攻性植物以外の植物を崇拝するのは、許さん!

作者:秋津透

「クリスマスツリーは不快だ。許せん。しかし、なぜ私はクリスマスツリーが不快なのだろう。わからない。教義として説けるほどの説得力がない。嗚呼……」
 長野県長野市郊外の山中。一体の鳥人間ビルシャナが、頭を抱えて悩んでいた。
「もたもたしていたら、クリスマスが終わってしまう。ツリーも片付けられてしまう。どうすればいいのだ……」
「悩むでない。汝の教義に、攻性植物の理あり。堂々と説くがよい」
 やたら偉そうな声にビルシャナが顔を上げると、いつの間にか蔦が絡まったような別のビルシャナが現われ告げる。
「汝がクリスマスツリーを憎むのは、それが攻性植物ではないのに崇められているからだ。崇められるべきは、植物の中の植物、攻性植物のみ。クリスマスツリーも松飾りも邪道である!」
「そ、そうか! そうだったのか! クリスマスツリーだけでなく、松飾りも邪道だったのか!」
 間に合う、クリスマスツリーはダメでも、邪道な松飾りの崇拝を阻止するのは、まだ間に合う、と唸るビルシャナの全身から怪しい蔦が生えてくる。
 その様子を見て、後から現れた、攻性植物に侵略寄生されたビルシャナ『光世蝕仏』は、にんまりと笑って姿を消した。

 そして数時間後。長野市郊外にあるホームセンターの店頭、松飾りや門松などの正月用品を売っている場所へ、蔦の生えたビルシャナが信者の車に乗って襲撃してきた。
「何が松飾りだ! 何が門松だ! 攻性植物以外の植物を崇拝するのは、この私が許さん! 天誅!」
 元気いっぱいに叫びながら、ビルシャナは全身から生えた蔦を鞭のように振るって、正月用品を店員もろとも薙ぎ払うのだった。

「長野県長野市のホームセンターで、攻性植物の力を得たビルシャナが「攻性植物以外の植物崇拝を許さん明王」と化し、松飾りや門松を扱う店を襲撃するという予知が得られました。対処をお願いします」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した口調で告げる。
「このビルシャナは、攻性植物に侵略寄生されたビルシャナ『光世蝕仏』によって力を得たようですが、既に『光世蝕仏』は消え去っており、捕捉はできません。また、ホームセンター襲撃前に、どこかで信者と車を手に入れているようですが、その時間と場所もわかりません。しかし、ホームセンター襲撃には、急げば三十分ほど前に到着して対処することができます」
 そう言って、康はプロジェクターに画像を出す。
「ホームセンターはここです。現在、地元警察に連絡して、店員、来客の避難を行っていますが、完全に閉めて無人の状態にしてしまうとビルシャナはよそへ行ってしまいますので、皆さんが急行して「松飾り・門松等の正月用品を扱う店」だけを店舗建物前で開いている状態にしてください。警察には、道路の封鎖や検問は行わないよう頼んでいます」
 そう言って、康は画像を切り替える。
「この画像は『光世蝕仏』のものですが、影響されたビルシャナは、だいたい似たような姿になっています。信者は、若い男女一名づつの二名。観光客の車を止めて、信者にして車ごと乗っとったらしく、ビルシャナが店舗襲撃を始めても車から降りてきません。しかし、何の対処もせずに戦闘に入ったら、ビルシャナの力で強制的にディフェンダーとして使われてしまうでしょう。すぐに戦闘に入らず何らかの方法でビルシャナの気を逸らしているうちに正気に戻すか、敢えて戦闘に持ち込み手加減攻撃で気絶させるか……それは皆さんにお任せします」
 何もせず殺してしまうのも選択肢のうちですが、ちょっとあんまりかと思います、と、康は顔を顰める。
「ビルシャナの能力やポジションは分かりませんが、ストラグルヴァインのような技を使っているので、攻性植物の武器グラビティは使えると見ていいでしょう」
 そう言うと、康は一同を見回した。
「ビルシャナが攻性植物の力を得る……タチの悪さは変わらないのかもしれませんが、もしかすると何か大きな変化に繋がる恐れもあります。『ヘリオンデバイス』での支援も可能な限り行いますので、どうかよろしくお願いします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)

■リプレイ

●怒涛の説得(?)ビルシャナ惑乱! 
「お正月飾りは縁起物だからね~。福が入ってくるよ~。鏡餅買えば年神様もやってくるよ~。松飾りは神様の道しるべになるよ~。年神様に感謝と祈りを捧げましょ~う」
 長野県長野市のホームセンター店頭。センターそのものは閉められており森閑として人っ気がないが、なぜか正月飾りを売る露店が一軒だけ入口前に出ていて、若い店員ことルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)が、客もいないのに賑やかに客寄せをしている。
 ルアの他には、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)の三人が、一応正月飾り店の店員っぽい上っ張りを羽織って佇んでいるが、ルアのような積極的な演技はしていない。
(「本物の店舗らしく見せてビルシャナをおびき寄せるには、客寄せした方がいいのかもしれんが……なんか、不自然さが際立つ気がするんだよな」)
 蒼眞が、言葉には出さずに呟く。
(「避難させたんだから他には誰もいないのは当たり前、というか居られちゃ困るんだが。どうにも不自然なのはどうしようもないな。まあ、たぶんビルシャナは気にもしないだろうが」)
 そう呟いて、蒼眞が肩をすくめた時。
 一台の車がホームセンターの敷地に入ってきて、ケルベロスたちの偽装店舗の前に止まった。そして後席のドアが開き、全身に蔦を生やした鳥人間……攻性植物に寄生されたビルシャナ「攻性植物以外の植物崇拝を許さん明王」が降りてくる。
(「来たな」)
 蒼眞は反射的に身構え、ルアも客寄せを止めてビルシャナを見やるが、その中でごく当たり前のように、シエナが軽やかな歩調で進み出る。
「Demander…あなたも攻性植物が好きなの?」
「う、うむ。我こそは、先達たる『光世蝕仏』の導きにより攻性植物の力を得たビルシャナ「攻性植物以外の植物崇拝を許さん明王」である!」
 フランス語で語り掛けられ、一瞬たじろいだビルシャナだが、何とか態勢を立て直して精一杯偉そうに告げる。
 しかしシエナは、眉を寄せた哀しげな表情で応じる。
「Impossible……攻性植物は、すべての植物を保護する、優しく寛大な存在なのよ。それが、人が他の植物を崇拝することを許さないなんて、そんな冷酷で狭量なことを言うはずがないわ。ありえない!」
「あ、ありえないと言われても、これは『光世蝕仏』の導きによる教えであってだな……」
 ビルシャナの抗弁を遮り、シエナは情感を籠めて説得(?)する。
「terrible! 『光世蝕仏』というのは、ビルシャナなんでしょう? 悪いビルシャナが、攻性植物を無理矢理支配下に置いて、その名を騙って、間違った教えを広めようとしているのね! 攻性植物と普通の植物、ひいては人々との間を裂こうとする、恐ろしい陰謀だわ!」
 そしてシエナは、ビルシャナではなく、ビルシャナから生えている蔦に向かって語り掛ける。
「Reveillez-vous! どうか目を覚まして! 悪いビルシャナの支配を撥ね飛ばして、本来の攻性植物の、優しく寛大な心に戻って! そしてビルシャナなんかではなく、私と、人々とともに歩みましょう!」
「ちょ、ちょっと、待て待て待て!」
 お前は、攻性植物を我から離反させる気か、と、ビルシャナは悲鳴じみた声をあげる。
 そこへ蒼眞が進み出て、これまた情熱を籠めて説得(?)する。
「道を見失いし迷える孤高の狼よ。思いだせ。『光世蝕仏』に惑わされる前の、自分自身の感情を。お前は、クリスマスツリーが憎かったんだろう?」
「そ、そうだ。その通りだ」
 応じるビルシャナに、蒼眞は断定的に告げる。
「ならば、なぜクリスマスツリーが憎くて松飾りや門松は憎くなかったのか、思い出すがいい。攻性植物以外の植物崇拝を許さん、などというのは、『光世蝕仏』に吹き込まれた他人の思想だ。お前自身の思想を、感情を思い出すのだ!」
「そ、そう言われても……」
 それがはっきり言葉にできなかったから『光世蝕仏』に縋ったんだけど、と、ビルシャナはますます当惑しまくる。
 そして、ビルシャナがシエナと蒼眞に完全に惑わされいることを確かめ、カタリーナが素早くその背後に回り、乗り捨てられた状態の車の中で呆然としている信者二人に接触する。
「おい、しっかりしろ。何をそんな痴れ者に惑わされている?」
 ドアを開け、ひそめた声でカタリーナが強く呼びかけると、運転席の男性と助手席の女性は、はっと我に返った表情になる。
「こ、ここは、どこだ? あなたは?」
「気が付いたか。私はケルベロスのカタリーナ・シュナイダー。お前たちは、デウスエクスのビルシャナに惑わされ、奴をこの場まで運ばされたのだ」
 言い放ち、カタリーナは男のシートベルトを手早く外す。
「ビルシャナがこちらに気が付くと、再び催眠をかけられる恐れがある。車はここに置いて、急いで逃げろ。今、乗り物を用意する」
 そう言って、カタリーナはいったん車から出てルアに合図する。
 すかさずルアが、レスキュードローン・デバイスを召喚。完全無音で、車のすぐ脇に降下させる。
「さあ、これに乗れ。手近の警察署まで飛ばすから、そこで事情を話して保護を求めろ」
「あ、ありがとうございます……」
 状況を理解したというよりは、とにかくカタリーナの指示に従う感じで、信者、いや、元信者二人はレスキュードローンに乗り込む。
(「さすがだね!」)
 呟くと、ルアはレスキュードローンに思念指示を出し、元信者を乗せて飛翔させる。それを確かめ、蒼眞は言葉を継ぐ。
「クリスマスツリーを憎む者は、樹木そのものを憎むのではなく、その元でキャッキャウフフしているリア充達を憎むものだ。お前は、そうではないのか? お前が本当に憎いのは、クリスマスツリーではなく、キャッキャウフフしているリア充ではないのか?」
「そ……そうかもしれない。なんか、そんな気がしてきた」
 もはや完全に自分を見失って、ビルシャナが呻く。まったく影響されやすい奴だな、と、内心呟き、蒼眞は言い放つ。
「敢えて言おう。リア充を憎む魂は、攻性植物の侵略寄生如きで曲げられる程度の生温いものではない! 敵は本能寺……もとい後ろの車中(リア充)にあり!」
「そ、そうだったのかあっ! ……あれ? いない?」
 後ろを振り返ったビルシャナが、空っぽの車中を見て目を丸くする。
 そこへすかさず、蒼眞がオリジナルグラビティ『情人節破壊者の拳(ブリット・シャルムーンブレイカー!)』を叩きこむ。
「この不覚者! 攻性植物に惑わされ、催眠にかけたリア充を取り逃がすとは言語道断! 受けよ、RB(リア充爆発しろ)の拳!」
「ぐわあああああっ!」
 あらゆる世界に存在する数多の(独り身的な)孤高の狼達のように、己の意志で(クソアベック的な)世界の理不尽に立ち向かう事を選んだ漢の必殺技と称し、蒼眞は胸の奥に滾る熱い何かを拳に充填して、全力でビルシャナに叩き込んで爆発させる。斜め上を行く名目はともかく、強烈無比な一撃をまともにくらい、ビルシャナは嘴から鮮血を噴いて吹っ飛ぶ。
「ぐおおおお……もう、こうなったら、攻性植物も松飾りも門松も、クリスマスツリーもリア充カップルもどうでもいい! 我を殴った貴様が、我の敵だあ!」
 殴ったな、『光世蝕仏』様にも殴られたことがないのに、と怒声を発し、ビルシャナは蒼眞に向かって蔦を槍のように伸ばして攻撃する。
 ところが、ディフェンダーのシエナが蒼眞を庇い、蔦はシエナの前で曲がってしまって当たらない。
「deuil……優しい攻性植物を、人を傷つける武器として使うなんて! あなたには、人間の心がないのね!」
 絶叫し、シエナは自分に纏わる攻性植物『サンフォニー・ブゥケ』と『ヴィオロンテ』を使ってビルシャナを容赦なく攻撃する。
「いやー、盛り上がってまいりました!」
 楽し気に言い放つと、ルアはシエナと蒼眞に霊力を帯びた紙兵を送り、状態異常耐性と治癒を行う。
 続いてカタリーナが、バスターライフルからビームを放って、ビルシャナを直撃した。

●やっぱり自主性のない奴は、ダメだな!
「攻性植物と合体したところで、人々を奴隷に出来ると思い上がるな。不埒なビルシャナには、敗北と破滅あるのみ」
 呟いて、カタリーナがフォートレスキャノンを撃ち放つ。直撃を受けたビルシャナの全身から、蔦が千切れて吹っ飛ぶ。
 吹っ飛んだ蔦をシエナがそっと拾い上げるが、そこに生気は残っていない。
「Triste……嗚呼、いったんビルシャナに支配されてしまうと、ビルシャナから離れては生きていけないのね。悲しいわ」
 悲しげに呟くと、シエナはビルシャナを睨み据える。
「Colere! 邪悪なお前もろとも、罪もない攻性植物まで滅しなくてはならない私の怒りと悲しみ、思い知るがいいわ!」
 叫ぶと同時に、シエナは攻性植物『サンフォニー・ブゥケ』と『ヴィオロンテ』を駆使してビルシャナを叩きのめす。
 ビルシャナはたまらず、怪光を発して自分を治癒しようとするが、うまくいかない。
「ぬああああ……なぜだあ……」
「二兎を追う者は一兎をも得ず。ビルシャナと攻性植物の力を兼ね備えようとしたのが、間違いの元だ」
 本当は、たぶんパラライズが効いたのだろうが、蒼眞は敢えて言い放つ。
「『光世蝕仏』などに惑わされず、次のクリスマス……とは言わないまでも、せめてバレンタインデーまで自重していれば、新たな道が開けたかもしれんが、もはや完全に手遅れだ」
 いろいろ勘違いしたまま逝け、と、蒼眞は達人の一撃でビルシャナを袈裟懸けに両断する。
 しかし、残っている蔦が互いに絡まって、ビルシャナの身体が崩れ倒れるのを防ぐ。
「Oh! la、la! ああ、なんてけなげな……」
 シエナが賛嘆したが、ルアは肩をすくめて言い放つ。
「往生際が悪いだけじゃん! もう、とっとと帰りたいんで、ここで決めるよ!」
 そしてルアは、オリジナルグラビティ『猪突猛進(チョトツモウシン)』を炸裂させる。
「ひゃっほー!」
 歓声とともに、ルアはグラビティを纏ってビルシャナに体当りする。かろうじて繋がっていた蔦がぶちぶちっと切れ、ビルシャナの身体が分断されて崩れる。
「やったね!」
 拳を天に突き上げると、ルアはそのままの勢いで叫ぶ。
「お餅はきなこ餅が食いたいし、おしるこも食いたい! コタツでミカンも食いたい! とりあえず、早く帰って温まって美味しい物が食いたい!」
「わかった、わかった」
 蒼眞が苦笑して、ヘリオライダーに連絡を取る。
 そしてカタリーナは、残った車を見やって呟いた。
「車は無事か。彼らに返してやれそうだ」

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月6日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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