鋼のダイナソー

作者:baron

『シギャー!』
 山肌を崩しながらナニカが出て来た。
 そいつは本体の全長7mほどで、長い尻尾を含めればもう少しあるだろうか?
 代わりに腕は小さく顎が巨大で、サイズの割りには俊敏な動きをしていた。
『ドルルル!』
 そいつにはレーダーでもあるのか付近に誰も居ないことを把握すると、梅の林を抜けて町に向けて進み始めたのである。
 のっしのっしと速足で進むそいつは鋼のボディを持つ、恐竜のごときダモクレスだ。
 予知では喫茶店やコンビニを破壊し、パチンコ店の駐車場に進むところまでが見えたという。


「先の大戦末期に封印された巨大ダモクレスが現れると予知がありました」
 セリカ・リュミエールが地図と図鑑を手に説明を始めた。
 最初に開かれた地図は郊外の山で、周辺は荒れ地や小さな梅の林くらいである。
「幸いにも周辺は郊外で人も居ないのですが、しばらく進めば流石に町があります。避難勧告は行っていますので、町を足場に戦う事も可能です」
 セリカはそう言って地図をテーブルに置くと、今度は図鑑を開き始めた。
「ええと……恐竜図鑑?」
「ダモクレスの形状は爬虫類型で、サイズは7mです。いわゆるティラノサウルスに似ていますね」
 セリカが広げたのは恐竜が載っている図鑑で、ティラノサウスやその亜種が載っている。
 図鑑だと鱗だけという説やら、毛むくじゃらであるという説が載っているが……。
 まあダモクレスなので、そこは鋼の装甲であろう。
「攻撃手段は大きな顎でのかみ砕き、長い尻尾での攻撃など格闘戦がメインのようです。射撃も可能だと思いますが、挑発されでもしない限りは格闘戦を行うと思われます」
「見た目通り判り易い相手ですのね。その意味では助かりますわ」
「これを防ぐとなるとゾっとしないけどね」
 腕は小さいので殴りはしないそうだが、顎でかみ砕くとか尻尾で攻撃とか。
 判り易いからこそ事前の作戦が重要かもしれない。
「みなさんは戦いに次ぐ戦いで成長されていますので大丈夫かと思われますが、それでも油断は禁物です。7分または追い詰められると全力で攻撃してきますので注意してくださいね」
「まかせとけー」
 セリカが資料を置いて出発の準備に向かうと、ケルベロス達は相談を始めたのであった。


参加者
シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)
金元・樹壱(修行中魔導士・e34863)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ


 彼方で梅の林が形を変えていく。
 こちらが風下に当たる為、僅かに香りが強くなった気がした。
 林をへし折りながらやって来るのは、7mサイズのダモクレスだ。
「恐竜か、出来たら実物を拝んでみたいものだが」
 シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)は棚引くマフラーに手をかけ、ケルベロスコートを剥ぎ取った。
「鋼のものもそれはそれで面白い。逃がさず被害も出さず、倒しきるぞ」
 寒空の下を兼ね抜けてダモクレスと戦うべく町の入り口に向かう。
 町に入る場所自体は複数あるが、幸いにも予知と大きな差はなかった。
 どの場所でも良いように中間点に位置していたが、このままスムーズに接敵できるだろう。
「恐竜も実際に居たら、凄く迫力があるんでしょうね」
「博物館で化石を見たことがありますけど、凄い迫力でしたね」
 金元・樹壱(修行中魔導士・e34863)の隣を追い越して綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が先行していく。
 盾役の彼女を追い掛けるように、一同は僅かに移動速度を早めた。
 その際にストップウオッチや時計のアラームを弄り、それぞれが時間確認をしておく。
「そんな恐竜が街で暴れたら、大惨事になってしまいますね、早く止めてしまわないと」
 玲奈は大きめの駐車場に入ると、そこを共有している店並を眺めた。
 敵により近いのはコンビニだったので屋根に駆け上っていく。
 他のケルベロス達は共同駐車場を挟むように、パチンコ店やスーパーの上に乗っていく。
「ティラノサウルスか。現在に生きていたとしたらこのダモクレスと同じくらいの巨体だったのでしょうね」
「……ロマンあふれる姿だけども、見た目通りの凶暴さね」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)の言葉に曽我・小町(大空魔少女・e35148)が頷いた。
 ダモクレスはドラゴンと違って捕食対象の姿を真似はしないが、今回の敵は確かに郷里流の中でも強大な部類とされるティラノサウルスの姿をしている。
 現代では見ることができない恐竜が実際に動くかのようではないか。
「本物の恐竜がもし居たとしたらこれくらいの威圧感があったのかしら。……っとはいえ放置する訳にはいかないわよね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)も似たような感想を抱いたが、言葉に出す途中で息を呑んで身構えた。
 ダモクレスの方も速度を上げ町に突入して来たからである。
「来たわよ。みんな準備は良い?」
「迫力が凄いですけど、怖気づく訳にはいきません」
 リサは最後尾の治療役ゆえ樹壱たちの様子が見える。
 みんなストップウオッチや時計を掲げ準備万端だと答えた。
「好きに暴れさせるわけにはいかないわよね」
 小町は翼猫のグリと共にダモクレスの巨体になど恐れもせず颯爽と走り出す。
 相手の迫力が凄いからと言って一々怯んでなどいられない。
 何しろケルベロス達は、これまでドラゴンや神を名乗る敵とすら戦て来たのだから!

 一斉に動き出すケルベロス達。
 だが敵は特化型らしく、一足先に攻撃態勢に入った。
『シギャー!! 』
「さぁ、行きますよネオン。サポートは任せましたからね」
 玲奈は箱竜のネオンに声を掛けつつ、コンビニの上から道路に飛び込んだ。
 突進するダモクレスを手で受け止め、飲み込まれないように必死でもがく。
「その口を閉ざせたりはしないわよ。わたしの狙撃からは、逃れられないんだから!」
 悠姫はポケットから取り出したガジェットを銃に変形させると、麻痺を誘発する弾丸を放った。
 それは恐竜の如き大きな顔に命中し、仲間が対処するだけの時間を稼いだ。
「たった7分間のショータイムで悪いけど、また眠りについてもらうわ。それこそ、化石になるくらいの時間ね!」
 後方から十分な助走距離を付けた小町は、猛烈な勢いで蹴り付けた。
 威力はそれほど乗りはしなかったが、上手くグラビティを操ってその場に釘付けに成功する。
 まだ動きにくい程度だろうが、積み重なれば大きなものになるだろう。
「遠隔……爆破です、吹き飛んでしまいなさい!」
 樹壱は思念を集中させながら強烈に叩きつけ、ダモクレスがその力を発揮できない様に抑え込みにかかった。
 何重にも練られた闘気が襲い掛かる!
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい!」
「助かりました。お返しをくれてやりませんと! 氷の属性よ、爆発してしまいなさい!」
 リサがエネルギーの障壁で守ってくれたことに礼を言いつつ、玲奈は魔法のネジから氷の力を引き出した。
 青い閃光が拳から放たれ、逆襲の一撃を放つ。
 その一撃に前後してもう一発、誰かの蹴りが襲い掛かった。
「博物館とかそれ自体は結構好きなつもりなんだが……。やはり鋼鉄だと大分感じが違うな」
 それはシュネカの放った蹴りである。
 足元のアスファルトでシューズの感覚を確かめ、やはり硬かったなと少しだけがっかりした。
 これが生物の鱗として弾性を持った硬さであれば言う事はなかったのだが。
「ダモクレスに骨は期待できないだろうが、その中どうなっているんだろうな?」
「エンジンやパイプじゃありません? どちらにせよ注意……次の一撃が来ます!」
 首を傾げるシュネカに冷静な答えを返しつつ、玲奈は注意を促した。
 そこへ尻尾がうねって来襲し、無数の刃として襲い掛かって来たのだ。
 まるで巨大なノコギリが襲い掛かるかのようであった。
『オロロ……ドルルル!』
「っネオン!」
 その一撃に対し間に合いはしたが、玲奈の体が沈み足元のアスファルトが砕け散る。
 もし屋根の上だったらコンビニに穴が開きそうなくらいだが、箱竜のネオンに至っては吹き飛んでいた。
「流石にダモクレスはやるわね。長丁場にならないと良いのだけど」
「私達も成長してるし、大丈夫じゃないかしら」
 まずは悠姫が大斧を構えてダイビング!
 大ジャンプから放たれる刃は三日月を思わせる意匠で、その周囲に小町が放った星座の形に魔力が飛来した。
 連続して放たれる攻撃を隠れ蓑に悠姫は飛びのいたのだ。
「このナイフをご覧なさい、貴方のトラウマを想起させてあげます。どんな姿なのか判りませんけれど」
 樹壱のナイフが煌き、その刃に幻影を映し出す。
 しかしその姿を見る事ができるのはダモクレスだけだ。封印した聖女達か、それともドラゴンやエインヘリアル達か。うかがい知ることは出来なかった。
「時間を考えればここは攻撃ですね。回復はお任せしました。……この太刀で、その身を汚染してあげます」
 盾役は自身を回復して長持ちさせる事も多いが、玲奈はタイムリミットを考えて攻撃に出た。
 抜刀するや刃を突き刺して呪いのグラビティを流し込む。
「任せて頂戴な。大丈夫よ、落ち着いていれば安全だから」
 その頃にはリサが翼を開いて風を呼び起こし、心やグラビティの乱れを鎮めていた。
 箱竜のネオンもそれに協力して回復を兼ねた援護を行っていたのである。
「やはり強いな。決戦も近いことだし、こうした相手はしっかり潰しておくのが最善か。この戦いも気合を入れていくぞ!」
 シュネカは鉄槌を構えると敵に負けぬ勢いで突進を掛けた。
 強烈な一撃を浴びせるがこの程度では止まらぬと敵も動き続ける。
 お互いに一歩も譲らぬその戦いは、恐竜に挑む古代の勇者たちもこんな様子だったのかと思う程の激戦であった。

 だが時間が経ち、何度メカの攻防が過ぎるとその均衡も崩れていく。
 ケルベロスたちの成長もあるし、相手が攻撃特化型でタフでは無かったこともあるかもしれない。
「はっ!」
『バルバルバル!』
 襲い掛かる長い尻尾をケルベロス達は避け、あるいは防いだ。
「再び狙撃してあげるわ!」
 悠姫の取り出した銃状のガジェットは改めて麻痺性の弾丸を生成する。
 これまでの積み重ねもあり、避ける先を見据えて余裕をもって撃ち込むことすらできる程だ。
「~♪ 止まらない 雨のDrums 聴いて空に 踊り出せば  奔り出す 心の形 Pop Up! 軌跡 虹を描いて 彼方まで!」
 小町は巨大な姿に滅亡するはずだった地球を思い出して憂鬱になるが、それを吹き飛ばそうと声を張り上げた。
 敵の間近で叩き込む歌声の雨は、その勢いを相手の心身に響かせて揺さぶり、プログラムもパーツも暴走させようとするのだ。
「その傷口を、更に広げてあげますよー!」
 樹壱はナイフを装甲の穴に突き立て、傷口と傷口を繋ぐように敵を切り裂いた。
 こうすることで相手の傷を深くし、そのバランスを崩すためだ。
 だがその途中で敵が身震いしたことに気づいたのである。
「今までにない動き……もしかして全力攻撃の前触れかもしれません!」
「そういえば今回は時間だけではなく、追い込まれたら行うかもしれないと言われてましたね。みなさん、ご注意を!」
 樹壱の言葉にリサは最初に聞いた話を思い出した。
 敵は攻撃特化型なのでタフネスではないため、追い込まれると全力攻撃を行う可能性があるそうだ。
 予定よりもはるかに速いので驚きはしたが、よく考えればケルベロス達も成長しているので、冷静に考えれば不思議では無かった。
「攻撃するつもりでしたが、切り替え時ですね。終わってから改めて攻撃しましょう」
 玲奈は攻撃の為に魔法の螺子を握り締めていたが、一度掌を広げて気分を入れ替える。
 元より彼女は盾役であり回復補助の方が本道だ。
 これまでは時間制限があったから、あえて攻撃をメインにしていたのである。
「傷を一気に治しますよ! 属性の力よ!」
「ええ。協力して治療に当たりましょう。皆を守る世界の力よ!」
 玲奈とリサは共に同じ技を行使した。
 精霊の力をネジから引き出し、グラビティで障壁に替えて傷ついた身を守る。
 それは我が身であり、あるいは一度だけカバーに失敗したシュネカである。
「感謝を! さあこの一撃を凌いだら、総反撃と行こうじゃないか!」
 シュネカは仲間に感謝の気持ちを捧げると、颯爽と敵中に飛び蹴りを浴びせる。
 そしてリサたち後衛が建物の影に隠れる中、シュネカは盾役である玲奈の後ろに回るのであった。

 対してダモクレスの動きは単純だ。
 この期に及んで不得意な射撃を使うことも無く、装甲版がめくれあがっていくだけ。
『ガオオーン!』
「顔が四つに割れ……」
「頭全体が顎になったということ?」
 それはただ噛みつく為だけの機能。
 憎き敵を全力で噛み砕くことに専念したスタイルである。
「……っ直撃さえせねば問題ないはず。万が一の場合は任せますね!」
 玲奈は恐るべき脅威に対して立ち向かった。
 確かに恐ろしい相手だが、それでも仲間の前に立つのが盾役である彼女の役目だ。
 それに他のメンバーでは一撃で落とされかねないが、自分ならば大丈夫。それに仲間が牽制したり防御を掛けてくれていると信じて立ち向かった。
「無事!? 無事な筈よね? さぁ、硬い身体も関係なくかち割ってあげるわよ!」
 悠姫は無表情なままに、声と指が少しだけ震えているのが判った。
 仲の良い友人が血だらけになっていて無関心ではいられない、だがここで信ずしてどうするのだと心を奮い立たせて戦いを挑む。
 攻撃して敵が倒れれば、少しでも早く苦痛が無くなると信じて三日月の刃を振るう。
「反応が大きいわね。全力攻撃の反動かしら? このまま行けば倒せるわ、ならここは逃がさないように戦いましょう」
 小町はあえて脇に回りながら攻撃を掛けた。
 万が一にでもダモクレスが逃げないように工夫して、横っ面を張り飛ばすように飛び蹴りを浴びせる。
「吹き飛びなさい!」
 樹壱も同じように脇に回って思念を叩きつけた。
 グラビティがダモクレスの顎を爆破し、仲間が脱出できるように力を奪い去る。
「っ! 無事です! その傷は……私が癒して見せます!」
 リサはボルトから力を引き出し、一生懸命仲間の元に注いだ。
 噛みつかれたまま血を流す仲間の傷を塞ぎ癒していく。
「くっ……な、中は既にボロボロです! 最期の攻撃を!」
「任せろ!」
 玲奈はダモクレスの口から投げ出されたが刀を杖にして立ち上がり、シュネカと共に最後の攻撃に出た。
 突き刺さった刀の呪いが効果を発するよりも早く、鉄槌が恐竜型ダモクレスの未来を永遠に閉ざしたのである。

 そしてダモクレスが崩れ落ちた頃に、皆の元から様々な音が鳴り始めた。
 それは五分経過に合わせたアラームの音色である。
「戦闘中にアラームが鳴らなかったし、五分という所かしらね? グリもおつかれさま。もうちょっとだけ頑張ってね」
 小町は翼猫のグリを労いつつ、仲間たちの治療を始める。
 ギターをかき鳴らせば、風に乗って歌と音が広がていく。
「ずっと恐竜みたいだったのに、最後の最後でダモクレスだったというべきかな? まさか頭があんな形になるとは」
「事実はアニメよりも奇なりね。フィクションならむしろデザインを統一するわ」
 シュネカが残骸が動かなくなったのを確認していると、リサは頷きながら一度だけとは言え攻撃を受けた彼女の負傷を確認しておいた。
「兵器は兵器。有効ならば何でも真似るし利用する事なのでしょう。さぁ、後はヒールで町を修復して帰りましょうか」
「そうね。ダモクレスにデザインのこだわりなんてないでしょうし」
 最期に玲奈が自分のや箱竜のネオンの傷を治すと、悠姫は建物にルーンを描いて修復を始める。
「残念ながらヒールは持って来てないが、片付けくらいは手伝おう」
「ではこれを持ち上げてください。固定し次第にヒールを掛けますので……。大自然の緑よ、町を、人々の営みを癒す力を与えよ」
 シュネカに残骸を持ち上げてもらった後、樹壱は大自然の力を取り込んで周辺を修復していく。
「あたしは上から見て来るわね」
 小町たちは手分けし、あるいは空を飛んで確認しながら町を直し、凱旋したということである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月3日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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