雪白の日

作者:崎田航輝

 青空の下に、雪色のシルエットが鮮やかに映える。
 大通りを使って展示されているそれは、幾つもの雪像。人物や風景を模したそれは雄大な、或いは精緻な造りで人々の目を楽しませている。
 ばかりでなく広場にはかまくらが作られ、その近くには氷のベンチもあって。冬の寒さの中でもこの日は多くの人が行き交っていた。
 街の公園と道を使って催されているそれは――雪祭りだ。
 見た目に楽しいばかりでなく、道々には露店が並んでいて。カフェや食事処も近いから、人々は雪景色を眺めながらも種々の食事を味わっている。
 自身で作った雪像を展示できる一角もあって、そこも人気。
 活発に雪遊びをする子供達の姿も見えて――皆が賑やかに、また和やかに。雪色に満ちた時間を送っていた。
 と――そこから少し離れた、公園の林の間。
 筐体の半分以上を雪と土に埋もれさせながら、人知れず横たわる機械があった。
 それは旧いスピーカー。過去の催しで使われてから回収されずにいたのだろうか、見える部分だけでも外装が割れて、壊れていることが判る。
 今ではこの辺りでイベントも行われない。だからこのままならば、誰にも見つからずにいる……筈だったけれど。
 そこに静かに這い寄ってくる、小さな影がある。
 コギトエルゴスムに機械の脚が付いた小型ダモクレス。そのスピーカーへと辿り着くと、内部に入り込んで一体化していた。
 するとそれは機械の足を生やして動き出し……雪を払って立ち上がる。
 そのまま、ダモクレスとなったそのスピーカーは広場へと飛び出して――濁った音を響かせながら、人々へと襲いかかっていった。

「冬らしい日が続きますね」
 澄んだ風の吹き抜けるヘリポート。イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
「こんな時期だからこそ、盛り上がるお祭りもあるようですが――」
 そんな中にダモクレスが出現することが予知されたのだという。
 曰く、木々の間に旧いスピーカーが放置されていたらしく──そこに小型ダモクレスが取り付いて変化してしまうようだ。
「このダモクレスは、人々を襲おうとするでしょう」
 そうなる前に撃破をお願いします、と言った。
「戦場は公園の林の前です」
 ダモクレスが木々の間から出てくるところを、こちらは迎え討つ形となるだろう。
「一般の人々については事前に避難がされますので心配はいりません」
 戦いに集中できる環境でしょうと言った。
 周囲も荒れずに終わらせることが出来るはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利出来たら、皆さんも雪祭りを楽しんでいってはいかがでしょうか」
 雪像を眺めたり作ったりするだけでなく、屋台を始め食事の店も揃っている。雪と食事を楽しんで、冬らしい憩いを過ごしてみては、と言った。
「そんな時間の為にも――是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)

■リプレイ

●白景
「おー雪が見事に」
 濁りない、澄んだ白色。
 展示された雄大なシルエットと、道にも積もるそれを――降り立った塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は見回していた。
 平素そこまで雪に馴染みもないからこそ、心に珍しく。
「年甲斐もなくワクワクしちゃうね」
 ま、寒いのは苦手なんだけど、と上着の前を合わせていると……隣ではティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)もまた体を震わせて。
「そうだねー。こんなときは蹄から冷え切る前に、いっぱい動いてあったまらないと」
 と、言いながら視線を後方へ。
 その先、雑木林が茂る中に――俄に動く影を見つけていた。
 木々を縫って出てくるそれは、嘗てスピーカーだったもの。
 途切れ途切れの歪な音色に、グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)は仄かに眦を下げる。
「んん、ん……壊れた感じの音ー……ちゃんと音が出なくなって怒ってるのかなー」
 それとも悲しんでいるのだろうか。
 自分には直すことも出来ないから、それは判らない。けれど、止めることはできるから。
「誰かを傷つけちゃう前に、もうちょっと待っててなー!」
 それは優しい心に灯る、戦いの意志。
 ダモクレスはそれに如何なものを抱いたか、ただ真っ直ぐに敵意を向けてくる、けれど。
「せっかくの雪祭りを騒音で妨害なんてさせないよ」
 突撃銃のスコープを、澄明な蒼の瞳で覗き込んでいるのがリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)。
 レティクルにしかと機械の体を収めて、引き金を引けば――放たれるのは眩く煌めく魔力の光線。弾ける衝撃で筐体を深く穿っていた。
 ダモクレスはふらつきながらも音波を放つが、翔子、グラニテ、そしてタキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が前面で受け止めて防御。
 一瞬後には、リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)がそっと手のひらを向けて。
「今、癒やすぞ!」
 現出した魔法円より光を纏った精霊を召喚。『どうかアナタに幸せな結末を』――煌めく鱗粉を舞わせ、癒やしの祝福を与えていた。
「ありがとうございます」
 返したタキオンもまた空へ色彩揺らめく魔力を昇らせて――。
「薬液の雨よ、皆を清めて下さい」
 注ぐ雫で苦痛を流してゆく。
 ティフも咲かせた花から黄金色の光を瞬かせると――翔子も閃く雷を壁として展開し仲間の守りを堅固化。
 時を同じく、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)も鎖を踊らせ、天頂環を描くように光の守護陣を現出。眩く皆を包んで万全を期していた。
「コレで問題ないな。後は宜しゅう」
「ああ」
 応えるラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)は銃口より、星を奔らせる。
 無数の狂弾が煌めき舞い踊り、清冽に荒れ狂う――『游星』。穿つ衝撃は鋭く深く、機械の体を貫いてゆく。
 それでもダモクレスはノイズを振りまいた、が。
 グラニテが描いた景色から治癒の旋律を響かせ治癒すれば――リーズレットの傍らから箱竜の響が飛翔。蒼に耀くブレスを浴びせて音を吹き飛ばし、全身を切り刻んでゆく。

●決着
 断続的に音が溢れては消えてゆく。
 ダモクレスは未だ斃れず、歩み続けようとしていた。そこに何かの意志の残滓を見取るように、ラウルは呟く。
「嘗て人の営みと共にあったが故に――懐かしい祭りの賑わいに惹かれたのかな」
 でも駄目だよ、と。
「ここから先には行かせない。君の音が誰かを壊してしまう前に眠らせてあげる」
「ああ。悪ぃが、ヒトも祭も壊される訳にゃいかねぇからな」
 キソラも手を伸ばし、流れる光を瞬かす。
 空から降ろしたかのようなそれは『彩光ノ深淵』。雲間に色を分離させる陽光の如く、美しく、心を囚えるように惑わせた。
 止まるダモクレスへ、ラウルが刃の如き蹴りを打ち込めば――タキオンも長髪を風に揺蕩わせながら疾駆している。
 瞬間、雪を踏み抜くように高く跳躍。
 青空の眩さを逆光に浴びながらくるりと翻り――。
「さあ、この一撃を」
 どこまでも冷静に、狙い澄ました蹴撃。鈍い金属音を反響させながら、外装の一部を削り飛ばす。
 ダモクレスはそれでも体当たりを返すが、タキオン自身がしかと防御すれば、翔子が治癒の雷光を渦巻かせて傷を灼き払い――。
「シロも頼むよ」
 腕に巻き付いていた白竜も小さく鳴いて、淡く耀く属性の光で体力を保った。
 その頃にはリリエッタが『影ヨリ襲イ来ル弾丸』。放ったグラビティ塊を足元で爆ぜさせ、現出した影の刃で鋭く斬り上げる。
 平素は機械音痴で、複雑な機械は触っただけでも壊してしまうリリエッタだけれど。
「流石にダモクレスは中々壊れなくて頑丈だね?」
「今のうちに氷漬けにして型取って、雪まつりの石像としておけないかな……?」
 呟きつつ指先に凍気を凝集するのはリーズレット。有言実行、放つ魔弾でダモクレスを凍結させ固めてゆく。
 それでも身じろぐダモクレスだが――ティフが既に奔り出していた。
 地面に蹄の轍を残しながら、一息の内にその眼前へと迫って。繰り出すのは弾ける雷光を纏った痛烈な蹴撃。
「最後は任せるね!」
「ん、判ったぞー」
 斃れゆく敵を、グラニテは真っ直ぐに見つめて。
 そっと奔らせた風に乗せて描くのは――深紅の絵の具が形作る美しい流れ。
 『深紅の嵐』――ダモクレスにはそれが荒れ狂う鎌鼬に見えたろう。幾重もの裂傷に蝕まれ、その生命を朽ちさせていった。

●白妙の日
 周囲にヒールをかけ終えた番犬達は、人々を呼び戻して平和を取り戻す。
 程なく祭りが再開されると、辺りも賑やかになってきて。グラニテも散策を始めつつ……景色をくるりと見回していた。
「やっぱり雪はいいよなー、柔らかさも冷たさもちょうどいいよなー……」
 飛び込んで埋もれたい気持ちになりつつ。
 それは一先ず我慢して、ほわほわと触れるだけに留めながら――気付くと近くに大きなシルエットが見える。
「おっ、雪の像かー……!」
 自分で作って並べても良いらしい。
 なので、早速そうしようと――近くを歩んでいた巫山・幽子へ声をかけた。
「モデルになってくれないかなー……?」
「私で良ければ……」
 そっと幽子が頷くと、グラニテはお礼を言って作業を始める。
(「自画像はもう、ひとりの時にいっぱい描いたからなー……」)
 それ以外の題材で創作出来ることが嬉しくて。
 まずは杭打機で大まかな人の形へザクザクと整えて――細かな所はこのために準備してきた彫刻刀で細工。
 器用さを十分に発揮して、完成したのは雅な雰囲気の、幽子に瓜二つの石像。
「綺麗にできて良かったー、ありがとうなー……!」
「凄く、お上手です……」
 と、幽子も仄かな驚きを見せながら。私こそありがとうございました、と、暫しそれを眺めていた。

 リーズレットはダモクレスの残骸から使える部品を取り出して……新たなスピーカーとなれるよう、専門の業者へと託していた。
 それが済めば――。
「早速雪まつりだ!」
「れっつごー!」
 共に腕を突き上げるのは瑞澤・うずまき。
 祭りと言えば食だと、一旦分かれてから買い物後に合流。二人でかまくらに入り――リーズレットはほっと息をつく。
「かまくらの中って結構暖かいんだなぁ……」
「ほんとだねー」
 うずまきも同意しつつ、改めて、と。
「リズ姉、お仕事お疲れ様!」
「ふふっ、ありがとう! うずまきさんもサポお疲れ様!」
 リーズレットもニッコリと返して、買ってきたものを卓に並べ始める。
「まずは甘酒!」
「あっ、甘酒、ボクも買ったよ!」
「じゃあ次は、あんまんに肉まん!」
「あんまんと肉まん、こっちも!」
「最後はちゃんちゃん焼きと豚汁!」
「わぁ、それも! ぷふふ♪ 結局同じ様な物買ってたんだね♪」
 いつもそんなところがあるな、なんてクスリと笑えば、リーズレットも微笑みを零してほっこりと。
「それじゃ、食べようか!」
「うん♪」
 あんまんの温かな甘みを楽しんで。肉まんもはむはむと味わうと、香ばしいちゃんちゃん焼きも絶品。
 豚汁で心身共にほかほかになれば、甘酒を頂いてふぅ、と寛いだ吐息。
「色んなご飯があるの、すっごい楽しいね!」
 うずまきが心から言えば、リーズレットも頷いた。
 何より、笑顔のうずまきを見ながら食べるご飯はいつもの倍美味しくて。
 これからもよろしくと、瞳を向けるうずまきに、リーズレットも『私の方こそ』と心で唱えながら――二人で和やかに食を進めていった。

 雪だけでも心躍るのに、祭りだから尚愉快な気持ちで。
 屋台や足音や、楽しげなラウルの声が白に跳ね返って耳に残るから、燈・シズネは嬉しくて笑みが零れる。
 ラウルもまた紡ぐ言葉に返る声音、添う足音が嬉しくて、如何し様も無く頬が緩む。
 だからそれを誤魔化すように立ち止まり。
「俺達も素敵な雪像を作ってみない?」
「よし! それじゃあ……大きな猫雪像にしよう!」
 応えるシズネは身体担当。「まかせろ!」と見得を切って雪を集め始めていた。
 それに微笑みつつ、ラウルは頭担当。猫好きな故当然可愛く作りたいと、家猫の姿を浮かべながら丁寧に形作ってゆく。
 完成した雪猫の顔を見れば――。
「うん、我ながら中々の仕上がり!」
 少々小さいけれどふくふくとした表情がお気に入りで。
「シズネも完成した?」
 と、隣を見ると……雪色に包まれた得意気な彼の姿と、ふとっちょ――否、たくましいボディの胴体がどっしりと。
「これはふと……つよそうだね」
「強いのは良いことだからな!」
 と、雪まみれなシズネは満足気。
 実際、ラウルが頭を乗せてみると少し不均衡だけれど……何とも愛嬌があって。
「ん、俺は好きだよ」
「なら、最高の出来だ!」
 ラウルが褒めてくれたのならそれが一番、と。シズネは心から言って、雪猫のお腹をさすっているのだった。
 二人の力作に、ラウルもまた笑みを燈して。
「写真、撮ろうか!」
「ああ!」
 シズネもとびきりの笑顔を作って、どすこい雪猫像と共に二人で記念撮影。
 雪白の日の、良い思い出を形に残して。
 次はどこを見ようか、何かを食べようかと。心も雪色のぬくもりに染まっていく中、二人はまた歩み出す。

「おーすげぇ、雪だ雪、雪の建造物!」
 キソラはサイガ・クロガネと共に道を行きながら、声音を明るくしていた。
 自然の雪景色はなんやかんや見に行くけれど、こういう場にはあまり来ない。だからカメラ片手に、並ぶ雪像に興味津々だ。
「アレでっけぇな~何の雪像?」
「ウシ……、に見えっけど」
 と、サイガも仰ぎながら、半ば呆気に取られた表情で。
「コイツら全部雪で出来てるって――」
 はぁー信じらんね、と。その辺の白い山に触れて、冷たさに本物だと改めて確かめていた。
「んな寒い中、雪遊びたぁ逞しいこった」
「だなぁ」
 応えるキソラ自身もまた少々はしゃぎつつ。シャッターを切るときはちゃっかりとサイガも収めていく。
 歩んだ先で氷のベンチがあれば指差して。
「溶けねぇンかね、ちょい座ってみろよ」
「……アンタに譲ってやんよ」
 どう見ても寒いやつだと判断したサイガは、寧ろキソラを押しやった。
「年寄りファーストってな」
「うわっ、つめてー! 次はソッチの番だぞ」
「うぉっ」
 と、キソラが引っ張るとサイガも転がり込み、二人で手が張り付いたとか霜が付いたと騒ぎつつ。
 寒さが沁みてくれば、屋台へ。
「いまならなんでも旨く頂けそーだわ。こっからは俺の遊びに付き合ってもらうぞ」
「ぇえ~、ちゃんと食えるモン選べよ」
 キソラが言えば、サイガは判ってるってと吟味を始める。と、キソラは遠くに白いドームを見つけて。
「なあ、あったかいモン買ってかまくらで食おーぜ」
「俺らも雪像になるっての」
 つれない態度のサイガだったけれど……ぽっぽ焼きにあんまき、ゼリーフライと買い揃えつつかまくらに着くと。
「へえ。ぬくいな――」
 物珍しさを楽しみつつ。二人で甘味や温かな美味を味わい、過ごしてゆくのだった。

 ノチユ・エテルニタは幽子を連れて出店へ。
 沢山の食べ物を買ってあげると――氷のベンチに敷物を敷いて、共に食事を始めた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます……」
 おでんやたい焼きをはふはふと食べる幽子の姿を、眺めつつ。氷の卓や柵に、おとぎ話のようだと感心を覚えながら――雪像も見つめる。
「幽子さんはどれがすき?」
「私は、綺麗な景色に見えるものが……」
「ん、なるほど。……雪といえば」
 と、ふとまだ綺麗な雪を掬うと――小さな塊を形にして卓の隅にちょこんと乗せた。
「雪兎、前より上手くなったよ」
 兎の耳と目を向けて言う。
 すると幽子は微笑みで応えて、そっと触れながら。その内に自分も兎を作って……その隣に並べて見せたのだった。

 タキオンはゆるりと雪道を歩いて散策。
 人波を縫いながら行けば、程なく視界には雪像達が映って。
「成程、これが噂の」
 暫し歩みを緩めて、眺めてみることにする。
 一番衆目を集めているのは、美しい森の景色を象った作品。縦に横に、巨大なサイズである分迫力もあった。
「技術、だけではない情熱を感じますね」
 それもまた人の為せる業なのだろうと、そんな実感を抱く。
 勿論、大きくない雪像も見事なものばかりだ。人を象ったものや、可愛らしいキャラクターもあって、各々の想像力を感じさせた。
「ふむ、素敵な雪像ですね」
 見ると造形が美しいだけでなく、細部までが綺麗に仕上げられていることが判る。
 全体に拘って、ディティールも深堀りする。その行程が、どこか自分が行っている研究にも通ずるような気がして。
「時間をかけて作られた、その成果――」
 こうして見ているだけでも勉強になりますねと、呟いた。
 賑やかな祭り。
 芸術的な作品。
 それは人の心が作り上げ、人を幸せに出来るもの。だから自分ももっと、と。タキオンは思いを新たに、また歩み出す。

「運動して温まったはずなのに……あっという間にまた冷えちまったね」
 人々の熱気は感じれど、風は真冬の温度。
 吐息を白く染めながら、翔子は歩み出していた。
「あー、寒い」
 肩を縮こまらせつつポケットに手を入れるけれど、それでも不十分。そんな折に、湯気を上げる屋台を見つけるから――。
「よし、おでん屋行って、一杯やって帰るか!」
 思えば表情も幾分明るくなって。
「そうと決まれば行くよ、シロ」
 シロも小さく鳴いて応えるから、翔子は足を速めて早速おでん屋へ。ちくわに卵、勿論大根も注文した。
 お待ち、とつゆたっぷりの器が置かれると、よしよしと翔子は頷いて。
「それじゃ――」
 まずは大根を一口。ほろりと解ける柔らかさと、熱々の美味を楽しむ。
 出汁の染みたちくわに、卵も堪能して。一頻り満足すると、シロが自分の分を小さな口でつついているのを見ながら……熱燗を一杯。
「温まるねぇ」
 快い辛味に、疲れも寒さも融けてゆく。
 ふと眺めれば、人々が愉しげで。そんな平和を見やりながら……ごっそさん、と。翔子はお代を置いて帰路についていった。

「可愛い雪像も、いっぱいあるね――」
 リリエッタは雪像の並ぶ一角へやってきていた。
 心が惹かれるのも幾つもある。手のひらサイズから人と変わらぬサイズまで、キャラクターを模したものも多いから。
 けれどリリエッタも、負けていない。
 人々が像を造っているその輪に加わると……専用の型を準備した。
 丸みを帯びた顔と体、可愛らしい耳に羽を持つそれは――紛う事なきナノナノの形。
「これで、いっぱい作るよ!」
 かき集めた雪を二つに分かれたそれへぎゅっと詰めていき、最後に合わせて外せば……実寸大のナノナノ像の出来上がり。
「うん、可愛い……!」
 キュートな印象そのままに、後は表面もなめらかに整えつつ――それを量産。公園の一角いっぱいにナノナノ雪像が並ぶ、壮観な景色が完成した。
 それが子供達に人気となって、人が集まり始めると……リリエッタは満足してお店へ。
「えーっと、あっ、あれ美味しそう――」
 と、見つけたじゃがバターを購入。
「ん、暖まる……」
 ほくほくの食感と、熱々の温度に癒やされたように、暫しベンチで食しながら……雪像を眺めて寛ぐのだった。

「うう、あんまり動かなかった……!」
 戦いで温まろうとしたけれど、後方支援でもあり、スムーズに済んだせいでもあろうか。ティフは変わらぬ体温のまま道を行く。
 勿論祭りは見ていくつもりだけれど、どこかで温まれれば、と。思った時、丁度そこにかまくらを見つけた。
「わぁ……!」
 入ったこともないし、気になっていた所。
 そういうわけで、お邪魔してみることにする。
 と――。
「暖かい……!」
 何とも心地良い温度に、表情も和らいだ。
 壊さないよう静々と見回すと、本当に雪だけで作られていて見事。この暖かさでも溶けないようで……暫しゆっくりとさせてもらった。
 飲み物も頂けたので、十分に寛いでから――ティフは改めて外へ。並ぶ雪像を端から眺め始めてゆく。
「いっぱいあるのね……!」
 心躍る声音で、足取りも軽やかに。
 文字通りの巨像や、人魚や妖精を模した可愛らしいもの、そして時におどろおどろしいキャラクターまで。
「どれも面白いね」
 判りやすいものには、やっぱり惹かれてしまいつつ。作り手の信念やおふざけ、拘りを感じる造形を心に留め、祭りを巡っていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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