君の声が欲しい

作者:河流まお


「君となら出来ると思った。夢を叶えられると思ったんだ」
 ビルシャナと契約を果した少年は、過去に思いを馳せながら眼を細める――。

 少年には夢があった。
 彼は音楽が持つ力を何よりも信じていたのだ。
 幼い頃に聴いた流行りの歌謡曲。
 抑制されたような静かなの前奏から、まるで華が開くように解放されるCパートは、彼の人生を変えるほどの衝撃を秘めていた。
 自分もこんな曲を作ってみたい。
 子供心に、彼はそんな純粋な夢を抱いたのだ。

 彼は幸いにも作曲の才能には恵まれていた。
 だが、天は二物を与えずというように、彼はもうひとつの大切な要素、『声』の才能には恵まれていなかった。
 彼は自分が作り出す至高のメロディと、それと調和する歌声を、ずっと求めていた。
 だが……ああ、その理想と比べて――。
 なんて低くて醜い、自分自身の歌声。

「でも、学園祭で『あの曲』を歌う君を見つけたんだ。
 懐かしい。僕にとって、始まりといえるあの曲――」
 ビルシャナの足元で横たわる女生徒が「ヒッ」と恐怖の息を飲む。
 女生徒は足の腱をすでに切られているらしく、逃げることは叶わない。
「君だ……君しかいない。
 君こそが、僕の探し求めていた声の持ち主なんだ――。
 ああ、それだというのにーー」
 まるで愛おしむように女生徒の喉元を撫でる少年。
 既にその指は凶悪な鉤爪へと変化しており、つつ、と赤い一筋の裂傷が女生徒に刻み込んでゆく。
「すでに卒業後に、進路を決めているだとォ……ふざけるなよ、この裏切り者がァア!」
「や、やめて……、お願いぃ……ここ、殺さないで――」
 涙を流しながら懇願する女生徒に少年はキョトンとして首を傾げる。
「殺す……? ああ、勘違いさせちゃったかな……大丈夫だよ」
 優し気な口調で少年は眼をキュッと細める。
「……僕は『君の声帯』さえ貰えればいいんだよ。
 ほら、歌声ってさ、結局は声帯の振動にすぎないだろ?」

 その時、ふいにブチリという不快な音が響き渡った。
 女生徒の頭上にボトボトと血が降り注ぐ。
 見上げる先のビルシャナが自らの喉元を鉤爪で抉り取り始めたのだ。
「だがら、ごうじでぇ、ぼぐの喉を切除じで、ごの場所に、ぎみの声帯を嵌めごむのざ。
 君はぼぐのながで永遠に生ぎづづげる。素晴らじいだろぉ?」
「ひっ、あっ――。きゃあああああぁッああああああああッ!! 助けてぇッ! だ、だれかぁああああ!」
 女生徒が恐怖の悲鳴をあげる。
 その伸びやかな高音に聴き惚れながら、ビルシャナは満足げに微笑む。
 ああ、やっぱり良い歌声だ、と。


 予知を語り終えたセリカ・リュミエールがケルベロス達に向き直る。
「ビルシャナ契約者による殺人事件を予知しました」
 数時間後、都内にあるとある学校の体育館で、ビルシャナと契約した少年が、同級生の女子学生を身勝手な理由で殺害することになる。
 事件が起こるのは深夜。既に一般生徒は下校しているので人払いを考える必要はない。
 体育館の鍵も、すでにビルシャナが破壊しているので、現場までの移動に手間取ることはないだろう。
「ビルシャナは『せっかくだから』と女生徒を出来る限り苦しませて殺したがっているようです。
 ですので、戦闘になった場合は邪魔者であるケルベロスの排除を優先して行おうとします。
 ですが、自らが敗北を悟れば、道連れで女生徒を殺そうと攻撃することも考えられますので、注意してください」
 どこか淡々と感情を押し殺すように説明してゆくセリカ。
「ビルシャナと契約したっていう少年を助けることは出来ないのか?」
 ケルベロスの一人がそう問いかけると、セリカは視線を下げる。
「それは……難しい、と言わざるを得ません。
 彼が長年抱えていたコンプレックスはとても根深く、重いものです。
 言ってしまえば、ビルシャナと契約を果す前から、彼の精神状態は『壊れていた』のです」
 暗い表情をしながらセリカ。
「それでも……」
 と言いかけるケルベロスの一人に、セリカは首を振り――。
「ビルシャナと契約しなくとも、彼は同じ事件を起こしていた、といえば分かりやすいでしょうか……」
「……」
 重い沈黙が会議室に流れる。
 ビルシャナと融合してしまった人間は、基本的にビルシャナと一緒に死ぬことになる。
 ただ、可能性は低いものの、ビルシャナと融合した人間が『復讐を諦め契約を解除する』と宣言した場合、撃破後に、人間に戻れた事例もあるらしい。
 なお、その契約解除は、心から行わなければならないので、「死にたくないなら契約を解除しろ」といった、利己的な説得では救出する事は出来ないようだ。
「この依頼は……討伐依頼と考えて下さい。
 ですので、もしもその手を汚したくないのであれば、断って頂いても構いません」
 あえて言い切るセリカ。
 暗に、説得作戦は危険だと告げているようだ。

 ケルベロス達の覚悟を問うように時間を置き、セリカはヘリオンへとケルベロス達を招く。
「」


参加者
シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)
ヴォイド・フェイス(クレイジーフェイト・e05857)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)

■リプレイ

●1
「月は満ちて、まるで鮮血が滴り落ちてきそうなほどの紅い満月。
 狂気と戯れるには、丁度いい夜かもしれませんね」
 夜纏う髪を揺らしてそう呟くのはシャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)。
「狂気に堕ちた少年、ですか……。私達の言葉が届くと良いのですが――」
 バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)もまた、紅い月を見上げながら呟く。
「……斃すのなら、得意だけど――。
 言葉を練るのは、得意じゃないんだ」
 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が身体を捻ってヘリオンからの着地を決める。
「……おじいちゃんなら、こんなとき何て言うんだろ」
 亡き祖父のことを思い出すひなみく。
 まあ、おじいちゃんなら『自分で考えて、自分の言葉で伝えろ』って怒るかもしれないけど――。
「どこかが狂ってる人にしか作れない芸術って、アタシ的には好きな部類に入るんだけど……」
 ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)の炎が僅かに揺らめく。
「……それで実害だすのはダメっしょ。人もビルシャナも関係ない、絶対に止めなきゃ案件だ」
 少年はすでに取り返しのつかないところまでビルシャナ化していると聞いている。
 セリカもこれは討伐依頼であり、説得は不可能であると言外に言っていた。
 (覚悟は決めて来たつもりだけど……)
 『守る戦い』こそがベルベットの信条。
 じゃあ、今回のようなビルシャナ化した人は?
 その答えは、未だ出ていない。
 そんなベルベットの迷いに気が付いたのは、ヴォイド・フェイス(クレイジーフェイト・e05857)である。
「ま~、ビルシャナ契約者の彼? 高校生三年生っつったら多感な時期だろうしネ。
 かくいう俺様も、高校三年の頃は色々悩んだりしたもんサ。
 面接のとき『マスク可』のところあるのかな――ってな! HAHAHA!」
 なんとか元気づけようとして頭を高速フル回転させてみたものの、どうしてもおどけた調子になってしまうのがヴォイドの悲しい性分か。
 そんなヴォイドに対してベルベットはクスッと笑い。
「ヴォイドさんの学生時代か~……全然想像できないや」。
 さて、ケルベロス達の脚力で夜を駆ければ、殺人事件の舞台となる現場はすぐそこだ。
「あの体育館ですね」
 鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)が愛銃グラビティスマートカノンを担ぎなおして、速度を上げてゆく。
「では、女生徒さんの救出は作戦通りに」
 橘花が視線を送るのはヴォイドと曽我・小町(大空魔少女・e35148)。
「任せといて!」
「おうよ! 待ってろヨ、生きてろヨ! ってか?」
 頷きを返す小町。ヴォイドはヒョイと跳躍して体育館の屋根の上へと消えてゆく。

●2
 ケルベロス達が現場へと踏み込むと同時、体育館の中に女生徒の悲鳴が響き渡る。
「ああ。確かに、これ、は、のびやかでいい高音です、ね……」
 抱えていたデブ猫を降ろしながら、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)はビルシャナを見据える。
 3mを超える樋熊のような体躯と、雨に濡れたような艶やかな黒羽。
 大鴉型のビルシャナ。
「だ、誰かに、自分の歌を、聞いて欲しい……。
 自分の才能を、万人に、認めて、も、もらいたい……。
 だからこそ、じ、自分に、欠けたもの、『美しい声』が、ほ、欲しい――」
 恐らく、あの大鴉の姿も、少年が抱えた『声へのコンプレックス』の表れなのだろう――。
「ああ……貴方は実に、人間らしい――」
 ビルシャナを見ながらウィルマは口元を笑みに変える。
 すでに人としての形を失ったビルシャナに対して『実に人間らしい』というのも、また変な話ではあるが――。これは皮肉でもなんでもなく、ウィルマの率直な思いそのものである。

 さて、初めの曲はどれで行こっかな、と考えるのは小町。
 こんなにも陰鬱に沈んで、冷えきった舞台。
 なら、いっそのこと明るくいっちゃおう!

『水溜まり 蹴っ飛ばして♪ アソビゴコロで 踏み出そう!』

 陰鬱な空気を蹴散らすような、勢いのある小町の歌声が響き渡る。
 小町の持ち歌【アソビゴコロ Falling Rain】。突然の響き渡った歌声に、ビルシャナは動きを止める。
「……誰だい? 君達」
 ゆっくりとケルベロス達のほうへ振り返るビルシャナ。
「歌うにはいい夜ね。こんばんは?」
 一礼を返す小町。
「……へえ、君、良い声をしているんだね――」
 嫉妬と憎悪をかき混ぜた、紅い爛々とした視線が小町を捉える。
 ビルシャナの気が小町に向いた瞬間――。
「やっぱヒーローの登場って言ったら、これだろうよッ!」
 ガラスの砕け割れる音が響き渡る。
 体育館の上部の窓ガラスを突き破り、ド派手に登場したのはヴォイド。
「――なッ!?」
 頭上から現れた新手にビルシャナが身を強張らせる。
 引き連れたドローンの一体に掴まりながら、壇上へと滑空してゆくヴォイド。
 シュタッと着地も鮮やかに、そのまま速攻で女生徒を掻っ攫わんと動く。
 当然ビルシャナも、そうはさせるかと鉤爪を振るうが――。
「させません!」
 橘花の長銃から放たれた光弾が敵の右肩を撃ち抜く。
「ぐぅッ!」
 呻き声をあげるビルシャナ。
「任せたぜェ! ウィルマ!」
 ヒョイッと壇上から放り投げられた女生徒をウィルマは優しくキャッチ。
「こ、こちら、へ。大丈夫、大丈夫。……ね?」
 女生徒を最後方へと下げ、その両手をギュッと握って安心させるための笑顔を浮かべるウィルマ。
「この、度は、災難でし、たね。ええ、と彼、とはお知り合い、で?」
「し、知らない……。学年が同じってことしか……」
 いまだ怯えた様子であるが、なんとかウィルマの問いに答える女生徒。
「そ、そう、ですか」
 念の為、自身の分のレスキュードローンも万一の盾として女生徒に張り付けておくウィルマ。
 女生徒の救出に成功を確認して、ベルベットが一歩進み出る。
 できる限り敵を刺激しないようにと義骸を被り淑女モードに口調を整えて――。
「ここが人とビルシャナとの分水嶺。この壁を越えてきたら貴方は明確にワタシ達の敵です」
 ベルベットのThorny Path(イバラノミチ)で茨の壁が生み出され、境界線が形作られてゆく。
「貴方を救いたいと願う者の為、少し止まってくれませんこと?」
 真っ直ぐな視線で村井・奏を見つめるベルベット。
 だが――。
「……返せ……」
 ビルシャナは標的を奪われ、怒り狂う。
「……その声はぼくのものだ……」
 四足獣のように攻撃態勢をとるビルシャナ。
 ベルベットは複雑な表情を一瞬だけ浮かべて――。
「それが君の選択なら……。受けて立っちゃおう!」
 髪をかき上げる仕草と共に義骸を解除するベルベット。
 その髪が揺らめく炎となり、紅蓮の華が彼女の顔面自体を覆ってゆく。
「アタシ達が、相手だよ!」
 茨を突き破らんと突撃してくる敵に、ケルベロス達は身構えるのだった。

●3
 歪な短刀を並べたような鉤爪が横薙ぎに振るわれる。
「――ッ!」
 咄嗟に半歩退いてこれを避けるシャーリィン。
 薄闇の体育館に鮮やかな血が舞い散る。
 首筋に刻まれた三本の裂傷からじくじくと血が溢れてくる。
「ふふ、首狙いですか――」
 指先でその血を拭い、一舐めするシャーリィン。
 忌血が狂気を駆り立て、脳を蕩かす様な高揚感をシャーリィンに与えてゆく。
「貴方の嘆きが何処にも届かないのなら――。
 わたくしに聴かせてちょうだいな、いま……此処で」
 闇夜に煌めくゲシュタルトグレイブ『マグリヴ』の刃が三日月の軌跡をえがく。
「――うぐッ!?」
 胸元を斬り裂かれ、間合いを離すビルシャナ。
 同時に、ぐらりと膝が消失するかのような眩暈を覚えるビルシャナ。刃に塗られた毒が敵を蝕んでゆく。
「人の生命に関わらなければ、キミが理想の音を目指すのを止めたくないんだけどね!」
 翼を駆使した立体機動で、ギターを演奏しながら舞い踊る小町。
「でもキミは何を目指して音楽してるの?
 人の心に強く影響するビルシャナの力を借りて、人の声を奪って、誰かの心を震わせて。
 それがキミの音楽の力って証明できる?」
 歌声を乗せて、小町は問いかけてゆく。
「音楽の力を信じてるのに、それを信じられなくなるの嫌じゃない?」
 うぐっ、とビルシャナは言葉を詰まらせる。
「夢の形だって、きっと一つじゃないよ。
 だから、キミの音楽はあたしが貰う。キミが作ったの音楽の力を、あたしは信じる。
 復讐もそんな鳥の力も、必要ないって証明したいから!」
 歌手だけが音楽の道じゃない。作曲家として音楽に関わっていけることだって出来るはずだと小町。
「彼女の声帯を奪えば、同じ声が出せるとでも?」
 保護した女生徒を護るように立ちながら、バラフィールが光の翼を展開してゆく。
 奏でるは『寂寞の調べ』。清浄なるその歌声が傷ついた味方を癒してゆく。
「よしんば望む声を得たとしても、殺人者の歌など誰の心にも届きません。
 ……ましてやデウスエクスならば猶更です」
 押し黙るビルシャナに、バラフィールは続ける。
「貴方が歌うことよりも……。
 貴方が作った歌を聴いてもらうことが、
 大切なのではないですか?」
 その言葉にビルシャナはギリッと奥歯を噛む。
「自分の声でないと、駄目だ……!
 輝くような舞台の上で、僕自身が称賛を一身に受けてこそ、夢は叶う……!
 そのためには、奪ってでも美しい声帯を手に入れなくてはならないんだァ……!」
 狂気に酔うように敵は呟く。
「周りがどんなに評価し貴方を讃えても、貴方が自分を認められないのなら、同じこと――」
 シャーリィンには敵を改心させる為の言葉は思いつかない。
 狂気に身を沈めてゆく敵の姿は、どこかシャーリィン自身と似通っている。
「でも、きっと貴方はわたくしと一緒だから。
 ……絶対に手に入らないものだから、欲しいのよね」
 狂気の果てに待っているものは破滅なのかもしれない。でも――。
「ねえ、だからもっと聴かせて……?」
 互いの血が舞い散る接近戦。
 まるで傷付きあうことが、語らいあうことのように――。
 戦いの中で緩やかな微笑みを浮かべるシャーリィン。
 ウィルマはそんなビルシャナを興味深げに眺めながら、
「夢は己の贅肉を切り落してでも叶えるもの。贅肉を歪に切り繋いだところで、叶えることなどできません」
 吃ることなく淀みなく、ビルシャナに言い放つ。
「贅肉を切り落として、捨てて……。純粋に、夢の最初の形を叶える術を、探しましょう」
 ウィルマの言葉に村井・奏は頭を掻きむしるように蹲り「うぐぐ……」と唸る。
「……最初の夢――。僕の、夢……」
 人間だった頃の名残が言葉を紡ぐ。
 脳内に瞬く、憧れの光景。
「ううぅ、痛い……。頭が割れそうだ……」
 だが、その心をビルシャナが一瞬にして黒く徹底的に塗り潰してゆく。

●4
「まずは足、次は両腕です」
 手足を重点的に狙う形で、バスタービームとフロストレーザーを使用してゆく橘花。
 正確無比の射撃が敵を追い込んでゆく。
 序盤こそビルシャナの攻撃力に圧倒されかけたもの、防御を重視した布陣のケルベロス達が態勢を整え直すと、しだいに両者の間に差が生まれてゆく。
「う、ああぐああ! ……ッ! 殺じてやる! ぼぐの邪魔をじやがっでぇえええ!」
 劣勢へと追い込まれてゆくビルシャナが喉を掻きむしる。
 その血走った眼が捉えるのはこの事件に巻き込まれた女生徒の姿だ。
 ヒッ、と悲鳴を上げる女生徒だったが、恐怖のあまりに腰を抜かしているようで逃げることは叶わない。
「よっと」
 そのとき、場違いなほど明るい調子でヴォイドが女生徒を銃で狙い撃った。
「――ッ!?」
 パチュッと水っぽい音が響き渡り、鮮血が爆ぜる。
「……なッ!?」
 口を開けて唖然とするビルシャナと仲間達。
「目の前で欲しいものが壊れちゃうってどんな気持ち? Hey、教えてくれヨ、Mr・デスボイス。ナァ?」
 いや、まあネタバレすると、撃ったのはペイント弾であり、爆ぜたのはただの血糊なのだけど。
 思いっきり煽りまくるヴォイドに、わなわなと震えるビルシャナ。
「貴様……! よぐもォオオオオッッ!! ふざげやがっでぇえええッ!」
 叫ぶビルシャナ。
「俺様大真面目ジャン!? 今回はギャグも飛ばさずに裏方やってるのに!」
 ま~、隙が出来りゃOK、こっち向いてくれりゃ尚バンザイ。
「も~、やりすぎだよ。ヴォイドさん……」
 最初っからペイント弾だと気が付いていたベルベットが吐息を一つ。
「外道? 卑怯? HAHAHA、聞こえマセーン!
 目的の為なら『どんな手』だって使う! それこそが俺様のォォ――!」
 キメポーズへ至るため、力を溜めるヴォイド。
「「ジャスティス!」」
 一緒にポーズを決めるベルベット。思わず、つられてしまった。
「ハア……ハァ……殺す……殺してやるゥ……。
 才能あるやつの、声を奪って、ぼくが一番に、なる……んだ」
 荒い息を立てながら、自らの歌声で傷を癒してゆくビルシャナ。

 これが最後だと、ひなみくは感じ取る。
「例えば音楽を強さに置き換えたら……わたしにも気持ちは判る。
 弱くてどうしようもなくて、つらくて、そんなときにすごい強さを見てしまったら……。その強さを欲しくなってしまうと思う――」
 ひなみくは構える。
 それは彼女が幼い頃から何千何回としてきた武術の構え。
「でも、其れは結局人真似でしかなくて――。
 結局、自分に持っているもので勝負するしかないんだよ――」
 言いたい気持ちが、うまく言葉にならない。
 もどかしさを感じながらもひなみくは自分の言葉を続ける。
「わたしは、自分に才能があるだなんて思った事は無いよ。
 技を一つ習得するのにだって何度も転んで、何度も躓いた」
 おじいちゃんから教わった武技『白鴉黒烏掌・天』の構え。
「でも、それでも――」
 挫折したって立ち上がることが出来る。
 失敗したって、生きることを諦めずに前へと進んでいけば、きっと何かが見つかったはず――。
 それなのに――!
「ばっかやろぉおおお――!」
 光輪を纏うひなみくの拳!
 狙いを定めて放つ必殺の一撃がビルシャナを撃ち抜く!
「あ……がッ……」
 膝から崩れ落ちてゆく大鴉のビルシャナ。

●5
「終わりましたね」
 灰となり、ゆっくりと消滅してゆくビルシャナを見て橘花。
「周囲に理解者がいてくれれば、ビルシャナを召喚することなどなかったでしょうに……」
 バラフィールが苦い表情で呟く。
 この世の全ての人々を救うことは出来ない。
 医師となっても……いや、なったからこそ、痛感せざるを得ない事実である。
 どこか寂し気に、消滅してゆく灰を見送るバラフィールに、翼猫のカッツェが身を寄せてゆく。
「……キミの演奏は覚えておくよ」
 散ってゆく灰を見ながら、最後にそう呟く小町だった。

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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