ヌクヌクあんかは危険な香り

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 火事で全焼した民家の跡地に、電気あんかだったモノが転がっていた。
 出火の原因は、電気あんか。
 不良品である事に気づかず使い続け、電気あんかがショートして布団に燃え移り、民家が全焼してしまったようである。
 そのためか、解体作業も進んでおらず、酷い有り様のまま、放置されていた。
 そんな中、物陰から姿を現したのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながら、電気あんかだったモノに入り込んだ。
「デンキアンカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、電気あんかだったモノが耳障りな機械音を響かせ、グラビティ・チェインを求めて、住宅街を駆け回った。

●セリカからの依頼
「綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)さんが危惧していた通り、都内某所にある民家の跡地で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある民家の跡地。
 ただし、火事に遭ってから、未だに解体作業が行われおらず、手付かずのまま。
 民家の所有者は火事で、亡くなっているようだ。
「ダモクレスと化したのは、電気あんかです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは電気あんかがロボットになったような姿をしており、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達に襲い掛かってくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
 電気あんかにとって、それは望まぬ最後であった。
 だが、自分の意志では、どうしようも出来ない事。
 その原因が自分にある事が分かっていても、避けられない現実であった。
 自分の身体が熱を帯び、今にも燃え上がりそうな事が分かっていても、それを押さえ込む事は出来なかった。
 途端に全身が燃え上がり、靴下を焼き、肉を焼き、布団を燃やしても、まったく制御する事が出来なかった。
 それが、いかに残酷で、無慈悲であっても、電気あんかには何も出来なかった。
 まわりにあるモノをすべて、炎に包み、溶かし、ドロドロになっても、それを止めさせる事は出来なかった。
 電気あんか自身が、自らの形を保つ事が出来ず、まわりのモノと融合しても、何も出来なかったのだから……。
 そして、その場所に現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
「まさか私の危惧していたダモクレスが本当に現れるなんて……」
 そんな中、綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された民家の跡地にやってきた。
 民家の跡地は、火事に遭った日から全く片付けが行われておらず、焼け焦げた家具等が幾つも転がっていた。
 おそらく、民家の所有者が亡くなり、他に身内もいなかったため、誰が解体処分を支払うかで、問題が先延ばしになっているのだろう。
 近隣住民も火事の被害を少なからず被害を受けているのか、壁にブルーシートが張られた家もあった。
「その上、電気あんかが火事の元になるなんて……。この季節には重宝しそうな便利グッズだけど、扱いには注意しておかないと駄目ね」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を見る限り、火事の原因になったのは、電気あんかが不良品であったため。
 一応、メーカー側で回収が行われ、ホームページ上でも呼びかけが行われていたものの、民家の持ち主には、その事が伝わっていなかったようである。
 そのため、電気あんかをそのまま使ってしまい、このような事態に陥ってしまったようだ。
「暖かい物は嬉しいですけど、壊れたものって注意しないと、危ないですね」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、しみじみとした表情を浮かべた。
 事前に配られた資料を見る限り、火事の原因になった電気あんかは、布団の中に入れられており、燃えやすい素材で作られた靴下に火がつき、まわりにあったモノに燃え移って、あっと言う間に炎が広がったようである。
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電気あんかが、ケモノにも似た機械音を響かせ、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは、この世のすべてを憎むかのように、今にも爆発しそうな勢いで殺気を膨らませた。
 その殺気が炎の如く漂っており、空間が歪んでいるような錯覚覚えた。
「電気あんかとは、これまたこの季節にはありがたい物も出てきたものね。あいにく、ダモクレスとなったからには倒すしかないだろうけど……」
 すぐさま、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、警戒した様子でダモクレスと距離を取った。
 おそらく、電気あんかはダモクレスと化した事で、理性が吹っ飛び、怒りの権化と化しているのだろう。
 まるで本来あるはずの感情が捻じ曲げられ、歪な形になったまま、無理やり身体を動かされているような感じであった。
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァ!」
 そのためか、ダモクレスはケルベロスを完全に敵視しており、まるで殺気が鋭い刃物の如く尖っていた。
 だが、そこまでケルベロスを憎む理由を、ダモクレスは知らない。
 知る術も無ければ、知ろうともしない。
 いや、正確には知ろうとするだけの余裕がない。
 それよりも、内側から沸々と湧き上がる感情を、どうにかしなければ、爆発してしまう、と言わんばかりに焦って、殺気立っていた。
「それでは、人々に被害が出る前に倒してしまいましょう」
 そう言って玲奈がダモクレスを囲むようにして、一気に距離を縮めていった。

●ダモクレス
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、熱を帯びたビームを放ってきた。
 それはヌクヌクではなく、アツアツ。
 少し触れただけでも、まわりのモノが溶けてしまうほど、高温だった。
 そのため、ビームのまわりに、見えない膜が出来ているような感じであった。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成し、ダモクレスの放ったビームを防いだ。
 しかし、熱い。
 まるで全身を飲み込むほどの勢いで、炎が迫ってきたため、リサが一瞬たじろいだ。
「なかなか強力な攻撃のようですが、そう何度も撃てると思ったら、大間違いですよ」
 その事に気づいた玲奈が、ダモクレスの注意を引くようにして、一気に距離を縮めていった。
「デ、デ、デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その挑発に乗ったダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、再びビームを放ってきた。
 それは先程よりも強力で、まわりのモノをドロドロに溶かすほどの破壊力を秘めていた。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 即座に悠姫がプラズムキャノンを発動させ、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスのビームを飲み込み、ダモクレスの身体にブチ当たった。
「デ、デ、デ、デ、デ、デェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが宙を舞い、何度かバウンドした後、ブロック塀に激突した。
「デ、デ、デ、デ、デ・ン・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ」
 それでも、ダモクレスは全く怯んでおらず、身体のあちこちから真っ黒に煙を上げ、耳障りな機械音を響かせた。
「どうやら、素直に倒されてはくれないようですね。ならば、このまま氷漬けにしてあげましょう!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、紅葉が達人の一撃を繰り出し、卓越した技量からなる一撃で、ダモクレスの身体を凍りつかせた。
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時に、ダモクレスが電気あんか型のアームを伸ばし、ケルベロス達を狙うようにして、狂ったようにブンブンと振り回した。
 それはまわりにあるモノを破壊し、飛び散った破片が、弾丸の如くケルベロス達に襲い掛かってきた。
「……大丈夫よ、落ち着いていれば安全だからね」
 すぐさま、リサが鎮めの風で竜の翼から、心の乱れを鎮める風を放った。
 それはそよ風の如く緩やかであったが、安らぎを与える力を秘めていた。
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
 だが、ダモクレスにとっては、挑発行為でしかない。
 そのため、リサに対して向けられたのは、激しい怒りと殺意であった。
「氷の属性よ、その力を爆発させなさい!」
 次の瞬間、玲奈がボルトストライクを繰り出し、自らの拳でダモクレスを殴りつけ、氷属性の爆発で追い打ちをかけた。
 それと同時に、ダモクレスの身体が凍りつき、装甲が氷の結晶となって砕け散り、それが太陽の光を浴びてキラキラと輝き、次々とアスファルトの地面に落ちていった。
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 しかし、ダモクレスは怯まない。
 内に秘めた怒りを爆発させ、炎の権化となって、ケルベロス達に迫ってきた。
「……この弾丸で、その身を石化させてあげるわ!」
 それを迎え撃つようにして、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、ダモクレスを狙うようにして、魔導石化弾を発射した。
「デ・ン・キィィィィィィィ……ア・ン・カァァァァァァァァ……」
 その途端、ダモクレスの振り上げた左腕が、みるみるうちに石化し、まったく動かなくなった。
「華麗なる月光の太刀を受けてみなさい!」
 それに合わせて、紅葉が月光斬で緩やかな弧を描く斬撃を放ち、ダモクレスの関節部分を的確に斬り裂いた。
 その影響でダモクレスの左腕が落下し、アスファルトの地面に、沈むようにしてめり込んだ。
「デ、デ、デ、デ・ン・キィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、半ばヤケになりつつ、電気あんか型のミサイルをぶっ放してきた。
 それが雨の如くケルベロス達に降り注ぎ、次々と爆発しながら、大量の破片を飛ばしてきた。
「……どうやら大人しく倒されるつもりはないようね」
 悠姫が大量の破片を避けながら、壊れたブロック塀の後ろに隠れ、深い溜息を漏らした。
「この呪いで、貴方を動けなくしてあげますよ!」
 その間に、紅葉が尋常ならざる美貌の呪いを放ち、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「この呪詛で、その身を蝕んであげますよ!」
 それに合わせて、玲奈が凶太刀を繰り出し、ダモクレスの身体を刺し貫き、刃から伝わる呪詛で魂を汚染した。
「デ・ン・キ・ア・ン・カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それはダモクレスにとって、地獄の苦しみ。
 その痛みから逃れようとして、必死に暴れているものの、身体の中で呪詛が広がり、ダモクレスの心を漆黒の闇に染めていった。
「デ、デ、デ・ン・ギィィィィィィィィィ……」
 そのため、ダモクレスは成す術もなく力尽き、物言わぬガラクタと化して動かなくなった。
「……終わったわね。これで成仏できたのかしら」
 リサがホッとした様子で、空を見上げた。
 そこに何が映っていたのか分からない。
 それでも、先程まで辺りに漂っていたモヤモヤしたモノが、ダモクレスと共に消えたような感じがした。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月6日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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