骸軍波濤を砕け

作者:雨屋鳥


 城ヶ島上空。底無しの深い闇を覗いたような空を、干からびた竜が漂っていた。
 辛うじて死んではいない――辛うじて生きているだけのドラゴン。弱ったドラゴンに、夜が蠢いた。黒い塗料を混ぜるように空が歪む。
 いや。
 それは空ではない。まるで暗闇に潜んでいたように、ドラゴンの周囲に醜悪な蛇が集まっている。
 群がる。
 その節足動物のようなヒレをくゆらせ、大口を開ける。臼のような歯で乾いた竜の鱗を擂り潰すように、食らい付いた。叫びを発する前に群がる醜悪な蛇がその喉を、肺を、腹を貪っていく。
 夜空に、響くのは汚濁した咀嚼音。
 歯に砕かれた無数の骨が、海へと落ちて波を叩く喝采の中で歪な産声を上げた。


「無数の竜牙兵の進軍が予知されました」
 ユグドラシル・ウォー後に姿を消していたデウスエクス達が活動を開始したという。
 ダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)は、静かにそう告げた。
「竜業合体によって地球を目指すドラゴンの本隊。それに先行しながらも地球に辿り着けず、力を使い果たして宇宙を漂っていたドラゴンが、ニーズヘッグに導かれて地球、城ヶ島上空に転移されたものと思われます」
 だが、そのドラゴンは既にいない。ニーズヘッグに食い散らかされ、残った骨がニーズヘッグの力によって全て竜牙兵へと姿を変えている。
「この竜牙兵が、神奈川県三浦半島へと上陸しようとしています」
 恐らくは、来る竜業合体の為。
 一体一体は強力とは言えないが、数と連携を絡めてくる。
「数は凡そ百」
 司令塔となる竜牙兵と、その配下の編成だ。
「彼らは、深海から埠頭へと向かいます。既に避難を促してはいますが」
 ダンドは、その進軍途中の竜牙兵達に崖の上から先制攻撃を仕掛けてほしい、という。
「一つは、避難が完了しても戦闘による破壊被害を抑えたいこと。もうひとつは地の利による優位性です」
 切り立った崖だ。
 並みの人間であれば、上から迎撃されれば一溜まりもないだろうが、相手はデウスエクス。そこまでの障害にはならない。
「ですが、岩の視認性の悪さは利用できます」
 数の少なさ、不利な条件だが使えないことはない。
 敵が軍として機能するなら、遊撃にて切り崩す。うまく隠れられれば、最初の一撃は防がれることもないだろう。
「後は、司令官の扱いについては皆さんにお任せします」
 司令官を倒せば、連携は乱れる。だが、司令官のよってケルベロスへと向けられていた全軍の矛先が無数に別れ、避難した人々へと抜け駆けをする者も出てくるだろう。
 一軍を相手取るか、大群を相手取るか。どちらにせよ彼らが退却する事はない。
 ここで撃滅しなければ、人々が蹂躙されるばかりだ。
「この竜牙兵達も、ニーズヘッグからすればほんの一握り。そうであっても、削った力は来るときに綻びとなってくれるはずです」
 誰もが予感している、決戦。
 その一助となるならば。
「この星を守る矜持をもって、叩き潰してください」
 彼はそう告げた。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ


 崖の上部、最上ではなく岩場の境でラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)は展開したアームドアーム・デバイスを仕舞いこむ。
「あんまり弄ると怪しまれる、よな」
 岩をいくつか見繕い、視界の盾として移動させてきたのだ。不自然にならないよう、すぐに飛び出していける配置。海からの視点なら見える範囲は限られている。
 隠密気流を合わせれば、妙な動きをしなければい咎められることはないはず。
「元は一体のドラゴン……一ドラゴンと対峙すると等しい、といっても過言ではないでしょうね」
「ん、それも仲間の為に身を犠牲にしてる……なんか、それは切ないっすね」
「……切ない、ですか」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は白薔薇の槍を地面に垂直に構え、息を吸った。
「ですが、背に護るものを持つのは私たちも同じ」
「うん」
「――ああ、きました、ね」
 竜牙兵、その接近は跳ねる波間とくらべてあまりに静かで。頷き合った二人はその声に遠くの波を見た。
 最初に気付いたその声は、ゴッドサイト・デバイスを発動していたウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)だった。潮風に揺れる前髪から覗く目を瞑り、神の目に視覚を委ねている。鎧袖一触に蹴散らかされるような数の差にしかし、つまらなさそうに「ぞろぞろ、ぞろぞろ、と」と前情報通りの数で攻めてきている報告に、岩に手をついた狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)は薄く息を吐く。
 軍靴が砂を均す震動が低い音となって、潮騒に紛れて波間に揺れる。暗く揺蕩う海は、自らの敵である竜牙兵を覆い隠している。
「ぞろぞろ、ねえ……まるで安っぽいゾンビ映画だ」
 ジグは徐々に違和感を深めていく潮騒に、溜息をついて異形の腕に拳を作った。崖から飛び出して奇襲として成功させうる距離まであと一分もないか。ありがたい。
 あんまり待たせられるのは性に合わない。
 隠密気流を身に纏い、波間の黒を見詰めるジグの背後で比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)は肘の内側に片腕を挟んで肩を伸ばしていた。
「じゃあ、大掃除だ」
「うん、ここで少しでも減らせれば……これからの足掛かりになるんだもんね」
 略式なストレッチでこれから動くと体に教えながら短く告げた声に、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)が決意を新たにするように息を吸う。
「……まあ、んな事知ったこっちゃねえが」
 岩に背を預けていた相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が気だるげに身を起こした。メリルディの言葉にむずがゆげに眉を顰めて、同じことを思っていると思われると堪らないとばかりに息を吐いた。
 竜人は髪をかき上げたそこに髑髏の面を宛がい、僅かに見えた骨の軍勢へと舌打つ。乱れた波が岩肌を削りうねる。
「まあ、やることは変わんねえか」
「ふふ……じゃあ、行こうか」
 瞼の裏に熱が蟠るような感覚。すぐ近くへと来ている。そんな気配にオズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が作ったような笑いに次いで静かに言った言葉が、ケルベロス達の頷きに変わる。
 目指すは、竜牙兵。その撃滅。
 夜闇を震わせ、静寂を貫いて、ケルベロス達が一斉に飛び出した。大地を蹴る音よりも速く――海の頭上、展開したレスキュードローン・デバイスを飛び石のように駆け抜けたミリムが蹴り飛ばした槍が空に閃く。
 月灯りに散る残光は、白薔薇が踊るが如く。
「この先には、行かせません……ッ!」
 舞い広がった光の花弁が、渦を巻き天覆う槍の雨と化して降り注ぐ。光の滂沱が、先鋒となって開戦を告げた。


 どよめきが広がる。
 波が荒ぶる。
 声があふれている、竜牙の慟哭が眼下に広がる。動揺は瞬く間に広がり――「空ダ!!」
 放たれた声に即応する者もまたいた。
「……っ、わ、あ……よし」
 足場になるドローンを蹴り上げて、すぐそばを掠めていった刃を躱してメリルディは、その場で両手を広げ。
「くー! りーっ!!」
 すぱん、と拍手を打ったその瞬間に、まるで満点の星のように現れる茶色の棘々。無数の毬栗が召喚され、そしてそれは自由落下するように動き始めて、急加速しては浅い海底から顔を覗かせた竜牙兵たちに襲い掛かっていく。
「ふざけてんのか」
「んーん、全然?」
「……はあ」
 期せずして毬栗の絨毯爆撃と共にする事になった竜人は、苛立ちをそのままに両腕に混沌を纏わせて、急降下。
 着水、直後、岩に着地。同時に両腕を撃ち落とした剛撃が爆ぜ、海水を巻き込んで、竜人を中心に混沌の波動が竜牙兵たちを飲み込んでいく。
「やっと数で押しつぶすやり方覚えました、ってか?」
 膝までを海に浸けながら、ぬめる海中の岩を踏みしめて、揺らぐように立ち上がって骸骨どもを見下ろした。
「悪ぃが、這い這い卒業するまで見てやる気にはなれねえんだわ」
 彼を中心に溢れた波が返す。全方位から重なった波が衝突し、盛大に水柱が立ち上る。轟音。破裂。水の壁をぶち抜いた混沌纏う拳が、竜人の一撃が、襲い掛かった竜牙兵の一人を砲弾を化して数体を打ち砕いた。
「蹴散らせてもらうぜ」
 振り抜いた拳の先に竜牙兵を睨む竜人に舞い上がった大量の水しぶきが降り注いでその姿を覆い隠した。


 エアシューズがドローンを蹴り上げる。空の星が降り注ぐような奇襲に、アガサは更にその雨に弾丸を連ね行くように両腕で重厚なガトリングを抱え持って駆けた。
「ちまちま、やってい、ても、しょうがない、ですよ、ね?」
「ああ、一気に潰す」
「ふふ、わか、りました、では……」
 ウィルマが天上へと指を立てる。巨大な蛇がとぐろ巻くように、紅い鋼糸が絡まり、濁流と化して地上へと降り注いだ。
 数ミリの糸が無数に海を貫き落ちる中。
「……」
 アガサは、そのまま飛び降りた。重力と空気抵抗の狭間で鈍重な砲塔の狙いを定め。
「手加減はしねえぜ……ッ」
 蒼炎を貫いて、弾丸の雨が降り注ぐ。その縦線と交差するように、ラルバは崖を蹴り飛ばしその体を弾き飛ばしていた。崖の一部が崩れ落ちる。岩礫が水面を砕き波がはじける。それを後塵に、水切りのように水面を蹴り飛ばし、その両手に暴れさせた光電を打ち放った。
 空気が震える。爆音を喰らったような轟きを纏う轟雷が、四肢を現し、豹が舞う。
「もう、一丁!」
 雷を宿した斬撃がいまだ、陣形を崩した竜牙兵を薙ぎ払う間に、ラルバが掌に充てた氷結輪が唸り上げ、掌底のごとく海面に打ち込んだ瞬間、凍結の咆哮が海を恐怖に凍り付かせる。
 白氷の塊となった海面、ラルバの傍らに、いまだ回転と熱を残すガトリングごと降ったアガサが、しなやかに、しかし氷を砕かんばかりに豪快に着地。
 ハア、と吐いた息が白く凍り付くのを緩い風が、緩めるようになびく。まつ毛に散った霜が緩やかに解ける。
「あ、りがとう、ござい、ます」
 直後、ウィルマが氷の上に降り立ち、その腕を真っ赤に染めるように巻き付く鋼糸に指を沿える。その先は、最初に竜牙兵たちへと降らせた糸の先。
 そこに忍ばせた不可視の仕込み。
 柔い風に、力の巡りがはっきりと感じ取れる。アガサの祝福の風が、ウィルマの力の伝導効率を底上げし。
 瞬間、弾ける。
 轟音と爆炎。紅糸に繋いだ不可視の爆弾が一斉起爆し、周囲の竜牙兵を吹き飛ばした。


「囲え! 小隊に別れて、押しつぶせ!!」
 声が響く。あれが指揮官だろう。オズは、眼下の有象無象がほんの数秒で陣形を取り戻し始めるのを見て、舌を巻いた。
 この群れに飛び込む。尋常じゃあないな。
 恐怖に足が竦む。足持つ種ならそう呼ぶのだろう感覚に、僅かに頬を緩めたその時。オズの腕に切り傷が開いた。
 遅れて、ズガン、と脳を震わすような衝撃が走る。海上から刃が放たれた。鎌の刃が海へと戻っていく。だが、それだけではない。百、そのうちの一割にも満たない攻撃が襲い掛かって来ていた。
「まったく、仕方がない」
 それを避けはしない。下半身の鱗が剥ぎ取られ、肩が裂けて赤血があふれる。
「ああ、痛い……そうだね、痛いよ」
 肩口の傷に手を当てて、べたりと付いた鮮血を見詰める。もうあの竜に、竜牙兵に血の一滴も流れてはいない。
 だというのに。
「死して尚、遺志だけで侵略するとは……、しつこいと嫌われる、なんて知らないのかな」
 それなら、称賛してあげようと海に落ちていく血の一滴が海面に触れる。赤が煙のように海に混じる。
 瞬間に、その周囲でケルベロスへと陣を組もうとしていた竜牙兵の体が燃え上がった。まるで体の内側から燃え盛るような豪炎が広がっていく。
「敵ながらあっぱれだ……だから、逃しはしない」
 業火に巻かれる竜牙兵の群れへと、異形の腕を備えた男が猛墜する。
 それへと焔に苛まれながらも竜牙兵が殺到するその刹那。唸り上げた竜尾が、その牙をまとめて薙ぎ払った。万物を砕く豪風のように吹き荒んだ尾の一撃は、次に繋げるため、わが身を犠牲にしようとする動きそのものを阻害して、容赦もなくその思いを微塵に砕きぬく。
「敵兵士諸君、わざわざ長距離移動ご苦労」
 邂逅そうそう、鮮烈な一撃で挨拶したジグは、フードの下に残虐的な笑みを滲ませて異形の腕を掲げる。
「そしてお別れだ、死んどけ」
 そして振り下ろしたそれが岩を掴み、ジグを砲弾のごとく吐き出した。回し蹴り。暴風を纏ったそれが強烈な円刃のように竜牙兵の群れ、その中心を貫いていく。
 劫嵐吹き荒れる。


 開幕の奇襲連撃に、軍としてのバランスは総崩れしたといっても過言ではないだろう。
 竜人のテレビウム、マンデリンとオズのウイングキャット、トトが仲間をヒールするために戦場を駆け巡っている。ついぞ視界の左端にいれば、次の瞬間に右端に移動しているような具合だ。
 アガサは、その傍らを暴風を纏わせたエアシューズで駆け抜けて、思いガトリングを半ば無理矢理に振り回して、銃弾をばらまいていく。
 戦線は常に混乱を極めていた。見渡せば常に敵がいる。前を向けば、常に背中に敵がいる。
「――ッ!」
 油断はない。だが、反応にも、仲間の警戒にも限度がある。死角から放たれたバトルオーラの気咬弾がアガサの脇腹を食い破る。赤黒い液体が海にこぼれる。
「ミリム!」
「……っ、はい!」
 飛んだ要請に、複数へとヒールを施していたミリムが、紋章から引き出した治癒の力に、地に眠る惨劇から練り上げる魔力を共鳴させて、それをアガサへと一点集中させる。
 それは過去を拒む力。内臓ごと食われた腹が再生し、アガサは、更に踏み込んでいく。
 汗が伝う。ミリムは衝撃や轟音の中にそれぞれのケルベロスの断片を掬い取って状況を判断する。
 遊撃。互いに連携を取りながらにも、それぞれが瞬時最適であると断じる行動を取る。いや、単刀直入に言おう。好き勝手に動いている。
「……大丈夫」
 それでも、徐々に数を減らしている。互いに意識を切らしてはいない。連携は重なり、力をなしていく。
 嵐を纏い豪炎の海を抜けた。
 ジグは、猛烈な勢いを乗せた体を氷の大地に爪を突き立てて、制動する。食い破った数は覚えていない。ただ、殺したという自覚を己の感覚に返すばかりだ。
「は、数押しすれば勝てるなんて本気で思ってたのか?」
「――いいや」
「ッ」
 背後に声。振り下ろされた鎌の刃に、赤茶の髪が揺れて、ジグの前にラルバが飛び出していた。
「だが、やがて綻びは生まれる」
「いいや……っ、つぁ」
 ジグをかばったラルバが言う。笑う。額から滝のように流れる血に凄惨に歯を覗かせる。
「残念だけど、仲間もみんなも守らせてもらうぜ――ジグ」
「ああ、温存……なんてのはもう止めだ」
 随分竜牙兵の数も減ってきた。回復や強化から攻撃へと転じたのは、数が少なくなってむしろ指揮する難易度が下がったからか。
 ジグは自らの胸を異形の腕で掴み、その奥の心臓の鼓動を確かめる。蠢く鼓動は憎悪の叫喚だ。
「卑王罪絶、極光は転壊する……分かるか? 分かんねえだろうな、まあつまり」
 具現化した怨が怪物の姿を取って、ジグと共に竜牙兵を蹂躙していく。
「てめぇらにはあの世がお似合いだって事だよ」
 ざぶんと波が揺れた。怪物は竜牙と共に闇に消えた。
 ここまでくれば、その数は数えるほどしか残ってはいない。オズは、振りまく火炎の中で星光瞬く雷撃竜で消し炭にした竜牙兵の周囲を、軟体動物のように広がった黒い影がまとめて飲み込んでいく光景に、肩をすくめて振り返る。
「お見事ですね」
「思って、ないで、すよ……ね?」
 指摘の言葉に、オズは端正なかんばせを麗しく伏せて、薄く目を閉じた。
「さあ、どうでしょう。ああ、それより」
 ――もうすぐ終わりますよ。
 司令官が倒れた、まるで、あっけないような事切れだ。
 流れるようにメリルディの刃が、留まらぬ軌跡を描いて、竜牙兵の間を縫い潜っていく。
「……っ、させないよ!」
 オーラの弾丸が、鎌の一撃が、星剣の刃が、降り注ぐ中を駆け抜けて、メリルディは、隊列を離れ地上へと向かう竜牙兵へと御業から炎弾を放ってその背を穿つ。
 囲まれている、だが、メリルディは焦りはしない。彼女へと刃を振り下ろした竜牙兵がその胴体を混沌に揺らぐ黒に食い破られて、灰へと散っていく。
 零れ落ちたゾディアックソードを、混沌に満ちた手に収めた竜人は、瞬く間に黒に燃え盛った剣を、ぞんざいに薙ぎ払った。
 ばつん、と黒い一閃が空間に走り……混沌に渦巻く黒炎が空間を割り裂いて周囲の竜牙兵に舌を伸ばした。その世界をこじ開けるように開いた炎の咢が、絡めとった全てを飲み込み潰して、一線へと戻り――消えた。
「……これで」
 竜人の手で黒色の混沌に染め上げたゾディアックソードが、ボロボロと自壊していった。
「終わったみたいだねえ」
 メリルディのややのんきな声に、揺れた大きな波がケルベロス達に襲いかかっていた。


「我々の、勝利で、すね」
 旭が海面を眩く白く照らしている。反射する眩さから目を護る様にウイングキャットのヘルキャットを翳してウィルマは息を吐いた。
「ふぅ……こうして見ると水葬のようですね」
 消えゆくも、まだ残る骨の残骸を崖の上から見下ろして、ミリムは言う。
 そう言われれば、そう感じるだろうか。地球へと至る為に命を削り、最期に身を捧げ、骨をその青い星に鎮める。
 そう言われなければ、そうは思わないのかもしれないけれども。
 ともかく。
「疲れた。熱いコーヒーが飲みたい」
 アガサは、濡れた体を少し震わせて、一人小さく言葉を溢していた。

作者:雨屋鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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