闇に滾れば

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
「今日はいつにも増して頭痛がひどいな……」
 こめかみを指先で揉みながら、頭痛持ちのシャドウエルフ――朧・遊鬼(火車・e36891)が復興著しい大阪の街を歩いていた。
 同行者はナノナノのルーナ。頭痛を少しでも和らげるため……という意図があるのかどうかは判らないが、遊鬼の後頭部にぴたりと貼りついている。
 人気のない裏通りにさしかかった時、そのルーナが悲鳴をあげた。
「ナノォーッ!?」
 殺気を含んだ妖気を背後に感じ取ったからだ。
 もちろん、遊鬼も感じ取っていた。
 素早く振り返った彼の視界に入ったのは、和服(と呼ぶには露出過多な代物)を身に纏った異形の者。細長い獣の耳が頭頂部から生え、前面からでも視認できるほどボリュームたっぷり尻尾を何本も有し、いくつもの狐火を体の周囲に漂わせている。
 それの正体を遊鬼は一目で悟り、吐き捨てるように呟いた。
「死神か……」
「そのとおり」
 死神は艶然と笑い、遊鬼に問いかけた。
「あんた、遊鬼だよねぇ?」
 いや、それは問いかけではなかったらしい。遊鬼の返答を待つことなく、死神は語り続けた。
「風の噂に聞いたよ。あの向鬼を倒したってね。あんた、強いんだねぇ。こりゃあ、いい戦力になりそうだ。向鬼や諸々に対する怒りだの憎しみだのがまだ燻ってるなら、尚いいんだけどねぇ」
「おまえのことはよく知らんが……これだけは言える」
 笑みを浮かべたままの死神を睨みつけて、遊鬼は足を踏み出した。
「俺の中では燻ってるどころか、燃え上がってるよ。おまえに対する殺意がな」
「ナノー!」
 ルーナが気丈に吠えた。

●音々子かく語りき
「死神が朧・遊鬼さんにちょっかいを出そうとしてるんですよー!」
 ヘリポートに緊急招集されたケルベロスたちの前にヘリオライダーの根占・音々子が現れ、挨拶も抜きにそう叫んだ。
「そいつは見るからに怪しい化け狐みたいな死神でして。たぶん、遊鬼さんを殺した後にサルベージして死神勢の手駒にするつもりなんだと思いますー。『いい戦力になりそう』とかなんとか言ってましたから」
 当然のことながら、遊鬼への警告を音々子は試みた。しかし、連絡が繋がらないのだという。
「死神がちょっかいを出しやがるという事態は避けようがありません。となれば、皆さんが現場に出向いて、その死神をやっつけるしかないですよねー。ヘリオンで飛んでいけば、ギリで間に合うはずです。ちなみに『現場』というのは大阪府内のかつて緩衝地帯だった場所なんですが、幸いにも近くに一般人はいません。なーのーでー、思う存分に暴れていただいて構いませんよー」
 まるで自分が暴れるかのように腕をぶんぶんと振り回す音々子。
 今回のフライトはいつも以上に荒れそうだ……と、諦観とも覚悟ともつかぬ思いをケルベロスたちが抱いていることも知らず、彼女は皆をヘリオンへと促した。
「では、行きましょー!」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
朧・遊鬼(火車・e36891)
ルフ・ソヘイル(嗤う朱兎・e37389)
夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
 嵐の海を行く船さながらに大揺れするヘリオン(予想以上に荒っぽい操縦でした)から飛び出し、私たちは大阪の町の一角に着地しました。
 その間は十秒もなかったでしょうが、体感時間は十分を超えていましたわ。心配と不安で気が急いていたので。
 心配と不安の原因は、降下地点に立っていた二つの人影です。
 私たちの同士たる遊鬼。
 そして、妖狐を思わせる死神。
「助けに来たよ、遊鬼さん! あと、即効性の頭痛薬も持ってきた!」
 頭部で地獄の炎が揺れているブレイズキャリバー――ベルベットが薬の箱を遊鬼に投げ渡しました。
「毎度のごとく、頭痛に悩まされているかもしれないと思って」
「そんなもん、いらないよぉ」
 と、ベルベットに答えたのは遊鬼ではなく、死神のほうです。颯爽と登場した(はずですわ)私たちを前にしても動じることなく、ニヤニヤと憎たらしく笑ってますわ。
「くたばっちまえば、もう頭痛に悩まされたりはしないんだからね」
「くたばらせるわけにはいきません」
 白いバスターライフルのセーフティーを解除しながら、和希が静かに言いました。
「そうです。遊鬼さんは僕らの――」
 小さく頷いて和希の横に並んだ少年は燈火。彼もまたベルベットと同様に頭が地獄化しています。ベルベットと違うのは、金魚鉢のごとき透明のヘルメットで地獄の炎を包んでいること。
「――大切なお友達ですからね。どうしても手出しするのなら、ここで機能停止させていただきます」
「タイセツなオトモダチィ?」
 死神の笑いがより憎々しげなものになりました。
「だったら、あんたらも殺して、オトモダチと一緒にサルベージしてやるよぉ。やっぱ、人数が多いほうが楽しいからね。枯れ木も山の賑わいってやつぅ?」
「ぼくは枯れ木なんかじゃないですー!」
 獣人型ウェアライダーのかりんが両腕と尻尾をぶんぶんと振りながら、死神に抗議しました。言葉の意味が判ってないようですが、彼女が抱いている怒りは私にも理解できますわ。
 さあ、この生意気な死神の性根を体ごとポキリとへし折ってやりましょうか。
 それこそ、枯れ木のように。

●霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
「俺はおまえの兵などにはならぬ。俺だけではなく、他の皆もな」
 フローさんから渡された薬を飲み終えると、朧さんはゆっくりと妖精弓に矢を番えました。
「おまえという枯れ木を足して賑わせてやる。奴のいる地獄を!」
 叫びとともに放たれたのはホーミングアロー。
「『奴』とは?」
 尋ねると同時に私は跳躍し、スターゲイザーを死神に打ち込みました。
「たぶん、ちょっと前に遊鬼が退治した死神のことじゃないかと……」
 と、答えてくれたのは仁江さん。駄々っ子のように振り回していた腕と尻尾を制止させて、黄金の果実の光を仲間たちに放射していますが――、
「んー?」
 ――矢と蹴りを受けて体勢を崩した死神を見て、首をかしげました。敵の姿になにやら違和感を覚えた模様。
「美人なおねえさん……と、思ってたのですけれど、実はおにいさんです?」
「残念ながら、そうみたいっすね。いや、べつに残念でもないっすか」
 ソヘイルさんがスターイリュージョンで天秤型のオーラを撃ち出しました。両側頭部に垂れている長い耳が反動で揺れています。そう、彼も仁江さんと同じくウェアライダー。ただし、人型ですが。
「遊鬼ってば、クセの強い奴ばっかりに好かれるっすね」
「確かに」
 と、相当にクセが強いであろうソヘイルさんを横目で見ながら、オウガの長久さんが頷きました。もちろん、敵への攻撃も忘れてはいません。ソヘイルさんに視線を固定したまま、グラビティで生み出した無数の触手を死神に繰り出しています。
「男……それも死神なんぞに目をつけられても嬉しくないだろうにな」
「つれないねぇ」
 華奢な体を蛇のようにくねらせて、死神は触手の拘束から逃れました。
「まあ、あんたらが嬉しがらなくても構いやしないけどね。どうせ、最後はあたしの可愛い兵隊ちゃんになっちゃうんだしぃ」
 連続攻撃で結構なダメージを受けているはずですが、まだニヤニヤと笑っています。
 しかし、余裕を見せつけていられるのも今のうちですよ。

●ルフ・ソヘイル(嗤う朱兎・e37389)
 一見、レイセーチンチャクってな感じの表情をしている和希くんだけど、目の中で殺意の炎がめらめらと燃えているように思えるのは気のせいっすか?
 うーん、気のせいじゃないっぽい。なんだかんだ言って、彼もクセの強いタイプなのかも。
「さあ。悪い意味での絆を断ち切るのだよ。我々は死を弄べない生き物だ」
 と、和希くんに語りかけながら、クセの強すぎるユグゴトちゃんが死神に攻撃を仕掛けたっす。
 それに続くは、同じくクセの強いベルベットちゃん。死神めがけてチョップ! 言っとくけど、ただのチョップじゃなくて達人の一撃っすよ。しかも、アームドアーム・デバイス(これがまたアームドフォートと見紛うかのようなゴツい代物っす)に備わった機械の手を使ってるっす。
「こいつ、本当に男なの?」
 鋼の手刀を引き戻しつつ、なにやら不機嫌そうな顔をするベルベットちゃん。
「アタシより美肌じゃない! どこの化粧水、使ってるの!」
「教えてあげないよぉーだ」
 死神がべーっと舌を出し、ついでにベルベットちゃんの動きを真似るかのように腕を振り上げたっす。
 ブン! ……っと、風を切る音が戦場を走ったかと思うと、遊鬼くんの前面で血が飛び散ったっす。どうやら、カマイタチみたいな攻撃を放ったみたいっすね。
 だけど、血を流したのは遊鬼くんじゃなくて――、
「ナノー!」
 ――勇ましく(?)吠えてるナノナノのルーナちゃんのほうっすよ。咄嗟に遊鬼くんを庇ったんすね。
「いや、ベルベット……おまえが化粧水を使ったら、顔の炎が消えちまうんじゃね?」
「うっさいなぁ!」
 と、千翠くんとベルベットちゃんが仲良く喧嘩している横でプシューと音がしたっす。燈火くんがスチームバリアを噴き出したんす。もちろん、対象はルーナちゃん。
「その点、燈火くんは良いよね。化粧水なんか使わなくてもツルツルのピカピカだし」
 ランプを思わせる燈火くんの顔に目を向け、ベルベットちゃんが冗談とも本気ともつかぬ調子で言いました。
「いえ、そんな……」
『ツルツルのピカピカ』な頭に手をやり、なぜか恐縮する燈火くん。
 やっぱり、ここにいる全員、クセが強いっすねー。

●夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 薔薇の装飾で彩られたドレスを翻し、鍔元に薔薇が彫り込まれた日本刀を振るうカトレアさん。切っ先が描いた奇跡も薔薇模様。その薔薇づくしの技はワイルドグラビティだったらしく、誰かの残霊が横に立っています。
「『紅瞳覚醒』、よろしく」
 カトレアさんが召喚した残霊が消えるか消えぬかのうちにルフさんがスターゲイザーを死神にお見舞いしました。
「まかせとけぇーい!」
 ルフさんのリクエストに応じて、バイオレンスギターを演奏するヴァオさん。
 その軽快な音楽に合わせるかのように何条もの稲光が縦横無尽に走り、ライトニングウォールを築きました。
 稲光の発生源たる避雷針を手にしているのは――、
「この程度の手助けはさせていただくよ」
 ――英世さんです。
「僕もこの程度のことしかできませんが……」
 僕は再びスチームバリアを噴射しました。
 それを浴びながら、遊鬼さんが妖精弓を射ました。今度はホーミングアローではなく、ブレイズクラッシュ。鏃に地獄の炎が宿っています。
 しかし、死神は――、
「おっと!」
 ――体をくるりと回転させて矢を躱しました。そして、同時に反撃もしてきました。回転する体のそこかしこから狐火を撃ち出してきたのです。標的は後衛陣。僕、和希さん、ルフさん、ヴァオさん、そして、ジェットパック・デバイスで飛行中のカトレアさん。
「きゃー!?」
 ヴァオさんが情けない悲鳴を響かせました。でも、ノーダメージです。ウイングキャットのビーストくんが盾になってあげましたから。
 僕も無傷です。こちらの盾はランドセル型ミミックのいっぽくん。
「大丈夫ですか、いっぽくん?」
「大丈夫なのです。いっぽは頑丈なのです」
 と、いっぽくんの代わりに答えたのはかりんさん。
「さあ、いっぽ! がぶがぶするのです!」
 いっぽくんは飛び跳ねるような動きで死神に襲いかかり、ランドセルの蓋を大きくあけて噛みつきました。

●ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
 奮闘しているサーヴァントはルーナちゃんやいっぽちゃんだけじゃないよ。アタシのビーストもめちゃくちゃ気合い入れてる。
「ぎゃおー!」
 清浄の翼で仲間たちにエンチャントしつつ、美肌狐に向かって吠えちゃったりして。『さっきはよくもルーナちゃんを傷つけたな!』とか言ってるのかな? アタシと同じくらい、この子も遊鬼さんやルーナちゃんのことを心配してたみたいだからね。
「どいつもこいつもギャアギャアと騒がしいねぇ」
 美肌狐がまたもや腕を振った。例のカマイタチ攻撃。
 その見えない軌道をなんとか読み取り、アタシは横っ飛びした。カマイタチが向かった先にいる和希くんの盾になるために。
 デバイスの両腕を体の前で交差させた瞬間、鈍い音が弾けてデバイスの装甲が裂け、本物の腕のほうもダメージを受けた。痛い! でも、盾役の務めは果たせたよ。
「ありがとうご――」
 背後から和希くんの声が聞こえてきたけど、『――ざいます』の部分はかき消されちゃった。耳元を掠めていったフロストレーザーの音にね。
「……っ!?」
 和希くんのレーザーを受けて、美肌狐は体を仰け反らせた。
「ちょっと苦しげな声が漏れましたわね」
「余裕がなくなってきたか?」
 言葉を交わしながら、カトレアちゃんと千翠さんが斬りつけた。カトレアちゃんは絶空斬、千翠さんはワイルドブレイド。
「いや、余裕がなくなるどころか、気分がもっと盛り上がってきたよぉ」
 続け様に斬撃を食らいながらも、美肌狐はニヤニヤ笑いを復活させた。無理しちゃって、まあ。
「こうやって痛みを受ければ受けるほど、あんたらの命を刈り取った時の満足感も大きくなるからねぇ」
「いや、おまえが刈り取れる命はここにはないよ」
 と、ルフさんがカッコよく否定した。なぜだか知らないけど、語尾の『っす』が行方不明になってる。
「ナノー!」
 ルフさんに同意するかのようにルーナちゃんが鳴き、アタシをナノナノばりあで包んでくれた。

●長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
「ぼくは、せいぎのみかたなのに……兄様も、みんなも……助けられなかった……守れなかった……」
 戦いが佳境に入ってきたところ(いや、本当に佳境かどうかはよく判らないけど、そう言っといたほうがカッコがつくだろ?)で、かりんの様子がおかしくなった。死神の攻撃を受けた拍子にトラウマを呼び覚まされたらしい。攻撃っつっても、モフモフな尻尾で撫でられたようにしか見えなかったけどな。
「しっかりしてください、かりんさん。僕らがついてますよ」
 ランプ頭の燈火がダンスを披露した。蝙蝠の翼みたいな飾りがついたフェアリーブーツでステップを踏めば、花片の形のオーラが降り注ぎ、かりん(と、同じく中衛に陣取っていた俺やルーナも)の傷を癒していく。
「かりんちゃんをいじめるな!」
 どこからともなく流れてきたゴスペルに合わせて、ベルベットまでもが踊り始めた。どうやら、これもヒールのグラビティらしい。
「そいじゃあ、俺も踊ってみるか。剣舞ってやつを」
 俺はワイルドウェポンに霊体の群れを集め、死神へと叩き込んだ。命中した箇所がたちまちのうちに汚染され、ベルベットの言うところの美肌がどす黒く変色した。
「性悪狐にはそっちの色のほうがお似合いですわね」
 カトレアが絶空斬で容赦なく追撃した。汚染範囲がジグザグ効果で広がっていく。
「このぉ……」
 と、死神がなにか言いかけたが――、
「さっきのお返しですー!」
 ――その前にかりんがフォーチュンスターをブチ込んだ。どうやら、和希やベルベットのグラビティの力でトラウマから解放されたらしい。

●朧・遊鬼(火車・e36891)
 忘れたい/忘れられるわけがない/忘れることは許さない記憶がフラッシュバックした。
 兄を殺した時の記憶。
 しかも、その記憶は血塗れの兄の幻影っていた。
 死神の攻撃のせいでトラウマが具現化したのだろう。
 だが、俺はそれを――、
「うぉぉぉーっ!」
 ――シャウトで消滅させた。
 皆の前で情けない姿をさらすわけにはいかないからな。
「あんまし無理すんなよ」
 と、シャウトの余韻に重なったのは、視界の端にいた紫音の声。
「自分を責めなくていい。お前が笑って生きるのが一番の償いになる。俺はそう思うぜ」
 どうやら、俺がどんな幻影を見たのか察しがついてるらしい(他の奴らもそうなのかな?)。
 助言に従いたいところだが、笑うのは後回し。まずは目の前の敵を倒す。
 紫音が散布してくれた紙兵の吹雪の中で俺は気咬弾を発射した。
 それが死神に命中して弾けた瞬間、炎が舞い踊った。
「この炎で焼かれてしまいなさいな!」
 カトレアがグラインドファイヤを放ったんだ。ちなみに彼女のエアシューズはドレスや刀と同様に薔薇の意匠が施されている。薔薇好きにも程があるな。
「がおー!」
 オルトロスのイヌマルが神器の瞳で死神を睨みつけ、新たな炎を生み出した。
「ぎゃおー!」
 負けじとばかりにビーストも咆哮し、死神の顔めがけて爪を伸ばした。
「おっと!?」
 素早く飛び退る死神。その動きに合わせて、奴の顔面から血の糸が引かれた。ビーストのほうが素早かったようだ。
「まったく、癪にさわるねぇ。手間をかけさせないでおくれよぉ」
 死神はまたニヤニヤと笑った。だが、怒りや焦りは隠せていない。
「手間をかけさせているのは――」
 オウガメタルを全身に纏った鋼の鬼が死神の懐に飛び込んだ。
 その正体は和希だ。
「――おまえのほうだ」
 ニヤニヤ笑いに鋼の拳が叩き込まれた。

●仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
「もう一踏ん張りといったところでしょうか」
 燈火の体を覆っている牡蠣色の薄布みたいなオウガメタルが黒く変色して硬質化し、四方八方にオウガ粒子を撒き散らしました。
 それらを浴びながら、ベルベットが拳(例によって、アームドアームデバイスの拳です)に地獄の炎を宿してパンチ!
「化粧水よりも死に水が似合う感じになってきたね!」
 吹き飛ばされた性悪死神を見て、ガッツポーズを決める(これもアームドアームデバイスの腕で決めてます)ベルベット。
 その横をカトレアさんが駆け抜けて――、
「もっとも、あなたなんかに死に水を含ませてあげるつもりはありませんけれど」
 ――また残霊を召喚して、ワイルドグラビティで追撃したのです。
 次は千翠の番。憑霊弧月を発動させて、性悪死神をざっくり斬り裂きました。
「てか、死に水ってなんなの? 『死に水を取る』ってよく言うけど、どこから取るんだよ? 捻ると死に水が出てくる蛇口でもあるのか?」
 脳筋100パーセントって感じの質問を矢継ぎ早に口にしてますけど、答えてあげることはできません。ぼくもよく知らないので。
「死神は乾いたまま死ぬのがお似合いだ」
 ぼそりと呟き、和希がバスターライフルのトリガーをひきました。銃口から光線が飛び出し、いつの間にか空間上に展開していたいくつもの魔法陣を通過して、性悪死神に命中。
「まあ、水気のあるなしはさておき――」
 ルフが拳銃を突き出し、性悪死神の脇腹を撃ち抜きました。
「――遊鬼を狙ったのは間違いだったね」
「ぐあっ!?」
 苦しげに体をよじる性悪死神。よく見ると、銃撃を受けた箇所に白い蛇が噛みついているのです。弾丸と蛇のコンボを生み出すグラビティだったのですね……と、感心している場合じゃありません。ぼくも教えてやるのです。
 遊鬼を狙ったのは間違いだった、と。
 大間違いだった、と。
「大切な仲間にちょっかい出すような人は……めっ! なのです!」
『めっ!』のところで轟竜砲を発射。どかーんと大爆発が起こって、性悪死神はまた吹き飛ばされました。
 それでも、すぐに立ち上がりましたが――、
「遊鬼! とどめだ!」
「ああ」
 ――千翠に促され、遊鬼が斬りかかりました。得物はチェーンソー剣。地獄の炎付き。
「……っ!?」
 火の粉を散らすチェーン状の刃を受けて、性悪死神は呻きを漏らしました。もしかしたら、本人はまだ余裕ぶってニヤニヤ笑っているつもりなのかもしれませんが、上手く笑えていません。どう見ても、瀕死の顔です。
 そして、『瀕死』から『瀕』の字が抜け、性悪死神はどたりと地面に倒れました。
「やったー!」
 と、遊鬼の勝利を見届けて飛び跳ねる燈火。
 遊鬼のほうは無言で性悪死神を見下ろしていましたが、しばらくすると――、
「また助けられたな……その……ありがとう」
 ――ぼくたちのほうに振り返り、お礼を言ってくれました。
 はにかんでいるような口調ですが、表情もはにかみ気味なのかどうかは判りません。
 彼の顔の前にルーナが浮かんでいたので。
「ナノナノー!」

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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