死は救済なり

作者:神無月シュン

 夜の散歩を楽しんでいた最中、聞こえた悲鳴に路地裏へとやって来たシーリン・デミュールギア(断罪天使・e84504)。そこには切り裂かれ無残に転がる血塗れの遺体が3つ。
「これは酷いわね……」
 漂う血の匂いに、口元を押さえる。そのシーリンの元へ路地裏の奥の方から、足音がやって来る。
「生存者か、犯人か……」
 様子を窺うシーリンの前に現れたのは、身の丈程の大きさの鎌を携えた女性。
「ま、まさか……」
 その姿を確認したシーリンは驚愕の声をあげる。
 女性はシーリンを一瞥しすぐに鎌を振り上げると、そのままシーリン目掛けて振り下ろした。
 シーリンは即座に反応し、後方へと飛び退くと女性を睨みつける。
「やっと見つけた、死神『メシエ・デミュールギア』。今日こそは姉の身体、解放してもらうわ!」
「死は全てを救済する。アナタも死を受け入れなさい」
 シーリンの言葉を無視し、死神はシーリンへと襲い掛かるのだった。


「シーリンさんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました」
 急ぎ集められたメンバーに、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は説明を始めた。
「急ぎ連絡を取ろうとしたのですが、シーリンさんとの連絡がつかないのです」
 セリカの言葉に会議室がざわつく。連絡がつかないという事は一刻の猶予もないだろう。シーリンが無事なうちに救援へと向かいたい。

「シーリンさんとの関係は分かりませんが、敵は女性の姿をした死神です。恐らく皆さんが辿り着くときには、路地裏で交戦中だと思われます」
 近くに一般人は居ないようで、避難誘導をする必要もない。
「死神は武器として大鎌を使用しています。それとは別に、死神の歌声はその音色であらゆるものを破壊する力を秘めているようです」
 死神は単独で行動し、配下を連れている様子はない。

「シーリンさんを救う為、皆さんの力を貸してください」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)
シーリン・デミュールギア(断罪天使・e84504)
リリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)
ナルセス・マクファード(背負いし使命・e86885)

■リプレイ


 仲間の窮地の知らせを受け、ケルベロスたちは夜道を行く。
「後どれくらいで着ける?」
 今まさに交戦しているであろう、シーリン・デミュールギア(断罪天使・e84504)の元へと早く駆けつけたい狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)の言葉には焦りが見えた。
「焦る気持ちも分かりますが、落ち着いてください」
「シーリン様はきっと無事ですわ」
 カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)とリリス・アスティ(機械人形の音楽家・e85781)がジグへと声をかける。
「少しだけ待つのである」
 そう言うとナルセス・マクファード(背負いし使命・e86885)は『ゴッドサイト・デバイス』を使い周辺の探索を始めた。
「反応はこの先500mの地点であるな」
「あと少しです。行きましょう」
「ああ。急ぐぜ」
 ジグは肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)の言葉に頷くと、先頭をきって走り出した。

「くっ!?」
 紙一重で死神の攻撃を躱し、一度距離を開けるシーリン。
 シーリンと同じように身の丈程の簒奪者の鎌を扱い、女性の姿をした死神『メシエ・デミュールギア』。
「何故避ける?」
 死神は不満気な顔で、シーリンへ問いかける。
「アタシはここで死ぬわけにはいかないの」
「死は全てを救済するというのに……理解できない」
「理解して貰おうとは思わないわね。アタシとアンタじゃ考え方が違うのだから」
 睨み合うシーリンと死神。お互いが攻撃の機会を窺う中、シーリンは背後から声をかけられた。
「……よおシーリン。仲良く水入らずの所悪いが、水を差させてもらうぜ」
 ジグがシーリンの隣へと並ぶ。その後ろから次々とケルベロスたちが姿を現した。
「皆、来てくれたのね」
「仲間のピンチに駆けつけるのは当然です」
 鬼灯の言葉に皆が頷く。
「てめぇ……何の罪もねー人間にこんなひでぇことしやがって!」
 遺体を見つけた帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)は『ワイルドライフル』を死神へと向け、怒りを顕わにした。
「既に犠牲者が出てしまってますか……これ以上犠牲者が出る前に止めましょう」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は打ち捨てる様に転がっている遺体を見つけ呟くと、死神へと視線を向けた。
「死神になった身内には覚えがありますが、これ以上過ちを犯す前に止めたいですよね」
「ええ。ここで決着をつける」
「おい、いいのか? 相手は……」
「ここで倒さなければあの人たちみたいな犠牲者が増えてしまう。だから容赦はいらない」
「そういうことなら、慈悲も容赦もなくガンガン攻めるぜ」
 ジグの言葉を皮切りに各々武器を構え、戦闘態勢へと移る。
 シーリンはガスマスクを装着すると、『殲血魔掃鎌・No,08【バルバトス】』を構えなおした。
「かかってきなさいよ……死神!」


「うけなさい、熾炎業炎砲」
 那岐の放った炎弾が辺りを照らしながら死神に向かって飛んでいく。死神に当たると同時、炎が爆ぜる。
 そこに続くのはカロンとミミックのフォーマルハウト。息の合った連携で連撃を浴びせていく。
 その間に精神を集中していた鬼灯。掛け声と共に、死神の腕で突如爆発が巻き起こる。
 死神が苦痛の表情を浮かべる。だがそれも一瞬、死神は側にいたカロンに向かって鎌を振り下ろした。受けた傷口から生命力が奪われていく。
「カロンさん、離れて」
 声を受け飛び退くと、翔がカロンと入れ替わる様にして死神の懐へと飛び込んだ。翔は腕を巨大刀へと変形させると、力任せに振り下ろす。
「死ぬのは怖くねぇか? ならせめて……恐れて貰おうか」
 ジグのバトルガントレット『滅骸・リィンカーネイション』から撃ち出される重力震動波。その衝撃に一歩二歩と後退る死神。
「これも喰らうである」
 上空から繰り出されるナルセスの飛び蹴りが追いうちをかける。
「この隙に回復をしますわ」
 2人の攻撃により死神が怯んだ瞬間をついて、リリスがマインドリングに力を込めるとマインドリングが輝き出し、浮遊する光の盾が現れカロンの元へと飛んでいく。
「自分で殺しておいて図々しいかも知れないけど……もう一回殺すから……」
 シーリンは懐から惨殺ナイフ『殲血魔掃剣・No,04【ガミュギュン】』を取り出すと死神の顔をその刀身に映し出す。
 那岐がフェアリーレイピア『舞剣「ローズマリー」』を突き出すと、その先端から花の嵐が巻き起こり、死神を閉じ込めた。
 その間にカロンと鬼灯が手分けして、前衛、後衛の守りを固める為、地面にケルベロスチェインを走らせ、魔法陣を描いていく。
「―――――ッ!!」
 死神が口を開くと暴力的な歌声が、夜の街に響き渡る。
「う……あ……」
「くっ……」
 耳を塞いでもなお聞こえる歌声に、ケルベロスたちは苦悶の表情を浮かべる。
 未だ続く破壊の歌声に、前衛に展開されていた守護の魔法陣は破壊され、建物の壁や地面に亀裂が走る。そして、転がる遺体をもぐちゃぐちゃに破壊していく。
「死を以って全ては救済される」
「ふざけやがって! 妹の時といい、どんだけ命を弄べば気が済むんだ!」
「生憎救済には興味がないんでね。そのために死ぬのなんて真っ平ごめんだ」
 翔が『ワイルドライフル』の引き金を引くと、エネルギー光弾が発射された。エネルギー光弾の直撃を受けた死神の元に、ジグのチェーンソー剣『骸音・【死神熱破】』が襲い掛かる。
 リリスは破壊された前衛の魔法陣を描くため、地面にケルベロスチェインを展開していく。
 ナルセスがネクロオーブを掲げると、オーブから水晶の炎が溢れ出した。熱を持たないその炎は死神を容赦なく斬り刻んでいく。
「ジャストミートね……食らえぇぇぇ!」
 シーリンが死神目掛けて『殲血魔掃鎌・No,08【バルバトス】』を投げる。手元を離れた鎌は回転しながら飛んでいき、死神を斬り刻むとブーメランの様にシーリンの手元へと戻っていった。


 死を救いとする死神。生かす為に戦うケルベロス。両者の考えはいつまでも平行線で決して交わることは無い。互いに考えを貫く為、攻撃は激しさを増していく。
「舞え、木蓮の花、戦友達に癒しの加護を……」
 那岐が御神楽を舞うと、木蓮の花が舞い那岐自身を包み込んでいく。
 カロンの掌から放たれたドラゴンの幻影が死神を焼き、鬼灯の拳が死神の胴へとめり込んだ。
「―――――ッ!!」
「うっ……また!?」
 何度目かになる死神の歌声が静寂を切り裂き、あらゆるものを破壊せんと広がっていく。最初亀裂が走っただけの壁や地面も崩れ、外灯の電球が弾け飛ぶ。
「こ……のぉぉぉぉ!」
 ジグは耳から血を流しながらも、死神へと近づくと『骸音・【死神熱破】』を振るう。
「無茶しやがって」
 歌声が止み、翔が一気に距離を詰めると、ワイルドウェポン『流星霊華』へ混沌を纏わせ死神へと叩きつけた。
「大丈夫ですか?」
「回復するである」
 リリスとナルセス。魔法陣と光の城壁、2重の守りが前衛の仲間を包む。
 シーリンの放った不可視の虚無球体に左腕を飲まれ、死神が驚きの声をあげる。
 態勢を立て直す暇を与えずに那岐の空の霊力を帯びた斬撃が死神を襲う。
「残念だけど、君はもう動けない」
 カロンが手を触れると、右脚の関節が外れバランスを崩した死神は地面へと横たわる。
「もう大丈夫ですよ」
 鬼灯の秘術によって生み出された緑色の清浄なオーラが後衛の仲間を包み込む。
「てめぇの肉片一つ……いや、魂まで残らず全て喰らい尽くしてやるぜ! 消えちまいな!」
 翔が混沌の力を最大解放。溢れ出した混沌に死神の体が徐々に飲み込まれていく。
「死は救済には向かねぇぞ。その先に何も残らねぇからな」
 恨みを力に変え、死神へと叩きつけるジグ。
「わたくしの演奏、聴いて頂けると幸いです」
 リリスのバイオリンから奏でられる即興の夜想曲。
 ナルセスがガジェットを拳銃形態に変形させると、魔導石化弾を発射。弾丸は真っ直ぐ倒れる死神の元へ。
「さあ、シーリン」
「シーリンさん」
「やっちまえ!」
「トドメはお願いします」
「皆……ありがとう」
 仲間の言葉に背中を押され、シーリンは死神『メシエ・デミュールギア』の前へ。
「死が救済と言うのなら、望み通り救済してあげる……! 貴方の死をもって……!」
 シーリンが超高速で『殲血魔掃鎌・No,08【バルバトス】』を振るう。何千、何万と……。
「朽ち落ちて死ね、甘んじて!」
 シーリンの鎌が最後の一振りを終えると、死神『メシエ・デミュールギア』は光となって消滅した。


「会えて嬉しかったよ……。……さようなら……メシエ姉さん……」
 シーリンは死神が光となって消えた空間を見つめ呟いた。
「死が救済になる……か」
 ジグが寄り添う様に隣に立つ。
「仮にその通りだって言うなら、お前の姉はお前に救われたのかもな」
「そうだといい……な」
「きっとそうさ」
 2人はしばらく空を見上げていた。
 鬼灯は2人の様子を離れた所から見守っていた。
「あいつら……何でこんな酷いことができるんだ……!」
 3人の遺体の前で、湧き出す怒りが抑えられずにいる翔。
 その横でカロンは犠牲者の身元を確認して、警察に連絡をしていた。
 ナルセスは黙々と破壊の爪痕残る辺り一面の修復を進めていく。
 事後処理を終え集まるケルベロスたち。
「リリスさん、音楽をお願い出来ないかな?」
「わたくしで良ければ、喜んで」
 那岐の願いを受け、リリスはバイオリンを構える。
 夜の闇にバイオリンの音色が響き渡る。
 リリスの奏でる鎮魂歌に合わせて、那岐が神楽舞を舞い始める。
 ――悪意によって失われた命が、せめて安らかに眠れるように。
 カロンは持っていた『百合の花』の花束を道路の隅にそっと供えた。
 犠牲者の為、黙祷をささげる。
 演奏と神楽舞が終わった後も、皆しばらく動けずに立ち尽くしていた。
「さようなら……あたしも……帰らなきゃ……」
 今一度空間を見つめ、シーリンは仲間の元へ。
「さあ皆、帰りましょう」
 頷くと、一人また一人と歩き出す。皆が揃って帰れることを喜びながら、その場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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