思い出が忌まわしき記憶となって

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 そのビデオカメラに収められていたのは、楽しそうに笑う家族の映像だった。
 だが、時の流れとは、残酷。
 時代の流れと共に、それは忌まわしい映像となり、ビデオカメラは処分された。
 ビデオカメラには、何が起こったのか分からないが、最後に見た持ち主の顔は暗く沈んでいた。
 その意味が分からぬまま、ゴミの山に埋もれ、時間だけが無情に過ぎていった。
 それから、しばらくして……。
 その場所に蜘蛛型ダモクレスが姿を現した。
 蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながら、ビテオカメラに機械的なヒールを掛けた。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したビテオカメラが、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 ここに捨てられていたビテオカメラが、ダモクレスと化したようである。
「ダモクレスと化したのは、ビテオカメラです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、ケルベロス達を敵として認識しているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
伊上・流(虚構・e03819)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「まさか私の予想していたダモクレスが本当に出て来るとは驚きましたね。まぁ、被害が出る前に対処出来るなら、全力で行くまでですけど……」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)は事前に配られた資料を確認した後、仲間達と共にダモクレスが確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 ゴミ捨て場には沢山の家電が山積みにされており、異様なニオイが漂っていた。
 おそらく、ビデオカメラがあるのは、ゴミの中。
 残念ながら目視では確認する事が出来ないかったものの、この場所にあるのは間違いなかった。
「それにしても、廃棄された機械とかがダモクレス化する事件も、まだ終わらないんだね。暴れまわられると面倒だし、しっかりと壊しておくだけではあるんだけど……」
 アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)が複雑な気持ちになりつつ、気持ちを切り替えた。
 それだけ沢山の残留思念が辺りに漂っているのかも知れないが、そろそろ決着をつけたいところである。
「まぁ、思い出と言うものは必ずしも良いとは言えぬからねぇ……。持ち主が物にも魂宿る付喪神の存在を知っていれば最後迄大事にされてた未来もあるかも知れぬが……。それは、たらればの話だな」
 伊上・流(虚構・e03819)がゴミ捨て場を眺め、深い溜息を漏らした。
 だが、事前に配られた資料を見る限り、ビデオカメラは忌まわしき存在。
 それ故に、遅かれ早かれ、捨てられている可能性が高かった。
「でも、ビデオカメラは本来であれば、楽しい思い出を残しておくものよ。間違っても悲しみを記録する道具なんかじゃないわ」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が悲しそうな表情を浮かべ、自分なりの考えを述べた。
 本来であれば、楽しい思い出になるはずだった映像が、忌まわしい記憶となって持ち主を苦しめた理由は分からないものの、資料を見る限りビデオカメラの所有者は、ひとりで別の場所に住んでいるため、ある程度の事は想像する事が出来た。
「それでも、問題のビデオカメラに収められていたのは、いい思い出では無いのでしょうか? それが忌まわしい記憶になってしまった理由は分かりませんが……」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)がビデオカメラの所有者の気持ちを考え、気まずい様子で汗を流した。
 理由は分からないが、ある程度の察しはつく。
 それが正解ではないにしろ、間違いとも言えなかった。
「……確かに、そうね。ビデオカメラに映されていたのは笑顔の筈だったのに、どうしてダモクレスになってしまうのか、分からないことだらけね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)も同じ気持ちになったのか、ゴミ捨て場を眺めてボソリと呟いた。
 その理由を、ある程度は想像する事が出来ても、それが答えであると断言する事は出来ない。
 そんな憶測だけで答えを導き出すのは、色々な意味で危険に思えた。
「まあ、理由が何であれ、相手は人々に害をなすデウスエクス、人的被害が出る前に倒すだ!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が自分自身に気合を入れ、キッパリと断言した。
 ダモクレスと化したビデオカメラに、どんな悲しい過去があったとしても、戦って倒す、ただそれだけである。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したビデオカメラが、耳障りな機械音を響かせながら、まわりにあったゴミを弾き飛ばし、ケルベロス達の前に降り立った。
 その姿はビデオカメラを人型にしたようなデザインのロボットで、常に何かを撮影しているようだった。
「ようやく現れたか。……待っていたぞ」
 すぐさま、ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)が服を脱ぎ捨て、ダモクレスの前で裸になった。
「ビ、ビ、ビ……ビデオカメラ」
 その途端、ダモクレスが動揺して様子で、身体を仰け反らせた。
 おそらく、動揺しているのだろう。
 そこには迷いや、恐怖も入り混じっており、どうしていいのか分からず、対応に困っているようだった。
 それでも、ミスラは怯む事なく、敢えてビデオ撮影を誘うようなポージングでセクシーアピールをすると、その場で着衣プレイ用のTバックハイレグレオタード姿になるのであった。

●ダモクレス
 それはダモクレスにとって、予想外の出来事だった。
 おそらく、ダモクレスが、まだビデオカメラだった頃、家族映像ばかり撮っていなければ、ノリノリで撮影を始めたかも知れない。
 しかし、この展開は想定の範囲外。
 故に、まるで背後から鈍器で殴られたような衝撃を受けつつ、ダモクレスがフリーズしていた。
 もちろん、このまま何もしなければ、待っているのは、破壊されるだけの未来。
 そんな未来を望んでいた訳では無い。
 その気持ちが原動力となって、ダモクレスがビームを放った。
 そのビームはビデオカメラの所有者が、家族と一緒に公園で遊んでいた時の映像と共に放たれた。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい!」
 即座にリサがエナジープロテクションを発動させ、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
 だが、ビームと共に放たれた映像は消滅する事なく、リサの身体を通り抜け、楽しい気持ちと悲しい気持ちが入り混じったような気持ちだけが心に残った。
「……取り敢えず、日常に害為す異端なる存在を狩るとしますか」
 その間に流が三角飛びの要領でブロック塀を蹴りつけ、ダモクレスの死角に回り込むと、雷刃突でルーンアックスに雷の霊力を帯びさせ、神速の突きを繰り出した。
 それと同時に、ダモクレスのパーツが弾け飛び、真っ黒なオイルが噴き出した。
「さぁ、行きますよ、ネオン。共に頑張りましょう!」
 一方、玲奈はボクスドラゴンのネオンに声を掛け、ダモクレスの注意を引きつつ、間合いを取った。
 それに合わせて、ネオンが属性インストールを発動させ、自らの属性を玲奈に注入した。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが再びビームを放つため、エネルギーをチャージし始めた。
「また、家族が幸せだった頃の映像と一緒に、ビームを放つ気かい? そんな事をして、何の意味があるのか分からないけど、やめておいた方がいいんじゃないのかな? それって、自分の手で幸せだった頃の記憶を穢すのと同じだよ?」
 アリアがダモクレスに語り掛けながら、ペトリフィケイションで古代語の詠唱と共に魔法の光線を放ち、ビームの発射口を石化させた。
 そのため、放つはずだったエネルギーが暴発し、爆発音と共に真っ黒な煙が上がっていった。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それでも、ダモクレスは諦めておらず、何かを撮影しながら、狂ったように拳を振り回した。
 その気持ちに応えるようにして、ミスラがダモクレスの前で、艶めかしく腰を振り、まるでダンスを踊るようにして、攻撃を避けた。
「ビ、ビ、ビィィィィィィィィィィィィィ!」
 それがダモクレスの怒りに火をつけたものの、どんなに頑張っても拳が当たるどころか、かすりもしなかった。
「残念だが、怒りに満ちた感情で、私を傷つける事は不可能だ」
 その間に、ミスラが憐れみの賛歌(キリエ・エレイソン)を歌い、救われぬ者達へと向けた祈りの言葉を紡ぎ、祝福を込めた力の加護を与えた。
 それに合わせて、流が立体的な高速移動で距離を縮め、ダモクレスを牽制しながら、スカルブレイカーを仕掛けて高々と跳び上がり、勢いをつけてルーンアックスを振り下ろした。
「ビ、ビ、ビデオカメラ……」
 その一撃を喰らったダモクレスが、フラつきながら後ずさった。
「……逃がすか!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、泰地が轟竜砲でハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾を解き放った。
 続いて、玲奈がボルトストライクを仕掛け、自らの拳でダモクレスを殴りつけ、氷属性の爆発で左アームを吹っ飛ばした。
「……左だけではバランスが悪すぎますね。いっそ、もう片方も破壊してしまいましょうか!」
 紅葉が逃げ道を塞ぐようにして間合いを取りながら、達人の一撃を繰り出し、卓越した技術の一撃で右アームを氷漬けにした。
「ビ、ビ、ビ……」
 その影響でダモクレスは右アームを振り下ろす事が出来ず、ギチギチと機械音を響かせた。
「……これで壊しやすくなったわね」
 その間に、悠姫がスカルブレイカーを仕掛け、勢いよく飛び上がると、ルーンアックスを振り下ろして、ダモクレスの右アームを木っ端微塵に破壊した。
「ビビビビビビビビビィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ビデオカメラ型のミサイルを発射した。
 ビデオカメラ型のミサイルは、ありとあらゆるアングルからケルベロス達を撮影し、アスファルトの地面に落下して、次々と爆発していった。
 その拍子に大量の破片が飛び散り、それが鋭い刃となって、ケルベロス達の身体を切り裂いた。
「みんな、大丈夫? ……怪我はない?」
 すぐさま、リサが仲間達に駆け寄り、鎮めの風を発動させた。
 それと同時に竜の翼から心の乱れを鎮める風を放たれ、仲間達が落ち着いた様子で溜息を漏らした。
「ああ、この程度なら、かすり傷だ。それより仲間達の手当てを頼む。その間、俺がコイツを食い止める!」
 そんな中、泰地が躊躇う事なくダモクレスに突っ込み、螺旋足止弾(ラセンアシドメダン)を仕掛け、竜鱗硬手甲(ドラゴニックハンマー)から螺旋弾を放った。
「ビ、ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、フラつくようにして膝をついた。
「それじゃ、終わりにしようか。このままだと、楽しかった思い出も、幸せだった思い出も、全部真黒く染まっちゃうからね」
 アリアが猟犬縛鎖で精神操作をすると、鎖を伸ばしてダモクレスを締め上げた。
「このまま動きを封じ込めてあげるわ! これで石化しなさい!」
 それに合わせて、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、ダモクレスめがけて魔導石化弾を発射した。
「ビデオカメラァァァァァァァァァァァァァァ!」
 だが、ダモクレスは全く怯んでおらず、締め上げられ石化しつつも、再びミサイルを放とうとして、耳障りな機械音を響かせた。
「随分としぶといですね。……でしたら、この呪詛で、その身を汚染してあげます!」
 即座に、玲奈が凶太刀でダモクレスの身体を貫き、刃から伝わる呪詛で魂を汚染した。
「ビ、ビ、ビデオカメラァァァァァァァァァァァァ!」
 それがダモクレスの中で恐怖となって広がっていき、不安な気持ちとなって肉体を蝕んだ。
 その影響でダモクレスは、ミサイルを撃つ事が出来なくなった。
「それでは、これで大人しくしてもらいましょうか」
 次の瞬間、紅葉が尋常ならざる美貌の放つ呪いで、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「……斬り断つ!」
 それと同時に、流が零式大蛇祓【燦然世界】(ゼロシキオロチバライ・サンゼンセカイ)を発動させ、白い数式や数字の羅列が輝き飛び交う中、幾千もの閃きを神速で放ち、ダモクレスの身体を瞬時に切り裂いた。
 その拍子にビデオカメラが飛び出し、アスファルトの地面に落下した。
 それ以外のモノは塵と化し、風に吹かれて、何処かにキレた。
「……終わったか。ふう、被害が出る前に討伐できて良かったぜ……!」
 泰地がホッとした様子で、顔についたオイルを拭った。
 一方、流はダモクレスだったビデオカメラを見下ろし、ひとり黙祷を捧げた。
「今まで辛く苦しかった事だろう。だが、それも今日で御終いだ。私が忌まわしき過去の呪縛から解放してやろう」
 そう言ってミスラが足元に落下したビデオカメラを起動させ、卑猥なポーズを披露しつつ、自らの痴態を録画するのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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