イルミネーションパニック!

作者:星野ユキヒロ


●イルミネーションの目覚め
 12月。一年の締めくくりの季節だ。夜になれば街のあちらこちらにイルミネーションの灯りがともるのが毎年の恒例だった。
 神奈川県のショッピングモールの中庭では、今年もイルミネーションが準備されている。小規模ながらも夜のライトアップがなかなかすごいと評判で、恋人たちのデートスポットと化しているのだ。コンピューターで制御され、幻想的に姿を変えるイルミネーションの海。訪れた人々を楽しい気分にさせること請け合いだ。
 そんな中庭に、風に乗って鈍く光る金属粉のような何かが流れてきた。それはスタッフが見えないところで操作できるように垂れ幕で隠されていたコンピューターにつながった制御装置の一つに入り込んでいく。
『ピカ……ピカ……ピカ……』
 制御装置はコンピューターから切り離されてなおイルミネーションを輝かせ、絡まり合った蔓とともに円錐形に立ち上がる。さながら歩くクリスマスツリーのようだった。

●イルミネーションダモクレス討伐作戦
 神奈川県のショッピングモールでイルミネーションのダモクレス事件が発生することを天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は懸念していたという。
「悠姫サン、バッチリ的中ね。皆サンにはイルミネーション制御装置のダモクレスと戦ってもらうヨ」
  クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「前からこなしてきた廃棄家電事件とはちょっと毛色が違うネ。攻性植物の胞子が現役の機械に取りついて変化させているヨ。幸いまだ被害は出てないのコトだけど、放っておいてみすみす多くの人々に危害を加えさせるわけにはいかないし、その前に現場に向かって撃破してほしいアル」

●攻性植物系イルミネーションダモクレスのはなし
「この制御装置は寄生した植物が足となって歩き回るダモクレスに変化しているアル。攻撃の仕方は、イルミネーションのコードを植物のように巻き付け締め上げてくるのと、地面にはびこって飲み込んでくる攻撃の二種ヨ。どっちも最中にピカピカ光って景気がいい。ケド、油断は禁物アル。その日はショッピングモールは閉鎖して、誰も入ってこれないようにしてもらえるよう管理者に話は通してあるカラ、一般人の避難なんかは考えずに思う存分戦って事件収束させチャイナ」
 クロードはショッピングモールの見取り図を集まったケルベロス達に見せた。
「事件収束次第、イルミネーションを点灯してショッピングモールを開けるそうヨ。何か催し物をやるらしいから、戦闘が済んだなら覗いてみるのも悪くはなさそうと思うアルネ」

●クロードの所見
「この事件、ユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレスの勢力によるものってことも考えられるヨ。そうだったら手掛かりを逃す手はないアル。張り切ってやってきチャイナ!」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
佐竹・レイ(あたし参上・e85969)

■リプレイ

●イルミネーションの中庭へ
 ヘリオンから降り立ったケルベロスたちは、中庭へ向かうため人のいないショッピングモールを歩いていた。
「クリスマスも近くなり、綺麗なイルミネーションの季節になりましたね。この時期でもダモクレスは元気ですね。聞いたところ先の戦争の残党とか。人々のクリスマスを残滓に邪魔される訳にはいかないので」
 銀のサイドテールを揺らして歩くのは源・那岐(疾風の舞姫・e01215)。ブーツがカツカツと鳴る。
「まさか、わたしが危惧していたダモクレスが本当に現れたとは驚いたわね。どんな敵であれ、人々に危害を加える者は許せないわ」
 今回の事件を懸念した天月・悠姫(導きの月夜・e67360)はそれが的中したことに驚きながらも、収束を決意している。紫の瞳に意思の光が見えた。
「ふむ、普通のダモクレスとはちょっと違うんじゃな。攻性植物も関係してるんじゃったら尚の事このままにはしておけないのぅ。一般人などに被害が出る前に止めるのじゃ」
「現役の機械に手を出すなっての……いや現役じゃなければいいって話でもないんだけどさ。ったく、冷える前にさっさと終わらせてやる」
「……イベントもあるようですし、早々に片をつけましょう」
 今回の敵の質の悪さについて話すミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)と長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)。なかなかの身長差で、こんな無人のショッピングモールでなければ遊びに来たように見えなくもない。
 そんな二人に同調し、早期決着を心掛ける長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)。ミミのサーヴァント、テレビウムの菜の花姫のほうをちらりと見た。遅れてついてきているのが気になるのかもしれないが表情からはわからない。
「恋人たちの夜はあたしがまもーる!(だから神様お星様サンタ様イケメンの彼氏ちょーだい!!) 」
 佐竹・レイ(あたし参上・e85969)が悲願を祈りながら恋人たちの守護者を宣言した。
「折角のイルミネーションを台無しにするなんて、許せないね! さっさと倒して、皆には楽しいひと時を過ごしてもらおう!」
「イルミネーションは皆さんを楽しませてこそ、ですね。おイタする攻性植物は退場して頂きましょう」
 見つめ合いうなずく甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)と新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)。ここは本来彼らのような愛し合う者たちが笑顔で闊歩する所なのだ。
 話しながら歩いているうちに目的地にたどり着いた。敵は真ん中に佇んでいる。

●邪悪なツリー
 そこには蔓とイルミネーションのコードが絡まり合った悍ましいツリーのようなダモクレスが聳え立っていた。
「一般の方達を巻き込まずに済むのは幸いですね。本格的に人通りのあるところに出る前に止めましょう」
 那岐のゾディアックソード、貫く赫灼のアンタレスが輝く守護星座を中庭の地面に描くと、前衛に耐性を付与する。
「クリスマスツリーにしては赤が足りない気がするな。赤い炎は入り用か?」
 千翠が赤い飾り紐の靴から蹴りだす摩擦を利用した炎が紅葉の小路を駆けるように散った。
『ピカ……ピカピカ!!』
 イルミネーションダモクレスはピカピカと光る電飾の蔓を千翠に向かって伸ばす。ディフェンダーのミミが間に躍り出て、代わりに絡まれた。
「突撃! 撃退!! 完全制覇!!!」
 ダモクレスがミミを蔓で巻き取るのに気を取られているうちに、レイは光の翼を天翔ける馬に変えて突撃する。勢いにまかせて蔓が千切れ、ミミは解放された。
「ダモクレスなのか、攻性植物なのか、どっちなのかのぅ。どちらにしても危険じゃというのは間違ってないじゃろう。さて、どっちの弱点を突いてやろうかの。せっかく綺麗なイルミネーションなのにもったいないのぅ」
 千切れた電飾をパッパと払い、ミミは攻撃に転じる。高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃で破壊にかかった。菜の花姫も主人に続き、武器を片手に残虐ファイトする。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作り、飛ばすことで足止めをはかる悠姫。
「人を楽しませるための装置が、こうなっては勿体ない、ですが……すみません、破壊させていただきます。あなたが、人の命を奪う前に」
 鏡花のアームドシャフトが蔓の間をかいくぐり、痛烈な一撃を加える。
「守りの力を」
 混戦の中、瑠璃音はエネルギーの盾を形成し、傷を負ったミミを癒しつつ守りを強化していた。
(この後瑠璃音ちゃんとモールを回る為にも、皆が怪我をしないように、すぐ守れるように足元やダモクレスのコードに気をつけておこう!)
 仲間に癒しを与える瑠璃音をちらと意識すると、足元に気を付けつつ中庭を駆け出して流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、敵の機動力を奪うツカサ。
 奇怪なクリスマスツリーとの戦いはまだ始まったばかりだ。

●千切れた電飾
「攻撃はお任せします!」
 那岐の守護星座が今度は後衛を護る。
「任された!」
 返事をした千翠が両腕を巨大な刀に変え、一刀斬りつけた。
『ピカ……ピカ……』
 ダモクレスは刀に変化していない部分の腕に巻き付き、捕縛しようとしてくる。菜の花姫が代わりに巻き付かれ、じたばたともがいた。
「飛び、あがってぇ……振りおろーーーす! ちょ、重すぎぃ……、泉の女神のused品、手軽なDIYサイズにしてほしいわー」
 ぼやきながらもレイがその蔓をぶった切ってくれた。
「かわいそうじゃがしっかり倒しておかねばまた悪さをするかもしれぬ、思いっきりやるのじゃ」
 千切れる電飾に思うところはありながらもミミは的確にダモクレスの外側を剥がすように攻撃していった。
 菜の花姫は先ほど巻き付かれたときの凹みを応援動画で自己再生していく。
「この弾丸で、その身を石化させてあげるわ!」
 不思議なポケットから手を抜いた悠姫の手には一丁の銃が握られており、撃鉄を起こすと引き金を引き、魔導石化弾を発射する。
「後片付けが大変そうですね。早めに片付けたいです。『ナックルモードに移行』《――ready!》『行きます―― ハイボルテージ・インパクト』」
 鏡花が拳打形態に変形させたガジェットを拳に装着。その拳でダモクレスを殴打する瞬間に高圧の攻撃的グラビティを送り込み、敵を内部から破壊することによって効果の底上げをはかった。
「中衛の方々にも護りを」
 瑠璃音は星の輝きを宿した魔力の柱を戦場に出現させ、パーティーの中衛に加護を与える。
「なら俺は命中率を上げていこう」
 ツカサは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、自分もろとも前衛の超感覚を覚醒させた。

●戦場いっぱいのハート
 激しい攻防戦が続いた。
「さて披露するのは我が戦舞が一つ……逃がしませんよ!!」
 那岐の鮮やかな舞に無数の朱色の風の刃がダモクレスを次々と襲い、その動きを鈍らせる。
「噛み砕け! 食い散らかせ!」
 千翠は自身を蝕む呪いを全てを食い千切ろうとする巨大な竜へと変化させ、ダモクレス目掛けて放出した。ダモクレスを餌だと認識し、牙で切り裂いていく。
『ピカ……ピカ……ピカぁっ!!!』
 突然ダモクレスの電飾がビカビカとまぶしく光りだした。めりめりと地面を波立たせ、侵食する。その波は後列に向かって押し寄せていった。
「瑠璃音ちゃん!」
「これは……危ないのう!!」
 ディフェンダーのツカサとミミが後衛へ走る。二人は自らの体を盾にして、後衛を守り切った。ツカサは瑠璃音を抱きかかえたまま吹っ飛ばされて転がった。
「まだまだ頑張れるじゃろう。代々伝わる癒しの力を見せてやるのじゃ」
 隣に着地したミミがぬいぐるみに力を込めて踊らせ、ツカサの傷を癒す。ツカサは瑠璃音の服を優しくはたくと前衛へ戻っていった。その間にも菜の花姫はミミを応援する。
「綺麗なイルミネーションも攻撃には不向きよね、悪目立ちしすぎ。今みたいな飲み込む攻撃じゃなきゃ簡単に避けられちゃいそぅ。でもピカピカなら負けてられないわよ!」
 レイが光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えて敵に突撃した。言葉の通り、明るさでも威力でも負けていない。
「これ以上の破壊は許しておけません」
 鏡花はめちゃくちゃになった足元を見、静かな怒りを雷に変えてダモクレスに放った。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 悠姫が圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作り、当たったダモクレスは動きを止めた。
「ツカサさん、今だと思います! 私の翼は静止の調べ。凍り付きなさい!」
「瑠璃音ちゃん、わかった! 俺の翼は噴き上がる魂。燃え尽きろ!」
 敵を凍り付かせる青い斬撃を飛ばす氷の剣技と敵を灼き尽くす赤い斬撃を飛ばす炎の剣技が、イルミネーションより明るい光を放って両側からダモクレスを挟んで滅する。冷気と熱に襲われて、イルミネーションダモクレスは散り散りになって消えた。
 戦いは終わった!!

●愛と平穏のイルミネーション
 大きな瓦礫を軽々と運んで片付ける千翠と、それを手伝う鏡花の活躍で、あらかた片付いたらヒールのある者で協力して、中庭を元通りにする。戦闘終了の報を受け、ほどなくしてイベントの準備が始まった。
「そういえば、イルミネーションの装置群に興味があります。設営や調整などの見学か手伝いをさせて貰えないものでしょうか、あと、撮影許可なども頂ければ……」
 鏡花がスタッフと交渉し設営を手伝ったので予定よりも早く準備が済み、ショッピングモールに人が訪れ始めた。
 さっきまでの戦いがウソのように綺麗に飾られた中庭にホットドリンクフェアの文字が踊り、オルゴールアレンジの音楽が流れ、いろいろな飲み物の出店が人を集める。
「疲れはあるんじゃがせっかくじゃし遊びたいのぅ。何かおすすめの飲み物があればいいんじゃが、甘いものがいいんじゃが……あるかの?」
「ホットチョコレートドリンクみたいな甘いものを探してみるわ。せっかくだからイルミネーションも見よっかなぁ……んだけどぉ、これ絶対カップルだらけよね。あたしマジういちゃうし……あ゛ーー彼氏欲しぃぃ!!(じたばた) 」
 ミミとレイは甘い飲み物を求めて賑やかに屋台へ駆けていく。菜の花姫もピカピカ光って楽しそうだった。
「ほぉ、この香りは……」
 千翠がふらふらと誘われて近づいて行ったのは本格珈琲専門店のアイリッシュ・コーヒーだった。コーヒーの苦さと生クリームの甘さ、そしてアイリッシュウィスキーの香り高い大人の飲み物。千翠は喧噪の中で一人で小さく乾杯をする。
「瑠璃音ちゃん、怪我はない?」
 ココアを片手に、空いた手同士を繋げて歩くツカサ。彼女の心配をするも、自然の景色とはまた違う美しさの見事なイルミネーションについ意識がお留守になる。
(綺麗なのは良いのですけど……私、忘れられていないでしょうか)
 やや拗ねてつんとする瑠璃音の視線に気付いたツカサはおっとっと、と肩を抱き寄せ。
「今度、他のイルミネーションも見に行こうね」
 囁くと、嬉しそうに微笑む彼女の手を引いてショッピングへと繰り出した。
 悠姫と那岐はエスプレッソラテを買い、みんなで護り抜いたイルミネーションを眺めている。
「綺麗なイルミネーションね、この景色を守れて良かったわ」
「今度は家族4人で来たいですね」
 それぞれがそれぞれのイルミネーションを楽しむ中で。
「どこか撮影に良い場所はありますか?」
 スタッフに尋ねた鏡花は、ココアを飲みつつ中庭を見下ろせる場所へと移動した。下を見ると、色とりどりのイルミネーションと一緒に、買い物客に交じって楽しむ、今日を戦い抜いた仲間が小さく見えた。
 パシャリ、と撮影音がしたが、喧噪に紛れて夜空に消えていく。今日のこの楽しい雰囲気を綺麗に切り取って。鏡花は白い息を満足げに吐いた。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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