ミッション破壊作戦～打ち砕け、鋼の悪意！

■リプレイ

●四国へ向かうへリオン
　ケルベロスたちを乗せたへリオンは、四国へと向かっていた。
　瀬戸内海に隠されていた工場型ダモクレス『マキナ・ギア・ファクトリア』で開発されていたダモクレスが送り込まれている場所は、瀬戸内海に面した徳島県小松島市だった。
「ダモクレスが巣食う地域もだいぶ減ってきたみたいですね。この調子ですべてのダモクレスを排除していきましょう」
　リンネ・リゼット（呪言の刃・e39529）が言った。
　青い髪のシャドウエルフは近づいてくる四国の地をながめた。
「真幸さん、ここは知ってる場所なの？」
　御手塚・秋子（夏白菊・e33779）はやはり眼下に見える風景をながめている夫へと問いかける。
「ああ。数週間いただけの場所だけどな。だが、地域の人たちにはずいぶんと世話になった」
　岡崎・真幸（花想鳥・e30330）が静かに答える。
「だから、ここも俺の故郷だ。そう決めた」
「それじゃ、必ず解放しなくちゃだね！」
　元気のいい秋子の言葉に、真幸は黙って頷く。
　やがてミッション地域の上空まで、へリオンは侵入していた。
「そろそろ攻撃の頃合いですね。ペルルもシルさんも、がんばりましょう」
　言葉でそう言いつつも、ティユ・キューブ（虹星・e21021）の声音は普段とそう変わらなかった。
　飄々とした調子の主に応えてボクスドラゴンのペルルが身を起こし、姿勢をただす。
「うん、がんばろう！　ティユさんが来てくれて、こんなに心強いことはないよ！」
　シル・ウィンディア（鳳翼の精霊姫・e00695）は自らの旅団のメンバーであり、友人でもある彼女へ微笑む。
　へリオンの乗降口が開き、高高度の強い風がケルベロスたちの髪や服を揺らす。
　羽織ったスーツをたなびかせ、副島・二郎（不屈の破片・e56537）は乗降口へ近づいていく。
　隠れていた腕が見え、そこにまとわりついている青黒い『なにか』が空気に流れる。
「量産試作機か……」
　遥か下方に見える地で、動き回るダモクレスたちを見て二郎は呟く。
　ミッション地域中枢部の上空で、ケルベロスたちは次々にへリオから飛び出していった。

●番犬たちの叫び
　冬の四国上空を、ケルベロスたちは次々に地上へと降下していく。
　輝く小剣が青空に６つの輝線を描く。
「量産試作機と、武力になり果てた俺と……いや、やめておこう」
　二郎は発しようとした言葉を、途中で飲み込んだ。
　遥か下方に見えるのはダモクレスたちの群れ。
「今の俺には、貴様らを倒し、この土地や人の暮らしを取り戻すという、意志がある」
　かつての彼ならば言わなかったであろう言葉を、二郎は発した。
　青黒い『混沌の水』で構成された腕を大きく振りかぶる。そこだけは生身の手でグラディウスを強く握る。
「それを証明してみせる。応えろグラディウス！」
　秘めていた想いを叩きつけると、まず一撃目の爆発が四国の空を揺るがした。
　次いで、青い髪と銀の髪を風になびかせ、シルとティユが続けざまに降下していく。
　ジェットパッカーデバイスはもちろん装着しており、望めば飛行することはできるが、今はまだ空を飛ぶ必要はない。
　ただ、一直線に魔空回廊を守るバリアへと突撃するのみだ。
　２人の青い瞳がバリアを見据える。
「ダモクレスとの決戦も近い……そのためにも、ここで躓いる場合じゃないっ！」
　力強い声を発して、先に降下していくシルがまず小剣を構えた。
「それに……この土地に住まう人たちの為に……ここは取り戻させてもらうよっ！　グラディウス、力を解き放てっ！！」
　２度目の爆風によって、蒼風のマントが大きく舞う。
　そこに、ティユの色黒の体が飛び込んでいく。
「いよいよダモクレスとの決戦間近。レプリカントとしてはやはり思う所もあり、この戦いを制して弾みと備えをつけておきたいね」
　静かな声とともにグラディウスを構える。
「なにより本来の目的は勿論、これ以上地上を荒らさせない為――これで終わりにするよ！」
　叫びとともに３度目の爆発がバリアを揺らした。
　大きな爆発が小松原市の上空を覆っていく。
　とはいえ、爆炎がバリアを隠しても、攻撃を外すようなサイズではない。
　少し前まで見えていたバリアの場所を、赤い瞳で見据えたまま、４人目のリンネが魔空回廊へと降下していく。
「魂を喰らう為に作られたとは、人々を脅威に晒す様な機体は許す訳にはいきません」
　ただ冷静に狙うべき場所へと向かっていく彼女もまた、心のうちにある想いを輝く小剣へと込める。
「この土地に住む人々が平穏に暮らせる為に、必ずこの地は取り戻して見せますよ！」
　４度目の爆発。
　地上を徘徊するダモクレスたちは、ケルベロスたちの攻撃になにも反応することができないでいる。
　秋子は爆煙に隠れた土地をながめて、思いを馳せる。
「ここに住んでたり思い入れのある人達はどんなに辛かっただろ。どうにも出来なくてただ逃げるしかない、逃げられなかった人達はどんなに悔しかっただろ」
　ミッション地域破壊の難易度が上がってきて、なかなか解放されなかった地域がある。何年も放置されてしまった土地。
　きっとこの土地でも、たくさんの人がそんな思いをしているはずだ。絶対に開放するという決意を、明子は心に板いていた。
　目を閉じ――。
「回廊が見つかってから随分時間が経って、その間にどんなにか絶望を味わったのかな。もうそんな思いさせない」
　そして開く。
　視界の端に夫の姿が入った。
「真幸さん、トドメはよろしくね！」
　破壊できる保証はなかったが、それでも秋子はそう言った。
「チャンスは無駄にしないぞ。この一回で終わりにするんだ！」
　こめた決意が５度目の爆発となって広がっていく。
　妻へと頷き返しながら、真幸は過去を思い出していた。
「同級生におやつだと竹ちくわをよこされた。残った竹でホイッスルを作ろうとして笑われた。世話になっていた大家に金長饅頭をやたら食わされた。そう安いものでもないだろうに」
　時間にしてしまえばたったの数週間。
　それでも、過ごした期間では推し測れない、心に残っているものが、確かにある。
「狸にまつわる民話を聞くのは楽しかった。方言は特徴的で忘れ難い」
　黒煙に閉ざされた視界の中、目に映るのは思い出だけだ。
　当時はわからなかったけれど、今ならわかる。きっと、あの時自分は……周りの人たちに、ずいぶんと可愛がってもらっていたのだ。
「ここで多くのものを与えられた。それは未だ返せていない。だからせめて、あいつらが生きて来た風土を返したい」
　グラディウスに力を込めて、叩きつける。
「これ以上壊すことは許さねえ」
　炎と雷が飛び散る。
　その中で、ケルベロスたちは体にわずかな衝撃を感じた。
　同時に、声のようにも思える音が耳に響く。
　きっと幻聴だろう。
　おそらくは衝撃が感じさせた意味のない音だ。
　だが、ケルベロスたちにはそれが、解放された魂の歓喜の叫びに聞こえた。
　着地したケルベロスたちは、爆煙の中にもうバリアが……強襲型魔空回廊が存在していないことを、はっきりと感じ取っていた。

●魂を喰らう機械
　バラバラな場所に着地したケルベロスたちは、まず１ヶ所に集まった。
「やったね！　この調子で、ダモクレスとの決着もつけなくっちゃ！」
「そうだね。いい弾みになったよ」
　シルやティユがそう言葉をかけあう。
「よかったね、真幸さん」
「ああ……秋子が来てくれたおかげかもな。助かった」
　秋子の元気な笑顔を見返し、真幸はそう応じた。
「ひとまずの目標は達成ですかね、すぐに撤退しましょう」
　リンネに声をかけられて、煙の中で仲間たちが頷く。
　二郎は中枢部があったほうへ鋭い視線を向けながら、しっかりとグラディウスをベルトに固定した。
「……煙が晴れる前に撤退しなくてはな」
　退路の方へと視線を動かし、彼は呟いた。
　他の者たちも、同じくそれぞれにグラディウスを失くさないように工夫をしている。
　立ち込める爆炎の中、ケルベロスたちは足早に移動し始める。
「敵が１体こちらに来ます」
　ゴッドサイト・デバイスで警戒していたリンネが警告し、煙の向こうに鈍く光る瞳が見えたのは、それほど時間がたたないうちのことだった。
　SRDCソウルスナッチャー――機械の体に、獣の牙を生やしたダモクレスが、行く手を阻んだのだ。
　ケルベロスたちの姿を捉えたと同時、ダモクレスはビーム砲の砲口を向けてくる。
「いかにも戦闘用、って感じだね。元のコンセプトと合わなくても作られただけある。だがその役目もここで終わらせるよ！」
　ティユが気合を入れる。
　その隣で、シルは左手薬指の指輪をしっかりと握る。
（「離れていても、いつでも一緒だよ……」）
　恋人は今どうしているだろう。聖夜に交わした言葉を胸に、シルは武器を構える。
「さぁ、行きますよ氷雪。サポートは任せましたからね」
　リンネがサーヴァントであるウイングキャットへと呼びかけると、仲間たちを守って氷雪は前進していく。
　接近するダモクレスの前で、ケルベロスたちの体が浮き上がっていく。
　シルが起動したジェットパッカー・デバイスによるものだ。
　地上に残っているのはペルルと氷雪、それに真幸とそのサーヴァントであるボクスドラゴンのチビだけだった。
　魔空回廊が破壊されたことをダモクレスがどう感じているかはわからない。ただ、敵は凶悪そうな口を開き、地上に残った真幸へと喰らいついてきた。
「真幸さん！」
「安心しろ。大したことないから」
　敵を無理やり引きはがすと、真幸の体から血が吹き出す。
（「俺が頼んで来てもらったんだから、秋子にはケガをさせないようにしないとな」）
　そう決意を固めて、真幸はダモクレスの前に立ちはだかる。
「流星の煌めき、受けてみてっ！」
　空から青い髪の女性がダモクレスへと舞い降りる。白銀の軌跡を残しながら、重力をまとったシルの飛び蹴りがソウルスナッチャーを捉えてその動きを止める。
「竜の砲弾もね」
　シルが敵を蹴って離脱したところに、ティユがドラゴニックハンマーを変化させて竜砲弾を撃ち込んだ。
　真幸はひるんだ敵をまっすぐに見据えていた。
　この土地は故郷。だから、住む人々は真幸にとって家族で、自分のものだ。
　それを奪い、傷つけた敵が目の前にいる。
「――返せ！」
　叫びとともに体と魂の傷が癒えていく。
　敵が再度の攻撃態勢を整える前に、２人や真幸の周囲に紙兵の群れが展開する。無言のまま、二郎が仲間を援護するために散布したものだ。
「この飛び蹴りを、見切れますか？」
　リンネの飛び蹴りがさらに敵の動きを止める。
「Hey、 Freeze ！」
　秋子が生み出した無数の赤い刺突剣が、ダモクレスを貫き、威嚇してさらに動きを止めようとする。
　ゆっくりと戦っている時間はない。ケルベロスたちはソウルスナッチャーの足を止めると、強力な攻撃を叩きこんでいく。

●ダモクレスを打ち砕け
　この地を守る敵の中でも、中枢部にいる敵は精鋭だという。その情報の通り、現れたソウルスナッチャーを撃破するのは簡単なことではなかった。
　モード『イミテイトフェンリル』を発動して敵は確実に攻撃を命中させてくる。
　もっとも、ジェットパッカー・デバイスのおかげで、もっとも警戒すべき近接攻撃はディフェンダーである真幸とサーヴァントだけがすべて引き受けてくれている。
　真幸たちが守っている間に、敵の動きは十分に鈍らせることができていた。
「そろそろ削りに行くとしようか」
　星の輝きを自らにまといながら、ティユが言った。
「ここからはダメージレースっ！　一気に行かせてもらうからねっ！！」
　シルもティユの言葉にうなづいて、一歩早く強烈な攻撃を叩きこむ。
「さあ――貫こう」
　輝きの中で彼女の姿が光り輝く槍へと変化していく。シルの攻撃に続いて飛翔する槍が逃れようとする敵を槍は確実に追いかけて、そして過たず貫いた。
　他の仲間たちも激しい攻撃を繰り出していく。
　攻撃を浴びながらもダモクレスは腰に装着した２連装のビーム砲でケルベロスたちを薙ぎ払う。放たれたビームの輝きから仲間を守って、真幸は反撃に移った。
　惨殺ナイフのミサキを素早く幾度も振るい、血のように赤いオイルを浴びて自らの傷をふさいでいく。
「黒の弾丸よ、敵を侵食し、その身を汚しなさい！」
　リンネが機械すら侵食する猛毒の弾丸を後方から確実に撃ち込んで、敵が受けるダメージをさらに増していく。
　ダモクレスを削り取るのは毒だけではない。
「来たれ神性。全て氷で閉ざせ」
　回復の隙を縫って、真幸が異世の神を爆煙の中に顕現させる。
　神がゆっくりと拳を振り下ろすと、周囲に煙よりもはるかに白い凍気が舞う。
　凍りつき、毒が侵食する敵へ、中衛から秋子が素早く降下して接近する。
　手にしているのはエクスカリバールだ。釘のついたバールによるフルスイングがソウルスナッチャーの体を深くえぐり取り、より深部まで氷と毒を浸透させる。
　白と黒の粒子をまき散らしながら再びダモクレスは真幸へと接近した。
　苦し紛れの攻撃が、深々と彼の体をえぐり取る。敵もまた生き延びようと必死なのだろう。その攻撃は痛烈に真幸を傷つける。
　もし倒れていたならば、魂と体の傷でもう立ち上がれなかったかもしれない――だが、守りを固めていた真幸を戦闘不能にするには至らなかった。
「――命を支える、力となれ」
　魂までも捕らえられた真幸へと二郎が青黒い混沌の水を放つ。
　見た目は禍々しいが、その流れは傷ついた命と響きあう暖かなものだった。
　混沌の水はなおも戦う力を彼に与える。
　ダモクレスも回復のグラビティを持っていたが、単体である敵に十分に回復する時間はない。今や瀕死となった敵へ、上空からシルが見下ろす。
「さぁ、わたしの全力魔法、遠慮なくもってけっ！」
　気合を入れなおし、彼女は詠唱を開始した。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……。六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ！」
　増幅魔法の『六芒増幅（ヘキサドライブ）』を発動させると、精霊の力が爆煙の中で彼女の前に収束していく。
　もっとも強力な分命中精度と射程は落ちる。
　輝きを手にシルはソウルスナッチャーへと接近する。ダモクレスは逃れようとしたが、動きの鈍った敵をジェットパッカー・デバイスも発動させてシルは追った。
　強烈な精霊の輝きがまず一閃する。
　シルの背に魔力翼が開き、さらにもう一度精霊砲で追撃を加える。
　輝きの中に、ダモクレスの姿が消えていった――。
　ゆっくりと勝利の余韻に浸る間もなく、ケルベロスたちはミッション地域をそのまま一気に離脱していった。
　爆煙がやがて晴れ、真幸にとっては見覚えがある小松島市の風景が再び見えてくる。
　住民が戻ることを願いながら、ケルベロスたちは帰還していった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2021年2月19日 難度：普通 参加：6人 結果：成功！
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