フェティシズム

作者:紫村雪乃


 プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は足をとめた。
 深更。月光に女の姿が浮かび上がっている。
 角に蝙蝠のものに似た翼。半裸というより、ほとんど裸といっていい格好。サキュバスのようであった。
 が、違う。サキュバスあるプランにはわかる。女はやばいモノだ。
「そうよ。わたしはサキュバスじゃないわ」
 プランの心中の思いを読んだかのようにいうと、女は少女のような可愛らしい顔に邪悪な笑みを浮かべた。
「ドリームイーター!」
 プランは女の正体を悟った。女の笑みが深まる。
「フェティシズムよ」
 女ーーフェティシズムはゆっくりと歩み出した。
「貴方には死んでもらうわ」


「プランさんが宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました」
 焦りの滲む声音でセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
「急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることは出来ませんでした。一刻の猶予もありません。利香さんが無事なうちに、なんとか救援に向かってください」
「どんなデウスエクスなの?」
 問うたのは豊満な肉体をわずかな布切れで包んだ美女だ。和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)であった。
「ドリームイーター。姿は可憐な美少女ですが、強敵です」
「厄介そうな敵ね。攻撃方法は?」
「モザイクを弾丸にして放ちます。さらには大きなモザイクを作り出して中に連れ込み、対象の性癖を満たす姿に変身して交わって生命エネルギーを搾り取ります」
「恐ろしい敵。油断していい相手ではなさそうね。プランさんといえども一人じゃ荷が重そうだわ。助けが必要ね」
 香蓮はいった。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
メレアグリス・フリチラリア(聖餐台上の瓔珞百合・e21212)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ


「……プランが危機であるならば駆け付けずにはいられまいよ!」
 ヘリオンのキャビン内。男の声が響いた。
 浅黒い肌の少年めいた男。コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)である。
「相手の性癖を読み取れるというのはある意味では恐ろしい能力だな…」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が複雑な思いのにじむ声をもらした。
 確かにその通りだ。敵は標的の心中を読み取り、弱点をついてくるのだから。
「そうよね」
 金髪蒼瞳の女がうなずいた。眠たげな美しい娘で、はだけた胸元から大きな乳房が覗いている。リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)であった。
「このドリームイーターはすごく危険な臭いがする、ね。プランの宿敵らしいし彼女の援護を頑張る、よ」
「でも」
 メレアグリス・フリチラリア(聖餐台上の瓔珞百合・e21212)が小首を傾げた。
「性癖なんていっぱいあるし、どれが暴かれるのかちょっと興味あるかも…?」
 つぶやいて、それからはっとしたように慌ててメレアグリスは首を振った。
「ううん、いけない、先に合流を急がないとね!」
「ふふん」
 コクマがふんと嘲るように鼻を鳴らした。
「わしの性癖はプランや香蓮そのものだ。故にそのものに化ける事の出来ぬフェティシズムにはがっかりしている」
 ちっ、とコクマは舌打ちすると、
「下らん。我が望みは常に叶わぬか。ならば、せめて我が憤怒の捌け口として叩きのめしてやる」
 コクマの目に昏い炎が燃え上がった。


「サキュバスみたいに搾り取るのが得意みたいだけど、サキュバスとしては負けられないね。いっぱいイかせて可愛がってあげるよ」
 どこか妖艶な感じのする美しい娘がいった。ロングコートをまとっているのだが、その上からでもわかるほど見事な肉体の持ち主である。名をプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)といった。
「いってくれるわね」
 可憐な童顔に浮かんだ邪悪な笑みをさらに深くして、女ーーフェティシズムは繊手をのばした。
 来る!
 そう判断したプランが横に跳んだ。いや、彼女の足が地から離れるより早く激痛と衝撃がプランを襲った。フェティシズムが放った魔弾がプランを貫いたのである。
 着弾の衝撃でプランが吹き飛んだ。地を転がり、ようやく起き上がったプランの顔色が変わっている。フェティシズムを侮ってはならないことに気づいたのであった。
 たった一発の魔弾で体力の半分ほどがもっていかれている。さすがはデウスエクス。単独では勝てそうになかった。
 が、プランはこのままおとなしく殺されてやるつもりなどなかった。豊かな乳房の間から符を取り出す。
 次の瞬間だ。半透明の巨大な手がフェティシズムを鷲掴みにした。プランが召喚した超常存在ーー御業である。
「やってくれたわね」
 御業を振り払い、フェティシズムがプランを睨みつけた。ダメージそのものはたいしたことはないが、ケルベロスごときの攻撃を受けたということが許せないのだった。
「なら、とびきりのをお見舞いしてあげる」
 フェティシズムがモザイクを放った。それは避けもかわしもならぬプランに直撃しーー。
 いや、直撃したのは蒼眞であった。駆けつけた蒼眞がプランをかばうべく飛び出したのだった。
「あなたたち!」
 愕然としてプランは目を見張った。その視線の先、コクマがニヤリと笑っている。
「面白そうなパーティーだな。わしたちもまぜてくれ」
「そうだぜ」
 蒼眞がうなずいた。
 次の瞬間だ。蒼眞の姿が消失した。モザイクの中に引きずり込まれたのである。気づけばフェティシズムの姿もなかった。

「ーーここは?」
 蒼眞は辺りを見回した。何もない。異様な空間であった。
「ーーご主人様」
 可愛らしい声がした。驚いて振り向いた蒼眞は、そこに声に似つかわしい可憐な少女の姿を見いだした。
 黒髪黒瞳の美少女。年齢は蒼眞よりかなり下だろう。
 ホワイトブリムにエプロン。身なりはメイドであった。
 が、それだけだ。少女は裸であった。真っ白な肉体にホワイトブリムとエプロンを着けているのだった。いやーー。
 異様なことはまだあった。少女は首輪をつけていたのである。
「ーーこれでいいですか、ご主人様」
 震える声で少女がいった。鷹揚に蒼眞が頷く。異常な状況に対する疑念は、すでに念頭から去っていた。
「あっ、だめ」
 少女は身悶えた。蒼眞が少女を抱き寄せたからだ。少女は処女であった。
 少女を押し倒すと、蒼眞は彼女の股を開いた。まだ恥毛の生え揃っていない秘肉を白日のもとにさらす。少女は羞恥に顔を手で隠した。
「お、お許しを」
「だめだ」
 酷薄に笑うと、蒼眞は己の猛り立ったモノを唾で濡らすと、少女の秘肉に突き立てた。
「ああ!」
 少女の口から悲鳴とも苦鳴ともつかぬ声が発せられた。それが蒼眞の嗜虐心をさらに煽った。もはや気死したような少女に腰をうちつけ、誰も受け入れたことのない秘肉の味を堪能する。獣が美肉を貪っている凄惨な印象があった。
 乱暴に犯して処女を奪いたい。そのような邪な陰獣が、確かに蒼眞の裡には存在していたのであった。


 消えた蒼眞が突如現れた。下半身が裸という姿で。気を失っており、しばらくは目を覚ますことはないように見えた。
 傍らにはフェティシズムの姿。美味しいものを口にしたかのように蕾のような唇を舐めまわしている。
「ほう」
 コクマが感嘆の声をもらした。
「あの蒼眞が一撃とはな。中々に魅力的だがプランにも香蓮にも化けられぬ程度では興味も湧かぬわ! 尤も…その程度が貴様の限界よ」
 コクマが躍り上がった。彼の背丈よりも大きく、鉄塊のように無骨な剣ーースルードゲルミルを叩きつける。唸りを発して薙ぎ下ろされた巨剣はフェティシズムを吹き飛ばしたのみならず、大地を穿ってようやくとまった。
「やってくれたわね」
 フェティシズムがケルベロスたちを睨みつけた。が、ある者の面上で視線が揺れた。
 それは女であった。サキュバスであるのか、美しい女だ。フェティシズムは知らなかったが、名をユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)という。
 そのユグゴトは笑みを浮かべているのだが、どこか異様であった。混沌に属する笑みである。
「可愛らしい輪郭だが、果たす事だけの脳味噌らしい。モザイクとは彼方側の意味を孕んでいたのか。ならば胎に還り給えよ貴様」
 慈母のごとく、あるいは深淵の堕天使のごとくユグゴトはいった。
 その時だ。空を灼きながら二条の稲妻が疾った。
 それはリーズグリースとメレアグリスのもつロッドからほとばしりでていた。稲妻に撃たれたコクマとプランの肉体が賦活化する。
 するとミミックーーエイクリィが動いた。がぶりとフェティシズムに食らいつく。が、ひらりとフェティシズムはかわしてのけた。
「責めるのも受けるのも好きだが、最も好きなのは脳髄摘出。嗚呼、貴様の皴々タンパク質を晒せ。我が名はユッグゴトフ」
 告げると、ユグゴトはフェティシズムの物語を否定した。物語とは、すなわち存在、在り方である。それを強烈な言霊でユグゴトは破壊することが可能なのだった。
 目から血の涙を流しつつ、しかし、まだフェティシズムは倒れない。むしろ攻撃にうってでた。プランにむかってモザイクを飛ばしたのである。

「これはーー」
 戸惑いながらリーズグリースは周囲を見回した。
 そこは自室であった。目の前には友人の男性がいる。
 さっきまで戦っていたのに、という疑念はすぐに消え去った。男性が彼女の豊かな乳房に手を伸ばしてきたからだ。
「あん」
 男性が乳房に触れただけで甘い声をリーズグリースはもらした。胸が彼女の弱点であったのだ。
 そのことを知悉しているかのように男性はリーズグリースの胸を揉み始めた。電流のような快感が乳房から全身にひろがり、リーズグリースが喘ぐ。
「あん。だめ。乳首、弱いの」
 ニヤリとすると、男性はリーズグリースを裸にむいた。拒絶しようとするが、リーズグリースにはできない。肉体がいやらしいことをして欲しくてたまらなくなっているからだ。男性が怒張した肉棒をリーズグリースの秘肉に突き入れた。
「ああん。動いちゃ、だめぇ。そ、そんなにされたらぁ、はあん」
 リーズグリースは自ら男性に口づけした。すると男性が彼女の乳房を揉みしだき、尻の動きを速めた。
「あぁぁ、む、胸もあそこもいいのぉぉ。もっとぉぉ」
 キスしながらリーズグリースは男性の腰に足をからめた。もう無理やり犯されているという意識はない。恋人にするようにリーズグリースは男性を抱きしめた。
 瞬間、男性が白濁液をリーズグリースの膣内にぶちまけ、リーズグリースもまたのぼりつめていった。


 消えたリーズグリースが突如現れた。蒼眞の場合と同じである。違うのはリーズグリースが全裸であることであった。
 傍らにはフェティシズムの姿。先ほどのように美味しいものを口にしたかのように蕾のような唇を舐めまわしている。
 その時、蝶が飛んだ。メレアグリスのパズルから飛び立ったもので、光の粒子を散らしながらプランにとまる。
 次の瞬間、プランの姿は空にあった。感覚が鋭敏化したプランにはフェティシズムがとまっているように見える。蹴りを叩き込んだ。
 続いて攻撃したのはコクマだ。身を旋回させ、加速度をのせた一撃を薙ぎおろす。
 ものすごい衝撃に、さしものドリームイーターもよろめいた。その隙をついてエイクリィがエクトプラズムで作り上げた剣で切りつける。とっさに庇ったフェティシズムの手が石と化した。
「抱きしめてやろう。は、ははは」
 ユグゴトの笑い声が響いた。直後、フェティシズムが爆炎に包まれる。ユグゴトが放った竜弾が直撃したのである。
「くっ」
 フェティシズムの可愛らしい顔が憎悪でゆがんだ。ケルベロス一匹を始末するのにこれほど手間取るとは思わなかったのだ。
 もう一度フェティシズムはプランを狙ってモザイクを飛ばした。

「ーーおとうさん?」
 驚いてメレアグリスは声をもらした。眼前に亡くなったはずの父親がいたからだ。椅子に座っている。
 が、そんな疑念はすぐに消え去った。少女のように父親に抱きつく。彼女は男として父親を愛していたのだった。
「おとうさんがだいすき! あいしてる!」
 メレアグリスはいった。が、不満がある。父親は患者に抱かせるだけで、決してメレアグリスを抱いてはくれないのだった。
 けれど、この時ばかりは違った。父親がメレアグリスの下着を膝までずりおろしたのだ。
「…えっ、あいしてくれるの? やったぁ!じゃああたしも、がんばっておかあさんになるね!」
 制服姿の少女の姿で、メレアグリスは父親のズボンのファスナーをおろした。屹立する父親の肉棒をあらわとする。
「あたしの中に挿入れたいの?」
 淫らに笑うと、メレアグリスは父親の膝にまたがった。スカートをめくっているので、濡れそぼった秘肉やむっちりとした尻がさらけ出されている。
「だったらいいよ、挿入れて。メレアグリスのこと、めちゃくちゃにしてぇ」
 メレアグリスは尻を落とした。父親の肉棒が彼女を貫く。涙がメレアグリスの頬を伝い落ちた。
「やっとしてくれたね、おとうさん。メレアグリス、ずっと待ってたんだよ、犯してくれるの」
 父親にキスすると、メレアグリスは尻をいやらしく振り始めた。


 今度はメレアグリスが気死した状態で姿を見せた。
 瞬間、エイクリィが跳んだ。フェティシズムに食らいつく。
「脳味噌を摘出し、活かす事。それを胎に還す事。素敵だと思わないか? HAHAHA……!」
 狂ったような哄笑をあげると、ユグゴトは光をばらまいた。輝く光点が描いたのは乙女座の星座である。星座から放たれるオーラが祈りを捧げる乙女の姿となり、フェティシズムをうった。
「蒼眞め。あれはあれで羨ましいものよな」
 嫉妬を怒りへ、その怒りをパワーに変えてコクマはスルードゲルミルを薙ぎおろした。刀身はすでに青白い水晶の刃をまとい、さらに巨大化している。
 反射的にフェティシズムは腕でガードした。が、その防御ごとコクマを打ち砕いた。吹き飛ばされたフェティシズムは地を数度はね、ビルの壁面に激突。ようやくフェティシズムはとまった。
「あ……ああ」
 コンクリートの砕片をばらまきながら、フェティシズムはふらふらと立ち上がった。と、突然、フェティシズムの乳房が背後からつかまれた。プランである。
「いっぱい貪ったね、こんなに搾り取ったんだ」
 乳房を揉みしだきながら、プランはもう片方の手をのばし、フェティシズムの秘肉に差し入れた。そして甘い愛液を拭いとると、濡れた指にぬめりと舌を這わせ、
「沢山楽しんだみたいだね、今度は私といっぱいイイコトしよ?」
 プランが妖しく囁いた。
 刹那である。足元の影が広がり二人を飲み込んだ。

 それは一瞬のことであったか。はたまた永遠のことであったか。
 地にフェティシズムの骸が転がっていた。異次元の時間流の中で無限ともいえるプランとの性交により、精根尽き果ててしまったのである。
「ふん」
 フェティシズムを見下ろし、コクマは鼻を鳴らした。
「我が憤怒、わずかでも晴れればと思うたが、未だ晴れぬな。ああ、腹立たしい…!」
「淫魔にえっちでは勝てないし夢魔に夢の世界では勝てないんだよ」
 同じようにフェティシズムを見下ろし、プランは残酷で甘い笑みを口辺に刻んだ。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月17日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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