攻性惑星撃墜作戦~黄菊魔草少女を撃破せよ

作者:秋津透

「城ヶ島の決戦時に、未確認の魔空回廊の探索に向かっていたケルベロス達から通信がありました。魔空回廊の出口は『島根県隠岐島』にあり、そこで攻性植物拠点を発見したという事です」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した口調で告げる。
「この危険な任務をやり遂げた彼らの活躍がなければ、大変なことになっていたかもしません。何故なら、彼らが攻性植物拠点の位置を暴いたタイミングで、攻性植物達が『竜業合体ドラゴンの到来』を察知したのです」
 そう言って、康はプロジェクターに模式図を映し出す。
「攻性植物達は、ドラゴンを救う為、惑星型に変形させた拠点『攻性惑星』によって、『隠岐島』から成層圏まで上昇。成層圏を竜十字島の上空に移動しで、到来するドラゴン達を回収しようとしているようです。攻性植物は、ドラゴン達を救助した後、そのまま『攻性惑星』で空域を脱出し、ドラゴン達の回復を行い、戦力を飛躍的に増大させようとしているのでしょう」
 拠点『攻性惑星』を示す模式図を見やりながら、康は説明を続ける。
「この情報をいち早く入手できた事で、ギリギリですが、移動中の攻性植物拠点へのヘリオンによる強襲が可能になりました。ニーズヘッグが全滅した今、攻性植物の合流を阻止出来れば、竜業合体ドラゴンは、グラビティ・チェインの枯渇によって壊滅状態となるでしょう」
 そう言って康は『攻性惑星』模式図の周囲に、多数のヘリオンを模した図を映す。
「攻性植物拠点が変形した『攻性惑星』ですが、ヘリオンで接近し、多数のケルベロスによる遠距離攻撃を集中させる事で撃破は可能です。しかし、攻性植物側も、それが判っているのか、『攻性惑星』表面は対空能力に特化した攻性植物『ウイングスナッチャー』で埋め尽くされており、ヘリオンの接近を絶対に許しません」
 康がそう言った瞬間、模式図の『攻性惑星』から無数の対空弾らしきものが放たれ、ヘリオンの図が一斉に消える。そして『攻性惑星』が拡大され、8つのポイントが示される。
「ですが、この防空網にも隙はあります。防空網を制御しているのは、聖王女の側近である8体の有力な攻性植物であり、彼女たちは、『攻性惑星』表面でウイングスナッチャーの制御に当たっています。つまり、彼女たち8体をピンポイントで撃破する事が出来れば、防空網を一定時間無力化する事が出来るのです。また、ウイングスナッチャーの防空網は、ヘリオン以上の大きさのものは完全に撃墜できますが、人間サイズの小ささであれば、弾幕を回避して『攻性惑星』に突入する事も不可能ではありません」
 そう言って、康はケルベロスたちを見回す。
「今回の戦いの舞台は、日本の遥か上空、成層圏となります。皆さんは、ヘリオンで『攻性惑星』の移動ルートの上方に先回りし、タイミングを計って飛び降りてもらいます。『攻性惑星』への落下突入時は、極限まで集中力を高めて、対空攻撃を回避し続けてください。無数のウイングスナッチャーが『口から粘液の塊のようなものを射出して』きます。この粘液には『捕縛、足止め、服破り』の効果がある為、回避に失敗するほどに、着地後の状況が悪化してしまうでしょう」
 そう言いながら、康は画像を切り替える。次の画像は、黄色い衣装をまとって薙刀のような武器を構えた、片足に蔦を絡めている気品ある少女の姿だった。
「皆さんの撃破目標は、ユグドラシル・ウォーで聖王女殿黄の宮を守護していた魔草少女司令官「黄地 菊」です。本来、多くの部下を指揮して戦うのが本領ですが、ウイングスナッチャーの制御に力を注いでいるのと、『攻性惑星』を発見したケルベロス達が脱出の際に彼女の仲間を二体撃破したため「ケルベロス絶対に許さない状態」になっているので、単体で襲い掛かってくる可能性が高いです。むろん、決して油断ならない強敵ですが、勝機は充分にあると思います。また、『攻性惑星』の表面に辿り着いた後は、『攻性惑星』自体が発する重力によって地上と同様に行動できます。『攻性惑星』を撃破するまでは、惑星の下側に回っても落下するようなことはありません」
 そう言って、康は再びケルベロスたちを見回す。
「城ヶ島の戦いで危険を顧みずに挑戦したケルベロス達の活躍によって、今回の作戦を発動させることができました。ですが、攻性植物とドラゴンの合流を阻止することに失敗してしまったら、彼らの活躍も、ニーズヘッグ全滅の成果も、無に帰してしまうかもしれません。『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)

■リプレイ

●突入!
「ケルベロスに勝利を!」
 攻性植物の飛行拠点『攻性惑星』の接近に合わせ、ヘリオンから八人のケルベロスが飛び出す。ヘリオライダーがパスワードを叫び、全員にポジションに応じたヘリオンデバイスが装着される。
 そして同時にヘリオンは全速で『攻性惑星』から離れ、ケルベロスたちは『攻性惑星』へと落下する。
(「う、速い!」)
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は、声には出さず呻いた。数えきれないほどのヘリオンからの降下経験を持ち「落ちる男」の異名を持つ蒼眞だが、大気摩擦のない成層圏で、しかも「地球地表よりも近い場所」への降下というのは、さすがに経験がない。予想以上の速度でケルベロスたちは『攻性惑星』へ近づき、メディックの据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)とイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、予定通りヒールドローンを召喚したものの、その陰に入るより早く、『攻性惑星』表層空間をびっしりと埋めた『ウイングスナッチャー』からの対空一斉射撃が飛んできた。
「うわっ! なんだこの数!」
 回避計算をしようと用意していたセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)が悲鳴を上げる。とうてい計算や意識で避けるとか迎撃するとかいう数ではない。ヒールドローン二機は一瞬のうちに撃破され、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)と彼女を自動で庇ったセット、更に平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が直撃を受ける。とはいえ、ヒールドローンが囮になったためか、被弾したのは三人だけだった。
「加速してすり抜ける!」
 ジェットパック・デバイスで他者を牽引している水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)と蒼眞が、ほぼ同時に叫んで『攻性惑星』に向けて加速をかける。
「脱出には苦労しましたが、今度は突入に苦労する事になるとは。因果なものですな。とりあえずですが、治癒しておきましょうか」
「こちらも!」
「ぬぉー! な・ん・の・こ・れ・し・きー!」
 赤煙がセットにエナジープロテクション、イッパイアッテナがウィゼに気力溜め、和が自分自身にマインドシールドでヒールをかける。更に、ダメージの大きいウィゼに、若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)が破剣付与を兼ねた祝福の矢を飛ばす。
 だが、何かができたのはそこまでで、落下方向へ加速をかけたせいもあり、ケルベロスたちはたちまち『ウイングスナッチャー』が飛行する層へ突入する。グラビティや用意した道具など、使う余裕も暇もなく、激突しないよう必死に身を躱し、地表へとすり抜ける。『ウイングスナッチャー』も同士討ちを警戒したのか、あるいは単に近接攻撃する命令を受けていないのか、対空弾を飛ばすことなくケルベロスたちとすれ違う。
「何とか抜けましたか。地面に降りたら、あらためて治癒を……」
「地表に敵! 待ち構えとるぞ!」
 赤煙の言葉を、ウィゼが遮る。ここまで『ウイングスナッチャー』と戦闘中という扱いで使えなかったゴッドサイト・デバイスが回復した途端、地上で敵……おそらく魔草少女司令官「黄地 菊」が待ち構えていることを察知したようだ。
「ちっ、連続戦闘か? ここまでやるほど、憎まれてるって事か?」
「……望むところだ」
 鬼人は舌打ちしたが、蒼眞は低く唸る。ケルベロスたちの目的は「黄地 菊」の撃破。その目標が探すまでもなく出てきてくれたのは有り難い。
(「ケルベロス、絶対に許さない状態か…………本当に厄介なのは黄地菊の逃走或いは時間稼ぎに徹される展開だっただろうに」)
 声には出さず呟いて、蒼眞は『攻性惑星』の地表を見据えた。

●遭遇!
「よくぞ戻ってきたわね、ケルベロス。『ウイングスナッチャー』の対空砲火を突破してきたのは驚いたけど、さすがに無傷ではないでしょう。飛んで火にいる夏の虫とはお前たちのこと。菫ちゃんと桜ちゃんの仇、討たせてもらうわ」
 少なくとも表面上は冷静に聞こえる口調で、薙刀のような武器を構えて黄色い衣装をまとった少女……魔草少女司令官「黄地 菊」が告げ、炸薬式・急降下装置の効果で真っ先に降下してきたイッパイアッテナに斬りかかる。
 しかし間一髪、ディフェンダーのめぐみが割って入って攻撃を肩代わりする。
「やらせない!」
 短く言い放つと、めぐみはサーヴァントのナノナノ『らぶりん』を召喚する。同時に降下してきた鬼人が、魔草少女に向かってオリジナルグラビティ『無拍子(ムビョウシ)』を放つ。
「……刀の極意。その名、無拍子」
「くあっ!」
 菊は鬼人の攻撃を武器で受けようとしたが間に合わず、一撃で左腕を斬り飛ばされる。かなり技量に差があるようですね、と、サーヴァントのミミック『相箱のザラキ』を召喚しながら、イッパイアッテナが呟く。
(「そうだよな。魔草少女は、もともと普通の女の子だもんな。攻性植物の力を得たっつても、そんなに場数を踏んだわけでもないし、その力を有効に使う技術はないよな」)
 これ、倒したら元の女の子に戻ったりしないかな、と、鬼人は声には出さず呟いたが、次の途端、菊は肩口から蔓のようなものを伸ばし、斬り飛ばされた左腕を再生する。
「こ、この程度で、私に傷をつけたなどと思わないことね!」
「……ならば、耐え切れなくなるまで攻撃するだけだ」
 続いて降下してきた蒼眞が言い放ち、菊の左肩をざっくりと斬り下ろす。傷口には氷が付着し、迅速な再生を阻害する。
「くうっ……!」
「今だっ! ブレイブマイン、炸裂っ!」
 めぐみが前衛全員に、治癒と破壊力増大の応援爆破を行う。『らぶりん』はめぐみに、治癒と防御力増大を兼ねたバリアを張る。続いて『相箱のザラキ』が魔草少女の脚にがぶりと噛みつく。
「ひいっ!」
 悲鳴をあげ、菊は大きく飛びのく。イッパイアッテナは黄金の果実を具現化し、前衛に治癒とBS耐性の付与を行う。続いて降下してきた和は、前衛に治癒と命中上昇の光を浴びせる。次に着地した赤煙は、半ば無意識に周囲を見回したが、菊を認めると丁寧に一礼して告げる。
「お会いするのは初めてですな? ご姉妹を倒した内の一人、据灸庵赤煙と言います」
「……お前が!」
 血相を変える菊を尻目に、赤煙は『相箱のザラキ』へと祝福の矢を飛ばす。そしてセットがドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形、轟音とともに菊へ一撃を叩き込む。
「お、おのれ、ケルベロス……!」
 けほけほと咳き込みながら、菊は自分を包囲するケルベロス、特に赤煙を凄い目つきで睨みつける。そこへ、最後に着地したウィゼが、大地を断ち割るような強烈な一撃を叩き込む。
「きゃあ!」
 直撃を受けた魔草少女の左脚が弾けるように爆裂したが、転倒するより早く蔓が伸びて脚を再生する。
(「しぶといな……」)
 作戦が図に当たり、相手はほぼ無策。けっして苦戦という展開ではないが、それでも決着までには時間がかかりそうだ、と、蒼眞は声には出さずに呟いた。

●決着!
「し……死んじゃえ……お前たちなんか……みんな、死んじゃえばいいのよ……」
 もう、何回攻防が繰り返されただろうか。戦局が進むにつれ、ケルベロスたちには特に変化はなかったが、魔草少女司令官「黄地 菊」は明らかに変調を起こしていた。薙刀に縋るような体勢でかろうじて立ってはいるものの、虚ろな目で何やらぶつぶつ呟いている相手を見やり、鬼人は小さく吐息をつく。
(「綺麗な宝石に気を取られたのが、運の尽きって奴か……いかにも女の子っちゃ女の子らしいけどな」)
 何回目かの攻防で『相箱のザラキ』が「愚者の黄金」として吐き出した煌びやかな宝飾品に、菊はまんまと引っ掛かった。その結果彼女は催眠に陥り、慌てて黄金の果実を結実させたが、催眠効果のため誤ってケルベロスを癒す、という大失敗をしでかした。しかも、ケルベロス側がここぞとばかりにバッドステータスを増やす「ジグザグ」攻撃を仕掛けたものだから、菊の昏迷は深まる一方。もはやほとんど行動不能に近い。
(「確か、催眠だけじゃなくてトラウマもついてるんだよな……いったい何を見ているのやら」)
 想像したくねえな、と呟き、鬼人は愛刀「堀川国広」と「越後守国儔」を構え直す。
「いいかげん逝けや」
 楽になれ、と、言葉にせずに続け、鬼人は魔草少女の胴を深々と薙ぐ。普通なら当然致命傷だが、攻性植物に憑りつかれた少女の傷からは血が出ず、蔓のようなものが溢れて塞ぐ。
「しぶといな。だが、耐え切れなくなるまで攻撃する」
 それだけだ、と何度目かの言葉を繰り返し、蒼眞がオリジナルグラビティ『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』を放つ。
「ランディの意志と力を今ここに!……全てを斬れ……雷光烈斬牙…!」
 雷電を帯びた一撃が、菊の両腕を断つ。支えに縋れず転倒するかと見えた時、断たれた腕の両側から蔓が伸びて再び繋ぐ。
「本当に、無駄にしぶといですねー」
 溜息混じりに、めぐみが黒色の魔力弾を撃つ。サキュバスの種族攻撃グラビティ、トラウマボール。この攻撃が、菊に悪夢を見せている。
「トラウマで殺すことはできませんけど、体力は相当削ってると思うんですけどねー」
「……まあ、相当に効いてはいるようですね」
 イッパイアッテナが、攻撃する『らぶりん』と『相箱のザラキ』を見やりながら思案顔で呟く。そしてヒールドローンを召喚し、前衛の守備を更に強める。
「これで決まりかな? 決まるかな?」
 わくわく口調で嘯きながら、和がオリジナルグラビティ『全知の一撃(ディクショナリー・クラッシュ)』を発動させる。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す。今、渾身の……てややー!」
「ぐっ!」
 和の全知識を錬成した一冊の分厚い本が菊の頭上に出現し、落下する。角ががつんと頭に当たり、菊は痛そうに顔を顰める。
「あれ? 死なない? 決まったと思ったのになー」
「こ、この程度で、死んでたまるもんですか!」
 魔草少女は憤然として叫んだが、大声が自分の頭に響いてしまったらしく、思わず右手で頭を押さえる。
「いたたたた……」
「頭への一撃は、後から効いてくることがありますよ。まあ、でも、植物は脳内出血など起こさないでしょうか」
 その身体には血も流れていないようですしね、と、淡々と告げると、赤煙はオリジナルグラビティ『崩気功(ブンチーゴン)』を発動させる。
「喝ッ!!」
「ぐはっ!」
 赤煙の一撃を受け、菊は目の焦点を失いふらふらとよろめいたが、かろうじて再び薙刀に縋りつき倒れるには至らない。血は流れていなくても、気の流れはあるようですね、と、赤煙は呟く。
「いー加減倒れてくれないっすかねえ。女の子の恰好してるだけに、見てる方がつらいっすよ」
 セットが正直な感想を述べ、渾身の重力蹴りを叩き込む。ばき、と、音を立てて薙刀の柄が折れ、支えを失った魔草少女は、ゆらゆらと幽鬼のようにふらつく。
 そこへウィゼが、オリジナルグラビティ『盛大な大爆発を巻き起こす南瓜爆弾(ハロウィンボムモドキ)』を炸裂させる。
「あの時できなかった大爆発、今ならやっても構わないのじゃ!」
 いや、今こそやるのじゃ、と言い直し、ウィゼは導火線付きハロウィンボムモドキを魔草少女に投げつける。もはや意識朦朧となっている菊は、おそらく反射的に南瓜爆弾を受け止めたが、その瞬間導火線が燃え尽き、盛大な大爆発が生じる。
 そして爆炎と煙がおさまった後には、柄の折れた薙刀以外には、形のあるものは何も残っていなかった。
「こ、こりゃ、ひでえな……」
「いや、ここまでやらなきゃ死ななかったんじゃないか? なんせ植物だし」
 思わず顔を顰める鬼人に、蒼眞が肩をすくめて告げ、そして一同を見回して声を張る。
「ミッションコンプリート! 脱出だ!」

●脱出、そして……。
「確かに生存本能とかで繁茂したい気持ちはわからなくもないです。でも、それを抑えて共存する道もあったはずです」
 地表から離脱する前、めぐみが『攻性惑星』に向けて呟く。
「それを選べなかったのはとても残念です」
 一方、赤煙は、その辺にある筈はないと思いつつ、先日の潜入任務で暴走した二人の痕跡を探してしまう。そこへ鬼人が声をかける。
「行くぞ。それとも自力で飛ぶか? 俺は構わんが……」
「……失礼しました。今行きます」
 一礼し、赤煙は鬼人のジェットパック・デバイスで牽引されて離陸する。
 上空を飛び回る『ウイングスナッチャー』の大群を躱し、成層圏へと離脱する。
「……後ろからいきなり撃ってきたりは、しないっすよね?」
「さあな。大丈夫とは思うけど、どっか他のチームがしくじってたらわからねえ。とにかく急いで距離を取るさ」
 心配そうなセットに、鬼人は敢えて無雑作に応じる。
 と、その時。地球から『攻性惑星』に向けて、何か巨大なものが接近してくるのが見えた。
「な、なんだ、あれは?」
「あれは、ヴァルハラ神殿群が合体変形して出現した、万能戦艦ケルベロスブレイド! もう動ける状態になっていたのね!」
 めぐみが叫び、ウィゼが感に堪えたように唸る。
「ううむ、壮観じゃのう」
「あれなら『攻性惑星』なんか、一発っすよね!」
 セットが言った時、ケルベロスブレイドが『攻性惑星』に接近しながら無数のヘリオンを射出した。まずケルベロスブレイドの角から雷撃が放射され、続いて射出されたヘリオン群から『攻性惑星』に対して、凄まじい一斉攻撃が放たれる。『攻性惑星』はひとたまりもなく崩壊し、地表に向けて崩落していく。
「……すげえ威力だな」
 鬼人が呟いた、その時。
 いきなり目の前に、凄まじい数のドラゴンが絡み合った集合体が出現した。
「ド、ドラゴン惑星!?」
「違う! 竜業合体ドラゴンだ! とうとう地球まで押しかけてきやがった!」
 素っ頓狂な声を出した和に、蒼眞が応じる。
「こ、こんなものに襲われたら……」
 ひとたまりもないですよ、と、イッパイアッテナが震え声を出したが、幸いというか何というか、ドラゴン達はケルベロスたちには目もくれず、崩落する攻勢惑星へと喰らいつく。
「ヤバい! あれを喰われたら、奴ら、力を取り戻しちまう!」
 鬼人が叫んだ時、ケルベロスブレイドと展開したままのヘリオン群が、今度は竜業合体ドラゴンに一斉攻撃を浴びせる。全部とは言わないが、相当の数のドラゴンが、ケルベロスブレイド側の攻撃で撃破される。しかし同時に、それ以上の数のドラゴンが飛来し、ケルベロスブレイドへと攻撃を仕掛けていく。
「見てる以外、何もできないのかよ!」
 叫ぶ鬼人に、赤煙が応じる。
「我々は使命を果たしました。今、できることは、祈ることだけです」

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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