双魚宮「死者の泉」潜入戦~疾風のごとく

作者:baron

 奪い去って来たらしき布には血がこびりついているが、中央の大天幕にはそれが無い。
 代わりに色とりどりの飾りで彩られ、あるいは色彩豊かな布を装飾の様に折り曲げている。
『ヴァイトゥーゾ様。次の出陣は何卒、わたくしめを!』
『なんのオレこそが!』
 大天幕の中には無数のシャイターンがおり、中央に居る大柄で禿頭の男に申し出ていた。
 それぞれに戦禍を口にし、グラビティを奪うのだと誓っている。
『よかろう! 最も誉れ高き漢に掴み取れるだけの財貨をくれてやる! なんなら見目好い女でも男でも、美味い酒でも良いぞ』
『酒ならば此処に!』
 男は褒章として手にした中で好きな物をやると宣言したが、即座に誰かが以前に奪い取った美酒を掲げる。
 これには男も苦笑したが、少し考えて別の事を思い出した。
『こやつ! 酒は褒美の話をしておるのだ。だがこれは以前にお前が持って行ったやつか。ワシの為に取っておいたとは殊勝な奴よ。ガハハ』
『ありがたき幸せ』
 ヴァイトゥーゾは巨漢の大男だが決して頭は悪くない。
 それどころか滅ぼした部族や種族を配下に加え、俗物的な方法ながら彼らから忠誠を得る程のカリスマを備えていた。与えると約束したモノは確実にくれるし、『その前にワシが愉しむ』などと横取りしないのもあるだろう。
『もっとも暫くは高みの見物よ。今は呑め呑め! 次なる戦いに向けておおいに英気を養うが良い』
『次なる勝利に誓って!』
『勝利を!』
 戦う相手のいない場所であることもあり、彼らの酒盛りは続いていく。
 それはケルベロスが襲撃する時まで……。


「みなさん。死者の泉に向けた防衛機構である『門』の突破お疲れ様ですえ」
 ユエ・シャンティエが巻物を開きながら説明を始める。
「まず今の状況ですが、相手の予定よりも早く動けたことで余裕ができとります。具体的に言うと、『双魚宮』死者の泉も含めた、魔導神殿群ヴァルハラの状況を予知する事が出来たゆうわけやね」
 ユエはエインヘリアルと書かれた巻物の中で、特に重要な神殿群の内容を示した。
 既に破壊したモノもあるが、幾つかはいまだ健在。
 これから向かう死者の泉である、『双魚宮』もまた同様だった。
「どおやら一カ月後には王族を頭に複数の軍団を一気に動かす予定だったみたいですえ」
 もし間に合わなければどうなる事かとユエは続ける。
 神殿群を要塞として出現させ、そこを拠点に無数の部隊が動いていただろう。
「ですがそん前に予知が出来ました。最前線で戦う予定の王子部隊はまだしも、後方待機のシャイターン達は油断しとります。今ならば転移門で一機に攻め寄せ、主だった者を討ち取れば相手方に知られる前に制圧できるでしょう」
 シャイターンは他の種族よりも自由度が高いとはいえ、将が討ち取られれば降伏するレベルだとユエは教えてくれる。少なくとも勝ち目がない戦いで戦い続けるほど愚かではないし、エインヘリアルに義理立てする者も少ないだろう。
「繰り返しますが相手の予定よりも早く行動し、神殿群の中でも特に後方である双魚宮に攻め入ります。シャイターンも流石に油断しとるでしょう。その隙に主要な将を討ち取るのが今回の作戦ですわ」
 ユエは改めてで状況を解説すると目的を判り易く示した。
 双魚宮にある誰も居ない場所をひとまずの転移場所に選び、そこから目標の元に移動。
 警備は手薄なので、偶然に道で出会っても瞬殺することが可能だと教えてくれた。
「この班の目標はヴァイトゥーゾゆうシャイターンですわ」
 そう言いながらユエは巨漢のシャイターンを筆で描いて見せた。
 体に紋様があり、マグマが噴き出て翼になったかのような形状をしている。
 少なくとも間違えることはなさそうだ。
「こん人はシャイターン四王ゆう将の一人で、厳つい見た目に反して頭が回って兵に慕われとります。せやけ早めに倒さなアカンゆうわけですわ」
 勝ち目がある内は降伏しないという事は、彼の様な王が居ると困るという訳だ。
 他の四王ともども早期に討ち取り、他の神殿群に気取られる前に倒す必要がある。
「部下と共に戦うタイプで攻撃方法は炎の槍で白兵戦したり、幻影の軍団で遠距離攻撃ゆう感じやね。回復はできるやろけど、必要になるときはジリ貧やけせん思われますわ」
 ユエは相手の性格を踏まえて戦闘方法を教えてくれた。
「やはり敵の準備が整う前に、逆侵攻のチャンスを得られたのは幸いでしたわ。特に最高後に転移できるゆうんがええですね。双魚宮を足掛かりにしてアスガルド・ウォーといきましょか」
 ユエはそう言って皆の相談の邪魔をしないように、出発の準備に向かうのであった。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
美津羽・光流(水妖・e29827)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ


 到着した先は何処かの城の様であった。
 事前情報を考えれば要塞群の一つである双魚宮なのだろう。
「門が繋がった先はここだったのね……」
 ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は盾役であることもあり率先して要塞の中を進んでいく。
 工事をするわけでもないがデバイスを展開して仲間達よりも目立ちながら移動する。
「敵は油断しているみたいだから、このチャンスを逃す手はないわね」
「敵軍が浮かれポンチでいるのも今だけですわね。許可なくお邪魔しても怒りませんわよきっと」
 ローレライに続いて案内役のエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が道を示した。
 彼女たちケルベロスは敵陣営の隙を突いている。
 最前線のエインヘリアル達であればここまで油断している事はないだろうが、敵もまさか後方である双魚宮まで押し入っているとは思うまい。
「もう暫くは敵影は見えませんわ。なるべく音を立てずに参りましょうか」
 エニーケは馬型の面甲状をしたゴーグルに敵影を映し、その姿が居ない場所へと仲間たちを誘導していく。
 目指すはエインヘリアルの王子ではなく、シャイターンの四王である。
 ケルベロス達はヘリオンデバイスを有効に活かして、その目的を遂げようとしていた。
「このまま行けば巡回と出逢わずに行けるかな?」
 メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)はホっと溜息を吐きながら仲間達についていく。
 いつもならばむしろ派手に戦って、ショーの様に楽しく行きたいところだ。
 だが今回は隠密行動、彼女もまた仲間たちに合わせている。
「今のところは大丈夫ですね。高みの見物と呑気なこと言ってた連中が、目の前に敵が現れたらどういう反応するか見物だね。まあ僕らも油断は禁物だけど……」
 カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は移動しながらデバイスを確認。

 形状こそ違うがエニーケと同じ様な敵味方の位置を映し出すものであり、その反応は当然ながら敵の動きを示していた。
 巨大な城の中にまだ天幕は少数、目的の大天幕はまだ見えないというのに……。
「言ってる傍から敵影です。城の形状次第だけど間もなく出くわしますよ」
「そいつは何とも厄介。速攻で倒してしまいたいところだ」
 カロンは肩をすくめて仲間たちと情報を共有した。
 その言葉にメロゥも同意して戦闘態勢を整えた。見れば仲間たちも同様に身構えている。
「大丈夫です。落ち着いて戦えばすぐに済みますし、気が付かれない内に移動できますよ」
「まかしとき。俺はそうゆうの得意やねん。コッソリ・スッパリ仕事終わらせたる」
 エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)が皆を励まそうとしたのか楽観的な事を言いながら笑顔を浮かべると、美津羽・光流(水妖・e29827)はいつもの笑みを浮かべて皆の緊張を解した。
 本当の事を言えばシャイターンには印象が良くないのだが、それを表に出すようなことはしない。
 周囲に立ち並ぶ柱の陰に移動し、敵が進路より現れれば即座に飛び掛かれる態勢を取った。
「何度もこういう危険もあると思いますが、まずはしっかりと勝って次に進みましょうか」
「はい。努力を忘れない限り何とかなると思います」
 中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)が盾役として前に出るエレに声をかけると、彼女は肩の力を抜いて微笑み返した。
「この先、何度も同じような場面があると思います。ここは連携して確実に、そしてどの程度の敵なのかを把握しましょう」
「そういう事なら、万が一の時は私が案内しますよ。心置きなくどうぞ」
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が確実に倒しつつ相手の実力を確かめようと申し出ると、竜矢は逃走経路を調べ始めた。
 ここで思いっきり戦って見つかったとしても、竜矢の持つデバイスは敵に見つからないように逃げる道を教えてくれる。
 ケルベロス達はそれぞれの力を連携し、各種デバイスの力を存分に引き出して戦に備えた。
「ほないくで。一、二の、三やっ」
「……こちらで先制します。トドメを」
 光流はイリスだけではなく仲間たちも攻撃を放ったのを見た。
 暗黒の太陽やオーロラの様な光が敵を撃ち、生き残った方を急襲する。
 転がるような姿勢で低く飛ぶと、起き上がりざまに突きを放って絶命させた。
「うーん。見栄を切る暇もない。残念と言うべきか早く倒せてよかったというべきか」
「聞いていた通りそれほど強くないようですね。確実に当てるか、全員で攻撃すれば即座に倒せると思います」
 メロゥが軽口を叩く中、イリスは冷静に相手の能力を確認した。
 あくまで巡回役に過ぎないが、このレベルならば確実に倒して進めるだろう。
「暫くしますと次が来ます。見つからない内に逃げましょう」
「勝利のための逃走ですね」
 エニーケは言葉少なに敵の接近を告げ、竜矢は捕まらないような逃走経路を見つけ出すのであった。

 そんな戦いを幾度か繰り返したが、一同は無事に大天幕まで辿り着いた。
 戦ったとして瞬殺と言って良いペースだったのであまり疲労していない。
「まあ良い気分で飲んでるさかい。派手に飛び込むよりはそっと忍び込んで、いきなり切り込むんが楽しいやろな。中はどないや?」
「……敵が慌ただしく別の所に向かってますね。アストライア戦も始まったかもしれません」
 大きな天幕と言うだけに入り口は幾つかあるが、最も目標に近い位置の物だ。
 光流は大天幕の入り口にピタっと張り付き尋ねると、カロンは敵の動きが妙だと気が付いたようだ。
「確かにバタバタしてるわね。大天幕の一番大きな入り口の方に向かってるのかしら?」
「こっちに気が付いて注目してる感じじゃないよね。僕たちもいよいよ出番ってわけだね」
 離れた所へ音が向かっているとローレライが告げると、メロゥがウキウキとした顔で戦おうと提案する。
 確かに今何か起きるとしたらアストライアの戦いだろうし、ならば四王を倒すのは当然のことだ。
「今なら向こうに関心が集まって良いかもしませんね。お願いできますか?」
「了解しました。行きますよ!」
 エレが務めて楽観的に述べると、イリスはデバイスの力で一同を飛行させた。
 大天幕の入り口を跳ね上げると同時に、空を飛びながら倒すべき四王のもとに翔ける!

 敵は最初は喧嘩でも起きていたのかと思っていたらしい。
 何しろ大部分はシャイターンと言えど、攻め潰した他の種族も部下には居るくらいだ。酒が入れば良くあることなのだろう。
『反乱か!? 出会え出会え!』
「いいえ我々はケルベロス! 銀天剣、イリス・フルーリア……参ります!」
 イリスは名乗りを上げながら抜刀。
 双刀を翼の様に翻しつつ、暗黒の太陽を出現させた。
 黒き光がシャイターンを蝕んでいく!
「はぁいオマヌケさん共、挨拶はさておき皆殺しに参りましたから死ねですの!」
 エニーケは両腰に装備した砲塔を展開すると高速突撃と同時に、四方へ砲撃を放つ。
 至近距離から旋回しつつ四王であるヴァイトゥーゾや周辺のシャイターンを撃ちまくった。
『フン。誰でも良いわ! エインヘリアルどもに引き換える財貨に変えてくれる。ワシに勝てるならばこの軍団をソックリくれてやろう!! ケルベロス共に限らん。貴様らでも良いぞ!』
 ヴァイトゥーゾは豪語しながら幻影の軍団を出現させた。
 そいつらは幻ではあるが、一糸乱れぬ姿で炎を拭き出してくる。
『ヴァイトゥーゾ!』
『ヴァイトゥーゾ!』
 幻影に軍団に感化され、反乱であっても構わぬという豪快な王の言葉に周囲のシャイターンも色めき立つ。
「シャイターンのわりに、随分とさっぱりしたお人のようですね。でもまあ、地球侵攻は許しませんが。ラズリ、みんなを頼みましたよ」
 エレは放たれる火炎から仲間たちを守りつつ、翼猫のラズリに指示を出して壁を築こうとする。
 そして迫りくる炎を退けようとエクトプラズムを集め始める。
「余裕のある時はどうとでも言えるさかいな。追い詰められた時の姿はどんなもんやろな」
 安全地帯に居た王様に何ができるか見せてみろとばかりに光流はヴァイトゥーゾに突っ込んだ。
 その指先が軽やかに動くと、空間が歪んで切り裂かれていく。
『決まっておるではないか! 珠と散るまでよ。いやケルベロスに倒されれば死ぬのであったか? それもまた良し!』
「ゆうとれ! 西の果て、最果ての栲縄よ。訪れて繋げ。貴きも卑しきも、等しく底の水沫なれ」
 自分が望むはいお前の首だと攻め掛かる光流に対し、ヴァイトゥーゾは掛かって来いと手招きした。
 だが四王たる奴はともかく護衛達はそうもいかない。
 特に攻撃役は既に相当な傷を負ったようで、まだ無事な盾役と違って既に膝を着く。
「いきますよ。まずは……そこです」
 カロンはミミックのフォーマルハウトを引き連れて、立ち上がろうとする盾役の方に飛びこんだ。
 そいつは宴席の所まで吹っ飛んで酒に埋もれて動けなくなる。鋭い蹴りを放ってまずは一人を倒したのだ。
「シュテルネ。回復の補助を頼む! 我はその間に……」
 ローレライはテレビウムのシュテルネに回復を任せると、颯爽とヴァイトゥーゾに対して走り込んだ。
 彼女は一歩また一歩踏み出すごとにその靴は光り輝いていく。
 最後には虹の煌きを有した蹴りを叩き込むことに成功した。だが敵の自制心は高そうだ、夢中にさせるにはまだまだ叩き込む必要があるかもしれない。
『大王さまの元に駆けつけよ! 押し返せ!』
「あなたたちの作戦はここで止めさせてもらいます! もちろんその動きもです!」
 もちろん敵陣営もただ眺めているわけではない、だが竜矢は迫り来る敵に機先を制し向けて突撃を掛けた。
 体当たりを掛けあるいは砲撃を掛け、当たるを幸に蹴散らしていく!
「アテンション! さあさあ。ここからがショーの始まりだよ! みんなで盛り上げて行っちゃおうねー。敵も味方も舞い踊り、後悔しないよう愉快に行こうじゃないか!」
 メロゥはシルクハットを軽く脱いで中から何かを取り出した。
 空に放り上げながらパチンと指を弾くと、そいつは敵味方の中央に鮮烈な光をもたらす。
 これは攻撃ではない。スポットライトで舞台を照らし、仲間たちのやる気を出す為である。

 戦いは激戦となりケルベロス達は傷つき、シャイターン達は死屍累々の屍を築いていく。
 みな痛みに耐えて戦い続け、一心不乱に刃を交えるのだ。
「眠りなさい。暗黒と混沌が支配する未来からは逃れられない!……すべてはなかったこと」
 カロンの瞳が怪しく輝き、未来を垣間見せる。
 それは相手の見たくない未来であり、どんなに小さい可能性でも望んで居なくとも見てしまう光景だ。
『ワシの育てた軍団は消えぬ! 蹂躙せよ!! この世界は我らが眷属のモノだ』
 ヴァイトゥーゾの呼び出す幻影軍団は蹂躙しながら突き進み、ケルベロス達の前衛を飲み込んでいく。
 もしかしたら彼の望みとは、彼自身ではなく軍団が膨れ上がっていく姿なのかもしれない。だからこそ部下の望みを容易く叶えるのだろうか。
「そちらは任せた!」
「了解。……ごめん。ラズリ」
 ローレライとエレは分担して攻撃役の仲間を守る。
 治癒していたこともあり殆どの者が耐えきったが、サーヴァントの一体が一時的に退散してしまったようだ。
 更に掛けていた援護の一部が踏み砕かれたようだ。
「解けたのは一部だけ……。煌めく星の加護を、此処に。降り注ぎ、満ちろ!」
 エレは即座に星屑の光を降り注がせ、傷を癒すと同時に仲間達の援護を再開した。
「行こう。こちらが苦しい時は向こうも苦しいものだからね」
 ローレライは普段の穏やかさが嘘のように闘志をみなぎらせている。
 激しい戦いの中でナイフを握り締め、ヴァイトゥーゾの隙を突こうと接近戦を挑んだ。
「チャンスですね。今なら……」
「任せたよ。僕の方は勝利のBGMを載せてあげよう。どうせ回復するならいっちょ派手にってね」
 竜矢が大きく息を吸い込むと、メロゥは足を踏み鳴らしハープを端で始める。
 未来を掴み取ろうと号令をかけ、勝利のために歩こうと高らかに告げる。
「我が身に宿る炎よ!今閃光となって敵を焼き尽くせ! シューティングレイ! ブラスター!」
 竜矢の息吹は炎を越えてプラズマと化した。
 青白い火炎は熱線となって敵の身を焼き焦がす!
 それでも死なぬは単に敵が強いだけ、だが最初に戦った時よりは大きく揺らいでいるかのように見えた。
「……変ですね。さっきから彼らは……」
「ううん。本当ですよ。確かに寄って来る敵は減ってます」
 イリスが雑魚が近寄ってない事に首を傾げると、カロンがソレを肯定した。
 二人は寄って来る雑魚を早期殲滅していたのだが、もはや寄ってくることはなく遠巻きに勝敗を眺めている。
 それほどまでに屍を晒しているし、肝心のヴァイトゥーゾも死にかけていたのだ。
 シャイターンですら様子見をしているのだ、強引に部下にされた種族にはやる気などあるまい。
「外の喧騒が止みましたね。もしかしたらあちらも勝負が付いたのかもしれませんわ」
「なら、ここが勝負の賭け時やで」
 エニーケがアストライア戦の様子を探ると、光流は決着を呼びかけた。
「では決戦と参りましょう! 光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
 イリスは翼より集めた光を剣として切り掛かった。
 敵の槍を越えて刃を突き立てると、そこを目掛けて翼より生じた無数の光剣が突き刺していく。
『ヌ!? 体が動かぬ!?』
「トドメは任せたで!」
 光流は刀を繰り出し敵の眼前で交差させた。
 それは刃地震ではなく、割いた空間をぶつけることで体勢を崩したのだ。
 イリスが周囲の時間を停止させたこともあり、もやは逃げる事も叶わぬようだ。
「我が一撃は至高の一撃。我が一撃にて蹴り殺して差し上げましょう!」
『ハハハ! これも悪くないな!』
 最後にエニーケの美脚がトドメを刺した。
 攻撃役二人の怒涛の攻めを受けボロボロであったが、見事なローキックでヴァトゥーゾを蹴り殺したのである。

「戦いは終わりました。……まだ続けますか?」
「もし逃げようとしても無理ですけどね」
 エレが精一杯の微笑みで降伏を勧告し、竜矢は逃走に備えてデバイスの調子を確認した。
 するとシャイターン達は顔を見合せ……。
『大王を撃破したお前に従う』
「どう判断したものかしら」
 なんとケルベロス……特にエニーケに従うかのような仕草を見せた。
 勝ったものが正義という事なのか、それとも強い者に従うという意味か。
「まあここは僕らの勝利ってことでいいんじゃない?」
「そうね。他のチームの様子も気になるもの。場合によっては援護に行かないと」
 メロゥが勝利のポーズを決めると、ローレライは溜息を吐いて戦いの終わりを喜ぶことにした。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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