第三次城ヶ島制圧戦~上陸までの高く険しい道のり

作者:質種剰


 ヘリポート。
「皆さんのご尽力のおかげで、城ヶ島にて決行された『竜牙兵本土上陸阻止戦』が無事に成功し、竜牙兵の本土上陸を阻止できたであります」
 集まったケルベロスたちを前に、小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「現在は、新たな竜牙兵の出現も確認されてませんし、状況は安定してるであります」
 しかし、竜業合体のドラゴンがいつ現れるか判らない状況で、ニーズヘッグを放置するのは危険である。
「それもありまして、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)殿たちから、城ヶ島を奪還する第三次城ヶ島制圧戦の提案がありました」
 複数の方角から一定以上の戦力でもって城ヶ島へ飽和攻撃を仕掛け、島の奥地深くまで侵攻、竜業合体ドラゴンの贄となるニーズヘッグを可能な限り撃ち減らすという作戦である。
「さて、今回は飽和攻撃を仕掛けるにあたって、陸路海路空路とあらゆる手段を用いて城ヶ島へ上陸するであります。皆さんのご担当は空路による上陸でありますよ」
 空路とは即ち、ヘリオンによる上空からの降下作戦である。
 そして上空からの降下作戦は、周囲のチームの上陸作戦の首尾に成否を左右される。
「もしも周囲のチームの充分な支援が無い場合ですと、降下するまでに大打撃を受けてしまう危険な任務となりますので、どうかお覚悟のほどをお願いしますね」
 状況によっては、『降下するにはしたが命からがら脱出するだけ』になるかもしれないので注意が必要だ。
「降下後は……今申し上げましたように、体力やお怪我の具合と相談でありますけど……島の外周部に竜牙兵の残存部隊が残っていますので戦ってください」
 ここでも他チームの戦闘の状況によって、竜牙兵の数が変わってくる。
 特に城ヶ島大橋では、派手に戦うことで他の地域の竜牙兵たちを引きつけることができるからだ。
 相対する竜牙兵の軍勢が数多いか手薄になるかはその時までわからないが、ともあれそいつらを無事に蹴散らせたら、いよいよニーズヘッグとの戦闘になる。
「死神とは敵対することになりましたけれど、アスガルド・ウォー直前に、死神のミッション地域を全滅できたおかげで、死神もすぐに大規模な攻撃を行ってはこないでしょう」
 と、かけらは彼女なりに皆を激励する。
「ですから、アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)殿たちの仰る通り、今が、城ヶ島を奪還するチャンスであります。頑張ってくださいね」


参加者
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ


 城ヶ島上空。
 空路からの上陸を狙うケルベロスたちは、3台のヘリオンに分かれて島の中央部へ向かった。
 地上と違い——そもそも飛び降りるまではヘリオン内に居るため——ヘリオンデバイスが使えず敵の数や位置も知ることなく降下せねばならない、非常に危険な作戦である。
 だが、3台はすぐに降下ポイントを定めることができた。
(「こちら北東チーム。これより、竜牙兵の一団と戦闘に入るよ」)
(「……失礼。こちらは南岸チームの——」)
 水路を用いて上陸した2班のキャスターから、マインドウィスパー・デバイスによる連絡を受けたからだ。
(「——僕たちは多数押し寄せたニーズヘッグを迎撃中。これらは全て中央部から南下した戦力と思われます」)
(「了解。こちら空挺チーム。タイミングを測って予定通り島の中央部へ降下する」)
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が、抱えた革鞄と懐中時計を見つめて、思念で返答した。
 チームメンバーの梢子がヘリオンから飛び降り様に光線を浴びてレスキュードローン・デバイスを顕現。
 上手く自分とピジョンの身体を受け止めさせて、今はヘリオンの近くで降下タイミングを図っている。
 こうでもしなければ、降下前にピジョンがマインドウィスパー・デバイスを使う術はない。危ない橋に見えるが、そこはケルベロス特有の気楽さもあった。もしドローンに乗り損ねても痛いだけで済む。
「提案が採用されたことだし、気を引き締めていかないと……」
 ドローンにしがみついて呟くピジョン。舞い上がる気持ちを宥めるように、自らへ言い聞かせていた。
「作戦立案お疲れ、リーダー」
 ピジョンの緊張を察してか、呑気な物言いで千梨がヘリオンの窓から顔を覗かせる。
「この先は俺……は適当にサボるが、まあエトヴァとかジェミもいる。存分に指揮を振るってくれ」
 千梨らしい励ましに、ジェミやエトヴァ、理弥は内心苦笑したものだが、ピジョンの緊張が解れたのも確か。
「ありがとう。期待に応えられるよう頑張ろうか」
 ピジョンも笑って、ヘリオンへ向かい手を振った。
「先にランディングゾーン確保します」
 ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)は、内心安堵した様子で、決然と宙へ足を踏み出す。
 肩につかない程度に切り揃えた銀髪とその中の一房違う髪色が印象的な、レプリカントの少女。
 先陣切って飛び降りるミオリの後に、同居人のクリスタ、
「微力だけど、お手伝いするわ」
 そしてぜひとも旅団仲間の指揮下で戦いたいというキアリが続く。
 一方、2台めのヘリオンでは。
「ここが城ヶ島を取り返すチャンス……! ドラゴンたちに大打撃を与える好機!」
 夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)が、意気揚々と下を見据えた。
 片翼ずつに此岸と彼岸の対照的な彩りを湛えた、まさに彼岸と此岸の境目に位置するケルベロス——そんな立ち位置を夢見るオラトリオの少女だ。
「もう待ってるだけの私達じゃないんだから!」
 まさしく血気盛んな覇気に溢れた様子で、ヘリオンの外へ躍り出る璃音。
 友人を見守っていた瑠璃も、次いで宙へ身を投げた。
「今回の戦いも激しくなりそうですから」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)のつけヒゲが落ちないようにと専用接着剤で固定してあげていた。
 ウィアテスト家の令嬢として生まれ、過去の記憶がなくとも魂に刻まれた騎士道精神だけは失わない女丈夫である。
「かたじけないのう。じゃが、もしヒゲを失くしてもスペアがあるから心配無用じゃぞ」
「でも素顔は見られたくないんでしょう?」
 そう気遣うのは同じチームの赤煙。
「ぐっ……それは確かに」
「それでは作戦開始です」
 妙に和やかなやりとりを経て、ヘリオンから踏み出す3人だ。
「世界はそこまで単純じゃなかったわけだけど……どうしていつも、共存の選択肢は断たれてしまうんだろう……」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、他班からもたらされた索敵結果を地図と照らし合わせつつ、そんなことを考えていた。
 褐色の肌と夜明け色の瞳に己が出身地の南国の小島の風趣を閉じ込めたかのような、オラトリオの少女。
 ちなみにマヒナと共闘を望んだのは、ミライとアナスタシアの2人。
「ほら、そんな顔してちゃダメですって!」
 思わず考え込んでいたマヒナを、ミライが明るく元気づける。
「ありがとう、ミライ。せっかくピジョンが提案してくれた戦いだし、無事に成功させたいよね」
 マヒナも頷いて2人へ柔らかな笑顔を向ける。
「皆がいるから絶対大丈夫、って信じてる」
 他方、3台めのヘリオン、石英では、
「数字と記号でエリア分けするのはわかりやすくて良いな」
 副島・二郎(不屈の破片・e56537)は、他班と統一した城ヶ島の地図を眺めて感心していた。
 頭と四肢の先以外を青黒い混沌の水で補う、ワイルドブリンガーの青年だ。
 皆の地図へ二郎がスーパーGPSで自班の位置を表示させ、島内の位置把握のよすがにする予定だ。
「喰い放題って聞いたンでな。乾きモンばっかみてェだが」
 二郎と共闘すべく同乗していた万も、敵の多さに期待しつつ意気揚々と空へ飛び出した。
「大掃除の仕上げ……なのかな……?」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、おっとりと首を傾げつつ、作戦内容を何度も確かめていた。
 後ろで纏めた長い黒髪によく似合う清楚な雰囲気の服装を好む、さっぱりした性格の現役大学生である。
「来てくれて心強いわツァンさん、よろしくね」
 かぐらは気心知れたユグゴトへ笑顔を見せたが、
「母たる私の支援だ。胎の中でも外でも受け取り給えよ。五体満足で帰らなければ地獄のぐるぐる地獄だ。HAHAHA!」
「……絶対重傷を負うわけにはいかないわね……」
 すぐさま青い顔になって飛び降りていく。
「高過ぎて足がすくむけれど、海で溺れちゃうよりはいいよね」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は、手にした双眼鏡を無表情で覗きこみ、ぽつりと呟いた。どうやら泳げない事実が上陸方法の選択に大きな影響を及ぼしているようだ。
 豊かな銀髪と高々とポニーテールに結い上げた、シャドウエルフの少女。
 無二の親友をその手にかけたことでケルベロスに覚醒した、凄絶な過去を背負った元奴隷である。
「それに、地上への降下はルーに任せてるから安心だね」
 だが、そう隣へ声をかけるリリエッタは幸せだった。
「ええ。いざ参りましょう」
 ——ガバッ!
 何故なら颯爽とリリエッタをお姫様抱っこしてくれる恋人、ルーシィドがいるからだ。
 そのままエアライドでふわりと着地するつもりらしい。
 仲睦まじく降下していくリリエッタたちを、九十九が追う形となった。


 元々はニーズヘッグの数が一番多く、苛烈な戦場になるかと思われた、城ヶ島ラベンダー畑。
 だが、うまく敵を引きつけた他班の激戦の甲斐あって、24人が降下中に攻撃されることはなかった。
 しかも、奴らの馬の背洞門方面への移動や、竜牙兵の城ヶ島大橋方面の移動という情報も伝えてもらえたおかげで、その隙をついて降下できたのだ。
 一行は自然と二手に分かれて、かぐら、ピジョン、リリエッタたちが竜牙兵を追う。
「特に言ってなかったから大丈夫なんだろうけど、戦ってる間に空から降ってきたりしないわよね……」
 やはり竜牙兵は空から降り注ぐもの、というイメージがあるのか、かぐらはそんな心配をしつつ超小型治療無人機を統率。
「援護するわ」
 超小型の群体である彼らをリリエッタへ取りつかせて、攻撃の精度を高めた。
「貴様の物語を否定する」
 ユグゴトは颯爽と竜牙兵へ肉薄。奴の存在を『否定』した。
 それによって己が証明を混濁させられた竜牙兵は、自身の在り方を見失うのみならず、回避すら放棄してしまう。
「敵を殲滅して絶対成功させる! ……と言いたいところだけど」
 ピジョンは白銀の螺子を掲げつつ、頼れる仲間たちへ語りかける。
「命あっての物種だし引き際は見極めようね!」
 螺子から解き放たれた白銀の光が、多くの竜牙兵を巻き込んで焼き尽くした。
 マギーも賑やかな応援動画を流して、皆の士気を上げている。
「ピジョンさんはしっかり守らないと」
 竜牙兵の攻撃から身を呈してリーダーを庇うのはジェミ。
 回復役としても忙しなく立ち回る傍ら、敵の隙をついてしっかりと音速超えの拳を叩きこんでもいた。
「おう! より危険が大きいチームだし、援護は任せてくれよな!」
 ピジョンのチームは厚い防衛線が張られ、理弥もそのひとりだった。
「……竜牙兵の魚拓とか別に要らねえけどな」
 そんな呟きを洩らす理弥が、竜牙兵たち目掛けてばら撒いた塗料は、何と墨汁であった。
 折しも正月気分未だ冷めやらぬ松の内……季節感を大切にする男である。
「リーダー、共に戦いまショウ」
 エトヴァは、機械音響混じりの歌声を花畑一帯に響かせる。
 揺るがぬ音の波が竜牙兵たちの意思に迷いを喚起させ、様々な非合理への戸惑い、いわば思考のノイズを深層意識にまで染み渡らせ、身体機能を凍てつかせた。
(「ああ良いな、時には」)
 千梨はしみじみと感慨に浸りつつも、御業の帳で竜牙兵を包みこむ。
(「唯々、一振りの刃として戦うのも」)
 その結界を斬る刃に慈悲は無く、裂かれた帳も糸に解けては刃と化して、竜牙兵を攻め苛んだ。
「マヒナの将来の旦那さまに何かあったら大変だものね、助太刀するわ!」
 ひらひらと軽やかに舞い踊り、仲間を花びらのオーラで治療していく梢子だが。
「あ、お礼はすいーつでいいわよ」
 と見返りを求めるあたりは流石ちゃっかりしていた。共に戦う葉介も血反吐を吐いて奮闘しながら、半分呆れて半分笑っているに違いない。
「薙ぎ払え! 水の弾丸――ウォーター・バレット!」
 リリエッタは巨大な水鉄砲型のバスターライフルを構える。
 放射された超高圧の水流は、全てを押し流すように竜牙兵らを薙ぎ払った。
「ごめんあそばせ」
 回帰の螺子を掲げて、夢の力を解放するのはルーシィド。
 力の奔流に次々と巻き込まれ、竜牙兵たちが体力も足も取られてすっ転ぶ。
 九十九は攻撃を璃珠に任せて防御を固め、全方位からのあらゆる攻撃に対処する構えだ。
 竜牙兵たちとの乱戦が激化する傍ら、ニーズヘッグの群れと戦うのは二郎、マヒナ、ミオリ、ミリム、璃音たちだ。
「上手く奇襲できて何よりだな」
 二郎はホッとした面持ちで、ゾディアックソードの刃先を地面へ走らせる。
 描かれた守護星座が眩く光って、前衛陣の異常耐性を高めた。
「怪我してもこっちには構うな、あっちを治しとけ」
 今回は、使い捨ての盾で構わねェ——万の言葉には、咄嗟にも二郎の反論を封じる力強さがあった。
「その代わり、後で一杯奢れよなァ」
 ニヤッと笑って繰り出す氷結輪から噴出する冷気の嵐は凄まじく、ニーズヘッグらを凍りつかせた。
「祖国の強者達今こそ蹂躙する刻、黒鉄兵団顕現!」
 伝説の黒鉄兵団(くろがねへいだん)の力を込めた紋章から兵団の幻影を喚び出すのはミリム。
 彼らを率いてニーズヘッグの集団へ切り込み、一気呵成に蹴散らしてみせた。
「気脈の流れはグラビティチェインの流れ……」
 赤煙はオーラを鍼の形に凝縮し、ニーズヘッグに向かって投擲。
 吸い込まれるように刺さった鍼が経絡を遮断する秘孔をも突いて、ニーズヘッグへ激痛を齎した。
「ある意味出たとこ勝負だから緊張するけど、頑張ろう、ね」
 マヒナは仲間を励ましつつ、サウザンドピラーを翳してニーズヘッグらを無数の星座で包み込む。
 そうして生じた星座の間に満ちる強大な重力を回転させ、奴らの体を引き裂いた。
「こんなに沢山のニーズヘッグを相手どるのですもの、それにぴったり、みたいな!」
 ミライが朗々と歌いあげるのは、その名もドラゴンスレイヤーなる曲だ。
 不死なる竜だって滅ぼすという歌が前衛陣の負傷を癒し、加えて恐怖や炎に立ち向かえると奮起を促す。
「ふふふ、みんなと共闘できて嬉しいわ。もちろん作戦の成功が第一だけど、楽しみましょう!」
 アナスタシアは背中の阿頼耶識を大輪に拡げて、太い光の帯を放つ。
 阿頼耶光がニーズヘッグを正面から呑み込み、清らかな光で目も眩む衝撃を与えた。
「作戦開始、オープン・コンバット」
 と、景気良く『絶対零度手榴弾』をばら撒くのはミオリ。
「冷却弾投射」
 アブソリュートボムは広範囲に散らばるニーズヘッグらを余さず捉えて、急激に凍てつかせた。
「しっかり支えますー」
 歌うように宣言してクリスタが生み出すのは、クリスタル・カレイドスコープ。
 氷の結晶が万華鏡のようにきらめきながら降り注いで、ミオリたち前衛陣に癒しと守りの加護を与えた。
「主役はあくまでも彼ら。足を引っ張らないようにしないと」
 キアリはそう口の中で呟くと、手早く螺旋手裏剣を大量に分裂させる。
 それらをニーズヘッグらの頭上から浴びせれば、回転する刃の雨が奴らの体力を大幅に削ぎ落とした。
「璃音さん、君のドラゴンに対する気持ちは分かる。ここは引き受けるから本懐を果たす為に先に進んで!!」
 エクトプラズムを圧縮して作った大きな霊弾を飛ばして、力強く請け負うのは瑠璃だ。
「これだけ多くのメンバーが来てるんだ、かっこ悪いところ見せるわけにはいかない!」
 仲間の励ましに勇気づけられた璃音は、地面へ氷結輪を這わせて『魔法の霜』の領域を展開。
「ここで消えてもらうよ、ニーズヘッグ!」
 霜に触れたニーズヘッグらの動きを封じるとともに、奴らの体力をもごっそりと削りとった。
 降下してから30分程度で、一行は竜牙兵の一団とニーズヘッグの群れの大半を撃破できた。


 劣勢となったニーズヘッグたちの殆どが、一様に同じ方向へ逃げ出していた。
 それらを追ってトドメを刺しているうちに、何故どの個体も揃って南へ向かったのかわかった。
「主目標を更に捕捉しました」
 馬の背洞門にニーズヘッグが集まり、大群をなしていたのだ。逃亡を図った奴らはそこへの合流を目論んでいたのだろう。
 大群は既に別の班と戦闘中であるため。気づかれずに挟み撃ちへ持ち込めそうだ。
「ドラゴンなんて一匹残らず駆逐して、必ず島を取り戻すよ」
 さらりと宣戦布告して、リリ・リリ・スプラッシュを撃つのはリリエッタ。
 狙い澄ました凍結光線が、ニーズヘッグの熱と体力を一瞬で奪っていく。
「目指すは敵の殲滅だし、どんどん撃っちゃいましょう」
 優勢な戦況に勇気づけられたのか、かぐらは力一杯ドラゴニックハンマーをぶん回す。
 砲撃形態に変形したハンマーの頭部から、竜砲弾が撃ち出されてニーズヘッグの腹部を抉り抜いた。
「頭上注意、だよ?」
 ヤシの木の幻影を作り出し、ニーズヘッグの頭上目掛けてココナッツを落とすのはマヒナ。
 ——ごっ、ごつっ!
 やたらと痛そうな音が断続的に響いて、ニーズヘッグへ引導を渡した。
 臆病なアロアロにはその音も震えの種になるようだが、それでも別個体のニーズヘッグへ一所懸命立ち向かって、その魂を非物質化した爪で切り裂いている。
「1匹でも多く殺してさしあげましょう……!」
 いつでも平静で冷めた目をしているミリムは、仄暗い気持ちの込もった混沌の絶望スライムを放つ。
 捕食モードに変じたスライムがニーズヘッグ1体へガバッと襲いかかり、ひといきに丸呑みしてみせた。
「ギシャアアアアア!!」
 ニーズヘッグらもカパッと胴より大きく口を開いて、仲間を庇ったミオリやマギー、アロアロへ噛みつき、少ない体力を補おうと吸い取っていた。
 蛇をくちなわとはよく言ったものである。もっとも奴らはドラゴンだが。
「人々の想い背負い戦うケルベロスの重力、味わうがいい!」
 ニーズヘッグらを挟んで北側では、天光色の瞳の少女が純白の羽を広げて、別個体へ踵落としを見舞っている。
「悪ぃけど死んで貰おうか。まあ悪ぃとも思ってねぇけどな」
 灰髪の人派ドラゴニアンも、鬼神のごとき迫力でチェーンソー剣を振り回し、ニーズヘッグをズタズタに斬り裂いていた。
「ここから先へ、行かせてもらうんよ」
 と、御業で挨拶代わりの一撃を仕掛けるのは、ユーラシアオオヤマネコの人型ウェアライダーだ。
「粒子加速器、全力運転、電子束発射」
 ミオリは目標をしっかりと捕捉して、電子の束を加速させる。
 それらがニーズヘッグへ音もなく浸透すると、体内の神経信号を乱して麻痺を起こした。
 2班は順調にニーズヘッグの数を減らし、合流した時には2体を残すだけとなっていた。
「ここは記憶の楽園、空想を貪る部屋。あらゆる虚構の刃と果実。さあ満ちたカップを傍らに語らおうか!」
 ピジョンはニーズヘッグを1体ずつ確実に仕留めようと、記憶を元にした結界を展開。
 まさに心の引き出しそのものな部屋の幻影と一緒に顕現した亡霊のような執事が、ニーズヘッグへ強烈な一撃を喰らわせた。
 マギーも主の意思に忠実に、顔から閃光を放ってニーズヘッグたちを怒らせている。
「――命を支える、力となれ」
 厳かに呟いて、治癒に特化させた青黒い混沌の水を放つのは二郎。
 見た目とは裏腹に傷ついた命と共鳴して響き合う暖かな流れが、ミオリの傷を癒した。
「生命の輝きよ、私に集いて一時の力となれ!」
 璃音は火水風土雷氷光闇の魔力を撚り合わせひとつに束ねて、虹色の巨剣を造り出す。
「――これで終わらせる! レディアント・ステラ・グラディオ!」
 一太刀、もう一太刀と手首をひねるように繰り出した剣戟が、手負いのニーズヘッグへ鮮やかにトドメを刺した。
「仕留める」
 同じ頃、白髪の壮年男性も剣先から噴き出した火柱をニーズヘッグへ向ける。
 梁龍に似た炎の渦がニーズヘッグを逃さずに追いかけ、銀の牙を突き立てて死に至らしめた。


「周囲に敵性存在なし、クローズ・コンバット」
「つまり撃破完了ってワケだ。今度はコッチが助けられちまったナ」
 南岸チーム——高速艇で馬の背洞門から上陸した班の1人が、空色の瞳を細めて笑う。
 2班で協力した甲斐あって、馬の背洞門に集っていたニーズヘッグを無事に掃討したケルベロスたち。
「あとは……」
 マヒナが強化ゴーグルを額から降ろして、夜空そのものに見える画面の中、元きた方角に星々が瞬いているのを確かめる。
 そう。ラベンダー畑のニーズヘッグは全てが馬の背洞門へ逃げたわけではなかった。数体がその場に留まっていたのだ。
「戻って片づけるか?」
 千梨が訊く。
「城ヶ島大橋の方が、数が多いけどどうする?」
 同じように自分の強化ゴーグルを見て、璃音も同うた。
「皆のおかげで直接島の中央へ降りられたんだ。最後まで中央部の敵を相手どろう」
 と、ピジョンは提案した。
 幸い、残っていたニーズヘッグたちもすぐに殲滅できた。
「皆さん、あれを見てください!」
 不意にミリムが叫んで一点を指し示す。
 それこそが、わざと逃げなかったニーズヘッグたちの護っていたもの。
「新たな敵性存在を確認……照合結果、既知の魔空回廊と46%が一致」
 ミオリが自信を持てないのも無理はなく、『それ』は見た目にも不安定に歪んだ、不完全な魔空回廊であった。
「わかった気がするわ。竜十字島にニーズヘッグが現れた理由……」
 納得したふうに頷くのはクリスタ。
「嗚呼。ドラゴンのゲートは最早破壊完了に疑いなき故、魔空回廊とて存在しない筈……」
 ユグゴトが相変わらず難解な物言いで訝しむ。
「ねぇ……?」
 張り詰めた空気を破るまいと、静かに呟くのはマヒナ。
「魔空回廊から、歌が聞こえない?」
 言われてミライやアナスタシアもそっと耳を澄ました。
「聴こえます……! ほんの小さいノイズみたいな……歌、が!」
 事実、魔空回廊から発せられる雑音のような調べは、歌だと認識して聞けば辛うじて『聖歌』っぽい合唱のような気もする。
 風に擦れる枝葉のようにささやかながら、十重二十重に織り重なって広がる女性の声。
 皆がその歌に集中すると、魔空回廊の表面へ微かに映った群像が見えた。
 赤い蔓薔薇が守るように巻きついた、純白の翼が映える灰色のドレスを纏って、独特のロザリオを手に祈る女性たち。
 誰あろう、『不安定に歪んだ不完全な魔空回廊』を維持し、ニーズヘッグらへ指示を出している者の姿に違いない。
「ニーズヘッグには知能が無い筈なのに、城ヶ島を制圧した動きは不自然でした」
 一瞬で消えてしまった謎多き存在を前に、ジェミが思案する。
「攻性植物の聖王女がニーズヘッグを指揮していたと考えれば、理屈は通るぜ」
 理弥もいつになく真剣な面持ちで、ニーズヘッグの行動の裏に攻性植物がいると推理した。
「この魔空回廊もどきは、竜業合体ドラゴンが地球へ到達した時に竜十字島へと繋がれ、ニーズヘッグを送り込むのに使われるのだろう」
 二郎は包帯の奥の考え深い瞳を揺らして、そう結論づけた。
「けど、歌声が聞こえてきてるなら……竜業合体ドラゴンが現れるまでは、攻性植物の拠点へ繋がってるんじゃないかな?」
 決して楽観論だけでは片づけられない、ケルベロスなら誰でも抱きそうな冒険心に近い考えを述べるのはリリエッタだ。
「確証はありませんけれど、その可能性は高いですわね」
 ルーシィドも力強く頷いた。
「ヘリオンデバイスがあれば、敵地でも脱出することはできる」
 仲間の無念を知る瑠璃が、突入を後押しする。
「わたし、この戦いが終わったら、受験勉強が大詰めに入るの……」
 わかりやすいフラグを立てて、金の瞳を逸らすのはキアリ。
「この魔空回廊もどきに突入して、攻性植物の拠点の場所を突き止める……まではできるかしら」
 かぐらは慎重さをみせて考え込んだ。
「いちかばちか、飛び込んでみる価値はあるか?」
 保証のない大博打に、万が楽しそうな声を出した。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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