愛さえあれば?! 不倫も大正義?!

作者:秋津透

 東京都港区、某テレビ局スタジオ。
 そこで、不倫がバレた男性タレントが、大勢の芸能リポーターを前に糾弾というか、公開処刑というか、激しい吊し上げを喰っていた。
「妻子ある身でありながら、別の女性に手を出すとは、いったいどういうことですか! しかも、表向きは妻子を愛するよき夫を演じて、好感度を得て、CMにも出ていたなんて、欺瞞ですよ! 許し難い欺瞞です! この責任をどう取るんですか!」
 口々にまくしたてるレポーターたちを前に、男性タレントは身を縮めて黙り込むばかり。
 ところが、その時。
 男性タレントを責め立てていたはずの中年男性レポーターの一人が、いきなりビルシャナに変身して叫んだ。
「不倫がなんだ! 略奪愛の何が悪い! この少子化時代、愛さえあれば、男女の交際はすべて大正義! 成年未成年、未婚既婚など関係ない!」
「……は?」
 他のレポーター、そして責められていた男性タレントも、一瞬、あっけにとられてビルシャナを見やる。しかし次の瞬間、男性タレントが身を震わせて叫び、同時にビルシャナに変身する。
「そうだそうだ! 愛さえあれば不倫も大正義! 俺が非難されることなど何もない!」
 そして更に、何人かの男性レポーターが、連鎖的にビルシャナに変身する。
「愛さえあれば! 不倫も大正義!」
 ……つまり、お前らみんな、人の不倫を責めながら、自分も不倫してたってことか?

 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した口調で告げる。
「一大事です。不倫をした男性タレントの釈明会見の場で、レポーターの一人が「愛さえあれば、不倫も大正義」ビルシャナに変身してしまい、そのまま連鎖的に男性タレントやレポーターがビルシャナと化すというとんでもない事態が予知されました。しかも、この場面はテレビ放映されているので、対処しなかったらどれほどの影響が出るか、想像するのも恐ろしいことになります」
 そう言って、康は画像を切り替える。
「テレビ局はここ。会見の行われるスタジオと時間はわかっていますので、急げば一時間ほど前に到着できます。しかし難しいことに、大正義ビルシャナの出現を止めてしまったら、次にいつどこで変身するかわからなくなるので、事前の対処は非常に限定されます。ケルベロスの権限でスタジオに入り込む程度は何とかなるでしょうが、会見をやめさせることや、ビルシャナに変身するリポーターを排除することはできません」
 難しい表情で、康は告げる。
「更に、大正義ビルシャナに主張させてしまったら、不倫の露見や不倫隠しで窮地に立っている人たちが一斉にビルシャナ化してしまうので、何も言わせないうちに議論をふっかけ注意を逸らし、一般人を逃がす必要があります。かつ、テレビ放映は絶対にNGなので、大正義ビルシャナの変身と同時、できれば寸前にスタジオ内のテレビカメラをすべて破壊する必要があるでしょう」
 すると、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が告げた。
「どう考えても、人手がいくらあっても足りなさそうな状況ですね。私とロコも参加します」
「そうですね。ありがとうございます」
 応じて、康は一同を見回す。
「非常にいろいろと厄介な依頼ですが、信念に凝り固まった大正義ビルシャナの説法力には、恐るべきものがあります。一般人が新たなビルシャナや信者にならないうちに、引き剥がして、倒すしかありません。新装備『ヘリオンデバイス』での支援も可能になりましたし、どうかよろしくお願いします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
蘇芳・深緋(ダンジョンレア倉庫・e36553)
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーごさい・e79329)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
柄倉・清春(暴走機関車清香ちゃん・e85251)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)
佐竹・レイ(あたし参上・e85969)

■リプレイ

●総員、すみやかに配置につけ。
「あ、あれ? レスキュードローンって、こんなに大きかったっけ?」
 現場のテレビ局近くに降下した佐竹・レイ(あたし参上・e85969)が、自分で召喚したレスキュードローン・デバイスを見て当惑した声を出す。
「困ったな。資材運搬スタッフのふりしてスタジオにドローン持ち込んで一般人救助しようと思ってたのに」
 突っ込みどころ満載の呟きを漏らしてレイは少し悩んでいたが、結局、無理なものは無理と諦め、召喚を解いてテレビ局の建物に向かう。
 するとテレビ局の入口で、見た目武骨なロボットの金属妖精グランドロン、ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が警備員に呼び止められている。
「すみません。出演者の方ですか?」
「いや……私はケルベロスだ。ここには、極秘任務のために来た」
 落ち着いた声で告げ、ディミックはケルベロスカードを提示する。警備員は目を丸くし、カードとディミックを見比べる。
「ケルベロスの方……ということは、ここにデウスエクスが?」
「済まんが、極秘任務なのでね。質問には、一切答えられない。通してもらえるかな?」
 穏やかに、しかし断固として告げるディミックに気おされ、警備員は引き下がる。
 するとそこへ、ヘリオンに同乗してきたのではないサポート参加のケルベロス、半蛇態の妖精メリュジーヌのオズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)がするりと入り込み、警備員にケルベロスカードを見せる。
「僕もケルベロスだ。この方と同じ極秘任務で来た。通るよ」
「は、はい……」
 警備員は、オズのケルベロスカードを見やってうなずく。よし、チャンス、と、レイも飛び出し、イケメンのオズにぺたっと寄り添う。
「私も極秘任務のケルベロスよ。これ、カードね」
「はあ……」
 呆然として、入口の警備員はディミック、オズ、レイの三人を通す。そのまま彼らはテレビ局内を進み、目的のスタジオ前まで、特に咎められずに到達したのだが。
 そこで、蘇芳・深緋(ダンジョンレア倉庫・e36553)が複数の警備員と揉めていた。
「他番組出演のミュージシャンだと? ここは報道のスタジオだ。ミュージシャンが来る予定など聞いてない」
「あれ、でも、このあとタレントの謝罪会見やるの、ここでしょ?」
 訊ねる深緋に、警備員は腹立たし気に応じる。
「そうだが、来ると聞いているのは謝罪するタレントと糾弾するレポーターだけだ。まったく、政治家や企業の謝罪会見ならわかるが、なんでタレントごときの会見を報道のスタジオで生放送せにゃならんのだ。上の指示だから仕方ないが、迷惑至極だ」
「おい!」
 別の警備員に咎められ、深緋に応じていた警備員は不機嫌そうな顔で黙り込んだが、やってきたディミックたちを見咎めて制止する。
「おい! この先は、関係者以外立ち入り禁止だ」
「我々はケルベロスだ。極秘任務で来た。立ち入らせてもらう」
 カードを示したディミックが重々しく告げ、オズが淡々と続ける。
「一切の質問には、答えられない。僕らの行動を邪魔したり、しつこく質問してきた者は、デウスエクス協力者の嫌疑により処断する。その旨、スタジオ内のスタッフにも伝えてもらいたい」
「わ、わかりました。伝えますので、お待ちください」
 態度を一変させ、警備員たちはスタジオ内へ走ったり、スマホでどこかに確認を取ったりする。
 そこへディミックが、穏やかに告げる。
「この女性も、ケルベロスだ。我々と一緒に、スタジオに入る」
「え? でも、ミュージシャンだと……」
 言いかかる警備員に、深緋は仏頂面でケルベロスカードを示す。
「これで文句ないか?」
「あ、はい、それは……でも、だったら何でミュージシャンだなんて……」
 訊ねかかる警備員に、深緋は冷淡な口調で反問する。
「あのな。あっちの彼が、一切の質問には答えられないって言ったの、聞いてなかったか?」
「わ、わかりました……」
 警備員は即座に畏まる。あー、うざい、ちょーうざい、と、深緋は内心で毒づいた。
 一方、既にプラチナチケットを使い、ケルベロスだと明かさずスタジオに入っていた柄倉・清春(暴走機関車清香ちゃん・e85251)日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーごさい・e79329)の元には、スタッフが走り寄り小声で囁く。
「気を付けてください。ケルベロスが来てます。一切の質問を受け付けない極秘任務だそうで、邪魔するのはもちろん、しつこく質問するだけでデウスエクス協力者の嫌疑で処断すると言ってます」
「ほう、それはそれは」
 清春はクククと笑い、蒼眞は真顔で訊ね返す。
「で、ケルベロスが来たことで、何か変更とかあるんですか?」
「今のところは、何も」
 スタッフの返事に、蒼眞は内心安堵の息をつく。
 そしてジルダリアは、いかにも身内っぽく、スタッフに礼を言う。
「情報感謝です。用心しますね」
 それから間もなく、モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)の三人がスタジオに入ってくる。
 三人ともケルベロスと名乗って通ったようで、入口近くにいたスタッフが、ささっと距離を取る。
(「よし、揃った」)
 呟いて、蒼眞はテレビカメラの位置を改めて確認する。人が操作する床置き型の大型カメラが三台、スタジオの天井と後方の壁にそれぞれ設置された自動カメラが二台ある。
 人が操作するカメラは、万一にもカメラマンを傷つけないよう、蒼眞、ジルダリア、槐が至近距離から直接壊し、自動カメラは天井のものをディミックがビームで、壁のものをモヱのサーヴァント、ミミックの『収納ケース』が壊す手筈になっている。
(「スラッシュシップも嵯峨野も、順当な位置を取ったな。……まあ、仕損じることはないだろう」)
 蒼眞が呟いた時、これから謝罪する不倫タレント、そして糾弾する芸能レポーターたちが、どやどやとスタジオに入ってきた。タレントは落ち着かない様子で自席に座るが、レポーターたちは卑屈と言っても良さそうな態度でスタッフに挨拶する。
 しかしスタッフの方は、ろくにレポーターたちを相手にせず、誰一人としてケルベロスが来ていることを伝えようとしない。
(「……うは。有難いっちゃ有り難いが、こうも露骨に差別するかね」)
 蒼眞は内心肩をすくめたが、これが通常の扱いなのか、レポーターたちは特に気にする様子もなくタレントに向き合う席に着く。そして、司会を兼ねているらしい一人のレポーターが大声で呼ばわる。
「それでは、時間ですので収録……いや、中継入ります! よろしくお願いします!」
 すると、スタジオ内の照明が切り替わり、謝罪会見の中継が始まった。司会のレポーターがカメラに向かってべらべらと喋り、タレントが反省の弁をぼそぼそと述べる。そしてレポーターたちが激しく非難糾弾を始める。
 そして、予知された時間ちょうどに、いちばん端に座っていた長身のレポーターが、急に立ち上がって全身を震わせる。
(「来たっ!」)
 その刹那、四人のケルベロスと一体のサーヴァントが、五台のテレビカメラを瞬時に、的確に破壊した。

●議論(?)その一。  
「不倫がなんだ! 略奪愛の……」
 テレビカメラの破壊と小爆発でスタジオが騒然となる中、大正義ビルシャナに変身したレポーターは、委細構わず主張を始めようとしたが。
 待ち構えていた深緋がビルシャナの前に飛び出し、勢い込んで強引に言い被せる。
「愛があれば不倫も正義? 面白くもない冗談だねー。視聴率取れないよー」
「ん?」
 ビルシャナの言葉が止まり、視線が深緋の方へ向く。ここぞとばかりに、深緋は嘲りの言葉を続ける。
「うましかとり頭だからわかんないかな? 漢字にしてみ。そう、馬鹿(バカ)にしてんだよー」
「ふん、くだらん」
 呟いて、ビルシャナは言い募る深緋から視線を外し、スタジオ内で右往左往している一般人の方を見やる。
(「まずい!」)
 清春とモヱが一瞬顔を見合わせ、即座に清春が深緋を押しのけてビルシャナの前に出る。
「あー不倫が正義だぁ? ククク、そいつは筋が通んねぇだろ」
「筋が通らない? ふん、それはどういうことかな?」
 一般人に向きかかったビルシャナの視線が清春に向き、その言葉に反応する。
 そして 一瞬棒立ちになった深緋を、モヱが引き戻す。
「どういうことだよ! まだ、言いたいことはこれから……」
「気持ちは分かりマスケド。駄目デス」
 抗議する深緋に、モヱが冷静に告げる。
「大正義ビルシャナの気を惹くには、本気の「議論」が必要デス。挑発でも、糾弾でも、罵倒でも駄目なのデス」
「くっ……」
 呻いて、深緋は清春とビルシャナのやり取りを見据える。モヱは、むろん清春の方に一定の注意は払っているが、むしろ避難状況の方へ目を向けた。

●避難。
「デウスエクスが出た! 逃げて! すぐ逃げて!」
 大正義ビルシャナが出現した瞬間。ディアナが叫びながら不倫タレントへ飛びつき、強引にビルシャナから引き離す。ほぼ同時にオズが飛び出し、司会役のレポーターを出口側へ引っ張る。
 そしてレイが、比較的若く見栄えのいい男性レポーターを誘導しようとしたが、そのレポーターは混乱気味に言い募って動こうとしない。
「いや、デウスエクスって、あれ、ヤマさんだよ! ヤマさんが、デウスエクスに変身しちまったのか? どうなってるんだ?」
「え、ええと、それは……」
 一瞬口籠ったレイを押しのけ、首尾よくテレビカメラを壊した槐がレポーターの前に出る。
「説明してる暇はない」
 言うより早く、槐は手加減攻撃でレポーターを気絶させる。外見からは想像もつかないが、槐は怪力種族オウガで、下手に「普通の力」を使うと一般人の肉体など簡単に壊してしまう。ならば、殺すおそれのない手加減攻撃で気絶させて、そっと運ぶのが最も早い。
 しかし、その行為を見咎め、別のレポーターが叫ぶ。
「何をするんだ!」
「黙れ」
 駆けつけてきた蒼眞が、抗議しかかるレポーターを問答無用の手加減攻撃で黙らせる。
 そしてディミックが、思い切り威圧的な声で告げる。
「死にたくなければ、何も言わず全力で逃げろ。足を止めるな。振り返るな。デウスエクスは見ただけで死ぬぞ」
「ひいっ!」
 魁偉なロボット体のディミックに脅され、さしものレポーターたちも、それ以上ごちゃごちゃ言わずに逃げる。槐と蒼眞は、それぞれ気絶させたレポーターを抱え、逃げる連中を追い立てる形で外へ出る。
 そして、外へ出た途端、レポーターの一人が喚きだす。
「いったい、何が起きたんだ! あんた方は、いったい何なんだ! 説明を……ぐふっ!」
 喚くレポーターを手加減攻撃で気絶させ、ディアナが他のケルベロスに告げる。
「ここは私が引き受けます」
「頼む」
 言い置いて、ディアナ以外の全員が急いでスタジオに戻る。
 そしてディアナは、不倫タレントとレポーターたちに告げる。
「私たちはケルベロス。デウスエクス事件に対処するため、ここに来ました。あなた方には、デウスエクス協力者の嫌疑がかかっています。警察を呼びましたので、この場を動かないように。逃げようとしたら倒します。質問は一切許しません」
「そ、そんな……」
 思わず言いかかったレポーターを、ディアナは即座に容赦なく気絶させて訊ねる。
「他に、気絶させられたい方は?」
 そこにいた全員が、一斉に首を横に振った。

●議論から戦闘、決着。
「まぁ男にしろ女にしろ感情ってのは一筋縄じゃいかねぇわな。誰かを一生愛することも言うほど簡単じゃねーんだろうさ、フツー誰だって自信ねぇもんかもな」
 清春の言葉に、ビルシャナは軽くうなずく。
「そうだな。そこに異議はない」
「だが別の誰かを愛するにしたってケジメつけてからだろ?」
 そう言って、清春はビルシャナを見据える。
「『愛する人』とやらに汚ぇ保険かけたまま関係を清算しねぇで甘い果実だけ貪るってのは『正義』ってやつと真逆じゃね?」
「それは、貴様の言う『不倫相手』及び『現在の結婚相手』が、関係を清算したいと思うかどうか次第だな」
 ごく平然と、ビルシャナは応じる。
「貴様は、複数の相手を愛するには『ケジメ』が必要だと言う。だが、相手はどうなのだ? 自分だけを愛してくれと叫ぶ者もいるだろうし、自分を愛してくれれば他はどうでもいい、という者もいるだろう。そして、往々にして、自分だけを愛してくれという者は、貴様の言う『感情ってのは一筋縄じゃいかねぇ』現実を理解しないエゴイストだ」
 そう言って、ビルシャナは翼を動かす。
「むろん例外はあるが、不倫は絶対許さないという者の感情は、おおむね愛とは似て非なる独占欲だ。『愛のない独占欲のみの結婚関係』よりも『愛のある不倫関係』の方に正義はある、と私は主張する」
「ふん、ケチな理屈は追い詰められたガキの言い訳と変わらねぇんだよ。テメェのそれは愛じゃねぇ、脳みそが股間についてるだけだろ」
 清春が言い放つと、ビルシャナは不敵に笑う。
「ははは。脳みそが股間についているとは面白い。だが、貴様の言う『ケジメ』とやらこそが、愛のない相手や社会に追い詰められることを恐れる未熟者の自己欺瞞、自己弁護に過ぎんな。実にくだらん」
 そう言うと、ビルシャナは清春への興味を失ったらしく、他に視線を向けようとする。
 そこへ、今度はモヱが言葉をかける。
「愛とは、何でショウカ。生活の為、金銭的に責任が取れる事でショウカ? ですが、『不倫』と定義されてしまっている以上、何らかの倫理に背いた行いであることは明白デス」
「ふむ……? お嬢さん、あんたは人間ではないな? 機械か?」
 モヱに視線を向け、ビルシャナは唸る。
「機械のあんたに、愛や不倫を説明するのは難しいが。まあ、愛は二人の人間が互いに相手を求め合い思いやる感情だな。不倫というのは、そう、一夫一婦制に背く男女関係は倫理的でないという考え方だ」
「そうデスカ。ですが、あなたにかかわる人たちが納得し、隠さずに祝福できる関係こそが正しき愛であるはずデス。誰かを傷つける愛を認め、愛の名のもとに人を傷つける行為を正当化するなど狂気の沙汰、まるで正義では御座イマセン」
 言い放つモヱに、ビルシャナは苦笑混じりの口調で返す。
「人の感情である以上、愛は機械が正か誤か判定できるものではない。相手を誠心誠意思いやっても、結果として傷つけてしまうこともある。その結果だけ見て「人を傷つける行為」と判定するのは、冷酷非情、愛とは正反対だな」
「ハア……」
 さて、ドウシマショ、と、モヱは首を傾げる。するとそこへ、避難誘導に出向いていたケルベロスたち(ディアナを除く)が戻ってきた。
「待たせたな! もういいぞ!」
 蒼眞の声に、清春が嬉し気に笑う。
「ククク……待ちかねたぜ!」
 言うより早く、清春はドラゴニックハンマー『鉄壊』を砲撃形態に変化させ、ビルシャナに強烈な砲撃を叩きこむ。
「ハっ、年貢の納め時だぜ! テメエの大正義なんぞ、最初からどうでもいいんだよ! 言うだけ言わせてやったのは、単なる時間稼ぎってわけだ!」
「グハッ!」
 直撃を受けて、ビルシャナが身を捩る。更に、清春のサーヴァント、テレビウムの『黒電波くん』が凶器で一撃する。
 そして蒼眞が、オリジナルグラビティ『終焉破壊者招来(サモン・エンドブレイカー!)』を放つ。
「ランディの意志と力を今ここに!……全てを斬れ……雷光烈斬牙…!」
「ギャアッ!」
 全身をひきつらせて、ビルシャナが呻く。そこへ続いて、モヱがスパイラルアームを打ち込む。
「き……柄倉氏の言う通り、不倫の問題は当事者の、どんなに大きく見ても人類の問題デス。人間やめてしまったトリが嘴挟むところでは御座イマセン」
「ウグッ……」
 喉元を破られ喘ぐビルシャナを、ディミックがセントールランス『竜骨の槍』で突き通す。
「君の主張に興味はないが、危険なデウスエクスは排除するのが、我々ケルベロスの正義なのでね」
「ギ……ガ……ゴ……」
 ビルシャナは嘴を開閉するが、もはや声が出ない。その足に、ミミック『収納ケース』が噛みつく。
 そして槐が、通常閉じている目を一瞬開いて睨むと、ビルシャナの全身から炎が噴き出す。
「グ……ゲ……」
「馬に蹴られて地獄におちろー!」
 レイがオリジナルグラビティ『トロメアの馬(マネカレザルモノ)』を発動、光の翼を空を翔ける馬に変えて突撃する。
 続いてジルダリアが、オリジナルグラビティ『フリージングゲイル』を炸裂させる。
「冷たき北風よ、唸り逆巻き……かの者を氷の帷に閉じ込め給え」
 詠唱に従いビルシャナの周囲で冷風が逆巻くが、炎が噴き出ているせいか凍りつくことはない。
 そして、火を噴きそうな視線で瀕死のビルシャナを睨み据え、深緋がオリジナルグラビティ『「Your Song&my song」(キミノモノガタリボクノモノガタリ)』を放つ。
「言ってやりたいことはあるけど、言ってるうちに勝手に死なれても癪だ。一言にしとく。地獄に墜ちろ」
 深緋が言い終えた瞬間、ビルシャナの全身がばさっと崩れて灰の山と化す。
「トラウマ見せる暇はなかったかな」
 忌々しい、と、深緋はぺっと唾を吐いた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。