが清らに羽ばたいた。
 尤も、ウイングキャットの清浄の翼は前衛全体に及ぶ。回復量も相当に控えめであるし、エフェクトの付与率も厳しい。ビーストがBS耐性を全体に行き渡らせるには、相当に時間が掛るだろう。
「自然を巡る属性の力よ、我を護る盾となりなさい!」
 それでも、ベルベット達のヒールが、確かに英賀を癒すのを見て取り、リサも又、予定通り自らにエナジープロテクションを掛ける。敵のグラビティは既に知れている。最も彼女が警戒するのは、蠱毒――共食いを強いる催眠の技だ。間違っても、敵をヒールなどしたくない。
「複合式忍殺術・黒雷閃華!」
 かっこよく魅せよう。忍者らしく、華麗に――柧魅の傍らに現われるは、蓮花の如き光翼の戦乙女。解き放たれた粒子は蓮華の如く咲き乱れ、触れたモノを凍てつかせ……同時、張り巡らされた朱の鋼糸より黒き雷霆が迸る。
 単体相手に一帯に荒ぶグラビティは、威力度外視の目くらまし。すかさず、スナイパー達が狙い澄まして動く。
 ――神よ、汝の子を哀れみ給え。
 タイトルは「やがて復讐と言う名の雨」。陰惨な旋律に乗せて、呪詩を紡ぐマサムネ。
「今こそこれまでの悪行の報いを受けよ!」
 ミュージックファイターの歌声を背景に、恭介も敵を足を潰さんと流星の如き蹴打を放つ。李々も又、周囲の枝葉を操り飛ばす。
(「もう少し、待っていて欲しかったけれど」)
 宿敵を前に、気が逸るのもよく判るから。豊水はガネーシャパズルを組み替え、光の蝶を飛ばす。英賀の第六感を呼び覚まさんと。
 ――――。
 手数は圧倒的にケルベロスの優勢。だが、厳雁衆頭領は無数の分身を出現させる。
「吹き飛べ!」
 すかさず、恭介の拳が音速を超えるも――その一撃で、全ての分身を消すには至らない。
「此奴!」
 英賀と柧魅、クラッシャーのグラビティブレイクは、まだ届かない。となれば。
「ジャマー、だね」
 顔を顰めるマサムネに、豊水も忌々しげに頷いた。

●螺旋終束果たすべく
 ガキンと、刃が火花を散らす。
 厳雁拳が唸り、蠱毒手裏剣が撒き散らされる。その何れもが前衛――英賀に集中する。
 だが、それは情による攻撃ではないと、英賀自身がよく判っている。
 デウスエクスも眼力を具える。拳が届く中で、最も実戦経験が乏しい所を、突いてきているに過ぎない。
(「格上なのは、最初から承知の上」)
 冷徹なまでの効率重視。何故か少し楽しくなってしまって、ニヤリと唇が曲がる。
「……」
 そんな英賀を目の当たりにしても、厳雁衆頭領は沈着のまま、無言を貫いている。
(「解ってる。同じ技の師……1人では勝てない」)
 だが、今の英賀はケルベロスだ。猟犬は、群れ成し狩り立てるもの。活路は、仲間の力の結集してこそ拓ける。
「ちょっと痛いやついくよ」
 解除されても何のその、徹頭徹尾、足止めに専念するマサムネのブラックスライムが、丸呑みせんと大口を象る。
「ハハッ、ここが地獄じゃあるまいし!」
 敵の拳を遮り、ベルベットは不敵に笑んで応酬する。
 命の穢れを濯ぐ浄刹の舞。誠に流麗で神韻縹渺である! ――いざ、南無三!
 ビーストの羽ばたきに純白が舞う。ベルベットの足運びが描く魔法陣には、仲間の傷や穢れを養分とする蓮華の花が咲き乱れている。
「貴様は絶対に逃がさん!」
 ケルベロス達の回復と攻撃が交錯する中、際限まで炎上させた地獄を愛刀に纏わせ、斬り掛かる恭介。
「塵一つ残さず燃え尽きろ!」
「……!」
 更には、李々の追撃で螺旋忍軍の人影がぶれる。多重分身の術の前兆に先手を打ち、光流は最果ての楔を放つ。
「行ったれ! 英賀先輩!」
 ――西の果て、サイハテの楔よ。訪れて穿て。滅びは此処に定まれり。
 冥界の氷楔は敵を穿ち、癒しを阻害する。
「……」
 覆面の下で、舌打ちしたように見えたのは気の所為か。
 ――――!
 代わりに蟲毒手裏剣が撒かれるも、リサは悠然と青竜の翼を広げた。
「大丈夫よ、落ち着いていれば安全だから」
「オン・セイ・ニン! 受け継がれし御技よ、我が同胞に救命の息吹を……かましなさい、英賀君。その為の道は私たちが切り開く」
 鎮めの風が吹き抜ける中、豊水の指先で癒しの螺旋が血を凝らせる。八尋流衛命・紅螺旋迅療術を以て英賀に治癒を施し、その背を押した。
「さぁ、お前のとっておきを決めてやると良いぞっ」
 柧魅のグラビティブレイクが、敵の最後の分身を消し飛ばす。今そこに在るのは、本体唯1人。
「お前は『仲間』を教えなかった! それがお前の死因になる」
 無心。眼力とは異なる感覚が、的確に関節・筋を見分ける。ナイフが奔る。急所を突き、解体する――英賀はまだ気付かない。師を葬るその動作が奥義の域に達した事に。
「このナイフは、お前が昔僕に与えた物。身体に入れられて、どんな気持ち?」
 死んでくれ、僕の安寧の為に――断末魔の叫びすらなく、厳雁衆頭領は事切れる。最期まで、彼が言葉を発する事は無かった。

「ふぇぇ……恥ずかし……」
 気を張り過ぎたか、突っ伏す英賀の方は見ない振りをして。粛々と撤退を講じるケルベロス達。
「じゃあ、レスキュードローンを囮に」
「了解、チェイスアート・デバイスも繋ぐさかい、速やかに脱出やね」
「英賀、そろそろ行ける?」
「……ああ」
 声を掛けられ、英賀は漸く立ち上がる。
 無事に帰れたら、もう少し気を抜いて生きられるだろうか。
(「ありがとう、それから……改めて、また宜しく。ケルベロスの皆」)

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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