攻性惑星撃墜作戦~見上げた先の、故郷の星は

作者:河流まお


 作戦室に集まったケルベロス達の顔を見渡して、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が静かに口を開く。
「城ヶ島の決戦時に、未確認の魔空回廊の探索に向かっていたケルベロス達から通信がありました。
 彼らの報告により、魔空回廊の出口が『島根県隠岐島』にあることが判明し、その場所で攻性植物の一大拠点が発見されました」
 幾人かの暴走者も出たとの報告が告げられ、その任務がいかに過酷なものであったかが想像できる。
「ですが、この危険な任務をやり遂げた彼らの活躍がなければ、事態は大変なことになっていたかもしません……」
 剣呑な表情のまま、セリカはモニターのスイッチをピコッと押す。
 そこに映し出されたのは――。
「なッ……こ、これは――」
 思わず唖然とした声が漏れる。
 大画面を埋め尽くさんばかりに表示されたのは、大地を引き剥がすようにしながら浮かび上がってゆく巨大な球体の姿だ。
 まるごと攻性植物で構成された『それ』は、例えるならばまるで――。
「探索班が攻性植物拠点の位置を暴いたのと同じタイミングで、攻性植物達が『竜業合体ドラゴンの到来』を察知したのです。
 攻性植物達はドラゴンを救う為、惑星型に変形させた拠点『攻性惑星』によって、『隠岐島』から成層圏まで上昇。
 竜十字島の上空で到来するドラゴン達を回収しようとしているようです」
 『それ』を惑星と例えたセリカ。その威容を目の当たりにすると、誇張と笑うことも出来ない。
「攻性植物はドラゴン達を救助した後、そのまま『攻性惑星』で空域を脱出し、ドラゴン達の回復を行い、戦力を飛躍的に増大させようとしているようです。
 もし、そうなれば――」
 一切のグラビティチェインの疲弊の無い、万全な状態の竜業合体ドラゴン――。
 そいつがどのような災厄を人類にもたらすかは、まぁ想像に容易いことだろう。


「つまり、敵の補給作戦を阻止するのが役目ってわけね」
 ケルベロスの一人の言葉にセリカは頷く。
「はい。この情報をいち早く入手できた事で、ギリギリですが……移動中の攻性植物拠点へのヘリオンによる強襲が可能になりました。
 ニーズヘッグが全滅した今、攻性植物の合流を阻止出来れば、竜業合体ドラゴンは、グラビティ・チェインの枯渇によって壊滅状態となるでしょう」
 セリカが説明する作戦の概要はこうだ。

 まず、攻性植物拠点が変形した『攻性惑星』だが、ヘリオンで接近し、多数のケルベロスによる遠距離攻撃を集中させる事で撃破は可能である。
 しかし、攻性植物側もそれが判っているのか、『攻性惑星』の表面は対空能力に特化した攻性植物『ウイングスナッチャー』で埋め尽くされており、ヘリオンの接近を絶対に許すことはないだろう。
 だが、この防空網にも隙はある。
 防空網を制御しているのは、聖王女の側近である8体の有力な攻性植物であり、彼女たちは、『攻性惑星』表面でウイングスナッチャーの制御に当たっている。
「つまり、その8体をピンポイントで撃破する事が出来れば、防空網を一定時間無力化する事が出来るのです」
「……その隙に攻性惑星を一斉攻撃、か」
 ウイングスナッチャーの防空網は、ヘリオン以上の大きさのものは完全に撃墜することができるが、人間サイズの小ささであれば、弾幕を回避して『攻性惑星』に突入する事も不可能ではない。
 今回の戦いの舞台は、成層圏。
 作戦に従事するケルベロス達は、ヘリオンで『攻性惑星』の移動ルートの上方に先回りし、タイミングを計って降下を開始する。
 そのまま『攻性惑星』表面に降り立ち、ウイングスナッチャーの群れを突破して、敵指揮官の撃破を目指すことになる。


 やや長くなってしまった説明を巻くようにセリカは語りの速度を上げてゆく。
「戦場は日本の遥か上空となります。
 まずは『攻性惑星』への落下突入時に、極限まで集中力を高めて、敵の対空攻撃を回避し続けてください。
 惑星の表面に蠢く無数のウイングスナッチャーは『口から粘液の塊のようなものを射出して』きます。
 この粘液には『捕縛、足止め、服破り』の効果がある為、回避に失敗するほどに、着地後の状況が悪化してしまいます。
 『攻性惑星』の表面に辿り着いた後は、『攻性惑星』自体が発する重力によって地上と同様に行動できます。
 『攻性惑星』を撃破するまでは、惑星の下側に回っても落下するようなことはありません」
 頭上を見上げたら、そこには地球が見えるかもしれませんね、とセリカ。
 ある意味で幻想的な光景だろうが、作戦の性質上ノンビリ鑑賞している暇などは無いだろう。
「着地したら全力でウイングスナッチャーの森を駆け抜け――。
 敵の指揮官……『赤池 椿』を撃破してください」
 続けてセリカがモニターに映し出したのは攻性植物と同化した赤髪の魔草少女。
 この班が担当することになる敵だ。

 赤池・椿は攻性魔草少女である。
 烈火のような激しい気性と裏腹に、仲間の魔草少女達に対してはまるで家族のような感情を抱いている。
「……その感情は彼女が人間だった頃の残滓のようなものであり、既に彼女の肉体は完全に攻性植物と同化しています」
 そして、ケルベロス達は先の戦いにおいて、彼女の仲間である二人の魔草少女を撃破している。
「ゆえに説得は不可能です。少女の外見に惑わされず。撃破を再優先としてください」
 パタンと手元の資料を閉じながら、努めて感情を殺すように言い切るセリカ。
 その表情から察するに、その資料には少女が『人間だった頃』のプロフィールが挟まれていたようだが――。
 まぁそれは、どうしようもなく終わった『過去』の話であり、人類の『未来』を天秤にかけるようなこの戦いの前には、すでに関係のない話である。
「調査班の方々の成果を無にしない為にも、この作戦はなんとしても成功させなくてはいけません――。
 皆さんの力を、どうかお貸しください」
 そう説明を結び、セリカはケルベロス達に深く一礼をするのだった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)

■リプレイ


 作戦開始時刻。
 迫り来る攻性惑星を前にヘリオンのハッチがゆっくりと開かれてゆく。
「はぁ……ずい、ぶんと壮大な眺め、ですね……」
 まるで大地を引剥がしてきたような巨大な塊を見下ろしながら、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)が吐息を漏らす。
「まるで緑の月のようですね――」
 と、ハッチから顔を覗かせたのは帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)。
 目を凝らして見れば、敵惑星の表面にはびっしりと蠢く茎が張り巡らされているのが確認できる。
「あれが全て、敵の対空砲台ですか」
「そ、その、ようです、ね……まあこれから、これに突っ込む、わけ、です、が」
 全く、命が幾つあっても足りない仕事に就いてしまったものだ、と翔とウィルマは苦笑しあう。
「とはいえ――」
 ここに集まったのは既に幾多もの死線を越えてきたケルベロスの精鋭達である。いかに危険であろうとも、ここで臆して足を止める者は居ない。
 己を奮い立たせるように意気込む翔。
「先の方々が危険を冒してまで手に入れた機会、絶対に逃がしません!」
 その言葉に仲間達が頷きを返す。
「よーし、俺達で絶対に作戦を成功させてやろうぜ~っ!」
「とつにゅう、かいし」
 両の拳を胸の前で打ちつけて気合をいれる尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。
 その背中には「はぐれないように」と伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)がしがみついている。
 助走をつけて、勢いよくヘリオンから飛び出してゆく二人。
 成層圏でその身を躍らせると、髪が青い星の光を反射して燐光のように輝く。
「いっくぜーっ!」
 デバイスをドリル型に変形させてゆく広喜。
 螺旋の先端を地上に向ける形での一点突破形態だ。
 続くようにして次々と降下を開始してゆくケルベロス達。
 そして、それを盛大に出迎えるのは敵が放つ弾幕の嵐。ウイングスナッチャーが飛ばす粘膜弾だ。
「みんな、振り落とされないでね……」
 ちょっと無茶するよ、と霧崎・天音(星の導きを・e18738)。
 こと今回の作戦において牽引役を担う天音の役割は大きい。
 敵の照準を定めにくくするために黒衣を纏い、同時に隠密気流も発動させるなど最大限の策を講じているものの、とにかく敵砲台の数が尋常ではない。
 一発一発の命中率は高くは無いものの、100発、200発と撃ち込まれればどうしても避けきれない弾が出てくる。
 これに対して、天音が判断したのは、とにかく最短の最速で、この弾幕をぬけるということだった。
「ウィング・フィラデルフィア、展開……」
 攻撃こそ最大の防御とはよく言うが、今回は到達こそが最大の防御。結果としてそれが一番の被弾軽減になるはずだ。
「一気に翔け抜けるよ……!」
 天音の翼が激しくスパークし、突き上げるような急加速がケルベロス達に加わってゆく。


 粘膜弾がシールドに触れてジュゥウッと音を立てる。
「――っ」
 跳ねた溶解液がケルベロス達の身体に次々と火傷を刻み込んでゆく。
「響け、孤独なる永久姫の詩」
 仲間達を癒すため、白と黒の四枚翼を広げたのは新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)。
 紡ぎ歌い上げるのは、過酷な運命に抗うとある不死の姫君の歌。
『死ぬことのなき亡国の姫、出会う者に祝福を謡う――』
 決して諦めないその不屈の響きが、仲間達の傷を癒してゆく。
「……ミオリさんたちが切り拓いた道、無駄にしません」
 先の作戦で行方不明となった同居人のことを思いながら瑠璃音。
「私も――。絶対に諦めません。
 この作戦を成功させて、あなたともう一度再会するために――」
 ミオリの笑顔を脳裏に思い浮かべながら、瑠璃音は歌い続ける。
『――やがては別れになると知っていても』
 そう、やがては――。
 どんな出会いでも、いつかは別れの時が来るのだろう。
 だけど――。
「それは『今』じゃありません」
 その瞳に決意を宿して、この歌声がミオリにも届くようにと、瑠璃音は全天にその歌声を響かせてゆく。

 時が長く感じられる。
 いつ止むとも知れぬ敵弾の雨の中、相棒の翼猫『カッツェ』を胸に抱くのはバラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)だ。
 光の翼を展開し回避に専念しているものの、降り注ぐのは数百を超える粘膜弾の嵐。
 避けた先にも弾がある。
「くっ」
 一瞬で回避不能と判断したバラフィールはデバイスを本稼働させる。
 追従していたドローンから顕現したのは巨大な女性ヴァルキュリア姿。
 陽炎を纏いし戦乙女が、その腕に包み込むようにしてバラフィールとカッツェを守護してゆく。
「カッツェ、皆で無事に帰れるよう頑張りましょう、ね」
 僅かに不安そうに震えるカッツェにバラフィールは大丈夫と微笑むのだった。
 その身を屈めて、意識を研ぎ澄ましてゆくのは翔。
 ワイルド化した瞳から混沌が噴き出す。飛来した粘膜弾を紙一重で回避し、避けきれないものはグレーターウォールで防いでゆく。
「あと少しダ! 耐エ凌げッ!」
 ビハインドのキリノと共に、まるで永遠のような連続回避をやりきった君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は仲間達を鼓舞するために叫ぶ。
 そして、一丸となりながらケルベロス達は攻性惑星へと突入してゆく。


 鬱蒼と茂るウイングスナッチャーの森に着陸したケルベロス達。
「さて、ここからが本番ですね」
 瑠璃音の言葉に皆が頷く。
「んう、てきのこうげき、やんだ」
 周囲を観察していた勇名が報告する。
 たしかに、着地後も敵砲台の攻撃は続くかもしれないと思っていたが――。
 いざ攻性惑星に降り立つと何故かそれはピタリと止んでいた。
「あくまで対空砲で対地能力が無いのかな……?」
「あるイは、攻撃目標を地表へ切リ替えるノに時間が掛かルの……だろウか?」
 推察を口にする天音と眸。
 判断はつかないが、こちらにとっては好都合といえる。
「なんにせよ、今のうちだね……。急ごう」
「おう! 椿んとこへ一直線だぜ!」
「ごーごー」
 再び仲間達を牽引しながら飛行してゆく天音。
 そして――。
 鬱蒼と茂る森の中、大樹に腰かける赤髪の魔草少女の姿をケルベロス達は発見するのだった。


 上空に浮かぶ青い星、地球を眺めながら赤池・椿が静かに呟く。
「――来たね」
 ケルベロス達へと振り返る椿。
「……よくもアタシの仲間を……!」
 燃やし尽くしてやるッ! 灰も残さないほどになッ!!」
 聞くものの身を竦ませるような、激情の叫び声。
 椿から溢れ出た炎に、攻性惑星の薄い大気が蒸発してゆく。
 戦いの開始を告げるように、魔草少女・椿は紅蓮の炎で薙ぎ払ってくる。
「い、いい、ですね。ま、まるで、乱れ狂って、さ、咲く華のような、鮮烈な赤色の、い怒り……」
 相対するウィルマがケルベロスコートの中から猟犬縛鎖を放つ。
「そ、それだけ、に、ざ、残念です。あなた、が、既に、ここに居ない、のが」
 攻性植物に操られる遺骸の少女。
 人として生きていた頃の彼女は、一体どんな人間だったのだろうか?
「元は地球人であったはず……。
 デウスエクスになるほどの何かがあったのでしょうね」
 バラフィールもポツリとその心情を漏らす。
 きっと魔草少女として契約してしまうくらいだから、何か『弱さや歪み』を抱えていたのだろう。
 ウィルマとしては、出来ることなら『それ』を見たかったのだが――。まあ、それはともかく。
「あなた、も、ずいぶん遠くまできてしまい、ました、ね」
 鎖が喰らいつく蛇のように動き、椿を拘束する。
「……同情はします――」
 紫電の防壁を展開して守りを固めてゆくバラフィール。
 デウスエクスの犠牲となってしまった少女に対して、医師として思うところはある。
 もし彼女が人間だった頃に出会えていたら、救ってあげられたのではないか、そう思わずにはいられない。
「ですが、譲れはしません」
 心の傷。それは時としてどんな傷よりも深く、どんな病よりも癒え難いものだ。
 この少女が人間を辞めるきっかけは何だったのだろう?
 考えても仕方のないことなのかもしれないが、やはり無力感は残る。
 だが、せめて共に戦う仲間達は護ってみせると、バラフィールは病魔封じの羽根を展開させてゆく。

 烈火のような苛烈な攻撃を耐え凌ぐケルベロス達。
 突入時の被弾が最小限に抑えられたことに加え、防具も敵の能力に合わせたものを選択しているため戦況は悪くない。
「く……ッ」
 予想以上に堅牢なケルベロスの防御に苛立つのは椿だ。抑えきれない復讐心が炎となって燃え盛っている。
「……んう。なかまが、だいじか」
 椿の怒りを受け止めながらも、勇名はポツリと呟く。
 今回の敵は『人間だった頃の記憶の残滓』である、と聞いている。
 だから、この怒りも、きっと攻性植物が人間の感情を模倣しているだけに過ぎないのだろう。
(どこか、さびしい)
 勇名は少しだけ自分を重ねる。
「――だけどぼくも、なかまがだいじ」
 君乃、尾方、らふぃー、そして共に戦う仲間達。
「なかよしを、はなればなれにしない」
 カラコロと身体のどこかで『部品』が転がる音がした。
(きこえた。こころのおと)
 それはひどく不確かだけど、
 それでも確かに『ある』と、勇名はずっと信じている。
 この地球で芽生えた『何か』。大切に育ててきたそれを、ここで失うわけにはいかないのだ。
 全武装を高速起動してゆく勇名。
 狙い撃つは轟竜砲。黒煙と共に鉄弾が撃ち出され、砲音がどっかんと響き渡る。
「――ッ!」
 敵はその一撃を受けながらも瞬時に態勢を整えて跳躍。
 噴き出す炎を纏いながら、レイピアが抜き放たれる。
「死ねぇッ!」
 緋蜂のように研ぎ澄まされた刺突が広喜を襲う。まるで容赦のない、胴体狙いの一撃だ。
「……てめえは仲間のために戦うんだな」
 その一撃を受けながらも、広喜は笑みを崩さない。
「俺もだ」
 と、ただ真っ直ぐに椿と対峙する。
「――」
 広喜の身体から抜けなくなったレイピアを手放し、椿はいったん仕切り直すために間合いを離す。
 椿の手元から蔦がシュルシュルと伸び、新しいレイピアが形成されてゆく。
「お前は――」
 と、椿は何かを言いかけたが――。
 あくまで人間だった頃の残滓である彼女には、それ以上の言葉を紡ぐことが出来ない。
「広喜ッ! 大丈夫カ!?」
 眸が駆け寄る。
「おう――。ちゃんと重要な部品は、避けた、つもりだぜ」
 あれ、コレ抜けねえな。といつも通りに微笑む広喜に、眸はなんとも言語化し難い感情を覚える。

 いつだって、誰かを護るために広喜は無茶をする。
 本人は破壊しか取り柄が無いと笑うが、そんな事は無いはずだ。

 だが――。そんな自分自身の命を顧みない広喜のことが、眸は心配なのだ。
(そういエば、いつだっタか重傷を負った広喜を抱えテひた走ったこともあったカ)
 逆に眸自身も無茶をして広喜に助けられたことがある。
 そういう意味では二人はお互い様なのかもしれないが――。まあ、それはともかく――。
「あまリ、無茶ハしなイでくれ」
 Oath/Emerald-heal(オウス・エメラルド・ヒール)で広喜の傷を塞ぎ、改めて敵へと向き直る眸。
「さテ……ワタシの仲間が世話になっタようだ。その借りをここデ返させテもらう」
 そも広喜のことばかりではない。先の探索班で親友を暴走させられ、彼はいまだ行方不明のままなのだ。
 さて、普段と変わらないように様子に見える眸だが、彼をよく識る者であればその変化に気が付くだろう。
 眸から溢れ出る淡い燐光。それは彼の内なる怒りを表すものだ。
 踏み込みと共に一瞬で間合いを詰める眸。椿もレイピアで反撃を試みるが――。
「バカの一つ覚えのように同じ攻撃を繰り返してくルではなイか。すでに見切っタ」
 弧月を描くマインドソードが椿に裂傷を刻み込んでゆく。
「もう貴様は……ヒトではなイ」
 過る一瞬の苦さ。敵に対して怒りはあるが、それでも、やはり――。
「う、ぐッ……。仲間の、カタキ……ケルベ、ロス――仲間の仇……」
 追い詰められて、うわ言のように同じ言葉を繰り返す椿。
 その様子は既に人間らしさを失い始めていて――。
「てめぇが仲間を思いやる言葉を吐いたって、そんなものは『フリ』にすぎねえ」
 作戦開始前の温和な印象とは一変し、好戦的な内面を剥き出しにする翔。
 瞳から炎のように噴き出す混沌は、彼の心に渦巻くデウスエクスへの復讐心そのものだ。
 少女の身体を繰り人形にした、ただの攻性植物。
 憤りこそ覚えるものの、同情でその拳を緩めることなどしない。
「俺の大嫌いな死神見ているみてーで、胸糞わりぃんだよ!」
 閃光のような猛烈なラッシュが攻性植物に叩き込む翔。
「てめぇがくたばるまで、この攻撃は止まねーよ!」
 怒りと共に一直線に拳で撃ち抜く。
「ガ……ギッ、ギギ」
 もはや擬態をする余裕を無くし、寄生する攻性植物が耳障りな呻き声をあげる。
 そして――。
「椿さん、私があなたを解き放ちましょう……。これで、終わりです」
 瑠璃音の殺戮衝動が攻性植物の心臓部にグラビティを穿つ。
 全ての力を失い、灰となってゆく魔草少女。
 やがてその灰は地球の重力に引かれる様にして、静かに虚空へと消えてゆくのだった。


「お、お疲れ様、でした。我々の勝利、です」
 相棒のデブ猫の喉元を労う様に撫でながらウィルマ。
「役割は果たしました。この場を離れましょう」
 すぐに攻性惑星への一斉攻撃が始まるはずです、と瑠璃音。
 見上げれば手の届きそうなところに地球がある。この美しさをノンビリと楽しめないのは残念なところだが――。
「帰ろうぜ、俺たちの星に」
 一緒にそこに帰れることを嬉しく思いながら、広喜は眸に手を伸ばす。
「……救えなくてごめんなさい」
 攻性惑星を離れてゆくケルベロス達。天音は一瞬だけ振り返って小さくそう呟くのだった。


 さて、ケルベロス達を迎えたのはヘリオンだけでは無かった。
 巨大戦艦ケルベロスブレイド。その登場には面食らったものの、これほど頼りになる援軍も無い。
 その艦載砲撃に合わせて、作戦に参加したケルベロス達からも、攻性惑星に対して一斉攻撃が行われる。
 これにより、攻性惑星が崩壊。
 破壊された攻勢惑星は浮力を失い、竜十字島に向けて崩落していく。

 作戦の成功に湧き立つヘリオンの内部。
 だが、再び異変が起きる。
「警報――!?」
 突如として現れた竜業合体ドラゴンの本隊が、ヘリオンのすぐ横切ったのだ。

 ドラゴン達はケルベロス達に目もくれず、力を取り戻すために崩壊してゆく攻性惑星の残骸に喰らいつかんとする。
 再度一斉砲撃が行われ、幾体かのドラゴンを撃破したものの、それ以上のドラゴンが現れ、戦線に加わって来る。
 息をつく間もなく、次の戦いが始まろうとしていた――。

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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