魔導神殿追撃戦~猛き牛頭

作者:Oh-No

「皆、勝利おめでとう! まさに快勝と言っていい戦果だったんじゃないかと思うよ。英雄王シグムンドを討ち、返す刀で死翼騎士団をも破った。これも皆の献身と活躍があってのことだね。本当に頭の下がる思いだ」
 ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)は大げさな身振りとともに、感極まったかのような声を上げた。いささか演技過剰にも見える仕草だが、ユカリとしては大真面目にやっているのだろう。
「けれど、エインヘリアルたちはまだ白旗を掲げちゃいない。残存兵力が魔導神殿群ヴァルハラの宮殿とともに、地上に出現したんだ。そのうちのひとつ、金牛宮「ビルスキルニル」は鎌倉市周辺に現れて、鎌倉駅を目指している。狙いは蒼のビフレストだろう」
 幸い、というのもおかしな話だが、一度壊滅状態に陥った経験を持つ鎌倉市は、市民の避難訓練が行き届いているため、避難はなんとか間に合った。そこでケルベロスたちは、無人の鎌倉駅で金牛宮を待ち受けて強襲、内部に潜む敵を撃破して制圧する作戦を立案したのである。
「今回の作戦では詳細な予知が発生している。だから、狙うべき敵へたどり着く最善のルートを示すことができるんだ。そしてルートの先にいる相手は『金牛猛将』、金牛宮をその身で象徴するような勇者さ」

 具体的な作戦は次のようなものだ。
 自走能力を持った神殿である、金牛宮「ビルスキルニル」は巨大な牛の姿で移動している。この移動中を狙って侵入を試みるのは至難の業だろう。侵入、制圧を試みる好機は、金牛宮が鎌倉駅に到達した、その瞬間にある。
 鎌倉駅に到達した金牛宮は移動形態から変形し、停止形態である宮殿型に形態を変えようとする。このとき、変形中の金牛宮は、駆動部分や変形部分などそこかしこが無防備で隙間が空いており、内部への突入が可能な状態となっている。
「もし変形に巻き込まれたりしたら、ただじゃ済みそうにないけれど……、そこは皆なら上手くやってくれると信じてるから」
 ユカリは冗談交じりに説明しながら、映し出した移動形態を取る金牛宮の肩部を指し示した。
「皆には、肩近辺から侵入してもらい、胴の奥深くを目指してもらうことになる」
 予知されたルートを示したユカリは、映像に注目するケルベロスたちへと振り返る。
「このルートを使えば、道中で敵に遭遇することなく目標までたどり着ける可能性が最も高い。ただ、あまりに無防備に進むと、敵に発見される可能性はある。慎重に進むか、あるいは積極的にこちらの狙いや進行方向を誤認させるような手を打つのもありだと思う。この作戦に際して、ケルベロスは複数箇所から同時に侵入を行っている。ただでさえ判断に迷っているだろう敵だ、かき回す余地があるはずさ」
 宮殿内部の通路を上手くやり過ごす事ができれば、その先の広い室内で巨大な斧を手にした『金牛猛将』が侵入者を待ち構えている。驚異的なタフネスと、圧倒的な膂力を持つ金牛猛将を前にすれば、彼の間合いで戦うことが如何にも危険だと感じるだろう。さらに、金牛猛将はダモクレスを操る『嘆きの無賊』隊員を3体引き連れており、金牛猛将から距離を取ろうとするケルベロスは隊員たちが牽制する。
 どうにかこの金牛猛将たちを撃破し、同時に侵入している他の隊共々、作戦目標を達成すれば金牛宮が制圧できる。
「容易ではない相手だとしても、必ずや打倒して、金牛宮を制圧してほしい。また破壊されてしまった鎌倉市街は残念だけれど、モノはヒールで治せる。失ったら取り戻せない人命を守るために、ここでエインヘリアル残党の企みを挫こうじゃないか!」


参加者
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
風音・和奈(怒哀の欠如・e13744)
ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)
巽・清士朗(町長・e22683)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)

■リプレイ


「またなんともけったいなブツじゃなあ。アスガルドの連中も、ほとほと妙なものを作る!」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)は大きく広げた翼で急停止して、周囲をぐるりと見渡した。窓の外には、変形を続ける金牛宮が見えている。――自らも、その中にいるのだが。
 ケルベロスたちは、ギリギリまで寄せてもらったヘリオンから変形中の宮殿肩部へと飛び込んだどころだ。床は揺れており、時折傾いたりもするが、ケルベロスたちには苦にもならない。
「さあ、蛇が出るか牛が出るか」
 通路の奥を睨んだ巽・清士朗(町長・e22683)が、皆の脳裏へ予知されたルートを映し出す。
「むむっ、ひとまずはルート通りで問題なさそうじゃ」
「じゃあ、さっそく――行くよっ」
 得意げにメガネ型デバイスのブリッジを押し上げる無明丸の言葉を受けて、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)の小柄な身体が気流をまとい、飛び出していった。

「――待って。敵がいる」
 しばらく進んだところで、先頭に立っていた風音・和奈(怒哀の欠如・e13744)が止まるように合図を出した。
「このままやり過ごす? 相手は1体だけね」
「不用心にも1体か。移動がゆっくりだから時間がかかりそうだし、やっちゃおうか?」
 振り返りながら思念を送る和奈に、レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)が首を指先で掻き切る仕草を見せる。
「手早く片付けてしまいましょう。相手の気を引きますから、不意打ちで」
 手際よく段取りを確認して、エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)は自らのデバイス、レスキュードローンを十字路へと最大加速で突進させた。
 警戒する敵兵の前に姿を露わにしたドローンは、敵兵の眼前で派手なマニューバを決めて、そのまま誰もいない通路へと折り返す。慌ててドローンを追う敵兵を壁に隠れてやり過ごした直後、
「寝てろっ」
「ぶっ飛ばすわ!」
 拳を固めた相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)とジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)が通路から飛び出して、全力の一撃で敵兵をノックダウンした。
「OK、いきましょ」
 敵兵が倒れたことを確認して、ジェミはウィンク一つ。一行は予定のルートに戻ったのだった。


「汝らがケルベロスか。歓迎しよう。手荒いモノになるがね」
 狙うべき相手がいると予知された部屋を探ろうとした瞬間、野太い声が響き、ケルベロスたちの心胆を寒からしめた。こうなっては隠れている意味もないと、一行は堂々と部屋に踏み込む。
 そこでは金色の鎧に身を包んだ牛頭人身の怪物が、斧を床に突き立て、部屋の中央で仁王立ちしていた。やや後方には、ダモクレスを傍らに置く人影が3体。傭兵部隊『嘆きの無賊』隊員だろう。
「金牛猛将さん、アンタに真っ向勝負を挑ませてもらうよ」
「……ほう」
「驕ってなんかいない。文字通り命を懸けて、アンタの前に立つ!」
「はは、ならばその言葉、偽りではないと示してみせよ!」
 和奈は金牛猛将に指を突きつけて、堂々と言った。その言葉に金牛猛将が低く笑う。双方が武器を構え、緊張がにわかに高まっていく。
 そんな一瞬の静寂を打ち破り、無明丸が哄笑する。
「わはははははは!! 力比べは望むところッ! 存分にやろうではないか!!」
 そして無明丸は全力で地を駆けて、握りしめた拳を振りかぶり、
「さぁ! いざ尋常に、勝負ッ!! ぬぁあああああああーーーっ!!」
 ありったけの力を込められて輝く拳で顔面を狙った。
「ぬっ」
 金牛猛将は交差した腕でブロックするが、その間に竜人が距離を詰めている。
「悪いがしばらくは遊んでもらうぜ、アルデバラン」
 横腹へと剛腕を叩きつけ、揺れた巨体に笑いかけた。
「実は強かったって逸話を残してやるからよ、安心して死んでってくれ」
「――気が早いわ!」
 金牛猛将は鉄塊の如き戦斧を振り上げて、竜人を叩き潰さんとする。だが、苺が横合いから割り込んでいた。
「わたしも力比べに混ぜてほしいんだよっ」
 振り下ろされる金色の斧。それを軽々と扱う金牛猛将の膂力。苺は戦言葉による自己暗示で硬化した身体で、眼前の一撃に立ち向かう。
(「これは、大変だねっ。守りからの反撃でどこまで戦えるか挑戦だよっ」)
 苺の身を覆う闘気が輝きを増した。
 ――着弾。苺は吹き飛ばされそうになったが、かろうじてその場に踏みとどまった。
「ドワーフめ、小さき身でよく耐えるっ」
 金牛猛将の面白がるような声が響く。

 金牛猛将を中心とした狭い円のみならず、それらを取り巻く位置でも戦いが始まっていた。
(「とても潔い武人ですね。見ていて清々しいくらいに。嫌いではないですよ、そういう人」)
 悠然と構える金牛猛将に舌を巻きながら、エルムはケルベロスチェインによる魔法陣を描きあげる。まずは危険な間合いで戦う仲間たちへの援護から。
 直後、エルムの周囲を電撃の幕が薙ぎ払った。
「金牛猛将様の邪魔はさせん!」
 ダモクレスを操る傭兵による介入である。金牛猛将の間合いの外で戦う敵の排除が彼らの目的。無視して戦うには、いささか厄介な相手だ。
(「猛将の間合いで戦いたい気持ちもあるけれど……、役目を果たすわ!」)
 ジェミは、金牛猛将に挑みたい気持ちを抑え込んでジェットパックを噴かし、空中へと浮き上がった。
「――参る」
「邪魔してもらいたくないのは、こっちもなんだよね」
 足元では抜き放った一刀を手に、清士朗が距離を詰めていく。清士朗の後背では、レヴィンが抜いたリボルバーを額に当て、一瞬だけ目を閉じる。
「お前ら全員、そこを動くな!!」
 そして目を開くと同時、レヴィン得意の早打ちで矢継ぎ早に撃ち出された麻痺弾が、傭兵たちに殺到し傷を負わせた。
 そこへ清士朗の刃先が届く。雷の霊力を帯びた刃が、残された間合いを一気に詰めて、突き出される。ダモクレスの影に隠れようとする傭兵の動きが、まるで間に合わない。
 空中にいたジェミにはそれらの動きが手にとるように見えている。ジェットパックはすでに全力で噴かしていた。グラビティを込めに込めた掌を振り上げて、強烈な横Gに顔をしかめながら、刃に突き刺された傭兵を狙う。
「とにかく! ぶっ飛ばすわ!」
 ――バンッ!
 そして必殺の掌打が傭兵の脇腹へと食い込み、エグい音を炸裂させた。


「フンッッ!」
 低い体勢で金色の角を突き出した金牛猛将の突撃は、体格に似合わず鋭く速い。躱す隙も与えずに、前衛に立つ3人をまとめて薙ぎ払った。
「この噛ませ野郎がッ」
 転がって距離を取り、床から起き上がった竜人が毒づく。敵の怒りを煽り狙いを一身に受ける竜人は、金牛猛将の破壊力を骨身に沁みて感じているが、だからこそ持ち前の反骨精神で痛みを押し殺し、気丈に振る舞う。
 苺も削がれた肩を押さえて、立ち上がる。
(「守ってばかりじゃ、傭兵の援護に回りかねないよねっ。こっちに集中させるためにプレッシャー掛けていきたいけどっ」)
 ディフェンダーとして戦う自分たちですら、これほどのダメージを受けるのだ。この破壊力が他の仲間に向くことを考えると、受けに回ってばかりはいられない。だが、正面から突破されては元も子もない――。
 反撃に出るか、回復を優先するかで一瞬だけ迷ったが、左手に纏わせたオウガメタルを巨大な爪に変えて突撃する和奈の姿を見て腹を決めた。
「なら、わたしはっ」
 苺は急いで練り上げたオーラを竜人に飛ばし、その傷を癒やす。
 その傍らで、巨大な爪を振り上げた和奈が躍りかかった。
「そんなもので私は止まらないよ。喰らいなっ!」
 広げた両翼を羽ばたかせ更に加速、床に突き立てた片足で勢いをモーメントに変えて、横殴りにオウガメタルの爪を叩きつけた。
 ――金色の鎧が軋む。
「ハハッ、恐れを知らぬオラトリオ、汝もまた勇者よ!」
 倒すまでには到底至らずとも、無視もさせない。3人は金牛猛将を相手に必死で立ち回っていた。

 懸命にケルベロスたちを援護する、苺のボクスドラゴンに、竜人のテレビウム。着実に敵へとダメージを重ねていく無明丸。そして、ケルベロスたち全員の支えとなっている、エルム。彼らが位置する後衛は、傭兵たちによる激しい攻撃に晒されていた。
 ここがケルベロス側の肝だと目されたか、ダモクレスから放たれる電撃と、雷を帯びた鞭が、代わる代わる襲いかかってくる。
「ったく、オレには興味がないってか? なら無理矢理にでも振り向かせてやるぜっ」
 一方では、レヴィンがリボルバーとチェーンソー剣を巧みに使い分け、着実に敵の動きを重くするなど、ケルベロスたちも着実にダメージを積み重ねていた。
(「まったく、新年のめでたいときにこうも耐え忍ばされるとは。でも、そろそろ峠を超えそうですか」)
 それらの執拗な攻撃に対応するべく、振りまいた花びらのオーラで後衛の負担を確実に軽くしながら、エルムの視線は戦場全体を見ていた。
 戦場のバランスは、危ういところで維持されている。金牛猛将に押し込まれるのが先か、それとも傭兵たちを片付けるのが先か。
 ――いや、今この瞬間こそが好機だ。
「背中は僕が支えます。一気に押し切りましょう!」
「おうともよ! 電撃ばかりでいい加減飽きたからの!」
 繰り返し浴びせられた電撃に、さすがの無明丸もやや辟易した様子を見せつつ、傭兵の懐に潜り込む。
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
 そして、いままでのうっぷんを晴らすかのように、全力で振り抜いた拳を傭兵の顔面に叩き込んだ。
「まだじゃ、もういっぱぁつっっ!」
 さらに追撃。致命的な一撃を受けた傭兵は血を撒き散らして床に沈み、ダモクレスは動きを止めた。
「ちぃぃぃっ」
「あなたもよそ見してる余裕なんて、ないんだから!」
 倒れた仲間に目を奪われた傭兵の死角から、ルーンアックスを頭上に掲げて、ジェミが落ちてくる。
「個の力では劣っても、力を合わせ勝つのがケルベロスよ。負けるもんか!」
 振り下ろされる斧。時を合わせて、低い姿勢で飛び込んできた清士朗の刀が床を舐めるように伸び上がる。
「……お命、貰い受ける」
 2方向から迫る刃に挟まれて、傭兵は命を呆気なく散らした。


 唯一残った傭兵を討ったのは、それから程なくのこと。
「あとはお前だけだぜ。このあたりで降参するとかどうだい?」
 倒れ伏した傭兵の身体から金牛猛将へと視線を移し、レヴィンはニヤリと笑った。
「……奴らは先に逝ったか。働きに応えてやることも出来なんだ」
 金牛猛将はレヴィンの軽口には付き合わず、深く息をつく。無視された格好のレヴィンは、端から応じるとは思っていなかったのだろう、肩をすくめてみせた。
「テメエみたいな気合の入った奴は嫌いじゃねぇぜ。まあいいさ、よし殺す。テメエもそれくらいの短絡さで、死ぬ覚悟を決めてんだろ。遊ぶのも、もう終わりだ」
 髑髏の仮面の奥に闘志を宿した竜人が言う。
「フ。無駄死になど御免、せめて汝らの首の一つも奪わねば、奴らに言い訳が立つまいよ」
 ここに至ってなお、金牛猛将は落ち着いている。
「それはこっちが御免だわ。私たち、みんなで無事に帰るって決めてるの。さあ、勝負!」
 ジェミは空中から隙を伺っていた。
 そんな緊迫していく空気を切り裂くように、一人の男が金牛猛将の眼前に歩み出る。
「我が名はケルベロスが一人、巽清士朗――。……互いの譲れぬものがため。いざ、尋常に」
「返す名は持たぬ。如何様にでもかかってくるがいい。――金牛宮よ、守護者たる我に加護を!」
 たとえ敵であろうとも、清士朗は武人としてのあり方に敬意を示し名乗りを上げた。そして命を燃やして咆哮する金牛猛将の間合いへと踏み込んでいく。
 振り下ろされる大斧に、清士朗が手にする刀が触れる。けれど、鳴り響くはずの金属音が殆ど聞こえない。風にそよぐ柳のように、打撃に逆らうことなく側面へと回り込み、清士朗はいつの間にか死角にいた。
「妖しき技を使う奴め」
「わはははっ! ようやくお主を殴れるのう、待ちわびたぞ!」
 しかし金牛猛将とてさるもの、すぐに清士朗を捉えていた。だが、間近まで迫った無明丸が追撃を許さない。高笑とともに放たれた一撃が、黄金の鎧を穿った。
 後方では、エルムがレヴィンに御業を飛ばし、その身を鎧う。
「これで相手の守りを剥いでしまってくださいね」
「ああ、いくぜっ!」
 レヴィンは一つうなずくと、握りしめたチェーンソー剣の斬撃を浴びせ、ひび割れた黄金の鎧を更に無残な姿へと変えた。金牛猛将が反撃せんと斧を振るえば。
「どこを狙っているの!? 狙うなら私を狙いな!」
 そこにはオウガメタルで全身を覆った和奈が待ち構えていて、鋼の拳を突き出してきた。

 傭兵たちが討たれた時点で、ほぼ決着が着いたのだと、金牛猛将も悟っていただろう。けれど、金牛猛将は金牛宮を護る役目に殉じ、最後まで手を緩めない。
(「天晴な武士。だからこそ倒したいというもの」)
 その姿は清士朗が感銘を受けるに、十分なものだった。命を取るのは気が重いが……、全力での立ち会いを相手は望んでいるだろう。なればこそ清士朗は、一刀一刀に魂を込めて刃を振るう。
 そして、苺の挑戦も終わりに近づいていた。強大な力に耐えて、反撃し打ち勝ったと示すために。なにより、これ以上被害を広げないために、全力を振るう。
「わたし達が討ち漏らしたんだから、わたし達で企みは挫くっ」
 少々狙いが甘くなってきた戦斧の一撃をかいくぐり、思いの丈を込めた高速回転の一撃で、金牛猛将に残された僅かな余力を削る。
(「『実は』なんて要らねえ相手だったな。――ぶっ殺す」)
 苛立ちを込めて竜人が放った拳が、音速を超えて衝撃波を生み、耳朶を打つ。拳を撃ち込んだ箇所の鎧は砕け散った。金牛猛将は大きくよろけるが、戦斧を床に突き立てて、まだ倒れない。
 その執念を吹き飛ばすかのごとく、込めた魔力が輝く掌を引っさげて、ジェミが突貫する。
「これが私の……めいっぱいよ!」
 叫びとともに突き出された掌底が、金牛猛将の胸を撃ち抜いた。それは消えゆく火を吹き消すには十分すぎる一撃。金牛猛将の身体が床を離れて浮き上がり、そして力なく沈んでいった。

 倒れた金牛猛将を、ケルベロスたちは構えを解くことなく警戒していたが、やがて誰からともなく息を吐いた。これで終わったのだと、安堵感が広がっていく。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 無明丸は疲れを感じさせない勢いで、拳を突き上げて叫んだ。
「寿ぎ申し上げる。そなたの魂、今、神と昇った」
「貴方の勇士、心に刻んだわ。本当に強かった。それは忘れない」
 そんな喧騒を背に、清士朗とジェミは勇者に礼を捧げる。

 年末年始を騒がせた戦争の後始末。その一幕はこうして終わりを告げたのだった。

作者:Oh-No 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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