魔導神殿追撃戦~双児宮よりのシグナル

作者:七尾マサムネ

「アスガルド・ウォーの勝利、お見事でした。死翼騎士団との因縁にも決着をつけることが叶いました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、死闘を終えたケルベロス達を労った。
 しかし、1つの勝利は、新たな戦いの幕開けでもある。
「エインヘリアルの残存兵力が、魔導神殿群ヴァルハラの宮殿と共に地上に出現したことが確認されました。その1つには、第三王子モーゼスが護る、双児宮『ギンヌンガガプ』も含まれています」
 宮城県仙台市付近に浮上した双児宮「ギンヌンガガプ」は、機能を停止して久しい、「載霊機ドレッドノート」付近で停止している。
 この双児宮の内部には、ユミルの子のような、巨大エインヘリアルを造り出す装置があるらしい。
「また、宇宙空間に向けて、詳細不明の電波が送信されていることが確認されました。これらを放置する事はできません」
 よって今回の目的は、双児宮に侵入し、敵の作戦を暴くことにある。
 だが、双児宮の周囲は、巨大エインヘリアルによって防衛態勢がとられている。内部に進入するためには、この守りを突破する必要がある。

「目下、双児宮は沈黙状態にあります。今回、もしも成果を上げる事ができなくても、情報さえ得られれば、再突入のチャンスは訪れるかもしれません」
 そう前置きした上で、イマジネイターは、防衛にあたっている巨大エインヘリアルは、ユミルの子、獣型巨人、光の巨人の3種である事を説明した。
 巨大エインヘリアルは数が少ないこともあり、それぞれ単独で警戒の任についている。
 よって、外縁部で単独行動中の巨人を狙って撃破すれば、警戒網をくぐりぬけ、双児宮に接近することは難しくないと思われる。
「ただし、外縁部以外にも、哨戒を行っている巨大エインヘリアルが確認されています。戦闘後も、警戒は怠らぬよう気を付けてください」

 そして、イマジネイターの説明は、外縁部を守る敵の能力に移った。
 まず、ユミルの子は、再生能力を持ち、こちらの生命力を奪う力にも長けている。
 獣型巨人は破壊特化型。だが、その爪には毒が隠されている。
 そして光の巨人は、毒により周囲を汚染する。そのくせ自身は、光の加護で状態異常への耐性を発揮する。
「いずれも10m級の巨大エインヘリアルですが、全てを相手する必要はありません。撃破目標を一体に定め、撃破後は速やかに双児宮に接近してください」
 迅速に進軍できれば、双児宮の門番である「魔獣巨人キメラユミル」と相対することになる。
 これを撃破し、内部にて敵の作戦を探るのだ。そのためにも、最初の戦いをどう切り抜け、その後どのように双児宮に接近を行うかは、重要なポイントだ。

「電波の送信先がいかなる相手なのか、気になる処です。今は、少しでも情報が欲しいですね。ですが、無理は禁物です」
 そしてイマジネイターは、ケルベロスたちの無事な帰還を祈るのだった。


参加者
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)
メガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)

■リプレイ


 ヘリオンデバイスを発動し、双児宮を目指す、ケルベロスたち……その一隊。
 目標は、この宮を司りしエインヘリアルの王子、モーゼスとの相対。
(「宇宙への電波か。浪漫ある話だが、エインヘリアルの印象に合わん気もするな」)
 敵の事情に思いを馳せつつ、スーパーGPSを確認する櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)。
 電波、という手段から、送信相手の正体も見えてきそうだ。合わせて、エインヘリアル……というより、モーゼス王子の思惑も。
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)のかけたゴーグル……ゴッドサイト・デバイスが、味方チームや、警戒中の巨大エインヘリアルの位置を表示する。
 今回の戦力は、万全とは言い難い。そして、豪快さを好むファレとしては地味な領分にある、隠密行動を余儀なくされる作戦だと言う事もある。
 が、彼氏が一緒なのは、心強かった。浮かれはしない。
 そんなファレの彼氏こと、メガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)は、デバイスを使いこなしている恋人たちを見て、感心していた。
 そしてメガもまた、千梨同様、敵の目的を推し量る。
(「謎の電波ねぇ。もしかして増援を呼んでるってことか?」)
 ドラゴンがゲートを介さずとも……ただし命がけの手段さえ用いれば……地球にも到達可能な事実を、身をもって証明したのも、メガたちの記憶に新しいところだ。
 エインヘリアルの王子、色々と調べがいがありそうだ。
 そのためにも、作戦行動を急がねばならないだろう。とはいえ。
(「ま、うちのチームは少数精鋭だし、行けるところまで行ってダメそうなら撤退すればいいかな。気負いすぎてもよくないしね」)
 エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314)は、普段と変わらぬ気楽な気持ちで、心の余裕を保つのだった。


 双児宮の守りとして配された、10メートル級の巨人が闊歩する。
 一行が標的に定めたのは、特に孤立した獣型巨人だった。
 巨人の予測進路は、自分たちの他にモーゼス王子を目指すチームの方に向いているようにも思える。
 当然、向こうでも敵の行動は把握しているだろうが、これを足止めすれば、援護になるかもしれない。
 頭部に背中……各部から魔神の如き角をそそり立たせ、蹄にて支えられる巨躯は、実に豊満なものだった。
 接近するにつれ明確になっていくその容姿を見て、エマは、ふむん、と思案する。この獣型も、素体が女性であるのは間違いない。
(「あー、この女性の人権の無さ、レリ王女たちが反乱起こすのも納得かな」)
 エマが、かの王女たちに同情を寄せた。少しばかり。
 そして、会敵の時は来た。
「さあみんな、ヤッてしまうわよ!」
 隠密気流を解くなり、ファレが仲間たちへと声を飛ばした。
 今まで慎重に進軍してきた分、大げさなくらい、派手さ増量で。
「ウゥウッ!」
 獣型が、ケルベロスたちの襲来に反応するのは、早かった。知性レベルは不明だが、自分が何をするためにここにいるのか、最低限の役割は把握しているらしい。
「迎撃態勢を整えられる前に、と」
 先鋒を買って出たのは、千梨だった。
 山羊姿の悪魔を思わせる禍々しき巨体へと、千梨が駆け出していく。
 その身に降りた御業が、巨人の魔手をかわす不可思議なる羽衣となる。
 ひらりと舞って、空へと飛びあがる。五倍以上の身長差のある敵、その頬を、扇が打ち据える。
 同様に、数倍の顔面が織りなす憤怒の形相が、千梨を威圧した。
 千梨が相手の怒りを引き出すのに合わせ、エマもペイントブキを振った。
 さらりとエマが虚空に描き出したのは、巨大怪獣。それも、恐竜……ティラノサウルスを彷彿させる、獰猛な肉食恐竜だ。
「それいけー!」
 エマの号令とともに、恐竜怪獣が、獣型に突進する。
 激突する二つの巨体。溢れる衝撃が、大気と大地を揺るがす。
 前足の長さ故、器用さでは負けても、突進力には優れているようだ。ティラノサウルスが、獣型を押し込んでいく。
 エマ画のティラノサウルスと、格闘戦を繰り広げる獣型。
「あっはっはっはっはっぎゃははぎゃはぎゃは!!」
 狂ったような笑い声が、戦場に響き渡る。その主は、獣型……ではなく、ファレだ。
「やられておしまい、デカブツちゃん!」
 でたらめにも見える激しさで振り回されるのは、神撃槌。前座にはさっさと退場願う、という意気込みが乗せられているようだ。
 巨人が味方を狙ってかがんだタイミングと、ファレが渾身の一撃を繰り出すタイミングは、奇しくも合致した。
「どかーんっ!」
「!!!!」
 獣型のすねを、ファレのスイングが強打した。
 敵の足が爆砕を起こし、派手な煙を上げる。
 グラビティ・チェインを地獄化する事で、対象を燃焼させた……などという原理は、獣型にはわかるはずもなく。
 ファレの一撃によって、獣型の体を流れるグラビティ・チェインが、減少する。
 そのチャンスに飛び込んだのは、ファレをフォローするべく敵との距離を詰めていたメガだった。
 巨人の禍々しき眼光が、メガを射抜く。だが、その戦意、応援魂を削り取るには至らない。
 宙で一回転。敵の屈強な腹筋へと、メガのキックが炸裂した。
 衝撃は四肢に伝播し、その皮膚を破った。威力の証明として、腹筋には、大きな星型を刻み込まれている。
 しかし、相手はまるで堪えた様子も無く、巨腕を、千梨に振り下ろす。
 毒液をたたえた爪撃が、千梨を数十メートル跳ね飛ばした。肉体自体が、もはや巨大鈍器。
「普段適当に逃げてるからな、護り手はどうも慣れないが。ま、偶には気張ろうか」
 アームドアーム・デバイスに自らの体を受け止めさせた千梨が、再度、敵に向かった。


「ウゥ、アァァッ……!!」
 獣型の呻きとともに、傷口がふさがっていく。それどころか、爪がより強じんに伸長し、蹂躙の力さえも高めていく。
「まだそんなに追い詰めてはいないと思うけど、慎重派なのかな」
 味方と手分けして回復と攻撃に努めていたエマが、思わずつぶやく。
 アームドアーム・デバイスで地面を叩いて、相手の高さに肉薄する。
 滞空中に、グラビティで作り出したロケットランチャーを構えたエマは、一気にその火力を敵にぶつけた。
 炸裂によって生じた多量の爆煙が、獣型の視界を塞ぐ。
 そこに、御業とともに、獣型の周囲を舞うように攻める千梨。
 獣型の強化を味方が破る時間を稼ぐため、回復役を買って出ていたところから、攻撃に転じる。
 敵の眼が、撒いていた呪符や光の盾に気を取られている間に、千梨は素早く手刀を繰り出す。
 それが、ガードにかざした腕に突き立てられた瞬間、巨人の体表を、電光が駆け抜けていく。
 味方が攻めている間に、ファレの神撃槌が、打撃から射撃形態へと変形した。轟音伴う砲撃は、獣型がとっさにかざした腕にぶち当たり、爆発の華を咲かせる。
 一見、派手な立ち回りに見えて、敵の足止めにも成功しているあたり、これもファレの作戦らしい。……違うかもしれない。
 しかし、敵の進撃は止まらない。
 角、そして爪から零れ落ちる毒液が、メガたちの足場を侵食していく。
 それをバックステップで免れ、抜刀するメガ。
 形無き空すら断ち切る斬撃が、敵の角、その一本を切り落とした。だが。
「!?」
 高速で伸びて来た角が、ファレを貫いた。
 メガの反応は、迅速だった。すかさず、メガが駆け付け、ファレの体を抱きとめる。
 お姫様抱っこされたファレの瞳に、ハートマークが輝く。だが、今は呑気に恋人タイムに浸っている場合ではない。
 気合一発。高まる乙女パワーで自身の傷を吹き飛ばすファレ。そこに、味方のヒールも集まって。
 戦力不足は、しっかり認識していた。しかしその分を埋め、モーゼス王子との対面を果たそうと逸る余りか。
 一同は、巨人の奮戦に、苦戦を強いられていた。
 何より、獣型の地力が強い。回復強化を繰り返しながらの猛攻が、四人を引き裂き、貫いていく。
 伸びて来た鋭角をかわしながら、メガが、相手と自分たちの余力を計算する。
「もっと上手く立ち回れれば……」
「気にしない気にしない、後少し、頑張ろう~」
 エマの声援が、一同を再び奮起させる。
 エマたちにも、無意識とはいえ、必要以上に急ぐ心があったのかもしれない。だが、ここで負けるわけにはいかないし、そうなる道理もない。
 ケルベロスを追い込んだ……そう判断した獣型の歩みが、突然止まった。これまでに受けた行動阻害が、一気に押し寄せ、体の自由を奪ったのだ。
「全く、柄にもなく焦ったかも、な。ここから一気に押し切ってやるか」
 これまで自分たちが叩きこんだ技の効果を信じ。
 千梨が、全力を傾けて、炎砲を繰り出した。
 巫力を注ぎ込んだ分、その反動も大きい。だが、アンカー代わりにしたアームドアーム・デバイスがそれを吸収してくれる。
 獣型を飲み込む業火に続いて、ファレの、神さえ撃つ砲が、冷気の塊を作り出した。
「半身を炎に焼かれて、半身を氷に閉ざされて。今の気分はどう!?」
 ファレの言葉通り。
 巨人の呻きは、傷を塞ぐことが出来ても、その身を蝕む炎や氷までは、払うことが出来ない。
 巨人に、惑いの色が浮かぶ。
 追い詰めていたのは自分ではなかったか? なぜ今自分は劣勢に追い込まれているのだ?
 獣型を、更なる驚きが襲う。自分の目線の高さより上から、エマが迫って来たからだ。
 空へと描き出した道は、勝利への道。空中を駆け抜けたエマが、ペイントブキを獣型の額にぶち当てた。
 獣型の自己強化により伸長した角や爪が折れ、威力を失う。
「これで仕舞にしようか」
 メガが、敵を見据える。
 巨人の理性のほとんど感じられない暴力の嵐をくぐり抜け、刀を構える。
 メガの体を、千梨やエマのデバイスアームが放り投げた。進路は、ファレが確保してくれている。
 仲間の援護を受けて、メガは敵の懐へと飛び込んだ。
 繰り出されたのは、ただ一閃。しかし、メガの技の全てを凝縮した一刀は、相手の体を両断していた。
「ウ……ア……」
 ずぅぅぅぅん。
 獣型の巨体が、遂に地面に倒れ伏した。


 皆を労いながら、負傷を確認したメガが、回復に取り掛かった。
 ヘリオンデバイスによる回復を待つ時間も惜しいのだ。
「さあ、先を急ごうか!」
 最低限の回復を終えたメガたちが、進軍を再開する。
 急ぎ、門を越え。双児宮にたどりついた一行は、思わぬ光景を目にする事となった。
「ん」
 突然の振動が、千梨たちの体を揺るがす。
 揺れの元凶は、千梨たちのすぐ目の前にあった。双児宮、その半分が、高く浮上していくのだ。
「これはもしや、幹部が部下を見捨てて、自分だけ脱出するムーブ!?」
 ファレの声には、微かにうらやむような色が混じっていた。
 だとすれば、先行した対モーゼス班が上手くやったと、そういう事なのだろうか。
 メガは、残った方の宮殿を振り返る。
 その断面は、分離などという行儀のいいものではなく、強引に引きちぎられたようにさえ思える。
「東と西で高さが違ったようだが、あえて片方だけ脱出した理由はなんだ? いや、片方は『飛び立てなかった』のか」
 つぶやくメガ。
 そして千梨は、空の向こう……おそらくは宇宙を目指す双児宮を見上げる。ここからでは、グラビティも届くまい。
「モーゼスが気にしていた『友人』の元にでもいくのかな。果たして何者なのやら」
 仲良くやられちゃ困るが、と千梨は、小さく溜め息をついた。
「空飛ぶ宮殿とか電波とか、なんかダモクレスっぽいギミックかも。ってことは、電波飛ばしてたのも、その『友人』ってのも、ダモクレスかな、やっぱり」
 エマが、空へと吸い込まれるようにして、星の海へと昇っていく宮殿を見上げた。
 今回得られた情報を共有すべく、一行は、仲間たちとの合流を急ぐのだった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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