鎌倉市由比ガ浜。
源平の合戦の折には幾度となく戦いの舞台となったその浜辺に、閃光が走る。
強く、眩い光が閃くたび、大地が震え、海が割れ――そして、一つの影が浮かび上がる。
それは、翼をもつ巨大な蛇竜。
赤の鱗に身を包み、その背に広がるのはドラゴンの如き赤の翼。
光輪を背負い、長大な身をくねらせる蛇神の如きその存在は――しかし、
「グ、ガァ――」
光が走るたび、その口から洩れるのは苦悶の声。
背負う光は、周囲のみならず自らをも焼き尽くす原初の光。
荒ぶる心を映し出すように、煌く極光が自身をも巻き込んで――否、自身こそ焼き払うべき存在だと言わんばかりに、周囲を巻き込み荒れ狂う。
光焔に身を焼かれ、翼が焼け崩れ。
それでも、蛇竜は――かつて、チャル・ドミネと呼ばれていた存在は、身じろぎすることなく痛みに耐え続ける。
それが自身に与えられた罰だというように。
いずれ訪れる誰かを待つように。
やがて光が消える時。
そこに何が残るのか。
あるいは――何も残ることなく消え去るのか。
――それを知る者は、ない。
●
「先日の金牛宮迎撃戦で暴走した、チャル・ドミネ(シェシャの僕・e86455)さんの所在がわかりました」
集まったケルベロス達にを見つめ、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
アスガルド・ウォーの中で地上へと転移した3つの魔導神殿。
それらを迎撃するために繰り広げられた戦いの中で、勝利を掴むために暴走したチャルが姿を消したのは、つい先日の事だった。
「戦場となった鎌倉駅から南へしばらく向かった先の、鎌倉市由比ガ浜。チャルさんはその浜辺で動きを止めています」
幸い……と言うには抵抗はあるものの、金牛宮の侵攻によって周囲に人気は無く、翼を持つ巨大な蛇竜と化したチャルの姿を見つけることは難しく無い。
だが、それだけでは、まだ連れ戻すには足りない。
「見つけ、近付けば、チャルさん――蛇竜は、威嚇体勢をとった後に襲い掛かってきます」
それと戦い、暴走する力を打ち払って制圧することで、ようやく正気に戻して連れ帰ることができるのだ。
「蛇竜の攻撃手段は、毒のオーラを纏った尾、鋭い牙による噛みつき、そして背中に背負う阿頼耶識の光、なのですが……」
そう言って、セリカは表情を曇らせる。
光輪拳士であるチャルの帯びていた光背は、暴走を経て蛇竜となった今もその背に強く輝き、光を放って敵を討つ。
――だが、阿頼耶識の光は、己が心が乱れれば自らを焼き尽くす諸刃の剣。
暴走によって精神の安定を欠いた今、背負う光は強まった力のままに自らを焼く滅びの光となっている。
「身を焼かれる激痛を耐え続ける中で、チャルさんと蛇竜、双方の正気は失われて行っています」
そのまま戦い倒すことでもチャルを連れ帰ることはできるが……正気を失い暴れまわる蛇竜を制圧することは、決して容易なことではない。
だが、蛇竜の中で眠るチャルの意識に呼びかけて目覚めさせることができれば、蛇竜の力を抑え込むことができるだろう。
「鍵となるのは『庇うこと』と『雨』です」
かつて、仕えていた大切な人を守れなかったこと。
それがチャルの後悔の一つであり――だからこそ、誰かが誰かをかばう姿は、彼の心に大きな影響を与えるだろう。
また、優しい雨が身を焼く激痛を和らげるのか、雨やそれに近いものを身に浴びると蛇竜の凶暴性が和らぐこともわかっている。
それに加え、戦闘中も阿頼耶識の光は蛇竜を焼き続けているために、時間が経つほど蛇竜は弱っていくが――己が身を焼き尽くす光が、蛇竜を焼くだけで収まるかは未知数である。
「――」
そこまで説明すると、セリカは一度目を閉じて息をつく。
「おそらく、これがチャルさんを連れ戻す最初で最後の機会になります」
光の果てに、何も残さず消え去るか。
あるいは、完全に別の存在として生まれ変わるのか。
どちらであっても、ケルベロスとして仲間と共に戦ったチャル・ドミネは失われる。
けれど、今ならまだ、連れ戻すことができるはず。
だから、
「『お帰りなさい』を言うために――行きましょう、皆さん」
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(いつかうしなうひと・e00040) |
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664) |
武田・克己(雷凰・e02613) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
テオドール・ノーネーム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e12035) |
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455) |
美津羽・光流(水妖・e29827) |
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) |
閃光が走り、轟音が轟き。
浜辺を揺らす衝撃と共に響くのは、苦悶の声。
「見つけたよ、チャル」
「滅茶苦茶口が悪い先輩やったのに、こないなことになるとはな……」
声の主を見つめて、ティアン・バ(いつかうしなうひと・e00040)と美津羽・光流(水妖・e29827)は表情を曇らせる。
視線の先には、翼を持つ巨大な影。
背負う光輪に身を焼かれ、苦悶の声を漏らしながらも耐え続ける赤の蛇竜。
それは、金牛宮の戦いの中、仲間のために暴走したチャル・ドミネの変わり果てた姿。
「……」
暴走した人を見るのは初めてではないけれど……何度見ても、見る度に己の無力さが胸へと突き刺さる。
――だけど、とティアンは小さく拳を握る。
あの時、自分は無力だったかもしれないけれど――今この場で、自分にできることは確かにある。
「ああ、さっさと連れ戻してやろう」
そっと息をつくティアンに、武田・克己(雷凰・e02613)も頷き愛刀を握り。
「沙耶さん」
「ええ。行きましょう、瑠璃」
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)と如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)も、視線を交わして頷き合う。
共に抱くのは、必ず連れ戻すという決意。
そして、浜辺へと一歩を踏み出し、
「――ッ、シャァ!」
近付く動きに反応して、蛇竜が威嚇の声と共にケルベロス達を睨みつける。
瞳にあるのは、荒れ狂う衝動と――それを塗りつぶすほどの、苦しみ。
耐え続ける中で、耐える理由すら見失い。
痛みから逃れようとするように、蛇竜は牙を剥き――、
「慈雨来たりなば、心を静めるもの也」
「チャル! こんなとこで死ぬなんて許さないアルヨ!」
牙が振るわれるより早く、降り注ぐ雨が蛇竜の体を包み込む。
それは、ジェットパックデバイスを使って新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)とテオドール・ノーネーム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e12035)がシャワーで作り出す疑似的な雨。
グラビティのような癒しの力はなくても、涼やかな雨が蛇竜の焼けた背を冷やし、
「グ、ガ、ァー……」
苦痛の色が薄れ、わずかに落ち着きを取り戻した蛇竜の前へとエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は歩み出る。
「はじめましてこんにちはでお迎えにきたよ、チャルくん」
戸惑うように見つめる蛇竜に、エヴァリーナは優しく語り掛ける。
「みんなでがんばって戦ったあの魔導神殿、魔改造しちゃおうって催しがあってね? チャルくんが守ってくれたものの結果を見届けに帰ろう」
一緒に帰ろう、と伸ばす彼女の手を……蛇竜はじっと見つめ、唸りを上げ。
そして、
「――ガァア!」
「わ、っと」
振るう尾が彼女を跳ね飛ばす――けれど、
「エヴァリーナ!」
「うん、大丈夫ー」
駆け寄るティアンに、エヴァリーナは笑顔で手を振ってこたえる。
暴走が言葉だけで戻せるもので無いのは、わかっていたこと。
それに、尾を振るう直前、わずかに揺らいだ瞳の奥に見えたのは、きっと――。
「チャルくんも頑張ってるんだね」
「そうか……」
ふっと息をつき、ティアンは僅かに表情を和らげる。
まだ手は届く、『彼』もまた戦っている。
「なら、擦り切れてしまう前に、ちゃんと帰ってこられるように」
「そうヨ、あいつには言いたいことが山ほどあるネ!」
友を失わせまいと、色を失うほどに拳を強く握ってテオドールも蛇竜を見据え。
彼女達を見つめ、蛇竜を見つめ、エヴァリーナはそっと微笑み――そして、表情を引き締めると手を打ち合わせる。
誰かが痛み苦しんでいるのなら……地の果てでも駆けつけて癒し治すのが魔女医の務めで誇り。
「絶対に助けるよ、チャルくん」
●
空から降らせる人工の雨の中、蛇竜とケルベロスは対峙する。
咆哮と共に振るわれる尾が毒のオーラを纏ってケルベロス達へと襲い掛かり。
それを、踏み出す瑠璃とエヴァリーナが受け止める。
「ガァア!」
自らを焼く痛みは雨を受けて和らいでも、なおも蛇竜の中で荒れ狂う暴走の衝動。
その衝動のままに振るわれる、力任せの――けれど、わずかでも受け方を間違えれば、そのまま跳ね飛ばされかねないほどの力を籠めた、強烈な一撃。
「「っ!」」
息を吐き、歯を食いしばり。
それでも押し切られそうになる二人を支えるように、伸ばすティアンの手がその背に触れる。
「チャルのこと、ティアンはあんまり知らないけれど」
一度、共に戦っただけの関係。
互いのことを十分に知るには全然足りないけれど、それでもわかることもある。
「その位の仲の相手に対してでも命を張れるひととなりだというのは、よくわかった」
あふれるオウガ粒子の光が二人を包みこみ、その手と足に踏みとどまらせる力を与え。
「ティアンは雨は降らせてやれないし、かばわれてばかりだけれど……早く戻ってくるといい」
「うん、そうだよね」
呼びかけるティアンの言葉に、頷く瑠璃の声が重なる。
あの日、別の場所で戦っていた瑠璃は、金牛宮の戦いで何があったのかは報告書と伝聞で知るのみで。
あの場を切り抜けるためには、その覚悟が必要だったこともわかる――けれど、それで終わらせるわけにはいかない。
彼の歩く道は、まだ先があるはずだから。
「チャルさんは、ここで終わってはいけません」
「ここで屈するべきではない。連れ戻すよ」
癒しの雨を戦場に降らせながら呼びかける沙耶の声に背を押され、瑠璃が呼び出すのは太古の月。
同時に、エヴァリーナもまた自らの足元へと輝く魔法円を描き出す。
「月の光の守護を」
「星の雫を纏いて生命を歌う、風と光に舞う薄羽、小さき友よ。水面に落ちる花弁の様に祝福のキスを降らして……」
月光を纏った瑠璃が、妖精の光を纏ったエヴァリーナが。
振り抜こうとする蛇竜の尾を受け止め、押し返し。そして、
「沙耶さんは、傷つけさせない!」
大切な人を背に庇う瑠璃の目が、蛇竜を――その瞳の奥に眠る心を揺り動かして。
「捕らえる――縛!」
「おぉっ!」
動きの乱れた尾に恭平の鎖が絡みつき、克己の繰り出す迅雷の刺突が赤鱗を切り裂き走り抜ける。
あの時、あの戦場で共に戦った。
言葉にすればそれだけの縁。
――けれど、助けに向かうにはそれで十分。
助けてもらった借りもあるというなら、なおさらに。
「あまり口はうまい方ではないのでな」
「言葉の代わりに刀と拳で語らせてもらう。痛いけど我慢してくれよ」
蛇竜を見据えて、両手を広げて後衛を守るように恭平は得物を構え。
それと並んで克己も刀を構え、
「まあ――言葉で語るのは、適任者に任せるさ」
ふ、と小さく笑みを浮かべた直後、二つの影が戦場を駆ける。
矢のように宙を走るテオドール。
身を沈め、地を駆ける光流。
疾駆する二つの影を迎撃せんと、身を起こした蛇竜が牙をむき、
「チャル!」
「チャル先輩!」
「――ッ!」
――それよりも早く、名を呼ぶ二人の声が、蛇竜の動きを縫い留める。
語り合い、笑いあった同じ旅団の仲間の声。
その声に蛇竜の動きが鈍ったのは、一呼吸にも満たない間。
けれど、
「こんなとこで死ぬなんて許さないアルヨ! まだ暴言のお詫びの特大パフェもおごってもらってないアル!」
「言いたい事は山ほどあんねんけど、その為には帰ってきてもらわんとな。借りはノシ付けて返すで!」
打ち下ろすテオドールのテイルスィングが。
撃ち上げる光流の螺旋射ちが。
蛇竜の顎を挟み込むように交錯し、砕かれ飛び散る赤鱗が宙に溶けるように消えてゆき。
(「チャルはワタシの友達ネ。それをいいことに言いたい放題してくれて恨みがたまってるアルヨ」)
その分だけ衝動が薄れた蛇竜の瞳を、テオドールは見つめる。
強い言葉と憎まれ口で、心に渦巻く不安と心配に流されそうになる自分を抑え込み。
降り注ぐ光をかわしながら、紡ぐ言葉は歌となって友の心へと呼びかける。
「チャル、このまま蛇竜になって消えるなんて絶対許さないネ!」
●
エヴァリーナと沙耶が降らせる癒しの雨の中、ケルベロスと蛇竜の牙が交錯する。
蛇竜自身をも焼く荒ぶる光の乱舞を潜り抜けた瑠璃の蹴撃が、薙ぎ払う尾の一撃とぶつかり合い。
互いに弾かれながらも振り下ろされる蛇竜の牙を、克己の刃が、さらには光流の刃も合わせて外へとそらし。
続けて踏み込む恭平を焼き尽くさんと、荒れ狂う光が降り注ぎ――、
「花の世よ、在れ」
瞬間、ティアンの声と共に一面斉放するのは幻影の花々。
鮮烈に灼き付いて、瞬く間に弾けて消える、それはひかりの泡。
楽園の加護を受けて恭平は拳を握りしめ、
「喝を入れるぞ」
突き出す一撃は光を払って蛇竜へと突き刺さり、追撃をかけるテオドールの砲撃が蛇竜をよろめかせる。
「さて、そろそろ戻ってくる気になったか?」
幾度目かの交錯を経て、油断なく得物を構えたまま恭平は蛇竜を見据えて息をつく。
攻撃が重なるたび、言葉が重なるたび。
少しずつ、蛇竜の姿は変わってゆく。
纏う衝動が薄れ、気配が揺らぎ。
瞳が、声が、少しずつ変化してゆき、
「なら、これで――」
襲い掛かる牙をくぐりぬけ、踏み込む光流が手にした刃を蛇竜へと閃かせる――その刹那、
「ぐっ……うぅ」
「っ!」
これまで以上に『彼』のものに近づいた苦悶の声に、一瞬、その刃が止まる。
直後、振り抜く尾が光流を跳ね飛ばし。そのまま体勢を立て直すより早く、叩きつけられるのは荒ぶる光。
しかし、
「く、まずっ――なぁ!?」
「……ぐ、ぅ」
その光を、割り込む巨影が受け止める。
苦痛をこらえる声とともに、飛び散るのは赤の鱗。
「な……何やっとん!?」
目を見開く光流に、蛇竜は一瞬だけ元の『彼』と同じになった目で笑いかけ。
直後、その眼はまた衝動に飲み込まれて……、
「地球で生きるて言うてたやん。それが……こんな光に焼き尽くされて消えてまうとか、そんなんちゃうやろ!」
「勝手に満足していなくなるなんて、許さないアルヨ!」
「ほんま無茶しよってからに! 絶対に連れ帰るで――西の果て、サイハテの陽よ、呼ばれて傷を癒しに来たって!」
叫ぶテオドールに頷き応え、光流が刃を振るって頭上の空間を真一文字に切り裂けば、そこから溢れ出すあかね色の光が彼らを包み傷を癒し。
「あいつの限界も近い。阿頼耶識がこれ以上蝕む前に、戦闘不能に追い込むぞ」
「ああ!」
「いくネ!」
見据える克己と共に、光流とテオドールは得物を握り地を駆ける。
「ワタシの声を聞くアルヨ、チャル!」
息を吸い、テオドールが紡ぐのは追憶に囚われず前に進む者の歌――『幻影のリコレクション』。
暴走してなおチャルが抱き続けている過去の後悔。
それは、彼にとってそれだけ大きな思いなのだろう――けれど、それだけを見つめているなら、それは古い記憶にとらわれているのと同じこと。
(「前を向くためには一度過去に背を向けなくてはならないヨ」)
過去を捨てるのではなく、過去を背負って歩くために。
その先に過去からの物語の続きがあるのだと、テオドールは歌に乗せて呼びかけて。
続けて、瑠璃が、沙耶が、蛇竜の奥に眠るチャルへと手を伸ばす。
離れ離れとなった大切な人と再会することは、かつては自分達も抱いた願い。
「だから、チャルさん。もっと世界を見て、もっといろんな人と話をするといいよ」
「私と瑠璃が再会するまで11年、瑠璃がケルベロスとして活動を始めてからも3年掛かりました」
「戦場を巡り、世界を見て、いろんな人と話して――そうして、僕は沙耶さんと再会できたんだ」
「だからチャルさんもいつか求める人に会えると思うのです」
まだ見たことのない世界を巡り、人と交わるその先で、いつかきっと求める人に会えると。
その祈りを込めて、沙耶は蛇竜へと手をかざす。
「その願いを叶えるために――勝利の運命を切り開きます!」
声に応え、呼び出されるのは赤銅色の戦車。
同時に放たれた瑠璃のプラズムキャノンと共に、勇猛果敢に駆け抜ける戦車が蛇竜へと突き刺さり、その身を揺らがせて。
なおも振るわれる尾の一撃を、ティアンのオウガメタルを集めた拳が受け止める。
「っ、チャル、地球のどこが好き? そんなことも、ティアンは知らないままだ」
受け止め、それでも腕を通して伝わる衝撃をこらえながら、ティアンはチャルへと問いかける。
最近までデウスエクスだったならば、地球を愛した故の定命化を経ているはず。
それは、地球で生きることを選んだ――未来を見た選択だったはず。
「――グ、アァ、アアア!」
問いかける言葉に揺らぐ心を映し出すように、蛇竜は叫び。
同時に、背負う光輪は荒れ狂うように輝きを増して、周囲へと無差別に破壊の光を降り注がせる。
けれど、
「我呼ぶは黒の氷壁、我らが前の不破の盾となれ!」
響き渡る恭平の声。
古代精霊魔法にて呼び出される、呪句を刻んだ極低温の石壁が光の暴威から仲間を守り抜き。
なおも石壁を越えて降り注ぐ光より早く、克己は駆ける。
「お前さんが体を張ってくれらから勝てた。だったら、俺も体を張ってお前さんを助ける!」
彼と共に駆けるのは、大切なパートナーの幻影。
「さぁ、来い! 俺は、俺たちはそう簡単には止まらねぇぞ!」
大地の気を集約し、連続して閃く二人の刃が降り注ぐ極光を切り払い。
切り開かれた道を駆ける光流とテオドールの背と、その先の蛇竜の中に眠るチャルへと、エヴァリーナは笑いかける。
「雨って受けとる人によっては悪い天気~とか嫌な空模様~とか悪者にされちゃうんだけど……雨を優しいものとして受け取れるチャルくんは、きっと心が優しい人なんだろうね」
雨に降られれば濡れて汚れてしまうけど、雨がなければ木も花も生きていくことはできないもの。
「花に水を降らせるみたいな優しい気持ちは、きっと咲き誇るキレイなものになって帰ってくるよ」
伸ばした手から走る雷光に背を押され、最後の一歩を踏み込んで光流は手にした刃を振りかざす。
「いい加減、戻って来や!」
「目を覚ますアルヨ、チャルのドあほー!」
刀の峰を返し、振り下ろす一撃。
同時に叩きつけるテオドールの頭突き。
叫びと共に二つの打撃が蛇竜へと叩き込まれ。
直後、周囲を光が――荒れ狂う阿頼耶識とは違う暖かさに満ちた光が満たし。
光が収まった時、そこにあるのは砂浜に倒れこむ『3人』の姿。
光流、テオドール、そして――。
「お帰りなさい、チャルさん」
「お加減はいかがですか?」
元の姿に戻ったチャルへと、瑠璃と沙耶が笑顔で歩み寄る。
仲間を守るために喪いかけた繋がりは、仲間達との絆で再び繋ぐことができた。
日々を過ごす中で、戦いの中で。
積み重ねてきた繋がりは、きっと過去と今と未来を繋ぐ力になるはず。
だから、
「さあ、帰るべき場所に帰りましょうか。そういう日々の積み重ねの先に求め人がいるはずですから」
作者:椎名遥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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