コーヒーの香りが漂う中で

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 電動ミルが捨てられたのは、単純な理由からだった。
 新しい電動ミルを買ったから、もういらない。
 そんな単純な理由だった。
 だからと言って、電動ミルに拒否権はなければ、自分の意志を示す術もなかった。
 しかし、捨てられた後も、電動ミルはコーヒー豆を求めていた。
 早く挽きたい……今すぐ挽きたい。
 早く……早く……早く……。
 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリガリ……。
 まるで悲鳴の如く音を鳴らしても、電動ミルを捨てた持ち主が帰ってくる事はなかった。
 その代わり、電動ミルの前に現れたのは、小型のダモクレスであった。
 小型のダモクレスは、ゴミの山に埋もれた電動ミルに、機械的なヒールをかけた。
「ミルミルミルミルミルミルミルミルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電動ミルが、耳障りな機械音を響かせながら、グラビティチェインを求めて、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場でダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 この場所は単なる空き地であったが、いつしかゴミが捨てられて山になった。
「ダモクレスと化したのは、電動ミルです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは電動ミルがロボットになったような姿をしており、コーヒーのニオイを漂わせながら、耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達に襲い掛かってくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
流水・破神(治療方法は物理・e23364)
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「これは……凄いニオイね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 このゴミ捨て場は、以前まで空き地になっていたものの、誰かがゴミを捨てた事が引き金になって、次第にゴミが増えていった。
 そのため、今では燃えるゴミ、燃えないゴミ、粗大ゴミから医療ゴミ等のゴミが隙間なく積まれ、空き地の所有者も処分に困って、頭を悩ませているようだ。
 幸い、辺りに人影はないものの、何かが腐ったようなニオイが、身体に纏わりついてくるため、長居をしたくない場所である事は間違いない。
「それにしても、こんな場所に捨てられてしまうとは……。少しかわいそうな気もするのじゃ」
 ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)が、同情した様子でゴミの山を見上げた。
 おそらく、電動ミルも、同じ気持ち。
 別に壊れて捨てられた訳ではないのだが、恨みと怒りの感情を抱いても仕方がないように思えた。
「まぁ、新しい物を買ったら、古い物は捨てられるのは、当たり前の事なのだろうけど、捨てられる側からしたら、理不尽に思う事この上ないかもね」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が複雑な気持ちになりつつ、答えを返した。
 もしかすると、電動ミルが抱いた様々な感情が残留思念となって辺りに漂い、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せてしまったのかも知れない。
「私は普段あまりコーヒーを飲まないけど、本格的にミルを使ったコーヒーって、味や香りが違うものなのかしら?」
 そんな中、リサが事前に配られた資料に目を通し、何気ない疑問を口にした。
「確かに作りたてのコーヒーはインスタントよりも美味しいのかな?」
 依鈴も同じ疑問を抱き、不思議そうに首を傾げた。
 どうやら、資料を見る限り、挽き立ての豆で淹れたコーヒーは、インスタントよりも美味しいようである。
「コーヒーかぁ、私はブラックでは飲めないな」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)が、自分なりの考えを述べた。
「わらわもコーヒーは、苦いから苦手なんじゃよなぁ。砂糖とミルクをいっぱい入れねばならぬのじゃ……」
 ミミがゲンナリとした表情を浮かべ、深い溜息を漏らした。
「私はコーヒーマシンの方が好きかな。だって、ほら、豆をストックしているところが見えていて、『今から挽いて淹れます』っていうシズル感、すごくいいと思うから……」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、ライドキャリバーの藍から降り、仲間達に合流した。
「僕の故郷には、こういう面白い飲み物は無かったな。僕の衣装のテイストだとコーヒーが似合うらしいんだけど……」
 オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料にはコーヒーについて、様々な情報が書かれていたものの、それを頭に叩き込むには、しばらく時間が掛かりそうである。
「ちなみに、コーヒー豆の搾りかすは庭に撒いておくと、にゃんこ除けになるらしいのです……! つまり、コーヒーを克服する事で、あこもつよいにゃんこになれるのでは?」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が瞳をランランと輝かせ、希望に満ちた表情を浮かべた。
 それとは対照的に、ベル(ウイングキャット)の反応は、冷ややか。
 どこか冷めた様子で、はふーっと溜息を漏らした。
「デンドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時に、ダモクレスと化した電動ミルが、耳障りな機械音を響かせ、ゴミの山の中から現れた。
 ダモクレスは電動ミルがロボットになったような姿をしており、ほんのりコーヒーのニオイが漂っていた。
「やれやれ、かわいそうじゃが壊すしかないのぅ」
 その事に気づいたミミが、心に生じた迷いを振り払うようにして、ダモクレスの前に陣取った。
「……とは言え、ひっさしぶりすぎて感覚が掴めねえぜ。イマイチ体の動きも鈍いし、薬品の使い方も微妙……ふぅー、今回の依頼に民間人が居なくて助かったぜ」
 そう言って流水・破神(治療方法は物理・e23364)がダモクレスをジロリと睨みつけ、攻撃を仕掛けるタイミングを窺うのであった。

●ダモクレス
「コォォォォォォォォォォォォォォヒィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは濃厚なコーヒーのニオイに包まれており、まるでオシャレな喫茶店にいるような錯覚を覚えた。
 しかし、それは、ほんの一瞬。
 そのニオイが消えたのと同時に、ダモクレスの放ったビームが迫り、ケルベロス達の間に緊張が走った。
「コ、コーヒー、恐るべしなのです!」
 その途端、あこがハッと我に返り、全身に鳥肌を立たせた。
 危うく、独特な雰囲気に飲み込まれ、ホットケーキを頼みそうになっていたため、嫌な汗が止まらなくなった。
「やれやれ、ムードのカケラもないダモクレスじゃのう。せめて、ホッと一息できるだけの時間くらい提供すべきじゃろ」
 一方、ミミは軽く皮肉を言いながら、轟竜砲でハンマーを砲撃形態に変形させ、ダモクレスに強烈な一撃を叩き込んだ。
「デンドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その拍子にダモクレスのビームが大幅にズレ、ゴミの山に当たって弾け飛んだ。
「やっぱり、駄目だ。完全に身体が鈍っちまっている! これじゃ、思うように体が動かねぇ! だが、肩慣らしにはちょうどいいか」
 その間に、破神は鈍った身体をリハビリするような感覚で、ブレイブマインでカラフルな爆発を発生させて、仲間の士気を高めた。
「それじゃ、反撃開始と行こうか」
 すぐさま、オズが仲間達に声を掛け、寓話語り『最後の希望』(グウワガタリ・サイゴノキボウ)を発動させた。
 それに合わせて、ウイングキャットのトトが、ダモクレスの死角に回り込むようにして飛び上がった。
「……援護よろしくね」
 ことほが藍に声を掛けながら、ダモクレスの死角に回り込んだ。
 それに合わせて、藍がキャリバースピンを繰り出し、ダモクレスを牽制した。
「さぁ、この飛び蹴りを避けきれるかしら?」
 続いて依鈴がスターゲイザーを仕掛け、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「まさか、もう終わり?」
 そこに追い打ちをかけるようにして、リサもスターゲイザーを放って、ゴミの山に蹴り飛ばした。
「だったら、そのコーヒーを、もっと熱々にしてあげるよー!」
 それと同時に、氷花がグラインドファイアを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「デンドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、電動ミル型のアームを振り回した。
 それと同時に、挽き立ての豆の香りが辺りに漂い、その事で油断したことほの身体が宙を舞った。
「いった~い!」
 ことほがぽふっと尻餅をつき、涙目になりつつ痛みを耐えた。
「……随分と乱暴だね。僕達に恨みでもあるのかい? それとも、単なる八つ当たりかな? 理由は何であれ、当たるつもりはないのだけれど……」
 オズがダモクレスに語り掛けながら、黄金掌で光輝く掌をかざし、ことほの傷を癒した。
「でも、怒りの感情に身を任せて戦ったところで、私達には勝てないわよ」
 リサが、わざとダモクレスを挑発しながら、少しずつ間合いを取った。
「つまり私達の敵じゃないって事」
 その間に、依鈴がダモクレスの逃げ道を塞ぎつつ、鈴蘭の吹雪(スズランノフブキ)で鈴蘭の花弁を吹雪の様に飛ばし、ダモクレスを攻撃した。
「だから今度は、こっちの番なのです!」
 あこがベルと連携を取りながら、ガーディアンピラーで星の輝きを宿した魔力の柱を出現させ、味方に加護を与えた。
 それに合わせて、ベルが清浄の翼を発動させ、羽ばたきで邪気を祓った。
「……チッ、ガリガリガリガリ、ミルミルミルミル、耳障りな音が五月蝿いんだよ、てめぇ。ぶん殴って黙らしてやるぜ」
 そんな中、破神が苛立ちを隠せない様子で、ダモクレスの攻撃を避けた。
「雪さえも退く凍気を、受けてみろー!」
 次の瞬間、氷花がイガルカストライクを繰り出し、雪さえも退く凍気を纏った杭(パイル)を突き刺し、ダモクレスのアームを凍結させた。
「ミルミルミルミルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
 それでも、ダモクレスは諦めておらず、耳障りな破壊音を響かせながら、電動ミル型のミサイルを飛ばしきた。
 電動ミル型のミサイルは、アスファルトの地面に落下すると爆発し、大量の破片を飛ばしてきた。
「もう許さないんだから! これはさっきのお返し!」
 ことほが大量の破片から身を護るようにして、プラズムキャノンを仕掛け、圧縮したエクトプラズムで作った大きな霊弾を、ダモクレスにブチ当てた。
 それに合わせて、藍がデットヒートドライブを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「まあ、言ったところで考えを改める訳がないんじゃが……」
 ミミが半ば諦めた様子で溜息を漏らし、テレビウムの菜の花姫に合図を送った。
 それに合わせて、菜の花姫がテレビフラッシュを仕掛け、その隙をつくようにして、ミミが破鎧衝を繰り出した。
「まさか、もう終わりか。もうちょいと粘れ。俺様の感覚戻しの為にもよ」
 破神がダモクレスに活を入れるようにして、わざと挑発的な言葉を吐いた。
 だが、ダモクレスは、既にズタボロ。
 殺気に満ちた感情に反して、ボディが悲鳴を上げていた。
「スライムよ、敵を丸呑みにしてしまいなさい!」
 次の瞬間、依鈴がレゾナンスグリードで、ブラックスライムを捕食モードに変形させ、ダモクレスを丸呑みさせようとした。
「デンドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その途端、ダモクレスが最後の悪あがきと言わんばかりの勢いで、再びミサイルを放とうとした。
「虚無球体よ、敵を呑み込み、その身を消滅させなさい!」
 その事に気づいたリサがディスインテグレートを発動させ、不可視の虚無球体を放って、ダモクレスを消滅させた。
「……何とか倒す事が出来たのです」
 あこがホッとした様子で、その場にちょこんと座り込んだ。
 ダモクレスとの戦いで、全身汗でビッショリ。
 それが寒気と交わって、身体が一気に冷えてきた。
「……とは言え、ゴミだらけでは、またこやつのような者が現れるかもしれないのぅ。片づけて甘いものでも食べて帰るのじゃ」
 ミミが複雑な気持ちになりつつ、ゴミの山を片付け始めた。
 ゴミの中には、まだ使えそうなモノが幾つも捨てられており、その中には未使用のモノもあった。
「せっかくだから、温かい缶コーヒーでも買って帰りたいな」
 氷花がヒールで辺りを修復しつつ、ブルッと身体を震わせた。
「確かに、コーヒーが飲みたくなってきたのです! みんなでコーヒーまつりをするのです」
 あこがノリノリな様子で、仲間達に答えを返した。
「いい機会だから、コーヒーに慣れていこうかな」
 その流れに乗るようにして、オズが辺りを片付け、コーヒーを飲むため、あこ達の後をついていった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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