蜜柑の奇譚

作者:芦原クロ

 ミカン狩りが楽しめる、とある農園。
 さわやかな香りに包まれながら、酸味が有る濃厚なミカンと、みずみずしく甘いミカンの2種類を楽しむことが出来る。
 食べ放題で時間制限も無い、というのも重なり、一般客の数は多い。
 ミカンには、ビタミンCがたっぷり詰まっており、栄養価が高く、疲労回復やダイエット、美肌効果も有る。
 その為、女性客も多く、人気の農園だ。
 ミカンを使った料理が作れる、調理スペースやレシピが備わっており、スタッフに頼むか、自分で作るかを選べるのも魅力の内だろう。
 簡単に作れて一番美味しいメニューは、ミカンの生ハム巻きと、ミカンの大福。
 大福はミカンと相性の良い白あんを、求肥でくるむだけ。
 他には、ミカンとチョコレートを載せたトーストや、クリームチーズとミカンを組み合わせたトースト、ハチミツとミカンのジュースも人気が高い。
 子供と共に、ミカンのホットケーキ作りを楽しんでいた母親が、不意に顔を上げた。
 大きな音がした後、あちこちから悲鳴が響き出したからだ。
『ビタミンC! ビヨウ、セイブン! メンエキリョク、アップ! ダイエット! ヒロウ、カイフク! コンナニ、ソロッテル、ミカン! クエ! イッパイ、クエ!』
 巨大化したミカンの果実が、喋っている。
 攻性植物になってしまった異形は、人々を次々とツルで捕まえ、力加減を誤り、絞め殺す。
『ツカレタ? ミカン、クエバ、ゲンキニ、ナル!』
 ぐったりして動かなくなった死人に、ひたすらミカンをすすめていた。

「アクア・スフィアさんの推理のお陰で、攻性植物の発生を予知しました。皆さんにしか解決出来ません……急いで現場に向かい、攻性植物を倒してください」
「予知ですから、一般人を避難させれば被害も起きずに済みそうです」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)の言葉に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が頷いた。

 人気の農園なので、一般人の数は多い。
 避難誘導を務める者と、避難完了まで攻性植物の注意を惹き付けておく者とで、分担するのが最善だろう。
 この攻性植物は、ミカンが本当に好きな者を優先する為、ミカン料理を作ったり、ミカンの良さを語ったりしていれば、簡単に惹き付けられる。
 注意点として、この攻性植物は弱体化前に攻撃を受けた場合、脱兎の如く逃亡してしまう。

 この攻性植物に配下は居らず、1体のみ。
 避難誘導役と合流したら、ミカン狩りや調理を楽しみ、仲良くしていれば良い。
 なぜなら、この攻性植物は、ミカンのお陰で皆が楽しく過ごせている、と捉えるからだ。
 そんな光景を暫く見たら満足し、弱体化して動かなくなる。
 攻撃が命中しても逃げなくなるので、一気に畳みかけ、討伐が可能となる。
「放っておけば、多くの死者が出てしまいます。皆さんだけが頼りです。攻性植物の討伐を、お願いします」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)
千代金・橘也(海風の剣士・e66213)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ


 現場に到着し、巨大化し始めた攻性植物を確認すると、メンバーは素早く自分の役割を開始。
「わたくし達はケルベロスです、ご安心して下さい」
 隣人力を使いつつ、一般人に向けて声を掛ける、ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)。
「貴方たちは必ず助けて見せますので、誘導に従って下さい」
 しとやかな物言いで一般人を安心させ、ルピナスは避難誘導を開始。
『ドコ、イクノ? ミカン、クエ!』
 巨大化を終えた攻性植物は、避難してゆく姿を見逃さず、追いかけようと動き始める。
 それにより、パニックになって別の方向へ逃げようとしたり、慌てふためく一般人が、数名。
 だが、その一般人たちへ、ラブフェロモンが掛けられて。
「はいはい慌てるな。我らが対応しているのだ、冷静に逃げるのが肝要だぞ?」
 魅了させた、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が、一般人を確実な避難ルートへ戻す。
「私は、焼き蜜柑を作ってみましょう」
 調理スペースに立ち、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が告げると、攻性植物は動きを止めた。
 目は無いが、じっとタキオンに注目している事が、なんとなく伝わって来る。
「純粋に、自分を主張したいだけなんですよね」
 攻性植物を優しげに見つめる、源・那岐(疾風の舞姫・e01215)。
 この攻性植物に対しては敵意など感じず、那岐からは、自分を褒めて貰いたい幼子に見えて。
 親しみを感じた那岐は、攻性植物への接し方も優しくなっている。
『シュチョウ、シタイ! ミカンノ、イイトコ!』
 大きなミカン頭が、まるで頷いているかのように、上下に揺れる。
(「私が推理していた事件が本当に起こるとは驚きましたけど、人々に危害が出る前に何とか出来るのは不幸中の幸いでしょうか」)
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)が、避難誘導を担っているメンバーを、ちらりと見て。
「歩行に不自由する者は、私に任せてもらおう」
 プリンセス変身で人々を励まし、怪力王者とアームドアーム・デバイスも駆使し、速く動けない者や、腰を抜かした者を、一気に運んでゆく、嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)。
「落ち着いて行動すれば、大丈夫。安全な場所まで誘導するわね」
 一般人を落ち着かせつつ、攻性植物の攻撃が来たら即対応出来るよう、攻性植物の動きにも注意を配っている、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)。
「食べにくい、という現実的な事情もあるが。ここで調理されているように、加工して楽しむ分には問題無い」
『リョウリデ、ミカンガ、モット! オイシク! タノシク! ナル!』
 千代金・橘也(海風の剣士・e66213)の言葉に、攻性植物は喜びの声を上げ、完全に惹き付けられていた。


(「美味しい蜜柑を頂く為に、今回も頑張りましょう」)
 タキオンは、後から戻って来るメンバーの分も含め、焼きミカンを作る。
「こうやって焼き上げる事で、熱々で甘みも強い、冬場には嬉しい果物となりますよ」
 弱体化させる為、ミカンの良さを伝える、タキオン。
(「ミカンも楽しみですし、頑張りましょう」)
 アクアがミカンを片手に持ち、レシピを確認。
 手軽に作れる、ミカンの大福を選んだ。
「ミカンは皆に馴染み深い、愛される果物。その果物が攻性植物化して人を殺すのは止めたいですね」
 ミカンを使ったパウンドケーキを、作り始める那岐。
「パウンドケーキは、ミカンとホットケーキミックスとサラダ油と砂糖、卵とバターを混ぜ、オーブン焼けば出来ますね」
 作り方を手慣れた様子で口にし、材料を良く混ぜ、型に入れてオーブンで焼く。
 暫し待てば、爽やかで甘い香りが、オーブンから流れて来る。
 美味しそうな、みかんのパウンドケーキが完成した頃には、避難誘導を担っていたメンバーも戻って来た。
「一般人は安全な場所まで逃がせたので、みかんを楽しむ流れに入ろう」
 一人も残さず、無事に避難誘導を終えたことを仲間たちに伝え、槐は早速、焼きたてのパウンドケーキを頂く。
 口にした瞬間、槐の普段閉じている両目が、ほんの少しだけ開いた。
 しっとりしたパウンドケーキと、ミカンのジューシーさが口の中いっぱいに広がり、とても美味しい。
「美味だ」
 年相応にスイーツに興味が有る槐だが、強キャラを気取っている為、もっと食べたいのを堪えつつ、一言。
 那岐は微笑み返してから、ミカンのゼリーも作り始める。
「みかんは、まるごと皮をむいて等分し、ゼラチンで固めれば出来ますね」
 分かりやすいように、作り方を言葉にしながら、那岐はミカンの皮をむく作業に入る。
 その間、橘也が攻性植物の前へと進んで。
「俺の旅団はみかん畑で、みかん狩りコーナーに豆知識看板を設置している。そちらも読んでもらえると嬉しいぞ」
 ミカン畑を所有するほど、ミカンが大好きな橘也が、写真をメンバーにも配っていた。
 当然、ミカンの攻性植物は、それ程ミカンを愛してくれている橘也に、夢中になる。
『モット、キカセテ! ミカンノ、コト!』
「同じ樹に生るみかんでも、3Sサイズはハウスみかんのような薄皮で柔らかさがあり、3Lサイズは皮が厚く果汁も多く、いかにも冬みかんという風情がある。ちなみに、出荷や販売の際、最も高値がつくのは“標準的”であるMサイズだ」
 サイズの知識を、語りだす橘也。
「規格外であるこれらのサイズで味変をするのも良かろう。品種に拘るのは、サイズ差を極めてからでも遅くないぞ」
 橘也の語りに、自然と聞き入るメンバー。
「冬みかん……こたつにみかんといえば日本の風物詩だな」
(「冬の寒い時期に、コタツで蜜柑は絶品ですよね」)
 槐が耳を傾けて言葉を挟み、タキオンは同意するように思案。
「普通にむいて食べる、にも奥深い楽しみ方があるんだ」
 ミカンについて、知って欲しい色々なことを旅団で紹介するほどの、橘也。
 しかし一人語りにはならず、橘也は槐の言葉を拾って、説明を加えていた。
(「わたくしも蜜柑は大好きですよ。甘酸っぱい味わいは、まさに絶品ですよね」)
 作ったミカンのジュースを味見も兼ねて飲みつつ、ルピナスは胸中で思う。
「炬燵に入りながら食べる蜜柑も定番だが、失われた水分が補われるかのようで素晴らしいことこの上ない」
 もぎたてのミカンの皮をむき、口内に広がるみずみずしいミカンの味を楽しんでから、ペルが告げる。
「季節に限った話じゃないが、風邪に抵抗力付ける為にもビタミンCは大事だしな。甘酸っぱくて美味しいうえに健康にも良いとは良いことずくめだ」
「みかんは簡単に手に入る果物のわりには、栄養素が豊富に含まれていて健康にもいいんです」
 ペルの言葉を聞き、那岐もミカンの効果を口にする。
「ああ、あと我は蜜柑の皮もネットで包んで湯船に入れることもある。肌にいいのだ、あれは。蜜柑は無駄がないな?」
(「ミカンって色々と栄養満点だったのね、色んな効能があるのは初耳だったわ」)
 ペルの続く言葉に、バニラは内心、驚きの連続だ。
(「ま、我は蜜柑は結構好きだしな。演技でなく実際にやってる事や本音を語れるのは楽で良い事だ」)
 ペルは気ままに、ミカン料理を味わっている。
 ミカンを数個、バニラがもぎ取り。
(「折角だし、私も沢山ミカンを食べておきたいわね」)
 ミカンを使って何を作ろうかと、レシピに目を通す、バニラ。
(「折角ですし、沢山蜜柑を味わっておきたいです」)
 ルピナスも同様の想いを抱き、自分の分のジュースを飲み終え。
「出来れば、皆さんのみかんの料理も味見したいですね」
 那岐が仲間たちを見回すと、ルピナスがジュースの入ったコップを差し出し。
「わたくしは蜜柑ジュースにしました。やっぱり新鮮な果物のジュースは美味しいですね」
 他のメンバーが作ったミカン料理をルピナスは貰い、他の仲間にも快く、ミカンジュースを振る舞う。
「この白あん、ミカンととても相性がいいですね」
 作ったミカンの大福を食し、褒めるアクア。
「凄く、甘くて美味しいお菓子になりましたね、幾らでも食べられそうです」
「弱体化の為に、頂こう」
 アクアの感想を聞き、内心楽しみにしながらも、クールに振る舞う、槐。
 美味しさを分け与えよう、と。アクアはメンバーに、ミカンの大福を配る。
 求肥に包まれた白あんと、みずみずしいミカン。
 もちもちの求肥の食感、甘い白あん、そしてジューシーなミカンの相性はバツグンだ。
 食べやすい上に、美味しい。
「私は、ミカンのシャーベットを作ってみたわ。こういう冬でも、ミカンのシャーベットってとても美味しいわよね」
「ええ。それに、この農園の蜜柑は、特に甘くて美味しいですよね」
 バニラが配るシャベーットを食べて、どれも美味しいのは、ここのミカンだからこそだと、タキオンが褒める。
「先程言ったデメリットにより、同重量の1箱単価は大きく下がる。たくさん買って、たくさん楽しんで欲しい、そんな生産者の思いだ」
「沢山買えますし、デザートにも手軽に入れられる程良い甘味と酸味なので、家計を預かるものとしては助かりますね」
 ミカンを愛する橘也は、ミカン料理を全て美味しそうに平らげた。
 橘也の語りに、那岐がミカンの有り難さを付け加え。
 そこで、攻性植物の反応が無いことに気付き、仲間たちが見上げる。
 満足したのだろう、攻性植物は無反応で動きもせず、ややうなだれていた。
(「……この前の白菜の事を考えると、倒しても敵を食すのは無理そうか」)
 あの巨大なミカンを食べてみたい、と。
 ミカン好きのペルは、つい考えてしまうも、素早く戦闘態勢に入る。
「クク……斬るよりは剥く方が良かったかもしれんな?」
 弧をゆっくりと描き、繰り出した斬撃。
 急所を的確に斬り裂いてから、そう口にする、ペル。
「皆さん、援護しますね。強力な攻撃をお願いします」
 タキオンは小型治療無人機の群れをグラビティで操り、味方のサポートに回る。
「弱点を見抜いたわ、これでも食らいなさい!」
 高速演算で見抜いた場所へと、痛烈な一撃を食らわせる、バニラ。
「毒の優先度は下げよう。敵とはいえ、みかんの木だ」
 星型のオーラを蹴り込む、槐。
 連携し、無数の霊体を憑依させた武器で、橘也は敵を斬りつける。
「御業よ、敵を鷲掴みにしてしまいなさい」
 ルピナスが禁縄禁縛呪を繰り出し、アクアへ視線を送った。
「さぁ、行きますよ。一気に決着を付けてあげましょう」
「来世は攻性植物化しない、みかんに生まれ変われますように」
 アクアと那岐、クラッシャー2人の同時攻撃。
 高威力の攻撃を受け、攻性植物は霧散して消滅した。


「皆さんお疲れ様でした、お怪我は無いでしょうか?」
 アクアは仲間たちを労い、見回す。
 誰も負傷していない事が分かれば、ほっと一息を吐いて。
 戦場痕は消しておこう、と。メンバーはヒールでの修復作業に取り掛かる。
 一般人の避難も解除に向かい、ようやく普通の光景を取り戻せた。
(「今日のおやつは、みかんのゼリーにしましょうか」)
 思案しつつ、一足先に帰路を辿る、那岐。
 ミカンを使ったスイーツをもっと楽しもう、と。槐はレシピを見て。
「オランジェット風トーストも気になるが、タルトもなかなかで悩ましいな……良かったら、皆でシェアしないか?」
 楽しげな雰囲気を纏いつつ、槐がメンバーに声を掛ける。
「俺はミカンを推し続けただけだったので、作ってもみたいな。ミカンは調理しても美味しいからな」
 槐と共に、ミカン料理を作りだす、橘也。
「さて、あんなでも敵が居る最中だと矢張り緊張感が出てしまうからな。今こそゆっくりと蜜柑狩りしたいものだ。冬に使う蜜柑は多い方がいいしな」
 ペルは自由気ままに、ミカン狩りを堪能。
「この農園の蜜柑を、お土産に持って帰っても良いでしょうか?」
 タキオンが農園のスタッフに問えば、大歓迎とばかりに沢山のミカンが入った袋を渡された。
「ミカンのシャーベット、沢山余っているから皆もいかがかしら? 私も貰うわね」
 槐と橘也が調理を済ませるまで待機し、新たに加わったトーストやタルトを見て、シェアを希望する、バニラ。
「後は時間の許す限り、蜜柑狩りや料理を楽しみたいですね」
 ルピナスが声を掛けて、メンバーはシェアし合ったり、ミカン狩りをしたり、と。
 美味しさや楽しさを、満喫するのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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